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本編
82話 雪原にて その3
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そして荒野の焼け跡である、タロウがユーリと共に転送陣を潜ると、クロノスとリンドがユーリを天幕の外へ連れ出した、早速打合せかと見送ったタロウ、そこへ、デニスが丁度良かったと顔を出し、そのまま物見櫓に連れて来られてしまったタロウとなる、しかし一晩を過ごしたあの空間では無い、そのすぐ下に設けられた謂わば観覧室のような空間で、そこにはボニファースを始めとしたお歴々が顔を連ねていた、ありゃまと目を丸くするタロウ、そして、
「皆さん、お早いですね」
取り合えずニコリと愛想笑いを浮かべてみる、
「おう、当然だ」
ニヘラと微笑むボニファース、その隣のアンドリース、他の軍団長らも笑顔である、さらにカラミッドとリシャルトの姿もあった、皆軍装である、カラミッドとリシャルトは着慣れないのか何とも窮屈そうで、デニスはサッと従者達の列に並んでしまっている、
「当然ですかー」
まぁ、そりゃそうだと微笑むタロウ、クロノスとリンドが不在なのは分かる、他に不在となっているのがイフナースらとメインデルト、クンラートの姿も無い、それもそうかとタロウは察する、すぐ目の前に敵軍が控えているのである、そして恐らく今、この瞬間にも大規模な戦闘行動に移るかもしれず、となれば軍団長であるイフナースとメインデルトは現場であり、クンラートもそれに準じている、ビュルシンクとイザークも同様であった、
「だな、でだ、早速で悪いがリンドに聞いてな、なんだ、周する事無かれ?」
ニコニコと中央のテーブルに足を向けるボニファース、その空間も造りは上階と一緒である、中央に会議用のテーブルが置かれ、その周囲に四つもの湯沸し器兼ストーブ、壁は無く、寒風が差し込んでくるも誰も文句は言わないらしい、それも当然で、戦場となれば大概過酷な環境となり、冬となればより一層酷い状態となる、思った以上に快適だとボニファース自身が笑う程で、さらにはその場から見る荒野と敵軍はまさに絶景であった、いや敵軍自体は眺めていても嬉しいものでは無いが、白く輝く荒野とその奥に埃のように連なる巨岩、曇天である為その先は灰色のみが広がってはいるが、ただただ広がる雪原と地平線の雄大な景色には、世界の広さとそれに対する己の小ささが実感できた、視点を上げるだけでこれほどに印象が変わるのだなと誰もがその光景に言葉も無かったのである、
「早速ですねー」
ありゃまと微笑むタロウ、
「だな、実に興味深い」
アンドリースもニコニコと嬉しそうで、
「そんな、歴戦の勇者である皆様に話すような事では・・・」
一応と謙遜するタロウ、
「それを判断するのはこちら側だ、ほれ、座れ、誰か茶を」
ボニファースが中央のテーブルに向かい上席に座るとその隣りにアンドリースが腰を下ろし、続々とそれに続く軍団長達、カラミッドも同様で、あっという間に何ともむさ苦しさを増すテーブルである、何せそのテーブルは一枚板をただただドンと置いただけのものである、辛うじてと言うべきか、四方に立つ光柱の灯りが緩やかにその空間にも入っており、その光だけでも若干温かいと感じてしまうのは恐らく錯覚であろう、
「またそんな・・・」
いらん事を言ったかなと頭をかくタロウ、従者が動き出し、タロウとしてもこれは座らない事にはどうにもならんかなという状況である、
「・・・まぁ、あれはほら、逆もまた然りって事でして」
タロウはやれやれと末席に腰を下ろすと、
「そうだな・・・リンドさんから主旨はうかがっていると思いますから、その逆を考えるのもいいですよ」
ニコリと一同を見渡した、皆厳つい面相の生粋の軍人達である、唯一の癒しとなるのはカラミッドの存在であるが、それであっても中年男性の顔である事にかわりない、おっさんのタロウとしては好き好んで相手をしたい面相でも相手でもなかったりする、
「逆?」
アンドリースが嬉しそうに前のめりになった、軍団長の幾人かも目を輝かせる、ボニファースからはタロウの評価を耳にしているが、その中でもやたらと軍事に詳しいと評されており、軍団長らとしても実際に話しを聞いてみたいと思っていた所であったのだ、そして今そうなっているのはリンドからの報告もあったが、単純に暇である事もあった、帝国軍の陣地構築が終わったようで、また、メインデルトが本日から軍を展開すると帝国に明言してもいる、これはいよいよであるとこうして集まったはいいが、正直まだ早過ぎた、時差の関係もあり、恐らく帝国軍は朝食を終えた頃合いとなり、ボニファース本人も一度王都に戻るかと冗談を言うほどで、それは如何なものかとアンドリースが真剣に意見をしてしまっていたりする、
「はい、リンドさんには敵兵を囲むなと、そうお話しましたが、逆を言えば自軍に関しても常に逃げ場を用意しろって事になるんです・・・なので、まぁ、なんていうか・・・多分こっちの方が重要なんじゃないかと思うんですけど、とどのつまりは・・・うん、余裕を持てって事なんだと思うんですよね・・・ほら、人ってやつは追い込まれると信じられない力を発揮するものですけど、それを求めて追い込む様なやり方は・・・駄目でしょう?そういう策は長続きしないし、そういう策ばかり用いる将は嫌われるものですし・・・」
「確かにな」
「はい、そしてやはりほら、幾らね、歴戦の兵士であっても、鍛えぬいた兵士であってもですよ、やはり戦場、その場そのものがやはり特殊というか・・・うん、異常な状況なんですよ、そりゃ、それを緩和する為に訓練もするし、経験を積んだ先輩もいるとはいえです、それでも、どうやろうが、どこまで準備しようが、覚悟を決めようが・・・うん、どうしようもない、だって、相手はこっちを殺しに来るんですから、で、こっちは相手を殺さないといけない、これはやはり異常な状況です・・・つまりは・・・もうそういう状況で、追い込まれているのに、さらにね、いざとなったら逃げる場所もないとなれば・・・いよいよ混乱する他無い、その混乱を前に向ければいいし、死兵となればと思われるでしょうが、そんなのは愚策です、そんな状況になった時点で広い目で見た戦争は負けてると思いますね」
「・・・なるほど・・・面白いですな・・・」
アンドリースが目を丸くし、他の軍団長達もこれはと息を呑む、カラミッドもまたこの男はと目を細める、その背後のリシャルトもなんともはやと顔を顰めてしまった、
「他にはあるか?」
ボニファースがニヤリと促す、茶が配られ始め、タロウの手元にも届いた、取り合えずとタロウは喉を潤し、
「他と言われても・・・ですが・・・」
どうしたもんだかと首を傾げ、
「あぁ、一番好きなのはあれですね、生間、因間、内間、反間、死間の五つですかね、恐らく皆さんに最も必要な部類となります」
「なんだそれは?」
カラミッドも思わず身を乗り出した、その立場もありカラミッドも末席に座しており、それはつまりタロウのすぐ隣であったりする、
「スパイ・・・間諜と言えば分かります?」
「カンチョウ?」
「はい、あー・・・陛下には分かると思いますが、情報参謀のなにがあれです」
ニヤリと微笑むタロウ、ボニファースがなっと目を大きくし、軍団長らの顔がボニファースへ向かった、
「・・・そういう事か・・・カンチョウと呼ぶのか?」
「えぇ、私の国では・・・こちらには恐らくそれに類する単語が無いかもですけど・・・ようは情報ですね、敵国の内情やら軍備やらを探る事、これ、とんでもなく大事だって今回の件で身に染みましたでしょ?帝国側の王国の報告書、あれが謂わばその間諜の報告書になりまして、それで帝国は王国へ攻め込む事を決断しています、ですが・・・その内容ですね、あまりに表面的過ぎてまるで実力が見えていない、挙句先の大戦にも触れられていませんし、魔法に関しても同様です、私は最初帝国の魔法嫌いからそういう風に書いたのかなとも思ったのですが、どうやらそこまでは踏み込んで調査できなかっただけなのかもなと・・・まぁ、そんな感じで・・・でも、これもまた逆に考えて下さい、皆さんが攻める側で、攻め込む先の情報に欠落があったとしたら・・・それも軍事に関わる事で・・・これはもう・・・その時点で勝ちはないですね、なにせ相手の力量を見誤っている、そこから始めた戦なんて・・・ねぇ、上手く行く訳ないですよ」
なるほどと大きく頷く軍団長達、皆タロウが持ち込んだ帝国軍の報告書、その王国語に翻訳されたものはしっかりと読み込んでいる、となればタロウの言う表面的であるとか、踏み込んでいないという表現がよく理解できた、
「で、間諜に関してですが、まずは・・・生間、これは簡単でね、帝国のように相手の国に侵入して調査する事を差します、まぁ、普通にねやろうと思えば出来ますし、やる事もあるでしょ?」
ニコリと微笑むタロウ、確かにと頷く者多数、
「で、因間、これも簡単で、相手のね、平民・・・まぁ、情報を集める点では商人とかになりますかね、それを買収するなり、縁者になるなり、脅すなりして情報を引き出す方法ですね、これもまぁ、よくあります、次の内間、これがまた痛いところでして、市民では無く、役所の者、または従者さんやらメイドさんやら、つまりは平民よりもより政治に近い者から情報を引き出すという意味合いです、わざわざ別にしているのはそれだけ有効で、また確実であるからと私は思ってます、で、次は・・・あっ、反間か、これは少し難しくて、相手の間諜をこちら側につけるって事ですね」
「そんな事が可能なのか?」
軍団長の一人が思わず口を挟む、同意し頷く者数人、
「可能は可能です、恐ろしく難しいですけど・・・まずは先の三つのうち、どれでもいいから相手の間諜を見付けます、次にその人物がどれだけ相手に頼りにされているかを確認し、その上で金なり脅しなり、なんなりでこちらに転向させます・・・ね、難しいでしょ、それの調査にしろ、引き込む手段にしろどうやればいいんだかって感じですし・・・言葉だけなら簡単なんですけどね・・・ですが、これが大変に有効でして、相手の間諜をこっちの間諜に出来る訳ですから、相手が何を知りたいのかを探る事もできますし、嘘の情報を伝える事もできる、相手の武器を奪った挙句、その武器を相手に向けさせることができる訳です、大変に有効ですよね」
「なんとまぁ・・・」
「その通りではあるが・・・」
「いや、何もそこまで・・・」
ざわつくおっさん達である、タロウが見るに皆歴戦の軍団長であり、さらには政治家でもあろう、しかし情報戦の経験は無いと思われる、それでも理解できているのは流石だなーと感心するタロウである、
「で、最後に死間、これもまた・・・難しいんですが・・・うん、あれです、例えば軍事作戦を失敗したと見せかけたり、兵糧が無くなったとか、友軍に見放されたとか、政治的な軋轢が生じたとか、そのような軍事作戦の失敗ですとか、離反の情報とかを流して、そこにつけ入る敵軍を殲滅するという方法らしくて・・ようは・・・偽の情報で敵を操るという方法なんでしょうけど、これもね、先程の反間か、相手の情報源とかを把握して、嘘である事がバレないようにしないといけなくて・・・まぁ、そうですね、それだけね、相手の情報を探るには手間がかかるし、探って来る相手に対してはやり返す手段があるって事・・・かなと、で、それが、戦争の結果に直結してしまう、と同時に、国内でも同様となります」
ニヤリとボニファースに微笑むタロウ、ボニファースもニヤリと笑みで答え、
「それもあれか、敵を知り己を知ればに繋がるのか・・・」
ゆっくりと口を開き、ジッとタロウを睨む、
「でしょうねー、ほら、前にも言ったかな?勝てない相手には何をやっても勝てませんから、まずは勝てるかどうかを調べて、勝てないなら勝てないなりの手段を探すしかないのですよ、それが話し合いだろうが譲歩だろうがなんでもね・・・でも・・・そうですねー、王国を考えた場合、魔族と西の蛮族は・・・どうしようもないかな・・・南の都市国家には間諜は有効でしょうね、帝国にも・・・少し落ち着いたら仕掛けておいて損は無いかなと思いますが・・・そっか、転送陣があればいいですし・・・何気にね、某御仁がお得意でしょうね」
さらにニヤリと微笑むタロウ、その御仁とは誰でもないレイナウトの事であり、そう言って理解できる者だけが理解すれば良い名前でもある、
「・・・そうか・・・あれも使えるのだな・・・」
ボニファースはフンと鼻で笑った、はて?とボニファースを見つめる軍団長達、その中にあってカラミッドとリシャルトは背筋を冷たくしている、二人もすぐにレイナウトの事であると察したらしい、
「はい、大変に優秀な人物です、情報参謀も負けておりませんが、やはり・・・ね・・・年季が違います・・・と思いますよ、お話を聞く限り・・・恐らく・・・うん、貴族社会も含めてあらゆる方向に詳しい・・・でなければね、とてもではないですが、間諜行為、さらには何らかの反体制的な組織を作って制御するなんて・・・金があれば出来るってものではないですからね・・・やはり、傑物と言って良いかと思います・・・」
フフッと微笑み茶に手を伸ばすタロウであった。
「皆さん、お早いですね」
取り合えずニコリと愛想笑いを浮かべてみる、
「おう、当然だ」
ニヘラと微笑むボニファース、その隣のアンドリース、他の軍団長らも笑顔である、さらにカラミッドとリシャルトの姿もあった、皆軍装である、カラミッドとリシャルトは着慣れないのか何とも窮屈そうで、デニスはサッと従者達の列に並んでしまっている、
「当然ですかー」
まぁ、そりゃそうだと微笑むタロウ、クロノスとリンドが不在なのは分かる、他に不在となっているのがイフナースらとメインデルト、クンラートの姿も無い、それもそうかとタロウは察する、すぐ目の前に敵軍が控えているのである、そして恐らく今、この瞬間にも大規模な戦闘行動に移るかもしれず、となれば軍団長であるイフナースとメインデルトは現場であり、クンラートもそれに準じている、ビュルシンクとイザークも同様であった、
「だな、でだ、早速で悪いがリンドに聞いてな、なんだ、周する事無かれ?」
ニコニコと中央のテーブルに足を向けるボニファース、その空間も造りは上階と一緒である、中央に会議用のテーブルが置かれ、その周囲に四つもの湯沸し器兼ストーブ、壁は無く、寒風が差し込んでくるも誰も文句は言わないらしい、それも当然で、戦場となれば大概過酷な環境となり、冬となればより一層酷い状態となる、思った以上に快適だとボニファース自身が笑う程で、さらにはその場から見る荒野と敵軍はまさに絶景であった、いや敵軍自体は眺めていても嬉しいものでは無いが、白く輝く荒野とその奥に埃のように連なる巨岩、曇天である為その先は灰色のみが広がってはいるが、ただただ広がる雪原と地平線の雄大な景色には、世界の広さとそれに対する己の小ささが実感できた、視点を上げるだけでこれほどに印象が変わるのだなと誰もがその光景に言葉も無かったのである、
「早速ですねー」
ありゃまと微笑むタロウ、
「だな、実に興味深い」
アンドリースもニコニコと嬉しそうで、
「そんな、歴戦の勇者である皆様に話すような事では・・・」
一応と謙遜するタロウ、
「それを判断するのはこちら側だ、ほれ、座れ、誰か茶を」
ボニファースが中央のテーブルに向かい上席に座るとその隣りにアンドリースが腰を下ろし、続々とそれに続く軍団長達、カラミッドも同様で、あっという間に何ともむさ苦しさを増すテーブルである、何せそのテーブルは一枚板をただただドンと置いただけのものである、辛うじてと言うべきか、四方に立つ光柱の灯りが緩やかにその空間にも入っており、その光だけでも若干温かいと感じてしまうのは恐らく錯覚であろう、
「またそんな・・・」
いらん事を言ったかなと頭をかくタロウ、従者が動き出し、タロウとしてもこれは座らない事にはどうにもならんかなという状況である、
「・・・まぁ、あれはほら、逆もまた然りって事でして」
タロウはやれやれと末席に腰を下ろすと、
「そうだな・・・リンドさんから主旨はうかがっていると思いますから、その逆を考えるのもいいですよ」
ニコリと一同を見渡した、皆厳つい面相の生粋の軍人達である、唯一の癒しとなるのはカラミッドの存在であるが、それであっても中年男性の顔である事にかわりない、おっさんのタロウとしては好き好んで相手をしたい面相でも相手でもなかったりする、
「逆?」
アンドリースが嬉しそうに前のめりになった、軍団長の幾人かも目を輝かせる、ボニファースからはタロウの評価を耳にしているが、その中でもやたらと軍事に詳しいと評されており、軍団長らとしても実際に話しを聞いてみたいと思っていた所であったのだ、そして今そうなっているのはリンドからの報告もあったが、単純に暇である事もあった、帝国軍の陣地構築が終わったようで、また、メインデルトが本日から軍を展開すると帝国に明言してもいる、これはいよいよであるとこうして集まったはいいが、正直まだ早過ぎた、時差の関係もあり、恐らく帝国軍は朝食を終えた頃合いとなり、ボニファース本人も一度王都に戻るかと冗談を言うほどで、それは如何なものかとアンドリースが真剣に意見をしてしまっていたりする、
「はい、リンドさんには敵兵を囲むなと、そうお話しましたが、逆を言えば自軍に関しても常に逃げ場を用意しろって事になるんです・・・なので、まぁ、なんていうか・・・多分こっちの方が重要なんじゃないかと思うんですけど、とどのつまりは・・・うん、余裕を持てって事なんだと思うんですよね・・・ほら、人ってやつは追い込まれると信じられない力を発揮するものですけど、それを求めて追い込む様なやり方は・・・駄目でしょう?そういう策は長続きしないし、そういう策ばかり用いる将は嫌われるものですし・・・」
「確かにな」
「はい、そしてやはりほら、幾らね、歴戦の兵士であっても、鍛えぬいた兵士であってもですよ、やはり戦場、その場そのものがやはり特殊というか・・・うん、異常な状況なんですよ、そりゃ、それを緩和する為に訓練もするし、経験を積んだ先輩もいるとはいえです、それでも、どうやろうが、どこまで準備しようが、覚悟を決めようが・・・うん、どうしようもない、だって、相手はこっちを殺しに来るんですから、で、こっちは相手を殺さないといけない、これはやはり異常な状況です・・・つまりは・・・もうそういう状況で、追い込まれているのに、さらにね、いざとなったら逃げる場所もないとなれば・・・いよいよ混乱する他無い、その混乱を前に向ければいいし、死兵となればと思われるでしょうが、そんなのは愚策です、そんな状況になった時点で広い目で見た戦争は負けてると思いますね」
「・・・なるほど・・・面白いですな・・・」
アンドリースが目を丸くし、他の軍団長達もこれはと息を呑む、カラミッドもまたこの男はと目を細める、その背後のリシャルトもなんともはやと顔を顰めてしまった、
「他にはあるか?」
ボニファースがニヤリと促す、茶が配られ始め、タロウの手元にも届いた、取り合えずとタロウは喉を潤し、
「他と言われても・・・ですが・・・」
どうしたもんだかと首を傾げ、
「あぁ、一番好きなのはあれですね、生間、因間、内間、反間、死間の五つですかね、恐らく皆さんに最も必要な部類となります」
「なんだそれは?」
カラミッドも思わず身を乗り出した、その立場もありカラミッドも末席に座しており、それはつまりタロウのすぐ隣であったりする、
「スパイ・・・間諜と言えば分かります?」
「カンチョウ?」
「はい、あー・・・陛下には分かると思いますが、情報参謀のなにがあれです」
ニヤリと微笑むタロウ、ボニファースがなっと目を大きくし、軍団長らの顔がボニファースへ向かった、
「・・・そういう事か・・・カンチョウと呼ぶのか?」
「えぇ、私の国では・・・こちらには恐らくそれに類する単語が無いかもですけど・・・ようは情報ですね、敵国の内情やら軍備やらを探る事、これ、とんでもなく大事だって今回の件で身に染みましたでしょ?帝国側の王国の報告書、あれが謂わばその間諜の報告書になりまして、それで帝国は王国へ攻め込む事を決断しています、ですが・・・その内容ですね、あまりに表面的過ぎてまるで実力が見えていない、挙句先の大戦にも触れられていませんし、魔法に関しても同様です、私は最初帝国の魔法嫌いからそういう風に書いたのかなとも思ったのですが、どうやらそこまでは踏み込んで調査できなかっただけなのかもなと・・・まぁ、そんな感じで・・・でも、これもまた逆に考えて下さい、皆さんが攻める側で、攻め込む先の情報に欠落があったとしたら・・・それも軍事に関わる事で・・・これはもう・・・その時点で勝ちはないですね、なにせ相手の力量を見誤っている、そこから始めた戦なんて・・・ねぇ、上手く行く訳ないですよ」
なるほどと大きく頷く軍団長達、皆タロウが持ち込んだ帝国軍の報告書、その王国語に翻訳されたものはしっかりと読み込んでいる、となればタロウの言う表面的であるとか、踏み込んでいないという表現がよく理解できた、
「で、間諜に関してですが、まずは・・・生間、これは簡単でね、帝国のように相手の国に侵入して調査する事を差します、まぁ、普通にねやろうと思えば出来ますし、やる事もあるでしょ?」
ニコリと微笑むタロウ、確かにと頷く者多数、
「で、因間、これも簡単で、相手のね、平民・・・まぁ、情報を集める点では商人とかになりますかね、それを買収するなり、縁者になるなり、脅すなりして情報を引き出す方法ですね、これもまぁ、よくあります、次の内間、これがまた痛いところでして、市民では無く、役所の者、または従者さんやらメイドさんやら、つまりは平民よりもより政治に近い者から情報を引き出すという意味合いです、わざわざ別にしているのはそれだけ有効で、また確実であるからと私は思ってます、で、次は・・・あっ、反間か、これは少し難しくて、相手の間諜をこちら側につけるって事ですね」
「そんな事が可能なのか?」
軍団長の一人が思わず口を挟む、同意し頷く者数人、
「可能は可能です、恐ろしく難しいですけど・・・まずは先の三つのうち、どれでもいいから相手の間諜を見付けます、次にその人物がどれだけ相手に頼りにされているかを確認し、その上で金なり脅しなり、なんなりでこちらに転向させます・・・ね、難しいでしょ、それの調査にしろ、引き込む手段にしろどうやればいいんだかって感じですし・・・言葉だけなら簡単なんですけどね・・・ですが、これが大変に有効でして、相手の間諜をこっちの間諜に出来る訳ですから、相手が何を知りたいのかを探る事もできますし、嘘の情報を伝える事もできる、相手の武器を奪った挙句、その武器を相手に向けさせることができる訳です、大変に有効ですよね」
「なんとまぁ・・・」
「その通りではあるが・・・」
「いや、何もそこまで・・・」
ざわつくおっさん達である、タロウが見るに皆歴戦の軍団長であり、さらには政治家でもあろう、しかし情報戦の経験は無いと思われる、それでも理解できているのは流石だなーと感心するタロウである、
「で、最後に死間、これもまた・・・難しいんですが・・・うん、あれです、例えば軍事作戦を失敗したと見せかけたり、兵糧が無くなったとか、友軍に見放されたとか、政治的な軋轢が生じたとか、そのような軍事作戦の失敗ですとか、離反の情報とかを流して、そこにつけ入る敵軍を殲滅するという方法らしくて・・ようは・・・偽の情報で敵を操るという方法なんでしょうけど、これもね、先程の反間か、相手の情報源とかを把握して、嘘である事がバレないようにしないといけなくて・・・まぁ、そうですね、それだけね、相手の情報を探るには手間がかかるし、探って来る相手に対してはやり返す手段があるって事・・・かなと、で、それが、戦争の結果に直結してしまう、と同時に、国内でも同様となります」
ニヤリとボニファースに微笑むタロウ、ボニファースもニヤリと笑みで答え、
「それもあれか、敵を知り己を知ればに繋がるのか・・・」
ゆっくりと口を開き、ジッとタロウを睨む、
「でしょうねー、ほら、前にも言ったかな?勝てない相手には何をやっても勝てませんから、まずは勝てるかどうかを調べて、勝てないなら勝てないなりの手段を探すしかないのですよ、それが話し合いだろうが譲歩だろうがなんでもね・・・でも・・・そうですねー、王国を考えた場合、魔族と西の蛮族は・・・どうしようもないかな・・・南の都市国家には間諜は有効でしょうね、帝国にも・・・少し落ち着いたら仕掛けておいて損は無いかなと思いますが・・・そっか、転送陣があればいいですし・・・何気にね、某御仁がお得意でしょうね」
さらにニヤリと微笑むタロウ、その御仁とは誰でもないレイナウトの事であり、そう言って理解できる者だけが理解すれば良い名前でもある、
「・・・そうか・・・あれも使えるのだな・・・」
ボニファースはフンと鼻で笑った、はて?とボニファースを見つめる軍団長達、その中にあってカラミッドとリシャルトは背筋を冷たくしている、二人もすぐにレイナウトの事であると察したらしい、
「はい、大変に優秀な人物です、情報参謀も負けておりませんが、やはり・・・ね・・・年季が違います・・・と思いますよ、お話を聞く限り・・・恐らく・・・うん、貴族社会も含めてあらゆる方向に詳しい・・・でなければね、とてもではないですが、間諜行為、さらには何らかの反体制的な組織を作って制御するなんて・・・金があれば出来るってものではないですからね・・・やはり、傑物と言って良いかと思います・・・」
フフッと微笑み茶に手を伸ばすタロウであった。
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ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
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