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本編
82話 雪原にて その19
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「で、なんでお前がここにいるんだよ」
ボニファースの意識が無くなった事を確認しゆっくりと振り返るタロウ、その視線の先ではラインズが嬉々として黒板を構えてボニファースを見つめており、学園長もこれが全身麻酔かと目を輝かせている、
「ん?」
と不思議そうにタロウを見つめ返すラインズ、
「ん?って、なんだよ・・・」
「なんだよもなにもオメー・・・」
ニヤーと微笑むラインズ、クロノスら軍の重鎮達は転送陣から荒野へ戻り、医官達は数人を残して兵士の治療に戻った、この瞬間にも苦悶に満ちた面相で腕を押さえた兵士や、あからさまに血を垂れ流している兵士達が自身の足で転送陣を抜けて入ってきており、医官達も講師達もボニファースどころでは無かったりする、
「タロウ殿、紹介してくれと頼んでいたであろう」
ムフンと微笑み割って入る学園長、
「紹介・・・ですか?」
タロウはハテ?と首を傾げ、
「そうよー、忘れた?」
ソフィアがボニファースの様子を確認しながら呟いた、どうでもいいが陛下に集中してくれよと顔を顰めてしまう医官達、
「・・・あっ・・・」
ソフィアを見つめて固まるタロウ、そしてゆっくりと学園長へ視線を向け、
「・・・でしたね・・・」
ニコーと誤魔化し笑いを浮かべてみる、
「じゃろう、での、での、すっかりあれじゃ、話しが合ってのう」
「そうなんだよー、タロウ、おめぇも水臭いっていうかよー、あれだろ、おめぇの事だからよ、学園長様と俺に遠慮したんだろ?俺もそうだがよ、学園長様もお忙しい方だしな、第一おめぇ、あのなんだっけ、ほれ」
「ギキョクじゃ」
「そう、そのギキョク、あれはいいな、おめぇの入れ知恵だって?おめぇ、ああいうのはさ、まずは俺に言うべきだろが、だろ?北ヘルデルにいた頃にはそんな事一言も言ってなかったろうがよ」
「そりゃ・・・そうだがさ・・・」
嵐のように畳みかけるラインズ、学園長も止める素振りも無く、タロウはただ唖然とする他無い、
「そこまで!!」
しかしやっとソフィアがその場を制し、
「陛下の治療が先よ、向こうに移動させるから、あんたが最後までやるのね?」
ギッとタロウを見上げる、
「ん、あぁ、だな、じゃー・・・あっちか」
「そうよ、ほら、そっち持って」
「はいはい」
タロウが治療台の端に手をかけるとその反対を持ち上げる医官、そのまま二人は麻酔魔法の治療区画へ向かう、そこにはバルテルが先に来ており、他の医官達と治療場所を作っていた、ソフィアが病室に向かってから麻酔魔法も治療魔法も使う程の患者が現れず、医官達もバルテルも他の診療の手伝いに回っていたりする、故にすっかり放置され慌てて片付けた形となる、
「じゃ・・・あっ、でも、どうだろう・・・普段通りに処置されます?」
タロウが担当するであろう医官に確認する、
「うむ、普段通りと問われるとそれしかないかと思うが」
若干困惑し答える医官、ボニファースの診断も下したその医官は第二軍団の医官長である、つまりは軍でも高位の医者であり、外科手術に於いても王国内でも屈指の人物であった、
「ですね・・・しかし、見る限り・・・」
タロウが左目を閉じて患部を確認する、確かにその医官の見立て通り切開が必要そうな粉砕骨折と言われる状態である、つまりはただ骨が折れただけではなく、その断面が幾つかに割れる形の骨折で、さらにはあらぬ方向に力がかけられた為か折れた先が歪み切断面が大きくズレていた、なるほどこれでは切開が必要だろうなとタロウも思う、この事故の際にはクロノスや他の重鎮達と側に居たのであるが、これほどめんどくさい事になっているとは露とも思わなかったタロウである、故に先程までは余裕で笑っていたのであるが、この状態では痛いどころではないし、繋ぎ方次第では歩行が困難になる可能性もあるであろうと考える、
「んー、難しいですねー」
患部を見つめて首を傾げるタロウ、
「あんたでも?」
ソフィアが見上げる、
「うん、それに高齢だしね、しっかり繋げてあげないとだし、でも会議もあるからな、さっさと繋げて固定するのがいいのかな・・・」
「陛下がいなくてもいいんじゃないの?」
「会議にか?」
「そうよ、だって、あんだけ偉いさんが集まっているんだから、陛下がいなくてもなんとかなるでしょ、第一ね、陛下もまずは自分の治療に専念するべきよ、こうなったらさ」
「そうだけどさ、会議はだって、やっぱり陛下がいないと絞まらんのよ」
「そんなの知ったこっちゃないわよ、医者としたらまず考えるのは陛下の事よ、違う?」
「そうだけろうけどさ・・・」
「でしょ、だから陛下にとって一番良い治療をなさい、まずはそこでしょ」
「だなー・・・」
それもそうだとタロウは考え、
「じゃ、取り合えず普段通りの治療を、それから治療魔法で補助する形にしましょう」
「そうね、じゃ、私は戻るわ、まったく、騒々しいったらありゃしない」
医官達とタロウが動き出したのを確認し、やれやれと離れるソフィア、フーと一息ついて辺りを見渡すと毛布に包まれたケイスが寝ぼけ眼でこちらを見つめている様子、
「ありゃ、起きた?」
ソフィアがニコリと微笑み近寄ると、
「・・・あっ、はい、なんとか・・・その、すいません」
ゆっくりと頭を下げるケイスである、
「いいのいいの、頑張り過ぎたのよ、どう?回復した?」
微笑みつつその顔を覗き込む、
「はい・・・その、はい・・・」
ユルユルと腰を上げるケイス、しかしやはりまだ本調子ではないらしく、ふらついている、オッとソフィアが手を差し伸べ、すいませんと再び謝るケイス、タロウが気付いて振り返り、
「ありゃ、ケイスさんじゃない、どした?」
「魔力切れでね、休んでたの」
「あっ、そっか、どう?動ける?」
治療は医官に任せタロウもケイスに歩み寄る、治療そのものは医官に丸投げで構わなかった、それどころかタロウが口出しするのは控えるべきであろう、その道のプロフェッショナルがいるのであるから任せるのが正しい判断である、
「はい、エヘヘ、すいません」
ソフィアの肩を借りて漸く立ち上がるケイス、
「ん、じゃ、少し動きましょう、その方が意識はハッキリするしね」
ニコリと微笑むソフィア、
「そうなんですか?」
「そういうものよ、見た感じどう?」
ソフィアがタロウを見上げる、
「ん?あぁ、全然大丈夫だよ、魔力も人並に戻ってるしね、うん、平気平気」
「らしいわよ、ほら、しっかりなさい」
パンとケイスの背中を叩くソフィア、ハイッと気合が入るケイスである、そしてソフィアとケイスは病室へ向かった、ケイスが治療した兵士達を診るべきだとソフィアが言い出し、それもそうですねとケイスの目に光が戻る、ケイスさんも気丈だなーとタロウは微笑んだ、恐らく真面目に張り切ってしまったのだろう、初めての本格的な治療であった筈で、ソフィアや医官達が側にいればなんとなるかとタロウは考えていたのであるが、なんとかはなったが自己管理には気が回らなかったのだ、まぁこれも経験だとタロウは偉そうに考えていると、
「申し訳ない、少し離れて」
医官の叱責が背後に響く、エッと振り返ればラインズと学園長が首を伸ばしてボニファースの治療を覗き込んでおり、医官達もどうしたものかと難儀している様子で、
「あっ、ラインズ、学園長、自重して、邪魔しちゃ駄目だ」
タロウが慌てて駆け寄る事態となっていた。
それから暫くして、午後の半ばとなる、
「お疲れ様ー」
ソフィアがフラフラと寮の食堂へ入ると、
「ソフィー、おかえりー」
ミナがハナコを抱いて駆け寄った、
「はーい、戻ったわよー、泣いてないー?」
ニコーと微笑むソフィア、
「ムー、泣いてないー、ねー、泣いてないよねー」
ソフィアを睨みつけてハナコに確認するミナ、ハナコがヘッヘと尻尾を振り回し、ミナの裾がパタパタ揺れる、
「そっか、ならいいわ」
優しくミナの頭に手を置くソフィア、エヘヘーと微笑むミナである、そのままソフィアはコタツに足を入れた、何気に疲れていた、他人の前でもあって気を張っていた事もある、治療云々は大したことは無かったが、人の多さに気疲れしてしまったようで、こりゃ鍛え直さないと偉そうな事は言えないなと実感してしまったソフィアである、
「どしたのー?」
ソフィアの隣りにストンと腰を下ろすミナ、ハナコも心配そうにテーブルに前足をチョコンと乗せる、
「んー・・・あらっ、可愛いわね」
ニコリと微笑んでしまうソフィア、ハナコのちんまりとした手に鼻面が置かれ、ハナコの上にミナの顔が乗っかっており何とも愛らしい、
「エヘヘー、あのね、あのね、ハナコがね、お行儀良かったのー」
「あら、そうなの?」
「うん、みんなでハナコの絵を描いたのー、上手な子もいたけどー、みんなヘタッピだったー」
「あら・・・」
「ミナも似たようなものじゃろが」
レインがムクリと起き出す、どうやらコタツに足を入れて寝そべり書を開いていたようだ、
「ちがうー、ミナは上手かったー」
「そうでもないぞ」
ニヤニヤと意地悪そうに微笑むレイン、
「上手かったー、ニコ先生にも褒められたー」
「そりゃそうじゃ、ニコリーネもミシェレもみんなに上手と言っておった」
「ムー、そうだけどー」
「じゃろう?」
「ミナのは上手だったでしょ、ね?」
覆いかぶさるようにハナコに問いかけるミナ、ハナコはキュフンと鳴いたようで、
「ほらー、ハナコも上手って言ってるー」
「見ておらんじゃろ」
「見たー、見せたー」
「憶えておらん」
「ウソー、おぼえてるー」
キャーキャー言い合うミナとレイン、そっか、レインが居れば寂しくないかとソフィアはホッと安堵する、そこへ、
「ソフィアさん、お疲れ様です」
ティルがヒョイと厨房から顔を出し、ミーンも遅れて顔を出す。
「お疲れ様、御免ねー任せちゃって」
力無く微笑むソフィア、
「お仕事ですから大丈夫です」
「はい、すっかり掃除も洗濯も済んでます、確認されます?」
ミーンがニコリと微笑む、
「それはいいわよ、任せたからには任せるから、あっ、私も手伝うわね」
よっとソフィアが立ち上がるも、
「そんな、休んでて下さい」
「そうですよー、こちらはお任せを」
慌てて押し留める二人である、そう言われてもなとソフィアも結局立ち上がる、ムーとソフィアを見つめるティルとミーン、すると、
「あっ、そうだ、リノルトさんから届け物がありますよ」
とティルがスッと厨房へ戻った、
「あっ、そうだった、鍋ですか?なんか、すんごいゴツイのが来てました」
「ゴツイ?・・・あー、あれか、届いたの?どんなもん?」
パッと顔を明るくして厨房へ駆け込むソフィア、なんじゃとレインが首を伸ばし、ミナとハナコはなんだろうと同時に首を傾げた。
ボニファースの意識が無くなった事を確認しゆっくりと振り返るタロウ、その視線の先ではラインズが嬉々として黒板を構えてボニファースを見つめており、学園長もこれが全身麻酔かと目を輝かせている、
「ん?」
と不思議そうにタロウを見つめ返すラインズ、
「ん?って、なんだよ・・・」
「なんだよもなにもオメー・・・」
ニヤーと微笑むラインズ、クロノスら軍の重鎮達は転送陣から荒野へ戻り、医官達は数人を残して兵士の治療に戻った、この瞬間にも苦悶に満ちた面相で腕を押さえた兵士や、あからさまに血を垂れ流している兵士達が自身の足で転送陣を抜けて入ってきており、医官達も講師達もボニファースどころでは無かったりする、
「タロウ殿、紹介してくれと頼んでいたであろう」
ムフンと微笑み割って入る学園長、
「紹介・・・ですか?」
タロウはハテ?と首を傾げ、
「そうよー、忘れた?」
ソフィアがボニファースの様子を確認しながら呟いた、どうでもいいが陛下に集中してくれよと顔を顰めてしまう医官達、
「・・・あっ・・・」
ソフィアを見つめて固まるタロウ、そしてゆっくりと学園長へ視線を向け、
「・・・でしたね・・・」
ニコーと誤魔化し笑いを浮かべてみる、
「じゃろう、での、での、すっかりあれじゃ、話しが合ってのう」
「そうなんだよー、タロウ、おめぇも水臭いっていうかよー、あれだろ、おめぇの事だからよ、学園長様と俺に遠慮したんだろ?俺もそうだがよ、学園長様もお忙しい方だしな、第一おめぇ、あのなんだっけ、ほれ」
「ギキョクじゃ」
「そう、そのギキョク、あれはいいな、おめぇの入れ知恵だって?おめぇ、ああいうのはさ、まずは俺に言うべきだろが、だろ?北ヘルデルにいた頃にはそんな事一言も言ってなかったろうがよ」
「そりゃ・・・そうだがさ・・・」
嵐のように畳みかけるラインズ、学園長も止める素振りも無く、タロウはただ唖然とする他無い、
「そこまで!!」
しかしやっとソフィアがその場を制し、
「陛下の治療が先よ、向こうに移動させるから、あんたが最後までやるのね?」
ギッとタロウを見上げる、
「ん、あぁ、だな、じゃー・・・あっちか」
「そうよ、ほら、そっち持って」
「はいはい」
タロウが治療台の端に手をかけるとその反対を持ち上げる医官、そのまま二人は麻酔魔法の治療区画へ向かう、そこにはバルテルが先に来ており、他の医官達と治療場所を作っていた、ソフィアが病室に向かってから麻酔魔法も治療魔法も使う程の患者が現れず、医官達もバルテルも他の診療の手伝いに回っていたりする、故にすっかり放置され慌てて片付けた形となる、
「じゃ・・・あっ、でも、どうだろう・・・普段通りに処置されます?」
タロウが担当するであろう医官に確認する、
「うむ、普段通りと問われるとそれしかないかと思うが」
若干困惑し答える医官、ボニファースの診断も下したその医官は第二軍団の医官長である、つまりは軍でも高位の医者であり、外科手術に於いても王国内でも屈指の人物であった、
「ですね・・・しかし、見る限り・・・」
タロウが左目を閉じて患部を確認する、確かにその医官の見立て通り切開が必要そうな粉砕骨折と言われる状態である、つまりはただ骨が折れただけではなく、その断面が幾つかに割れる形の骨折で、さらにはあらぬ方向に力がかけられた為か折れた先が歪み切断面が大きくズレていた、なるほどこれでは切開が必要だろうなとタロウも思う、この事故の際にはクロノスや他の重鎮達と側に居たのであるが、これほどめんどくさい事になっているとは露とも思わなかったタロウである、故に先程までは余裕で笑っていたのであるが、この状態では痛いどころではないし、繋ぎ方次第では歩行が困難になる可能性もあるであろうと考える、
「んー、難しいですねー」
患部を見つめて首を傾げるタロウ、
「あんたでも?」
ソフィアが見上げる、
「うん、それに高齢だしね、しっかり繋げてあげないとだし、でも会議もあるからな、さっさと繋げて固定するのがいいのかな・・・」
「陛下がいなくてもいいんじゃないの?」
「会議にか?」
「そうよ、だって、あんだけ偉いさんが集まっているんだから、陛下がいなくてもなんとかなるでしょ、第一ね、陛下もまずは自分の治療に専念するべきよ、こうなったらさ」
「そうだけどさ、会議はだって、やっぱり陛下がいないと絞まらんのよ」
「そんなの知ったこっちゃないわよ、医者としたらまず考えるのは陛下の事よ、違う?」
「そうだけろうけどさ・・・」
「でしょ、だから陛下にとって一番良い治療をなさい、まずはそこでしょ」
「だなー・・・」
それもそうだとタロウは考え、
「じゃ、取り合えず普段通りの治療を、それから治療魔法で補助する形にしましょう」
「そうね、じゃ、私は戻るわ、まったく、騒々しいったらありゃしない」
医官達とタロウが動き出したのを確認し、やれやれと離れるソフィア、フーと一息ついて辺りを見渡すと毛布に包まれたケイスが寝ぼけ眼でこちらを見つめている様子、
「ありゃ、起きた?」
ソフィアがニコリと微笑み近寄ると、
「・・・あっ、はい、なんとか・・・その、すいません」
ゆっくりと頭を下げるケイスである、
「いいのいいの、頑張り過ぎたのよ、どう?回復した?」
微笑みつつその顔を覗き込む、
「はい・・・その、はい・・・」
ユルユルと腰を上げるケイス、しかしやはりまだ本調子ではないらしく、ふらついている、オッとソフィアが手を差し伸べ、すいませんと再び謝るケイス、タロウが気付いて振り返り、
「ありゃ、ケイスさんじゃない、どした?」
「魔力切れでね、休んでたの」
「あっ、そっか、どう?動ける?」
治療は医官に任せタロウもケイスに歩み寄る、治療そのものは医官に丸投げで構わなかった、それどころかタロウが口出しするのは控えるべきであろう、その道のプロフェッショナルがいるのであるから任せるのが正しい判断である、
「はい、エヘヘ、すいません」
ソフィアの肩を借りて漸く立ち上がるケイス、
「ん、じゃ、少し動きましょう、その方が意識はハッキリするしね」
ニコリと微笑むソフィア、
「そうなんですか?」
「そういうものよ、見た感じどう?」
ソフィアがタロウを見上げる、
「ん?あぁ、全然大丈夫だよ、魔力も人並に戻ってるしね、うん、平気平気」
「らしいわよ、ほら、しっかりなさい」
パンとケイスの背中を叩くソフィア、ハイッと気合が入るケイスである、そしてソフィアとケイスは病室へ向かった、ケイスが治療した兵士達を診るべきだとソフィアが言い出し、それもそうですねとケイスの目に光が戻る、ケイスさんも気丈だなーとタロウは微笑んだ、恐らく真面目に張り切ってしまったのだろう、初めての本格的な治療であった筈で、ソフィアや医官達が側にいればなんとなるかとタロウは考えていたのであるが、なんとかはなったが自己管理には気が回らなかったのだ、まぁこれも経験だとタロウは偉そうに考えていると、
「申し訳ない、少し離れて」
医官の叱責が背後に響く、エッと振り返ればラインズと学園長が首を伸ばしてボニファースの治療を覗き込んでおり、医官達もどうしたものかと難儀している様子で、
「あっ、ラインズ、学園長、自重して、邪魔しちゃ駄目だ」
タロウが慌てて駆け寄る事態となっていた。
それから暫くして、午後の半ばとなる、
「お疲れ様ー」
ソフィアがフラフラと寮の食堂へ入ると、
「ソフィー、おかえりー」
ミナがハナコを抱いて駆け寄った、
「はーい、戻ったわよー、泣いてないー?」
ニコーと微笑むソフィア、
「ムー、泣いてないー、ねー、泣いてないよねー」
ソフィアを睨みつけてハナコに確認するミナ、ハナコがヘッヘと尻尾を振り回し、ミナの裾がパタパタ揺れる、
「そっか、ならいいわ」
優しくミナの頭に手を置くソフィア、エヘヘーと微笑むミナである、そのままソフィアはコタツに足を入れた、何気に疲れていた、他人の前でもあって気を張っていた事もある、治療云々は大したことは無かったが、人の多さに気疲れしてしまったようで、こりゃ鍛え直さないと偉そうな事は言えないなと実感してしまったソフィアである、
「どしたのー?」
ソフィアの隣りにストンと腰を下ろすミナ、ハナコも心配そうにテーブルに前足をチョコンと乗せる、
「んー・・・あらっ、可愛いわね」
ニコリと微笑んでしまうソフィア、ハナコのちんまりとした手に鼻面が置かれ、ハナコの上にミナの顔が乗っかっており何とも愛らしい、
「エヘヘー、あのね、あのね、ハナコがね、お行儀良かったのー」
「あら、そうなの?」
「うん、みんなでハナコの絵を描いたのー、上手な子もいたけどー、みんなヘタッピだったー」
「あら・・・」
「ミナも似たようなものじゃろが」
レインがムクリと起き出す、どうやらコタツに足を入れて寝そべり書を開いていたようだ、
「ちがうー、ミナは上手かったー」
「そうでもないぞ」
ニヤニヤと意地悪そうに微笑むレイン、
「上手かったー、ニコ先生にも褒められたー」
「そりゃそうじゃ、ニコリーネもミシェレもみんなに上手と言っておった」
「ムー、そうだけどー」
「じゃろう?」
「ミナのは上手だったでしょ、ね?」
覆いかぶさるようにハナコに問いかけるミナ、ハナコはキュフンと鳴いたようで、
「ほらー、ハナコも上手って言ってるー」
「見ておらんじゃろ」
「見たー、見せたー」
「憶えておらん」
「ウソー、おぼえてるー」
キャーキャー言い合うミナとレイン、そっか、レインが居れば寂しくないかとソフィアはホッと安堵する、そこへ、
「ソフィアさん、お疲れ様です」
ティルがヒョイと厨房から顔を出し、ミーンも遅れて顔を出す。
「お疲れ様、御免ねー任せちゃって」
力無く微笑むソフィア、
「お仕事ですから大丈夫です」
「はい、すっかり掃除も洗濯も済んでます、確認されます?」
ミーンがニコリと微笑む、
「それはいいわよ、任せたからには任せるから、あっ、私も手伝うわね」
よっとソフィアが立ち上がるも、
「そんな、休んでて下さい」
「そうですよー、こちらはお任せを」
慌てて押し留める二人である、そう言われてもなとソフィアも結局立ち上がる、ムーとソフィアを見つめるティルとミーン、すると、
「あっ、そうだ、リノルトさんから届け物がありますよ」
とティルがスッと厨房へ戻った、
「あっ、そうだった、鍋ですか?なんか、すんごいゴツイのが来てました」
「ゴツイ?・・・あー、あれか、届いたの?どんなもん?」
パッと顔を明るくして厨房へ駆け込むソフィア、なんじゃとレインが首を伸ばし、ミナとハナコはなんだろうと同時に首を傾げた。
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