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本編
82話 雪原にて その31
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そして学園講堂の隅っこでは、
「聞こえてますよー」
カトカの声が木板から響いた、ギョッと手にした木板を見つめるユーリ、アッと一声上げて、
「・・・なによー、いやらしいわねー・・・」
ムフフとふざけてみる、
「・・・キモッ・・・」
カトカの端的で嫌悪感丸出しの一声が返ってきた、
「ナッ、なによそれ」
「なによもなにも・・・なんですか気持ち悪いなー・・・」
実に正直なカトカである、
「いつもの事でしょー、今更なによ」
「そうですけどー・・・あー・・・なんかあれですね、これで話すとその辺の距離感が曖昧な感じですかねー」
「そう?」
「そうですよー、だって、エレインさんにも、リーニーさんにも聞かれてますからねー」
「ゲッ・・・マジ?」
「マジです、あれですね、相手の様子が見えないから・・・だって、そっちはあれですよね、ソフィアさんが近くにいるのは分かるんですけど・・・広い所にいます?」
「正解、講堂、学園の」
「ですよね、なんか声が広がっているっていうか、そういうのも分かります」
「へー・・・そりゃまた大したもんだ」
「ですね、で、こっちはほら、エレインさんのお仕事部屋ですから、こっちはあれですよ、それなりに真面目な雰囲気なんですよ」
ヘーと呟くユーリ、
「ですよー」
とエレインが口を挟む、
「わっ、あっ、まだいたの?」
「まだいたのって・・・」
もうと顔を顰めるエレイン、リーニーも何を言っているんだかと苦笑してしまう、リーニーとしても講師職を離れたユーリにはまだ慣れなかった、少なくとも講師として教壇に立つユーリは厳しくも真面目な講師であり、それなりに人気もあって尊敬もされていたように思う、しかし素の彼女はなんとも明け透けで飾らない女性のように見えた、そしてそれは実際にそうであるらしく、またそれ以上に恐らくがさつで大雑把である、
「そりゃいますよ、私がお邪魔してる方なんですから」
「それも・・・そうか、まぁ、あれよね、そういう感じのやつもこれから慣れて行かないと駄目かしら?」
ウーンと首を傾げるユーリ、ソフィアもなるほどなーと木板を覗き込んでいる、
「そういう感じってなんですか?相変わらず曖昧ですよ」
もうと眉を顰めるカトカ、確かに曖昧で何を言わんとしているのか理解が難しいとエレインとリーニーが同時に首を傾げる、
「そういう感じはそういう感じよ、ほら、なんていうの?こっちとそっちの雰囲気の違いとかさ、それこそ、あれよ、偉い人が側にいる事を想定したり、他人の悪口は言わない?」
「悪口って・・・それは誰に対しても言っては駄目です」
「・・・そうだけどさ、あくまでほら例えってやつよ、もうカトカも真面目なんだからー」
再びおちゃらけるユーリ、何を言っているんだかとカトカはムッと木板を睨む、
「・・・まぁ、言わんとしている事はやっとわかりました、ようはあれです、普段以上に気を使って話せって事ですね」
確かにその通りかもとエレインは納得し、リーニーも良く分からないがこの状況を見る限り確かにそうだと大きく頷く、
「そうねー、あれかしら・・・大事な相談とかは難しそうだしなー・・・でも、まぁ、軽い連絡には使えるわね」
「それはだって、昨日もそう話したじゃないですか」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
「そっか、まぁ、そんな感じね・・・あれだ、これもっと作ってさ、全員で持ち歩く?」
「全員って・・・だって、これ、あれですよ、タロウさん曰く一対一でしか作れないでしょ」
「そうよ」
「だとすると、あれですか?全員分の木板を持ち歩くんですか?」
アッと絶句するユーリ、そうなると結構な数だなーとその隣でソフィアが首を傾げる、
「研究所員だけならほら、えーっと、三枚ずつ?になります?」
「・・・その計算であってる?」
「多分ですけど、ようは繋がりたい相手の数だけ必要って事ですからね」
「そっか・・・そうなると、寮の生徒全員に持たせたら・・・」
「それだけでも10枚くらい簡単にいきますよ、いくらちっこい板とは言っても・・・邪魔くさそうだなー・・・」
「確かにねー、ちょっと無理があるわねー、それに・・・別に毎日会う相手に持たせなくてもね」
「ですよー、だから・・・必要な時に持って行くって感じで、数枚あればいいんじゃないですか?なんとなく・・・たぶんですけど」
「・・・それが賢そうね」
「ですよ、それと結局所長はだって、研究所か学園にしか用は無いんですから、どうせ持ち歩かなくなりますよ」
「どうせってどういう意味よ」
「どうせはどうせです、ソフィアさんもだって結局使わなかったって言ってたでしょ」
「そうだっけ?」
ユーリが顔を上げ、
「そうねー、結局ねー」
とソフィアが微笑む、アッ、ソフィアさんもまだいたんだと気付く木板の先の三人、
「まぁ、いいわ、あれば何かと使えそうだし、細かい事はおいおい考えましょう」
適当に切り上げる事としたユーリである、
「ですね、あっ、ゾーイさんがさっそく作るらしいですけど、なにかあります?」
「んー・・・あっ、あれだ、タロウが言ってたでしょ、一対多のやつ?あれ作れない?まだ作ってないのよね」
「それは・・・できるでしょうけど、それこそ何に使うんです?」
「今朝ねー、ミナがさー、これを使って起こすーって騒いでたのよ」
「なんですそれ?」
「ほら、私を起こしたかったんだってー、で、これを耳元に置いて、ワッって感じ?」
「・・・あー・・・想像できますね・・・」
んーと目を閉じるカトカ、エレインとリーニーはなんのこっちゃと顔を見合わせる、
「だからさ、だったら、ほら、生徒全員の寝台にさ、これを置いておけば、一度に起こせる?」
どう?とばかりにソフィアに微笑むユーリ、
「それいいかもねー」
ソフィアがニヤーと微笑む、しかし実際の所生徒達で寝坊するのはエレインかジャネット程度であり、エレインはオリビアが、ジャネットは他の生徒達が気を利かせて起こしに行っていたりする、故にそれほど必要性は感じず、ソフィアが唯一必要だと感じるのはユーリだけであったりした、その為今朝はソフィアが何となくミナにその事を伝え、ミナが楽しそうーとはしゃぎだしたのである、見事に空ぶったようであるが、
「まぁ、いいですけど、じゃ、とりあえずそう伝えますね」
「宜しくー」
「他にあります?」
「特に無いかな、あったらまた連絡するー」
「はい、了解しましたー」
カトカの明るい声が響き、フッと木板の輝きが失せた、なるほど、ちゃんと切らないと駄目だわねと理解するユーリとソフィア、
「・・・便利ねこれ・・・」
「そうみたいねー」
二人は木板を見つめて呟く、なるほど実際に使ってみないとやはり理解が足りなかったようで、先程まではただ単に好奇心もあって起動してみたそれであったが、ちゃんと会話をしてみればその有用性が実感でき、さらには問題点が焙りだされている、やはりそれなりに考えて使わないと、いらない諍いの元にもなりかねないらしい、まぁそれは人付き合い全般に言える事ではある、
「でも・・・あれよ、タロウはそれほどじゃないけどなーって言ってたかしら?」
「そうなの?」
「まずねー・・・なんか、板と板が一対一になってるのが気に食わないとかって言ってて、本来だと、この板同士がね、相手を選んで繋がるようにしたかったんだって・・・」
「何それ・・・」
ギロッとソフィアを睨むユーリ、
「そのままよー・・・でも・・・どうだったかなー・・・私もうろ覚えなんだけど・・・」
「思い出しなさい」
「・・・あー・・・無理」
「無理じゃない」
「無理は無理よ、もう暫く前の事だし、そういうものかーって聞き流したし」
「役に立たない女だわねー」
「ムカッ・・・まぁ、そうだけどさ」
「なによ、殊勝じゃない」
「悪い?おぼえてないもんはしょうがないでしょ、あれがいるんだからあれに聞きなさい」
フンと鼻を鳴らすソフィア、
「そうね、そうする、あっ、でさ、アンタね、ルーツのあれ使えるってホント?」
ユーリが本題を思い出してズイッとソフィアに詰め寄った、ユーリは荒野での一仕事を終え、昨日同様暇になるなと察し、戦闘が本格化する前であれば話しもできるであろうと講堂に顔を出し、アフラがバタバタしていた為、大丈夫?と声をかけ、なんとかしますとアフラは苦笑しつつエレインへの伝言を頼まれ、であればとソフィアを捕まえつつカトカに連絡し、そうしてアフラからの伝言をエレインへ伝えたのである、ユーリとしてはこの木板での会話こそ寄り道も良い所であったりする、
「あれってなにさ?」
「ほら、監視魔法とかなんとか?遠くを見るやつ」
「あー・・・使えるわよー」
「教えなさい」
「・・・エー・・・」
思いっきり顔を顰めるソフィア、コノーと頬を引きつらせるユーリである、
「・・・だってさ・・・あー・・・どうせあれでしょ、呪文を織れとか言うんでしょ」
「当然よ」
「・・・無理」
「待って、タロウに聞いたわよ、ブツブツ言いながら魔法使ってたって」
「・・・そんな事まで言ってるの?あの人」
「別に良いでしょ、私とあんたの仲なんだから」
「まぁ・・・いいけどさ・・・といってもなー」
ムーと首を傾げるソフィア、確かにソフィアはルーツの得意とするその独自とも言える魔法に近い事は可能である、しかし、
「あれはだって・・・魔法・・・なのかなー・・・」
「何それ?」
「広義に於いては魔法である事は確かなのよね・・・あっ、あんたとしてはどう思う?」
「何が?」
「なんていうか・・・魔力を操る手段を魔法と呼ぶのが自然・・・というか、そういうものよね?」
「そうよ、他に何があるのよ」
「なんだけど・・・ほら、基本としては呪文が無いと出来ない訳でしょ」
「・・・あー、それの事・・・」
何を今更と呆れるユーリ、
「それの事?」
「そうよー、魔法の定義でしょ、その程度はだって、今更論ずる必要は無いわね」
「そうなの?」
「そうなの、あんたもあれだ、学園の教科書読んでみなさい、しっかり定義されてるから」
「へー・・・知らなかった・・・」
「でしょうね、で、簡単に言えばよ、あんたの言うように魔法とは魔力を操る技術全般をそう呼称しているに過ぎなくて、呪文についてはあくまでその介添えに過ぎないって事になってるのよ、実際あんたも呪文なしで魔法使ってるじゃない」
「あらま・・・なんだー、逃げる口実が無くなったかしら・・・」
ムーと口を尖らせるソフィア、
「逃げるつもりだったの?」
ムッとユーリが睨みつける、
「そうよー、だって・・・まぁ、あんたなら分かるだろうけど、ルーツのあれはほら、魔力操作でしかなくて、あれを魔法って言うのはどうかなーって感じなのよね、で、私も出来るっちゃ出来るけど、正直・・・なんていうか・・・性に合わない?」
「あんたでも?」
「私でも、だから・・・あれやタロウさんがなんて言ってるか知らないけど、それこそ・・・ケイスさんの空間魔法みたく人を選ぶ類の魔力操作だから・・・正直・・・呪文にしておいても・・・使える人いないんじゃない?」
「それはあんたが考える事じゃないでしょ、それを言ったらね、あんたの麻酔魔法の呪文だってとてもじゃないけど使えないじゃない」
「だから難しいって言ったでしょ」
「それにしてもよ」
「あんたはだって使えるようになったじゃない」
「私はね、でも、他の人が使えないんじゃ意味ないの」
「それはわかるけど・・・だったらあんたが織り直せばいいのよ、私に頼らないで」
「無理」
「あんたなら簡単でしょ」
「めんどい」
「もう・・・なに?人にそのめんどうを押し付けるつもり?」
「そのつもり、いい?あんたもね、いい加減に本気で動きなさい」
「またそれ・・・」
「またってなによ」
「昨日も似たような事言われたのよ、学園長とか事務長さんとか、なんとかってケイスさんの先生にも」
「・・・そうなの?」
「そうよー、治療魔法だの麻酔魔法だの教えてくれって」
「・・・で、どう答えたのよ?」
「・・・なんか有耶無耶になった・・・」
「なにそれ?」
「ラインズが突っ込んできたのよ」
「あっ・・・それ、なんか聞いたかな?」
「そうね、話したでしょ、それで、時間も無かったし・・・」
「・・・そっ、で、どうするの?」
腕を組み、ムッとソフィアを睨むユーリ、ユーリの感触ではどうやらソフィアも少しばかり前向きに考えているように感じられる、
「そうねー・・・まぁ・・・暇潰し程度であればいいかなーって思ってるかなー」
フーと鼻息を荒くし、視線を逸らせるソフィア、
「それでいいのよー」
ユーリがニマーと微笑む、すると、
「やっぱ、ヤダ」
「アン?」
「なんかムカつく」
「ちょ、ガキみたいな事言うんじゃないわよ」
「ガキで結構よ」
「この・・・あんたねー」
いよいよユーリが肩を怒らせた瞬間、
「あっ、いたー、なんだよ二人揃って丁度良い」
能天気な大声が講堂に響く、ラインズであった、ニコニコと大量の黒板を抱えて二人に近付いてきており、ウゲッと同時に呻いたソフィアとユーリであった。
「聞こえてますよー」
カトカの声が木板から響いた、ギョッと手にした木板を見つめるユーリ、アッと一声上げて、
「・・・なによー、いやらしいわねー・・・」
ムフフとふざけてみる、
「・・・キモッ・・・」
カトカの端的で嫌悪感丸出しの一声が返ってきた、
「ナッ、なによそれ」
「なによもなにも・・・なんですか気持ち悪いなー・・・」
実に正直なカトカである、
「いつもの事でしょー、今更なによ」
「そうですけどー・・・あー・・・なんかあれですね、これで話すとその辺の距離感が曖昧な感じですかねー」
「そう?」
「そうですよー、だって、エレインさんにも、リーニーさんにも聞かれてますからねー」
「ゲッ・・・マジ?」
「マジです、あれですね、相手の様子が見えないから・・・だって、そっちはあれですよね、ソフィアさんが近くにいるのは分かるんですけど・・・広い所にいます?」
「正解、講堂、学園の」
「ですよね、なんか声が広がっているっていうか、そういうのも分かります」
「へー・・・そりゃまた大したもんだ」
「ですね、で、こっちはほら、エレインさんのお仕事部屋ですから、こっちはあれですよ、それなりに真面目な雰囲気なんですよ」
ヘーと呟くユーリ、
「ですよー」
とエレインが口を挟む、
「わっ、あっ、まだいたの?」
「まだいたのって・・・」
もうと顔を顰めるエレイン、リーニーも何を言っているんだかと苦笑してしまう、リーニーとしても講師職を離れたユーリにはまだ慣れなかった、少なくとも講師として教壇に立つユーリは厳しくも真面目な講師であり、それなりに人気もあって尊敬もされていたように思う、しかし素の彼女はなんとも明け透けで飾らない女性のように見えた、そしてそれは実際にそうであるらしく、またそれ以上に恐らくがさつで大雑把である、
「そりゃいますよ、私がお邪魔してる方なんですから」
「それも・・・そうか、まぁ、あれよね、そういう感じのやつもこれから慣れて行かないと駄目かしら?」
ウーンと首を傾げるユーリ、ソフィアもなるほどなーと木板を覗き込んでいる、
「そういう感じってなんですか?相変わらず曖昧ですよ」
もうと眉を顰めるカトカ、確かに曖昧で何を言わんとしているのか理解が難しいとエレインとリーニーが同時に首を傾げる、
「そういう感じはそういう感じよ、ほら、なんていうの?こっちとそっちの雰囲気の違いとかさ、それこそ、あれよ、偉い人が側にいる事を想定したり、他人の悪口は言わない?」
「悪口って・・・それは誰に対しても言っては駄目です」
「・・・そうだけどさ、あくまでほら例えってやつよ、もうカトカも真面目なんだからー」
再びおちゃらけるユーリ、何を言っているんだかとカトカはムッと木板を睨む、
「・・・まぁ、言わんとしている事はやっとわかりました、ようはあれです、普段以上に気を使って話せって事ですね」
確かにその通りかもとエレインは納得し、リーニーも良く分からないがこの状況を見る限り確かにそうだと大きく頷く、
「そうねー、あれかしら・・・大事な相談とかは難しそうだしなー・・・でも、まぁ、軽い連絡には使えるわね」
「それはだって、昨日もそう話したじゃないですか」
「そうだっけ?」
「そうですよ」
「そっか、まぁ、そんな感じね・・・あれだ、これもっと作ってさ、全員で持ち歩く?」
「全員って・・・だって、これ、あれですよ、タロウさん曰く一対一でしか作れないでしょ」
「そうよ」
「だとすると、あれですか?全員分の木板を持ち歩くんですか?」
アッと絶句するユーリ、そうなると結構な数だなーとその隣でソフィアが首を傾げる、
「研究所員だけならほら、えーっと、三枚ずつ?になります?」
「・・・その計算であってる?」
「多分ですけど、ようは繋がりたい相手の数だけ必要って事ですからね」
「そっか・・・そうなると、寮の生徒全員に持たせたら・・・」
「それだけでも10枚くらい簡単にいきますよ、いくらちっこい板とは言っても・・・邪魔くさそうだなー・・・」
「確かにねー、ちょっと無理があるわねー、それに・・・別に毎日会う相手に持たせなくてもね」
「ですよー、だから・・・必要な時に持って行くって感じで、数枚あればいいんじゃないですか?なんとなく・・・たぶんですけど」
「・・・それが賢そうね」
「ですよ、それと結局所長はだって、研究所か学園にしか用は無いんですから、どうせ持ち歩かなくなりますよ」
「どうせってどういう意味よ」
「どうせはどうせです、ソフィアさんもだって結局使わなかったって言ってたでしょ」
「そうだっけ?」
ユーリが顔を上げ、
「そうねー、結局ねー」
とソフィアが微笑む、アッ、ソフィアさんもまだいたんだと気付く木板の先の三人、
「まぁ、いいわ、あれば何かと使えそうだし、細かい事はおいおい考えましょう」
適当に切り上げる事としたユーリである、
「ですね、あっ、ゾーイさんがさっそく作るらしいですけど、なにかあります?」
「んー・・・あっ、あれだ、タロウが言ってたでしょ、一対多のやつ?あれ作れない?まだ作ってないのよね」
「それは・・・できるでしょうけど、それこそ何に使うんです?」
「今朝ねー、ミナがさー、これを使って起こすーって騒いでたのよ」
「なんですそれ?」
「ほら、私を起こしたかったんだってー、で、これを耳元に置いて、ワッって感じ?」
「・・・あー・・・想像できますね・・・」
んーと目を閉じるカトカ、エレインとリーニーはなんのこっちゃと顔を見合わせる、
「だからさ、だったら、ほら、生徒全員の寝台にさ、これを置いておけば、一度に起こせる?」
どう?とばかりにソフィアに微笑むユーリ、
「それいいかもねー」
ソフィアがニヤーと微笑む、しかし実際の所生徒達で寝坊するのはエレインかジャネット程度であり、エレインはオリビアが、ジャネットは他の生徒達が気を利かせて起こしに行っていたりする、故にそれほど必要性は感じず、ソフィアが唯一必要だと感じるのはユーリだけであったりした、その為今朝はソフィアが何となくミナにその事を伝え、ミナが楽しそうーとはしゃぎだしたのである、見事に空ぶったようであるが、
「まぁ、いいですけど、じゃ、とりあえずそう伝えますね」
「宜しくー」
「他にあります?」
「特に無いかな、あったらまた連絡するー」
「はい、了解しましたー」
カトカの明るい声が響き、フッと木板の輝きが失せた、なるほど、ちゃんと切らないと駄目だわねと理解するユーリとソフィア、
「・・・便利ねこれ・・・」
「そうみたいねー」
二人は木板を見つめて呟く、なるほど実際に使ってみないとやはり理解が足りなかったようで、先程まではただ単に好奇心もあって起動してみたそれであったが、ちゃんと会話をしてみればその有用性が実感でき、さらには問題点が焙りだされている、やはりそれなりに考えて使わないと、いらない諍いの元にもなりかねないらしい、まぁそれは人付き合い全般に言える事ではある、
「でも・・・あれよ、タロウはそれほどじゃないけどなーって言ってたかしら?」
「そうなの?」
「まずねー・・・なんか、板と板が一対一になってるのが気に食わないとかって言ってて、本来だと、この板同士がね、相手を選んで繋がるようにしたかったんだって・・・」
「何それ・・・」
ギロッとソフィアを睨むユーリ、
「そのままよー・・・でも・・・どうだったかなー・・・私もうろ覚えなんだけど・・・」
「思い出しなさい」
「・・・あー・・・無理」
「無理じゃない」
「無理は無理よ、もう暫く前の事だし、そういうものかーって聞き流したし」
「役に立たない女だわねー」
「ムカッ・・・まぁ、そうだけどさ」
「なによ、殊勝じゃない」
「悪い?おぼえてないもんはしょうがないでしょ、あれがいるんだからあれに聞きなさい」
フンと鼻を鳴らすソフィア、
「そうね、そうする、あっ、でさ、アンタね、ルーツのあれ使えるってホント?」
ユーリが本題を思い出してズイッとソフィアに詰め寄った、ユーリは荒野での一仕事を終え、昨日同様暇になるなと察し、戦闘が本格化する前であれば話しもできるであろうと講堂に顔を出し、アフラがバタバタしていた為、大丈夫?と声をかけ、なんとかしますとアフラは苦笑しつつエレインへの伝言を頼まれ、であればとソフィアを捕まえつつカトカに連絡し、そうしてアフラからの伝言をエレインへ伝えたのである、ユーリとしてはこの木板での会話こそ寄り道も良い所であったりする、
「あれってなにさ?」
「ほら、監視魔法とかなんとか?遠くを見るやつ」
「あー・・・使えるわよー」
「教えなさい」
「・・・エー・・・」
思いっきり顔を顰めるソフィア、コノーと頬を引きつらせるユーリである、
「・・・だってさ・・・あー・・・どうせあれでしょ、呪文を織れとか言うんでしょ」
「当然よ」
「・・・無理」
「待って、タロウに聞いたわよ、ブツブツ言いながら魔法使ってたって」
「・・・そんな事まで言ってるの?あの人」
「別に良いでしょ、私とあんたの仲なんだから」
「まぁ・・・いいけどさ・・・といってもなー」
ムーと首を傾げるソフィア、確かにソフィアはルーツの得意とするその独自とも言える魔法に近い事は可能である、しかし、
「あれはだって・・・魔法・・・なのかなー・・・」
「何それ?」
「広義に於いては魔法である事は確かなのよね・・・あっ、あんたとしてはどう思う?」
「何が?」
「なんていうか・・・魔力を操る手段を魔法と呼ぶのが自然・・・というか、そういうものよね?」
「そうよ、他に何があるのよ」
「なんだけど・・・ほら、基本としては呪文が無いと出来ない訳でしょ」
「・・・あー、それの事・・・」
何を今更と呆れるユーリ、
「それの事?」
「そうよー、魔法の定義でしょ、その程度はだって、今更論ずる必要は無いわね」
「そうなの?」
「そうなの、あんたもあれだ、学園の教科書読んでみなさい、しっかり定義されてるから」
「へー・・・知らなかった・・・」
「でしょうね、で、簡単に言えばよ、あんたの言うように魔法とは魔力を操る技術全般をそう呼称しているに過ぎなくて、呪文についてはあくまでその介添えに過ぎないって事になってるのよ、実際あんたも呪文なしで魔法使ってるじゃない」
「あらま・・・なんだー、逃げる口実が無くなったかしら・・・」
ムーと口を尖らせるソフィア、
「逃げるつもりだったの?」
ムッとユーリが睨みつける、
「そうよー、だって・・・まぁ、あんたなら分かるだろうけど、ルーツのあれはほら、魔力操作でしかなくて、あれを魔法って言うのはどうかなーって感じなのよね、で、私も出来るっちゃ出来るけど、正直・・・なんていうか・・・性に合わない?」
「あんたでも?」
「私でも、だから・・・あれやタロウさんがなんて言ってるか知らないけど、それこそ・・・ケイスさんの空間魔法みたく人を選ぶ類の魔力操作だから・・・正直・・・呪文にしておいても・・・使える人いないんじゃない?」
「それはあんたが考える事じゃないでしょ、それを言ったらね、あんたの麻酔魔法の呪文だってとてもじゃないけど使えないじゃない」
「だから難しいって言ったでしょ」
「それにしてもよ」
「あんたはだって使えるようになったじゃない」
「私はね、でも、他の人が使えないんじゃ意味ないの」
「それはわかるけど・・・だったらあんたが織り直せばいいのよ、私に頼らないで」
「無理」
「あんたなら簡単でしょ」
「めんどい」
「もう・・・なに?人にそのめんどうを押し付けるつもり?」
「そのつもり、いい?あんたもね、いい加減に本気で動きなさい」
「またそれ・・・」
「またってなによ」
「昨日も似たような事言われたのよ、学園長とか事務長さんとか、なんとかってケイスさんの先生にも」
「・・・そうなの?」
「そうよー、治療魔法だの麻酔魔法だの教えてくれって」
「・・・で、どう答えたのよ?」
「・・・なんか有耶無耶になった・・・」
「なにそれ?」
「ラインズが突っ込んできたのよ」
「あっ・・・それ、なんか聞いたかな?」
「そうね、話したでしょ、それで、時間も無かったし・・・」
「・・・そっ、で、どうするの?」
腕を組み、ムッとソフィアを睨むユーリ、ユーリの感触ではどうやらソフィアも少しばかり前向きに考えているように感じられる、
「そうねー・・・まぁ・・・暇潰し程度であればいいかなーって思ってるかなー」
フーと鼻息を荒くし、視線を逸らせるソフィア、
「それでいいのよー」
ユーリがニマーと微笑む、すると、
「やっぱ、ヤダ」
「アン?」
「なんかムカつく」
「ちょ、ガキみたいな事言うんじゃないわよ」
「ガキで結構よ」
「この・・・あんたねー」
いよいよユーリが肩を怒らせた瞬間、
「あっ、いたー、なんだよ二人揃って丁度良い」
能天気な大声が講堂に響く、ラインズであった、ニコニコと大量の黒板を抱えて二人に近付いてきており、ウゲッと同時に呻いたソフィアとユーリであった。
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彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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