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本編
82話 雪原にて その40
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それからあっという間に夜となった、タロウが疲れたなーと溜息をついて暗い階段を下りる、会議を終え、その内容に疲弊し、戦死者を悼みつつ一つの案を提示した、それゆえに夕食を済ませた後で打合せが必要となっている、それもまた気が思い原因とはなっていた、しかし一階の食堂から届く灯りにホッとし、少しばかり安堵すると、やはり戦闘行為は性に合わないなと考えてしまう、バタバタと忙しくしていた時はまだよかったが、こうして唐突に一人になるとどうしても考えてしまうもので、特に帝国兵の恨みがましい目や様々な種類の叫び声がどうしても脳裏に浮かぶ、できるだけ殺したくないと手加減したつもりであったが、クロノスとゲインの隣りに立てばそのような配慮を敵兵が理解できた筈も無く、ただただ己らを殺しに来た規格外の存在に見えたであろう、無論、それを意図してもいる、今回の戦争、タロウとしては国と国との利害云々もあるが、やはりまずは互いを知り認識を定める事が肝要と考えそのように進言してきたつもりであった、ここ二日間の何とも奇妙な合戦がその成果であり、ボニファースも他の軍団長らもある程度理解したうえで受け入れている様子である、しかしながら自分が介在しない本来の戦争となればどうなっていたのであろうかとも考えてしまう、もしかしたら帝国軍は冬の進軍を取り止め湖の要塞から西には進軍しなかったかもしれない、その場合、合戦の時期は春か夏であったろうか、何も性急に戦場を設定する必要も無かったかなとも思うが、それはそれで今度は王国側が大きな不利となったであろう、西の蛮族と南の都市国家の問題が現時点で発生しており、そちらはまだ大きな紛争には至っていないが、この先どうなるかはわからない、それらもまた春か夏に本格的な軍事行動が必要となると軍団長らは考えているらしい、となると王国は三方から攻められることとなり、とてもではないが耐えられなかったかもしれない、いや、耐えたとしても恐らくこのモニケンダムという名の街は帝国に支配されていたものと思うし、となれば王国としてはより苛烈な戦争へと突入していたかもしれない、すべてがたらればでしかなかったが、自分がここまで口を出して王国としては幸いであったのかどうかだけは悩む必要があるとタロウは考える、自分を疑えない者は愚かである、タロウはそう考えていた、
「戻ったよー」
タロウはあっさりと暗い思考を切り上げ、光柱の灯りに包まれた食堂へ入った、
「お疲れ様です」
「お疲れ様ー」
生徒達の笑顔に笑顔で返すタロウ、
「夕食は?」
ソフィアがいつもの席で腰を上げる、
「ん、あれば欲しいけどある?」
「あるわよー」
そのまま厨房へ入るソフィア、ティルがその後を追ったようで、ありがとうと一声かけるタロウである、そしてやれやれといつもの場所に腰を下ろす、ミナはもう寝台でスースーと寝息を立てており、ハナコがその顔の横で丸くなっていた、レインはいつも通り姿が無い、丁度テラ達が入浴を済ませた所のようで、あっお疲れ様ですと食堂へ入って来た、
「お疲れさまー」
ニコーと微笑むタロウ、嬉しい事にこの温かい場所は普段通りのようであった、
「あっ、あんたね、あの血液の話、もっと詳しく教えなさい」
腰を落ち着けた瞬間にユーリがズイッと身を乗り出す、
「詳しくって・・・あそこで話したので手一杯だよ、俺は医者じゃないんだから」
「それは理解しているわよ、でもね、どうせあれでしょ、アンタの事だから他にもなにかあるんでしょ」
ギロリと睨みつけるユーリ、カトカとサビナ、ゾーイも確かにと身を乗り出す、
「いや、そんな事言われてもさ・・・あっ、それよりね」
タロウはめんどくさいなと苦笑しつつ懐に手を突っ込むと、
「どうしようかな・・・ここはユーリでいいか・・・」
とその眼前にガチャリとやたらと豪華な革袋を置いた、ムッとそれを睨みつけるユーリ、ゾーイはアッと何やら気づき、さて次は私達がお風呂だなーと腰を上げたジャネットらも中腰で固まってしまう、
「・・・なにこれ?」
「報酬?昨日の?」
何故か疑問形で答えるタロウ、
「あー・・・あれの?」
「あれの」
「へー、エッ、でもやたらと豪勢ね」
ムーと眉根を寄せてその豪華な革袋を手にするユーリ、しかしすぐにこれはと目を丸くし中身を確認する、
「それ・・・王家からのですよね・・・」
ゾーイがゆっくりとタロウを見つめ、王家?と振り返るエルマとニコリーネ、二人はテラとミシェレと共に暖炉の前でゴシゴシと髪を拭っていた所である、
「そだねー、仰々しいよねー」
ノホホンと微笑むタロウ、すると、
「これ、ちょっと、なにこれ?」
ユーリが目を丸くしてタロウを見つめる、
「なにって・・・報酬?」
ニコーと微笑むタロウ、
「それは分かったけど、あのね、これはアンタ・・・」
絶句するしかないユーリである、なんだなんだとカトカとサビナが首を伸ばすもユーリはサッと革袋を手で覆った、
「まぁ、少し貰い過ぎだよね」
タロウも呆れたように微笑む、そこへソフィアとティルがタロウの夕食を運んできた、ありがとうと受け取るタロウ、どうやら本日の夕食は野菜の煮物とカラアゲ、シカクパンと名を変えた食パンのようで、
「あっ、すいません、今日はなんだかんだでソウザイ店のお料理です」
ティルが申し訳なさそうに微笑む、
「いいよいいよ、忙しいのは分かってたし、どう?赤ちゃん見て来た?」
ニコリと微笑むタロウ、
「はい、ちょっと離れてですけど、可愛かったです、ちっちゃくて、真っ赤で、スヤスヤ寝てました」
ニコーと微笑むティル、そっかーと微笑むタロウ、
「良かったわね、健康そうで」
やれやれと腰を下ろすソフィア、夕食中はパトリシアとその双子の話題で持ちきりとなってしまっていた、さらにはパトリシアから顔を見に来なさいとエレインが名指しされており、勿論ですと笑顔になるエレイン、ティルは戻り次第段取りを組みますと笑顔で応じている、
「そうみたいだねー、まぁ、姫様だしねー」
「パトリシア様だしねー」
微笑み合う夫婦、だからその妙な信頼感はなんなんだとティルは思うも、悪い感情ではなさそうだし、なんとなく理解できるなかもなとほくそ笑んでしまう、
「それよりこっちよ、なんなのよ」
ムッと口を挟むユーリ、
「なんなのって・・・そのままだよ」
さてとパンに手を伸ばすタロウ、タロウも何気に空腹感が強かった、昼頃ティルが買って来た蒸しパンを頬張ってはいたがやはり戦場に立てば疲れるもので、而してその蒸しパン、あっこれは酵母を使ったちゃんとした蒸しパンだと感心してしまっている、そこまでは教えていなかったと思うが、どうやらマンネルが工夫したのであろう、やっぱり大したものだなーとその柔らかい食感を楽しんだタロウであった、
「そのままって・・・貰い過ぎよ」
「そう言ったよ」
「誰によ?」
「陛下?」
「陛下って・・・簡単に言わないでよ」
「何の話よ」
ソフィアがユーリを横目で睨み、ユーリが手にした革袋をソフィアに押しやった、なにこれとあっさりと中身を確認するソフィア、ゲッと呻いて、
「またこんな使いにくいもので・・・」
と目を細める、
「そうなんだよなー、あの人らやっぱりどっかズレてるよね」
カラアゲを飲み込んで口を開くタロウ、
「だから、なんなんですか・・・っていうか、お金ですよね」
カトカがめんどくさいとばかりに口を挟む、生徒達もいよいよ身を乗り出してしまっている、
「そだねー、まぁ、ハッキリ言うけど、一人辺り金貨一枚かな、で、余ったら寮で使えってさ」
ヘッと静まる女性達、
「余ったらって・・・なに、適当?」
「そういうものみたいよ」
「そんなんでいいの?」
「知らないよー、ほら、妙に機嫌良かったしさ、陛下ってば・・・」
「そりゃ、だって、初孫の顔を見て来たんでしょ?」
「そだねー」
「機嫌も良くなるでしょうけど・・・」
「そだねー」
「だからってねー・・・」
「いいじゃん別に、くれるっていうんだもん、貰っとけば、ほら、軍団長さん達もね、良いものを作ってくれたって大絶賛でさ、あっ、大量生産して欲しいって事なんだけど、結局どうする?」
タロウがユーリに視線を向ける、
「それはだから、北ヘルデルでやればいいわよ」
「そう?じゃ、クロノスかリンドさんと話してよ、仕組み云々は説明してないからさ」
「わかったわよ・・・」
「あっ、であれば、店でも使いたいんですけどどうですか?」
テラが話しにのっかってきた、
「お店?」
「はい、事務所と店を繋いで、あと、職人さんの工場にもあったら嬉しいって、リノルトさんとバーレントさんも言ってました」
「ありゃ・・・見せたの?」
「見せたも何もミナちゃんが遊び道具にしてましたから・・・」
呆れたように微笑むテラ、確かにとニコリーネとミシェレとエルマが頷き、
「夕食前も遊んでました」
「うん、面白かった」
サレバとコミンが微笑む、
「そっか、まぁ、そうだよねー」
まぁいいかと微笑むタロウ、
「じゃ、こっちでも作れば?」
「簡単に言うわねー・・・それでもいいけど、実際作ってるし、ゾーイどんなもん?」
「あっ、はい、一応、一対多のやつ作ってみました、まだ実験してないですけど」
「ありゃ速いねー、どう?」
「ですからまだです」
「そっか、あれもあれで使いようだと思うけど」
「それよりこっちよ」
ムーと眉を顰めるソフィア、アッとソフィアを見つめるタロウと女性達、
「で、どうするの?こんなに?」
「どうするって言われても・・・ほら、突っ返す訳にはいかないし?君らには報酬払うって言っちゃたし?だからリンドさんが気を利かせたらしい?・・・そんな感じ?」
「そんな事聞いてないでしょ」
「そう?」
「そうよ、でも・・・まぁ、確かに一人一枚ずつで、さらにもう少し余る感じかしら」
ジャラッと革袋を持ち上げるソフィア、中には鈍く輝く金貨が30枚は入っていた、これだけでも一財産と言える金額で、なるほど、一人当たり一枚配ってもまだ余る数である、
「せっかくだからね、寮の何かに使っても良いし・・・あっ、あれだ、寮母さんとか監督役の先生に預けて上手い事使えば?」
なによその言い草はと、その寮母であるソフィアと監督役であるユーリがギロリとタロウを睨みつけ、思わず苦笑する生徒達と大人達、
「でも配っても・・・いや、それがいいのかしら・・・」
しかしすぐに首を傾げるソフィア、正直な所、平民としては金貨は実に使いにくい、価値があるのは理解しているし誰もが欲しい物はと問われれば、いの一番に口にする存在であるが、実際に手にしてみると何とも難しいのである、ソフィアとユーリはそれを心底理解しており、それ故にソフィアは妙に金貨やら報酬やらを毛嫌いし、タロウはタロウでそんなものは何とでもどうとでもなるという考え方なものだから、なんとも実にめんどくさい三人であったりする、
「・・・そこまでの金額ですと・・・」
「ですねー、個人で持つのはちょっと・・・」
テラとエルマが顔を見合わせる、二人としても金貨は勿論貰えるのであれば貰っておいた方が良いとの考えではあるが、何気に二人供にまずお金を使う事が極端に少なかった、なにせ毎朝毎晩食事は用意されており、快適な個人部屋迄ある始末、さらには仕事も充実しているものだから、何の不満も無い、あっこれこそ贅沢な環境だとエルマは最近気付いていたりする、
「ですねー・・・」
ニコリーネも同意のようで、しかしミシェレはそうなんだーと一人なんとも理解が及んでいない、まずもってミシェレは金貨等見た事も無い、それ故にユーリらの話についていけていない感があり、これはグルジア以外の生徒達も同様である、金貨とは平民にとってはまず扱う事の無い硬貨なのである、
「じゃ・・・どうしようかな、あれだ、半分は・・・あっ、でも商会に預けるってのも違うのか」
「それは違いますね」
「駄目ですよ」
即座に答えるテラとエレイン、そうよねーとソフィアは首を傾げ、
「・・・まったく、これだからお金は嫌なのよ、ユーリ、あんたなんとかしなさい」
ガッとユーリに押し付けるソフィア、
「ちょ、なによそれ」
「めんどいの」
「そりゃ・・・そうだろうけど、だったら、タロウ、返す」
ガッとタロウに差し戻すユーリ、
「えー・・・渡したのを返すなよ」
「受け取ってないわ」
「それは嘘ださ」
「嘘じゃないわよ、中身が分からないものを押し付けられただけ」
「いやいや、その理屈は・・・まぁ、そうだろうけど・・・じゃ・・・どうしようかな・・・」
シカクパンをむしりつつタロウは首を傾げ、
「あー・・・あれは?新しい屋敷でも買う?」
ヘッ?とタロウを見つめる女性達、
「ほら・・・いや、それも違うのかな?ミーンさんがさ、なんか苦労している感じで・・・あっ、思い出した、ティルさんね、今日の事、報告書には絶対書くなってクロノスが言ってたぞ」
エッと絶句するティル、また話しが変わったぞとティルを見つめる女性達、
「・・・それは・・・はい、あれの事ですよね・・・書くなと言われれば・・・はい・・・っていうか別に・・・必要無いかと思いますけど・・・」
「うん、それでいい、クロノスがまた姫様に怒られちゃうからさ」
「・・・またって、前もあったんですか?」
「みたいだよー」
「そう・・・なんだ、はい、確かに、了解しました」
「宜しく」
ニコリと微笑むタロウ、すっかり忘れていたと苦笑するティル、恐らくタロウの指摘が無ければ思い出すことも無かったかもしれない、しかし、
「なに?なにかあった?」
ユーリが俄然元気になった、
「うん、どうかしたの?クロノス様?」
ジャネットもニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる、
「あー・・・もう、タロウさんが変な事言うからー」
アセアセと誤魔化すティル、
「えっ、俺のせい?」
「ですよー、黙ってればいいのにー」
「えー・・・だってさー・・・」
「だからなに?」
「なに?」
爛々と輝く瞳がティルに向けられ、これだからーと顔を顰めるティル、藪蛇だったと俯いて食事に集中するタロウであった。
「戻ったよー」
タロウはあっさりと暗い思考を切り上げ、光柱の灯りに包まれた食堂へ入った、
「お疲れ様です」
「お疲れ様ー」
生徒達の笑顔に笑顔で返すタロウ、
「夕食は?」
ソフィアがいつもの席で腰を上げる、
「ん、あれば欲しいけどある?」
「あるわよー」
そのまま厨房へ入るソフィア、ティルがその後を追ったようで、ありがとうと一声かけるタロウである、そしてやれやれといつもの場所に腰を下ろす、ミナはもう寝台でスースーと寝息を立てており、ハナコがその顔の横で丸くなっていた、レインはいつも通り姿が無い、丁度テラ達が入浴を済ませた所のようで、あっお疲れ様ですと食堂へ入って来た、
「お疲れさまー」
ニコーと微笑むタロウ、嬉しい事にこの温かい場所は普段通りのようであった、
「あっ、あんたね、あの血液の話、もっと詳しく教えなさい」
腰を落ち着けた瞬間にユーリがズイッと身を乗り出す、
「詳しくって・・・あそこで話したので手一杯だよ、俺は医者じゃないんだから」
「それは理解しているわよ、でもね、どうせあれでしょ、アンタの事だから他にもなにかあるんでしょ」
ギロリと睨みつけるユーリ、カトカとサビナ、ゾーイも確かにと身を乗り出す、
「いや、そんな事言われてもさ・・・あっ、それよりね」
タロウはめんどくさいなと苦笑しつつ懐に手を突っ込むと、
「どうしようかな・・・ここはユーリでいいか・・・」
とその眼前にガチャリとやたらと豪華な革袋を置いた、ムッとそれを睨みつけるユーリ、ゾーイはアッと何やら気づき、さて次は私達がお風呂だなーと腰を上げたジャネットらも中腰で固まってしまう、
「・・・なにこれ?」
「報酬?昨日の?」
何故か疑問形で答えるタロウ、
「あー・・・あれの?」
「あれの」
「へー、エッ、でもやたらと豪勢ね」
ムーと眉根を寄せてその豪華な革袋を手にするユーリ、しかしすぐにこれはと目を丸くし中身を確認する、
「それ・・・王家からのですよね・・・」
ゾーイがゆっくりとタロウを見つめ、王家?と振り返るエルマとニコリーネ、二人はテラとミシェレと共に暖炉の前でゴシゴシと髪を拭っていた所である、
「そだねー、仰々しいよねー」
ノホホンと微笑むタロウ、すると、
「これ、ちょっと、なにこれ?」
ユーリが目を丸くしてタロウを見つめる、
「なにって・・・報酬?」
ニコーと微笑むタロウ、
「それは分かったけど、あのね、これはアンタ・・・」
絶句するしかないユーリである、なんだなんだとカトカとサビナが首を伸ばすもユーリはサッと革袋を手で覆った、
「まぁ、少し貰い過ぎだよね」
タロウも呆れたように微笑む、そこへソフィアとティルがタロウの夕食を運んできた、ありがとうと受け取るタロウ、どうやら本日の夕食は野菜の煮物とカラアゲ、シカクパンと名を変えた食パンのようで、
「あっ、すいません、今日はなんだかんだでソウザイ店のお料理です」
ティルが申し訳なさそうに微笑む、
「いいよいいよ、忙しいのは分かってたし、どう?赤ちゃん見て来た?」
ニコリと微笑むタロウ、
「はい、ちょっと離れてですけど、可愛かったです、ちっちゃくて、真っ赤で、スヤスヤ寝てました」
ニコーと微笑むティル、そっかーと微笑むタロウ、
「良かったわね、健康そうで」
やれやれと腰を下ろすソフィア、夕食中はパトリシアとその双子の話題で持ちきりとなってしまっていた、さらにはパトリシアから顔を見に来なさいとエレインが名指しされており、勿論ですと笑顔になるエレイン、ティルは戻り次第段取りを組みますと笑顔で応じている、
「そうみたいだねー、まぁ、姫様だしねー」
「パトリシア様だしねー」
微笑み合う夫婦、だからその妙な信頼感はなんなんだとティルは思うも、悪い感情ではなさそうだし、なんとなく理解できるなかもなとほくそ笑んでしまう、
「それよりこっちよ、なんなのよ」
ムッと口を挟むユーリ、
「なんなのって・・・そのままだよ」
さてとパンに手を伸ばすタロウ、タロウも何気に空腹感が強かった、昼頃ティルが買って来た蒸しパンを頬張ってはいたがやはり戦場に立てば疲れるもので、而してその蒸しパン、あっこれは酵母を使ったちゃんとした蒸しパンだと感心してしまっている、そこまでは教えていなかったと思うが、どうやらマンネルが工夫したのであろう、やっぱり大したものだなーとその柔らかい食感を楽しんだタロウであった、
「そのままって・・・貰い過ぎよ」
「そう言ったよ」
「誰によ?」
「陛下?」
「陛下って・・・簡単に言わないでよ」
「何の話よ」
ソフィアがユーリを横目で睨み、ユーリが手にした革袋をソフィアに押しやった、なにこれとあっさりと中身を確認するソフィア、ゲッと呻いて、
「またこんな使いにくいもので・・・」
と目を細める、
「そうなんだよなー、あの人らやっぱりどっかズレてるよね」
カラアゲを飲み込んで口を開くタロウ、
「だから、なんなんですか・・・っていうか、お金ですよね」
カトカがめんどくさいとばかりに口を挟む、生徒達もいよいよ身を乗り出してしまっている、
「そだねー、まぁ、ハッキリ言うけど、一人辺り金貨一枚かな、で、余ったら寮で使えってさ」
ヘッと静まる女性達、
「余ったらって・・・なに、適当?」
「そういうものみたいよ」
「そんなんでいいの?」
「知らないよー、ほら、妙に機嫌良かったしさ、陛下ってば・・・」
「そりゃ、だって、初孫の顔を見て来たんでしょ?」
「そだねー」
「機嫌も良くなるでしょうけど・・・」
「そだねー」
「だからってねー・・・」
「いいじゃん別に、くれるっていうんだもん、貰っとけば、ほら、軍団長さん達もね、良いものを作ってくれたって大絶賛でさ、あっ、大量生産して欲しいって事なんだけど、結局どうする?」
タロウがユーリに視線を向ける、
「それはだから、北ヘルデルでやればいいわよ」
「そう?じゃ、クロノスかリンドさんと話してよ、仕組み云々は説明してないからさ」
「わかったわよ・・・」
「あっ、であれば、店でも使いたいんですけどどうですか?」
テラが話しにのっかってきた、
「お店?」
「はい、事務所と店を繋いで、あと、職人さんの工場にもあったら嬉しいって、リノルトさんとバーレントさんも言ってました」
「ありゃ・・・見せたの?」
「見せたも何もミナちゃんが遊び道具にしてましたから・・・」
呆れたように微笑むテラ、確かにとニコリーネとミシェレとエルマが頷き、
「夕食前も遊んでました」
「うん、面白かった」
サレバとコミンが微笑む、
「そっか、まぁ、そうだよねー」
まぁいいかと微笑むタロウ、
「じゃ、こっちでも作れば?」
「簡単に言うわねー・・・それでもいいけど、実際作ってるし、ゾーイどんなもん?」
「あっ、はい、一応、一対多のやつ作ってみました、まだ実験してないですけど」
「ありゃ速いねー、どう?」
「ですからまだです」
「そっか、あれもあれで使いようだと思うけど」
「それよりこっちよ」
ムーと眉を顰めるソフィア、アッとソフィアを見つめるタロウと女性達、
「で、どうするの?こんなに?」
「どうするって言われても・・・ほら、突っ返す訳にはいかないし?君らには報酬払うって言っちゃたし?だからリンドさんが気を利かせたらしい?・・・そんな感じ?」
「そんな事聞いてないでしょ」
「そう?」
「そうよ、でも・・・まぁ、確かに一人一枚ずつで、さらにもう少し余る感じかしら」
ジャラッと革袋を持ち上げるソフィア、中には鈍く輝く金貨が30枚は入っていた、これだけでも一財産と言える金額で、なるほど、一人当たり一枚配ってもまだ余る数である、
「せっかくだからね、寮の何かに使っても良いし・・・あっ、あれだ、寮母さんとか監督役の先生に預けて上手い事使えば?」
なによその言い草はと、その寮母であるソフィアと監督役であるユーリがギロリとタロウを睨みつけ、思わず苦笑する生徒達と大人達、
「でも配っても・・・いや、それがいいのかしら・・・」
しかしすぐに首を傾げるソフィア、正直な所、平民としては金貨は実に使いにくい、価値があるのは理解しているし誰もが欲しい物はと問われれば、いの一番に口にする存在であるが、実際に手にしてみると何とも難しいのである、ソフィアとユーリはそれを心底理解しており、それ故にソフィアは妙に金貨やら報酬やらを毛嫌いし、タロウはタロウでそんなものは何とでもどうとでもなるという考え方なものだから、なんとも実にめんどくさい三人であったりする、
「・・・そこまでの金額ですと・・・」
「ですねー、個人で持つのはちょっと・・・」
テラとエルマが顔を見合わせる、二人としても金貨は勿論貰えるのであれば貰っておいた方が良いとの考えではあるが、何気に二人供にまずお金を使う事が極端に少なかった、なにせ毎朝毎晩食事は用意されており、快適な個人部屋迄ある始末、さらには仕事も充実しているものだから、何の不満も無い、あっこれこそ贅沢な環境だとエルマは最近気付いていたりする、
「ですねー・・・」
ニコリーネも同意のようで、しかしミシェレはそうなんだーと一人なんとも理解が及んでいない、まずもってミシェレは金貨等見た事も無い、それ故にユーリらの話についていけていない感があり、これはグルジア以外の生徒達も同様である、金貨とは平民にとってはまず扱う事の無い硬貨なのである、
「じゃ・・・どうしようかな、あれだ、半分は・・・あっ、でも商会に預けるってのも違うのか」
「それは違いますね」
「駄目ですよ」
即座に答えるテラとエレイン、そうよねーとソフィアは首を傾げ、
「・・・まったく、これだからお金は嫌なのよ、ユーリ、あんたなんとかしなさい」
ガッとユーリに押し付けるソフィア、
「ちょ、なによそれ」
「めんどいの」
「そりゃ・・・そうだろうけど、だったら、タロウ、返す」
ガッとタロウに差し戻すユーリ、
「えー・・・渡したのを返すなよ」
「受け取ってないわ」
「それは嘘ださ」
「嘘じゃないわよ、中身が分からないものを押し付けられただけ」
「いやいや、その理屈は・・・まぁ、そうだろうけど・・・じゃ・・・どうしようかな・・・」
シカクパンをむしりつつタロウは首を傾げ、
「あー・・・あれは?新しい屋敷でも買う?」
ヘッ?とタロウを見つめる女性達、
「ほら・・・いや、それも違うのかな?ミーンさんがさ、なんか苦労している感じで・・・あっ、思い出した、ティルさんね、今日の事、報告書には絶対書くなってクロノスが言ってたぞ」
エッと絶句するティル、また話しが変わったぞとティルを見つめる女性達、
「・・・それは・・・はい、あれの事ですよね・・・書くなと言われれば・・・はい・・・っていうか別に・・・必要無いかと思いますけど・・・」
「うん、それでいい、クロノスがまた姫様に怒られちゃうからさ」
「・・・またって、前もあったんですか?」
「みたいだよー」
「そう・・・なんだ、はい、確かに、了解しました」
「宜しく」
ニコリと微笑むタロウ、すっかり忘れていたと苦笑するティル、恐らくタロウの指摘が無ければ思い出すことも無かったかもしれない、しかし、
「なに?なにかあった?」
ユーリが俄然元気になった、
「うん、どうかしたの?クロノス様?」
ジャネットもニヤリと嫌らしい笑みを浮かべる、
「あー・・・もう、タロウさんが変な事言うからー」
アセアセと誤魔化すティル、
「えっ、俺のせい?」
「ですよー、黙ってればいいのにー」
「えー・・・だってさー・・・」
「だからなに?」
「なに?」
爛々と輝く瞳がティルに向けられ、これだからーと顔を顰めるティル、藪蛇だったと俯いて食事に集中するタロウであった。
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-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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