セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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82話 雪原にて その42

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そこへ、

「おう、向こうはどんなもんだ」

ノソリとクロノスが顔を出しイフナース、リンド、トーラー、ロキュスの姿もある、ルーツの部下達がザッと立ち上がって腰を折り、クロノスはめんどくさいとばかりに手で制する、ルーツの部下達は四人の為にタロウとルーツが囲む湯沸し器の周りを空け、別の湯沸し器へと移動する、おはようさんと振り返るタロウとルーツ、

「取り合えず準備中みたいだなー」

ルーツが片目を閉じて帝国軍を見つめる、それでルーツの得意技が発動する事は無いが、部下の一人が帝国軍側の開口部に張り付いており、監視中なのであろう、スッと振り返りコクリと頷いた、

「そっか、流石にまだ粘るかー」

やれやれと腰を下ろすクロノス、イフナース他も寒いのうと呟きつつ腰を下ろした、

「で、どうよ、親父になった気分は?」

「おう、それよ、親父と叔父さんか」

タロウがニコリと微笑みルーツはニヤーとほくそ笑む、

「別にどうってことはねぇよ・・」

「叔父さんなー・・・」

クロノスはギンと二人を睨みつけ、イフナースは大きく溜息をついた、苦笑するリンドとトーラー、

「いやいや、これからですぞ、これから」

嬉しそうに微笑むロキュス、ルーツの部下達も優しい笑みで二人を見つめてしまう、

「そりゃそうだろうがよ・・・今のところは・・・っていうかさ、お前の入れ知恵でめんどくさい事になってんだよ」

ムッとタロウを睨むクロノス、

「なにが?」

「なにがじゃねぇ、いくらなんでもあれはやり過ぎだ、向こう五日は会わせられねぇとか言い出してよ、ガキの部屋にも入れねぇんだよ俺は」

フンヌと鼻息を荒くするクロノス、タロウはありゃまと目を丸くし、

「へー・・・それでいいんじゃないの?」

「良くねぇよ」

「そうか?」

「だってお前よ、俺のガキだぞ、それがあれだ・・・それこそ、お前、昨日少し会ってよ、軽く抱いたらはいおしまいとか言われてさ、で、侍医の野郎が乳母やらメイド達に何やら吹き込んでよ、昨日やっとゆっくり顔を見れると思ったら、暫く駄目ですとか言われてさ」

「それはお前、お前も一緒に聞いてたろうが」

ムッとタロウはクロノスを睨みつける、赤子の衛生管理についてタロウは知る限りを侍医に話しており、それはクロノスとイフナース、ボニファースとロキュスも側に居て聞いていた筈である、いや、ボニファースとロキュスは入浴中であったかもしれないが、侍医はなるほどと真剣に聞き取っており、どうやら言われた通りに実行しているらしい、侍医としても赤子の死亡率の高さは問題であると考えていたようで、王国では赤子は死ぬものと諦めている節があるが、やはり王家に雇われる程の医者となれば意識も高いのであろう、防げるのであれば防ぎたいと心底考えている様子であった、

「そうだがさ、まさか・・・なー」

クロノスがイフナースに同意を求め、

「まずな、少々過保護に過ぎるとは思うが・・・」

めんどくさそうに目を細めるイフナース、正直知った事では無かったりする、いや、単純に実感が無いのである、それもそうであろう、自分の子供であればまだしも、甥と姪である、まぁ確かに可愛らしいとは思ったものであるが、だからといって特段大きな感慨は無い、それ以上に叔父さんだ叔父さんだと家族にはからかわれ、ならお前は叔母さんで、お前らはばーさんじゃねぇかと言い返したらその通りだと胸を張られ、二の句を告げなかったイフナースである、

「過保護くらいでいいんだよ、ついさっきまで母親の腹の中にいたんだぞ、それが急に外に出てくるとな、危険やら汚いものやらでいっぱいなんだから、慣れるまで、というかあれだ、赤子がな、外の空気に慣れるまでは気を使ってやる必要があるんだよ」

「そういうもんなのか?」

何故かルーツが感心しており、ゲインも珍しく興味があるのか首を伸ばした、

「そういうもんだ、それだけ、ほら、腹の中ってのは守られているって事でもあって、まぁ、人体の神秘ってやつだ・・・しかし、あっ、姫様はどうよ?なんかスゲー安産だったんじゃないの?」

そう言えばと話題を変えるタロウ、確か昨日聞いた限りでは朝早くに陣痛を迎え、午前の中頃には出産していたようで、初産としては大変に順調であったようだ、聞く限り初産となれば難産になるもので下手したら数日かかる事もある、まして王国の医療技術では出産時の呼吸法であるとか、対処方とかもそれほど発達していないと思われ、しかしそれでもしっかりと人は生まれて成人になっている、となれば王国独自の技術というべきか、産婆や医者達の経験が活かされているとも思うが、それがあったとしてもパトリシアの出産はあっさりとしたものであったと思われる、

「それよ、パトリシアがまぁ元気でさ」

「だなー、少しは疲弊するものかと思うが・・・」

「普段通りでしたな」

クロノスとイフナースが呆れたように首を傾げ、ロキュスが楽しそうに微笑む、リンドも優しい笑顔であった、

「ほれ、持って行った蒸しパンやらコウボパンやら、カラアゲやらをさ」

「おう、それこそムシャムシャやり始めてよ」

「あらま・・・」

「普通は食べられないって乳母も産婆も医者も驚いてたな」

「なー・・・」

「やっぱり、お前の姉はどっか違うぞ」

「おめーの嫁だろうがよ」

「お前はあれと血が同じだろ」

「いや、あれと一緒にするな、畑が違う」

「あっ・・・そっか、そういう事もあるか」

「そういう事だ」

フンヌと鼻を鳴らすイフナース、確かになーと納得するクロノスである、パトリシアの母親は今は亡き第一王妃のクサンドラであり、イフナースの母親は第二王妃のエフェリーンである、無論父親は共通しているのであるが、あぁそういうもんなんだとタロウも察した、タロウとしても確かに同じ血だなと微笑んでしまったのだが、一転なるほど、一夫多妻となるとこのような掛け合いになるのかと目から鱗と感心する、何せ一夫一妻制であれば畑が違うとなればそこにあるのは微妙で複雑な事情であり、場合によっては秘する必要もあるもので、それを逆に笑い話にして問題とならないのは興味深い現象かもなと微笑んでしまった、

「で、どうよ、我が息子と我が娘はよ」

ニヤーとルーツがクロノスに微笑む、

「しつこいな、どうってことは無いよ」

「そうか?」

「そういうお前こそ・・・あっちこっちで種蒔きやがって、どうなってるんだよ」

目を細めるクロノス、エッそうなのとタロウとイフナースがルーツを見つめ、リンドやロキュスもこれはまたと目を丸くする、

「お前、それは言わない約束だろうが」

憤然と叫ぶルーツ、

「なんの約束だよ」

「言ったろうがよ」

ギャーとルーツが叫ぶももう後の祭りである、ルーツの部下達もどういう事かとルーツを見つめており、クロノスはニヤーと微笑むと、

「ほれ、こいつの子供嫌いは筋金入りだがよ、女好きも筋金入りでな」

乱暴な口調になるクロノス、冒険者時代に戻ったようだと微笑んでしまうタロウ、

「いいだろがよ」

「あぁ、かまわん、で、全ての街に女とガキを作る計画はどうなったよ」

ニヘーと微笑むクロノス、

「だから、それはだな」

「順調なんだろ?」

「そりゃ・・・そうだがさ・・・」

「大したもんだ」

イフナースが素直に感嘆し、ロキュスとリンド、トーラーも感心してしまっている、

「いやいや、そんなまともに受け取らんでください、ほれ、あくまでほら、男の武勇伝ってやつでして」

アセアセと誤魔化すルーツ、

「いやいや、その武勇伝を実現させるんだからよ、やっぱお前は大したもんだよ」

ニヤニヤと続けるクロノス、いやだからよとルーツは反論しようとするも黙り込む、

「まぁ・・・いいか、戯言はここまでだな、で、どうしようって?」

クロノスが嫌らしい笑みを押さえ、スッと背筋を伸ばした、オッとリンドらが居住まいを正し、イフナースは若干つまらなそうに顔を顰める、もう少し馬鹿話がしたかったのであろう、ルーツはあからさまに安堵している、

「ん、昨日策定したんだが、昨日の黒板あるかな・・・」

タロウが振り返るとルーツの部下が数枚の黒板をすぐに手渡した、どうやら準備していたらしい、そういえばヒデオンさんがいないなと気付くタロウ、まぁ休憩中なのであろうなと察し、

「でだ、陛下も容認して頂けたようだから、今日はね、こっちの被害は無い・・・と思う・・・そうしたい・・・って感じかな・・・で、いよいよ殿下の御活躍となるんだけど・・・」

その黒板を確認しつつタロウはボリボリと頭をかいた、

「そのようですな・・・」

ニコニコと前のめりになるロキュス、トーラーとリンドも固い面相となる、その計画は昨晩タロウとルーツによって練られたものとなる、ボニファースらが北ヘルデルから荒野に戻った後、初日同様に会議が持たれ、その場でタロウが進言し、ボニファースが認めた事によって実現する運びとなった、タロウとしてはここまでしなくても良いかなと青写真は描いていたのであるが、昨日の王国軍の被害はやはり想定以上であり、帝国軍の実力を見せられた形となっている、もし完全な五分の状態、つまりはタロウが帝国の侵攻を王国側に伝えず、また帝国側も王国の奸計に嵌る事が無かったとしたら、なるほどこうなるのであろうなと察せられる被害であった、また結界魔法やら魔法部隊やらの活用もあるにはあるが、それであっても拮抗以下の状況となるであろう、つまりは単純な兵と兵とのぶつかり合いでは帝国側が明確に優っているのである、重装歩兵の存在も大きいであろうが、他の一般の兵士もまた精強であった、初日の不調は一体なんだったのかと思う程の苛烈ぶりであり、常に前線にあったクンラートは会議中終始憤っており、カラミッドが慌てて諫める程であった、

「で・・・あー・・・お前はどうする?」

タロウがルーツに問いかける、

「ヘッ?あぁ、まぁ・・・ここでやれればと思うがな・・・」

「大丈夫?」

「多分なー、まぁここまで大規模なものをやったことは無いが・・・何かあってもここでなら死ぬこともないからな」

ルーツがやれやれと腕を組んだ、どういう事かとロキュスらの目が光り、ルーツの部下達は変わらず無言である、

「なら頼む、となると俺もここにいた方がいいのかな?」

「そうなる、少しでも楽をしたい」

「了解、で、策としては難しくないですね、こちらを確認下さい」

タロウが黒板の一つを男達へと向けた、ズイッと顔を寄せる男達、

「で、肝としてはですね、いよいよ殿下を英雄にするべきといった感じになりますが・・・まぁ布陣は昨日同様、で・・・やはり問題は・・・」

「俺だろ?」

スッと顔を上げるイフナース、

「そうなります、以後・・・クロノス以上に恐れられる存在になるかもしれません、なので、もしあれでしたらリンドさんかアフラさん、無論、俺でもユーリかソフィアでも代替は可能です」

「フン、今更なんだ」

ジロリとタロウを睨みつけるイフナース、

「覚悟はおありで?」

「当然だ、それが王家に生まれた者の使命よ、恐れられてなんぼ・・・だろ?」

イフナースがロキュスをうかがう、若干控え目に頷くロキュス、しかしその隣りのリンドは何とも渋い顔である、

「左様ですか・・・」

タロウはロキュスとリンドへ視線を向けた、二人共に思う所があるのであろう、黙したまま黒板を見つめている、共に苦悶が感じられる面相であった、

「では、まずは策を説明します、何度も言いますが、殿下でなくても遂行は可能です、その場合その者の名は秘匿するのが上策と思いますが、それはまた後の事・・・まぁ、それ以上にね、ルーツは表に出ませんし、俺も同様です、ですが・・・この策の目的はこの場の勝利だけでは無いという事を考えますと・・・やはり殿下のおでましが必要かと俺は思います、なので・・・まぁ・・・一旦説明致します、疑問点や変更点があれば逐次出して下さい」

とすっかり固い口調で続けるタロウ、大きく頷く男達であった。
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