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本編
82話 雪原にて その60
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「これがそうか・・・」
「また、派手ですな」
「はい、金糸と銀糸で縫われております」
「この蛇が帝国の象徴であったか・・・」
「ですね」
「あの巨大な蛇を見れば分かる気もするな・・・」
「確かに」
「しかし、寒さには弱い」
「致し方ないでしょうね」
「蛇だからなー」
クロノスが小さく呟く、蛇だもんなーと続くイフナース、そりゃそうだろうと他の軍団長達も笑い出した、場所は変わって別の天幕である、広く敷かれた革の敷物の上に筵が敷かれ、その上に今晩の戦利品が並べられていた、中央にドンと皇帝旗が広げられ、その周囲に皇帝の鎧であるとか、提督の鎧、また派手なだけの武具類に帝国の冠、大変に豪奢な箱も積み重ねられている、タロウがどうせだからと皇帝が休む天幕内にあった一切合切を持ち出したのであった、しっかりと精査していない為、誰もその詳細を把握していなかったが全てが全て贅を凝らした高級品である事は確定であったりする、なにしろ剣一本とってみても黄金の鞘に包まれ色とりどりの宝石がちりばめられている、実用的ではないなとクロノスが顔を顰め、タロウもそういうもんなんだろうと特に気にせずホイホイと懐に突っ込んでいたりした、
「しかし・・・何もここまで・・・」
やれやれとボニファースが苦笑する、
「そうですな・・・」
アンドリースとメインデルトも目を細めた、収奪品の質と量もそうであるが、それを持ち出して飄々としているタロウらに呆れているようで、
「まぁ、どうせだからな、ほれ、ああして皇帝も提督もいないとなれば、これらは恐らく兵士達が掻っ攫っていただろうからな、そう思えば、まだ・・・本来の所有者に返還する事もできる」
そうしようとはまるで思わないがとクロノスは続け、
「お前な・・・」
とイフナースに睨み上げられた、
「いやいや、どうしてもそうなるからねー、皇帝の天幕には金になるものがうなってるって兵士達も知ってるだろうしね、となれば、混乱しているうちに手に入れてしまおうって不届き者は発生するもんだ、それに美術品ってやつは見る人が見れば価値があるけど、知らぬ人が見ればね、それはただの金の塊でしかないからさ、だから、兵士達に持って行かれたらあっというまに溶かされちゃうよ、特にこういう代物はね、なもんでさ、こうやってちゃんとね、価値がわかる者が確保する必要があるもんなんだよー」
とタロウが見事な言い訳を口にしつつ近場の箱を開けてみた、特に意図があった訳では無い、なんとなく気になっていたのと、手持無沙汰であったからである、
「自己正当化も極まれりだな・・・」
ムスッとタロウを睨むイフナース、
「そだねー、あっ、なんだこれ・・・」
タロウはノホホンと微笑み黄金に輝くその箱から銀色に輝く布を取り上げた、
「・・・なんじゃそりゃ」
クロノスとイフナース、ボニファースも目を奪われ、となれば周囲にいた軍団長らも引き寄せられる、
「・・・あっ、凄いなこれ、銀糸の布だ・・・」
「それは見れば分る」
「ですね・・・何に使うんだ・・・これ?」
「なんだ、お前にも分らんのか」
「そりゃ・・・うん、わからん」
銀色の布を摘まみ上げ首を傾げるタロウ、こりゃまた豪勢な代物だと目を丸くするおっさん達、
「皇帝とやらに聞いてみるか?」
「だねー、まっ・・・いっか」
あっさりと箱に戻すタロウである、その中身が分からない似たような箱はさらに数十あったりする、
「するとあれですな、明日はまず、これらの支度ですか・・・」
メインデルトが顎先を撫でさする、
「その予定だ、まずは、その鎧、旗、で、あの檻もな、まるごと荷車に載せようかと考えていてな」
クロノスが腰に手を当てフンスと鼻息を荒くする、
「なるほど・・・帝国兵の慌てぶりが想像できる・・・いや、上の連中が軒並み消えたとなればそっちの方が問題か・・・」
「そこなんだよ、向こうがどう出るかわからん、ほれ、タロウがな、指揮ができる者を数名残しておかないと、それこそ混乱してどうなるかわからんと言ってな、長の付く者の半分は残してある、全員攫っても良かったのだがな、しかし統制がとれなくなった軍隊など野盗と変わらん、向こうさんにはもう数日は賢く動いてもらわんとならんからな」
「・・・なるほど・・・それもそうだな」
メインデルトがフッと顔を上げ、側で聞いていたクンラートもそこまで気を回したのかと眉を顰める、
「ですねー、秩序は大事です、特に武器を腰に下げている連中ですからね、まとまって動いてくれないと都合が宜しくない、挙句大人数ですからね」
ニヤリと微笑むタロウ、
「そういうものか・・・で、具体的にはどうやったのだ?」
ボニファースがジロリとタロウを睨みつける、あっ言ってなかったかなとタロウは首を傾げるも、他の軍団長達、クンラートも興味があるのか静かになった、
「あー・・・それはほら、イザークさんかビュルシンク閣下に」
ニコリと微笑むタロウ、しかし名指しされた二人は、
「何を言う」
「儂らは言われた通りに動いただけだ」
と同時に非難がましくタロウを睨んだ、
「・・・そうでしたっけ?」
どこまでも惚けるタロウ、
「いいから、お前が話せ」
クロノスもめんどくさいとばかりに言い放ち、使えないと断言した金ぴかに輝く剣を手にする、俺にも見せろと首を伸ばすイフナース、
「まぁ・・・そうですねー」
とタロウは解説を始めた、何のことは無い、タロウの魔法で敵陣地に忍び込み、物陰に転送陣を仕掛けると、そこからクロノスやリンド、イザークに近衛達、ルーツの部下を引き入れ、ルーツによって製作されていた陣地の配置図を頼りに眠っている皇帝と提督、その他重鎮達を捕縛しただけである、さらに一応とタロウは麻酔魔法に近い睡眠魔法を被害者達に施している、故に彼等は檻の中にあって死んだように眠っていたのである、言葉にすれば実に簡単な事であった、
「・・・それだけか?」
ムーとボニファースがタロウを睨む、
「あー・・・ほら、細々とした苦労話はそれこそイザークさんかビュルシンク閣下に」
ニコーと微笑むタロウ、
「あるのか?」
ボニファースが二人へ視線を向けた、はぁまぁと顔を見合わせる二人、そして訥々と語ったところによれば、やはり大の男を静かに運び出すことは大変に難儀であった、しかし転送陣まで戻れば大男がヌッと手を伸ばして助けてくれたらしく、その大男はゲインである、今晩最も活躍したのはあの大男であったと二人は認め、逆に下準備の方が少々手間であったとの事で、急に檻を用意しろ、それも大人数が入れる程のものとなれば難しく、結局モニケンダムで材を手配し、大急ぎで工兵達に作らせたのだとか、そうだったのかとこれにはタロウが驚いた、イザークもビュルシンクも涼しい顔であったからで、その苦労を毛ほども表に出していなかったからである、
「そうか、あの大男にもクンショウとやらを送らねばな」
ニヤリと微笑むボニファース、無論、ゲインの正体は把握している、しかし未だ会話を交わした事は無い、クロノスからはそういう男だとだけ聞いている、まぁ人それぞれだと大らかに受け止めているボニファースであった、
「ですねー、じゃ、こんなところで」
タロウはもう眠いんだけどなーと片目を閉じた、しかしおっさん共は何とも元気であった、それもそのはずで皆軍人である、その基本的な体力はすっかり怠けているタロウとは比べ物にならないと思われ、しかしもう夜も遅い、こうしている内に朝になりそうだなーと心配してしまうタロウである、
「だな、ほれ、少しでも休むべきだ、明日はもう一手間あるからな、ここで遊んで失敗しては馬鹿らしい」
クロノスもタロウに同意のようである、
「それもそうか・・・うむ、明日こそか・・・」
フヌーと鼻息を吐き出すボニファース、しかし、皇帝旗を見下ろしその足は動かない、となれば他の軍団長らも動かないもので、おいおいと目を細めてしまうタロウ、
「そう言えばだ、あのサイであったか?あの動物はどうする?」
イフナースがふと口を開いた、なんだそれはと振り返るボニファース達、
「ん、あぁ、御所望なら明日の内に捕らえるしかないかな?混乱に巻き込まれて・・・殺される事は無いとは思うけど、無事に確保できるかどうかは怪しい・・・かなー」
ムーとタロウが首を傾げる、皇帝の天幕のすぐ脇に二匹のシロサイが繋がれており、これはいいなとイフナースが目を付けるも、流石にそれは止めておけとタロウが止めたのである、単純に転送陣を潜れなさそうな巨体であり、また操り方もわからない、大人しくついてきてくれるかも怪しかった、
「あの男達はその為の奴隷なのだろう?」
「そうだけど・・・だってさ・・・」
「折角だ、サイも確保しよう」
「気持ちは分かるけど・・・」
「悪くないな・・・」
ニヤーと微笑むボニファース、でしょうと微笑むその息子、おいおいとタロウは口をへの字に曲げてしまう、先程攫ってきた人物の中に、獣の調教に長けた部族の者も数人いた、丁度いいからと皇帝達と同じ手法で運んできたのである、
「タロウ、貴様であれば何とでもなろう?」
ニヤニヤとタロウを見つめるボニファース、イフナースもまた厭らしい笑みを浮かべている、
「・・・まぁ・・・じゃ・・・少し考えます」
ここは負けるしかないかと引き下がったタロウである、しかし特に良い案は浮かばない、まぁ一眠りすれば何か思いつくかもなーと実に適当な事を考えてみる、
「しかし、そのような、奴隷までどうされるつもりで?」
アンドリースが疑問を口にする、確かにと頷く者多数、今晩のこの策はあくまで先方の首脳陣を確保し、敵軍の混乱と弱体化を図る為のものである、そのように説明されていた、
「使い出があるらしい、ほれ、あの巨大な蛇が動き出したらな、制御する者がおらんとどうにもならん」
イフナースがだろう?とタロウに確認する、あっ、確かにと気付く者多数、戦場となった焼け跡の外れ、イフナースが作った道の出入り口に二匹の大蛇がデンととぐろを巻いていた、
「ですね、それもありますし、あの人ら奴隷ですからね、なので、ほら、ここを連中が撤退するとなると彼等の扱いが悪くなることもあるかなと思いまして・・・それではあまりに忍びないとも思いまして・・・」
静かに答えるタロウ、ホウと感心するボニファース達、
「なので、ある程度落ち着いたら、どうでしょう、ちゃんと王家なり軍なりで雇ってあげる事って可能ですかね?」
どうでしょうと片眉を上げるタロウ、
「・・・それは構わんが、言葉が通じないのだろう?」
イフナースが不思議そうに問い返す、
「えぇ、そこはほれ、ちゃんと学んでもらうしかないですし、それにね、雇うのであって、奴隷ではないですから、あんなね、あからさまな首輪を着ける必要も無くなりますし、彼等にしてみれば帝国も異国です、王国に住むのとそう変わらない・・・と思いますけど、でも、そこは彼等の意志を尊重しましょう、場合によっては彼等の家族とか村ごとこっちに移り住んでもらってもいいかもですし・・・こっちとしてはほら、あのでかい蛇を何とかしてもらうのが第一かなと・・・」
「村ごと移住させるのか?そっちのが酷くないか?」
「してもいいと思いますよ、彼等の技術は並外れておりますから、下手な魔法なんかより遥かにね、希少ですし、価値があるとも思います、俺でも・・・真似できないですからね、サイにしても蛇にしても、家畜化されていない動物を操るなんて・・・ねー・・・」
「確かにそうかもしれんな」
「するとあれか、珍しい獣も連れて来るのか?他にもいると言っていたな」
クロノスが首を傾げる、
「そだねー・・・こっちではまず見ない動物ばかりだからね・・・面白いよ、すげー鼻の長い獣とか、首が異様に長い馬みたいな獣とか」
なんだそれはと目を丸くするおっさん達、
「あっ、もしかしたらだけど、魔物とかも飼い慣らせるかも・・・ゴブリンとか知恵のあるやつは難しいだろうけど・・・知恵の無い魔物とかはどうなんだろう・・・起きたら聞いてみようか、スライムとか手懐けられたらすげー便利なんだけど・・・オーク・・・オーガも無理だろうな、あいつら頭良いしなー、飼い慣らすなんて言ったらそれこそ戦争になってしまう・・・あっ・・・そっか、向こうから色々連れて来るのも面白そうだ・・・」
ボヘーと呟くタロウ、
「待て、それは本気か?」
クロノスが目を剥いた、
「聞いてみなければわからんよ、でも、出来ない事も無いかもなって感じかな・・・ほら、その鼻の長い獣とかさ、君らが見たら魔物か何かかと思うと思うよ、異様にでかいしね・・・そう言えば今回は連れて来てないんだな・・・俺の知る限り戦闘力も高いんだが・・・まぁいいか・・・」
なんとと目を剥くおっさん達であった。
「また、派手ですな」
「はい、金糸と銀糸で縫われております」
「この蛇が帝国の象徴であったか・・・」
「ですね」
「あの巨大な蛇を見れば分かる気もするな・・・」
「確かに」
「しかし、寒さには弱い」
「致し方ないでしょうね」
「蛇だからなー」
クロノスが小さく呟く、蛇だもんなーと続くイフナース、そりゃそうだろうと他の軍団長達も笑い出した、場所は変わって別の天幕である、広く敷かれた革の敷物の上に筵が敷かれ、その上に今晩の戦利品が並べられていた、中央にドンと皇帝旗が広げられ、その周囲に皇帝の鎧であるとか、提督の鎧、また派手なだけの武具類に帝国の冠、大変に豪奢な箱も積み重ねられている、タロウがどうせだからと皇帝が休む天幕内にあった一切合切を持ち出したのであった、しっかりと精査していない為、誰もその詳細を把握していなかったが全てが全て贅を凝らした高級品である事は確定であったりする、なにしろ剣一本とってみても黄金の鞘に包まれ色とりどりの宝石がちりばめられている、実用的ではないなとクロノスが顔を顰め、タロウもそういうもんなんだろうと特に気にせずホイホイと懐に突っ込んでいたりした、
「しかし・・・何もここまで・・・」
やれやれとボニファースが苦笑する、
「そうですな・・・」
アンドリースとメインデルトも目を細めた、収奪品の質と量もそうであるが、それを持ち出して飄々としているタロウらに呆れているようで、
「まぁ、どうせだからな、ほれ、ああして皇帝も提督もいないとなれば、これらは恐らく兵士達が掻っ攫っていただろうからな、そう思えば、まだ・・・本来の所有者に返還する事もできる」
そうしようとはまるで思わないがとクロノスは続け、
「お前な・・・」
とイフナースに睨み上げられた、
「いやいや、どうしてもそうなるからねー、皇帝の天幕には金になるものがうなってるって兵士達も知ってるだろうしね、となれば、混乱しているうちに手に入れてしまおうって不届き者は発生するもんだ、それに美術品ってやつは見る人が見れば価値があるけど、知らぬ人が見ればね、それはただの金の塊でしかないからさ、だから、兵士達に持って行かれたらあっというまに溶かされちゃうよ、特にこういう代物はね、なもんでさ、こうやってちゃんとね、価値がわかる者が確保する必要があるもんなんだよー」
とタロウが見事な言い訳を口にしつつ近場の箱を開けてみた、特に意図があった訳では無い、なんとなく気になっていたのと、手持無沙汰であったからである、
「自己正当化も極まれりだな・・・」
ムスッとタロウを睨むイフナース、
「そだねー、あっ、なんだこれ・・・」
タロウはノホホンと微笑み黄金に輝くその箱から銀色に輝く布を取り上げた、
「・・・なんじゃそりゃ」
クロノスとイフナース、ボニファースも目を奪われ、となれば周囲にいた軍団長らも引き寄せられる、
「・・・あっ、凄いなこれ、銀糸の布だ・・・」
「それは見れば分る」
「ですね・・・何に使うんだ・・・これ?」
「なんだ、お前にも分らんのか」
「そりゃ・・・うん、わからん」
銀色の布を摘まみ上げ首を傾げるタロウ、こりゃまた豪勢な代物だと目を丸くするおっさん達、
「皇帝とやらに聞いてみるか?」
「だねー、まっ・・・いっか」
あっさりと箱に戻すタロウである、その中身が分からない似たような箱はさらに数十あったりする、
「するとあれですな、明日はまず、これらの支度ですか・・・」
メインデルトが顎先を撫でさする、
「その予定だ、まずは、その鎧、旗、で、あの檻もな、まるごと荷車に載せようかと考えていてな」
クロノスが腰に手を当てフンスと鼻息を荒くする、
「なるほど・・・帝国兵の慌てぶりが想像できる・・・いや、上の連中が軒並み消えたとなればそっちの方が問題か・・・」
「そこなんだよ、向こうがどう出るかわからん、ほれ、タロウがな、指揮ができる者を数名残しておかないと、それこそ混乱してどうなるかわからんと言ってな、長の付く者の半分は残してある、全員攫っても良かったのだがな、しかし統制がとれなくなった軍隊など野盗と変わらん、向こうさんにはもう数日は賢く動いてもらわんとならんからな」
「・・・なるほど・・・それもそうだな」
メインデルトがフッと顔を上げ、側で聞いていたクンラートもそこまで気を回したのかと眉を顰める、
「ですねー、秩序は大事です、特に武器を腰に下げている連中ですからね、まとまって動いてくれないと都合が宜しくない、挙句大人数ですからね」
ニヤリと微笑むタロウ、
「そういうものか・・・で、具体的にはどうやったのだ?」
ボニファースがジロリとタロウを睨みつける、あっ言ってなかったかなとタロウは首を傾げるも、他の軍団長達、クンラートも興味があるのか静かになった、
「あー・・・それはほら、イザークさんかビュルシンク閣下に」
ニコリと微笑むタロウ、しかし名指しされた二人は、
「何を言う」
「儂らは言われた通りに動いただけだ」
と同時に非難がましくタロウを睨んだ、
「・・・そうでしたっけ?」
どこまでも惚けるタロウ、
「いいから、お前が話せ」
クロノスもめんどくさいとばかりに言い放ち、使えないと断言した金ぴかに輝く剣を手にする、俺にも見せろと首を伸ばすイフナース、
「まぁ・・・そうですねー」
とタロウは解説を始めた、何のことは無い、タロウの魔法で敵陣地に忍び込み、物陰に転送陣を仕掛けると、そこからクロノスやリンド、イザークに近衛達、ルーツの部下を引き入れ、ルーツによって製作されていた陣地の配置図を頼りに眠っている皇帝と提督、その他重鎮達を捕縛しただけである、さらに一応とタロウは麻酔魔法に近い睡眠魔法を被害者達に施している、故に彼等は檻の中にあって死んだように眠っていたのである、言葉にすれば実に簡単な事であった、
「・・・それだけか?」
ムーとボニファースがタロウを睨む、
「あー・・・ほら、細々とした苦労話はそれこそイザークさんかビュルシンク閣下に」
ニコーと微笑むタロウ、
「あるのか?」
ボニファースが二人へ視線を向けた、はぁまぁと顔を見合わせる二人、そして訥々と語ったところによれば、やはり大の男を静かに運び出すことは大変に難儀であった、しかし転送陣まで戻れば大男がヌッと手を伸ばして助けてくれたらしく、その大男はゲインである、今晩最も活躍したのはあの大男であったと二人は認め、逆に下準備の方が少々手間であったとの事で、急に檻を用意しろ、それも大人数が入れる程のものとなれば難しく、結局モニケンダムで材を手配し、大急ぎで工兵達に作らせたのだとか、そうだったのかとこれにはタロウが驚いた、イザークもビュルシンクも涼しい顔であったからで、その苦労を毛ほども表に出していなかったからである、
「そうか、あの大男にもクンショウとやらを送らねばな」
ニヤリと微笑むボニファース、無論、ゲインの正体は把握している、しかし未だ会話を交わした事は無い、クロノスからはそういう男だとだけ聞いている、まぁ人それぞれだと大らかに受け止めているボニファースであった、
「ですねー、じゃ、こんなところで」
タロウはもう眠いんだけどなーと片目を閉じた、しかしおっさん共は何とも元気であった、それもそのはずで皆軍人である、その基本的な体力はすっかり怠けているタロウとは比べ物にならないと思われ、しかしもう夜も遅い、こうしている内に朝になりそうだなーと心配してしまうタロウである、
「だな、ほれ、少しでも休むべきだ、明日はもう一手間あるからな、ここで遊んで失敗しては馬鹿らしい」
クロノスもタロウに同意のようである、
「それもそうか・・・うむ、明日こそか・・・」
フヌーと鼻息を吐き出すボニファース、しかし、皇帝旗を見下ろしその足は動かない、となれば他の軍団長らも動かないもので、おいおいと目を細めてしまうタロウ、
「そう言えばだ、あのサイであったか?あの動物はどうする?」
イフナースがふと口を開いた、なんだそれはと振り返るボニファース達、
「ん、あぁ、御所望なら明日の内に捕らえるしかないかな?混乱に巻き込まれて・・・殺される事は無いとは思うけど、無事に確保できるかどうかは怪しい・・・かなー」
ムーとタロウが首を傾げる、皇帝の天幕のすぐ脇に二匹のシロサイが繋がれており、これはいいなとイフナースが目を付けるも、流石にそれは止めておけとタロウが止めたのである、単純に転送陣を潜れなさそうな巨体であり、また操り方もわからない、大人しくついてきてくれるかも怪しかった、
「あの男達はその為の奴隷なのだろう?」
「そうだけど・・・だってさ・・・」
「折角だ、サイも確保しよう」
「気持ちは分かるけど・・・」
「悪くないな・・・」
ニヤーと微笑むボニファース、でしょうと微笑むその息子、おいおいとタロウは口をへの字に曲げてしまう、先程攫ってきた人物の中に、獣の調教に長けた部族の者も数人いた、丁度いいからと皇帝達と同じ手法で運んできたのである、
「タロウ、貴様であれば何とでもなろう?」
ニヤニヤとタロウを見つめるボニファース、イフナースもまた厭らしい笑みを浮かべている、
「・・・まぁ・・・じゃ・・・少し考えます」
ここは負けるしかないかと引き下がったタロウである、しかし特に良い案は浮かばない、まぁ一眠りすれば何か思いつくかもなーと実に適当な事を考えてみる、
「しかし、そのような、奴隷までどうされるつもりで?」
アンドリースが疑問を口にする、確かにと頷く者多数、今晩のこの策はあくまで先方の首脳陣を確保し、敵軍の混乱と弱体化を図る為のものである、そのように説明されていた、
「使い出があるらしい、ほれ、あの巨大な蛇が動き出したらな、制御する者がおらんとどうにもならん」
イフナースがだろう?とタロウに確認する、あっ、確かにと気付く者多数、戦場となった焼け跡の外れ、イフナースが作った道の出入り口に二匹の大蛇がデンととぐろを巻いていた、
「ですね、それもありますし、あの人ら奴隷ですからね、なので、ほら、ここを連中が撤退するとなると彼等の扱いが悪くなることもあるかなと思いまして・・・それではあまりに忍びないとも思いまして・・・」
静かに答えるタロウ、ホウと感心するボニファース達、
「なので、ある程度落ち着いたら、どうでしょう、ちゃんと王家なり軍なりで雇ってあげる事って可能ですかね?」
どうでしょうと片眉を上げるタロウ、
「・・・それは構わんが、言葉が通じないのだろう?」
イフナースが不思議そうに問い返す、
「えぇ、そこはほれ、ちゃんと学んでもらうしかないですし、それにね、雇うのであって、奴隷ではないですから、あんなね、あからさまな首輪を着ける必要も無くなりますし、彼等にしてみれば帝国も異国です、王国に住むのとそう変わらない・・・と思いますけど、でも、そこは彼等の意志を尊重しましょう、場合によっては彼等の家族とか村ごとこっちに移り住んでもらってもいいかもですし・・・こっちとしてはほら、あのでかい蛇を何とかしてもらうのが第一かなと・・・」
「村ごと移住させるのか?そっちのが酷くないか?」
「してもいいと思いますよ、彼等の技術は並外れておりますから、下手な魔法なんかより遥かにね、希少ですし、価値があるとも思います、俺でも・・・真似できないですからね、サイにしても蛇にしても、家畜化されていない動物を操るなんて・・・ねー・・・」
「確かにそうかもしれんな」
「するとあれか、珍しい獣も連れて来るのか?他にもいると言っていたな」
クロノスが首を傾げる、
「そだねー・・・こっちではまず見ない動物ばかりだからね・・・面白いよ、すげー鼻の長い獣とか、首が異様に長い馬みたいな獣とか」
なんだそれはと目を丸くするおっさん達、
「あっ、もしかしたらだけど、魔物とかも飼い慣らせるかも・・・ゴブリンとか知恵のあるやつは難しいだろうけど・・・知恵の無い魔物とかはどうなんだろう・・・起きたら聞いてみようか、スライムとか手懐けられたらすげー便利なんだけど・・・オーク・・・オーガも無理だろうな、あいつら頭良いしなー、飼い慣らすなんて言ったらそれこそ戦争になってしまう・・・あっ・・・そっか、向こうから色々連れて来るのも面白そうだ・・・」
ボヘーと呟くタロウ、
「待て、それは本気か?」
クロノスが目を剥いた、
「聞いてみなければわからんよ、でも、出来ない事も無いかもなって感じかな・・・ほら、その鼻の長い獣とかさ、君らが見たら魔物か何かかと思うと思うよ、異様にでかいしね・・・そう言えば今回は連れて来てないんだな・・・俺の知る限り戦闘力も高いんだが・・・まぁいいか・・・」
なんとと目を剥くおっさん達であった。
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追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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