セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

84話 貴人の虜囚 その67

そうして暫くあれだこれだと明るく騒ぐタロウとアージェン族達、そこへ、

「ここにいたのか」

と背後から声がかかる、オッと振り返ればイフナースとリンド、さらには数名の近衛と文官達であった、

「おはようさん」

ニコリと微笑むタロウ、ルーツの部下とアージェン族達はスッと背筋を正して一礼する、あらっとタロウは向き直る、どうやらルーツの部下から王国の礼儀を学んだらしい、しかしそこに悲壮感は無かった、無論そんなものあって良い訳も無いのであるが、昨日帝国の近衛騎士団長であるセストルを前にしたアージェン族の男達はなんともオドオドと背を丸めて俯くばかりであり、奴隷の礼を取るべきかどうか悩んでしまったと後からエルゾが呟いていた、そういうものかとタロウは納得したのであるが、今イフナースを前にしたアージェン族達はなんとも誇らしげで自信満々に見える、これもルーツの部下から教わったのかもしれないが、王国では貴族を前にして背を丸めるのは非礼であり、また二心があるものと疑われても仕方ないとの考えがあり、少々無理してでも、偉そうに見えてもいいから胸を張り、背筋を正すのが良いとされている、

「なんだ・・・堂に入ったものじゃないのよ」

ニヤーと微笑むタロウ、男達がエヘヘと微笑み、女達も得意気であった、

「で、どんなもんだ?落ち着いたか?」

イフナースがズイッとタロウの隣りに立ち、タロウと同じような事を問いかける、タロウが微笑み通訳すると、エッと顔を見合わせるアージェン族達、

「俺も同じことを聞いたんです」

タロウが柔らかい笑顔をイフナースに向ける、

「ほう、で、不足しているものがあれば内容次第で用立てるぞ、足りない物ばかりであろう?何かあるか?」

イフナースがフンと鼻を鳴らす、

「えぇ、いろいろですね、生活よりも環境かな?仕事場が欲しいらしいです、屠殺場とか加工場とか、家も欲しいですけど、今はまだ・・・そこまでは難しいと話してます、なので小さい天幕ですかね、やはり家族分欲しいですね、それと飼葉やら餌やら?」

「天幕はなんとでもなるし、餌も手配できるが・・・家畜の処理か」

イフナースが放牧場へ視線を移す、牛がノソノソと歩き回り、ブタは雪原に転げまわっている、サイはジッと周囲を見渡して動かない、恐らく寒いのであろう、

「ですね、で、それを売る販路も欲しいと」

「販路は簡単だな、軍で買い上げて王都で売るぞ」

「では、それはそのように、となると」

「屠殺場と加工場か、しかし、その前にできればなのだが」

とイフナースは要塞周辺の開発計画を口にした、曰く、河の西側を街とし、東側には農地を広げたいらしい、これは帝国の侵攻があった場合の事を考えての配置となっている、この要塞に関しては取り合えず現時点での脅威は帝国に絞ってよいと思われ、要塞に籠って戦う場合に供えての処置でもある、そこで、この放牧場もこのまま東側でも良いのであるが、一旦西側に移動し、その後も街の開発状況によって移動させたいらしい、暫くはゆっくりと落ち着けないかもしれないがその点も理解して欲しいとの事で、

「そういうことらしいけど、どう?」

タロウがそのままを通訳すると、アージェン族達には特に異論は無いらしい、顔を見合わせ少しばかりキーキーと話していたが、反対意見は無いようであった、

「大丈夫みたいですね、ただ・・・」

「ただ?」

「ほら、もう少し規模を広くしたいのと、河の側がいいってことで」

「そうだろうな、では・・・現地に杭を打たせるか、おう」

とイフナースが振り返り文官の一人が駆け寄る、そのまま軽い打合せを終え、その文官とエルゾとルーツの部下が西側の土地を検分に向かう事となった、また話が早いなーと微笑むタロウ、

「あっ、水場が遠くなるが良いのか?」

そう言えばとイフナースがエルゾに確認すると、自分達の飲み水よりも家畜の水の方が大事で、家畜の分は糞尿が流れ込まない上流の方の河から汲んでいるとの事であった、となればその点も考慮しようと条件が増えてしまい、好きにすればいいとイフナースは悠揚に微笑み、

「こんなもんだな、宜しく頼む」

イフナースが文官に告げるとハッと背筋を正す文官、エルゾとルーツの部下を伴って要塞に戻り、他のアージェン族達は嬉しそうに見送っている、

「で、他にはあるか?」

「まぁ・・・あっ、そっか、昨晩挨拶は済んでますからね・・・ほら、可愛らしいでしょ、髪型とか髪色?」

タロウが女性達へ視線を向け、イフナースも見つめてしまう、ウッと緊張する女性達、男達は何故か誇らし気である、

「ほう・・・確かにな・・・」

「・・・また・・・女どもが喜びそうですね」

イフナースが素直に感心したようでリンドもやれやれと微笑む、取り合えずそのまま通訳すると角が立つなとタロウは苦笑し、

「素晴らしいって言ってるよ、あと、王国の女性にも受けるだろうなって」

と表現を変えて伝えてみた、キャーキャーとはしゃぐ女性達、男達も嬉しそうに騒ぎ出す、

「なにもそこまで喜ばなくても・・・」

イフナースが眉を顰めるも、その口元は微笑んでいた、タロウがある程度事情を説明し、だから奴隷は良くないのだとイフナースもリンドも憤慨していたりする、

「まぁいい、でだ、タロウ、少し知恵を貸せ」

イフナースがタロウを睨み、リンドもスッと視線を向けた、

「どうかしました?」

「巨岩の処理を視察してきたんだ」

「あっ、どうなってます?あっち?」

「歩きながら話す」

サッと踵を返すイフナース、

「はいはい、じゃ、皆さん邪魔したね、明日はそういう事で」

タロウがアージェン族達の言葉で微笑む、ありがとうと微笑む女性達、男達も嬉しそうに微笑み皆一斉にイフナースへ頭を垂れた、

「で、どうしたんです?」

トトッとイフナースに駆け寄るタロウ、

「うむ、まずは向こうの状況だ、それなりになっていたが、お前にも一度見ておいて欲しいと思ってな」

イフナースは歩きながら続ける、リンドも時折口を挟みながらになるが荒野の西側、軍の工兵たちと学園の講師による魔法訓練と巨岩の処理状況となり、どうやらそれなりに形にはなってきているらしい、タロウはすっかりご無沙汰で関与してなかったなと思いつつ耳を傾けた、転送陣をあっちこっちと仕掛けた事もあり、またルーツも本格的な戦闘が始まる頃から施設を引き払って焼け跡の物見櫓に居を移し、要塞を手中にしてからはその屋上に居座ってしまっている、施設に向かう用向きがなくなった為に、素通りすらしない状態となっていた、

「となると、処理は進んでいるってことですね」

タロウは大したもんだと微笑んだ、どうやらすでに日に一個のペースで巨岩を砕く事が可能となっており、さらにはその巨岩の中心にある鉱物は当然として、砂やら砂利やらも選別されているという、巨岩が掘り起こされた跡にはその砂利が埋め立てられており、砂はガラス精製に使えるとなって試験中なのだとか、タロウの目論見通りの動きであり、また恐らく誰もがそうするであろうなと思われる処理方法が確立されている様子であった、

「そうなる、でだ」

とイフナースは足を止めて振り返る、文官の一人が話を聞いていたのであろうスッと近寄り革袋を差し出した、イフナースが小さく礼を口にして受け取る、

「これなんだがな、こっちではまず見ない鉱物らしい、で、貴様なら知っているかと思ってな」

イフナースが革袋を開いてタロウに差し出す、受け取りつつどれどれと覗き込むタロウ、

「鉱物ですか?」

タロウは素直な疑問を発し、首を傾げて顔を上げる、なにせ袋の中には黒色の砂が詰まっていた、鉱物という表現からはかけ離れているように思える、

「フッ、なんだ、貴様でも分からんか」

ニヤーと微笑むイフナース、してやったりと歪に口元を歪め、リンドもムフッと嬉しそうである、

「だって・・・これ・・・」

取り合えず袋に手を入れるタロウ、そしてアッと気付き、エッと再び覗き込む、確かにその黒色の砂の中には拳大の鉱物が収まっており、また黒色の砂も独特の手触りであった、

「これ・・・鉄粉、砂鉄ですか・・・」

目を丸くして顔を上げるタロウ、

「そうなのか?」

イフナースがん?と首を傾げ、リンドと文官もどういう事かと顔を見合わせる、

「いや、だって・・・これ・・・多分・・・砂鉄・・・わっ、すげー、エッ、マジ?マジか・・・」

足を止めて興奮するタロウである、革袋からモソッと中身を取り出し、

「ウワッ、やっぱりだ、エッ、マジか、こりゃすげー」

と歓喜の声を上げてしまった、ポカンとタロウを見つめるイフナース達、左目を閉じて精査する必要も無く、その正体に気付いたタロウ、中央にある石に黒色の砂が棘のように引き寄せられ、毛糸玉のようにまとわりついており、持ち上げた程度では零れ落ちる素振りもみえない、

「殿下、これ、磁石ですよ、で、この周りの砂、これ、鉄です、いや、これは凄い、大発見だ・・・」

モソモソとした黒い塊を手にして叫ぶタロウ、ジシャク?と首を傾げる一同であった。



「で、なんなのだこれは?」

イフナースが不愉快そうに眉を顰めた、実はこんな変な物はタロウでも知らないであろうとリンドと話しており、リンドは知っていそうですけどねと笑っていたのである、而してどうやらタロウにとっては馴染みのある物質で、さらにはタロウですら興奮する程の代物らしい、若さ故かその悔しさが顔に滲み出てしまうイフナースであったりする、

「何にって、まぁまぁ、一旦ですよ、確認しますよ」

タロウはさてどうするかとウキウウキと周囲を見渡し、要塞の外壁に重ねられた木箱に向かう、丁度いい作業台となるとそれしかない、そこに手にした革袋を敷いて磁石を置き、鉄粉をゴシゴシと落していく、

「わっ・・・なんか懐かしいな・・・」

思わずにやけるタロウ、幼少の頃、砂場に磁石を落して砂鉄まみれにしてしまい、なんとかこそぎ落とそうとするもまるで綺麗に落ちず、怒られるかもとポケットに入れてそのまま洗ってしまい、余計に怒られた事があった、そう言えば砂場で遊んだ事などここ数十年無い、ミナにも砂場を作ってやりたないと思いつつ、いや、もうそんな歳でもないような気がするけど・・・ソウザイ店の子供達には受けるだろうななどと考えながらなんとか砂鉄を落し、磁石そのものを露わにする、

「こんなもんかな、でだ」

タロウは懐から鉄製のナイフを取り出すとソッと近付ける、キン、と子気味良い金属音が響きナイフを引き寄せる赤黒い鉱石、

「うん、これです、これが磁石です、天然磁石だ・・・すげー・・・こっちにもあったんだ・・・そりゃあるよなー、いや、磁力も強そうだし、これはいいぞー」

目を丸くしニンマリと微笑み振り返るも、ムッとタロウを見つめるばかりのイフナース達であった、

「で・・・何に使うのだ?」

イフナースが眉間に皺を寄せ、再び問いかける、アッと頬を引きつらせるタロウ、

「何にと言われると・・・あれです、少しばかり工作が必要です」

「工作?」

「えぇ、まずは・・・そうですね、方位磁石?」

「なんだそれは?」

「北と南が分かります」

ヘッ?と男達の顔がゆっくりと傾く、

「他には電気を精製できます、銅のコイルやらなにやらと面倒ですし、加工が難しいですけど、それとこれですね、砂の中から鉄を回収できます、このね、砂鉄っていうんですけど、これはこれで有用なんですよ、鉄鉱石ともまた違いましてね、まぁ、これは職人さんの領分なのであれなんですけど、鉄鉱石の鉄とは違って錆に強い、うん、もうこの状態で錆びているようなものなのでね、で、これを集めて溶かしてとなるから若干手間ではあるのですが、良い鋳物が作れます、南部鉄瓶って言うんですけど、俺の田舎の名産品でしてね、いや、素晴らしい、うん、これは素晴らしい」

「・・・待て、よくわからん言葉ばかりだ」

人差し指をこめかみに当てるイフナース、リンドもこれはまたと絶句している、

「ですよねー、なので取り合えずなんですが・・・」

さてとナイフに引っ付いたままの磁石を見つめるタロウ、天然磁石があるのであれば人工磁石を作るのは難しくない、なにせこの天然磁石から磁性を移せばそれで良く、ちょっとした工作が出来れば可能で、しかしそれは一時的なものとなる、人工的な永久磁石を作るとなれば鍛冶師を巻き込まなければ難しい、その上で、まず作るべきはとタロウは考える、

「・・・うん、やっぱりあれだ、まずは方位磁石ですね、それから・・・うん、リノルトさんか・・・いや、研究所でもいいな、鉄の加工が問題か・・・いいや、うん、で、殿下、これ他にも出ました?」

「他にも?」

イフナースがリンドに確認し、リンドが文官へ視線を向ける、その文官が、

「はい、幾つか確認されてます、これよりも大きいものになります」

とおずおずと答えた、

「それは素晴らしい、いやー、あの巨岩、凄いね、本当の意味で宝の山だよー」

歓声を上げるタロウ、そこまでか?とどうしてもピンとこないイフナース達であった。
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