セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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10話 祭りの後、新しき友人達 その8

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厨房はてんやわんやであった、普段ソフィアとオリビアの二人で作業している為それほど狭いと感じていなかったが、そこに倍の人数がいるとやはり手狭である、

「おおう、やってるなぁ」

とクロノスの騒音の中でも良く通る低い声が響くが、厨房内の若者達はまともな挨拶等できようもなかった、

「ほら、行きましょう、邪魔しちゃ駄目ですよ」

パトリシアは若者達の頑張りに微笑みつつクロノスの背を突っついた、食堂に入るとそこには既に学園長と事務長、ユーリ研究所の3人にダナが紛れ込んでさらにミナとレインがくっ付いてたむろしている、

「おう、揃っとるな、どうだ、先に始めるか」

クロノスは一同に陽気に声をかける、

「これはスイランズ様、御機嫌よう」

学園長が代表して一礼する、パトリシア達もそれに合わせて一礼しただけで仰々しい挨拶は省かれた、

「ふむ、世間話だな、シェルビー卿、小麦の収穫はどうだ?」

ついっと、クロノスは学園長達のテーブルに着き、パトリシア達は研究所組のテーブルに着く、自然と男女に別れるのは恐らくそういう習性故なのであろうか、学園長側では小麦の事から始まり領地の事や農作物の作付け等に話が広がり、研究所側ではユーリによる紹介が一段落すると薔薇の香りに気付いたカトカによって香水談義と洗髪談義に花が咲いている、

「遅れましたかね、すいません」

ややあってヘッケル夫妻が入ってきた、ブラスの手には酒樽がある、

「わ、始まってました?これから?良かったー」

ブノワトは安堵の声を漏らす、彼等もまた自然に男女で別れて座り込む、玄関口からジャネットが戻って来て、

「えっと、これで招待客は全部ですかね、もうちっとお待ち下さい」

ふっと厨房に消えると、

「料理出していきますね」

と大皿を両手にして食堂に入ってきた、

「はいはい、どんどん来ますよー、ミナっちもうちっと待ってねぇ」

テーブルと人をヒョイヒョイ避けながら軽口を叩く、

「お待たせしましたー」

ケイスも満面の笑みで皿を持ってくる、やがて生徒達の手によってテーブルの上には色とりどりの料理が並べられた、

「はい、こんな感じですね、それでは、私達も席に着いてしまいましょう」

手を拭いながらエレインが食堂へ姿を現しその後ろにオリビアが続いた、

「それでは、杯を配ります、お酒の方はお好きにどうぞー、ソーダ水の方はいらっしゃいますかぁ」

アニタが大きな水差しを手にしている、女性陣の幾人かが手を上げた、

「はい、皆さん杯は持ちましたでしょうか?」

エレインが立ち上がり、皆の視線が彼女に集まる、

「えーと、本日は、急な開催にも係わらずお越し頂きました事、心より感謝致します」

優雅に腰を折る、

「本食事会の趣旨としましては、私達学生有志によります、屋台事業の成功と、それに伴って御助力頂きました方々への返礼であります、つい先日の事ですが並々ならぬ御協力、叱咤も含めて身に余る物でありました、心ばかりの饗膳となりますが、楽しい時間を共にできれば幸いと存じます」

一度言葉を切ると、

「それと、ついでといっては大変失礼なんですが・・・新しい寮の同居人としましてホルダー研究所の皆様との親睦会も兼ねております、ユーリ先生御挨拶お願いできますか?」

「えっ、私?」

ユーリは思わず素っ頓狂な声をあげる、静かな笑いが起こるが自身も照れ笑いを浮かべながらユーリは立ち上がり、

「どうも、バーク魔法学園ホルダー研究所、所長のユーリ・ホルダーです、本日はついでではあっても、このような会にお招き頂きましてありがとうございます、今後本寮の新しい仲間として皆さんと仲良くやっていけたら幸いと存じます、えーと、研究の方もがんばります、以上」

要所要所で笑い声が上がった、

「ありがとうざいます、それでは、乾杯の音頭は・・・そうですね、ここは、一連の騒動の一番の中心人物であります、我が寮の寮母、ソフィアさんにお願い致します」

「えっ、私?」

ユーリと全く同じ反応である、食堂内は爆笑の渦に包まれた、ソフィアはやれやれと腰を上げると、

「あらゆる現象の中心人物です」

ソフィアの第一声にさらなる笑いが巻き起こる、

「では、皆さん、杯を持って下さい、ほら、笑ってないで、いいですか?カンパーイ」

ソフィアの音頭で杯は掲げられ、皆楽し気に杯を傾けた。

饗された料理は生徒各人の家庭料理と郷土料理が中心となっていた、ソフィアの料理のような珍奇さや尖った美味さは無くても、素朴で優しく且つ気兼ねなく食せるものばかリで皆はその料理毎に秘訣を聞き合ったり、単純に味を楽しんだりと宴は和やかに始まった。

「はい、それと、私共の屋台料理も用意してありますので、御所望の方はあちらへどうぞ」

ジャネットは立ち上がると厨房からミルクアイスケーキ用の機材一式と材料をもってテーブルに設置する、

「スポンジケーキもありますよ、こちらはお好きな大きさで切り取って下さいねぇ」

ジャネットの後ろに続いたケイスは大皿に2枚ずつスポンジケーキを載せてテーブルに置いた、女性陣から歓喜の声が上がる、

「いや、至れり尽くせりですな」

最も喜んでいるのはシェルビーのようである、早速と彼は腰を上げミルクアイスケーキを3種類トレーで確保してホクホク顔であった、

「うわ、事務長先生、食べ過ぎじゃないですか?」

ユーリは呆れたようにシェルビーを見るも、シェルビーは冷ややかな目でユーリを見返し、

「古来より存在する世界をありのままに表現した唯一の格言がある、知っているかねユーリ先生?」

ユーリがその質問に困った顔をしていると、

「それはね、甘い物は別腹・・・という至言だよ」

満面の笑みでミルクアイスケーキを贅沢に頬張った、

「それは・・・至言ですね、いくか、乙女共!!」

酒も入っている為かユーリはややタガが外れかけている、研究所の3人はデザートコーナーに突撃するのであった、

「ふむふむ、しかし、良く出来た菓子ですね、作成風景も楽しめるとは・・・惜しむらくは香りが無い事でしょうか・・・」

「この固定魔法の魔法陣が良い仕事をしているようですね、ただ板の上に載せただけの魔法陣ですか、うーん、ちょっと危険かしら?知識がある人が使えば問題無いでしょうけど・・・所長、この調理器具も一つ試作してみましょうか?」

ジャネットの作業風景を眺めつつカトカとサビナは、菓子そのものと紫大理石の仕組みを分析している、

「あんた達もホントに仕事熱心よね、まぁ、いいけども、でもだいぶ味が良くなってるわ、ここら辺は凄いわね、あんた達も」

ユーリが出来たてのミルクアイスケーキを頬張りつつジャネット達を褒めた、

「えへへ、アニタとパウラのおかげっす、私はもう、二人に使われるばっかりで」

忙しく作業を続けながらジャネットは謙遜する、

「でも、あなたが発案者なんでしょ、屋台で一儲けしようって、大したもんよ、ねぇ」

ユーリは近くの席に座るアニタとパウラに同意を求める、二人は嬉しそうにそうですそうですと大きく頷いた、

「えー、ほんとー、イヤー、困っちゃうなぁー、結局、ウチの手柄ってやつ?もうみんなはー、私が居ないと駄目なんだから―」

ジャネットは簡単にのぼせ上がってだらしない顔で自惚れる、

「そこまでいってないわよ」

「はい、でた、ジャネットのお調子者、大丈夫?足は地面についてる?今にも空飛びそうよ」

アニタとパウラのタイミングの良い辛辣な突っ込みに黄色の笑い声が巻き起こった。



「それでじゃ、こういうのも良いと思うんじゃがの」

不意に学園長が立ち上がりパンケーキを薄く板状に2枚切り分けた、

「薄い方が好みですかな?」

事務長は学園長の手にした皿を怪訝そうに見詰める、

「いや、いや、こうじゃよ」

にんまりと笑い事務長の皿から苺ミルクアイスケーキを半分失敬するとパンケーキで鋏み込んだ、

「これで、このまま」

と齧り付く、

「うむ、うん、美味いぞ、贅沢な食し方よな」

「確かに、しかし、美味そうだな、どれ、儂も・・・」

クロノスが学園長を真似し、事務長は当然のように続いた、やがて女性陣が続いて、ここに唐突ではあったが新しい創作料理が完成したのである、

「これは、また、凶悪に美味しいものが生まれましたわね」

エレインは頬をいっぱいにして綻ぶ笑顔を隠せない、

「うーん、アイスケーキサンドとでも名付けましょうか、これはいっそのこと何層かこう積み重ねても宜しいのではないでしょうか?」

オリビアの冷静な分析に、

「オリビアさん、それ美味しそうですわね、いつ食べれますの?」

パトリシアが興味を示す、

「まったく、皆さんが集まると際限がありませんねぇ」

アフラの困ったような嬉しいような感想に、全くですと同意の声が上がるのであった。



「しかし、この菓子は甘すぎないのが良いのであろうなぁ」

クロノスはしげしげと手にしたアイスケーキサンドを見る、

「そうですね、男の俺でも美味しいと思います」

地位の高い者に囲まれてやや緊張気味であったプラスがやっと言葉を発する、それは良い感じに酔ってきた証でもある、

「うむ、昨今の菓子は甘いだけで美味しくないのよな、黒砂糖を入れればよいと思っているふしがあります」

うんうんとシェルビーも頷く、

「そう言えば、かなり高価ではあるが白砂糖なるものも出回っている様子だが、誰か知らんか?」

クロノスは誰とも無く問い掛けるが、皆首を捻るばかりであった、

「ふむ、甘味は大事な栄養源でもあるから、安定して供給できれば国の力にもなるのだが、リンド、一度しっかりと調査するか」

「はい、承知致しました」

静かに酒を愉しんでいたリンドは笑顔を見せる。
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