セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

文字の大きさ
70 / 1,445
本編

11話 お嬢様達の胎動、決意 その2

しおりを挟む
「ふーん、お嬢様の教育係っていないの?」

食堂にはソフィアに代わってユーリが白湯を手にしてライニールの前に座っている、

「家庭教師はおります、ですが、教育係・・・躾役というと、私がそうといえばそうなんでしょうが、なにぶんお嬢様はお年頃ですので、いろいろと難しく・・・」

どういう話の流れかライニールの人生相談のような状況になっている、短い間とはいえ自分の担当講師であった人物が話し相手では、会話の内容を探るうちにそうなってしまったとしか言いようがない、

「まぁ、貴族社会のなんじゃかんじゃは良く分からないけど、少なくともあれよ、権力を笠に着てギルドで身辺調査はやり過ぎと思うわー」

昨日の宴会への乱入事件の事である、

「そうですが、戸口で断って頂いてもよかったと・・・」

「断れるわけないでしょ、こっちは平民よ、貴族様相手にどう断るってのよ」

ユーリの言葉にライニールは尚も肩を落とす、学生時代には仲が良いとは言えない間柄であり、ユーリその人の特性を理解していないが、これほどざっくばらんな人であったとはライニールは正直思っていなかった、

「はいはい、あんまり、虐めない、折角昨日のお礼に良い茶葉を頂いたのだからみんなでお茶にしましょう」

厨房からソフィアがティーセットを持ってくる、小麦他の納品があり厨房に引っ込んでいたのであった、さらに昨日のスポンジケーキも大皿で手にしていた、

「え、そうなの、まぁ、そりゃそうよね、うん、上の連中も呼んでいい?」

いいわよーとソフィアは軽く答えた、

「お嬢様もお呼びしましょう、ミナとレインもそうね、たまにはいいでしょ」

ティーセットをテーブルに置き再び厨房へ入る、ライニールは一人静かに食堂で待つのであった。



「なるほど、それでいつの間にやらこうなったと」

食堂では生徒達も合流して大人数でのお茶会になっていた、呼びに行ったそれぞれがそれぞれの相手を連れてきて茶を立てた辺りで生徒達の帰宅が重なり、折角だからと生徒達もご相伴に預かる事となったのである、最後に合流したのはケイスであったが、食堂に集った面々を見て何事かと側にいたソフィアに事情を聞いたのである、

「はい、ケイスさんも適当に座りなさい、美味しいお茶よ」

ソフィアは当然のようにティーカップをケイスに渡す、紅茶の良い香りがケイスの鼻腔を通りすぎた、

「これは、良い香りですねぇ、オリビアさんの入れてくれるお茶とはまた違っています」

お茶を愉しむという習慣は前帝国時代から存在はしているが、その時代から高級品である事は変わっていない、特に上流社会で好まれる茶は香りと味が重視された最上級品である、今手にした茶は比較的裕福であるとはいえ平民であるケイスが触れられる品では無いことだけは確かであった、

「スポンジケーキもまだあるわね、食べ過ぎないようにねぇ」

ソフィアはニコリと笑う、

「でね、この壺の中にね、いっぱい入れてあるの」

ミナはお気に入りの花びらの詰まった壺をレアンに見せている、

「ほう、これは良い香りじゃなぁ、花びらも集めると香りが立つものなのか」

「うん、お花の香り、で、これが薔薇でしょ・・・」

ミナは花びらを一枚ずつ出しては説明し、説明しては並べてと忙しそうである、

「聞いた感じよりも良いお嬢様じゃないの?」

ユーリはそっとライニールに囁く、

「・・・そう・・・ですね、とても穏やかです、あんなに優しい笑顔になって・・・」

ライニールは素直に喜んでいる、先程ユーリに無理矢理に愚痴を引き出されたが、その際の問題の中心は全てレアン絡みであった、その為、ミナと共に居るレアンの落ち着きと楽し気な顔は普段見せる癇癪持ちのそれではなく、年相応の娘に見えた、ライニールにとってその様子は心休まるものであった、

「そうねぇ、そちらの家庭がどういったものかは知らないけど、恐らくお嬢様に必要なのは一緒に遊んでくれる相手じゃないの?そういう人っている?」

「ほとんど・・・いませんね、はい、それが問題でしょうか・・・」

ライニールは首を傾げる、

「ねぇ、エレインさんはどうだった?お友達とかいた?貴族の時」

ユーリは隣りに座るエレインに問うた、

「変な質問ですね、でも、うーん、貴族の友人はいたと思いますが、上辺のお付き合いでしたよ、私には姉が居たので友人とは違いますが姉のおかげで寂しくはなかったですわ」

エレインはシレッと答える、

「失礼、エレインさんは、爵位をお持ちなのですか?」

ライニールは急に背筋を伸ばす、

「某子爵家の者ですわ、クレオノート伯には遠く及ばない身分ですので、気を遣わずに・・・」

エレインの何とも胡乱な返答にライニールは困り顔である、

「それで、さらに変な事を聞くけど、同年代の子とはどうやって付き合うの?」

ユーリはどうやら貴族の情操教育に興味を持ったらしい、

「うーん、どうやってと言われましても、我が家に関していえば、兄達は年齢が近かったですし、屋敷の者の家族・・・息子さんとか娘さんとかが遊び相手でしたわ、家庭教師が一緒に勉強を見てくれましたし、狩りに行くのも刈り取りの時も一緒でしたわね、戦場にも・・・従者として一緒であったと思います」

エレインは思い出しながら言葉を綴る、

「でも、それって身分が違う、言わば雇われ人の子供達でしょ、相手は・・・」

「そうですよ、でも、子供の頃ですからね、ただ・・・どうでしょう、子供なりに・・・その・・・お互いの立場は理解した上で遊んでいたと思います、そりゃ、衣服から何から違いますでしょ・・・それに、雇われ人といっても長年仕えてくれている人達の子供ですし、向うはこちらをたてて、こちらも向うを大事にする、そういうふうな関係性であったと思います」

エレインは当時の自分と遊び相手を考えながら、彼等がエレインに対した際の細かな表情を思い出していた、ライニールはエレインの言葉に思う所があるのか神妙に頷いている、

「なるほどね、同年代に囲まれた生活が必要であるならさ、学園に入れちゃえばお嬢様」

ユーリの発案にライニールはさらに渋い顔をする、

「・・・その・・・お館様・・・領主様が今一つ・・・」

ユーリはアッという顔をして、ゆっくりと肩を落とす、

「領主様かぁー、学園の事嫌ってそうね・・・」

「・・・はい、と言っていいものかどうか、正直、わたしもお仕えして日が浅く、その・・・お気持ちは測り兼ねておりまして・・・」

「ふーん、まぁそれなりに頑張ってんのねあんたも、まぁ良かったじゃない、よっぽど変な事しない限り安泰っちゃ安泰よね」

大人としては当たり障りが無く、それゆえに大変無責任な慰め方である、

「いや、そういう問題では・・・」

ライニールはいよいよ首を傾げていく、その言葉が消えかかった瞬間に、

「決めたぞ、ライニール」

不意にレアンは立ち上がる、何事かとライニールも立ち上がった、

「ミナを屋敷に招待するぞ、我が家の自慢の庭園を見せねばならぬ」

ライニールは言葉を無くして膝から崩れ落ちたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...