セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

13話 夏の日の策謀 その9

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夕食が終わり日が暮れた時刻、珍しくも食堂にはユーリとソフィアの姿があった、生徒達は皆自室へ、ミナとレインは宿舎に戻っている、

「というわけで、クロノスとも話してねギルドは外す事にしたわ」

「なるほどね、でも、そうなると、いよいよもって領主様の嫌がらせが始まるんじゃないの?」

「そうなのよねー、どうしたもんかねー」

「何よ、考えてないわけじゃないんでしょ?」

「まぁね、ほら、今回の件はこちらよりも稼げる仕事を領主様が作ってくれたから、こちらに人手が回らんよって事なのよね、で、それならそれでしようがないから、こちらの手間賃を上げて人手を確保する代わりに直接雇用ねって事なんだけど、ここで不満があるのは冒険者ギルドの経営側であって冒険者ではないのよね」

「そりゃ、話だけ聞いてればそうだけどさー」

「だからね、学園や上としてはよ、冒険者には嫌われたくなくて、ギルドは別にーって感じなのよねー、それはそれでどうかとも思うけど、まぁ、本来ギルドは全ての権力者に対して中立が信条でしょ、まぁその筈よね、ギルド内の個々人はどうか知らんけれどもね」

「・・・でも、それで領主様対策になるの?」

「うーん、今の所はね、直接手を出してきていないじゃない?現時点でブースカ言ってもそれで?ってなっちゃうじゃない?」

「まぁ、そうだけれど」

とソフィアはあらぬ方向を見て、

「でも、直接手を出して来たら?っていうかそれ待ちなの?」

ソフィアは嫌そうな目でユーリを見る、

「うん、それ待ち」

「いや、何かあってからでは遅くない?」

「遅いわね、その何かによるとしか言いようがないかしら?」

「・・・そういう策なの?」

ソフィアは呆れ顔である、

「クロノス・・・というか現王に対して非協力的な貴族は少なからずいるからね、それもまぁ、管理の仕方?があるもんだなんて・・・あの!・・・クロノスが・・・言ってるのよ、凄いと思わない?」

ユーリはクロノスをやたらと強調する、

「そりゃ、凄い成長ね、でも、まぁ、英雄で勇者で王太子なんだもん、知恵もつけないと、いつまでもあの頃の直進番長じゃやばいでしょ」

ソフィアはタロウが付けたクロノスの綽名を思い出す、

「うん、意味わかんないけど良い響きよねチョクシンバンチョーって」

「クロノスも気に入ってたもんね」

「どういう意味なの?」

「知らない」

ソフィアのあっさりとした返答に、あっそとユーリは頷いて、

「で、まぁ、クロノス曰くよ、平和になったらなったで別の火種が燻るもんで、それが炎上する前に監視下又は管理下に置くのが肝要らしいわ、ましてその火種を対象に気付かれずに煽る事が出来れば尚良い、らしいのよ、つまりそれが問題を制御する事なんだとか、あの!・・・クロノス・・・の言葉とは思えないんだけどね」

再びクロノスを強調する、はいはいとソフィアは笑みで返した、

「そこで、今回の件はそれなりに使えるって事になったみたい、王都でもクロノスのいる北ヘルデルでも無くその丁度中間のモニケンダムでしょ、最悪の状態になっても上と左から挟めるしって、いや、内戦かよって感じだっわ」

「えっ、そこまで考えてるの?」

「そうみたいよ、最悪の最悪って笑ってたけど、歴史の授業思い出してよ、戦争してない期間の方が少ないのよ、今がいかに貴重な時間かあなたなら分かるでしょ?」

「そうねぇー」

ソフィアは目を閉じて右に左に身体を揺する、

「まぁ、できるだけそうならないようにしたいけど、上と相手次第ね、だからこそ、今は待ち、で、見、なのよ」

「ふーん、政治よねー、関わりたく無いって言ってたのにねー」

ソフィアは冷たい視線をユーリに送った、

「そりゃ、言ってたわよ、でもねぇ、誰かさんのおかげかしらねぇー、ホントこの一月で私の仕事が増えてる気がするのよねー、私は優しくて聡明な上に美しいだけの講師でさらに研究者だったんだけどねー、どうしてかしらねー、なんか生徒達からの扱いも悪くなってる気がするしねー、ホント、なんでかしらねー、可愛い姪っ子達も懐いてくれ無いしねぇー、あぁー、何か当初の構想と違ってきたわー、単純に美味しいご飯に有り付ける筈だったんだけどなー」

ユーリはソフィアのそれを上回る冷凍光線を両目から発してソフィアを射貫く、

「何よ、姪っ子じゃないし、人を料理人扱いしないでよ」

「別にー、誰とは言ってないわよー」

ソフィアはユーリの視線を軽く弾き飛ばすと、

「ふん、でも、何にせよ時間の問題でしょ、それが早まったか・・・遅すぎたってだけなんじゃない?下水道に関しても領主様に関しても」

「まぁねぇ、あっそれでさ、翻訳の方はどんなもん?」

ユーリは思い出した様に彼女の本職へと回帰した、

「順調よ、下水道から出たものは有用ね、他はどうだろう?歴史の役には立つけど、下水道関連ではなさそうよ、そりゃそうよね、何処で見付けたものかは知らないけど、偶々在った巻物でしょ、訳せと言われたらやってもいいけど、正直時間の無駄かしら、それならあれよ、今回の翻訳結果と原文を照らして好きな人が研究すればいいのだわ、研究者の仕事を奪ってはいけないわよね」

「そりゃ、そうね、で、有用ってどんな感じで?」

「うん、下水道の管理説明書だったんだけど、沈殿槽の管理方法がバッチリ記載されてたわ、それによるとね、あの貯水槽が街中に5か所以上はあるみたい、で、一か所につき4つの区画があって、それを交代で使用しながら浄水していたのね、で、沈殿槽では何をやっていたかというと・・・」

ソフィアは堰を切ったように昼間得た知識をユーリに語って聞かせた、

「なるほど、今の話はちゃんと文章にしてあるでしょうね?」

一通り聞いた上でユーリは確認する、

「勿論よ、でもここまでであの巻物の半分位かしら?でね・・・」

ソフィアの瞳が怪しく光る、

「うん、皆迄言うな」

察したユーリはソフィアの言を即座に遮った、

「何よー、別に良いでしょ、実際にさ・・・浄化の仕組み・・・やってみたいじゃない?」

「言うと思ったわ・・・」

ユーリはやれやれとソフィアを見る、この幼馴染の方がよっぽど研究者気質であるとユーリは最近感じ始めていた、今日迄の付き合いでその性格が表に出る事は少なかったと思うが、単に発露の場が無かっただけなのか、この環境に感化されたからなのか、

「そこで、簡易的に浄化槽をどっかに作れないかしら、どっかというのは勿論」

「この寮にって事でしょ、あー、どうしようかしら、隣りの屋敷買い取る?そんで・・・いや、金がかかるかしら?」

「そこはほら、何とでもどうとでも、なんとかならない?」

ソフィアはキラキラとした瞳でユーリを見詰める、楽し気で期待に満ちた瞳であった、ユーリも単純な研究者であれば全く同じことを夢想したであろうからその期待を無下にはできない、

「分かったわ、ちょっと、動いてみようかしら、だから、あなた勝手に動かないでよ」

「ふふーん、ありがとうユーリ、大好きよー」

ソフィアは上機嫌で笑顔になり、ユーリは新しい仕事を背負うのであった。
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