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本編
15話 商会設立 その6
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「えっと、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
ユーリはとても優しくエレインに話し掛けた、食堂には硬い表情のエレインと眠そうなユーリ、ソフィアがテーブルを囲んでいる、
「ええ、まぁ・・・」
エレインは言葉を濁し、居住まいを正した、
「でも、警戒はしておいて」
ソフィアはさらっと怖い事を言う、
「・・・すいません、緊張しないで警戒するのですか?」
エレインは困った顔で二人を見る、
「そうよ、その程度は出来るでしょ、大事な事よ」
「そうね、緊張してると頭が働かないでしょ、変に慌てちゃうし、そして警戒は常に怠らず、どのような場合でも、例え寝ててもね」
ソフィアが当然の事のように言う、
「うんうん、冒険者になる時にね先輩によく言われたわ、寝てるときはどうしようもないってその時は思ったもんだけど」
「寝てるときほど警戒しなきゃならないって、あとから何度も身に染みたわね」
ユーリとソフィアはそう言って笑みするがエレインは何と言っていいものかさらに困った顔になる、
「おう、揃ってるな」
そういえばとユーリが口を動かした瞬間に階段から男の声が響き、続いてドカドカと重い足音が二つ響いた、さっとエレインは振り返り腰を上げるが、ユーリとソフィアはそちらを一瞥して、
「あー、変わらないわねー、って、なによその髭は、っていうかなんか薄くなったわね」
「ちょっと、クロノスと並ばない方が良いわよ、クロノスの変貌ぶりが凄すぎるわぁ」
それぞれに普段の口調とはまるで異なる横柄な言葉使いになる、
「ああん、数年ぶりに会う戦友に何言ってんだ、クロノスよ、こいつらしっかり躾たんじゃなかったのかよ」
クロノスと共に下りて来た男は満面の笑顔であるが口からでる言葉がその表情とは一致していない、男はクロノスの隣りに立っている為か小柄に見える、背丈はクロノスの肩口程度、痩せていて顎髭を蓄えており浅黒い肌が目を引いた、しかし特徴的なのは鋭い眼光であろうか、独特のねめつくような視線が室内を一周しソフィアとユーリに向けられた、
「何が躾よ、それはこっちの台詞よ」
「そうよ、クロノスに躾られたのはアンタの方でしょ」
二人共乱暴な言葉使いである、
「ああん、なんだお転婆共が年喰って少しはマシになったかと思えば、まるで変わらねぇじゃねぇか」
特に発言の無いクロノスの隣りで男はガハハと笑い、
「久しぶりだなユーリにソフィア、タロウはどっかいったんだって、なんだ、愛想つかされたか、ん?あのちびっこいのはどこだ、少しはでかくなったのか?」
「そっちこそ、いい年こいて一人なんでしょ、偉そうにしないでよ」
とソフィアが言葉を買うが、
「ちょっと、それ私にも刺さるわよ」
ユーリの非難の目がソフィアに向いた、
「ん、なんだ、独り身は俺だけじゃないようだな・・・へへ、なんだユーリ、俺の事忘れられなかったな、さては」
「うわ、気持ち悪い」
ユーリの心の底からの嫌悪の言葉に、
「はっはっ、良いぞ、ユーリ、元気そうだなぁ、うん」
男は悠揚と笑顔になった、
「ほら、エレイン嬢が固まってるぞ、お前ら、旧交を温めるのはいいが、なんだ、先に相談を済ませてからでいいだろう」
クロノスが3人をやんわりと止めた、
「おう、そうだな、あんたがエレイン嬢か、話は大雑把に聞いてるぞ、ルーツ・リュークだ、リューク商会の代表をやってる、よしなにな」
ルーツは簡単な自己紹介をしてエレインの前に跪きその手を取ると軽いキスをする、
「これは御丁寧にありがとうございます、私はエレイン・アル・ライダー、ユーフォルビア六花商会代表、子爵家のものです、宜しくお願い致します」
エレインは条件反射で丁寧に腰を折って頭を垂れる、
「うん、で、そのお付きの者共は?」
ルーツはいやらしい眼でソフィアとユーリを見るが、
「じゃ、お茶淹れるわね」
「ほら、そこ座んなさいな」
ソフィアは席を立ち、ユーリは顎で対面の席を差すのであった。
「で、商売の話と思っていいんだろ?」
ルーツは早速とばかりに揉み手でエレインに問う、
「はい、えっと、今度私共の店を開店する事になりまして」
エレインは先程のユーリとソフィアの言葉を思い出すが、緊張したまま理路整然と人材に関する相談を始めた、
「へー、そっか、商会も設立して店も出すのか、エレイン嬢大したもんだなぁ」
クロノスは静かに驚いている、エレイン周りの事はパトリシアにはソフィアが少なからず報告しているが、クロノスにはその話がいっていないらしい、
「はい、ありがとうございます、その光栄です」
クロノスの簡素な誉め言葉をエレインは素直に受け取った、
「パトリシアは知っているのか?」
「私が時々報告してるわよ、黙ってたら怒られちゃうわ」
ソフィアがそれぞれの前に茶を置きながら笑って答えた、
「そうか、で、信用できる人材なぁ?」
クロノスはルーツを見る、
「うんうん、分かった、任せろと言いたいが」
ルーツは腕組みをして眼を瞑ると考え込む、
「あんた、人なら騎士から娼婦までなんでもござれなんでしょ」
「そうそう、そう聞いてるからわざわざお呼びたてしましたのよ、こんな事でもなければ声かかんないんだからね」
ユーリとソフィアは冷たい視線でルーツに心的圧力をかけていく、片目を空けてそんな二人をチラリと見ると鼻で笑ってポンと膝を叩くと、
「うん、丁度良さそうなのが5人いる」
そう言って茶に手を伸ばした、
「そうですか、良かった・・・」
エレインがホッとした瞬間に、
「ただし、人だ、アンタの条件では嫌な者もいるだろうし、俺から見てどんなに良い人でもアンタと生理的に合わないのもいる、さらには仕事そのものも合わないと長続きはしない、他にも・・・まぁ実際にやってみると色んな問題があるが・・・その点理解しているか?」
茶を一口啜ると、
「これは美味い茶だな」
と脱線しつつ、
「どうやら、アンタは良い経営者になれるだろう、人見の俺が言うんだ間違い無い、が、雇用主として今、アンタの頭にあるのは単純な労働者では無く、一緒に経営に参画できる程の人間なんじゃないか?」
「えっと・・・」
エレインは何と答えていいかと言葉に詰まると、
「いや、それでいいんだ、設立したばかりの商会なんてそんなもんだ、アンタ一人で出来る事なんて大した分量ではないからな、せめて経理関係で任せられる人はいるのか?」
「はい、それは大丈夫です、優秀な友がおります」
エレインはオリビアの事を友と呼んだ、
「他に頼れる人は?」
「それは、それこそいっぱいです、その、ありがたい事ですが」
チラリと隣りに座るソフィアとユーリを見る、二人共ルーツの話を静かに聞いているが口元と目元に嫌悪感が表れていた、ルーツはさらにエレインの視線を追って隣りに座るクロノスをチラリと見る、
「うん、そうか、分かった、ならその5人にさっきの条件で声を掛けよう、何人が手を上げるか分からないが、その上で直接面接してくれ、採用は勝手にどうぞ、商売としては俺は請け負えない」
ルーツはそう断言した、
「えっ、あなたどうしたの?お金も貸しも無し?何、死ぬの?」
ユーリは呆気に取られてルーツを見る、
「うん、どれだけ吹っ掛けられるかと用心して私達が同席してるのよ、えっ、病気?」
ソフィアもユーリ同様に大変に失礼な物言いである、
「あん、なんだ、喧嘩売ってんのか、こっちは真面目な話をしているんだぞ」
「そういうわけではないけど、えっ、クロノス、この人大丈夫?」
ユーリが不安気に問うと
「大丈夫だろ、単に自分が挟まって動いても利益は薄いと判断したのさ、だろ?」
クロノスは冷静である、
「おう、流石王様、その通り」
ルーツはニヤリと笑みして、
「俺は人を働かせてなんぼでね、できれば20人単位でだ、その規模であれば俺か俺の部下を一人付けて業務を丸ごと請け負っているんだよ、でも、今回は5~6人もいれば十分だろ?なら、俺やうちの商会が間に入ってもな、高くつくぞ、だからさ、この程度の規模であれば人材の紹介だけやってるんだよ、うちではな、ただし・・・」
ルーツは人差し指を立てると、
「そうだな、次回からは紹介料は一人あたり銀貨2枚、但し正式に雇用された場合のみ・・・でどうだ?」
エレインはなるほどと納得して頷くが、
「あー、やっとそれらしくなったわー」
「うんうん、ルーツがただ働きなんて有り得ないもんねー」
ユーリとソフィアは別の意味で納得したらしい、
「うるせぇな、で、こんな感じでいいか?エレイン会長?」
ルーツは毒づきながらも話を進める、慣れない役職名で呼ばれたエレインは背中に嫌な汗を感じつつ、静かに頷いた、
「おう、なら、細かい条件を確認するぞ」
ルーツは懐から紙とインク壺、羽ペンを取り出す、
「わ、やっぱり、儲けてるとは聞いてたけど」
「うん、打合せで紙を使うなんて、すごいわね」
ユーリとソフィアのからかい半分、やっかみ半分の野次をルーツは無視すると、
「勤務時間とその内容、それと1日の単価か、それと・・・支払いは10日毎?」
紙には幾つかの項目が既に記入されていた、その隣りにエレインから聞き取った条件を記入していく、
「場所は?ユーフォルビア第2女子寮でここいらの人間は分かるのか?」
「あ、番地があります、えっと・・・」
ルーツの聞き取りは順調に進んでいく、ソフィアとユーリはどこか納得していない顔であるがクロノスは当たり前のように茶を啜っていた、
「よしっと、で面接日は明後日はどうだ?」
「はや!」
エレインの代わりにユーリが驚いた、
「なんだよ、早い方がいいだろ、来月には開店なんだからよ」
ルーツは面倒くさそうにユーリを睨み、諸々を書き込んだ書類にあらためて目を落とす、
「うん、でだ、今、考えている人材についてなんだがな」
ルーツはペンを置くと俎上に上がった5人の環境について説明する、
「つまり、勤務時間も給金にも文句は無い、どころかこの勤務時間は主婦には最適と言えるかもしれないな、偶然か故意かはわからんがエレイン会長、良い勘してると思うぜ」
「それはありがとうざいます」
ルーツとの強引な上に早口で進められた聞き取りに目を回しかけていたエレインは、なんとか意識を保ちつつ礼を言う、
「それでな、これは助言だ」
ルーツは腕を組むと顎髭に手を伸ばす、
「始めたばかリの商会には難癖付けてくる奴が絶対にでてくる、この街の裏をアンタ達がどれだけ知っているかは知らんが、それなりにやばい奴がいるぞ」
「へー、それは興味深いわね」
ユーリが身を乗り出した、
「あぁ、でだ、例え後ろにこれが居ても、表には出れんだろう?」
これと言ってクロノスを見る、クロノスはふんと鼻を鳴らした、
「腕が立つのがいれば安心できるが、男でも女でも、まぁ、そいつらが居るんだから少々の事はなんとでもするだろうがさ」
ユーリとソフィアに視線を移す、
「しかし、その少々が厄介でな、下手したら・・・」
「そこまでにしておいてよ」
ソフィアはニンマリとルーツを睨んだ、
「ふん、でだ、厄介避けになるようなのをそうだな、10日程度は雇った方が良いと思うし、今後商売を拡げるつもりなら常勤で一人二人は欲しいだろうな・・・どう思う?」
ルーツは静かにエレインに問う、
「そうですわね、そういうものなのですか・・・」
エレインの経験した事の無い事柄である、何とも判断が出来ない、
「雇うのも金がかかるだろ、一人出すか?」
クロノスが口を挟む、
「あんたが人を出すって、近衛しか動かせないだろう?」
やや驚いてルーツが問うた、
「おう、だから、丁度いいのがいるだろう」
「兄さまですか・・・」
エレインは気まずそうな顔をする、
「なんだ?駄目なのか?」
クロノスの問いにエレインは渋い顔をし、ソフィアは苦笑いを浮かべつつ、
「駄目ではないわよ、けど、あれね、こっちが気を使うかしら」
ソフィアの助け船にエレインはうんうんと頷いた、
「まぁ、そう言うな、あれは俺から見ても使える奴だぞ・・・駄目なのか・・・」
クロノスはソフィアとエレインを見て残念そうな顔になる、
「いえ、大丈夫です、クロノス様のお計らいを無下にはできません、兄を暫く貸して頂けますでしょうか、その、来月の半ば辺りまで」
エレインはキッとクロノスを見詰めて言い切った、
「えっ、大丈夫?」
トーラーの悪癖を理解しているソフィアは心配顔である、
「はい、あれでも兄です、それに皆さんとも面通しは済んでおりますし、全く知らない人よりは良いかと思います」
エレインは背筋を正してソフィアに告げた、
「そうか、うん、なら開店前から7月半ば迄トーラーを派遣しよう」
クロノスは笑顔になる、自分の意見が取り入れられた事もそうであるが、トーラーとエレインの関係をパトリシアにも度々言われていたのである、
「はい、家庭の事まで気遣い下さり誠にありがとうございます」
エレインは頭を下げるのであった。
ユーリはとても優しくエレインに話し掛けた、食堂には硬い表情のエレインと眠そうなユーリ、ソフィアがテーブルを囲んでいる、
「ええ、まぁ・・・」
エレインは言葉を濁し、居住まいを正した、
「でも、警戒はしておいて」
ソフィアはさらっと怖い事を言う、
「・・・すいません、緊張しないで警戒するのですか?」
エレインは困った顔で二人を見る、
「そうよ、その程度は出来るでしょ、大事な事よ」
「そうね、緊張してると頭が働かないでしょ、変に慌てちゃうし、そして警戒は常に怠らず、どのような場合でも、例え寝ててもね」
ソフィアが当然の事のように言う、
「うんうん、冒険者になる時にね先輩によく言われたわ、寝てるときはどうしようもないってその時は思ったもんだけど」
「寝てるときほど警戒しなきゃならないって、あとから何度も身に染みたわね」
ユーリとソフィアはそう言って笑みするがエレインは何と言っていいものかさらに困った顔になる、
「おう、揃ってるな」
そういえばとユーリが口を動かした瞬間に階段から男の声が響き、続いてドカドカと重い足音が二つ響いた、さっとエレインは振り返り腰を上げるが、ユーリとソフィアはそちらを一瞥して、
「あー、変わらないわねー、って、なによその髭は、っていうかなんか薄くなったわね」
「ちょっと、クロノスと並ばない方が良いわよ、クロノスの変貌ぶりが凄すぎるわぁ」
それぞれに普段の口調とはまるで異なる横柄な言葉使いになる、
「ああん、数年ぶりに会う戦友に何言ってんだ、クロノスよ、こいつらしっかり躾たんじゃなかったのかよ」
クロノスと共に下りて来た男は満面の笑顔であるが口からでる言葉がその表情とは一致していない、男はクロノスの隣りに立っている為か小柄に見える、背丈はクロノスの肩口程度、痩せていて顎髭を蓄えており浅黒い肌が目を引いた、しかし特徴的なのは鋭い眼光であろうか、独特のねめつくような視線が室内を一周しソフィアとユーリに向けられた、
「何が躾よ、それはこっちの台詞よ」
「そうよ、クロノスに躾られたのはアンタの方でしょ」
二人共乱暴な言葉使いである、
「ああん、なんだお転婆共が年喰って少しはマシになったかと思えば、まるで変わらねぇじゃねぇか」
特に発言の無いクロノスの隣りで男はガハハと笑い、
「久しぶりだなユーリにソフィア、タロウはどっかいったんだって、なんだ、愛想つかされたか、ん?あのちびっこいのはどこだ、少しはでかくなったのか?」
「そっちこそ、いい年こいて一人なんでしょ、偉そうにしないでよ」
とソフィアが言葉を買うが、
「ちょっと、それ私にも刺さるわよ」
ユーリの非難の目がソフィアに向いた、
「ん、なんだ、独り身は俺だけじゃないようだな・・・へへ、なんだユーリ、俺の事忘れられなかったな、さては」
「うわ、気持ち悪い」
ユーリの心の底からの嫌悪の言葉に、
「はっはっ、良いぞ、ユーリ、元気そうだなぁ、うん」
男は悠揚と笑顔になった、
「ほら、エレイン嬢が固まってるぞ、お前ら、旧交を温めるのはいいが、なんだ、先に相談を済ませてからでいいだろう」
クロノスが3人をやんわりと止めた、
「おう、そうだな、あんたがエレイン嬢か、話は大雑把に聞いてるぞ、ルーツ・リュークだ、リューク商会の代表をやってる、よしなにな」
ルーツは簡単な自己紹介をしてエレインの前に跪きその手を取ると軽いキスをする、
「これは御丁寧にありがとうございます、私はエレイン・アル・ライダー、ユーフォルビア六花商会代表、子爵家のものです、宜しくお願い致します」
エレインは条件反射で丁寧に腰を折って頭を垂れる、
「うん、で、そのお付きの者共は?」
ルーツはいやらしい眼でソフィアとユーリを見るが、
「じゃ、お茶淹れるわね」
「ほら、そこ座んなさいな」
ソフィアは席を立ち、ユーリは顎で対面の席を差すのであった。
「で、商売の話と思っていいんだろ?」
ルーツは早速とばかりに揉み手でエレインに問う、
「はい、えっと、今度私共の店を開店する事になりまして」
エレインは先程のユーリとソフィアの言葉を思い出すが、緊張したまま理路整然と人材に関する相談を始めた、
「へー、そっか、商会も設立して店も出すのか、エレイン嬢大したもんだなぁ」
クロノスは静かに驚いている、エレイン周りの事はパトリシアにはソフィアが少なからず報告しているが、クロノスにはその話がいっていないらしい、
「はい、ありがとうございます、その光栄です」
クロノスの簡素な誉め言葉をエレインは素直に受け取った、
「パトリシアは知っているのか?」
「私が時々報告してるわよ、黙ってたら怒られちゃうわ」
ソフィアがそれぞれの前に茶を置きながら笑って答えた、
「そうか、で、信用できる人材なぁ?」
クロノスはルーツを見る、
「うんうん、分かった、任せろと言いたいが」
ルーツは腕組みをして眼を瞑ると考え込む、
「あんた、人なら騎士から娼婦までなんでもござれなんでしょ」
「そうそう、そう聞いてるからわざわざお呼びたてしましたのよ、こんな事でもなければ声かかんないんだからね」
ユーリとソフィアは冷たい視線でルーツに心的圧力をかけていく、片目を空けてそんな二人をチラリと見ると鼻で笑ってポンと膝を叩くと、
「うん、丁度良さそうなのが5人いる」
そう言って茶に手を伸ばした、
「そうですか、良かった・・・」
エレインがホッとした瞬間に、
「ただし、人だ、アンタの条件では嫌な者もいるだろうし、俺から見てどんなに良い人でもアンタと生理的に合わないのもいる、さらには仕事そのものも合わないと長続きはしない、他にも・・・まぁ実際にやってみると色んな問題があるが・・・その点理解しているか?」
茶を一口啜ると、
「これは美味い茶だな」
と脱線しつつ、
「どうやら、アンタは良い経営者になれるだろう、人見の俺が言うんだ間違い無い、が、雇用主として今、アンタの頭にあるのは単純な労働者では無く、一緒に経営に参画できる程の人間なんじゃないか?」
「えっと・・・」
エレインは何と答えていいかと言葉に詰まると、
「いや、それでいいんだ、設立したばかりの商会なんてそんなもんだ、アンタ一人で出来る事なんて大した分量ではないからな、せめて経理関係で任せられる人はいるのか?」
「はい、それは大丈夫です、優秀な友がおります」
エレインはオリビアの事を友と呼んだ、
「他に頼れる人は?」
「それは、それこそいっぱいです、その、ありがたい事ですが」
チラリと隣りに座るソフィアとユーリを見る、二人共ルーツの話を静かに聞いているが口元と目元に嫌悪感が表れていた、ルーツはさらにエレインの視線を追って隣りに座るクロノスをチラリと見る、
「うん、そうか、分かった、ならその5人にさっきの条件で声を掛けよう、何人が手を上げるか分からないが、その上で直接面接してくれ、採用は勝手にどうぞ、商売としては俺は請け負えない」
ルーツはそう断言した、
「えっ、あなたどうしたの?お金も貸しも無し?何、死ぬの?」
ユーリは呆気に取られてルーツを見る、
「うん、どれだけ吹っ掛けられるかと用心して私達が同席してるのよ、えっ、病気?」
ソフィアもユーリ同様に大変に失礼な物言いである、
「あん、なんだ、喧嘩売ってんのか、こっちは真面目な話をしているんだぞ」
「そういうわけではないけど、えっ、クロノス、この人大丈夫?」
ユーリが不安気に問うと
「大丈夫だろ、単に自分が挟まって動いても利益は薄いと判断したのさ、だろ?」
クロノスは冷静である、
「おう、流石王様、その通り」
ルーツはニヤリと笑みして、
「俺は人を働かせてなんぼでね、できれば20人単位でだ、その規模であれば俺か俺の部下を一人付けて業務を丸ごと請け負っているんだよ、でも、今回は5~6人もいれば十分だろ?なら、俺やうちの商会が間に入ってもな、高くつくぞ、だからさ、この程度の規模であれば人材の紹介だけやってるんだよ、うちではな、ただし・・・」
ルーツは人差し指を立てると、
「そうだな、次回からは紹介料は一人あたり銀貨2枚、但し正式に雇用された場合のみ・・・でどうだ?」
エレインはなるほどと納得して頷くが、
「あー、やっとそれらしくなったわー」
「うんうん、ルーツがただ働きなんて有り得ないもんねー」
ユーリとソフィアは別の意味で納得したらしい、
「うるせぇな、で、こんな感じでいいか?エレイン会長?」
ルーツは毒づきながらも話を進める、慣れない役職名で呼ばれたエレインは背中に嫌な汗を感じつつ、静かに頷いた、
「おう、なら、細かい条件を確認するぞ」
ルーツは懐から紙とインク壺、羽ペンを取り出す、
「わ、やっぱり、儲けてるとは聞いてたけど」
「うん、打合せで紙を使うなんて、すごいわね」
ユーリとソフィアのからかい半分、やっかみ半分の野次をルーツは無視すると、
「勤務時間とその内容、それと1日の単価か、それと・・・支払いは10日毎?」
紙には幾つかの項目が既に記入されていた、その隣りにエレインから聞き取った条件を記入していく、
「場所は?ユーフォルビア第2女子寮でここいらの人間は分かるのか?」
「あ、番地があります、えっと・・・」
ルーツの聞き取りは順調に進んでいく、ソフィアとユーリはどこか納得していない顔であるがクロノスは当たり前のように茶を啜っていた、
「よしっと、で面接日は明後日はどうだ?」
「はや!」
エレインの代わりにユーリが驚いた、
「なんだよ、早い方がいいだろ、来月には開店なんだからよ」
ルーツは面倒くさそうにユーリを睨み、諸々を書き込んだ書類にあらためて目を落とす、
「うん、でだ、今、考えている人材についてなんだがな」
ルーツはペンを置くと俎上に上がった5人の環境について説明する、
「つまり、勤務時間も給金にも文句は無い、どころかこの勤務時間は主婦には最適と言えるかもしれないな、偶然か故意かはわからんがエレイン会長、良い勘してると思うぜ」
「それはありがとうざいます」
ルーツとの強引な上に早口で進められた聞き取りに目を回しかけていたエレインは、なんとか意識を保ちつつ礼を言う、
「それでな、これは助言だ」
ルーツは腕を組むと顎髭に手を伸ばす、
「始めたばかリの商会には難癖付けてくる奴が絶対にでてくる、この街の裏をアンタ達がどれだけ知っているかは知らんが、それなりにやばい奴がいるぞ」
「へー、それは興味深いわね」
ユーリが身を乗り出した、
「あぁ、でだ、例え後ろにこれが居ても、表には出れんだろう?」
これと言ってクロノスを見る、クロノスはふんと鼻を鳴らした、
「腕が立つのがいれば安心できるが、男でも女でも、まぁ、そいつらが居るんだから少々の事はなんとでもするだろうがさ」
ユーリとソフィアに視線を移す、
「しかし、その少々が厄介でな、下手したら・・・」
「そこまでにしておいてよ」
ソフィアはニンマリとルーツを睨んだ、
「ふん、でだ、厄介避けになるようなのをそうだな、10日程度は雇った方が良いと思うし、今後商売を拡げるつもりなら常勤で一人二人は欲しいだろうな・・・どう思う?」
ルーツは静かにエレインに問う、
「そうですわね、そういうものなのですか・・・」
エレインの経験した事の無い事柄である、何とも判断が出来ない、
「雇うのも金がかかるだろ、一人出すか?」
クロノスが口を挟む、
「あんたが人を出すって、近衛しか動かせないだろう?」
やや驚いてルーツが問うた、
「おう、だから、丁度いいのがいるだろう」
「兄さまですか・・・」
エレインは気まずそうな顔をする、
「なんだ?駄目なのか?」
クロノスの問いにエレインは渋い顔をし、ソフィアは苦笑いを浮かべつつ、
「駄目ではないわよ、けど、あれね、こっちが気を使うかしら」
ソフィアの助け船にエレインはうんうんと頷いた、
「まぁ、そう言うな、あれは俺から見ても使える奴だぞ・・・駄目なのか・・・」
クロノスはソフィアとエレインを見て残念そうな顔になる、
「いえ、大丈夫です、クロノス様のお計らいを無下にはできません、兄を暫く貸して頂けますでしょうか、その、来月の半ば辺りまで」
エレインはキッとクロノスを見詰めて言い切った、
「えっ、大丈夫?」
トーラーの悪癖を理解しているソフィアは心配顔である、
「はい、あれでも兄です、それに皆さんとも面通しは済んでおりますし、全く知らない人よりは良いかと思います」
エレインは背筋を正してソフィアに告げた、
「そうか、うん、なら開店前から7月半ば迄トーラーを派遣しよう」
クロノスは笑顔になる、自分の意見が取り入れられた事もそうであるが、トーラーとエレインの関係をパトリシアにも度々言われていたのである、
「はい、家庭の事まで気遣い下さり誠にありがとうございます」
エレインは頭を下げるのであった。
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ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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