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本編
18話 思いがけない贈り物 その1
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「あー、こりゃまずいんでない?」
食堂でジャネットはケイスに囁いた、
「そうですね、これは、まずいですね・・・」
ケイスも囁き声で答える、二人の視線の先にはスプーンを手にしたまま朝食のトレーを見詰め続けるエレインがいる、その目は虚ろで焦点が合っていない、さらに時折小さな溜息を吐いている、
「ちょっと、オリビア、大丈夫なの?」
ジャネットは厨房から出てきたばかりのオリビアを捕まえる、
「・・・分かりません」
オリビアも何とも困った顔でそれだけを口にした、
「どうしたの、どうしたの?」
何やら内緒話をしていると勘繰ったミナが三人に囁く、
「しっ、ミナはちょっと静かにしてて」
「むー、ジャネット、イジワルー」
「違うの、意地悪じゃないの、お願い、ね」
ケイスはミナを優しく諭し、どうやら様子がおかしいなと悟ったミナは、不満顔のままその場を離れた、
「・・・うーん、どう、声をかけたもんだか・・・」
「あの、いつものように、軽い感じでどうでしょう?」
「・・・無理」
「そんなぁ」
「だって、弱ってる人に鞭打つ感じになっちゃうぜ、そういうのは違うだろー」
「そうですけどー・・・そうか、ジャネットさんもあれですね、ちゃんと考えてはいるんですね」
「わ、ケイス、それは酷いよ、これでも正義の味方ジャネット様だぜ」
「自分でいいますそれ?」
「自分以外誰が言うんだよー、こういうのは心意気よ心意気」
「・・・心意気のある人はそんな事言いませんよ」
オリビアの冷静な指摘にジャネットはムグっと黙り込んだ、
「あら、みんな朝食は済んだでしょ、どうしたの?」
スッと厨房からソフィアが顔を出す、
「えっと、あの・・・」
とケイスが視線で訴えかけた、ソフィアはその視線を追ってエレインの様子に気付く、暫しエレインを見詰め、その異変に気付いたのか、
「あらあら」
とソフィアは困ったような顔をして、スッと顔を引っ込めた、
「ありゃ、ソフィアさんでも駄目かしら?」
「うーん、王様は迷宮に入らない?」
「それは、お嬢様に失礼です」
「そうだけどさー」
3人の密談は続くがなんともしようの無い状態にも変化は無い、すると、
「ねー、エレイン様ー、どうしたのー」
ミナがトテトテとエレインの前の席に座った、
「ありゃ、どうなる?」
3人はこういう時はミナがいたと再認識し、その遠慮の無い突破力に一縷の希望を見出した、
「お腹痛いのー?えっと、あれ、呑み過ぎ?」
ミナは小首を傾げてエレインを見上げるが、エレインはえー、まー、と言葉を発しかねている、
「うんとねー、お腹痛い時は無理して食べないでいいのよ、それと、呑み過ぎの時は、なんだっけ、お水が欲しいってタロウは言ってたよ」
優しく労わろうとするミナにエレインは力の無い笑みを向ける、
「元気が無い時はねー、そうだ、あのね、レインにね、元気になる魔法をかけてもらうの、すごい気持ちいいんだよ、ね、レイン」
ミナが振り返りレインを見る、
「うむ、でも、あれじゃな、病気ではないぞ、だから魔法は無しじゃ」
レインは冷たく言い放つ、
「えー、ぶー、レインのケチー、もう、ジャネットはイジワルだし、今日は何か変だなー」
ミナは不満顔でテーブルに頬を付けてエレインを片目で見上げる、
「うん、じゃぁね、あ、そうだ、昨日ね、イージス君がねー」
「イージス君・・・」
ミナの口からその名が出た瞬間、エレインはポロポロと落涙する、
「どうしたの?やっぱりお腹痛い?ソフィ呼んでくる?」
ミナは珍しく慌て始め、三人はあーと原因を理解した、
「なるほど、イージスきゅんだったかー」
「恐らくこれはマリア様も含めてですかね」
「うーん、イージスロスでホームシックかノスタルジアだったかな、な感じですかね、これは、ちょっと対処のしようが無さそうだぞ」
3人はそれぞれに納得しつつ溜息を吐くのであった。
それから調子の変わらないエレインを心配してオリビアが学校を休み、エレインの自室にて二人は静かに事務仕事に取り掛かった、今日は給料日であると告知してある為従業員の出勤状況を精査し金額を割り出していく、しかし、その作業中もエレインは心ここに非ずで、作業のほとんどはオリビアが担当し、エレインは支払い明細の木簡にサインをするだけの淡々とした時間が過ぎていく、
「はー、どうしたもんでしょう?」
仕事を一通り終えたオリビアが食堂に下りてくる、ミナとレインの勉強を見ていたソフィアに縋るような目付きで訴えかけた、
「んー、やっぱり駄目?」
ソフィアは短くなった白墨を指先でもてあそびつつ、そろそろ注文しようかしら等と考えていた所であった、
「はい、なんとも、はい」
エレインの不調が移ったようにオリビアも精彩を欠いて溜息を吐く、
「そっかー、んー、ああいうのはあれじゃない?時間が解決するもんじゃないかしら?」
「そうですが・・・その仕事の方もありますし、それに、折角、順調に動き出していた所です、以前のお嬢様よりも酷い状態なので・・・」
「エレイン様やっぱり病気なのー?」
二人の会話にミナが割り込んでくる、
「うーん、病気というか、なんというか・・・」
再びオリビアは大きな溜息を吐いた、
「そっかー、うーん、じゃ、荒療治というか、そうね、ちょっと話してみるわ」
とソフィアは席を立ち、ミナとレインをオリビアに頼むと、厨房へ入った、
「話してみるって、お嬢様と話すのではないのですか・・・」
オリビアは不安気にソフィアの背を見送り、ソフィアの座っていた席に座る、
「・・・えっと、何をしていたの?」
根が真面目なオリビアは二人の前にある黒板に目を落とした、それから暫くオリビアはミナとレインに計算を教える、レインはともかくとしてミナは既に足し算引き算を習得しており、その桁を増やしても時間はかかるが正確な答えを導きだした、どうやら独特の計算方法を使いこなしている様子で、ミナ曰く、
「えっとね、タロウがソフィに教えて、んで、ソフィがミナに教えてくれたの」
嬉しそうに話す、オリビアは未だ姿を表さないソフィアの夫でミナの父親というタロウという人物に興味を覚えつつ、逆にその計算方法を教えてもらうのであった。
「はいはい、エレインさんはまだ上?」
ミナが勉強に飽きてきた丁度良い頃合いでソフィアが食堂に戻ってきた、
「は、はい、上に居ります」
オリビアはミナの集中力を取り戻そうとあれこれと思案しつつ、子供の勉強の相手は何とも難しいものだと思い知った所であった、
「そう、じゃ、すぐに呼んできて、それと心配だからオリビアさんも一緒に行きなさい」
ソフィアはニコヤカにオリビアに告げるが、
「えっと、どこにでしょうか?」
「あー、ま、いいから呼んできて」
オリビアは訝し気な顔をしつつも腰を上げ2階へ消えた、ややあってエレインを伴って下りてくる、
「じゃ、おいで、ミナとレインは待っててね、すぐ戻るから、そうね、お絵描きしてていいわよ」
素直な返事が二つ響き、その声を背後にソフィアは二人を寮母宿舎へ誘う、
「えっと、どちらに行かれるのですか?」
オリビアは不安気にソフィアへ問うた、
「オリビアさんは初めてよね、そうね、どうやってリシア様達がこっちに来てるかって、疑問じゃなかった?」
「・・・そうですね、疑問といえば疑問ですが、その、そういったもんかなって思ってました・・・」
「あー、オリビアさんだとそうかー、中々難しいわねー」
ソフィアは納得して頷いた、恐らくであるがレインの持つ認識拡散が働いているのである、
「そうなると、ま、いいか」
と二人を宿舎内の玄関脇、クロノスの屋敷に続く転送陣へ連れて行くと、
「ほら、しっかりしなさい」
とエレインに声を掛けつつ、転送陣内へ二人を押し込んだ、
「じゃ、後は宜しくね」
ソフィアは転送陣から顔を出すと、
「はい、承りました」
アフラが丁寧に頭を垂れる、その隣りにはボーっとしたままのエレインと、正に狐につままれた顔をしたオリビアが室内をキョロキョロと見渡していた、
「まったく、甘やかすのは今日だけよ、いいわね、エレインさん」
ソフィアはニヤリと笑みして寮へ戻るのであった。
食堂でジャネットはケイスに囁いた、
「そうですね、これは、まずいですね・・・」
ケイスも囁き声で答える、二人の視線の先にはスプーンを手にしたまま朝食のトレーを見詰め続けるエレインがいる、その目は虚ろで焦点が合っていない、さらに時折小さな溜息を吐いている、
「ちょっと、オリビア、大丈夫なの?」
ジャネットは厨房から出てきたばかりのオリビアを捕まえる、
「・・・分かりません」
オリビアも何とも困った顔でそれだけを口にした、
「どうしたの、どうしたの?」
何やら内緒話をしていると勘繰ったミナが三人に囁く、
「しっ、ミナはちょっと静かにしてて」
「むー、ジャネット、イジワルー」
「違うの、意地悪じゃないの、お願い、ね」
ケイスはミナを優しく諭し、どうやら様子がおかしいなと悟ったミナは、不満顔のままその場を離れた、
「・・・うーん、どう、声をかけたもんだか・・・」
「あの、いつものように、軽い感じでどうでしょう?」
「・・・無理」
「そんなぁ」
「だって、弱ってる人に鞭打つ感じになっちゃうぜ、そういうのは違うだろー」
「そうですけどー・・・そうか、ジャネットさんもあれですね、ちゃんと考えてはいるんですね」
「わ、ケイス、それは酷いよ、これでも正義の味方ジャネット様だぜ」
「自分でいいますそれ?」
「自分以外誰が言うんだよー、こういうのは心意気よ心意気」
「・・・心意気のある人はそんな事言いませんよ」
オリビアの冷静な指摘にジャネットはムグっと黙り込んだ、
「あら、みんな朝食は済んだでしょ、どうしたの?」
スッと厨房からソフィアが顔を出す、
「えっと、あの・・・」
とケイスが視線で訴えかけた、ソフィアはその視線を追ってエレインの様子に気付く、暫しエレインを見詰め、その異変に気付いたのか、
「あらあら」
とソフィアは困ったような顔をして、スッと顔を引っ込めた、
「ありゃ、ソフィアさんでも駄目かしら?」
「うーん、王様は迷宮に入らない?」
「それは、お嬢様に失礼です」
「そうだけどさー」
3人の密談は続くがなんともしようの無い状態にも変化は無い、すると、
「ねー、エレイン様ー、どうしたのー」
ミナがトテトテとエレインの前の席に座った、
「ありゃ、どうなる?」
3人はこういう時はミナがいたと再認識し、その遠慮の無い突破力に一縷の希望を見出した、
「お腹痛いのー?えっと、あれ、呑み過ぎ?」
ミナは小首を傾げてエレインを見上げるが、エレインはえー、まー、と言葉を発しかねている、
「うんとねー、お腹痛い時は無理して食べないでいいのよ、それと、呑み過ぎの時は、なんだっけ、お水が欲しいってタロウは言ってたよ」
優しく労わろうとするミナにエレインは力の無い笑みを向ける、
「元気が無い時はねー、そうだ、あのね、レインにね、元気になる魔法をかけてもらうの、すごい気持ちいいんだよ、ね、レイン」
ミナが振り返りレインを見る、
「うむ、でも、あれじゃな、病気ではないぞ、だから魔法は無しじゃ」
レインは冷たく言い放つ、
「えー、ぶー、レインのケチー、もう、ジャネットはイジワルだし、今日は何か変だなー」
ミナは不満顔でテーブルに頬を付けてエレインを片目で見上げる、
「うん、じゃぁね、あ、そうだ、昨日ね、イージス君がねー」
「イージス君・・・」
ミナの口からその名が出た瞬間、エレインはポロポロと落涙する、
「どうしたの?やっぱりお腹痛い?ソフィ呼んでくる?」
ミナは珍しく慌て始め、三人はあーと原因を理解した、
「なるほど、イージスきゅんだったかー」
「恐らくこれはマリア様も含めてですかね」
「うーん、イージスロスでホームシックかノスタルジアだったかな、な感じですかね、これは、ちょっと対処のしようが無さそうだぞ」
3人はそれぞれに納得しつつ溜息を吐くのであった。
それから調子の変わらないエレインを心配してオリビアが学校を休み、エレインの自室にて二人は静かに事務仕事に取り掛かった、今日は給料日であると告知してある為従業員の出勤状況を精査し金額を割り出していく、しかし、その作業中もエレインは心ここに非ずで、作業のほとんどはオリビアが担当し、エレインは支払い明細の木簡にサインをするだけの淡々とした時間が過ぎていく、
「はー、どうしたもんでしょう?」
仕事を一通り終えたオリビアが食堂に下りてくる、ミナとレインの勉強を見ていたソフィアに縋るような目付きで訴えかけた、
「んー、やっぱり駄目?」
ソフィアは短くなった白墨を指先でもてあそびつつ、そろそろ注文しようかしら等と考えていた所であった、
「はい、なんとも、はい」
エレインの不調が移ったようにオリビアも精彩を欠いて溜息を吐く、
「そっかー、んー、ああいうのはあれじゃない?時間が解決するもんじゃないかしら?」
「そうですが・・・その仕事の方もありますし、それに、折角、順調に動き出していた所です、以前のお嬢様よりも酷い状態なので・・・」
「エレイン様やっぱり病気なのー?」
二人の会話にミナが割り込んでくる、
「うーん、病気というか、なんというか・・・」
再びオリビアは大きな溜息を吐いた、
「そっかー、うーん、じゃ、荒療治というか、そうね、ちょっと話してみるわ」
とソフィアは席を立ち、ミナとレインをオリビアに頼むと、厨房へ入った、
「話してみるって、お嬢様と話すのではないのですか・・・」
オリビアは不安気にソフィアの背を見送り、ソフィアの座っていた席に座る、
「・・・えっと、何をしていたの?」
根が真面目なオリビアは二人の前にある黒板に目を落とした、それから暫くオリビアはミナとレインに計算を教える、レインはともかくとしてミナは既に足し算引き算を習得しており、その桁を増やしても時間はかかるが正確な答えを導きだした、どうやら独特の計算方法を使いこなしている様子で、ミナ曰く、
「えっとね、タロウがソフィに教えて、んで、ソフィがミナに教えてくれたの」
嬉しそうに話す、オリビアは未だ姿を表さないソフィアの夫でミナの父親というタロウという人物に興味を覚えつつ、逆にその計算方法を教えてもらうのであった。
「はいはい、エレインさんはまだ上?」
ミナが勉強に飽きてきた丁度良い頃合いでソフィアが食堂に戻ってきた、
「は、はい、上に居ります」
オリビアはミナの集中力を取り戻そうとあれこれと思案しつつ、子供の勉強の相手は何とも難しいものだと思い知った所であった、
「そう、じゃ、すぐに呼んできて、それと心配だからオリビアさんも一緒に行きなさい」
ソフィアはニコヤカにオリビアに告げるが、
「えっと、どこにでしょうか?」
「あー、ま、いいから呼んできて」
オリビアは訝し気な顔をしつつも腰を上げ2階へ消えた、ややあってエレインを伴って下りてくる、
「じゃ、おいで、ミナとレインは待っててね、すぐ戻るから、そうね、お絵描きしてていいわよ」
素直な返事が二つ響き、その声を背後にソフィアは二人を寮母宿舎へ誘う、
「えっと、どちらに行かれるのですか?」
オリビアは不安気にソフィアへ問うた、
「オリビアさんは初めてよね、そうね、どうやってリシア様達がこっちに来てるかって、疑問じゃなかった?」
「・・・そうですね、疑問といえば疑問ですが、その、そういったもんかなって思ってました・・・」
「あー、オリビアさんだとそうかー、中々難しいわねー」
ソフィアは納得して頷いた、恐らくであるがレインの持つ認識拡散が働いているのである、
「そうなると、ま、いいか」
と二人を宿舎内の玄関脇、クロノスの屋敷に続く転送陣へ連れて行くと、
「ほら、しっかりしなさい」
とエレインに声を掛けつつ、転送陣内へ二人を押し込んだ、
「じゃ、後は宜しくね」
ソフィアは転送陣から顔を出すと、
「はい、承りました」
アフラが丁寧に頭を垂れる、その隣りにはボーっとしたままのエレインと、正に狐につままれた顔をしたオリビアが室内をキョロキョロと見渡していた、
「まったく、甘やかすのは今日だけよ、いいわね、エレインさん」
ソフィアはニヤリと笑みして寮へ戻るのであった。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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