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本編
20話 ガラス鏡はロールケーキとともに その2
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翌日、
「こんちわー」
玄関先に明るい声が響く、
「何ですかこれー」
続いて大声が寮の一階に響いた、はいはいとソフィアは作業の手を止めると玄関へ向かう、
「あ、こんにちはです、納品にお邪魔しました」
声の主はブノワトである、その後ろにはブラスの姿が見えた、
「お疲れ様、納品って事は例のあれ?」
「はい、例のあれです、で、これは一体?」
とブノワトは壁の一文に視線を移す、
「そのままよ、字は読めるでしょ」
「そりゃ読めますけど、なんでこんな事を?」
とブノワトは首を傾げる、
「なんでもかんでもそうなったの、それが手桶で手拭・・・足拭いかしら・・・はそこね、で、来客用はこちらのスリッパを履いてもらうわ、それと履物は邪魔にならないように並べて貰えればいいからね」
ソフィアは当然のように言って、
「ちゃんと綺麗にしてねー、あ、そこのベンチに座ると楽よー」
とニヤリと笑みして引っ込んだ、残されたブノワトは傾げた首はそのままに、
「また、何か始めたのかしら・・・」
とポツリと呟き、しようがないかとベンチに腰掛けるのであった。
「これ、気持いいですねー」
ブノワトが食堂に入るとソフィアはテーブル上の端切の山と裁縫道具を簡単に片付けていた、
「そうでしょー、ブノワトさんなら分かると思ったわー」
と笑い乍ら手を動かす、
「この履物は作ったんですか?」
「そうよ、ほら、これがその残骸?というか元?」
とソフィアはブノワトに向き直りつつテーブルを指す、
「なるほど、流石ソフィアさんですね、裁縫もお得意とは」
「やー、この程度は誰でもできるでしょー、で、研究所に持ってく?」
「あ、どうしましょう、結構大きいですよ、それと、男手が欲しいと思いますね」
「そっかー、じゃ、どうしようかな」
とソフィアはこめかみに指を当て、
「取り合えず、サビナさん呼んでくるわ、ちょっと待ってて」
とパタパタと階段へ向かった、
「や、これ気持ちいいな」
遅れてブラスがのそりと入って来る、
「ソフィアさんが作ったみたいよ」
とブノワトが振り返るのと同時に、
「なんだ、この床?いつ張り替えたんだ?」
とその目は艶やかに輝く床へ向けられた。
「あら、どうしたの?」
サビナを連れたソフィアが食堂へ戻るとブラスが床に蹲っている、
「あ、ほら、ソフィアさん来たわよ、あ、サビナさんこんちわです」
「こんにちは、予定通りねー、期日通りのお仕事は嬉しい限りよー」
サビナは大きな身体を揺らしつつ笑顔である、
「えへへ、そう言って貰えると頑張ったかいがありますよ、って、こら、あんた」
ブノワトが型に嵌った挨拶を終えてもブラスは床から離れない、
「どうしたの?」
と再びソフィアが問うと、
「すんません、この床はどうやってこんなに磨いたんですか」
ブラスは両手をついたまま顔だけをあげてソフィアを見る、
「えー、まぁ、掃除したから?」
「掃除したのは分かりますが、煤汚れも泥汚れも無いですよ、どういう事です?」
ブラスは漸く上半身を上げた、
「どうといわれてもねー」
とソフィアは何とか誤魔化そうと愛想笑いとなる、
「もー、今日は納品でしょ、それはまた別に聞こうよ、仕事してからでいいじゃない」
ブノワトは囁き声ながらもややキツイ言葉となる、
「あー、分かった、うん」
とブラスは渋々と立ち上がると、
「で、どうしましょう、一旦確認頂いてから設置場所を指示下さい、恐らくですが女性の手だと移動するのはちょっとばかり難しいかなと思いますんで」
とブラスは切り替えの速さを見せる、
「サビナさんとしてはどう?」
とソフィアは曖昧に問い掛ける、
「どう?と言われるとあれですが、厨房でいいんじゃないですか?それとも食堂に置きます?」
「あ、それも良さそうね、厨房だと狭いかなーって思ってたから、食糧庫も物でいっぱいだしね」
「そうですか、取り合えず、確認してからにしましょう」
と四人は表に出る事とした、
「あ、外出る時はこのつっかけを使ってね、これも楽でいいわよー」
とソフィアはブノワトとブラスにつっかけを棚から取って手渡した、
「へー、なるほど、そういう事ですか」
とブラス、
「うん、サンダル履き直すの面倒だなって思っちゃったけど、こういう事なのねー」
ブノワトも納得している、そして4人は街路に置いたままの荷車を囲む、
「では、御確認下さい」
そう言ってブラスが筵を取ると、木で作った巨大な木箱が姿を表した、
「おおー、そっかー、やっぱ、こうなるよねー」
とソフィア、
「うん、うん、寸法は予定通りですね、中はどうです?」
とサビナはブラスに問う、
「はい、中もどうぞ」
とブラスは木箱の天板を持ち上げた、中身は空っぽである、全く何も入っていない、が、普通の木箱との大きな違いはその分厚い側板であろうか、その厚い側板のお陰で見た目に反してその収納量は大きくは無さそうである、
「寸法通りですが、どうでしょう?内容量がかなり少ないとも思いますが」
とブラス、
「そうね、見た目と中身の差が凄いわね」
とソフィア、
「でも、こんなもんでしょう、試作品としては十分かと思いますよ」
とサビナ、
「御注文通り、側板と底板にはおが屑をパンパンに詰めてあります、で、接合部は膠で全く隙間が出来ないようにしてあります、水を入れても洩れないはずです、やってはいませんがね」
とブラスは胸を張り、
「だもんで重いんですわ」
と続けた、
「そうね、なるほど」
とサビナは頷き、
「そうなると3階へ持って上がるのは酷ってものね、やはり食堂でいいんじゃないですか」
とソフィアを見る、
「サビナさんがそれでいいならいいわよ、食堂なら私としても、生徒さん達も使いやすいし」
「なら決定ですね、じゃ、食堂にお願いします」
了解ですとブラスは天板を下ろしてブノワトを見る、
「あ、すいません、先にこれを」
とブノワトは荷車に載せられた革袋を開くと、
「はい、これは重くないですよ」
と笑みしてソフィアに中身を見せた、
「あら、すごい、これはすごいわ、想像通り」
ソフィアは中身の一つを取り出した、それは針金で出来たイチジクのような形状の品である、
「おー、仕事早いねー」
「えへへ、こっちは私の専門ですからね、気合入れて作りました」
「うんうん、確かに軽いわ、強度はどんなもん?」
「あー、曲げようと思えば曲がります、でも、用途を聞く限り十分かと思いますよ」
「そっか、これは楽しくなりそうだわ」
ソフィアは小躍りしつつほくそ笑むのであった。
「わー、これ何ー」
「ふふん、便利なものよー、たぶん」
とブノワトはミナに微笑みかける、
「そっかー、乗ってもいい?」
「それは駄目ー、サビナさんに怒られちゃうわよー」
ブラスとブノワトによりその箱は食堂の一角に設置された、作業を終える頃にミナとレインが買い物から帰り、早速用途不明の箱に興味津々となる、
「はい、お待たせー」
サビナが陶器版を胸に抱えて下りて来た、
「うん、待ったー、で、どうするのー」
ミナがサビナを見上げて問う、
「待ったかー、じゃ、もうちっと待ってねー」
とサビナは箱を開けると、天板の裏に陶器板を取り付ける、
「おおー、ぴったりね流石ブラスさん」
サビナの感嘆の声に、ブラスはへへと照れ笑いを浮かべる、
「で、固定はどうするの?」
「はいはい、この板でこう、2か所で押さえる感じで」
とブラスはサビナの隣りに立って実例を見せる、
「なるほど、これなら取り外しも楽ね、穴は、あ、これか」
と白色の紐を器用に通すともう一枚の陶器板に接続した、
「はい、で、穴はどうします?膠か蝋で塞ぎます?」
「うーん、そうね、どっちが楽かしら?」
「そうですねー」
とブラスはそれぞれの利点を上げるが、サビナは自身でも加工が可能との理由で蝋を選択した、ではその通りにとブラスは蝋で紐を通した穴を塞ぐ、
「さて、こんなもんですかね」
「そうね、では、作動実験をします」
サビナは操作板を手に取るとその魔法陣に指を滑らせる、すると操作板の一部に氷の文様が浮かび上がった、
「さて、これで、ちょっと様子を見ましょうか」
一見すると箱の方にはなんの変化も無い、
「これでいいんですかい?」
ブラスが若干不安になりつつ、サビナに問うと、
「そうね、すぐに効果が出るものではないからね、待ちましょう」
とサビナは操作板を箱の上に置くと、
「さて、じゃ、支払いを先にしちゃいましょう」
と懐から革袋を取り出すのであった。
「こんちわー」
玄関先に明るい声が響く、
「何ですかこれー」
続いて大声が寮の一階に響いた、はいはいとソフィアは作業の手を止めると玄関へ向かう、
「あ、こんにちはです、納品にお邪魔しました」
声の主はブノワトである、その後ろにはブラスの姿が見えた、
「お疲れ様、納品って事は例のあれ?」
「はい、例のあれです、で、これは一体?」
とブノワトは壁の一文に視線を移す、
「そのままよ、字は読めるでしょ」
「そりゃ読めますけど、なんでこんな事を?」
とブノワトは首を傾げる、
「なんでもかんでもそうなったの、それが手桶で手拭・・・足拭いかしら・・・はそこね、で、来客用はこちらのスリッパを履いてもらうわ、それと履物は邪魔にならないように並べて貰えればいいからね」
ソフィアは当然のように言って、
「ちゃんと綺麗にしてねー、あ、そこのベンチに座ると楽よー」
とニヤリと笑みして引っ込んだ、残されたブノワトは傾げた首はそのままに、
「また、何か始めたのかしら・・・」
とポツリと呟き、しようがないかとベンチに腰掛けるのであった。
「これ、気持いいですねー」
ブノワトが食堂に入るとソフィアはテーブル上の端切の山と裁縫道具を簡単に片付けていた、
「そうでしょー、ブノワトさんなら分かると思ったわー」
と笑い乍ら手を動かす、
「この履物は作ったんですか?」
「そうよ、ほら、これがその残骸?というか元?」
とソフィアはブノワトに向き直りつつテーブルを指す、
「なるほど、流石ソフィアさんですね、裁縫もお得意とは」
「やー、この程度は誰でもできるでしょー、で、研究所に持ってく?」
「あ、どうしましょう、結構大きいですよ、それと、男手が欲しいと思いますね」
「そっかー、じゃ、どうしようかな」
とソフィアはこめかみに指を当て、
「取り合えず、サビナさん呼んでくるわ、ちょっと待ってて」
とパタパタと階段へ向かった、
「や、これ気持ちいいな」
遅れてブラスがのそりと入って来る、
「ソフィアさんが作ったみたいよ」
とブノワトが振り返るのと同時に、
「なんだ、この床?いつ張り替えたんだ?」
とその目は艶やかに輝く床へ向けられた。
「あら、どうしたの?」
サビナを連れたソフィアが食堂へ戻るとブラスが床に蹲っている、
「あ、ほら、ソフィアさん来たわよ、あ、サビナさんこんちわです」
「こんにちは、予定通りねー、期日通りのお仕事は嬉しい限りよー」
サビナは大きな身体を揺らしつつ笑顔である、
「えへへ、そう言って貰えると頑張ったかいがありますよ、って、こら、あんた」
ブノワトが型に嵌った挨拶を終えてもブラスは床から離れない、
「どうしたの?」
と再びソフィアが問うと、
「すんません、この床はどうやってこんなに磨いたんですか」
ブラスは両手をついたまま顔だけをあげてソフィアを見る、
「えー、まぁ、掃除したから?」
「掃除したのは分かりますが、煤汚れも泥汚れも無いですよ、どういう事です?」
ブラスは漸く上半身を上げた、
「どうといわれてもねー」
とソフィアは何とか誤魔化そうと愛想笑いとなる、
「もー、今日は納品でしょ、それはまた別に聞こうよ、仕事してからでいいじゃない」
ブノワトは囁き声ながらもややキツイ言葉となる、
「あー、分かった、うん」
とブラスは渋々と立ち上がると、
「で、どうしましょう、一旦確認頂いてから設置場所を指示下さい、恐らくですが女性の手だと移動するのはちょっとばかり難しいかなと思いますんで」
とブラスは切り替えの速さを見せる、
「サビナさんとしてはどう?」
とソフィアは曖昧に問い掛ける、
「どう?と言われるとあれですが、厨房でいいんじゃないですか?それとも食堂に置きます?」
「あ、それも良さそうね、厨房だと狭いかなーって思ってたから、食糧庫も物でいっぱいだしね」
「そうですか、取り合えず、確認してからにしましょう」
と四人は表に出る事とした、
「あ、外出る時はこのつっかけを使ってね、これも楽でいいわよー」
とソフィアはブノワトとブラスにつっかけを棚から取って手渡した、
「へー、なるほど、そういう事ですか」
とブラス、
「うん、サンダル履き直すの面倒だなって思っちゃったけど、こういう事なのねー」
ブノワトも納得している、そして4人は街路に置いたままの荷車を囲む、
「では、御確認下さい」
そう言ってブラスが筵を取ると、木で作った巨大な木箱が姿を表した、
「おおー、そっかー、やっぱ、こうなるよねー」
とソフィア、
「うん、うん、寸法は予定通りですね、中はどうです?」
とサビナはブラスに問う、
「はい、中もどうぞ」
とブラスは木箱の天板を持ち上げた、中身は空っぽである、全く何も入っていない、が、普通の木箱との大きな違いはその分厚い側板であろうか、その厚い側板のお陰で見た目に反してその収納量は大きくは無さそうである、
「寸法通りですが、どうでしょう?内容量がかなり少ないとも思いますが」
とブラス、
「そうね、見た目と中身の差が凄いわね」
とソフィア、
「でも、こんなもんでしょう、試作品としては十分かと思いますよ」
とサビナ、
「御注文通り、側板と底板にはおが屑をパンパンに詰めてあります、で、接合部は膠で全く隙間が出来ないようにしてあります、水を入れても洩れないはずです、やってはいませんがね」
とブラスは胸を張り、
「だもんで重いんですわ」
と続けた、
「そうね、なるほど」
とサビナは頷き、
「そうなると3階へ持って上がるのは酷ってものね、やはり食堂でいいんじゃないですか」
とソフィアを見る、
「サビナさんがそれでいいならいいわよ、食堂なら私としても、生徒さん達も使いやすいし」
「なら決定ですね、じゃ、食堂にお願いします」
了解ですとブラスは天板を下ろしてブノワトを見る、
「あ、すいません、先にこれを」
とブノワトは荷車に載せられた革袋を開くと、
「はい、これは重くないですよ」
と笑みしてソフィアに中身を見せた、
「あら、すごい、これはすごいわ、想像通り」
ソフィアは中身の一つを取り出した、それは針金で出来たイチジクのような形状の品である、
「おー、仕事早いねー」
「えへへ、こっちは私の専門ですからね、気合入れて作りました」
「うんうん、確かに軽いわ、強度はどんなもん?」
「あー、曲げようと思えば曲がります、でも、用途を聞く限り十分かと思いますよ」
「そっか、これは楽しくなりそうだわ」
ソフィアは小躍りしつつほくそ笑むのであった。
「わー、これ何ー」
「ふふん、便利なものよー、たぶん」
とブノワトはミナに微笑みかける、
「そっかー、乗ってもいい?」
「それは駄目ー、サビナさんに怒られちゃうわよー」
ブラスとブノワトによりその箱は食堂の一角に設置された、作業を終える頃にミナとレインが買い物から帰り、早速用途不明の箱に興味津々となる、
「はい、お待たせー」
サビナが陶器版を胸に抱えて下りて来た、
「うん、待ったー、で、どうするのー」
ミナがサビナを見上げて問う、
「待ったかー、じゃ、もうちっと待ってねー」
とサビナは箱を開けると、天板の裏に陶器板を取り付ける、
「おおー、ぴったりね流石ブラスさん」
サビナの感嘆の声に、ブラスはへへと照れ笑いを浮かべる、
「で、固定はどうするの?」
「はいはい、この板でこう、2か所で押さえる感じで」
とブラスはサビナの隣りに立って実例を見せる、
「なるほど、これなら取り外しも楽ね、穴は、あ、これか」
と白色の紐を器用に通すともう一枚の陶器板に接続した、
「はい、で、穴はどうします?膠か蝋で塞ぎます?」
「うーん、そうね、どっちが楽かしら?」
「そうですねー」
とブラスはそれぞれの利点を上げるが、サビナは自身でも加工が可能との理由で蝋を選択した、ではその通りにとブラスは蝋で紐を通した穴を塞ぐ、
「さて、こんなもんですかね」
「そうね、では、作動実験をします」
サビナは操作板を手に取るとその魔法陣に指を滑らせる、すると操作板の一部に氷の文様が浮かび上がった、
「さて、これで、ちょっと様子を見ましょうか」
一見すると箱の方にはなんの変化も無い、
「これでいいんですかい?」
ブラスが若干不安になりつつ、サビナに問うと、
「そうね、すぐに効果が出るものではないからね、待ちましょう」
とサビナは操作板を箱の上に置くと、
「さて、じゃ、支払いを先にしちゃいましょう」
と懐から革袋を取り出すのであった。
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