セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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22話 鏡工場と根回しと その1

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翌朝、玄関口にはブラスが顔を出した、

「あら、何か毎日来てない?」

ソフィアの軽口に、

「へへ、そうですね、早速今日から裏の作業に入りますんで、あ、ミナ坊は出来ればその」

と苦笑いを浮かべる、

「そうね、近付かないようにさせるわ」

「それとブノワトがなんか別人みたいになってて」

とブラスは恥ずかしそうに笑みをみせる、

「?あ、そうよね、ふふ、見違えた?」

「はい、そりゃもう、一瞬誰か分かりませんでしたよ、いや、素晴らしい技術ですね、機嫌も良いし、ありがたいことです」

「あら、そうなると、あれね子供も出来そうね」

「いや、それは、また、ほら」

とブラスは誤魔化すように手を振ると、

「じゃ、俺は現場の指揮をとったら戻りますんで、あ、その、もし良かったらですがうちの工場に来ませんか?」

「工場?何しに?」

「えっと、できればサビナさんと、そのガラス鏡の製作で先日お借りした回転機構の相談とか出来ればなとブノワトから相談されまして」

「あー、そうよね、うん、じゃサビナさんに声かけてみるわ、そっち終わったら顔出して」

「はい、宜しくお願いします」

ブラスは頭を下げると職人を連れて裏へ向かった、ソフィアはそのまま3階へ向かい出勤したばかりのサビナを捕まえると、ブラスの言をそのまま伝える、

「あー、いいですよ、カトカはどうする?」

「私はいいかなー、あれはサビナさん主導でしょ」

「工場覗けるわよー」

「それは楽しそうだけど、別の機会にするわ」

カトカは机の上に並べた魔法石に意識を取られている様子である、

「じゃ、そういう事で、すぐですか?」

「現場に入ってからって言ってたから、下で待ちましょう」

ソフィアとサビナが食堂へ下りるとエレインが入って来る所であった、

「あ、ソフィアさん、相談が」

と呼び止められる、

「どうしたのー?」

「すいません、パトリシア様へ書簡を送りたいのですが、それとガラス鏡の件で」

「いいわよ、書簡は預かるわ、ガラス鏡の方は?」

「はい、昨日頂いた手鏡をまずはパトリシア様に贈ろうかと思ってまして、その確認です」

「あら、根回しが分かってきたわね」

ソフィアは微笑み、じゃ、と2人はテーブルを囲み、サビナは例の箱へ向かう、

「でも、3枚しかないでしょ、全部贈るの?」

「そのつもりでした、パトリシア様とクロノス様、それとウルジュラ様にと考えていたのですが」

「そっか、・・・うーん、少し待った方がいいかもね」

「そうですか?」

「うん、出来ればあの位のしっかりした鏡が完成してからとも思うけど」

ソフィアの視線は大型のガラス鏡に向けられた、

「そうですが、昨日のお話を聞く限りでは暫く先になるかと思うのですね」

「・・・それもそうか、そのうちフラッと遊びにくるかもしれないしね、先に話しだけでも通しておいて、あちらに角が立たないようにって事ね」

「はい、そのように考えます」

「分かったわ、エレインさんの言う通りね、書簡はすぐに送りましょう」

とソフィアが木簡に目を通す、

「え、明日?それと私も?」

「そうです、早い方がいいかなと思いまして、それと首謀者がいた方が話しが楽かなと思いました」

「あー、まー、そう?よね、ミナとレインも付いて来るけどいいの?」

「それは当然と向うも考えていらっしゃるのではないですか?」

「・・・ま、そうよね」

とソフィアは立ち上がり、

「あ、じゃ、ここの文言を連れが複数人に変えてもいいんじゃない?」

「連れですか?他に誰を?」

「そうねぇ、あの鏡を作った人ってのはどうかしら?やりすぎかしら?」

ソフィアは首を捻る、

「・・・どうでしょう、向うは良いとしてもこちらが難しいと思いますよ、心臓止まりかねません」

「そうかしら、面識はあるのよね」

「でも、あれですよ、正体は知らないですよ」

「それもそっか、別の機会で良いかしら、どうせ、遊びに来るんだしね、その時で」

ソフィアは納得し、

「ちょっと待っててね、送ってしまうから、あ、ミナとレインも捕まえないと」

とパタパタと宿舎へ走った、

「あ、御免なさい、サビナさんとお仕事だったのですか?」

サビナは例の箱を覗き込んで木簡になにやら書き込んでいる、

「いいわよー、気にしないでー、あ、エレインさんも行く?」

「何処にですか?」

「ブノワトさんの工場だって、昨日打合せした回転機構とか相談したいんだってさ」

「なるほど、工場ですか、面白そうですね」

「うん、じゃ、ブラスさんに聞いてみて許可が出たら皆で行きましょう」

ソフィアがミナとレインを連れて戻り、程無くブラスも顔を出した、許可を得たエレインを含めた一行はヘッケル工務店の工場へと繰り出した。



ヘッケル工務店の工場は工場街の一角にある、以前その裏にある下水道への入り口が有効活用されたのだが、現在は太い荒縄で締め切られていた、

「いらっしゃい、すいません、お呼びだてして、わ、エレインさんも御免なさいね」

ブノワトは恐縮しつつも歓迎する、

「ブノワトねーさん、ちーっす」

ミナが早速走り出してブノワトの足に纏わりついた、

「おはよう、ミナちゃん、朝から元気ね」

「うん、で、で、今日はどうしたの?」

「皆でお仕事のお話よ、そうね、ミナちゃんとレインちゃんには・・・」

ブノワトは工場内を見渡し、

「黒板でお絵描きする?大工さん見ててもいいわよ」

「えっ、大工さんいるの?」

「いるぞ、仕事してるから見てみるか?」

ブラスがニコヤカにミナとレインをブノワトから離して大工達の作業する区画へと案内する、

「じゃ、皆さんはこちらで、研磨の方見て欲しいです」

ブノワトはソフィア達を連れて工場の片隅に向かった、そこには製鉄用の炉が置かれやや距離を置いて燃料が山と積まれている、その隣りには雑多な鉱物が種類毎に木箱に納められており、炉の前には作業用の丸太と椅子、鍛冶仕事用の無骨な道具類がその側に置かれていた、

「あー、炉には近付かないで下さい、火が入ってますんで、こっちです」

とブノワトはやや離れた場所に置かれた作業台を差す、作業台の上も工場らしく乱雑であった、作りかけの何かが折り重なり、やや広くとられた空間に作成中のガラス鏡が木箱に納められ置かれていた、その側に昨日研究所より拝借した回転機構を内蔵した木箱の姿があった、

「あら、なるほど、作動部分を下に向けたのですね」

サビナが一瞥してそう言った、

「わ、でも、ガラス鏡がもうこんなに?」

エレインは作業台に置かれた木箱を覗く、

「あ、それは失敗作です」

とブノワトは中から一枚を出してエレインに見せる、

「あら、ほんとだ、歪んで見えますね」

「はい、下地の平滑化に失敗した例ですね、それとこちらはゴミが入ってしまって」

ブノワトは残念そうに他のガラス鏡を取り出す、

「なるほど、するとこの箱はあの3枚を作る為の失敗作ですか?」

「そうなります、今後はこういった歩留まりを無くす事も同時に考えていかないとって所ですね」

「材料費とか大丈夫です?」

エレインは金銭面の心配をする、

「今の所は・・・材料そのものは少ないですから、昨日頂いたお金で暫くは対応できますよ、私もコッキーも」

「なら良いです、その点についてはいつでも相談下さい」

「そうね、まったく、エレインさんにはいつの間にやら抜かされちゃったわね」

ブノワトはやれやれと溜息を吐く、

「な、何を言っているんですか、ブノワトさんの御指導のお陰ですよ、まだまだ、ブノワトさんには教えていただかなければいけない事ばかりです」

「謙遜しないの、大したもんよ、ソフィアさんが認めるだけあるわ、じゃ」

ブノワトは回転機構を見ると、

「えっと、こんな感じで下向きにして使う事にしたんですが・・・」

と三人に向けて作業に関する現状と対応策の相談を始める、説明を一頻り聞いた三人は納得して頷きつつ、それぞれの立場と経験から案を出し始めた、

「なるほど、やはり、この回転機構の歯車を金属で作る所からですかねー」

「でも、現状でも使えるんでしょ」

はい、と引き出しを開け中を見せる、そこには綺麗に映るガラス鏡が二枚置かれていた、

「あら、綺麗じゃない」

ソフィアが驚くと、

「はい、これは商品として出せると思います、さっきも言った通り、作業工程が上手く行くと簡単な研磨で済む品もありまして」

「そっか、作業工程の見直しの方が急務なのかしら?」

そうですねとブノワトは作業工程の説明を始める、うんうんと頷く面々は同じように案を出しつつ、本職のブノワトの工夫と熱意に感心するのであった、

「そうなると、あれね、コッキーさんの方にも問題があるわよね」

「そうですね、土台についてはこの大きさであれば十分なのかなとも思いますが」

ブノワトは難しそうに首を傾げ、

「そっか、ついでだし、コッキーの所にも顔を出しますか、折角こちらにいらしたのですし」

ブノワトはポンと手を叩いた、

「そんな、急に行っては邪魔になるでしょ」

「あー、大丈夫ですよ、こっち以上に向うは盛り上がってますからね、その首謀者が来たとなれば歓迎されこそすれ、無碍にはできませんて」

ブノワトはやや強引に話を纏めるとブラスを探す、ブラスは工場の片隅でミナとレインと共に何やら作業中である、

「あら、なにやってるのかしら?」

四人がそちらに向かうと、

「ふむふむ、そうするならの、こうしてみてはどうかの」

「えっ、レインちゃん凄いな、どっかで習ったのかい?」

「ふふん、得意なのじゃ、での」

とレインが機嫌良くなにやらを教示している、ブラスの手には例の作りかけの木工細工があり、ミナとレインは黒板になにやらを書きつけ、ブラスはそれを見てうんうんと頷いていた、

「ミナのはー?」

「うん、ミナちゃんのも可愛いな、あ、そうか、全体的にこう細工してもいいんだよな」

「そうじゃの、そうなるとじゃ」

こちらはこちらで盛り上がっているらしい、どうしたものかとブノワトは思案しつつブラスに声をかける、

「おう、レインちゃん凄いな、発想が違うわ」

とブラスは真顔で四人に振り返った、

「あら、ブラスさんがそういうのなら本物ね、レイン褒められてるわよー」

ソフィアが茶化すと、

「なんじゃ、この程度はいつでも相談に乗るぞ」

「ミナも、ミナもー」

「そうじゃの、ミナのも面白かったの」

ミナは笑顔になってフンスと鼻を鳴らす、

「うん、こりゃあれだな、お二人には俺の師匠になってもらわんとな」

ブラスが冗談半分で持ち上げると、

「師匠か、悪く無いのー」

「ミナ師匠って呼んでー」

二人はさらに調子に乗った、

「ブラスさん、あんまりおだてないで下さい」

ソフィアが苦笑いでブラスを諭す、

「あ、これは失礼を、で、そっちは終わったの?」

「まだまだ、これからコッキーの所に行こうと思って、いい?」

「ああ、勿論だ」

ブラスは腰を上げる、

「ほら、ミナもレインも行くわよ、今度はガラス屋さんよ」

「ガラス屋さん?何があるのー」

ミナは手にした黒板をパッと下ろした、

「それは興味深いのー」

二人の実に現金な反応に、

「切り替え早いなおい」

とブラスは困ったような笑顔を見せるのであった。
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