セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

22話 鏡工場と根回しと その6

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ロールケーキが室内へ運び込まれると鏡の前の騒動が一旦落ち着いた、折角だからとのパトリシアの鶴の一声で、丸テーブルが増やされメイド達もロールケーキを頂く事となった、そういう事であるならとエレインとブノワトがロールケーキを切り分けコッキーがパタパタと配膳に歩いた、最初メイド達は賓客にそのような事をと遠慮していたが、こちらも折角だからとのパトリシアの声により静かにテーブルに座っている、

「ロールケーキと名付けた菓子になります、見た目の異なる4種の品になりまして、それぞれに少しばかり味が違いますのでその点をお楽しみ頂ければ幸いです、そうですね、右端にある品が基本となりまして、見た目で説明しますと、イチゴ入りの品、カスタードクリーム入りの甘さが強い品、それとイチゴとミカンソースの入った品になります、秋に向けて店舗にて提供予定となっております、ごゆっくりお楽しみ下さい」

エレインは挨拶を終えて自席に着いた、

「なるほど、これは美味しそうですね、頂きましょう」

パトリシアはスプーンを手に取ると右端のロールケーキから口に運び、

「わ、これは柔らかい、それにとても良い風味ですね、これは何でしょう?」

パトリシアが手を付けたのを見てメイド達も手が動き、小さな歓声が上がった、

「良かった、お気に召して頂いたようですね」

エレインは嬉しそうに笑みし、

「ミナはこのイチゴ入りのがすきー、でね、レインはカスタード?が好きなんだってー」

「こら、儂の事はいいわ」

「むーよくないよー、パトリシア様はどれがすき?」

「ミナさんちょっと待って下さいね、少しずつ頂いてますから」

パトリシアは楽しそうに答えると、

「あら、イチゴ入りのは食感が良いですわね」

「でしょー、イチゴソースもおいしいんだけど、イチゴがそのまま入っているのがいいのー」

ミナの遠慮の無さに、ブノワトとコッキーは呆気にとられる、

「うんうん、流石ミナさんね、この黄色のがえっと」

「うん、カスタードクリームっていうの、ね?」

とソフィアを見るミナ、

「そうね、こちらも癖になる美味しさですよ」

「まぁ、確かに、なんでしょうこの独特の甘さ、ミナさん、この白いのは何て言うの?」

「それはえっと、ホイップクリームっていうの、フワフワで無くなっちゃうの」

ミナ特有の表現に、

「確かに、フワフワで無くなっちゃうわね」

パトリシアは微笑みながら食べ進める、気付くとやはり皆静かになっておりスプーンと皿がたてるカチャカチャという音だけが室内を満たし、

「はー、美味しかったですわ、どれも素晴らしいお味でした」

パトリシアはナプキンで唇を押さえる、

「ご満足頂けたようで嬉しいです」

エレインは笑顔で答える、見るとメイド達も皆満足気に語り合っていた、

「それで、あちらの鏡なのですが詳細を伺っても宜しくて?」

パトリシアはエレインを斜めに見る、

「そうですね、詳細と言われると難しいのですが」

エレインはソフィアを見る、あらっ、とパトリシアの視線がソフィアに移り、

「私では無くて、ね」

ソフィアの視線はブノワトとコッキーへ向かう、

「え、ソフィアさんですよ、何ですかー」

ブノワトはワタワタと慌てて、泣きそうな悲鳴を上げた、やっぱりー、とパトリシアは笑い、やれやれとソフィアは茶に手を伸ばすと、

「とある村で教えてもらったの、それだけ」

ソフィアはニコリと笑った、

「とある村を伺っても?」

パトリシアがニコリと笑みする、

「それは、言えないのです」

「あら、私にも?」

「はい、クロノスにも、ユーリにも言えないのですよ」

「まぁ、でもあの鏡は作っていいの?」

「そうですね、その村の住人はとても・・・そう矜持を持った強者達でした、それで作れるものなら作ってみろって、いろいろ見せてくれて、その中の一つですね」

「・・・なるほど、まぁ、そういう事でいいかしら」

「勘弁して下さいね、でも、その特殊な品を作り上げたのは、この二人なのです」

ソフィアはブノワトとコッキーを見る、ブノワトはクロノスって聞いた事あるな等と考えている最中で、コッキーは二人の会話をドキドキしながら聞いていた、

「まぁ、それは素晴らしい」

パトリシアは目を剥いて二人を見る、

「あ、えっと、はい、その、光栄です」

コッキーが顔を赤くして俯き、

「え、はい、なんでしょう?」

ブノワトは驚いて顔を上げた、ブノワトのその顔にパトリシアは笑い出す、

「まったく、大した人達ね、来る度に驚かされるんだから、それに今日は素敵な職人さん達まで連れて来て、ブノワトさんでしたわね」

パトリシアは柔らかい視線をブノワトへ送る、

「はい、ブノワト・ヘッケルです、その私共の商品をお買い上げ頂きましてありがとうございます、あれからなんだか急に売れだしまして、嬉しい悲鳴を上げておりました」

ブノワトは失礼の無い言葉使いを心掛けるが、徐々にどう話すのがそうなのかが分からなくなり目が回り出す、

「そう、良かった、こちらは大事な思い出の品ですからね、常に身に着けているのですよ」

パトリシアは腰帯に括り付けた木工細工を手にする、

「これは、光栄ですパトリシア様」

感激のあまりブノワトの声は上擦っている、

「で、そちらの方は?」

「はい、コッキー・メーデルさんです、ガラス職人なんですよ」

ソフィアは簡単に紹介する、

「まぁ、まだお若いのに職人さんですか」

パトリシアが驚いた様子でコッキーを見る、

「・・・あの、はい、コッキー・メーデルです、その、全然職人なんておこがましいですが・・・その、宜しくお願い致します」

蚊の鳴くような小さな声でコッキーは挨拶して俯いた、

「あらあら、内気な方なのですか?」

「恥ずかしがり屋さんなのです、ブノワトさんの妹分?だそうで、お二人はとても仲が良いのですよ」

ソフィアはそう補足して、

「そして二人共真面目で腕の良い職人さんです、あの鏡を仕上げる為に昨日から頑張ったようで、あの大鏡とあわせ鏡は今朝届いたばかりの品なのです」

「まぁ、それは嬉しい」

「そうなんです、今日は手鏡をお届けできればいいかなと思っていたのですが、お二人が頑張るもんだから急遽鏡ごと連れてきちゃいました」

エレインがニコニコと二人を見た、

「そんなエレインさん」

「そうですよ、何か私達が悪いみたいな・・・」

「あら、だってあなた方のような面白い人材を是非パトリシア様に紹介したいって思ったんですもの、でも、あれよ、ソフィアさんが連れて行こうって言いだしたのよ、私はね二人の心臓が止まるかもしれないって止めたんですよ、最初はね」

「あら、心臓は止まってない様子ですね、良かったわ」

パトリシアの意地の悪い冗談に、

「すいません、勘弁して下さい」

ブノワトは困った顔をさらに赤らめて俯いてしまった、とそこへ、

「おう、何だ女どもだけでお茶会か」

大声を上げてズカズカと入って来る者がいた、

「あら、クロノス、お仕事はいいの?」

パトリシアが振り返り、メイド達は席を立って頭を垂れた、エレインもそれに倣いブノワトとコッキーも何事かと慌てて立ち上がる、

「あー、よいよい、皆、ゆっくり楽しめ」

とメイド達を手で制すると、

「俺の分は?」

とパトリシアの隣りに立つ、

「あー、クロノスだー、久しぶりー」

ミナがピョンと椅子から下りて全力の体当たりを見舞う、

「おう、ミナ、久しぶりだな」

走り込んだミナを優しく受け止めると片手でヒョイと持ち上げ、

「なんだ、ずいぶん、おめかししてるな」

「ふふーん、今日はお淑やかなお嬢様なのー」

「あのな、お淑やかなお嬢様は体当たりで挨拶しないんだぞ」

「えー、するよー、ねー、ソフィー、するよねー」

「しませんよ」

ソフィアは苦笑いで冷たく突き放す、

「えー、そうなのー、ぶーぶー」

「いや、ブーブー言っても駄目だぞ、お淑やかにしたいなら、静かに座ってなさい」

クロノスはミナを席に着かせると、

「で、何を持って来たのだ?メイド達が騒いでいたようだが」

とソフィアを見る、

「あれよ、ごゆっくりどうぞ」

ソフィアは壁の大鏡を指差した、クロノスは指差す先を見て、

「?誰だあれは?」

と頓狂な事を口にする、

「誰って・・・」

「全くもう」

ソフィアとパトリシアは笑いを堪え、エレイン達は苦虫を噛み潰したような顔になる、

「ん、ん」

とクロノスは大鏡に近づき、

「なんだこりゃ、鏡か・・・これはすごい」

やっと理解して歓声を上げた、

「もう、クロノスってば」

パトリシアは笑いだし、ソフィアも遠慮なく笑い声を上げた、しかし、他の者は何とか笑いを堪えている、

「なんだ、お前ら、遠目でみたら鏡とは思えんぞ、また変な魔法でも開発したかと思ったわ」

クロノスは憮然としてパトリシアを睨み、

「しかし、すごいな、この大きさといい美しさといい、素晴らしいな・・・」

と鏡に見入る、

「しかし」

と自分の頬に手を当て、胸を張りつつ腹を触る、

「なんだ、こりゃ、誰だこれ」

とこれまたズレた事を言い出し、

「クロノス様、それが今のあなたの御姿ですよ、まったく、摂生しなさいと何度も申しておるでしょうに」

「そうよー、鏡は嘘をついてないわね、肥えたって前も言ったでしょう」

パトリシアとソフィアの遠慮のない苦言に、

「そ、そうなのか、こんなに肥えていたのか、いや、醜いな、これほどとは思わなんだ、これはまずい」

そう言いつつも鏡の前で自身の顔を弄り回し、身体の向きを代えてはしげしげと体型を確認する、

「まずいな、これは非常にまずいな、リンド」

と自身の従者を大声で呼びつけた、

「はい、クロノス様」

部屋の外で待機していたリンドが姿を表すと、

「近衛の教練が午後にあったな」

「はい、予定されております」

「俺も参加する、手配せよ」

「しかし、会合があります、それと来客も」

「ええーい、どちらも後にずらせ、この腹を見ろ、何だこれは」

「何だと申されましても、奥様も私も御注進致しておりましたでしょう」

「それはわかっておるわ、ここまでとは思わなかったのだ」

「左様ですか、はい、では、会合は難しいですが来客は夕刻に遅らせます、会合後に教練へ参加下さい」

「うむ、それでよい」

と鼻息を荒くしたクロノスはパトリシア達の座るテーブルに戻ってきた、

「で、あれはなんだ?」

一同はやれやれと笑いを堪えるのに必死となるのであった。
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