セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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29話 エレイン様とテラさんの優雅?な一日 その8

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「美味しー、昨日の焼き菓子も美味しかったけど、コッチの方が好きー」

ミナの素直な感想が厨房内に響いた、試作の菓子が大量に盛られた皿を真ん中に置いて、女性達は楽しそうに手を伸ばしている、焼き菓子は昨日の物と比べるとだいぶ小さい品である、幼児であるミナでも一口で頬張れる大きさと厚さとなっており、ミナは一つは口中に、もう二つを両手に持って御満悦であった、また、改良点としては大きさもそうであるが、2枚の焼き菓子で硬めに作ったカスタードクリームを挟みこんでおり、ただの焼き菓子とは比べれられないほど手間のかかった品となっている、

「うむ、一口で食べれるのは確かに良いの」

「そうですね、それにこのカスタードの程良い甘味といい、焼き菓子のサクサク感といい、これは絶品です」

「カスタードクリームの柔らかな舌触りも良いです、焼き菓子との相性も抜群ですね」

「見た目も可愛いですね、これは良いんじゃないですか?」

「先程の五つの条件を考えますと、お茶請けとしても大丈夫そうですね、あとは・・・」

オリビアは指を折って思いだしつつ、

「あ、保存ですか?」

「そうね、焼き菓子は良いのですが、カスタードは日持ちしそうにないですね、作ってから3日程度は持ちそうですが」

「うむ、それについては考えていたのだが、この地でしか食べれないというのも、価値を高めるのではないかのう」

レアンが手にした焼き菓子を見つめている、

「お屋敷でのう、王都で評判と聞く菓子を頂くとどうしてもな、その硬く焼しめた菓子が多くてな、このカスタードのように柔らかい物は難しくなる、味や食感を考えると、こちらの方が断然良いと思うのだが」

「そうね、それに、遠方へ届ける事を考えるとどうしても硬パンか、塩気の多い干し肉とか、魚の干物とかになってしまいますからね、マカロンも結局は甘い硬パンと言ってしまえばそれまでですし、この品を頂く為にこちらへ来る程の品こそが価値があるのかもしれないわね」

ユスティーナもレアンと同様の意見であるようだ、

「なるほど、確かに、お二人の意見はその通りと思います」

うんうんとエレインは頷いて、

「それではどうしましょう?こちらの品で領主様へ再度確認を取りますか?それとももう少し改良を加えましょうか?」

静かに二人へ視線を向ける、

「そうだのう」

とレアンはウーンと考え込む、

「あら、どうしたの?さっき迄あんなにはしゃいでいたのに」

ユスティーナは口元に薄い笑いを浮かべてレアンを見る、

「そうですね、もう一つ、こう、面白いものが欲しいかなと考えます、味も良いですし、食べやすい、それと、見た目・・・そうか見た目だな、うん、ミナ、レイン、見た目を良くしたいのじゃ、何かないか?」

レアンはパンパンに頬を膨らませているミナと、それなりに楽しそうに皿に手を伸ばしているレインに問うた、

「ミヒャメ?」

「うむ、突然じゃのう」

ミナは驚いて顔を上げ、レインはふむと考え込む、

「そうじゃ、これではそのありきたりなのじゃ、食べてみたいと・・・そう思わせる何かが欲しいのじゃ」

レアンの曖昧な主張に、ユスティーナはあらあらと驚き、エレインはなるほどと理解を示した、

「もっと可愛くしたいの?」

焼き菓子を急いで飲み込んだミナがレアンに問い直す、

「うむ、可愛くしたいしの、それと、思わず手に取るような何かが欲しいのじゃ」

「また、フワフワとした願望ですわね・・・」

ユスティーナは困ったような顔になる、

「じゃねー、うんとねー、あ、ニャンコ、ニャンコにしたい」

「そうじゃのう、ニャンコも良いが・・・フクロウとかどうじゃ?それとワンコも良いぞ、お花も良いかもな」

「うん、昨日作ったみたいなの、可愛かったよ」

「むー、確かにあれは可愛かったが、この大きさでは難しいだろう」

「そうかの?この形も型で抜いただけじゃからな、うん、どうじゃエレイン嬢、少し手間と金がかかるが型を作ってみてはどうかのう?」

レインが不適な笑みを浮かべてエレインを見上げた、

「型ですか?」

エレインは不思議そうに問う、

「そうじゃ、泡立て器であったかあの柄で抜いたのがこれじゃろ、ならばじゃ」

「あ、そういう事ですか、なるほど、レインさん凄いですね、その発想は無かったです」

テラが気付いて大声を上げた、

「ふふん、そういう事じゃ、そうなるとの、黒板はあるか?ミナ、お絵描きじゃ」

「うん、何?何?何描くの?」

「そうじゃのう、ちっさいニャンコとワンコじゃな、それとな小さくて可愛いものをいっぱいじゃ」

「うん、分かった」

ミナがピョンと飛び跳ね、

「あ、そういう事ですか、はい、やっと分かりましたわ」

エレインが理解して、徐々にレインの意図が皆に伝わる、

「ま、やってみる価値はあると思うがの、どうじゃ?」

レインがレアンに問う、

「えっと、型はどうします?金属ですか?木で?」

オリビアが型について疑問を呈す、

「そうじゃのう、そこは任せるとするか、できるだけ薄くて刃物程は鋭利でなくて良いと思うぞ、そうじゃな、泡立て器の柄は実に理想的であったな、そういうことじゃな」

レインの説明にオリビアはなるほどと頷く、

「そうなると、ブノワトさんに発注で大丈夫そうね、うん、少しばかり加工が難しいかもだけど、今日見た焼き印を考えると、かなり細かい図柄も作れそうですし」

「そうですね、あそこまでごつい金属にする必要はないでしょうし、話しを聞く限りですとブノワトさんの技術でも作れそうですね」

エレインとテラが静かに頷き合う、レアンもうんうんと頷き、

「うむ、流石、私の右腕じゃな、よしやろう、そうするとまずは絵を描くのか?」

「そうじゃな、皆でこの大きさの可愛い形を作るのじゃ、そしてそれを型にすればよいのじゃ」

「ふん、そうじゃの、ミナ、ニャンコは渡さんぞ、可愛く描けた方を採用じゃ」

「えー、ニャンコはミナが描くのー、お嬢様はお花を描いてー」

「じゃから、可愛く描けた方じゃ、そこは譲れんぞー」

「むー、ニャンコがニャンコを描いちゃ駄目なのー」

「じゃから、私はニャンコじゃないニャー」

「ニャー、ミナはニャンコニャー、お嬢様はお花を描くニャー」

「ニャンコが描いてはいかんのじゃろー」

「いいの、ミナはニャンコなのー」

「はいはい、じゃ、事務所に行きましょうか、向こうでゆっくり描きましょう」

エレインは微笑み、一同は作業場を事務所へと移すのであった。



「へー、そうすると、結構な大事になるんでないの?」

夕食時、ソフィアはエレインから焼き菓子について仔細を聞いた、

「そうですね、でも、面白いと思います、その焼き菓子の型として作りますが、ブロンパンの型にも使えるかなと、後からですがそう考えもしまして」

「なるほどね、確かに面白そうね」

「それと、その型自体も商品になるかなと考えます、以前話題に出てました調理器具の販売というのも視野に入って来るかな・・・とも」

テラも冷静に考えている様子である、結局、テラは夕食を寮で摂る事となった、エレインがソフィアに頼み込み、ソフィアはそれを快く受け入れた形となる、ソフィアは今さら一人二人増えた所で大差は無いとの考えで、但し、他の寮生や職員の手前、無料というわけにはいかないかなとの事であった、それであればとテラはお金を支払う事を提案するが、それは面倒とソフィアは受け入れず、折衷案として、北ヘルデルから魚介類を持ち込む事として妥結した、珍しい海産物が食卓に並び、それがテラの差し入れであるとなれば、誰も文句は言えないであろうとのソフィアの意見である、

「そっかー、そうなるとあれね、いよいよ何屋さんか分からなくなるわね」

「そうですね」

ソフィアの感想にエレインとテラは微笑んだ、

「あ、でもそれ嬉しいかもですね、こっちの品も取り扱えるんでしょ?」

サビナが顔を上げる、

「はい、勿論です、紫大理石は・・・どうかなと思うんですが、コンロとか溶岩板とかは絶対に売れますね」

「そっかー、うん、今日ねほら溶岩板の方の改良を始めてね、形は何とかなりそうなのよね、クロノス様もだけど、オリビアさんの意見も入れて良い感じになりそうよ」

「それは、良かったです」

オリビアが小さく微笑む、

「あ、サビナさん、明日でいいんですけど、回転機構の打合せをしたいのですが如何ですか?」

「ん、良いわよ、何かあった?」

「はい、今日、ブノワトさんの所でその話しになりまして、お兄さんの・・・実家の鍛冶屋さん?で歯車とか作ってるみたいで、要望があれば聞きたいって事でした」

「そっか、うん、明日の午後で良い?」

「はい、オリビアが戻ってからがいいと思います、ではそうですね、お呼びします」

「りょうかーい」

「あ、それと、ソフィアさん・・・かな、テラさんでもいいのかな?リシア様に先触れをお願いしたいのですが」

「いいわよー、あ、テラさんでいいの?」

「えっと、そうですね、私は3日に一度程度向うに顔を出す予定です、暫くはですが・・・」

「そっか、うん、なら今回は木簡があれば届けるわよ」

「あ、はい、ありがとうございます、じゃ、その時で」

「はいはーい」

その日の夕食も和やかであるが、騒がしく過ぎていき、デザートとして供された良く冷えたメロンを口にして、一同は大きな歓声を上げるのであった。
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