セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

30話 雨を降らせた悪だくみ その3

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「ブノワトねーさん、ちーっす」

食堂ではミナとレインが読書をしており、ブノワトを迎えるが、その声には普段の快活さが微塵も感じられない、

「おはよう、ミナさん、あ、読書?偉いねー」

ブノワトが優しく微笑むが、ミナはそうなのーと短い返事で書へと視線を落とす、ありゃ?とブノワトは首を傾げるが、ミナはそのまま書に向かっている様子である、しかし、集中しているようには見えず、ただ字面を追っているだけのように見えた、

「ブノワトさんこちらへ」

エレインが手を上げてアフラとソフィアが囲むテーブルへブノワトを招く、

「えっと、どうしたのです?」

変な雰囲気だなーとブノワトは思いつつも席に着くと、

「あー、そっか、ブノワトさんもよね、そうなると」

ソフィアが溜息を吐いた、

「そうなりますかね、ブノワトさん急な話しで申し訳ないのですが」

アフラが申し訳なさそうに事の次第を説明し始める、

「えっと、あれ、そうなるとあれですか?王妃様とか下手すると国王様とかと・・・」

ブノワトは言葉を探すが適切な単語が見つからない、会うの尊敬語ってなんだっけ、お会いするんでいいんだっけ?それともえっと、尊敬語じゃなくて謙譲語になるんだっけ、えっ、そうなるとなんだっけ、お会いするじゃなくて、お目にかかる?でいいんだっけ?でも今の会話の感じだと、

ブノワトは軽く混乱しているようである、キョロキョロと居並ぶ3人へ視線を飛ばした、

「リシア様としては・・・クロノス様としてもですが、そうして頂けると大変嬉しいとの事です」

落ち着いた声音でアフラが補完する、

「えっ、そーですか、はい、大変その光栄・・・でいいのかな、えっと、こういう場合は恐縮?名誉・・・えっと、すいません、その学がないもんで、はい」

ブノワトの狼狽は納まらず顔を赤くして俯いてしまった、

事の次第を要約すると、ガラス鏡にいたく感動したパトリシアが親族を対象としたお披露目会を開きたいと言い出したのである、この場合の親族とはつまり王家に対するものである、特にパトリシアに対して行った、鏡を前にして布を取り去り驚かせる儀式を自分もやりたいとの強い希望であるらしい、その対象として、妹のウルジュラと二人の王妃が主客となり、恐らく国王であるボニファースも顔を出すだろうとの事であった、それだけであれば勝手にやれば良いと思うが、ついてはガラス鏡の関係者も出席を願うとのパトリシアの意向であり、クロノスもそれに同調したらしい、

「その、私はほら、その・・・」

アウアウとブノワトは言葉に詰まる、

「そうよねー、前回もやり過ぎたかなーって思ったけど、今回はねー、どうしたもんかねー」

「ソフィアさん、やり過ぎたって思ってたんですか?私はまた、楽しそうにしてましたから・・・」

「あら、私だって反省はするわよ、そりゃ、だってね、ブノワトさんもコッキーさんも突然あんな場所に連れて行かれたら生きた心地もしないでしょうに」

「まぁ、そうしたのはソフィアさんじゃないですか」

エレインは驚いて声を荒げた、

「良かれと思ったの、だって、リシア様とは面識あるし、こっちでは普通に接していたじゃやない」

「それはだって、こっちでお会いするのであればですよ、だって、リシア様がそんな・・・そこまでその、上の方とはまるで思ってませんでしたし、考えた事も無かったですよ、貴族の方なのに気さくで良い人だなーって、あ、こういう言い方は駄目なのかな・・・」

ブノワトはチラリとアフラを伺うがアフラは気にしていない様子である、

「そうだろうけど、まぁ、いいじゃない、楽しかったでしょ」

「いや、あの時は楽しいよりも緊張の方が強かったですよ、それに何かもー、失礼があったらどうなるか分かんないし、どうするのが正しいのか全然分かんなくて」

ブノワトが泣き声をあげる、

「そりゃそうよね」

何処までも他人事のようなソフィアに、ブノワトとエレインは揃って鼻息を荒くした、

「まぁまぁ、リシア様もクロノス様も喜んでおられましたから、こうして悪巧み・・・は駄目ですね、仕込みの段階で協力をお願いしているのもそれだけ信頼していらっしゃるという事だと考えます」

アフラは冷静である、

「それはそうだろうけどね、ま、私は別に良いわよ、あ、ミナとレインはどうしようかしら、一緒はまずいかしら?」

「お二人はこちらで対応致します、どうでしょう庭園を楽しまれても宜しいですし、メイドを付けますので城を散策されても良いですし」

「それ面白そうね、私もそっちでいい?」

「駄目です」

アフラはニコリと笑い、ソフィアはそうよねーと軽い笑顔を見せる、

「一応その格式を確認しておきたいのですが?」

エレインが静かに問う、

「はい、今回は第五格式になります、王族内の私的行事に客として招かれる形式ですので、正装は不用ですね、それと訪問者一人あたり従者は2名程度となります」

格式とは貴族階級の催し物に対する格付けである、制定される七段階の内、最も高い位置にあるのが第一格式と呼ばれる国王主催の公式な行事への出席である、この場合は一月以上前に通知される習わしとなっており、行事の内容は公文書にも残される大掛かりなものとなる、招待客は正装の上帯剣は許されず、従者は3名迄、早朝に馬車の迎えが義務化されている等、正に格式ばった代物となっていた、対して第五格式となると、服装は基本自由、帯剣は許されず従者は2名迄、予定された場所、時間迄に自身の手配で赴く事等、ようは、王族及び高位の有力者に面会する可能性がある場合に、対応の目安を貴族社会内で暗黙の規定としていたものを明文化した約束事である、

「あ、そっか、そうなると訪問着か、あー、そっちのがメンドーねー」

「そうですね、新調した方がいいのかしら?毎回同じだからそろそろ失礼になりそうですね」

エレインも眉根を寄せる、

「あ、その点はこちらで」

アフラは懐から布袋を取り出してテーブルの中央に置いた、ゴチャリと金属音が響く、

「準備金です、エレインさんには失礼にあたるかもしれないとの事でしたが、こちらで訪問着を支度するようにとの事でした」

「あー、これはあれね、エレインさんは逃げれない感じね」

「ソフィアさんもですよ、こうなるとブノワトさんも腹を括らないとですね」

エレインのやや鋭い眼光がブノワトに向けられ、

「いや、あの、やっぱり、私もですか?えっと、職人としてはコッキーでもいいのかなーなんて、思ったりなんかして・・・」

「そうね、コッキーさんも呼ぼうかしら?」

「勘弁してあげてください、前回もホントに死にそうになってました、私もですけど・・・」

「あら、そうなの?」

「そうですよ、もー」

「なら、ブノワトさんは決定と、後は、オリビアさんとテラさんも巻き込んじゃう?」

何故か楽しそうに話すソフィア、

「オリビア・・・は大丈夫ですね、対応できます、テラさんはどうなんでしょう?」

「従者として来て貰えば?エレインさんの立場を考えると従者を引き連れないと駄目なんでないの?」

エレインは曲がりなりにも子爵家令嬢である、どのような扱いであろうともその肩書は生きている、この場合、エレインは子爵家としての対面を保つ必要もあるのであった、

「・・・まぁ、そうなんですけど、王族関連の行事にはまるで縁がありませんで・・・地方の子爵ですよ、侯爵様以上の方にお目にかかる機会などなかったですから・・・その、第五格式としてましてもどうするのが最善かは正直分からないですね」

エレインが困ったように首を傾げる、

「あー、その辺はまぁ、多分大丈夫よ、王様はほら、リシア様を御老人にした感じだから、王妃様方は面識無いけど、格式とかメンドーって感じの人よ」

「え、ソフィアさんお会いした事あるんですか?」

ブノワトが驚いて大声を上げた、

「あるわよー、だからそんなに気に病む事はないわね、良いお爺さんよ」

「あー、ソフィアさん、その表現はどうかと・・・確かに良いお爺さんですが・・・」

アフラも流石に渋い顔となった、

「そう?儂には遠慮せんでええって笑ってたからね、そうする事にしたんだけど、まずい?」

「まぁ、その一応は、エレインさんとブノワトさんの手前もありますし・・・」

「でも会ったらバレちゃうわよ、それに、畏まりすぎても余計に失礼だしね」

「そうです・・・か、ね、ソフィアさんはまぁそれで良いと思いますが、はぁ・・・」

アフラもソフィアの弁には戸惑うばかりのようである、

「じゃ、前向きに検討しましょうか、えっと、エレインさんとブノワトさんは確定で、オリビアさんとテラさんも確定と、あ、ユーリはどうする?今日帰って来ると思うけど」

「ユーリ先生ですか・・・そうですね、先生の都合が良ければと思いますが、リシア様からは特には無かったです」

「そっか、じゃ、ユーリはいいや、取り合えず私を含めて5名と2人ね」

ソフィアはそう言って振り返る、その視線の先には静かに読書に励むミナとレインの姿があった、

「はい、ではそのように予定致します、それとどうでしょう、アイスミルクケーキでしたか、あれを供したいとの要望もあるのですが・・・」

「はい、それは対応可能です、そうですね、先日お持ちしましたロールケーキも・・・いや、アイスミルクケーキを中心とした新たな品を考案しております、そちらを披露するのはどうでしょう?」

「新たな品ってこのあいだのあれ?」

「はい、すこしばかり準備が必要ですが、王族へ供するとなればそちらの方が宜しいかと思います」

「なるほど、それはあれですか?リシア様達にもまだ・・・ですよね」

アフラが敏感に反応する、

「はい、本当に2日前に考案された品ですね、しかし、味もですが、見た目も素晴らしいものです、きっとお気に召して頂けるものと思います」

自信満々なエレインの言葉に、

「それは楽しみです、あ、やりすぎるとあれですね、またリシア様が嫉妬で騒ぐかな?ま、それはそれでいいでしょう」

アフラはやや辛辣に言い放つ、

「そうね、そうすると、他には・・・」

ソフィアがうーんと天井を見上げ、

「うん、こっちの準備は訪問着と、ガラス鏡はあるし、料理はエレインさんにお任せで、あとは前日に打合せ?」

指折り数えて準備事項を確認する、

「そうなりますね、3日の昼過ぎに私とリンドでお邪魔しますので、そこで最終確認を、4日は昼過ぎからお披露目会となりますので、そのように対応をお願いします」

「うん、ではそれで、エレインさんは何かある?」

「そうですね、まあ、時間もありますし、何とか・・・できるかな、いや、何とかします、リシア様に恥をかかせる事のないように尽力致します」

エレインの気合の入った言葉に、アフラは嬉しそうに微笑んで、

「はい、頼もしいですね、どうぞ宜しくお願い致します」

アフラは深々と頭を垂れた。
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