セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

文字の大きさ
279 / 1,445
本編

33話 王様たちと その5

しおりを挟む
「おう、出来上がったと見て良さそうだな」

ズカズカとこの城の主、クロノスが休憩中の小部屋に入って来た、メイド達はサッと居住まいを正し、リンドは腰を上げ、エレイン達もそれに倣った、微動だにしなかったのはパトリシアのみである、

「はい、こちらの準備はほぼ済んだかと思います」

リンドが恭しく頭を垂れる、

「そうか、あー、そんなに畏まるな」

クロノスは右手をヒラヒラと振り、それを見てメイド達は静かに退出し、リンドも頭を上げた、

「エレイン嬢、それにブノワト嬢にオリビア嬢か、テラも何かと面倒掛けるな」

鷹揚に笑顔を見せるクロノスに、エレインはニコリと笑みで答え、ブノワトは未だに慣れないのかそわそわと目線を下げた、オリビアは静かに頭を垂れ、テラは小さく会釈する、

「で、パトリシアとしてはどうだ?予定どおりになりそうか?」

クロノスはメイドの運んできた椅子を受け取ると、パトリシアの隣りに置いてドカリと座り込む、

「ふふん、今の所は、陛下よりも義母様達とユラの驚いた顔が浮かぶようです」

パトリシアはニヤリと笑い、

「ほら、皆さんも座りなさい、遠慮は不要です」

立ったままのエレイン達を座らせ、優雅に茶を啜るパトリシア、

「そうすると、あ、ソフィアはどうした?あいつに一言、言っておかなければ気が済まん」

クロノスは丸テーブルを囲む面々に視線を走らせる、

「はい、夕食の支度があるとの事で先にお戻りになりました」

リンドが静かに答えた、

「む、そうか、よく見ればお前ら全員、付けておるのだな、まったく、目のやり場に困るぞ」

クロノスの視線は、エレインのみならず、オリビア、テラ、ブノワト、それぞれの胸部へと向けられており、4人はあぁーそういう事ねと口には出さずに理解する、

「まぁ、もう慣れたと言っていたではないですか?」

「うん、無理だ、な、リンド」

クロノスはガハハと笑い、リンドへ水を向ける、

「そこは我慢です、クロノス様」

リンドは静かに答え、手にした茶に視線を落とした、

「む、何だ、リンド、お前、もう枯れたのか?」

「枯れてはおりませんが、我慢です」

「またまたー、本能の問題だ、我慢等出来るわけもないだろう」

「そうですね、クロノス様、紳士であろうとなさることです」

「またそれか、お前の言う紳士とやらは生殖能力の無い仙人みたいなものであろう」

「いいえ、紳士とは品格と礼儀を備えた一流の男性の事です」

リンドの静かな言葉に、女性達はおぉーと静かな歓声を上げ、

「しかし、そのような男性は存在しません」

続くリンドの決めつけに、えっと静かに驚いた、

「私であっても、貴族の規範として名高い、紳士卿と綽名されるかのクリストッフェル侯爵であっても同じです、であれば、紳士とは何か?どう考えられますかな?」

リンドはビシリとクロノスを睨み、クロノスは面倒な事になったと頭を掻いて、

「どうだろうな、考えた事もない」

「そこが問題なのです、紳士たる事、そうであろうとする事が紳士なのです、何度でも言いましょう、紳士なる人は存在しません、クリストッフェル侯爵は博打好きで好色家でありました、しかし、紳士として名高い、それは紳士たろうと努力した上での結果です、つまり紳士とはそうあるべき理想の姿であって、実在しない概念存在なのです」

やや強い口調のリンドの言葉に、女性達は改めて歓声を上げた、

「だからさ、それは結局、人の本質を否定する事にならんか?女共の派手な装いとなんら変わらんだろう」

「それの何が悪いのです?人は結局、外面と仕草と言動から相手を判断するものです、外面を整えるということは服飾を正すこと、仕草を整えるのは躾と礼儀、言動を整えるのは教養と思いやりです、紳士とはこれらを網羅する男性特有の概念であり、淑女とは紳士に対する女性名称です、つまり、淑女なる存在もありません、概念でありますからな、故に、紳士とは、例え女性を買おうが博打に狂おうが糞尿に塗れようが紳士である事を貫く者が紳士なのです」

リンドの言動はやや乱暴とも言える内容である、しかし、その珍しい饒舌ぶりに女性達は素直に関心し、クロノスはぐぅの音も無く黙り込む、

「こう言えば興味を持たれるでしょう」

リンドは一息吐くと、

「件のクリストッフェル侯爵は娼館で金銭を支払った事が無いと噂されております」

「なに、マジか?」

クロノスは驚きの声を上げ、女性達は何のことやらと訝しい目で二人を睨む、

「つまりはあれか・・・」

クロノスが口を開いた瞬間、

「ク・ロ・ノ・ス・様」

パトリシアがジロリと睨み、クロノスは開いた口を素直に閉じた、

「まったく、いきなり来たかと思えばやかましい事、一休みして段取りを再確認していた所なのですよ」

強い口調でクロノスを制するパトリシア、クロノスは、

「・・・そうか、それは失敬」

気まずそうに口の端をグニャリと上げ、リンドもしゃべり過ぎたかと姿勢を正す、

「そうですね、では、明日の午前中に参集して一通り実行してみるという事で宜しいですわね」

パトリシアは優しい口調に戻ると、エレイン達に微笑みかける、

「はい、そのように」

エレインは代表して静かに答えた、

「それと、クロノス様、エレインさんの機転で鏡を6組ずつ、追加で納入頂いております、クロノス様の寝所、それとメイド達の支度部屋、他には侍従の支度部屋にも一式置こうかと思いますの、他に置きたい場所はありますか?」

パトリシアはやや上目遣いでクロノスへ視線を送る、

「6組か、それはまた嬉しいな、それはあれか量産体制が出来たのか?」

クロノスがブノワトへ直接問う、ブノワトはアワアワと落ち着きを無くしつつ、

「ひゃい、あの、その、一日辺り二組程度、作製できるようににゃっております」

舌を噛みそうになりながら答え、

「そうか、それは凄いにゃ、良い事だにゃ」

クロノスが底意地の悪い笑みを浮かべてニヤリと笑う、

「ま、ブノワトさんをからかうなんて、私の友人に対する非礼は許しませんよ、もう紳士である事を忘れたのですか」

再びパトリシアがジロリと睨み、

「あー、でも、あれだぞ、俺とブラスはもう飲み仲間だぞ、その嫁さんとなれば、俺にとってもダチだろうが」

「え、そうなの・・・ですか?」

ブノワトがやや驚いて呟く、

「そうだぞ、男はな、一度楽しく飲み交わせば友人なんだよ、楽なもんだろ?」

「また、適当な、あなたが良くても向こうがそう思っていないかもしれませんわよ」

「俺がそうだと思っているんだからそれでいいだろうが、なぁ?」

クロノスはブノワトに笑いかけるが、ブノワトは何とも複雑な顔である、

「まったく、やはり、あれだな、向こうで会うのとは違うな、それも仕方の無い事か」

「そうですね、さっきもその話しをしていたのですが、どうにも皆さん、硬くて」

クロノスとパトリシアは顔を見合わせ、

「うん、こういう時はソフィアがいれば、だいぶ楽なんだがな、いないものは仕方が無い、明日は来るんだろう?」

「その予定ですわ」

「そうか、うん、じゃ、バカ話しは明日にするか、リンド、こっちが済んだら執務室へ、邪魔したな」

クロノスは腰を上げるとあっという間に姿を消した、その勢いにエレイン達は呆気に取られつつ、

「あの、失礼があったでしょうか?」

恐る恐るとパトリシアに問う、

「あー、大丈夫よ、ほら、言ってたでしょ、向こうの感覚で話して欲しかったのよ、でも、ねぇ、ま、お城じゃどうしても緊張しちゃうわよね」

パトリシアは若干寂しそうに微笑み、

「えっと、そうですね、でも、はい、難しいかと思います」

エレインは申し訳なさそうにするのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...