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本編
33話 王様たちと その13
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やがて、鏡の前から動けなくなっていた女性陣も不承不承に腰を上げて自席へ戻る、しかし、その手にはしっかりと手鏡が握られ、席に着いてからもちょくちょくと鏡を覗いている、
「義母様、ユラ、少しばかりはしたないですわよ」
パトリシアがその言葉とは裏腹にニヤケタ顔で注意するが、
「そうは言っても」
「ねぇ」
「そうですよ、気になりますよ」
麗人二人は落ち着きがなく、ウルジュラもまた鏡に向かって笑ったり怒ったりと若々しく忙しい、
「まぁ・・・大丈夫です、鏡は逃げませんし、一式はそのままお持ち帰りください」
パトリシアはニコリとほくそ笑み、
「え、いいの?嬉しいー、流石、オネーサマ、大好きー」
「まぁ、そんな」
「はい、貴重な物なのではなくて?」
「ほっほっほ、なるほどのう、するともうあれか、生産体制にあるという事だな?」
国王がパトリシアの言外にある真意を深読みする、
「はい、エレインさんとブノワトさんの努力の成果ですわね」
「ほう、大したものだ」
国王はなるほどと頷き、驚く王妃と娘に鏡の製作者について話して聞かせた、
「ブノワトさんすごーい」
「そんな、こんな可愛らしい娘さんが・・・」
「えぇ、まるで想像できませんわ」
「えへへ、あの、お褒めに預かり光栄です」
ブノワトは蚊の鳴くような声で俯いた、
「そうね、ふふ、では、メロンを、こちらも素晴らしい一品ですよ、ね、ミナさん」
パトリシアがメイドに指示を出しながら、ミナに話しを振ると、
「そうなの、えっとね、ミナとレインで作ったの、幻の一品なの、特上なの、金貨なの」
ミナが嬉しそうに両手を上げ、
「特上で金貨?」
ウルジュラが楽しそうに問いかける、
「そうなの、あのね、リシア様がね、オーサマにも食べさせたいって言ってたの、すんごい、美味しいのよ、傑作なの」
「ほう、それは楽しみだのー」
国王は素直に顔を綻ばせ嬉しそうにパトリシアを見る、パトリシアは恥ずかしそうに視線を漂わせ、
「そんな事もありましたかしら」
誤魔化すように呟いた、やがて、メロンの盛られた皿が供され、それと共に4本フォークが添えられる、
「ほう、使ってみたかったからのう、これは丁度良いな」
国王は4本フォークに手を伸ばし、メロンの一片を突き刺すと口に運んだ、
「む、これは、いや、これも凄いな」
途端歓喜の声を上げ、
「はい、メロンがこれほど美味しいとは」
「えぇ、この素晴らしい甘さと香り、これは至福ですわ」
「すごーい、美味しいよ、ミナちゃん、レインちゃん」
「えへへ、でしょー」
賓客達の遠慮の無い称賛の声に、ミナは得意気な笑みを浮かべつつ、メロンを頬張るのであった。
メロンを平らげた一同へ茶と焼き菓子が提供され、ブノワトとミナが話題の中心になり、王妃達とウルジュラが姦しく鏡とメロンの話題で楽し気に笑い合う、ミナは当然の事としてブノワトもやっと自然と話せるようになり、場は和やかになっていた、さらに焼き菓子の話題が投入され、ミナが楽しそうにその作り方を指南し、ウルジュラが王城でも作ると騒ぎ出した所で、クロノスがおもむろに席を立つと、
「うむ、では、そうだな、こちらから一点、お礼の品をお見せしよう、リンド」
クロノスは終始脇役に徹していたようで言葉少なく愛想よく席を温めていたが、座の終わりが見えたようだとリンドを呼びつけ指示を出す、リンドは静かに下がりやがて布に包まれた何かを持って戻ってきた、
「さて、王太子の身としては何から何かまで貰っていただけでは気が引けるというもの」
クロノスはリンドに歩み寄りつつ一同の視線を集める、
「こちらの品を本日の礼としてお返ししたい、受け取ってくれるかな?」
ニコリと微笑み、ソフィアとミナ、それとレインに視線を向けた、
「あら、何かしら」
ソフィアは何かあったかなと考え、
「なになにー」
ミナは興味深々でクロノスを見上げる、
「うむ、こちらだ」
クロノスはリンドから受け取った品からスラリと布を剥ぎ取りあっさりと一同へ見せた、それはミナとレインが描いた精霊の木の絵であった、質素であるが美しい額に納められたそれは一級の美術品もかくやとばかりの見事さである、
「まぁ、綺麗ねー、へー」
ソフィアは感嘆の声を上げ、
「あー、それミナのー、ミナが描いたのー、レインのもー、凄ーい、カッコイイー」
「ほう、なるほどの、こうしてみると大したものじゃな」
ミナは当然としてもレインも素直に喜んでいる様子である、
「えー、ミナちゃんとレインちゃんの絵?凄いねー、綺麗だねー」
「えへへー、あのね、ガクエンチョーセンセーと描いたの、そっちがミナが描いたのよ、そっちがレインの」
ミナがテーブルに身を乗り出してバタバタと指を差す、
「学園長というとあれか、バーク魔法学園の?」
国王がクロノスに問う、
「はい、私の恩師でありましたアウグスタ師ですね、こちらの絵は学園寮の裏庭にある樹木を描いたものになります、一目で惚れてしまいましてね、額装した次第です」
クロノスが丁寧であるが重要な点には言及せずに説明し、
「そうなの、ミナとレインとガクエンチョーセンセーで描いたのよ、あのね、初めて絵具を使ったの、難しかったけど、楽しかったのー」
「ほう、なるほどな、うむ、素晴らしい絵画じゃな」
「えへへー、でしょー」
国王はなるほどと席を立ち、クロノスが並べて持つ二つの絵画をじっくりと見つめる、
「うん、これは大切な品じゃな、ソフィアさん、大事にするんだぞ」
「そうですね、ありがとうございます、クロノス様」
ソフィアの丁寧な礼に、
「おいおい、らしくもない、背中がむず痒くなるわ」
クロノスは口をへの字に曲げ、その様に小さな笑いが起こる、すると、
「私にも良いですか」
イフナースがゆっくりと立ち上がった、
「おう、まってろ、持っていく」
クロノスは絵画を持ってイフナースの側に寄った、
「どうだ、いい絵だろう?」
クロノスの問いに、イフナースは言葉も無く真剣な瞳で二つの絵画を見詰め、そして、
「・・・確かに、門外漢の私でも良さが分かります、それに何やら活力が湧いてくるようです、素晴らしい絵ですね」
イフナースが静かにその絵を称賛した、そして、
「ふむ、確定のようじゃな」
レインが何かに気付いて一人納得した。
そうして、お披露目会はお開きとなった、王妃二人とウルジュラは嬉しそうに鏡について談笑しながら転送陣を潜り、国王もまた、
「そうだのう、今度は王城で会うか?仕返しを考えねばらんなぁ」
パトリシアを凌ぐ邪悪な笑みで一同へ感謝の意を伝える、やや婉曲的な表現であるが王城に招かれる事は最上級の礼遇なのである、
「そうですわね、楽しみにしております、こちらはまだまだお見せしていない品がありますわよ」
パトリシアはニヤリと笑いエレインに目配せする、
「そうですね、ガラス鏡の驚きには勝てませんが、お見せしたい品はまだあります、パトリシア様の次回の悪巧みを楽しみにして頂ければ幸いです」
エレインの丁寧ではあるが、不穏な言葉に、
「そうか、そうか、はっはっは、うむ、楽しみにしておるぞ、ソフィアもミナもまた会おうぞ」
国王は破顔して満足そうに転送陣に入る、
「それでは、姉上、義兄上、久しぶりにお会いできて楽しかったです」
最後にイフナースがしっかりとした足取りで主催者の前に立った、
「なんだ、元気になったじゃないか、今度会う時は剣の一つも交えるか?」
クロノスは楽しそうに笑いかけるがイフナースは寂しそうな笑顔で受け取り、
「もう、そうね、ちゃんと食べるのよ、きっと、快復するから」
パトリシアは姉らしい思いやりの言葉をかける、
「そうですね、では」
イフナースは二人に一礼し、エレイン達へは笑顔で会釈を送るとその場を辞した、
「ふう、うん、こんなもんかしら」
転送陣の先の小部屋からイフナースの背が消えるとパトリシアはゆっくりと吐息を吐き、
「そうだな、まぁ、こんなもんだろう」
クロノスも肩が凝ったのか右肩を押さえてグルグルと腕を回す、
「エレイン嬢、それとソフィア、ブノワト嬢、オリビア嬢、テラもだな、今日は手間をかけさせたな、礼を言う」
「そうね、皆さんありがとう、私の楽しみを手伝ってくれて、ふふ、持つべきものは悪戯好きの友達よね」
クロノスとパトリシアがエレイン達へ向き直り、実直な謝意を表し、
「こちらこそ、至らない点もあったかと思いますが、無事、役目を終えられた事、嬉しく思います」
エレインが代表して返礼する、
「そうだねー、国王様元気そうねー、あれなら暫くは安泰じゃないの?」
ソフィアがいつもの調子に戻り、
「おいおい、誰も弱ってるなんて言ってないだろう」
「そうか、それもそうね」
ソフィアは冗談よと笑うが、皆、苦笑いとなってその日は幕を下ろしたのであった。
「義母様、ユラ、少しばかりはしたないですわよ」
パトリシアがその言葉とは裏腹にニヤケタ顔で注意するが、
「そうは言っても」
「ねぇ」
「そうですよ、気になりますよ」
麗人二人は落ち着きがなく、ウルジュラもまた鏡に向かって笑ったり怒ったりと若々しく忙しい、
「まぁ・・・大丈夫です、鏡は逃げませんし、一式はそのままお持ち帰りください」
パトリシアはニコリとほくそ笑み、
「え、いいの?嬉しいー、流石、オネーサマ、大好きー」
「まぁ、そんな」
「はい、貴重な物なのではなくて?」
「ほっほっほ、なるほどのう、するともうあれか、生産体制にあるという事だな?」
国王がパトリシアの言外にある真意を深読みする、
「はい、エレインさんとブノワトさんの努力の成果ですわね」
「ほう、大したものだ」
国王はなるほどと頷き、驚く王妃と娘に鏡の製作者について話して聞かせた、
「ブノワトさんすごーい」
「そんな、こんな可愛らしい娘さんが・・・」
「えぇ、まるで想像できませんわ」
「えへへ、あの、お褒めに預かり光栄です」
ブノワトは蚊の鳴くような声で俯いた、
「そうね、ふふ、では、メロンを、こちらも素晴らしい一品ですよ、ね、ミナさん」
パトリシアがメイドに指示を出しながら、ミナに話しを振ると、
「そうなの、えっとね、ミナとレインで作ったの、幻の一品なの、特上なの、金貨なの」
ミナが嬉しそうに両手を上げ、
「特上で金貨?」
ウルジュラが楽しそうに問いかける、
「そうなの、あのね、リシア様がね、オーサマにも食べさせたいって言ってたの、すんごい、美味しいのよ、傑作なの」
「ほう、それは楽しみだのー」
国王は素直に顔を綻ばせ嬉しそうにパトリシアを見る、パトリシアは恥ずかしそうに視線を漂わせ、
「そんな事もありましたかしら」
誤魔化すように呟いた、やがて、メロンの盛られた皿が供され、それと共に4本フォークが添えられる、
「ほう、使ってみたかったからのう、これは丁度良いな」
国王は4本フォークに手を伸ばし、メロンの一片を突き刺すと口に運んだ、
「む、これは、いや、これも凄いな」
途端歓喜の声を上げ、
「はい、メロンがこれほど美味しいとは」
「えぇ、この素晴らしい甘さと香り、これは至福ですわ」
「すごーい、美味しいよ、ミナちゃん、レインちゃん」
「えへへ、でしょー」
賓客達の遠慮の無い称賛の声に、ミナは得意気な笑みを浮かべつつ、メロンを頬張るのであった。
メロンを平らげた一同へ茶と焼き菓子が提供され、ブノワトとミナが話題の中心になり、王妃達とウルジュラが姦しく鏡とメロンの話題で楽し気に笑い合う、ミナは当然の事としてブノワトもやっと自然と話せるようになり、場は和やかになっていた、さらに焼き菓子の話題が投入され、ミナが楽しそうにその作り方を指南し、ウルジュラが王城でも作ると騒ぎ出した所で、クロノスがおもむろに席を立つと、
「うむ、では、そうだな、こちらから一点、お礼の品をお見せしよう、リンド」
クロノスは終始脇役に徹していたようで言葉少なく愛想よく席を温めていたが、座の終わりが見えたようだとリンドを呼びつけ指示を出す、リンドは静かに下がりやがて布に包まれた何かを持って戻ってきた、
「さて、王太子の身としては何から何かまで貰っていただけでは気が引けるというもの」
クロノスはリンドに歩み寄りつつ一同の視線を集める、
「こちらの品を本日の礼としてお返ししたい、受け取ってくれるかな?」
ニコリと微笑み、ソフィアとミナ、それとレインに視線を向けた、
「あら、何かしら」
ソフィアは何かあったかなと考え、
「なになにー」
ミナは興味深々でクロノスを見上げる、
「うむ、こちらだ」
クロノスはリンドから受け取った品からスラリと布を剥ぎ取りあっさりと一同へ見せた、それはミナとレインが描いた精霊の木の絵であった、質素であるが美しい額に納められたそれは一級の美術品もかくやとばかりの見事さである、
「まぁ、綺麗ねー、へー」
ソフィアは感嘆の声を上げ、
「あー、それミナのー、ミナが描いたのー、レインのもー、凄ーい、カッコイイー」
「ほう、なるほどの、こうしてみると大したものじゃな」
ミナは当然としてもレインも素直に喜んでいる様子である、
「えー、ミナちゃんとレインちゃんの絵?凄いねー、綺麗だねー」
「えへへー、あのね、ガクエンチョーセンセーと描いたの、そっちがミナが描いたのよ、そっちがレインの」
ミナがテーブルに身を乗り出してバタバタと指を差す、
「学園長というとあれか、バーク魔法学園の?」
国王がクロノスに問う、
「はい、私の恩師でありましたアウグスタ師ですね、こちらの絵は学園寮の裏庭にある樹木を描いたものになります、一目で惚れてしまいましてね、額装した次第です」
クロノスが丁寧であるが重要な点には言及せずに説明し、
「そうなの、ミナとレインとガクエンチョーセンセーで描いたのよ、あのね、初めて絵具を使ったの、難しかったけど、楽しかったのー」
「ほう、なるほどな、うむ、素晴らしい絵画じゃな」
「えへへー、でしょー」
国王はなるほどと席を立ち、クロノスが並べて持つ二つの絵画をじっくりと見つめる、
「うん、これは大切な品じゃな、ソフィアさん、大事にするんだぞ」
「そうですね、ありがとうございます、クロノス様」
ソフィアの丁寧な礼に、
「おいおい、らしくもない、背中がむず痒くなるわ」
クロノスは口をへの字に曲げ、その様に小さな笑いが起こる、すると、
「私にも良いですか」
イフナースがゆっくりと立ち上がった、
「おう、まってろ、持っていく」
クロノスは絵画を持ってイフナースの側に寄った、
「どうだ、いい絵だろう?」
クロノスの問いに、イフナースは言葉も無く真剣な瞳で二つの絵画を見詰め、そして、
「・・・確かに、門外漢の私でも良さが分かります、それに何やら活力が湧いてくるようです、素晴らしい絵ですね」
イフナースが静かにその絵を称賛した、そして、
「ふむ、確定のようじゃな」
レインが何かに気付いて一人納得した。
そうして、お披露目会はお開きとなった、王妃二人とウルジュラは嬉しそうに鏡について談笑しながら転送陣を潜り、国王もまた、
「そうだのう、今度は王城で会うか?仕返しを考えねばらんなぁ」
パトリシアを凌ぐ邪悪な笑みで一同へ感謝の意を伝える、やや婉曲的な表現であるが王城に招かれる事は最上級の礼遇なのである、
「そうですわね、楽しみにしております、こちらはまだまだお見せしていない品がありますわよ」
パトリシアはニヤリと笑いエレインに目配せする、
「そうですね、ガラス鏡の驚きには勝てませんが、お見せしたい品はまだあります、パトリシア様の次回の悪巧みを楽しみにして頂ければ幸いです」
エレインの丁寧ではあるが、不穏な言葉に、
「そうか、そうか、はっはっは、うむ、楽しみにしておるぞ、ソフィアもミナもまた会おうぞ」
国王は破顔して満足そうに転送陣に入る、
「それでは、姉上、義兄上、久しぶりにお会いできて楽しかったです」
最後にイフナースがしっかりとした足取りで主催者の前に立った、
「なんだ、元気になったじゃないか、今度会う時は剣の一つも交えるか?」
クロノスは楽しそうに笑いかけるがイフナースは寂しそうな笑顔で受け取り、
「もう、そうね、ちゃんと食べるのよ、きっと、快復するから」
パトリシアは姉らしい思いやりの言葉をかける、
「そうですね、では」
イフナースは二人に一礼し、エレイン達へは笑顔で会釈を送るとその場を辞した、
「ふう、うん、こんなもんかしら」
転送陣の先の小部屋からイフナースの背が消えるとパトリシアはゆっくりと吐息を吐き、
「そうだな、まぁ、こんなもんだろう」
クロノスも肩が凝ったのか右肩を押さえてグルグルと腕を回す、
「エレイン嬢、それとソフィア、ブノワト嬢、オリビア嬢、テラもだな、今日は手間をかけさせたな、礼を言う」
「そうね、皆さんありがとう、私の楽しみを手伝ってくれて、ふふ、持つべきものは悪戯好きの友達よね」
クロノスとパトリシアがエレイン達へ向き直り、実直な謝意を表し、
「こちらこそ、至らない点もあったかと思いますが、無事、役目を終えられた事、嬉しく思います」
エレインが代表して返礼する、
「そうだねー、国王様元気そうねー、あれなら暫くは安泰じゃないの?」
ソフィアがいつもの調子に戻り、
「おいおい、誰も弱ってるなんて言ってないだろう」
「そうか、それもそうね」
ソフィアは冗談よと笑うが、皆、苦笑いとなってその日は幕を下ろしたのであった。
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