セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

36話 講習会と髪飾り その6

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「えへへー、来たよー」

「お邪魔しまーす」

「新商品と聞きましてー」

髪型がバッチリと決まった4人がゾロゾロと事務所へ入ってきた、その後ろにケイスの姿があるがその視線は羨ましそうにレインの髪飾りに注がれている、ジャネット達の試作料理が完成し、ケイスが寮へミナとレインを呼びに行ったのである、ブノワトとコッキーも当然のようにお呼ばれしたのであった、

「わ、ミナちゃんかわいいー」

「レインちゃんもだ、あ、ブノワトもどーしたの?コッキーも」

「えへへ、こちらも新商品なのですよー」

「ねー」

「うふふ、カワイイ?カワイイ?」

事務所内では複数の作業が同時に進行していたようである、ケイランを中心として下着の見本を作る班、下着の講習会用の資料を複写する班、焼き菓子の木簡を複写する班、厨房では試作品の調理が行われ、従業員は皆それぞれに和気藹々と作業に従事していた、そこへ、普段と印象が異なる4人が入ってきたとなれば、あっという間に話題の中心はその4人が搔っ攫う事となるのは自明の理といえる事である、

「うん、ん?でも普通の髪飾りじゃないの?え、留めてるだけ?」

「そうだよー、板で髪を挟んでる感じー」

「わ、そうか、凄いねこれ、便利そう」

「うん、飾りも付けれるんだー」

「そうなのよ、造花も良いけど、木製品でも面白いかもって話してたのよねー」

「ミナちゃんの造花良いわね・・・」

「レインちゃんの色違いなのね、かわいいー・・・」

「うふふ、ソフィーが作ってくれたのー、あのね、あのね、着けるの簡単なのよ、ミナにも出来るのー」

「そうなの?うちの子にも出来るかしら?」

「いいなー、会長ー、これどうですかー」

婦人部の一人がエレインを呼びつけ、事務机で頭を悩ませていたエレインが顔を上げる、

「あら、いらっしゃい」

エレインは4人の来訪に気付いていなかった様子で、遠目にミナとレインの造花を目にし、

「あら、あらあらあら」

吸い込まれるように人だかりに合流する、

「え、これってもしかして?」

「はい、先日エレインさんと一緒に聞いたあれですよ、これ、使ってみて下さい、試作品なので、もっと良くなりますけどね」

ブノワトがニコニコと金属片を数枚エレインに手渡す、

「まぁ、へー、なるほど、こういう事でしたの」

エレインが金属片の表裏を確認し、ブノワトとコッキーの頭部へ視線を移す、

「むふふ、ソフィーが作ってくれたの、どう?どう?」

ミナが褒めろと言わんばかりにピョンピョン跳ねた、

「とっても可愛いですわ、レースの造花ですのね、あ、もしかして、確か、穴がどうのと言ってたのは」

「うん、こういう事みたいです、造花もですが、なんでも付けられるようにって事でした、重いものは難しいですけど、何気に保持力もあるみたいなので、工夫すれば色んな物を付けれますね」

「なるほど、そっか、髪を結わなくてもいいんだ、しかし、こんな簡単な物で・・・これは凄いですわね」

エレインはミナの頭をジロジロと観察しながら納得した、髪留めや髪飾りは貴族社会のみならず平民にも広く使われてはいる、但し、髪を編み込みそこへ飾りを突き刺すのが一般的であった、今ミナ達が着けている髪留めは髪を編む必要もなく、それどころか、髪をまとめる事が可能なのである、

「・・・何気に画期的ですわね、髪をまとめて挟み込んでいるのですか、なるほど、これは面白い」

「そうなんですよ、前髪をこうやって上げておく事が簡単なので、下を向いて作業する時に楽ですね」

「うん、それに櫛で整えてそのまま挟むだけですもん、すごい簡単です」

「髪の短い人でも髪飾りを着けれますよ、男共でも着けれるんじゃないかな?」

「えー、野郎共にはもったいないわよー」

「それもそうねー」

人だかりに笑い声が巻き起こる、

「えっと、会長それ借りてもいいですか?着けてみたいです」

従業員の一人がエレインを上目遣いで見つめる、

「?、あ、そうですわね、どうぞ、喧嘩しないようにね」

エレインは特に考えも無く金属片を手渡した、

「ありがとうございます」

さっと鏡の前に走ると、テーブルに置かれた共用の櫛で髪を整え金属片で押さえ付ける、

「あー、なるほど、これすごい、便利」

「だしょー」

ブノワトがその背に得意気に微笑んだ、

「私もいい?」

「私もー」

「ブノワト、もっと無いの?」

「無いですー、もう、しょうがないなー」

ブノワトは自身の髪留めを外して手渡すと、

「はい、これ、使ってみて、面白いよー」

「ありがと、さすが、ブノワトだわー、優しくしておいてよかったわー」

「はー、そんな記憶無いんですけどー」

「そうだっけ?」

遠慮無く笑い合いつつ鏡に向かう、ブノワトはその背を眺めつつ、

「どうします、これも商品化します?」

ニヤリとエレインを伺う、

「そうですわね、うん、面白そうですわ・・・こうなると、あの、もう一つの方も気になりますわね」

「そうですね、あっちはすいません、難儀してました、旦那の方の加工が上手くいかなくて、ちょっと手間取ってます」

「なるほど、確かにあれは難しそうでした・・・」

エレインは顎に手を当てて鏡の前で楽しそうにしている従業員達を一瞥し、それからミナとレインの髪飾りへ視線を移す、

「うん、いいですね、ブノワトさん真面目に取り組みますか・・・でも・・・」

「でも?」

ブノワトが問う、

「次々と案件が積み重なりますわね・・・嬉しい悲鳴の前に、本当の悲鳴が上がりますわ」

「・・・そうだねー、うん、ま、出来ることからやっていこうよ」

ブノワトが明るく笑い、エレインはハーと大きく溜息を吐いた。



「試作品だよー、試してみてー」

ジャネット率いる試作品部隊が事務室へ入ってきた、しかし、皆の感心の中心は髪留めである、誰もジャネット達に気遣う者はおらず、ジャネット達は何事と不審に思うがミナとレインに気付き、さらに髪留めに視線を奪われる、

「ありゃ、どうしたの?ってミナっち、わ、なんだそれ、かわいいなー」

「あ、レインちゃんも、え、コッキーさんも、なにそれー」

試作品をテーブルに置いて、ジャネット達はミナとレインを取り囲む、

「えへへー、ソフィーが作ってくれたのー」

「へーへー、すげー、かわいいー、レインのも色違いかー、お揃いなんだねー」

「そうなのよー、オソロなのー」

「オソロかー、いいなー、えー、どうなってるのー」

「えっとね、あっちでねーさんが教えてるよー」

ミナが鏡の方を指差し、

「あ、いいなー」

一同の目が鏡に向かった瞬間、

「ほらほら、試作品が先です、お仕事しましょう」

オリビアがパンパンと手を叩き、

「そうね、ジャネットさんどんな感じ?」

エレインも鏡の前から離れ試作品が置かれたテーブルへ歩み寄る、

「わ、エレインさん、大人っぽい」

「うん、なにそれ、キレーになったー」

「ホントだー、何、髪上げたんですか?」

エレインは髪留めで前髪を上にまとめようである、額を露わにしただけであるが、ジャネット達はその変化に驚きの声を上げた、

「あら、そんなに変わります?」

エレインは得意げに微笑んだ、

「うん、全然違うー」

「そうだよー、なんだろ、一気に大人になった感じするー」

「うん、すんごい、キレーだよー、カッコイイー」

話題の中心がエレインへ移り、やがて鏡の前から髪をまとめた数人が近寄ると、

「お、何だよ、ケイス、それ良いなー」

「あー、マフレナさんまでー」

「ケイランさんも、何だよー」

どうやら団子よりも花のようである、試作品は放っておかれ、髪をまとめただけで印象が大きく変わった面々に羨望の声が集まった、

「ふふ、これはまた便利な物を発案しましたわね」

エレインはほくそ笑み、

「そうだねー、ソフィアさんさまさまだよー」

ブノワトはムフーっと鼻息を荒くする、

「こうなりますと、さらに改良します?」

「勿論、早速戻っていろいろやってみないと、もっと薄くして細くしたいかな、それと保持力ですね、ソフィアさん曰く、形も三角に拘る必要は無いらしくて、髪を挟めて薄ければそれで良いって感じでしたね、で、飾りもいろいろ作ってみればーって事でした」

「なるほど、確かに、造花も良いですが、もっとこう可愛らしい物でも良いのですよね」

「そうなんです、それとコッキーがガラス細工で作りたいって言ってましたし、発想次第ではもっといろいろできるかも」

「なるほど、そうね案を募ってみようかしら?」

「それいいですね、楽しみです」

ブノワトがほくそ笑んだところに、

「エレインさまー、食べてもいいのー」

ミナが人混みからスルっと抜け出してエレインを見上げる、

「あ、そうですわね、皆さん、先に試食を、ほら、髪留めは逃げませんから」

エレインは大声で皆の意識を試作品へと向けさせたのであった。
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