セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

37話 やっぱりニャンコな編み物とか その4

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「会長、こちらでしたか」

テラが食堂に顔を出した、

「あ、ごめんなさい、夢中になっちゃって」

エレインがハッと顔を上げてバツが悪そうにそう謝罪した、

「いえいえ、お姿が無かったので、また具合が悪くなったかと心配しました」

ニコリと微笑みつつテラが食堂へ入って来る、

「あ、テラさんだー、これどう?どう?」

ミナがパタパタとテラへ駆け寄る、

「これ?」

テラが首を傾げミナの髪飾りに気付いた、

「まぁ、可愛らしい、ニャンコですか、いいですね、愛らしいです」

「でしょー、えっとね、ソフィーが作ってくれたの、お顔はエレイン様が作って、耳はミナが作ったのよー」

ピョンピョン跳ねながら自慢するミナである、

「え、会長が作ったのですか?」

驚いてエレインへ視線を向けるテラ、テーブルにある毛糸の山とエレインの前にならぶ編み物を見て、

「会長にそんな特技があったなんて・・・」

テラは驚きを隠さない、

「もう、別に特技ではないですわ、ソフィアさんに教えて貰ったんですのよ」

エレインは優雅に微笑み、手を止めると、

「講習会はどうでした」

流れるようにテラへ問う、

「はい、あ、オリビアさんとサビナさんも呼びましょう、事務所におりました」

「そっか、じゃ、私が行ったほうがいいですわね」

エレインは腰を上げると、

「レインさん、私は事務所へ、すぐ戻ると思いますが、片付けてしまいますか?」

一緒に編み物に興じていたレインに問う、二人はじっくりと楽しんでおり、ミナは飽きたのか読書に励んでいた、ソフィアは夕食の支度である、

「まぁ、良いじゃろう、ソフィアが片付けにくるじゃろし、心配するな」

「ありがとうございますわ、では仕事に戻ります」

エレインはニコリと笑顔を見せてテラと共に事務所へ向かった、事務所ではサビナが疲れ切った顔でテーブルに突っ伏しており、オリビアが茶を立てたばかりのようである、

「お疲れ様でした、どうでした、サビナ先生」

エレインはサビナに笑顔を向ける、サビナはゆっくりと上体を起こし、

「あー、エレイン会長、慣れない事はするもんじゃないわー」

泣き言を絞り出して再び頽れる、エレインはあらあらと微笑みつつその対面に座った、

「では、私から報告を」

テラも苦笑いを浮かべつつ席に着くと、

「全体の印象は好評でした、ギルドマスターも、協会長さんも出席されまして、ソフティーを商品展開する際の規約もしっかりと説明されましたし、期間については不満の声が上がってましたがそれ以外は受け入れられた様子です」

「なるほど、ミースさんもその点は言ってましたね」

「はい、やはり5年は長いようなのですが、協会長さんが、まったく別の分野からの参入である事を考慮したと、そのように説明されまして、本来であれば永年でも良い筈だと、そうも言ってましたね」

オリビアがエレインとテラに茶を供し、自身も手に取ると席に着いた、

「あー、永年はどうでしょうね、恐らくですが向こうの業界としても権利関係が難しいのでしょうね」

「そのようですね、特に管理面がめんどくさいとミースさんも言ってましたし、服飾関係はほら、従事する人が多いですし、何より目に付く品ですから、新しい意匠とか、発案とかは盗み盗まれの世界らしいですね、その点も協会長さんが問題点として挙げておりました」

「なるほど、でも、そう聞くと悪い事のように聞こえますが、それだけ活発な分野でもあるのですね」

「はい、私もそのような印象を受けましたね、経営者の方々は落ち着いていらして、上品なんですけど、職人さんかな?そういう感じの人はとても貪欲・・・というか目が真剣でしたね、それと、列席者の服装も全然違くて、皆さんなんというか、過度に派手ではないのですよ、落ち着いた上品さがあって、パッと見て上質・・・な感じが分かるんですよね、それで落ち着きが感じられる服装でしたから、なるほどと感じました」

「そうなんですよ、何か、私、場違いでしたよね」

サビナが突然ガバッと起き上がる、

「もう、皆さんお洒落で、高級な感じで、ビシッとしてて、もう、私が一番なんかだらしない恰好で、気にしないようにしてたんですけど、なんか笑われている感じがしてー」

一頻り叫ぶとテーブルに突っ伏した、エレインとテラとオリビアはあらあらと苦笑いを浮かべ、

「それは私達も一緒ですよ、でも、ほら、講義が始まったら皆さんすごい真剣だったじゃないですか、最後には拍手する人までいて」

「そうです、最後の方しか見てませんが、参加者の皆さんは満足そうでした、何というかこう、内に燃えるものを滾らせているというかそんな感じでした」

テラとオリビアが宥めるように声をかける、

「それは・・・ありがたい事です・・・」

サビナがゆっくりと半身を起こすと、

「ふー、少し落ち着きました、叫ぶの大事、うん」

一人静かに頷いている、

「そうですね、口に出してしまえばスッキリしますよね」

テラは笑い、エレインも柔らかく微笑む、

「あ、ごめんなさい、話の腰を折っちゃいましたね」

サビナはようやくいつもの調子に戻った様子である、茶に手を伸ばしつつ簡単に謝罪し、大きく溜息を吐いた、

「いえいえ、で、えっと、権利料でいいのかな、その点は納得して頂いた感じです、商工ギルドとしても服飾協会としてもそこが最重要であった様子でした、ま、講義に関してはオリビアさんの感じた通りに満足のいくものだったようです、資料の出来も良かったのですが、やはりサビナさんが分かり易く解説して頂いたので、ミースさんも分かり易くて良かったとそう言ってました」

「そうですか、サビナさんにお願いして良かったですわね」

「まったくです」

エレインとテラがサビナに微笑みかけ、

「そう言って頂けるのであれば、汗をかいた価値もあるってもんね」

サビナは笑顔で答える、

「そうしますと、次回はいつでしたか・・・」

「はい、5日後の17日ですね」

エレインが問い、テラが答えた、

「そちらの準備はどうします?」

「そうですね、材料は参加者が持って来るようにとの説明がありました、材料については説明しましたし、実際の所こちらから教授する必要は少なそうです、やはり、ほら、参加者の皆さんの方が熟練なので、実際の品を見せて質問を受付たときもこちらが困るような事ばかり聞いてきましたし、その、縫製の技術的な点ですね、私もケイランさんも何が何やらで」

テラは困ったような顔になる、

「はい、あそこでこちらの力量が測られたかなと思いますね、でも、それで良かったのかも」

オリビアが悩みながら口にする、

「恐らくですが、新しい商売敵と思われていたのではないかなと邪推します、しかし、登壇したのが学園の研究員さんで、実際に作ったのがその道で食べていない人物というのを理解されたのかな・・・と思いますね、最初は警戒している風だったのですが、こちらの対応を見て柔らかい感じになったように思います、ようはあれです、敵ではないなと理解された・・・または見限られた?」

「なるほど、そういう事もあるのですね、ま、敵ではない・・・ですからね」

エレインがふんふんと頷く、

「そうね、で、協会長さんがモニケンダムの業界の底上げの為って言って貰ったのがそこで利いてきたのかも」

「あ、言ってましたね、うん」

「そっか、ま、こちらとしては商売にする気は無いからね、うん、結果としてはそれでいいのか・・・でも、そうなると次回は必要なのかしら?」

エレインが首を傾げる、

「どうでしょう、次回には恐らくですが各業者さん毎に試作品とかも出来上がっていると思いますし、そう言った点も含めて披露する会・・・だめかな?業者さんはそれぞれ対立関係にはあるわけですしね」

「確かにそうね、うん、ミースさんと打ち合わせしておきましょう、協会長さんにも聞いて、もし必要なければ無理して開催する必要はないですし」

「あ、でもギルドの職員さん向けに必要かもですね」

オリビアがアッと気付いて口を開く、

「参加者の3割くらいがギルドの職員さん達でした、ですので、そういう観点では必要と思います」

「なるほど、そうだったのですね、そうなるとギルドとは仲良くしておいて損はないですわね」

「はい、そう思います」

「なら、そういう事で対応を検討しましょう、すると・・・他に報告事項はありますか」

「あ、これです」

オリビアが懐から布袋を取り出しテーブルに置いた、ジャラリという金属音が響く、

「今日の利益ですね、ミースさん曰く店舗の売上には計上しないようにとの事でした」

「?それはまたどうして?」

「はい、ギルド側から支払うお金は税金分を引いた額なんだそうです、なので、計上されると二重課税になっちゃうそうで」

「あら、そういう事もあるんですの?」

「らしいです、ミースさんがそう言ってましたので確かかと」

オリビアの説明にエレインはそういうものなのねと理解を示し、

「うーん、では、サビナさんに講師料を支払いませんと」

オリビアから布袋を受け取りながらサビアへ視線を向けた、

「え、別にいいですよ、良い経験になりましたし・・・」

エレインの言葉にサビナは首を横に振って遠慮するが、

「そう言われましても、無料で協力頂いて、利益を総取りでは、申し訳ないですよ」

「そうですよ、今日の主役はサビナさんなんですから、貰って下さい」

エレインとテラは支払って当然であろうという顔であり、オリビアも依存はないようである、

「いや、大した事はしてないですから、商会として貰っておいて下さいよ」

サビナもその辺は妙に固い様子である、これはいらぬ諍いになるかなとエレインは考え、

「では、研究所さんへの支払いという形にしますか、カトカさんにも御協力頂いていますし、それに地下の冷凍箱にしろ、溶岩板にしろ無償というのは気が引けていたのです、ユーリ先生にその辺は相談という事にしましょうか」

一旦保留する案を提示する、

「そういう事にして下さい、取り敢えず」

サビナはホッとしたように溜息を吐き、茶を含んだ、

「うーん、ソフィアさんの影響ですかね、どうも皆さん利益を受け取る事に神経質になっている感じですわね」

エレインはなんとなく呟く、

「あー、それあるかも、ソフィアさんに引きずられてる感ありますね」

サビナは同意し、

「・・・清貧ですよね、良いか悪いかは判断できませんけど」

オリビアも頷く、

「商売人としては駄目ですよ、適正な利益を適正な手段で受け取りましょう、お金の循環を断つ事は社会的な不利益ですし、お金を稼ぐ事は悪いことではないです、どうもその辺が勘違いされておりますがお金はあって困りません、しかし、無いと困りますよ」

テラが不機嫌そうに正論を口にした。
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