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本編
38話 エレイン様は忙しい その1
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翌日、朝食を終えたテラが事務所を開け日課である倉庫の冷凍箱を点検し、屋敷内の清掃に取り掛かる、エレインも事務机に向かい木簡に記された売上報告等に目を通し始め、やがて婦人部が続々と顔を出し、明るい朝の挨拶が交わされると、六花商会の一日が本格的に動き出す、そこへ本日非番の筈のマフレナが顔を出し、テラがそれに気付いて声をかけた、マフレナは、
「はい、相談したい事がありまして、会長と一緒にいいですか?」
とニコニコとテラに確認する、テラはあら何かしらと考えつつもエレインの座る事務机に向かい3人でテーブルの一角を囲った、
「朝からすいません」
マフレナは一拍置くと、
「えっと、エフモントさんが相談したい事があるって、旦那経由で話がきまして」
と切り出し、
「エフモントさん?・・・あー、エフモントさん」
エレインは聞き慣れない名前に一瞬考え込むが、すぐに思い出したようである、
「そうなんです、私もびっくりしましたよ」
マフレナは笑い、テラは誰の事なのか分からないが取り敢えず話しの流れを注視している、
「元気にしてます?店舗の開店以来お会いしてないわね」
「元気ですよー、店舗にも時々来てるんですよ孫連れて、それも2人ですからね、大きいのと小さいのキャーキャー騒いでますよ」
「え、お孫さんいたの?」
「そうですよー、あの人はほら見た目通りの年齢なので、でも、あれです、娘さんの旦那さんを戦争で亡くされたんだったかな?で、今は娘さんとお孫さんと住んでるんです、奥さんも病気で亡くしたと聞いてますね」
「それは・・・また、大変ね」
「そうですね、でもお孫さんといる時は好々爺って感じで、振り回されてるのが楽しいんでしょうね、良い顔してますよ、普段はあれですが」
マフレナはカラカラと笑い、
「あ、それはいいとして」
得意の井戸端会議状態になるのを自制すると、
「なんでも、こちらで働きたいって人がいるらしくて、でも、ちょっと難しい立場の人なんだとか、で、先に話しだけでも聞いて欲しい・・・そんな感じなんですが、どうでしょう?」
「難しい?ですか」
「はい、旦那からはそう聞きました、詳しく聞こうとしたら、よく分らんって、いや、そこが大事だろって思うんですけどね、男共はこれだから」
マフレナはまったくと鼻息を荒くする、
「なので、取り敢えず聞いてみて欲しいんですよ、エフモントさんの段階で止める事もできるらしいので、その相談という事ですね」
マフレナは一転真面目な顔になる、
「それは・・・丁度良かったかも、うん」
とエレインは考え込みながらテラの様子を伺った、テラはなんのことやらと不思議そうな顔をしている、
「あ、ごめんなさい、えっと、エフモントさんはリューク商会の番頭さんでいいのかな、こっちの責任者さんで、マフレナさん達を紹介して頂いたのですよ、婦人部の皆さん全員ですね」
エレインは簡単に事情を話す、
「リューク商会ですか、え、リューク商会って、あのリューク商会?」
テラは驚いてエレインを凝視する、
「そうね、何か問題ある?」
「いえ、あの、北ヘルデルでは新興の商会として有名なんです、人材会社ですよね、傭兵とか軍とか冒険者とか手広くやってる、確か裏にも通じてる何でも屋って噂ですが・・・」
「そうですよ、うちの旦那も、というか従業員の旦那はそこに所属しているんですよ、裏というのはどういう事なんだろう・・・良くわかんないかな?」
マフレナは何を今更といった顔である、
「え、そうだったんですか、いや、あ・・・もしかして、クロ・・・リシア様からの紹介ですか?」
「いいえ、ソフィアさんとユーリ先生から、わざわざ会長さんが来てくれて、クロ・・・うん、スイランズ様も一緒でしたね」
「そうですね、私も会長さんは初めて会いましたよ、あの時、エフモントさんとわざわざ家まで来ましたからね、旦那と一緒に何事かと驚きました」
「あ、なるほど、そういう事ですか・・・」
テラは繋がりを理解したようである、テラはこちらに世話になる前にソフィアとユーリの正体を明言されないまでも説明されており、また、ルーツの正体は北ヘルデルでは公然の秘密とされ、知らない者はいない程である、
「ごめんなさい、その、すいません、話しの腰を折ってしまいましたね」
テラは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべると、
「はい、なんとなく理解しました、また強力な伝手があったんですね」
「うーん、どうなんだろう、そっちではどうか分かんないけど、こっちでは軍の教導団でしかないからね」
マフレナは謙遜しているのか、単に無知なのか、旦那への評価なのかは判別できないが、酷く扱いが軽い、
「教導団なのですか?それとんでもないですよ」
テラは再び驚く、
「教導団ってなんです?」
エレインが純粋な疑問を口にし、テラは信じられないといった顔をエレインに向けつつ、
「えっと、一般的な教導団は軍の古参兵の中でも精鋭を集めた部隊です、何をするかと言えば軍の教師役と言えばいいんでしょうか、一般兵や新米の傭兵を鍛え上げるのが主任務と聞いております、さらに有事には指揮官も熟せるだけの実力がある集団とそのように認識してますが・・・あの、簡単になれるものではないですよ、少なくとも多数の戦場を生き残って、兵としてその実力を認められた上に、人格や人柄も考慮される・・・と、そう聞いています」
「へー、旦那さん凄いのねー」
エレインは目を剥きつつも実感が伴わないのであろう、マフレナに軽い感じで誉め言葉を贈り、
「そんな大したもんじゃないわよー」
マフレナはマフレナで笑い飛ばす始末である、この人達は・・・とテラは困惑するが、マフレナは身内の事であるし、エレインは軍事関係の知識が少ないのは致し方無い、テラから見れば二人の反応は軍務関係者にとっては大変失礼にあたるものであるとも思うが、それは仕方が無いかな等と思い直し、エレインに関しては今後そちら方面の知識も必要かしらと考える、
「大したものなんですよ・・・もう・・・で、そのエフモントさんですよね、どうしたのです」
テラは再び話題を戻す、
「あ、で、なんだっけ」
エレインがマフレナに問う、
「だから」
マフレナも笑いつつ、
「ここで働きたいって人がいて、相談したいって事です」
「あ、そうですわね、そうすると、私としては良い話と思いますけど、テラさんとしてはどうです?」
エレインがテラへ問い直す、テラはなるほどと呟いて沈思すると、
「・・・いいと思います、それと、そういう事であればどうでしょう、新店舗に向けて人材を探しておいてもらっても良いのかなって思いますね、婦人部の皆さんは勤勉で真面目な方ばかりですし、このような人材があれば確保しておきたいと考えますが」
「えー、勤勉で真面目かしら?」
マフレナは明るく笑う、
「そうですよ、勤務表通りに集まりますし、遅刻も少ないです、会計が合わなかった事の方が少ないのも何気に凄い事ですよ、その差異も微々たるものですし、真面目に正直に働いている証拠です、それに店舗も明るいですしね・・・無駄話が多いように思えますけど、それもまた必要な事なのでしょう、私も他人の事は言えないですけど」
テラは褒め上げつつもチクリと釘を差す、
「そうなの?私達としては良い給料貰ってるからね、それなりに仕事してるだけ・・・は悪い言い方ね、でも、こちらとしても働きやすい場所である事は確かかなって思うかな、うん、感謝してますよ会長」
マフレナは微笑みつつもエレインへ謝意を伝え、
「そう思って頂けているのであれば嬉しいですわ」
エレインも笑顔で答えた、
「そうなると、どうしましょう、エフモントさんの所へお邪魔すればいいのかしら?」
「あ、それは止した方がいいですね、あの事務所って男所帯だから、ハッキリ言ってゴミ屋敷なので、急で申し訳ないのですが、今日、これからここで打ち合わせって可能ですか?」
「出来ますわよ、午前中であれば対応できます、午後からはブノワトさん達が来るかしら」
「良かった、じゃ、そのように伝えますね、私はそのまま帰りますんで」
マフレナはニコリと笑って席を立つ、
「あら、わざわざごめんなさいね」
エレインも労いつつ腰を上げた、
「いえいえ、市場で買い物して帰りますよ、遅くなると婆さん達がうるさいんで」
マフレナはそそくさと事務所を辞し、
「そうなると、人材関連・・・勤務条件とかまとめておきたいかしら?」
「そうですね、簡単に業務内容と給与と拘束時間、あー、一番大事な就業場所が決まってないか・・・」
「大雑把に高級商店街でいいんじゃない?」
「それもそうですね」
エレインとテラは事務作業へと取り掛かった。
「はい、相談したい事がありまして、会長と一緒にいいですか?」
とニコニコとテラに確認する、テラはあら何かしらと考えつつもエレインの座る事務机に向かい3人でテーブルの一角を囲った、
「朝からすいません」
マフレナは一拍置くと、
「えっと、エフモントさんが相談したい事があるって、旦那経由で話がきまして」
と切り出し、
「エフモントさん?・・・あー、エフモントさん」
エレインは聞き慣れない名前に一瞬考え込むが、すぐに思い出したようである、
「そうなんです、私もびっくりしましたよ」
マフレナは笑い、テラは誰の事なのか分からないが取り敢えず話しの流れを注視している、
「元気にしてます?店舗の開店以来お会いしてないわね」
「元気ですよー、店舗にも時々来てるんですよ孫連れて、それも2人ですからね、大きいのと小さいのキャーキャー騒いでますよ」
「え、お孫さんいたの?」
「そうですよー、あの人はほら見た目通りの年齢なので、でも、あれです、娘さんの旦那さんを戦争で亡くされたんだったかな?で、今は娘さんとお孫さんと住んでるんです、奥さんも病気で亡くしたと聞いてますね」
「それは・・・また、大変ね」
「そうですね、でもお孫さんといる時は好々爺って感じで、振り回されてるのが楽しいんでしょうね、良い顔してますよ、普段はあれですが」
マフレナはカラカラと笑い、
「あ、それはいいとして」
得意の井戸端会議状態になるのを自制すると、
「なんでも、こちらで働きたいって人がいるらしくて、でも、ちょっと難しい立場の人なんだとか、で、先に話しだけでも聞いて欲しい・・・そんな感じなんですが、どうでしょう?」
「難しい?ですか」
「はい、旦那からはそう聞きました、詳しく聞こうとしたら、よく分らんって、いや、そこが大事だろって思うんですけどね、男共はこれだから」
マフレナはまったくと鼻息を荒くする、
「なので、取り敢えず聞いてみて欲しいんですよ、エフモントさんの段階で止める事もできるらしいので、その相談という事ですね」
マフレナは一転真面目な顔になる、
「それは・・・丁度良かったかも、うん」
とエレインは考え込みながらテラの様子を伺った、テラはなんのことやらと不思議そうな顔をしている、
「あ、ごめんなさい、えっと、エフモントさんはリューク商会の番頭さんでいいのかな、こっちの責任者さんで、マフレナさん達を紹介して頂いたのですよ、婦人部の皆さん全員ですね」
エレインは簡単に事情を話す、
「リューク商会ですか、え、リューク商会って、あのリューク商会?」
テラは驚いてエレインを凝視する、
「そうね、何か問題ある?」
「いえ、あの、北ヘルデルでは新興の商会として有名なんです、人材会社ですよね、傭兵とか軍とか冒険者とか手広くやってる、確か裏にも通じてる何でも屋って噂ですが・・・」
「そうですよ、うちの旦那も、というか従業員の旦那はそこに所属しているんですよ、裏というのはどういう事なんだろう・・・良くわかんないかな?」
マフレナは何を今更といった顔である、
「え、そうだったんですか、いや、あ・・・もしかして、クロ・・・リシア様からの紹介ですか?」
「いいえ、ソフィアさんとユーリ先生から、わざわざ会長さんが来てくれて、クロ・・・うん、スイランズ様も一緒でしたね」
「そうですね、私も会長さんは初めて会いましたよ、あの時、エフモントさんとわざわざ家まで来ましたからね、旦那と一緒に何事かと驚きました」
「あ、なるほど、そういう事ですか・・・」
テラは繋がりを理解したようである、テラはこちらに世話になる前にソフィアとユーリの正体を明言されないまでも説明されており、また、ルーツの正体は北ヘルデルでは公然の秘密とされ、知らない者はいない程である、
「ごめんなさい、その、すいません、話しの腰を折ってしまいましたね」
テラは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべると、
「はい、なんとなく理解しました、また強力な伝手があったんですね」
「うーん、どうなんだろう、そっちではどうか分かんないけど、こっちでは軍の教導団でしかないからね」
マフレナは謙遜しているのか、単に無知なのか、旦那への評価なのかは判別できないが、酷く扱いが軽い、
「教導団なのですか?それとんでもないですよ」
テラは再び驚く、
「教導団ってなんです?」
エレインが純粋な疑問を口にし、テラは信じられないといった顔をエレインに向けつつ、
「えっと、一般的な教導団は軍の古参兵の中でも精鋭を集めた部隊です、何をするかと言えば軍の教師役と言えばいいんでしょうか、一般兵や新米の傭兵を鍛え上げるのが主任務と聞いております、さらに有事には指揮官も熟せるだけの実力がある集団とそのように認識してますが・・・あの、簡単になれるものではないですよ、少なくとも多数の戦場を生き残って、兵としてその実力を認められた上に、人格や人柄も考慮される・・・と、そう聞いています」
「へー、旦那さん凄いのねー」
エレインは目を剥きつつも実感が伴わないのであろう、マフレナに軽い感じで誉め言葉を贈り、
「そんな大したもんじゃないわよー」
マフレナはマフレナで笑い飛ばす始末である、この人達は・・・とテラは困惑するが、マフレナは身内の事であるし、エレインは軍事関係の知識が少ないのは致し方無い、テラから見れば二人の反応は軍務関係者にとっては大変失礼にあたるものであるとも思うが、それは仕方が無いかな等と思い直し、エレインに関しては今後そちら方面の知識も必要かしらと考える、
「大したものなんですよ・・・もう・・・で、そのエフモントさんですよね、どうしたのです」
テラは再び話題を戻す、
「あ、で、なんだっけ」
エレインがマフレナに問う、
「だから」
マフレナも笑いつつ、
「ここで働きたいって人がいて、相談したいって事です」
「あ、そうですわね、そうすると、私としては良い話と思いますけど、テラさんとしてはどうです?」
エレインがテラへ問い直す、テラはなるほどと呟いて沈思すると、
「・・・いいと思います、それと、そういう事であればどうでしょう、新店舗に向けて人材を探しておいてもらっても良いのかなって思いますね、婦人部の皆さんは勤勉で真面目な方ばかりですし、このような人材があれば確保しておきたいと考えますが」
「えー、勤勉で真面目かしら?」
マフレナは明るく笑う、
「そうですよ、勤務表通りに集まりますし、遅刻も少ないです、会計が合わなかった事の方が少ないのも何気に凄い事ですよ、その差異も微々たるものですし、真面目に正直に働いている証拠です、それに店舗も明るいですしね・・・無駄話が多いように思えますけど、それもまた必要な事なのでしょう、私も他人の事は言えないですけど」
テラは褒め上げつつもチクリと釘を差す、
「そうなの?私達としては良い給料貰ってるからね、それなりに仕事してるだけ・・・は悪い言い方ね、でも、こちらとしても働きやすい場所である事は確かかなって思うかな、うん、感謝してますよ会長」
マフレナは微笑みつつもエレインへ謝意を伝え、
「そう思って頂けているのであれば嬉しいですわ」
エレインも笑顔で答えた、
「そうなると、どうしましょう、エフモントさんの所へお邪魔すればいいのかしら?」
「あ、それは止した方がいいですね、あの事務所って男所帯だから、ハッキリ言ってゴミ屋敷なので、急で申し訳ないのですが、今日、これからここで打ち合わせって可能ですか?」
「出来ますわよ、午前中であれば対応できます、午後からはブノワトさん達が来るかしら」
「良かった、じゃ、そのように伝えますね、私はそのまま帰りますんで」
マフレナはニコリと笑って席を立つ、
「あら、わざわざごめんなさいね」
エレインも労いつつ腰を上げた、
「いえいえ、市場で買い物して帰りますよ、遅くなると婆さん達がうるさいんで」
マフレナはそそくさと事務所を辞し、
「そうなると、人材関連・・・勤務条件とかまとめておきたいかしら?」
「そうですね、簡単に業務内容と給与と拘束時間、あー、一番大事な就業場所が決まってないか・・・」
「大雑把に高級商店街でいいんじゃない?」
「それもそうですね」
エレインとテラは事務作業へと取り掛かった。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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