セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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39話 チンチクリンな職人さん その9

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「戻りましたー」

「お帰りー、どうだったー」

サビナが講習会を終え3階の研究室に戻ると、カトカが軽い感じで出迎えた、言葉だけが乱雑に積まれた木簡の奥から聞こえてくる、恐らく机に向かったまま顔も上げずに作業に集中しているのであろう、木簡の山は一時的に個人部屋へと放り込まれていたが結局サビナの手によってホールへと運び戻されていた、

「まぁまぁね、今日はほら、下着の実例と制作する際の要点だったから、私はそれほどする事は無かったかな」

サビナはやれやれと側の席を引いて腰を下す、サビナとしては今日の講習会は実に楽なものであった、受講者も結局の所ギルド職員とその関係者であり、ほぼ女性である、一応とギルドマスターが顔を出してはいたが、エレインと挨拶を交わし講習会の状況を見るだけ見て、気付いたらその姿は消えていた、

「そっかー、お疲れ様ー」

カトカは何とも心のこもってない労いの言葉を放つ、

「ちょっと・・・まぁいいか、で、新人さん、会ってきたわよ」

サビナも講習会については特にそれ以上話す事は無く、マフダの件に話題を切り替えた、

「どうだったー」

これもカトカは興味半分といった様子である、反射で返答しているだけに聞こえるが、サビナは気にする様子も無い、

「いい感じだと思うわよ、うん、例の下着をさっそく作り直していたわ、それもかなり手早く、やっぱりあれね、修業してたのは伊達じゃないみたいね、実際にあの技術を見ると学園なんかに入らないでどっかに弟子入りした方が遥かに有用なんじゃないかって思っちゃうわ」

サビナは腕を組んでムスーッと鼻息を吐き出す、

「んー、そんなに凄いの?」

「うん、大したもんだったわ、あれね、趣味で作る物と店売りの差っていうのかな?うん、そんな感じで品質がやっぱり違うのよね、妙に厳しい事言うから大丈夫かしらなんて思ったんだけど、うん、実際に目にするとね、うん」

サビナは何度か頷きつつマフダの技術力に素直な感心を示した、

「そっかー、じゃ、あれだ、ようやっとサビナ先生の下着を作れる人が来たのかしら?」

カトカもそこで漸く興味を示したらしい、フイッと席を立つと木簡の上からその顔をのぞかせる、

「先生はやめてよ、まったく、でも、それもあったわね、よく考えれば件の下着を着けないで偉そうな事ばかり言ってるのって・・・やっぱ、駄目よね」

「そうよー、それ言ったらほら、所長もだけどソフィアさんも着けてないでしょ、一段落したらって笑ってたけど、そういう事だったのかしら?」

「・・・ありそうね、特にあのお二人に関しては・・・何というか対応が落ち着き過ぎているからより、そう思うのかもだけど・・・何気に策士よね、二人揃って・・・」

「老成してるって思う事にしたわ、私は」

カトカは何処か諦めた風な顔である、

「それは分かるわね・・・達観してるって感じ・・・同じ意味ね」

二人は同時に鼻で笑った、

「ま、下着に限らずだけど、新しい品で、それが普及するって分かり切っているものであれば、少し待てばこなれてくるし、より良い品になるのは当然だもんね」

「そうね、でも、あれを開発したのはソフィアさんでしょ、本人が着けてないのはちょっと疑問よね、利点やら何やらはソフィアさんが一番理解しているんじゃないのかな?」

「だからこそかもよ、ほら、二人とも大きいほうではないし、そうなると別に無理して着ける必要は無いしね」

「それもそうか、ま、好きずきって事でいいんじゃない?あ、で、新人さんはどうするの?」

「明日正式に雇用契約になるんだって、で、恐らくだけどそのままお仕事に入るんじゃないのかな?そこは詳しく聞いてないけど、今日の様子を見る限りだとエレインさんもテラさんも喜んでたからね、早速下着を作り直して貰おうってはしゃいでたわ」

「へー、そんなに違うんだ」

「うん、見た目からかなり違うわよ、それに何ていうか細かい部分も考えてる感じだったな、今日初めて見た品だと思うんだけど・・・肌に直接触れる上に締める事を考えてって本人は言ってたかな、だから、背中側の留め金?あれももう少し改良したいとか、何にしろ大したもんだわ、まだ若いのに」

「いくつ?」

「見た目は13歳」

「えっ?」

「うん、ホントに13歳くらいかな?チンチクリンの意味を思い知ったわ」

「大丈夫なの?」

「何が?」

「いや、あまり若すぎるとほら、何かと心配にならない?」

「実際は16歳って言ってたわ」

「あー、そのくらいなら大丈夫か・・・って、16歳で13歳の見た目?」

「うん、ま、そういう人もいるわよ」

「そっか、ま、そういうもんか」

「そういうものよ」

サビナはやれやれと腰を上げると、

「所長に報告に行くわ、何かある?」

「特には無いかしら・・・さて、私ももう一頑張りねー」

カトカの顔が木簡の影に消えた、サビナはうーんと伸びをしつつ転送部屋へとその足を向けた瞬間、

「あっ、そうだ、私もそろそろ欲しいなーって思ってたところなのよ」

再びカトカの顔が木簡の上にニョキリと生える、サビナは面白いなと思いつつ、

「そうなの?あんたもあれ?エレインさんのだからエーレか、あれでいいよね?頼んでおく?」

「えー、私、そこそこあるんですけどー、オーリがいいかな?なんて思ってるんですけどー」

「はっ?変に見栄はらないでいいわよ、それと語尾を伸ばすな」

「あっ、それ酷いー」

「酷いもんですか、個々人に合わせて作るのが重要な品なんですからね、頼むのは簡単なんだけど・・・そっか、合わせながら作ったほうがいいのよね」

「そうねー、じゃ、あれだ、あんたのも一緒に作ろうよー、所長とソフィアさんにも声かけてさー、それでほらー、エレインさんよりもオリビアさんかなー?そっち巻き込んでー、裁縫の実技って事でさー」

わざとらしく語尾を伸ばし続け、都合の良い事を言い出すカトカである、

「うー、まぁ、それもいいかもね・・・じゃ、エレインさんに相談しましょうか、夕飯時にでも」

「りょーかーい」

カトカの顔が再び消え、サビナはやれやれと転送部屋へと向かう、ポッカリと開いた学園への転送陣を潜ると、

「所長、いますー?」

事務室を覗くとユーリがつまらなそうに教科書へ目を落としている、

「はい、お疲れー」

ユーリはヒョイと顔を上げ、サビナは終わりましたと一言告げた、

「どうだった?」

ユーリの心のこもっていない問いにサビナはカトカとほぼ変わらない事を報告する、2回目ともなると途轍もなく要領が良い、講習会については一言で済ませ、マフダについての相談へと切り替わった、

「そっかー、じゃ、サビナ先生としては合格って事?」

ニヤリと微笑むユーリである、

「それはまだ早いですよ、でも、まぁ、そうですね」

サビナは直立したまま不愉快そうに答える、昨日迄の態度の為に素直に認めるのが悔しいのである、相手がユーリであるから尚更でもあった、

「それは良かったわ、仲良くやんなさいよ、でもそうなるとあれか、事務長の面接は・・・必要ないかな?」

「どうなんでしょう、給与は商会で出すようですし、面通しは必要かと思いますけど」

「そうね・・・」

ユーリはうーんと木戸越しに外の風景に目を移し、

「確認しておくわ、事務長も学園長もその辺の事情は話せば分かると思うから」

「はい、宜しくお願いします」

サビナは殊勝に頭を垂れる、

「あ、でも、あれよね、その子については協力者って事になるのかな?ちゃんとした研究員はどうするつもり?」

「はい、次回以降の研究会で募っていくつもりです、ほら昨日迄の研究会は下着に釣られた連中が集まったって感じですからね、あ、それで相談なんですが、次の研究会はどうしましょう?日取りもですし内容も・・・」

「そうねー、あ、あんた座んなさい」

ユーリは机の対面にある椅子を顎で指す、サビナははいはいと答えつつ腰を下した、

「まず日取りとしては、5日毎が目安らしいわね、毎日でもいいらしいけどそんな講師はいないみたいだし」

「なら、それで、5日毎か・・・3の付く日と8の付く日でいいかな?」

「そうね、そんな感じで、最初の内はダナに相談しながら早めに段取り組みなさいよ、場所もだけど、ほら、事務員も掲示忘れがあるから」

「はい、そうですね」

サビナは初日のちょっとした混乱を思い出した、

「で、内容はどうしようかしら・・・美容に関すること・・・とか?」

「はい、順番というか段取りとしてそうしたいなとは思っているのですが、ほら、全く資料も無いし、所長、散髪関係でお願いできます?」

「あー」

とユーリは呻きつつ天井を仰ぐ、

「そうなるとガラス鏡が欲しくなるのよね・・・でもそうなると・・・」

「・・・なるほど、今はちょっと難しいですね・・・」

「そうね、お願いすればなんとかはなるけど、混乱の元よ、ガラス鏡を学園に持ち込むとすれば・・・うん、10枚位は一気に持ち込まないと騒動にしかならないかしら」

「・・・確かに・・・単純に考えて事務室、教室の一部、講師の部屋・・・」

サビナは指折り数え、

「10枚では足りないですね、女性主体として導入するとしても・・・はい・・・」

二人は渋い顔となる、

「そうよね、挙句、貴族科の連中に知られるとなったらエレインさんに迷惑がかかりそうだしね、ま、お店が出来れば良い宣伝になるんだろうけど、今はちょっと・・・かな・・・」

「はい、でそうなると・・・ソフィアさんの蜂蜜のあれとかでどうです?」

「それいいわね・・・でも、学生達って若いからな・・・あれの有用性を実感できるかしら・・・」

「なら、事務員向けってのはどうです?で、あくまで研究会なので、そういった加齢による変化も研究対象にしていきたいとも思っていたのですが」

「なるほど・・・それいいかもね・・・うん、ソフィアにちょっと知恵を借りましょうか、もっと楽な美容を知ってる筈なのよね、出し惜しみしやがるからあのヤローは・・・」

ユーリがムスッと腕を組む、

「ヤローは駄目でしょ」

サビナが困った顔で諭すが、

「いいのよ、べつに」

ユーリはそっぽを向いた、

「もー・・・じゃ、それで、ソフィアさんに直接聞いてもいいですか?」

「勿論よ、私には隠している事も、あんたなら聞き出せるかもね」

「だから、そんな言い方しないで下さいよ」

「別にいいでしょ」

「はいはい」

ユーリはしかめっ面を崩さない、サビナはやんわりと窘めつつ、

「あ、で、話が戻るんですけど、先に話しておきたい事がもう一点」

サビナはマフダの魔力について報告と相談を始めるのであった。
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