セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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40話 千客万来? その7

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「もどったー」

寮の食堂にいつもの時間にいつもの甲高い声が響く、

「はい、お帰りー」

「邪魔しておるぞー」

出迎えの声が二つ響く、一つはソフィアで、一つは、

「むふふー、お嬢様だー、馬車が止まってたの見付けたから、走ってきたのよー」

ミナは満面の笑みでソフィアの対面に座るレアンの元へ駆け寄った、レアンの側にはライニールが影のように立っている、

「こりゃ、建物の中では走るなと言われておるじゃろう」

「えー、でもー」

「でもじゃない、む、なんじゃ、随分可愛らしいものを着けておるの」

「でしょー、ソフィアが作ってくれたのミケニャンコなの、えっとね、レインのはねー」

「まったく、慌てて駆け出しおって、足はちゃんと拭ったのか?」

レインが眉間に皺を寄せて食堂へ入って来る、

「むー、洗ったよー」

ミナは憮然と大声を上げ、

「お疲れ様、今日は何かあった?」

ソフィアは編み物の手を止めて腰を上げる、

「うむ、カブとムカゴが良さそうじゃったぞ」

「ムカゴかー、塩焼き?」

「そうじゃのう、それもよいが、煮物でもよいぞ」

「そうねー」

レインは買い物籠をズイッとソフィアに突き出し、ソフィアは中を確認しつつ厨房へと向かう、

「む、レインのはシロニャンコか?」

レアンの鋭い視線がレインへ向かった、ミナとレインは共に毛糸で作ったニャンコの髪飾りを着けている、それは子供の頭にはやや大きいような感じはあるが、それぞれの髪を綺麗にまとめつつ可愛らしい微笑みを周囲に振り撒いている、

「ふふん、どうじゃなかなかのもんじゃろう」

レインは得意気な笑みを見せる、

「そうなのよー、そうだ、あれは?あれどこやったー」

ミナが突然バタバタと編み物籠へ向かう、

「あれってなんじゃ?」

「あれー、お嬢様に作ったのー」

「それは、ほれ、暖炉の上じゃ」

「あ、そうだったー」

ミナは暖炉へと突撃し、よいしょと背伸びをして何かを手に取ると、

「これ、お嬢様のはこれクロニャンコー」

嬉しそうにレアンの元へと舞い戻る、

「む、いいのか?」

レアンはミナの小さな手に乗せられた毛糸の髪飾りを凝視する、

「勿論だよ、えっとね、耳はミナとレインが作ったのよ、お顔はエレイン様が作ったのー、可愛いでしょー」

その毛糸製の黒猫はやや釣り目となっており、口元はへの字に曲がっている、可愛らしいと思える造作である、が、なんとも意地の悪そうな顔でもある、

「しかし・・・どこか、憎らしい顔をしておるのう」

レアンは嬉しそうにその品を手にするが、口から出るのは憎まれ口であった、素直じゃないのよな・・・とライニールはほくそ笑む、

「うふふ、だってー、お嬢様、意地悪だしー」

「そうじゃのう、こういう娘をアマノジャクと言うらしいぞ、タロウが言ってたわ」

「アマノジャク?何それー」

「良くわからんが、へそ曲がりとか、やさぐれた子供の事じゃろ」

「それは酷いぞ」

レアンは流石に非難の声を上げる、

「えー、でもー、ミナの事からかうしー」

「うむ、優しくないからのう」

「それに、素直じゃないしー、いじめっ子だしー」

「そうじゃの、素直になれば可愛らしいものを・・・まったく」

ミナとレインは言いたい放題である、ライニールは顔を背けて笑いを堪えた、

「ええーい、もういいわー」

レアンは癇癪を起こしたように大声を上げるが、その顔は隠すことなく笑顔である、

「あら、もう渡しちゃったの?」

そこへソフィアが戻ってくる、

「うん、折角作ったんだもん」

ミナがピョンと飛び跳ねる、

「そうね、どう気に入ってくれた?」

ソフィアの優しい微笑みにレアンは複雑に表情を変えながら、

「うむ、悪くはないのう」

小さく呟く、

「ほらのう、素直じゃないからのう、お嬢様は」

レインのしたり顔にレアンはさらにムーと唸り、

「そうだよねー、じゃ、ほら、着け方教えるね、簡単なのよー」

ミナがレアンの手を引いて鏡の前へと連れて行く、

「着け方があるのか?」

「そうなの、簡単なの、えっとね、最初にねブラシでね」

甲斐甲斐しくレアンの世話を焼くミナである、レアンは一々知っとるわと大声を上げながらそれでも二人は楽しそうにはしゃいでいる、

「あらあら」

ソフィアはその光景に微笑みながら腰を下すと作りかけの編み物に手を伸ばした、

「そうじゃ、そろそろ、漬物でもどうじゃ?」

突然レインが所帯じみた事を言い出す、

「へ・・・そうね、そっか・・・そうよね」

ソフィアは考えが追いつかず曖昧な事を口走る、

「そうじゃぞ、今日のカブも良かったが、ナスもニンジンも良い頃合いじゃったぞ」

「あら・・・漬物好きだったの?」

不思議そうにソフィアが問う、

「そりゃあ、のう、ほれ、冬に向けて保存食は有っても困らんじゃろ」

レインはムスッと顔を顰めて言い返す、

「それもそうだけど・・・そっかー、あれー、でも、野菜嫌いじゃなかった?」

「別に嫌ってはおらんぞ、それに、それはそれ、これはこれじゃ、別物じゃ」

レインも引き下がらない、

「そうなんだ・・・」

ソフィアはニヤリと微笑みつつ、

「塩とお酢、どっちがお好み?」

「塩漬けじゃな・・・酢漬けも良いが・・・うん、カブの浅漬けなぞは良いと思うぞ」

妙に素直に答えるレインである、

「そっか、カブか・・・うん、倉庫に甕があったはずね、うーん・・・本格的にやる?」

「むっ、仕方ないのう」

満足そうに頷くレインである、この娘も微妙にアマノジャクとやらだなとライニールは内心で思うのであった。



所変わって事務所である、

「なるほど、結び方が違うのね・・・」

「はい、ここをしっかりと止めてしまえば簡単に外れなくなります、それで」

鏡の前での騒動の後、マフダを中心にして裁縫及び小物作成の教室が始まっていた、デニスの姿は無い、これは長くなりそうだなとさっさとお暇した様子である、見事な逃げっぷりであった、姉を持つ弟としては日常的な事なのかもしれない、ついでに言えばサビナもその輪の中にいた、こちらは逃げ時を見失った感は無く、純粋にその場を楽しんでいる様子である、

「こうすれば直線に並べても形を維持したままで髪留めに付けれますね」

テーブルの中央にはガラス玉を使った幾つかの試作品が並んでいる、エレインの発案によるガラス玉を6つ使った髪飾りの飾りの部分である、当初エレインはガラス玉を円形に形作る事を考えていたが実際に組んでみると、円形とはお世辞にも言えない形になってしまった、

「亀の甲羅ですね」

テラの感想に、

「亀の甲羅ってこんな感じなの?」

亀を目にした事の無いエレインであるが、そう言われるとなんだか生々しくて嫌だわと言い出し、

「いや、これはこれで綺麗でいいじゃないですか」

とブノワトが評価するが、

「どうかしら・・・想像とちょっと違うのよね・・・何か他の形・・・うん、ガラス玉を6つ使ってそれで・・・うーん」

と悩みだしたエレインを見兼ねて、マフダが次々と様々な造形をササッと作り出してはテーブルに並べていった、それが事の経緯である、

「真っ直ぐなのも良いですわね」

「この2段になってるのも好きですよ」

「亀の甲羅も好きだけどなー」

「2段をずらした感じもお洒落でいいじゃないですか」

それぞれにお気に入りがあるらしい、確かにそれぞれがそれぞれに魅力があるように思う、たかだかガラス玉を並べただけの品であるが、何やら紋章のようにも見えるし、魔術の何かしらと言われればそうかしらとも思える、ちょっとした遊びとサビナは思っていたが、これはこれで奥が深いものだなと感心しきりであった、

「そうですね・・・あとは・・・」

マフダは縫い針を口に咥えて首を捻ると、先程まで話題の中心であったレースに手を伸ばす、

「えっと、レースを花びらのように使えば、亀の甲羅?でもいいんじゃないかなって思うんですよね・・・」

マフダはエレインによって雑に縫い付けられた髪留めを丁寧に外すと、

「うーん、ちょっと大きいけど・・・」

レースを織り込み要所を留めて立体的な花びらに仕立て上げる、あっという間の造形に5人は小さく歓声を上げた、

「それで、これを真ん中に・・・うん、これなら良い感じだと思います」

レースの花びらの中心に六角形のガラス玉を縫い付けて、テーブルにそっと置いた、

「まぁ、これは美しいですわね」

「うん、うん、お花になったね」

「すごーい、可愛いー」

「いや、大したもんだわ」

口々に絶賛の声が上がる、

「えへへ、良かったです」

マフダも嬉しそうに恥ずかしそうに微笑んだ、

「なるほど、これですわね」

エレインもどうやら満足したらしい、

「そうですね、でも、確かにレースが大きすぎるかしら?」

「はい、なので、半分くらいの大きさにすればいいと思います、あまり大きいと髪飾りとして邪魔になっちゃいますから、それに従業員用となると・・・うん、小さいほうが良いですよね」

マフダは腕を組んで職人らしい厳しい視線を自作に注ぐ、

「そうね、うーん、半端なレースが大量にありますから持って来ましょう、取り敢えず従業員の人数分を作ってもらって・・・オリビア・・・は学園ね、じゃ、マフダさんとテラさんは作業をお願いしますね」

「はい」

テラとマフダは同時に了承の意を伝える、

「じゃ、私は戻ろうかな・・・マフダさんはしっかり職人さんだね、大したもんだわ、いや、下着の時も思ったけどさ」

サビナが感想を口にした、マフダは嬉しそうに照れ笑いを浮かべ、

「下着で何かあったんですか?」

ブノワトが聞き逃さない、

「うん、作り直して貰ったのよね、何というか商品として売れる感じに?」

「あ、そうだ、マフダさん下着の留め金を改良したいと仰ってましたわよね」

エレインが思い出して甲高い声を上げた、

「え、はい」

マフダが驚いて顔を上げ、ブノワトは、

「あ、さっき言ってたね、改良?どんな感じ?」

「えっとですね、下着・・・持って来ますね」

マフダがサッと腰を上げる、

「じゃ、私はレースを取りに行きますわ、テラさんお願いね」

エレインも腰を上げると寮へと走るのであった。
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