セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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41話 家門祭りは泥遊び その13

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「ごめーん、テラさんいるー?」

事務所の木戸からジャネットがヌッと顔を出した、ゆっくりと茶を楽しんでいた一行はビクリと驚き、全員の視線がジャネットへ注がれる、

「あ、リシア様すいません、こんな所から・・・」

ジャネットはなんともだらしない誤魔化し笑いを浮かべている、それでもパトリシアの姿に気付き、いの一番に謝罪を口にしたあたりにそれなりの配慮が身に付いてきたともいえる、

「えっ、はぁ・・・ご機嫌よう、ジャネットさん」

パトリシアが目を見開いたまま力なく返し、エレインとテラが慌てて立ち上がる、

「どうしたのです」

「何か問題?」

二人は大声を上げるがジャネットは誤魔化し笑いを浮かべたまま、

「えっと、店仕舞いしてきたんですけど、ほら、泥を事務所に持ち込んでは駄目かなーって、思って」

頼りない声である、エレインはあっと気付き、祭りを見ていないテラは何のことやらと不思議そうである、

「テラさん、玄関先に水と手拭をあるだけ持って来て下さい、ジャネットさん達は待機よ、事務所と寮に近付かないように」

「は、はい」

テラはバタバタと倉庫へ走り、

「えへへ、お願いしまーす」

そう言ってスッと消えたジャネットである、賓客達は何のことやらと一様に首を傾げ、

「えっと、屋台組が戻ったようです、このまま、今しばらくお待ち下さい」

エレインはそう皆を見渡して告げると、玄関へと走った、状況確認の為である、

「あ、お疲れ様です」

通りの道端に屋台が2台と従業員が屯していた、皆エレインの予想通りの姿である、

「あー、そうなりますわよね・・・」

エレインはガクリと肩を落とす、

「そうなんです、少しばかり想像力が足りませんでした」

アニタがすまなそうに呟いた、屋台組の従業員は皆、見事に泥だらけである、その汚れは足元に集中しているがよく見れば髪にまで泥が飛んでいる者もおり、みなどこか元気が無い、仕事の疲れもあるだろうが、何より本人達も汚れたくはなかったであろう、さらに屋台も泥だらけである、特に車輪の部分の泥が酷い、エレインはなるほどこうなるわよねと納得してしまった、

「今、テラさんに手拭と水を用意させておりますから、待っていなさい」

「はーーい」

素直に頷く一同である、見れば事務所の前の街路も泥汚れがあるように思える、祭りからの帰宅客が引いて来たものであろう、

「これはまずいですわね・・・」

エレインはまずは賓客をどう遇するかを考える、祭りそのものに参加していないばかりかさっさと帰ってきてしまったのだ、故にまったく汚れておらずその必要も無い、というか汚してはいけない方々であり、ここで変に汚してしまっては折角の楽しい雰囲気が台無しとなる、暫し思案し、街路の汚れが少ない今の内に寮へと移ってもらい、そこでゆっくりしてもらおうと思い付く、エレインはサッと踵を返し寮へと走った、食堂の木戸から先程のジャネットのように顔を出すと、

「ソフィアさんいますか?」

「なーにー」

食堂にはユーリが一人書を手にしていた、

「ソフィアさんは?」

「ミナとレインのお着換え」

「こちらへお客様を避難させたいのですが」

「避難?」

「はい、表の道が泥だらけなのです」

「あー、そういう事・・・うん、いいんじゃない?」

「ありがとうございます」

バタバタと事務所へ戻るエレインである、ユーリは、さて私が出来る事は・・・と考え、

「特に無いかな、一応お出迎えするか・・・」

ゆっくりと腰を上げてうーんと伸びをするユーリであった。



「ねっねっ凄いでしょー」

「ほんとだ・・・」

「ミナちゃん、凄いねこれ」

「でしょでしょー」

エレインの機転で何とか賓客達は汚れることなく寮へと避難した、せっかく楽しかったのにーとブーブー言う声が響いたが、街路の様子と泥だらけの従業員の姿を見て、事の重大さを認識し、さっさと寮へと移る、ユーリが出迎え、アフラにより寮の仕来りを指導されると、なんでわざわざと不思議そうな顔になるが、スリッパに足を通した瞬間になるほどと納得したらしい、王妃様二人は絶賛の声を上げて食堂へと入る、やがて、ミナとレインが普段着に着替えて食堂入って来ると、急に増えた客人達に興奮したミナがオジギソウを手にして自慢して回っていた、

「わっ、何事です」

のんびりとソフィアが食堂へ入って来る、一行が思い思いに寛いでいる様子に目を剥いた、

「あ、ソフィアさん」

エレインがサッと近寄り事情を説明する、

「あー、なるほどそういう事ー」

「はい、先程迄事務所で歓談していたのですが、これは一大事と思いまして」

「さすがねー、エレインさん、えらいえらい」

子供に対する褒め方である、エレインはそれでも嬉しそうに微笑んだ、

「ん・・・あ、そうか・・・なるほどね、そういうわけだったのかな?」

ソフィアが何かに気付いて呟く、

「何か?」

エレインが問うと、

「あのね、レアンお嬢様が馬車を置いて祭りに行ったのよ、ミナとレインとライニールさんと歩きで・・・」

「えっ・・・あっ、そういう事ですか・・」

「ね、さすが地元民ね、対処の仕方が慣れてるわ」

ソフィアは楽しそうに破顔した、

「そうですね・・・まったく、こればかりは・・・」

「そうね、何とも言えなくなっちゃうわね」

二人はそう言って笑い合うと、

「では、すいません、私は一旦事務所に、テラさんだけに押し付けては申し訳がないです」

「そうね、こっちは任せておいて」

エレインは事務所へと戻り、

「さて」

と、ソフィアは食堂へ向き直る、そこではミナがアフラとウルジュラと側仕えを相手にして大立ち回りをしており、パトリシアと王妃達の姿は無い、ついでにユーリの姿も無い、

「あら、王妃様は?」

ソフィアがアフラに問うと、

「はい、ユーリ先生と3階へ、パトリシア様が服飾の資料を見せたいとの事でした」

「あー、なるほど、それは良いわね、任せてしまいましょう」

「そうですね、で、どう、楽しめた?お祭り?」

ソフィアが気さくに問いかけるが、アフラは渋い顔となり、

「ソフィアさんは意地悪でちゅねー」

それを聞いたウルジュラがミナへと問いかける、見事な幼児言葉である、

「そうなの、ソフィーは意地悪なのよ、でも優しいのー」

ミナが嬉しそうに答える、

「そっかー、じゃ、しょうがないかー」

「そうなの、しょうがないのー」

ソフィアはなんの事やらと苦笑いを浮かべ、

「そうなるとあれですか、お祭りはそれほどって感じですか?」

「そうですね、さっさと戻って来ました、エレインさんの事務所でお菓子作りをしてましたね」

「そうですか、私もミナとレインが泥だらけで帰って来てもうビックリしましたよ」

「そうだったんですねー、カトカさんとサビナさんに状況は聞いていたんですが、実際に目にすると何とも・・・」

「そうらしいですね、ま、変に汚れなくて良かったです、祭り見物で汚されたとあっては・・・どうなる事やら・・・」

「まったくです」

しみじみと頷き合う二人である、

「ユラ様ー、これで遊ぼー」

「何それ?」

「オテダマー」

「オテダマ?」

「そうよ、ソフィーが作ってくれたの、レインが上手なのよー」

「へー、どうやるの?」

「えっとね、こんな感じー」

暖炉の前に座り込んだ二人はお手玉に興じ始め、それはやがて側仕えとレインを巻き込んで楽しそうな輪になった、こういう時にミナは役に立つのよねーとソフィアは思いつつ、じゃ、野営の準備に取り掛かろうかと腰を上げる、

「準備されます?」

それに気付いたアフラがソフィアを見上げる、

「そうね、そろそろ学生達も戻るでしょうし、下準備は大体終わっているから、後は持って行って現地対応って所ね」

「わかりました、では、皆さん、準備に行きましょう」

アフラの号令により側仕え達は腰を上げた、やや名残惜しそうにしているが、そこは仕事と皆キリッとした顔である、

「あら、お客様に手伝わせては申し訳ないわよ」

ソフィアは大人らしくその好意を遠慮するが、

「いえいえ、そういう段取りであった筈ですよ」

アフラはニコリと返す、

「そうだったかしら?」

「はい、それに、側仕えの皆さんも遊んでばかりでは、ほら、逆に不安なものでしょう?」

「そうなの?」

「そうなんです」

アフラが側仕え達に目配せすると、皆大袈裟にかぶりを振った、

「そっか、ま、気持ちは分かるわね」

ソフィアはヤレヤレと微笑むと、

「じゃ、厨房に用意してあるのを持って行って、軽く調理をします、御協力お願いしますね」

素直にその好意を受けることとし、

「ミナー、レインー、ユラ様のお相手お願いねー」

「うん、わかったー」

「勿論じゃ」

「えー、お相手してくれるのー、嬉しー」

「ミナもー、嬉しいー」

「キャー、ミナちゃん、可愛いー」

本日のウルジュラは若干精神年齢が若いらしい、ま、そういう気分の時もあるわよねとソフィアはアフラ達を引き連れて厨房へと入るのであった。
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