セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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46話 秋の味覚と修練と その8

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翌日、朝から事務所はバタバタと騒がしかった、

「そのテーブルと棚は上に」

「この木簡はどうします?」

「それも一緒にして下さい、一纏めにして」

テラの指揮の下、事務所から会長室への引っ越しである、リーニーとマフダが細かい品を持って往復を繰り返し、ジャネットとカチャーが大物を担当した、さらに、エレインとオリビアは寮の自室から書類関係を運び入れ、ケイスは部屋の掃除である、見事な役割分担で作業はあっという間に終わり、

「こんなもんだねー」

「そうね、じゃ、次は」

ジャネットが一息吐く間もなく次の作業である、会長室の隣りの部屋を開発室とするべく、今度はマフダとオリビアの指揮の下、使われていない調度品を運びだし、倉庫へと片付けた、そちらの作業も一段落すると、

「うー、何か畏れ多い気がしますー」

その部屋の主となるマフダは開発室を見渡して、責任感からくる重圧からか不安そうに身を震わせる、

「えへへ、何か、本格的ですね」

ケイスはのほほんと楽しそうである、掃除用具を片付けながら、

「そうなると、マフダさんはこっちに集中するの?」

「はい、昨日、テラさんからそのように言われました、えっと、お店の方は助けが欲しい時にお願いするからって」

マフダがおずおずと答える、会長室の新設もであるが、マフダをそろそろ本格的な開発業務に就けようとエレインとテラは思い至ったらしい、マフダは店舗での作業も一通り修得し、いつでも手伝い程度であれば熟せるようになってきていた、顧客対応についてはまだ慣れが必要かなという感じであるが、裏方としては十分と判断されたようである、その為、今日からはマフダに代わりリーニーとカチャーを研修という形で店舗に入れる事となったのである、

「そっかー、マフダさんも凄いなー、楽しみだねー」

「そんな、私に・・・その、出来るでしょうか」

やはりマフダは不安そうである、まだまだ新人という立場でありながら開発室との名目であるが個室を預けられたのである、不安感も大きいが、そこまで期待されているという事実にも重圧を感じていた、そこへ、

「うん、こっちも良い感じね」

テラが顔を出す、室内を見渡し、作業テーブルと椅子、中身の入っていない前の住人が置いていった棚が数個並んだだけの簡素な室内である、

「はい、でも、いいんですか、その・・・専用のお部屋なんて・・・」

マフダが申し訳なさそうにしているが、

「そうね、来月にはリーニーさんもこっちに加わってもらうし、そしたら狭く感じるかもだけど、その時はもう一部屋増やせばいいわよ」

テラはあっけらかんとしたものである、実際に部屋は余っているのである、3階の一部屋をテラが寝室として使用している以外に貴賓室と事務所を覗けば他の部屋はほぼ手付かずであった、倉庫代わりにしている部屋もある、具体的には個室として使える部屋は2階3階合わせて8部屋で、さらに、屋根裏部屋も合わせると5部屋が追加で勘定できた、元来が貴族の別宅として作られている屋敷である、実に使い手があるのであった、

「それは伺ってますけど、その・・・」

どこまでも自信なさげに俯くマフダである、テラはジッとマフダを見つめ、

「ふふ、そう思うならしっかり仕事をしましょう、マフダさんがここの門を叩いた時の事、忘れないでね」

優しく見下ろすテラをマフダは見上げ、

「はい、忘れてないです、頑張ります」

そうだったと決意を新たに口元を引き締めた、

「宜しい、なので、そうね、今日はあれだ、服飾関係で必要な道具を仕入れましょう、裁縫道具もあるにはあるけどエレイン会長やオリビアさんが使ってたものだしね、ちゃんとしたものを揃えないと」

「はい、ありがとうございます」

「でもあれか、その前に具体的な開発計画とかも必要よね・・・うん、会長と一緒に相談しましょう、今日は経営陣もいるしね」

ニコリと微笑むテラである、

「じゃ、どうしようかしら、一旦下に集まりますか」

「はい」

ケイスとマフダが明るく答え、3人は事務所へと下りた、事務所では、

「屋台もう一台欲しいと思うんだよねー」

ジャネットがエレインを前にしていつもの砕けた口調である、

「そうですわね・・・確かに・・・」

エレインはジャネットの意見を真摯に受け止めており、その横でオリビアが茶を点て、リーニーとカチャーは茶を片手に一休みしている様子であった、

「あら、今度はなんです?」

「あ、テラさん、あのね、屋台をもう一台増やしたいのさ」

ジャネットの標的がテラへと移った、

「どうしました?突然」

テラは側の椅子を引っ張ってきてエレインの隣りに腰を下ろし、マフダとケイスは茶を受け取りながらリーニー達の側に落ち着く、

「うん、ほら、店舗の方がね、髪留めとかの置き場所が無くてさ、小物類の販売を増やすのであれば売り場を拡張しないとでしょ」

「なるほど・・・そういう事ですか」

ジャネットの主張は実に正しいものであった、寮の脇にある店舗は馬小屋を改修した施設である、屋台2台分程度の広さしかない、決して広く使えるわけではないのであるが、そこに新商品として髪留めやガラス玉、調理器具としての泡立て器に焼き菓子の型、調理法を記した木簡を並べている為、なんとも手狭に感じるようになってきていた、

「上の倉庫もいっぱいになってきてるしね、なもんで、屋台をもう一台増やして、それを食品以外の商品用の屋台にすればいいんじゃないかって思ったのよ」

「・・・理にかなってますわね・・・」

エレインが静かに呟く、

「そうですね、では、一台増やしますか?」

「そうね・・・ただ、寮の倉庫にはもう入らないと思うのよ・・・」

「あっ・・・それもあったね・・・」

ジャネットの勢いが一気に沈静化した、現在、商会で利用している屋台2台は店舗の裏側半分を締める倉庫に納められている、それもかなり強引に押し込んでいる為、それ以上物を入れる空間は無いのであった、さらに言えばその倉庫は寮生活に必要なものを納める為の倉庫であり、商会は間借りしているも同然なのである、

「・・・屋台を増やすのはやぶさかではないのですが、保管場所がね・・・ソフィアさん・・・というよりも寮にはこれ以上無理は言えないと思いますしね」

溜息交りのエレインである、その言葉通りに今冬の薪は寮の外壁を背にして積もうという事になっており、実際に倉庫に入れられていた薪はその通りにされていた、雨の少ないモニケンダムでは珍しく無い光景ではあるが、雨が振らないわけでも雪が積もらないわけでもない、いざ、そうなった場合の不都合を考えると、せめて薪は屋根のある所で保管したいのである、付け加えるなら倉庫があるのに使えないのはやはり心証が良くない、エレインとしても早急に対応が必要とは考えていたが後回しになっていた案件でもある、

「うーん、なら、無理かなー、ほら、祭りの時も屋台ごと移動すれば楽だからって思ったんだけど・・・」

ジャネットが残念そうに天を仰いだ、

「・・・では、いっその事こちら側に倉庫を作りましょうか?」

テラが首を傾げつつ提案する、

「倉庫を作るの?」

「はい、ほら、屋台ですからね、基本的には外に置いておいても問題無いと思います、月に一度しか使わないですが、そうですね、雨が防げれば十分じゃないかしら?」

「・・・それもそうね・・・」

「そうだけど・・・えっ、そんな簡単に?」

若干身を引くジャネットである、彼女はそこまではまるで考えてなかった、

「そうですね、ほら、寮の改築の時にでもこっちに屋台用の雨除けを作ってもらいましょう、それまでは外で保管しておいて、盗まれないようにしなくちゃですけど」

「物の入ってない屋台を盗む人がいるのかしら?」

「そりゃ、だって、売ればそれなりになりますもの、鎖で錠をかければそれだけで十分ですよ」

「そうね、じゃ、ジャネットさん、屋台を買ってきて下さい」

エレインが簡単に言い放つ、まるで、ミナにおつかいを頼むソフィアのそれである、

「えっ、うん、わかった・・・」

ジャネットが目を剥いて頷き、ケイス達も随分あっさりしているなぁと驚いている、

「あ、じゃ、どうしましょう、専用の屋台となると、売り場というか、棚を増やせますよね、先日ブノワトさんが言ってた木工細工も取り扱えますよね」

「そうね・・・そうなると、あれね、その屋台にもちゃんとした棚とか欲しくなりますわね・・・」

「ブラスさんに相談しましょうか」

「そうね、忙しいかしら?」

「ブノワトさんに頼めば断らないと思いますよ」

「それも、そうね」

若干不穏な言動である、

「そうなると、しっかり打合せしないとですわね」

「そうですね、午前中の内に行きましょうか、午後は忙しくなりますし・・・ついでですから呼んできますか」

「そうね、あ、忙しそうだったら無理には止めておいてね、ただでさえお願いしている仕事が多いのですし、じゃ、ジャネットさん、テラさんと一緒にお願いしますね」

「うん、わかった・・・りました」

決定の速さに呆気にとられるジャネットである、

「それで、その前になんですが、マフダさんの開発業務についても打合せしておきたいのですよ」

「それもありましたね・・・マフダさんこっちへ、リーニーさんも」

エレインが二人を呼び寄せ、

「そうだ、オリビアもケイスさんも、じゃ、カチャーさんもね、って、ならこのままでいいか、意見があれば遠慮なくお願いします」

腰を上げかけたマフダとリーニーが困惑しながら座り直し、

「まずは、マフダさんの件ね、服飾関係と爪の手入れに関してになるかしら・・・」

エレインが中心となって開発業務の展望が語られ、テラとオリビアが要所要所で口を挟む、マフダも遠慮しながらであるが意見を出した、しかし、ジャネットとケイスはそこまで考えていたのかと言葉を無くし、リーニーとカチャーは唖然と呆けるばかりである、そして、マフダの開発業務が本格的に始動するのであった。
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