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本編
47話 沈黙の巨漢 その11
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ソフィア達が転送陣を潜りユーリの事務室へ入ると、そこは無人であった、狭い部屋である、声をかける必要も無くそれは一目で理解でき、ソフィアはそのまま学園の事務室へと向かった、学園は以前来た時よりも閑散としており、静寂に包まれた石造りのそれは冷たく暗い、突然の来訪者を決して温かくは迎え入れはしなかった、巨大な石造建築物特有の排斥力とでもいうのであろうか、人の少ない学園はなんとも居心地の悪さを感じる、
「えっと、こっちね、取り敢えず事務室に行けば分かると思うわ」
ソフィアは明るい声音を意識してわざとらしく声を張り上げた、クロノスとゲインはどうでも良いとしても、ルルには多少気を使うべきだなと判断した為である、ルルは見慣れない魔法陣を潜る度に変わる風景と状況に、かなり混乱し不安そうな顔であった、ゲインの背にピタリと貼り付きキョドキョドと周囲を伺っている、対してゲインはルルに助言するでも説明するでもない、沈黙を守る巨漢はただ悠然とソフィアの後をついてくるばかりである、
「まったく・・・」
その様子にソフィアはヤレヤレと溜息を吐き、
「ゲイン、あんた、ホント変わんないわねー」
歩を進めながらゲインを見上げる、
「なにがだ?」
「なにがだじゃないわよ、ルルさん困ってるでしょ、少しは気をつかいなさいよ」
ソフィアの苦言に、ゲインはルルを見下ろして、
「そうなのか?」
言葉少なに問いかける、
「・・・えっと、うん、ここが学園なんですよね」
ルルは一旦ゲインを見上げて、おずおずとソフィアに問う、
「そうよ、ここがバーク魔法学園、今は生徒さんは秋休み中だから、静かだけどね、講義が始まったら騒がしい筈よー」
「そうですか・・・あの、私達、さっきまで北ヘルデルのお城にいたと思うんですけど・・・」
「あー・・・そうよねー、そこからよね、あのね、クロノスもゲインも教えてくれなかったんでしょうから、説明するんだけど」
ソフィアは大男二人を一睨みし、二人は何故睨まれたのか不思議そうにソフィアを見下ろす、
「さっき、潜った魔法陣あるでしょ、あれが、転送魔法陣って呼んでるものでね」
ソフィアはまずはと転送魔法陣に関して説明し、さらにそれが北ヘルデルの城塞と寮の研究室、さらに寮の研究室と学園が繋がっている事を説明する、
「・・・初めて聞きました・・・転送魔法陣ですか・・・それってとんでもないんじゃないですか?」
ルルはやっと警戒を解いたのかゲインの背中から離れ、ソフィアの隣りに歩み寄る、
「そうね、だから、あれよ、あんまり口に出さないでね、使える人が少ないのもあるし、何かと問題がある代物だから」
「問題ですか?」
「そうよ、例えばだけど・・・」
ソフィアは思い付く限りの問題を口にする、経済的な事、軍事的な事、さらには日常生活への影響等々である、
「で、一番の問題は使える人がいない事、さっき少ないといったけど、普通の人には起動させるのすら無理だから」
ソフィアは珍しくも熱心に説明し、そう締め括った、ルルは一つ一つに小さく頷き、
「わかりました、ありがとうございます、その・・・まだ実感が湧かないんですけど、理解しました」
漸く飲み込めたらしい、しかし、それも無理矢理である、その言葉の通りに体験したとはいえ理解するのは難しいであろう、そういうものだと思って納得するしか無い事象である、
「その、父からも母からも、伯父さんは特別だからって言われてたんですけど、それも関係するのでしょうか?」
ルルは突然明け透けな疑問を口にする、その疑問はクロノスにもゲインにも勿論聞こえているのであるが、ゲインは変わらず黙り込み、クロノスは苦笑いを浮かべた、
「あー、確かに特別かしら・・・うん、そこら辺はそのうちゆっくりと話せればいいかなと思うけど・・・」
ソフィアは言葉を濁しながらこちらも苦笑いを浮かべる、
「・・・何かあるんですか?」
ルルの追及は止まらない、それはそうであろう、学園に入学する事となって伯父と二人、田舎を出たと思ったらどういうわけか北上し、北ヘルデルの城塞に連れていかれ、何だか偉そうな人と伯父は親し気に話しだし、状況を説明されないままにいつのまにやらモンケンダムの学園を歩いているのである、やっとまともに会話が成り立つ人物が目の前に現れたのだ、聞きたい事は山と積み重なっている、
「何か・・・はあるかな、でも、取り敢えず手続きが先ね、お話しはほらいつでもゆっくり出来るから、あっ、あっちね、ほら、人がいた、こっちは忙しそうね」
ソフィアが誤魔化しつつ指差した先には親子連れと思しき数組の往来が見え始めた、新入生と保護者であろう、ルルと同じく手続きの為に来園しているのである、
「あ、よかった・・・人がいた・・・」
ルルは小さく呟きほっと胸をなでおろす、
「そうよねー、誰もいないんじゃ不安になるわよねー」
「はい、そのもっと、騒がしいものかと思ってました、都会と聞いてましたし」
「そっか、都会かー、じゃ、帰りは街を歩きましょうね」
ソフィアは上手い事誤魔化せたかなと微笑みつつ、先を急ぎ事務室へ向かう、事務室の扉は開け放たれており入学手続き用のテーブルも用意されている様子で、事務員と数組の親子がそのテーブルで話し込んでいた、
「なるほど、こうなるんだ・・・」
ソフィアは事務室を覗き知った顔を探す、ダナを見つけて呼び出すと事情を説明した、
「わかりました、では、こちらへ、ルルさんですね」
ダナはすぐに愛想よく対応に回ったが、事務室の外、廊下にて佇むゲインに気付き、
「デカ・・・」
驚きのあまり硬直した、よく見れば廊下を行き交う人達も物珍しそうにゲインを見上げている、
「あー、ダナさん、失礼よ」
ソフィアはアチャーと困りながらもダナを諫め、
「あ、すいません、失礼しました、えっと・・・」
「伯父です、保護者として同行してます」
ルルが説明し、ダナは慌てながらも手続きが始まった、ソフィアはこんなもんかと一息吐き、クロノスはつまらなそうに事務室を睥睨すると、事務員を捕まえ、
「事務長はいるか?」
「はい?」
「クロノスが来たと取り次いでくれ、学園長がいれば尚良いが」
「はっ、はい」
クロノスの貴族らしい独特の強圧に事務員はこれは一大事とバタバタと奥へ走る、
「ちょっと、何やってるのよ」
ソフィアがあまりの態度に目くじらを立てるが、
「事務長と打ち合わせだ」
「予定してないんじゃないの?」
「構わんだろ」
「構うでしょ」
「そうか?」
「だから、あんたねー」
ソフィアの説教が始まりかけた瞬間に事務長と事務員が走り寄り、
「これはスイランズ様、わざわざお越し頂きましてありがとうございます」
事務長が何事かと慌てた面相である、
「うむ、先日の予算の件でな、少し話せるか?」
「はい、勿論、では奥へ」
「うむ、ソフィア、後は頼むぞ」
クロノスは事務長と共に事務長室へ消え、
「まったく・・・なんだかもー」
ソフィアは一人取り残されてしまうのであった、しかし、
「ソフィアさーん」
ダナの悲鳴がソフィアに届く、
「今度はなに?」
ソフィアはキッとダナを睨む、
「そんなー、睨まないで下さいよー」
ソフィアの視線の先、ルルとゲインを前にしたダナは泣きそうな顔になり、ルルも困ったようにソフィアを見上げ、ゲインは変わらず黙している、
「あー、そっか・・・うん、理解した」
ソフィアはすぐさまルルの隣りに立つと、
「で、何?」
「はい、諸条件に関しての同意書になります、で、こちらが支払い明細書、なんですが、確認が・・・その・・・とれなくて・・・」
泣きそうな顔でゲインを見上げ、申し訳なさそうにソフィアへ視線を送る、
「ちょっと見せて」
ソフィアが数枚の木簡に目を通す、へー、こういう事なんだ大したもんねと感心し、
「うん、問題ないじゃない、支払いは済んでるのね」
「はい、満額頂いてます、なので、確認の上、記名をお願いしたいのですが・・・」
「はいはい、ゲイン、問題ないわよ、こことここにあんたの名前を書いて、ルルさんはこれね」
「はい」
ルルは素直に石墨を手にするが、ゲインは無表情で見下ろすばかりである、
「あー、代わりに私の記名でもいい?」
「え、はい、その、大丈夫ですか?」
「私は平気よ、何かあっても後ろ盾があるでしょ、このお金、どこから出てるか分かってるでしょ、それがどういう意味かもね」
「え・・・、あ、はい、そう・・・ですね」
ダナが木簡を確認してそういう事かと納得した、
「ね、まったく、こいつは昔からこうなのよ」
ソフィアはプリプリと怒りつつ記名し、
「書類はこれでいいの?」
「はい、では、今後の予定を説明します、木簡もお渡ししますが質問があればお願いします」
ダナは記名を確認し、次の説明へと移る、ソフィアはまったくこの男共はと大いに憤慨するのであった。
「えっと、こっちね、取り敢えず事務室に行けば分かると思うわ」
ソフィアは明るい声音を意識してわざとらしく声を張り上げた、クロノスとゲインはどうでも良いとしても、ルルには多少気を使うべきだなと判断した為である、ルルは見慣れない魔法陣を潜る度に変わる風景と状況に、かなり混乱し不安そうな顔であった、ゲインの背にピタリと貼り付きキョドキョドと周囲を伺っている、対してゲインはルルに助言するでも説明するでもない、沈黙を守る巨漢はただ悠然とソフィアの後をついてくるばかりである、
「まったく・・・」
その様子にソフィアはヤレヤレと溜息を吐き、
「ゲイン、あんた、ホント変わんないわねー」
歩を進めながらゲインを見上げる、
「なにがだ?」
「なにがだじゃないわよ、ルルさん困ってるでしょ、少しは気をつかいなさいよ」
ソフィアの苦言に、ゲインはルルを見下ろして、
「そうなのか?」
言葉少なに問いかける、
「・・・えっと、うん、ここが学園なんですよね」
ルルは一旦ゲインを見上げて、おずおずとソフィアに問う、
「そうよ、ここがバーク魔法学園、今は生徒さんは秋休み中だから、静かだけどね、講義が始まったら騒がしい筈よー」
「そうですか・・・あの、私達、さっきまで北ヘルデルのお城にいたと思うんですけど・・・」
「あー・・・そうよねー、そこからよね、あのね、クロノスもゲインも教えてくれなかったんでしょうから、説明するんだけど」
ソフィアは大男二人を一睨みし、二人は何故睨まれたのか不思議そうにソフィアを見下ろす、
「さっき、潜った魔法陣あるでしょ、あれが、転送魔法陣って呼んでるものでね」
ソフィアはまずはと転送魔法陣に関して説明し、さらにそれが北ヘルデルの城塞と寮の研究室、さらに寮の研究室と学園が繋がっている事を説明する、
「・・・初めて聞きました・・・転送魔法陣ですか・・・それってとんでもないんじゃないですか?」
ルルはやっと警戒を解いたのかゲインの背中から離れ、ソフィアの隣りに歩み寄る、
「そうね、だから、あれよ、あんまり口に出さないでね、使える人が少ないのもあるし、何かと問題がある代物だから」
「問題ですか?」
「そうよ、例えばだけど・・・」
ソフィアは思い付く限りの問題を口にする、経済的な事、軍事的な事、さらには日常生活への影響等々である、
「で、一番の問題は使える人がいない事、さっき少ないといったけど、普通の人には起動させるのすら無理だから」
ソフィアは珍しくも熱心に説明し、そう締め括った、ルルは一つ一つに小さく頷き、
「わかりました、ありがとうございます、その・・・まだ実感が湧かないんですけど、理解しました」
漸く飲み込めたらしい、しかし、それも無理矢理である、その言葉の通りに体験したとはいえ理解するのは難しいであろう、そういうものだと思って納得するしか無い事象である、
「その、父からも母からも、伯父さんは特別だからって言われてたんですけど、それも関係するのでしょうか?」
ルルは突然明け透けな疑問を口にする、その疑問はクロノスにもゲインにも勿論聞こえているのであるが、ゲインは変わらず黙り込み、クロノスは苦笑いを浮かべた、
「あー、確かに特別かしら・・・うん、そこら辺はそのうちゆっくりと話せればいいかなと思うけど・・・」
ソフィアは言葉を濁しながらこちらも苦笑いを浮かべる、
「・・・何かあるんですか?」
ルルの追及は止まらない、それはそうであろう、学園に入学する事となって伯父と二人、田舎を出たと思ったらどういうわけか北上し、北ヘルデルの城塞に連れていかれ、何だか偉そうな人と伯父は親し気に話しだし、状況を説明されないままにいつのまにやらモンケンダムの学園を歩いているのである、やっとまともに会話が成り立つ人物が目の前に現れたのだ、聞きたい事は山と積み重なっている、
「何か・・・はあるかな、でも、取り敢えず手続きが先ね、お話しはほらいつでもゆっくり出来るから、あっ、あっちね、ほら、人がいた、こっちは忙しそうね」
ソフィアが誤魔化しつつ指差した先には親子連れと思しき数組の往来が見え始めた、新入生と保護者であろう、ルルと同じく手続きの為に来園しているのである、
「あ、よかった・・・人がいた・・・」
ルルは小さく呟きほっと胸をなでおろす、
「そうよねー、誰もいないんじゃ不安になるわよねー」
「はい、そのもっと、騒がしいものかと思ってました、都会と聞いてましたし」
「そっか、都会かー、じゃ、帰りは街を歩きましょうね」
ソフィアは上手い事誤魔化せたかなと微笑みつつ、先を急ぎ事務室へ向かう、事務室の扉は開け放たれており入学手続き用のテーブルも用意されている様子で、事務員と数組の親子がそのテーブルで話し込んでいた、
「なるほど、こうなるんだ・・・」
ソフィアは事務室を覗き知った顔を探す、ダナを見つけて呼び出すと事情を説明した、
「わかりました、では、こちらへ、ルルさんですね」
ダナはすぐに愛想よく対応に回ったが、事務室の外、廊下にて佇むゲインに気付き、
「デカ・・・」
驚きのあまり硬直した、よく見れば廊下を行き交う人達も物珍しそうにゲインを見上げている、
「あー、ダナさん、失礼よ」
ソフィアはアチャーと困りながらもダナを諫め、
「あ、すいません、失礼しました、えっと・・・」
「伯父です、保護者として同行してます」
ルルが説明し、ダナは慌てながらも手続きが始まった、ソフィアはこんなもんかと一息吐き、クロノスはつまらなそうに事務室を睥睨すると、事務員を捕まえ、
「事務長はいるか?」
「はい?」
「クロノスが来たと取り次いでくれ、学園長がいれば尚良いが」
「はっ、はい」
クロノスの貴族らしい独特の強圧に事務員はこれは一大事とバタバタと奥へ走る、
「ちょっと、何やってるのよ」
ソフィアがあまりの態度に目くじらを立てるが、
「事務長と打ち合わせだ」
「予定してないんじゃないの?」
「構わんだろ」
「構うでしょ」
「そうか?」
「だから、あんたねー」
ソフィアの説教が始まりかけた瞬間に事務長と事務員が走り寄り、
「これはスイランズ様、わざわざお越し頂きましてありがとうございます」
事務長が何事かと慌てた面相である、
「うむ、先日の予算の件でな、少し話せるか?」
「はい、勿論、では奥へ」
「うむ、ソフィア、後は頼むぞ」
クロノスは事務長と共に事務長室へ消え、
「まったく・・・なんだかもー」
ソフィアは一人取り残されてしまうのであった、しかし、
「ソフィアさーん」
ダナの悲鳴がソフィアに届く、
「今度はなに?」
ソフィアはキッとダナを睨む、
「そんなー、睨まないで下さいよー」
ソフィアの視線の先、ルルとゲインを前にしたダナは泣きそうな顔になり、ルルも困ったようにソフィアを見上げ、ゲインは変わらず黙している、
「あー、そっか・・・うん、理解した」
ソフィアはすぐさまルルの隣りに立つと、
「で、何?」
「はい、諸条件に関しての同意書になります、で、こちらが支払い明細書、なんですが、確認が・・・その・・・とれなくて・・・」
泣きそうな顔でゲインを見上げ、申し訳なさそうにソフィアへ視線を送る、
「ちょっと見せて」
ソフィアが数枚の木簡に目を通す、へー、こういう事なんだ大したもんねと感心し、
「うん、問題ないじゃない、支払いは済んでるのね」
「はい、満額頂いてます、なので、確認の上、記名をお願いしたいのですが・・・」
「はいはい、ゲイン、問題ないわよ、こことここにあんたの名前を書いて、ルルさんはこれね」
「はい」
ルルは素直に石墨を手にするが、ゲインは無表情で見下ろすばかりである、
「あー、代わりに私の記名でもいい?」
「え、はい、その、大丈夫ですか?」
「私は平気よ、何かあっても後ろ盾があるでしょ、このお金、どこから出てるか分かってるでしょ、それがどういう意味かもね」
「え・・・、あ、はい、そう・・・ですね」
ダナが木簡を確認してそういう事かと納得した、
「ね、まったく、こいつは昔からこうなのよ」
ソフィアはプリプリと怒りつつ記名し、
「書類はこれでいいの?」
「はい、では、今後の予定を説明します、木簡もお渡ししますが質問があればお願いします」
ダナは記名を確認し、次の説明へと移る、ソフィアはまったくこの男共はと大いに憤慨するのであった。
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