セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

文字の大きさ
452 / 1,445
本編

47話 沈黙の巨漢 その11

しおりを挟む
ソフィア達が転送陣を潜りユーリの事務室へ入ると、そこは無人であった、狭い部屋である、声をかける必要も無くそれは一目で理解でき、ソフィアはそのまま学園の事務室へと向かった、学園は以前来た時よりも閑散としており、静寂に包まれた石造りのそれは冷たく暗い、突然の来訪者を決して温かくは迎え入れはしなかった、巨大な石造建築物特有の排斥力とでもいうのであろうか、人の少ない学園はなんとも居心地の悪さを感じる、

「えっと、こっちね、取り敢えず事務室に行けば分かると思うわ」

ソフィアは明るい声音を意識してわざとらしく声を張り上げた、クロノスとゲインはどうでも良いとしても、ルルには多少気を使うべきだなと判断した為である、ルルは見慣れない魔法陣を潜る度に変わる風景と状況に、かなり混乱し不安そうな顔であった、ゲインの背にピタリと貼り付きキョドキョドと周囲を伺っている、対してゲインはルルに助言するでも説明するでもない、沈黙を守る巨漢はただ悠然とソフィアの後をついてくるばかりである、

「まったく・・・」

その様子にソフィアはヤレヤレと溜息を吐き、

「ゲイン、あんた、ホント変わんないわねー」

歩を進めながらゲインを見上げる、

「なにがだ?」

「なにがだじゃないわよ、ルルさん困ってるでしょ、少しは気をつかいなさいよ」

ソフィアの苦言に、ゲインはルルを見下ろして、

「そうなのか?」

言葉少なに問いかける、

「・・・えっと、うん、ここが学園なんですよね」

ルルは一旦ゲインを見上げて、おずおずとソフィアに問う、

「そうよ、ここがバーク魔法学園、今は生徒さんは秋休み中だから、静かだけどね、講義が始まったら騒がしい筈よー」

「そうですか・・・あの、私達、さっきまで北ヘルデルのお城にいたと思うんですけど・・・」

「あー・・・そうよねー、そこからよね、あのね、クロノスもゲインも教えてくれなかったんでしょうから、説明するんだけど」

ソフィアは大男二人を一睨みし、二人は何故睨まれたのか不思議そうにソフィアを見下ろす、

「さっき、潜った魔法陣あるでしょ、あれが、転送魔法陣って呼んでるものでね」

ソフィアはまずはと転送魔法陣に関して説明し、さらにそれが北ヘルデルの城塞と寮の研究室、さらに寮の研究室と学園が繋がっている事を説明する、

「・・・初めて聞きました・・・転送魔法陣ですか・・・それってとんでもないんじゃないですか?」

ルルはやっと警戒を解いたのかゲインの背中から離れ、ソフィアの隣りに歩み寄る、

「そうね、だから、あれよ、あんまり口に出さないでね、使える人が少ないのもあるし、何かと問題がある代物だから」

「問題ですか?」

「そうよ、例えばだけど・・・」

ソフィアは思い付く限りの問題を口にする、経済的な事、軍事的な事、さらには日常生活への影響等々である、

「で、一番の問題は使える人がいない事、さっき少ないといったけど、普通の人には起動させるのすら無理だから」

ソフィアは珍しくも熱心に説明し、そう締め括った、ルルは一つ一つに小さく頷き、

「わかりました、ありがとうございます、その・・・まだ実感が湧かないんですけど、理解しました」

漸く飲み込めたらしい、しかし、それも無理矢理である、その言葉の通りに体験したとはいえ理解するのは難しいであろう、そういうものだと思って納得するしか無い事象である、

「その、父からも母からも、伯父さんは特別だからって言われてたんですけど、それも関係するのでしょうか?」

ルルは突然明け透けな疑問を口にする、その疑問はクロノスにもゲインにも勿論聞こえているのであるが、ゲインは変わらず黙り込み、クロノスは苦笑いを浮かべた、

「あー、確かに特別かしら・・・うん、そこら辺はそのうちゆっくりと話せればいいかなと思うけど・・・」

ソフィアは言葉を濁しながらこちらも苦笑いを浮かべる、

「・・・何かあるんですか?」

ルルの追及は止まらない、それはそうであろう、学園に入学する事となって伯父と二人、田舎を出たと思ったらどういうわけか北上し、北ヘルデルの城塞に連れていかれ、何だか偉そうな人と伯父は親し気に話しだし、状況を説明されないままにいつのまにやらモンケンダムの学園を歩いているのである、やっとまともに会話が成り立つ人物が目の前に現れたのだ、聞きたい事は山と積み重なっている、

「何か・・・はあるかな、でも、取り敢えず手続きが先ね、お話しはほらいつでもゆっくり出来るから、あっ、あっちね、ほら、人がいた、こっちは忙しそうね」

ソフィアが誤魔化しつつ指差した先には親子連れと思しき数組の往来が見え始めた、新入生と保護者であろう、ルルと同じく手続きの為に来園しているのである、

「あ、よかった・・・人がいた・・・」

ルルは小さく呟きほっと胸をなでおろす、

「そうよねー、誰もいないんじゃ不安になるわよねー」

「はい、そのもっと、騒がしいものかと思ってました、都会と聞いてましたし」

「そっか、都会かー、じゃ、帰りは街を歩きましょうね」

ソフィアは上手い事誤魔化せたかなと微笑みつつ、先を急ぎ事務室へ向かう、事務室の扉は開け放たれており入学手続き用のテーブルも用意されている様子で、事務員と数組の親子がそのテーブルで話し込んでいた、

「なるほど、こうなるんだ・・・」

ソフィアは事務室を覗き知った顔を探す、ダナを見つけて呼び出すと事情を説明した、

「わかりました、では、こちらへ、ルルさんですね」

ダナはすぐに愛想よく対応に回ったが、事務室の外、廊下にて佇むゲインに気付き、

「デカ・・・」

驚きのあまり硬直した、よく見れば廊下を行き交う人達も物珍しそうにゲインを見上げている、

「あー、ダナさん、失礼よ」

ソフィアはアチャーと困りながらもダナを諫め、

「あ、すいません、失礼しました、えっと・・・」

「伯父です、保護者として同行してます」

ルルが説明し、ダナは慌てながらも手続きが始まった、ソフィアはこんなもんかと一息吐き、クロノスはつまらなそうに事務室を睥睨すると、事務員を捕まえ、

「事務長はいるか?」

「はい?」

「クロノスが来たと取り次いでくれ、学園長がいれば尚良いが」

「はっ、はい」

クロノスの貴族らしい独特の強圧に事務員はこれは一大事とバタバタと奥へ走る、

「ちょっと、何やってるのよ」

ソフィアがあまりの態度に目くじらを立てるが、

「事務長と打ち合わせだ」

「予定してないんじゃないの?」

「構わんだろ」

「構うでしょ」

「そうか?」

「だから、あんたねー」

ソフィアの説教が始まりかけた瞬間に事務長と事務員が走り寄り、

「これはスイランズ様、わざわざお越し頂きましてありがとうございます」

事務長が何事かと慌てた面相である、

「うむ、先日の予算の件でな、少し話せるか?」

「はい、勿論、では奥へ」

「うむ、ソフィア、後は頼むぞ」

クロノスは事務長と共に事務長室へ消え、

「まったく・・・なんだかもー」

ソフィアは一人取り残されてしまうのであった、しかし、

「ソフィアさーん」

ダナの悲鳴がソフィアに届く、

「今度はなに?」

ソフィアはキッとダナを睨む、

「そんなー、睨まないで下さいよー」

ソフィアの視線の先、ルルとゲインを前にしたダナは泣きそうな顔になり、ルルも困ったようにソフィアを見上げ、ゲインは変わらず黙している、

「あー、そっか・・・うん、理解した」

ソフィアはすぐさまルルの隣りに立つと、

「で、何?」

「はい、諸条件に関しての同意書になります、で、こちらが支払い明細書、なんですが、確認が・・・その・・・とれなくて・・・」

泣きそうな顔でゲインを見上げ、申し訳なさそうにソフィアへ視線を送る、

「ちょっと見せて」

ソフィアが数枚の木簡に目を通す、へー、こういう事なんだ大したもんねと感心し、

「うん、問題ないじゃない、支払いは済んでるのね」

「はい、満額頂いてます、なので、確認の上、記名をお願いしたいのですが・・・」

「はいはい、ゲイン、問題ないわよ、こことここにあんたの名前を書いて、ルルさんはこれね」

「はい」

ルルは素直に石墨を手にするが、ゲインは無表情で見下ろすばかりである、

「あー、代わりに私の記名でもいい?」

「え、はい、その、大丈夫ですか?」

「私は平気よ、何かあっても後ろ盾があるでしょ、このお金、どこから出てるか分かってるでしょ、それがどういう意味かもね」

「え・・・、あ、はい、そう・・・ですね」

ダナが木簡を確認してそういう事かと納得した、

「ね、まったく、こいつは昔からこうなのよ」

ソフィアはプリプリと怒りつつ記名し、

「書類はこれでいいの?」

「はい、では、今後の予定を説明します、木簡もお渡ししますが質問があればお願いします」

ダナは記名を確認し、次の説明へと移る、ソフィアはまったくこの男共はと大いに憤慨するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?

ばふぉりん
ファンタジー
 中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!  「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」  「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」  これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。  <前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです> 注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。 (読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...