セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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47話 沈黙の巨漢 その13

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「あら、先に戻った?」

「まぁね、会議終わったらダナが慌てて走って来るんだもん何事かと思ったわよ」

ユーリはヤレヤレと腰を上げ、

「ルルさんね、ユーリよ、学園の講師であなたの担任になると思うわ、宜しくね」

まずはルルに微笑みかける、

「あっ、はい、ルルです、宜しくお願いします」

ルルは慌てて頭を下げ、ユーリは優しい笑みを浮かべながら、

「ゲイン、久しぶりねー、元気してた?」

大きく見上げ、ルルの背後天井付近へ視線を移す、

「まあな」

ゲインは短く言い放ち、無表情となった、

「あら、変わらないわねー、ミナ、ゲインよ覚えてる?」

ユーリがソフィアの足に抱き着いているミナへ問うと、

「ゲイン?」

ミナは不思議そうにゲインを見上げ、

「えー、デッカイ岩持ってないよー」

「今はね、ほらよく見てゲインでしょ」

ソフィアがそうなるのかと微笑みつつミナと共にゲインを見上げる、

「むー、そうなのー?」

ミナは口をへの字に曲げつつゲインへ近寄ると、当たり前のようにその服を掴みえっちらおっちらとその巨大な身体を登り始めた、ルルはえっ?と驚いてミナを見つめ、ゲインは変わらず無表情である、さらに言えばミナが取り付いているのだがその身体はビクとも揺れない、やがてミナはゲインの肩に跨り、

「あー、ゲインだー、久しぶりー」

ペシペシとその頭を無遠慮に叩いた、

「ふん、なんだでかくなったな、重いぞ」

ゲインは横目でミナを睨み小さく微笑んだように見える、

「うん、でかくなった、ゲインもでかくなった?」

「変わらんよ」

「えー、そうなのー?でっかいよー」

「久しぶりだからな」

「そっかー」

ミナは再びペシペシと嬉しそうにゲインの頭を叩き満足そうに微笑む、

「こら、あ、御免ね、これ、うちの娘、で、もう一人があっち」

ソフィアはルルにミナとレインを紹介する、レインは暖炉の前で読書中である、

「あ、はい、ルルです、宜しくお願いします」

呆気にとられながらもルルは律儀に頭を下げ、

「ミナです、宜しくお願いします」

ミナは大上段で微笑み、レインは興味無さげに顔を上げ、

「レインじゃ、よしなにの」

小さく短い言葉を返す、しかし、ん?とその目を見開きルルとゲインを見つめ、

「ほう・・・これは面白いのう」

誰の耳にも届かない独り言を呟いた、ソフィアはレインの態度にもーと怒りながら、まぁこんなもんかと思い直し、

「えっと、そしたらどうするのかしら?」

ソフィアがさて次はとユーリに問う、

「そうね、エレインさん呼んできましょう、寮の使い方の説明とか部屋の準備とかは寮長の仕事よー」

「そっか、じゃ、ミナ、エレインさん呼んできて」

「わかったー」

ミナは今度は器用にゲインの身体を下り始め、ゲインはそれを手伝うでもなくヌボーっと立ち尽くすのみである、

「じゃ、ゲインはお茶にする?それともお酒?久しぶりにゆっくり話しましょうか?」

「お酒は早いわよ」

「別にいいでしょー、今日の仕事は終わったんだし、やっと一段落ついたのよね、お酒呑みたいのよー、それにー、酒が入れば少しは喋るでしょーこの朴念仁もー」

「そう?あんま変わんないんじゃない」

「そうだっけ?」

「そうよ、ほら、ゲインも疲れたでしょゆっくりしなさい」

ソフィアがゲインを見上げるが、

「・・・」

ゲインは沈黙で答えたとした、

「じゃ、行ってくるー」

「お願いねー、エレインさんに新人さんが来たって言ってね」

「分かったー」

ミナが事務所へと駆け出し、先程迄の元気はどこへやらといった感じで再び混乱してキョドキョドし始めるルルである、ソフィアはまぁそうなるわねとルルを席に着かせ、ゲインは丁度良い椅子が無い為、床に座り込んだ、

「すぐ来ると思うから待っててね、あ、クロノスは?」

「裏山だって、ジャネットさん達も行ったわよー」

「そっか、それじゃ、どうしようか寝具を用意して、あっ、荷物はある?」

「はい、3階に置いたままだと思います」

「あ、あの大荷物はルルさんの?」

「はい、多分、はい」

「そっか、あんな大荷物よく持ってこれたわねー」

「えっと・・・伯父さんが持ってくれましたので」

「それもそっか、なんだ、ちゃんと伯父さんしてるじゃない」

「・・・」

ゲインは黙して反応しない、

「ありゃ、あ、もしかして、レイン?」

「えっ、あっ、そうか、もうめんどくさいんだから」

ソフィアとユーリは憤慨しつつも微笑み、

「変わらないのは結構だけど、あんたは変わるべきだわ、さっきもダナが怒らせたかもーって泣いてたし」

ユーリがニヤニヤとゲインを見上げ、

「そうよねー、まったく、どうしたもんだか」

ソフィアも腰に手を当ててゲインを睨みつけるのであった。



その後、ミナがオリビアを連れて戻り、ルルの対応はオリビアに任せられた、部屋決めから寝具の準備、荷解きとオリビアの手伝いで滞りなくルルの新生活の形は整えられ、ソフィアも手伝いながらオリビアの指示を受けて倉庫と2階を往復する、ルルの部屋は2階の6号室となった、北側の部屋にあたりケイスの対面の部屋である、北側の部屋である為日当たりは良いとは言えないが角部屋にあたり木窓が二か所ある、夏は涼しいが冬は寒い部屋であった、オリビアはその点を憂慮したが、本人の希望もありその部屋で確定となった、ルル曰く実家は平屋である為2階や3階での生活に憧れていたそうである、寮の規則として部屋の選択は基本的に早い者勝ちとなっており、例外としてエレインのような貴族は2階と3階にある専用の部屋が割り当てられるが、2階はエレインが、3階はユーリが研究所としている為、今期の新入生で貴族出身者がこの寮に増えることはないであろう、オリビアは本人が良ければと特に異議を唱えず、ソフィアによって清潔に保たれているその部屋をルルは満足そうに眺め、早速と2つの木窓を開け放った、その頃、

「あー、しっかりやってるのねー」

「そうなの、ミナもやりたいんだけど、駄目だったー」

「そりゃそうだわ」

「ぶー、軽い木剣欲しいなー」

「軽かったら修練にならないのよ」

「でも、でもー」

ユーリとレイン、それとミナを肩に乗せ、籠を被せられたゲインが裏山の天辺広場に立った、広場ではクロノス相手にイフナースとアニタが切りかかり、やや離れてケイスとジャネットとパウラが魔法の特訓中である、

「おう、来たか・・・なんだ面白い事になってるな、まぁいいか」

ゲインに気付いたクロノスがイフナースとアニタを静止させた、

「ほう、でかいな・・・なるほど」

イフナースが額の汗を拭いながらゲインを見上げ、アニタも手を止めてホヘーと呆けている、

「ん、ゲインこっちだ」

クロノスがゲインを呼びつけ、イフナースと引き合わせる、ゲインは籠を被ったまま直立不動で無言であり、ミナはその顔の真横で足をブラブラさせて御満悦であった、籠を被せた張本人は誰でも無いミナである、ゲインが多少の事では文句を言わない事をミナはよく知っており、はいこれーと当然のように笑顔で被せられたそれをゲインは変わらぬ無表情で受け入れ、ユーリは良く似合ってると爆笑した、イフナースはその艶姿を不思議そうな顔で見上げるが、ゲインの正体については事前に聞いていたらしい、それはそれと遠慮無くゲインを値踏みし、

「?なんだ喋れんのか?」

当然の疑問を口にする、クロノスはフンと鼻息を荒くすると、

「喋れもするし、頭も良いほうだ、こいつは初対面の人間にはこうなんだよ、俺と話せるようになるのに半年はかかったんだ、まったく、変人なんだよ」

「変人か・・・ま、そういう事もあろう」

イフナースはクロノスの適当な説明で納得したらしい、ゲインを見上げ、

「なるほど、クロノスの右腕として相応しい威圧感だ、その籠はどうかと思うが、どうだ、俺の下で働かんか?」

ニヤリと微笑むがゲインの反応は無い、

「止めておけ、こいつは田舎で悠々自適だよ、半年も前だが子供も生まれたらしい」

「そうなのか、それは良かったな、いや、目出度い事だ」

イフナースは嬉しそうに笑顔となり、ゲインは無表情であるが心なしか微笑んでいるようにも見える、

「ん?・・・えっと・・・何?あれ?」

そんな3人をユーリは遠目にして片眉を上げた、何かに気付いたらしい、その隣のレインはやはりなとユーリを斜めに見上げる、

「・・・ソフィアは気付いているのかしら・・・ちょっと・・・問題よね・・・対応策・・・いや、ちゃんと制御しないと・・・」

ユーリは口元に手を当ててブツブツと呟き、

「ユーリ、お前さんは会ったことがあるのか?」

クロノスがユーリに軽く手を振った、

「あ、はい」

ユーリは顔を顰めたままゲインの隣りに駆け寄ると、イフナースへ丁寧に頭を垂れるのであった。
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