セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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48話 モニケンダムお土産探訪 その6

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「それで、どうする?」

食堂に降りたユーリがゲインを見上げた、しかし、ゲインは見事にシカトである、

「あら?」

ユーリが目を細め、これはと思って食堂内を見渡すと、ミナとレインが黒板を前にして勉強中である、先に降りていたソフィアがその前に座り二人の黒板を覗き込んでいる、

「まったく、めんどくさいったら」

ユーリはそういう事かと毒づいて、

「ルルさんがジャネットさんと一緒にいったから取り敢えずそっちに顔出しましょうか、あんたよりかはルルさんの方が土産を買うには適任でしょうからね」

そう言って今度は確認を取らずに玄関へ向かう、ゲインはちゃんと理解しているのであろう、3階からしっかりと回収してきた巨大なサンダルを手にユーリの後を付いていく、

「むー、お出掛けー?」

ミナが羨ましそうに顔を上げた、

「そうよ、お出掛けー」

「いいなー」

「いいでしょー」

ユーリはミナは良いとしてもレインが付いてくると面倒だなと適当にはぐらかす、

「はいはい、ミナはやる事やってから」

ソフィアが優しくミナを窘め、ミナはムームー言いながらも従っている、その様子を微笑ましく眺めながらユーリとゲインは事務所へ向かった、

「さて、私は掃除しなきゃねー、レイン後頼むわね」

「了解じゃ」

ソフィアはミナの監督をレインに託して2階へ上がる、突然始まった打ち合わせの為にほったらかしていた掃除用具に手を掛けると、

「ソフィア」

いきなり名を呼ばれビクリと肩を揺らして振り向いた、見ると階段の踊り場からクロノスが屈んで顔を出している、

「わっ、まだいたの?」

「いたよ、確認なんだがな」

クロノスが軽く周囲を伺う、

「誰もいないわよ、どうしたの?」

クロノスの仕草に人払いかしらとソフィアは気付いて、やれやれと肩の力を抜いた、

「そうか・・・さっきの件、例のお嬢様も当然知っているんだよな」

「例のお嬢様?」

「お前の養女の事だ・・・」

「・・・あー、そういう事・・・」

クロノスはレインの事を例のお嬢様と表現したらしい、彼独特の崇敬の思いなのであろう、素直にレインと呼べばいいのにとソフィアは思うが、クロノスは彼女の正体を知った以上馴れ馴れしくする事が難しくなったのである、こう見えてクロノスは信心深い質であった、武家系統の貴族はそういう傾向が強くなるものである、恐らく、戦時中は言うに及ばず平時でも事あるごとに戦神への祈念を繰り返すのが習慣となっている為である、それは勿論戦勝を願っての行為であり、さらに戦で死んだ戦友達への弔いの想いからである、しかし平時の祈念は正に平和なもので他の神殿と大差の無いものであるが、戦時のそれは大変に欺瞞に満ちた行為であった、ソフィアはその絡繰りを知って呆れたものであるが、クロノスはその裏事情を知って尚、信仰心は揺るがず、その上、戦時に於いては、突撃の雄叫びとして戦神の妻である女神の名を口にする、ソフィアはそこにも疑問を感じるが、当の兵士達には大変に受けが良い、いよいよもって適当なもんだとソフィアは思っているが、クロノスは日常的にも特別な状況においても神の名を使い触れる事で自分ではそうと知らぬ間に崇拝と畏怖の念が深く積み重なり、それはしっかりとした信仰としてクロノスはもとより武を生業とする騎士達の中に根付いているのである、

「一応、確認と思ってな、ユーリとゲインの前では聞けなくてな」

階段に座り込みソフィアを見下ろす、

「そうね、ありがとう」

ソフィアは礼を言って、さてどう説明するべきかと考え、真実を告げるのが楽かと判断し、

「あんたも勘が良くなったわね、その通りよ、レインが気付いて教えてくれたの、で、私はどうしたもんかと思っていた所でユーリが気付いたって感じ、この場合感謝するべきなのはユーリね、私はどうやってユーリと殿下を引き合わせようかと考えてた状態だったから手間が省けたわ」

「そうなのか・・・やっぱりな・・・すると、その呪いの影響で魔力がどうのこうのもそっちからか?」

「そうね、ただ、レインとしても初めて見るって言ってたから予測でしかないらしいわよ、それしか考えられんって感じ?」

「それはまた・・・そういう事もあるのか?」

「らしいわよ、なんだっけ、全知ではないとか、そうでは無くなったとかそんな感じの事言ってたわね」

「・・・それ、とんでもない重要事項じゃないか?」

「どうだろう?私は信心は薄いから、そういうものとして受け取ったけど、実際にあの娘の側にいれば分かるわよ、普通にしてれば普通の女の子だし、時々やたら老成してるけど、野菜嫌いだったり、めんどくさがったり、お酒飲みたがったり」

「そうか・・・いや、何にしろ感謝しなければな・・・そうだ、陛下にも聞かれたんだが、豊穣の神殿に寄進とかすればいいものなのか?何も返さないでは落ち着かないんだが・・・」

クロノスは何とも不安そうである、その発想が実に信心深い人間のそれであり、その顔に滲む患いは幼子のそれに近い、ソフィアはまったくと眉間に皺を寄せ、

「前にも言わなかったっけ?いくら寄進しようが祭壇を建立しようが知ったこっちゃないらしいわよ、好きにすればよいじゃろうってまるで無関心ね、たぶん、こっちから何をしようがどうでもいいのよ」

「それは聞いたがそう言うわけにもいかんだろう・・・」

「いくんじゃないの?だって、本人がそう欲すれば何でもなんとかなるのよ、やり過ぎるとどうのこうのでやらないって初めて会った時に笑って言ってたけど、そういうものらしいわ、あ、でも、あれよ、馬鹿にしたり無碍にしたりすると怒るかしら」

「それは普通はそうだろう・・・」

「そうね、ま、今のところは楽しんでいるみたいだから、ほっとくのがいいんじゃない?」

ソフィアは適当に誤魔化すが、レインがミナの側を離れない理由はしっかりと存在する、それはタロウが良く理解し納得しているが、ソフィアには実感できない事であった、タロウはそういう事であればとレインを受け入れ、ソフィアはタロウがそういうのであればと受け入れて、今がある、レインと共にある生活はそれほど長くはないが悪いものではない、それどころかミナは姉としてレインを慕い、ソフィアも小生意気な娘としてレインとの生活を楽しんでいた、タロウは不在であるがカシュパル一家は慎ましくも明るい家庭なのである、

「・・・せめて・・・そうだな、何か無心して欲しいのだが・・・」

「無心?」

「欲しい物があれば言って欲しい」

クロノスはソフィアの言を理解しながらも引き下がれなかった、それは信心もそうであるが、国王の手前もあっての事である、国王からレインの正体を明かされた際に礼の仕方を聞いておくようにとも言付かっていた、その際には半信半疑であったのだがソフィアに真相を確認し、さらに今回の件である、クロノス自身はそうでもないが、イフナースの事となればその実父である国王は何らかの礼が必要と思うであろうし、現時点で既に心を煩わせている、しかし、ここで変に豊穣の神殿へ特別な寄進等をして他の神殿と扱いを変えるような事をすれば問題にもなりかねない、であれば、レインへ直接礼を伝えれば良いのであるが、相手が相手である、ソフィアを介しての交渉になっている為に歯痒いが直接に向き合って不興を買う方が恐ろしい、故に、小人らしく欲しい物を贈る、クロノスは手っ取り早く堅実な気持ちの表し方を模索したのであった、

「欲しい物・・・あの子が?」

「うむ」

「あるのかしら?」

「無いのか?」

「だって・・・」

ソフィアはうーんと考え込む、レインはその気になればなんでも手に入る存在である、そんな存在が欲しい物とはと首を傾げた、

「普通はだって、金だ土地だと言うものじゃないのか?」

クロノスはじれったいとばかりに下賤な事を口にした、

「それを欲しがっているのは神殿の中の人でしょ、神殿に祀られている側はそんなもん欲しくないんじゃない?」

「そうか?」

「そうでしょ、金だ宝石だ土地だなんだは、こっちが欲しいからあっちも欲しいだろうってこっち側の浅慮の表れよ、実際あの子を見れば分かるでしょ、そんなもんにまるで拘泥してないわ、それどころか何の意味があるんだかって不思議そうな顔してるくらいよ」

「・・・そういうものか?」

「そうでしょ、もう、あんたも立派な為政者なんだから、宗教程度は手のひらの上で転がしなさい、あれは必要な人には必要だけど、そうでない人にはまるで必要のない代物でしょ、神殿とやらに奉納したからといって毎年豊作ではないんだし、戦争に絶対に勝てるの?勝てなくて何年も苦労したんでしょ」

「しかしだな」

「それはこちら側が悪いっていうんでしょ、それが連中の遣り方よ、結果が良ければ奉納しろ、悪くてもお前らの信心が足りないんだから奉納しろ、結局得をするのは連中だけじゃない、違う?」

「・・・そう言われると・・・」

「でしょ、で、当の当人がどうでもいいと言っているのよ、あんたも目を覚ましなさい、いい、宗教は道具よ、大量の人を動かすときに便利な道具、それだけ、あんたは為政者としてそれを扱う、扱われては絶対に駄目、あんたがしっかりしないと神殿連中が王様より偉くなっちゃうわよ、それで国が治められるの?」

ソフィアの突然始まった高説にクロノスはぐうの音も無く黙り込む、そして俯いて沈思した、

「言い過ぎたかしら、あ、でもあれよ、勘違いして欲しくないのは、私が否定しているのは神殿ね、神様はいてもいいと思うし、実際いるし、なにより信仰は大事よ、それと同時に躾もね」

やや声を落ち着けるソフィアである、クロノスは片目を閉じてソフィアを見つめ、ふむと考え込み、なるほどなと呟いて、

「・・・信仰と躾か・・・そうか、神殿はそれを一纏めにしているだけか・・・」

「気付いた?」

「そう言われればそうなのかもな、信仰と基本的な躾を一緒くたにして大上段に立っているだけか・・・説教臭い事を言ってるわりには中身が無いのはそういう事か・・・」

「そうね、挙句御利益なんて毛ほども無いくせに、お金は集めて」

「好き放題・・・」

「そこまでは言ってないけど、神殿の上の方って良い噂は聞かないからね、そういう事なんでしょうね」

「かもしれんな・・・」

クロノスは鼻で笑って若干晴々とした顔になり、ソフィアはフンスと鼻息を吐き出すと、

「あっ、美味しいお肉でいいかしら?」

突然庶民的な事を口にする、

「肉?」

「うん、あの子肉食だから、美味しいお肉でいいんじゃない?」

クロノスは何の事だと不思議そうに首を傾げ、

「ああ、そういう事か」

理解して呆気にとられる、

「そういう事」

「そうか、フフ、面白いな、まったく・・・わかった、旨い肉だな」

「そうよ」

了解したと呟いて腰を上げると、

「また来る」

サッと3階へと姿を消し、ソフィアはヤレヤレと一息吐いて掃除道具を手にした。
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