462 / 1,445
本編
48話 モニケンダムお土産探訪 その6
しおりを挟む
「それで、どうする?」
食堂に降りたユーリがゲインを見上げた、しかし、ゲインは見事にシカトである、
「あら?」
ユーリが目を細め、これはと思って食堂内を見渡すと、ミナとレインが黒板を前にして勉強中である、先に降りていたソフィアがその前に座り二人の黒板を覗き込んでいる、
「まったく、めんどくさいったら」
ユーリはそういう事かと毒づいて、
「ルルさんがジャネットさんと一緒にいったから取り敢えずそっちに顔出しましょうか、あんたよりかはルルさんの方が土産を買うには適任でしょうからね」
そう言って今度は確認を取らずに玄関へ向かう、ゲインはちゃんと理解しているのであろう、3階からしっかりと回収してきた巨大なサンダルを手にユーリの後を付いていく、
「むー、お出掛けー?」
ミナが羨ましそうに顔を上げた、
「そうよ、お出掛けー」
「いいなー」
「いいでしょー」
ユーリはミナは良いとしてもレインが付いてくると面倒だなと適当にはぐらかす、
「はいはい、ミナはやる事やってから」
ソフィアが優しくミナを窘め、ミナはムームー言いながらも従っている、その様子を微笑ましく眺めながらユーリとゲインは事務所へ向かった、
「さて、私は掃除しなきゃねー、レイン後頼むわね」
「了解じゃ」
ソフィアはミナの監督をレインに託して2階へ上がる、突然始まった打ち合わせの為にほったらかしていた掃除用具に手を掛けると、
「ソフィア」
いきなり名を呼ばれビクリと肩を揺らして振り向いた、見ると階段の踊り場からクロノスが屈んで顔を出している、
「わっ、まだいたの?」
「いたよ、確認なんだがな」
クロノスが軽く周囲を伺う、
「誰もいないわよ、どうしたの?」
クロノスの仕草に人払いかしらとソフィアは気付いて、やれやれと肩の力を抜いた、
「そうか・・・さっきの件、例のお嬢様も当然知っているんだよな」
「例のお嬢様?」
「お前の養女の事だ・・・」
「・・・あー、そういう事・・・」
クロノスはレインの事を例のお嬢様と表現したらしい、彼独特の崇敬の思いなのであろう、素直にレインと呼べばいいのにとソフィアは思うが、クロノスは彼女の正体を知った以上馴れ馴れしくする事が難しくなったのである、こう見えてクロノスは信心深い質であった、武家系統の貴族はそういう傾向が強くなるものである、恐らく、戦時中は言うに及ばず平時でも事あるごとに戦神への祈念を繰り返すのが習慣となっている為である、それは勿論戦勝を願っての行為であり、さらに戦で死んだ戦友達への弔いの想いからである、しかし平時の祈念は正に平和なもので他の神殿と大差の無いものであるが、戦時のそれは大変に欺瞞に満ちた行為であった、ソフィアはその絡繰りを知って呆れたものであるが、クロノスはその裏事情を知って尚、信仰心は揺るがず、その上、戦時に於いては、突撃の雄叫びとして戦神の妻である女神の名を口にする、ソフィアはそこにも疑問を感じるが、当の兵士達には大変に受けが良い、いよいよもって適当なもんだとソフィアは思っているが、クロノスは日常的にも特別な状況においても神の名を使い触れる事で自分ではそうと知らぬ間に崇拝と畏怖の念が深く積み重なり、それはしっかりとした信仰としてクロノスはもとより武を生業とする騎士達の中に根付いているのである、
「一応、確認と思ってな、ユーリとゲインの前では聞けなくてな」
階段に座り込みソフィアを見下ろす、
「そうね、ありがとう」
ソフィアは礼を言って、さてどう説明するべきかと考え、真実を告げるのが楽かと判断し、
「あんたも勘が良くなったわね、その通りよ、レインが気付いて教えてくれたの、で、私はどうしたもんかと思っていた所でユーリが気付いたって感じ、この場合感謝するべきなのはユーリね、私はどうやってユーリと殿下を引き合わせようかと考えてた状態だったから手間が省けたわ」
「そうなのか・・・やっぱりな・・・すると、その呪いの影響で魔力がどうのこうのもそっちからか?」
「そうね、ただ、レインとしても初めて見るって言ってたから予測でしかないらしいわよ、それしか考えられんって感じ?」
「それはまた・・・そういう事もあるのか?」
「らしいわよ、なんだっけ、全知ではないとか、そうでは無くなったとかそんな感じの事言ってたわね」
「・・・それ、とんでもない重要事項じゃないか?」
「どうだろう?私は信心は薄いから、そういうものとして受け取ったけど、実際にあの娘の側にいれば分かるわよ、普通にしてれば普通の女の子だし、時々やたら老成してるけど、野菜嫌いだったり、めんどくさがったり、お酒飲みたがったり」
「そうか・・・いや、何にしろ感謝しなければな・・・そうだ、陛下にも聞かれたんだが、豊穣の神殿に寄進とかすればいいものなのか?何も返さないでは落ち着かないんだが・・・」
クロノスは何とも不安そうである、その発想が実に信心深い人間のそれであり、その顔に滲む患いは幼子のそれに近い、ソフィアはまったくと眉間に皺を寄せ、
「前にも言わなかったっけ?いくら寄進しようが祭壇を建立しようが知ったこっちゃないらしいわよ、好きにすればよいじゃろうってまるで無関心ね、たぶん、こっちから何をしようがどうでもいいのよ」
「それは聞いたがそう言うわけにもいかんだろう・・・」
「いくんじゃないの?だって、本人がそう欲すれば何でもなんとかなるのよ、やり過ぎるとどうのこうのでやらないって初めて会った時に笑って言ってたけど、そういうものらしいわ、あ、でも、あれよ、馬鹿にしたり無碍にしたりすると怒るかしら」
「それは普通はそうだろう・・・」
「そうね、ま、今のところは楽しんでいるみたいだから、ほっとくのがいいんじゃない?」
ソフィアは適当に誤魔化すが、レインがミナの側を離れない理由はしっかりと存在する、それはタロウが良く理解し納得しているが、ソフィアには実感できない事であった、タロウはそういう事であればとレインを受け入れ、ソフィアはタロウがそういうのであればと受け入れて、今がある、レインと共にある生活はそれほど長くはないが悪いものではない、それどころかミナは姉としてレインを慕い、ソフィアも小生意気な娘としてレインとの生活を楽しんでいた、タロウは不在であるがカシュパル一家は慎ましくも明るい家庭なのである、
「・・・せめて・・・そうだな、何か無心して欲しいのだが・・・」
「無心?」
「欲しい物があれば言って欲しい」
クロノスはソフィアの言を理解しながらも引き下がれなかった、それは信心もそうであるが、国王の手前もあっての事である、国王からレインの正体を明かされた際に礼の仕方を聞いておくようにとも言付かっていた、その際には半信半疑であったのだがソフィアに真相を確認し、さらに今回の件である、クロノス自身はそうでもないが、イフナースの事となればその実父である国王は何らかの礼が必要と思うであろうし、現時点で既に心を煩わせている、しかし、ここで変に豊穣の神殿へ特別な寄進等をして他の神殿と扱いを変えるような事をすれば問題にもなりかねない、であれば、レインへ直接礼を伝えれば良いのであるが、相手が相手である、ソフィアを介しての交渉になっている為に歯痒いが直接に向き合って不興を買う方が恐ろしい、故に、小人らしく欲しい物を贈る、クロノスは手っ取り早く堅実な気持ちの表し方を模索したのであった、
「欲しい物・・・あの子が?」
「うむ」
「あるのかしら?」
「無いのか?」
「だって・・・」
ソフィアはうーんと考え込む、レインはその気になればなんでも手に入る存在である、そんな存在が欲しい物とはと首を傾げた、
「普通はだって、金だ土地だと言うものじゃないのか?」
クロノスはじれったいとばかりに下賤な事を口にした、
「それを欲しがっているのは神殿の中の人でしょ、神殿に祀られている側はそんなもん欲しくないんじゃない?」
「そうか?」
「そうでしょ、金だ宝石だ土地だなんだは、こっちが欲しいからあっちも欲しいだろうってこっち側の浅慮の表れよ、実際あの子を見れば分かるでしょ、そんなもんにまるで拘泥してないわ、それどころか何の意味があるんだかって不思議そうな顔してるくらいよ」
「・・・そういうものか?」
「そうでしょ、もう、あんたも立派な為政者なんだから、宗教程度は手のひらの上で転がしなさい、あれは必要な人には必要だけど、そうでない人にはまるで必要のない代物でしょ、神殿とやらに奉納したからといって毎年豊作ではないんだし、戦争に絶対に勝てるの?勝てなくて何年も苦労したんでしょ」
「しかしだな」
「それはこちら側が悪いっていうんでしょ、それが連中の遣り方よ、結果が良ければ奉納しろ、悪くてもお前らの信心が足りないんだから奉納しろ、結局得をするのは連中だけじゃない、違う?」
「・・・そう言われると・・・」
「でしょ、で、当の当人がどうでもいいと言っているのよ、あんたも目を覚ましなさい、いい、宗教は道具よ、大量の人を動かすときに便利な道具、それだけ、あんたは為政者としてそれを扱う、扱われては絶対に駄目、あんたがしっかりしないと神殿連中が王様より偉くなっちゃうわよ、それで国が治められるの?」
ソフィアの突然始まった高説にクロノスはぐうの音も無く黙り込む、そして俯いて沈思した、
「言い過ぎたかしら、あ、でもあれよ、勘違いして欲しくないのは、私が否定しているのは神殿ね、神様はいてもいいと思うし、実際いるし、なにより信仰は大事よ、それと同時に躾もね」
やや声を落ち着けるソフィアである、クロノスは片目を閉じてソフィアを見つめ、ふむと考え込み、なるほどなと呟いて、
「・・・信仰と躾か・・・そうか、神殿はそれを一纏めにしているだけか・・・」
「気付いた?」
「そう言われればそうなのかもな、信仰と基本的な躾を一緒くたにして大上段に立っているだけか・・・説教臭い事を言ってるわりには中身が無いのはそういう事か・・・」
「そうね、挙句御利益なんて毛ほども無いくせに、お金は集めて」
「好き放題・・・」
「そこまでは言ってないけど、神殿の上の方って良い噂は聞かないからね、そういう事なんでしょうね」
「かもしれんな・・・」
クロノスは鼻で笑って若干晴々とした顔になり、ソフィアはフンスと鼻息を吐き出すと、
「あっ、美味しいお肉でいいかしら?」
突然庶民的な事を口にする、
「肉?」
「うん、あの子肉食だから、美味しいお肉でいいんじゃない?」
クロノスは何の事だと不思議そうに首を傾げ、
「ああ、そういう事か」
理解して呆気にとられる、
「そういう事」
「そうか、フフ、面白いな、まったく・・・わかった、旨い肉だな」
「そうよ」
了解したと呟いて腰を上げると、
「また来る」
サッと3階へと姿を消し、ソフィアはヤレヤレと一息吐いて掃除道具を手にした。
食堂に降りたユーリがゲインを見上げた、しかし、ゲインは見事にシカトである、
「あら?」
ユーリが目を細め、これはと思って食堂内を見渡すと、ミナとレインが黒板を前にして勉強中である、先に降りていたソフィアがその前に座り二人の黒板を覗き込んでいる、
「まったく、めんどくさいったら」
ユーリはそういう事かと毒づいて、
「ルルさんがジャネットさんと一緒にいったから取り敢えずそっちに顔出しましょうか、あんたよりかはルルさんの方が土産を買うには適任でしょうからね」
そう言って今度は確認を取らずに玄関へ向かう、ゲインはちゃんと理解しているのであろう、3階からしっかりと回収してきた巨大なサンダルを手にユーリの後を付いていく、
「むー、お出掛けー?」
ミナが羨ましそうに顔を上げた、
「そうよ、お出掛けー」
「いいなー」
「いいでしょー」
ユーリはミナは良いとしてもレインが付いてくると面倒だなと適当にはぐらかす、
「はいはい、ミナはやる事やってから」
ソフィアが優しくミナを窘め、ミナはムームー言いながらも従っている、その様子を微笑ましく眺めながらユーリとゲインは事務所へ向かった、
「さて、私は掃除しなきゃねー、レイン後頼むわね」
「了解じゃ」
ソフィアはミナの監督をレインに託して2階へ上がる、突然始まった打ち合わせの為にほったらかしていた掃除用具に手を掛けると、
「ソフィア」
いきなり名を呼ばれビクリと肩を揺らして振り向いた、見ると階段の踊り場からクロノスが屈んで顔を出している、
「わっ、まだいたの?」
「いたよ、確認なんだがな」
クロノスが軽く周囲を伺う、
「誰もいないわよ、どうしたの?」
クロノスの仕草に人払いかしらとソフィアは気付いて、やれやれと肩の力を抜いた、
「そうか・・・さっきの件、例のお嬢様も当然知っているんだよな」
「例のお嬢様?」
「お前の養女の事だ・・・」
「・・・あー、そういう事・・・」
クロノスはレインの事を例のお嬢様と表現したらしい、彼独特の崇敬の思いなのであろう、素直にレインと呼べばいいのにとソフィアは思うが、クロノスは彼女の正体を知った以上馴れ馴れしくする事が難しくなったのである、こう見えてクロノスは信心深い質であった、武家系統の貴族はそういう傾向が強くなるものである、恐らく、戦時中は言うに及ばず平時でも事あるごとに戦神への祈念を繰り返すのが習慣となっている為である、それは勿論戦勝を願っての行為であり、さらに戦で死んだ戦友達への弔いの想いからである、しかし平時の祈念は正に平和なもので他の神殿と大差の無いものであるが、戦時のそれは大変に欺瞞に満ちた行為であった、ソフィアはその絡繰りを知って呆れたものであるが、クロノスはその裏事情を知って尚、信仰心は揺るがず、その上、戦時に於いては、突撃の雄叫びとして戦神の妻である女神の名を口にする、ソフィアはそこにも疑問を感じるが、当の兵士達には大変に受けが良い、いよいよもって適当なもんだとソフィアは思っているが、クロノスは日常的にも特別な状況においても神の名を使い触れる事で自分ではそうと知らぬ間に崇拝と畏怖の念が深く積み重なり、それはしっかりとした信仰としてクロノスはもとより武を生業とする騎士達の中に根付いているのである、
「一応、確認と思ってな、ユーリとゲインの前では聞けなくてな」
階段に座り込みソフィアを見下ろす、
「そうね、ありがとう」
ソフィアは礼を言って、さてどう説明するべきかと考え、真実を告げるのが楽かと判断し、
「あんたも勘が良くなったわね、その通りよ、レインが気付いて教えてくれたの、で、私はどうしたもんかと思っていた所でユーリが気付いたって感じ、この場合感謝するべきなのはユーリね、私はどうやってユーリと殿下を引き合わせようかと考えてた状態だったから手間が省けたわ」
「そうなのか・・・やっぱりな・・・すると、その呪いの影響で魔力がどうのこうのもそっちからか?」
「そうね、ただ、レインとしても初めて見るって言ってたから予測でしかないらしいわよ、それしか考えられんって感じ?」
「それはまた・・・そういう事もあるのか?」
「らしいわよ、なんだっけ、全知ではないとか、そうでは無くなったとかそんな感じの事言ってたわね」
「・・・それ、とんでもない重要事項じゃないか?」
「どうだろう?私は信心は薄いから、そういうものとして受け取ったけど、実際にあの娘の側にいれば分かるわよ、普通にしてれば普通の女の子だし、時々やたら老成してるけど、野菜嫌いだったり、めんどくさがったり、お酒飲みたがったり」
「そうか・・・いや、何にしろ感謝しなければな・・・そうだ、陛下にも聞かれたんだが、豊穣の神殿に寄進とかすればいいものなのか?何も返さないでは落ち着かないんだが・・・」
クロノスは何とも不安そうである、その発想が実に信心深い人間のそれであり、その顔に滲む患いは幼子のそれに近い、ソフィアはまったくと眉間に皺を寄せ、
「前にも言わなかったっけ?いくら寄進しようが祭壇を建立しようが知ったこっちゃないらしいわよ、好きにすればよいじゃろうってまるで無関心ね、たぶん、こっちから何をしようがどうでもいいのよ」
「それは聞いたがそう言うわけにもいかんだろう・・・」
「いくんじゃないの?だって、本人がそう欲すれば何でもなんとかなるのよ、やり過ぎるとどうのこうのでやらないって初めて会った時に笑って言ってたけど、そういうものらしいわ、あ、でも、あれよ、馬鹿にしたり無碍にしたりすると怒るかしら」
「それは普通はそうだろう・・・」
「そうね、ま、今のところは楽しんでいるみたいだから、ほっとくのがいいんじゃない?」
ソフィアは適当に誤魔化すが、レインがミナの側を離れない理由はしっかりと存在する、それはタロウが良く理解し納得しているが、ソフィアには実感できない事であった、タロウはそういう事であればとレインを受け入れ、ソフィアはタロウがそういうのであればと受け入れて、今がある、レインと共にある生活はそれほど長くはないが悪いものではない、それどころかミナは姉としてレインを慕い、ソフィアも小生意気な娘としてレインとの生活を楽しんでいた、タロウは不在であるがカシュパル一家は慎ましくも明るい家庭なのである、
「・・・せめて・・・そうだな、何か無心して欲しいのだが・・・」
「無心?」
「欲しい物があれば言って欲しい」
クロノスはソフィアの言を理解しながらも引き下がれなかった、それは信心もそうであるが、国王の手前もあっての事である、国王からレインの正体を明かされた際に礼の仕方を聞いておくようにとも言付かっていた、その際には半信半疑であったのだがソフィアに真相を確認し、さらに今回の件である、クロノス自身はそうでもないが、イフナースの事となればその実父である国王は何らかの礼が必要と思うであろうし、現時点で既に心を煩わせている、しかし、ここで変に豊穣の神殿へ特別な寄進等をして他の神殿と扱いを変えるような事をすれば問題にもなりかねない、であれば、レインへ直接礼を伝えれば良いのであるが、相手が相手である、ソフィアを介しての交渉になっている為に歯痒いが直接に向き合って不興を買う方が恐ろしい、故に、小人らしく欲しい物を贈る、クロノスは手っ取り早く堅実な気持ちの表し方を模索したのであった、
「欲しい物・・・あの子が?」
「うむ」
「あるのかしら?」
「無いのか?」
「だって・・・」
ソフィアはうーんと考え込む、レインはその気になればなんでも手に入る存在である、そんな存在が欲しい物とはと首を傾げた、
「普通はだって、金だ土地だと言うものじゃないのか?」
クロノスはじれったいとばかりに下賤な事を口にした、
「それを欲しがっているのは神殿の中の人でしょ、神殿に祀られている側はそんなもん欲しくないんじゃない?」
「そうか?」
「そうでしょ、金だ宝石だ土地だなんだは、こっちが欲しいからあっちも欲しいだろうってこっち側の浅慮の表れよ、実際あの子を見れば分かるでしょ、そんなもんにまるで拘泥してないわ、それどころか何の意味があるんだかって不思議そうな顔してるくらいよ」
「・・・そういうものか?」
「そうでしょ、もう、あんたも立派な為政者なんだから、宗教程度は手のひらの上で転がしなさい、あれは必要な人には必要だけど、そうでない人にはまるで必要のない代物でしょ、神殿とやらに奉納したからといって毎年豊作ではないんだし、戦争に絶対に勝てるの?勝てなくて何年も苦労したんでしょ」
「しかしだな」
「それはこちら側が悪いっていうんでしょ、それが連中の遣り方よ、結果が良ければ奉納しろ、悪くてもお前らの信心が足りないんだから奉納しろ、結局得をするのは連中だけじゃない、違う?」
「・・・そう言われると・・・」
「でしょ、で、当の当人がどうでもいいと言っているのよ、あんたも目を覚ましなさい、いい、宗教は道具よ、大量の人を動かすときに便利な道具、それだけ、あんたは為政者としてそれを扱う、扱われては絶対に駄目、あんたがしっかりしないと神殿連中が王様より偉くなっちゃうわよ、それで国が治められるの?」
ソフィアの突然始まった高説にクロノスはぐうの音も無く黙り込む、そして俯いて沈思した、
「言い過ぎたかしら、あ、でもあれよ、勘違いして欲しくないのは、私が否定しているのは神殿ね、神様はいてもいいと思うし、実際いるし、なにより信仰は大事よ、それと同時に躾もね」
やや声を落ち着けるソフィアである、クロノスは片目を閉じてソフィアを見つめ、ふむと考え込み、なるほどなと呟いて、
「・・・信仰と躾か・・・そうか、神殿はそれを一纏めにしているだけか・・・」
「気付いた?」
「そう言われればそうなのかもな、信仰と基本的な躾を一緒くたにして大上段に立っているだけか・・・説教臭い事を言ってるわりには中身が無いのはそういう事か・・・」
「そうね、挙句御利益なんて毛ほども無いくせに、お金は集めて」
「好き放題・・・」
「そこまでは言ってないけど、神殿の上の方って良い噂は聞かないからね、そういう事なんでしょうね」
「かもしれんな・・・」
クロノスは鼻で笑って若干晴々とした顔になり、ソフィアはフンスと鼻息を吐き出すと、
「あっ、美味しいお肉でいいかしら?」
突然庶民的な事を口にする、
「肉?」
「うん、あの子肉食だから、美味しいお肉でいいんじゃない?」
クロノスは何の事だと不思議そうに首を傾げ、
「ああ、そういう事か」
理解して呆気にとられる、
「そういう事」
「そうか、フフ、面白いな、まったく・・・わかった、旨い肉だな」
「そうよ」
了解したと呟いて腰を上げると、
「また来る」
サッと3階へと姿を消し、ソフィアはヤレヤレと一息吐いて掃除道具を手にした。
1
あなたにおすすめの小説
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる