セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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48話 モニケンダムお土産探訪 その8

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「ありゃ、もう戻ったの?」

ソフィアが2階の掃除を終え食堂に下りると、ルルとゲインも丁度戻ったようであった、藁箱を幾つか抱えてホクホク顔のルルは、

「えへへ、いっぱい買って来ました、凄いですね、エレインさんはお店までやってるなんて」

「昨日話したでしょー」

「聞きましたけどー、実際に見たら想像以上でしたー、あのおっきい鏡とか凄いですねー」

「あー、あれはねー、確かにねー、って、何?隣りで買ってきたの?」

「はい、買ってきました」

「お土産になるようなものあったっけ?」

「いっぱいですよー、髪留めとー、焼き菓子の型とー、木簡とー、泡立て器とー」

ルルは藁箱をテーブルに置いて蓋を開けては嬉しそうに報告する、ゲインはボーっとその背後に屹立したままである、

「そっか、確かに土産にはいいかもね」

「はい、村では見た事ないものばかりですし、都会っぽくて最高です」

「それはそうね」

「そうですよ、で、後はお手紙書いて伯父さんにお願いしようと思いまして」

「なるほど、木簡とかはある?」

「はい、事務所でジャネットさんに別けてもらいました」

「それは良かった、ならそうね、2階のホール使っていいわよ、掃除終わったし、その方が気楽でしょ」

ソフィアはゲインに配慮して提案する、1階ではミナは良いとしてもレインがいる、少なくともある程度会話が成立した方がいいだろうとの判断からであった、

「ありがとうございます」

ルルは軽い足取りで2階へ向かい、ゲインはノソノソとついていった、

「ふぅ、さて次は・・・」

ソフィアは足元に置いた掃除用具へ手を伸ばし、

「個人部屋も綺麗にしておかないとよね、今日も新入生来るのかしら?」

と個室の並ぶ階段向こうの廊下へ向かう、そして1階の掃除を終え食堂に戻るとこれまた丁度良くミナの集中力が切れた頃合いのようであった、ミナはソワソワと落ち着きが無くなっており、レインもこんなもんだろうなと諦め顔になっている、

「終わった?」

「終わったー」

ソフィアの確認にミナは両手を上げて答え、

「どう?」

「まずまずじゃ、ま、計算問題じゃからな、間違えた所もやり直して正解じゃ」

更なる確認にレインが答える、

「そっか、じゃ今日はこんなもんでいいかしらね」

ソフィアの許可が出るか出ないかでミナはピョンと席を立ち、

「ゲインいる?」

「いるわよー」

「いっていい?」

「いいと思うけど・・・ルルさんの邪魔しちゃ駄目よ」

「わかったー」

ミナはバタバタと2階へ駆けていった、すると、あっという間にルルとミナの明るい声が食堂にも漏れ聞こえる、

「もー、落ち着かないんだから」

ソフィアはヤレヤレと腰を下した、ミナが残した黒板を手にして一応と精査する、

「しかし、あの男も珍しい性分じゃのう」

レインが階段を睨みながらポツリと呟いた、

「あー、そう思う?」

ソフィアはゆっくりと顔を上げニヤリと口角を上げた、

「うむ、あれほど難儀な者もなかなか居るまいよ」

「そうねー、あっ、なんか病気だなんだっていうんじゃないでしょうね?」

「それはないな、異常は無い、故に珍しいのじゃ」

「あら、それは良かった・・・いや、良いのかな?」

「知らんわ、あれで飯を食えて子供もいるのであればそれでよかろう」

「そうね、あの体格に膂力でしょ、何やらしても人間離れしてるから、便利なのよ、細かい事は苦手だけど・・・」

ソフィアは微笑みながら階段をみつめ、

「あ、殿下の件ありがとね」

思い出したように礼を口にする、

「おう、聞いておったぞ」

レインは今更かと鼻で笑い、

「えっ、聞こえてた?」

ソフィアはワザとらしく目を剥いた、

「儂の耳は良く聞こえるからな、知っとるだろう?・・・ま、後は、クロノスとユーリに任せておけば悪い事にはならないであろうさ」

「そう思う?」

「まぁのう、悪い事と言っても屋敷が吹き飛ぶ程度じゃろうしな」

「だから、それが問題なのよ、普通の人なら御愁傷様で済むかもだけど、王太子なのよ、こっちで何かあったとなれば私達の立つ瀬が無くなるわ」

ソフィアが眉根を顰めるが、

「儂には関係無いがのう」

レインはどうでもいいとフルフルと首を振る、

「あるわよ、折角落ち着いて暮らしているんだから、あんたも楽しんでいるんでしょ」

「・・・それはそうじゃが、前の村でも楽しんでおったぞ」

「そうかもしれないけど、人が多いほうが面白いんじゃないの?」

「どうだろうかのう・・・暇ではないか、ま、ミナの相手だけでは飽きもするか・・・」

「そんな事言って、殿下の事気付いた時には慌ててた癖に」

「むぅ、慌ててはおらんじゃろ、あれは初見であったからな、驚いていただけじゃ」

「そうなの?じゃ、そういう事でいいわ」

ソフィアは余裕の笑みを浮かべ、レインはフンと鼻を鳴らし、

「あっ、そうじゃ、一つ言っておくことがあったな」

そう言えばとレインは口を開いた、

「・・・今度は何?」

次から次へと忙しいものだとソフィアは目を細める、

「悪い話ではない」

「そうなの?」

「朗報と呼べるかどうかは分らん」

「・・・で、なに?」

勿体ぶった口調のレインをソフィアはせっつき、レインは意地悪そうに口元を歪ませ、しかし、天井を一度見上げてからソフィアに視線を合わせると、

「・・・あの、ルルという娘じゃが、大した傑物になるぞ」

「えっ・・・どういうこと?」

「うむ、現時点ではそうとしか言えんのだが、うん、その素質があるのは確実じゃな」

レインは腕を組んで俯いた、一転難しい顔となる、

「・・・ルーツもそれらしい事を言っていたとゲインから聞いたけど・・・あなたが評価するとなると話が変わって来るわね・・・どういう事?」

「ふむ、どう言えば分かりやすいのか難しいのじゃが・・・狭き門に至る人物・・・と言えば良いのかな?儂らはそう表現しておる」

レインは右手の人差し指を上げクルクルと回し、

「狭き門?」

ソフィアは耳慣れない単語だわと素直に問う、

「うむ、言うなれば・・・難しいのう・・・狭き門とは誰も気付けない程狭く小さい事の比喩じゃな、しかし、それに気付きその門を潜れる者は稀有である・・・そしてその者はなにがしかに到達するであろう・・・そんな感じじゃ」

「・・・また小難しい事を・・・」

「まぁの、それに至るかどうかは本人次第じゃな、素養があってもな、結局至る事無く死ぬ者が大半じゃ、どの門に気付くかも分らん、いつ気付くかもな、その門があるのかどうかも素養のある者しか分らん、その後それをどう扱うかもじゃな・・・実に曖昧で不確実だな、しかし、それに至った者は王になったり皇帝になったり教祖になったり・・・ま、儂から言えるのはその程度だな・・・」

レインは腕を組み直して再び難しい顔になる、神であるレインをもってしても抽象的にしか説明できず、さらに今の表現が正しいのかと悩む程の事らしい、ソフィアはこれはまたどうしたものかと思いつつ、

「・・・何かする?」

確認の為にと問うが、

「いらんじゃろ、お前さんは蟻んこが犬の世話をしているのを見た事があるか?」

蟻と犬の対比表現とは珍しいなとソフィアは思い、ん?と悩んで、

「えっ・・・それって私が蟻ってこと?」

「無論じゃ」

「私がそんな扱い?」

「うむ」

「あら・・・じゃ、変な事は出来ないわね・・・」

「理解が早いな」

レインは片目を瞑って面白そうにソフィアを見る、

「まぁね、似たようなのの相手してたもの」

「タロウか?」

「そうよ」

「ふん、あれとルルも比べ物にはならんぞ、あれとお前さんを比べたら、猫と犬程度じゃな・・・」

いよいよめんどくさい対比表現である、ソフィアはルルと私とタロウと順に考え、

「えっ、それってルルさんの方が上って事?タロウさんよりも?」

それは凄いと目を剥いた、

「そうじゃのう、タロウも特異な存在じゃがその程度じゃな、ルルは可能性という観点に於いて遥かに上で、さらに世の中を変える事もありえる存在じゃな、それも可能性の問題じゃが・・・それで、いや・・・うん」

ミナは世界を変える存在なのじゃがとレインは言いかけて飲み込んだ、それをソフィアに告げる必要は無く、そこには可能性等という生温いものは存在しない、確定した結末が待つばかりなのである、

「それはまた、大人物になるって事ね」

レインの真意を知らぬままにソフィアはホヘーと感心した、

「大人物か・・・それで良いか、少々卑賎に聞こえるが、悪くない、ま、何にしろ本人次第じゃな、期待して待っておればよい」

「・・・そうね、ま、話し半分に聞いておくわ」

ソフィアはレインの説明をザっと思い返しつつ、現時点でできる事はない事を理解した、そして、それは将来的にもないのである、となればソフィアにとってルルは寮生の一人であり、友人の大事な姪であり、将来、ミナの良き友人になってくれれば嬉しい存在である、つまりは特別扱い等無用であると結論付け、今回の忠告は何かあったら思い出すかもしれないかしらと記憶の片隅に置いておくことにした、

「それがよかろう」

レインはニヤニヤと微笑みつつ腰を上げるとマントルピースに手を伸ばし、

「そう言えばの、ソフィア、儂はの、旨い肉は好物じゃが、書物も好きだぞ」

急に何を言い出したのかとソフィアは小さく首を傾げ、

「えっ・・・もー、耳聡いわね・・・」

その真意に気付いて優しく微笑む、

「うむ、参考までにの」

不適に微笑み、書を手にするレインであった。
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