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本編
58話 胎動再び その6
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翌朝、食堂で朝食が始まる頃合いから内庭はガタガタドスドスと騒音が響き、その理由を知っているミナは朝食をさっさと片付けると、
「食べたー、見に行くー」
と勢いよく立ち上がり、
「こら、内庭は駄目って言ったでしょ」
ソフィアはだろうなと思い大声を上げてミナを制した、
「やだー、見たいー」
「もう、じゃ、ほら、空いてる部屋から見なさい」
朝食に手をつけたばかりのソフィアであるがヤレヤレと腰を上げて一階の空いてる部屋へミナを連れてゆき、北側の木窓を開ける、ミナはそこへ顔ごとつっこみ、
「大工のおっちゃん、出来た?出来た?」
と大声を上げた、
「もう、邪魔しちゃ駄目よ、ここで大人しくしてなさい」
「わかったー、見てるー」
ミナは上半身を木窓から乗り出して御機嫌である、
「落ちないでよ」
「わかってるー」
まったく調子いいんだからとソフィアは溜息を吐きつつ食堂へ戻ると、騒音の為か寝坊助組も早々に起きてきたようで、エレインとジャネット、ユーリが階段から下りてきた所でバッタリと顔を合わせた、
「あら、おはよう、早いのね」
ソフィアはこういう効果もあるのねと皮肉混じりに微笑み、
「うん、起こされた・・・」
「私もです」
「仕方ないよー」
と三者三様の有様である、
「顔洗うなら作業場に水あるから、それ使いなさいね」
「ホント?」
「ありがとう・・・ございます・・・」
「はい・・・」
三人はそのまま作業場へ向かい、食堂では早起き組が食事を終えたようで、
「うー、今日はこっちの方が勉強になると思うなー、休んじゃ駄目かなー」
「ねーさん、それは駄目でしょ」
「えー、でもさー」
「でももなにも、ねー」
「うん、駄目だと思いますよ、私も見たいですけど」
「でしょー、コミンなら分かってくれると思ってたー」
「気持ちだけ分かります」
「何だよー、冷静だなー」
グルジアが一人ソワソワと内庭の方へ視線を向け、何とも落ち着かない様子である、
「まったく、グルジアさんも?ヘルデルには無かったの?」
ソフィアはこっちもかと呆れつつ腰を下ろし、
「ありましたけど、城壁用のでっかいのはよく見るんですが、小型のは初めてなんです、さっき聞いたら住宅建築用だから、今日組んで、今日撤収するって言ってましたから、貴重ですよー」
「あら、そういうもの?」
「そうなんですー」
グルジアは早口で答え、実に珍しくもソワソワと落ち着きが無い、しかし、建設に関して興味の薄い連中はそれがどうしたのやらと冷めた顔で、その温度差は気の毒な程である、そこへ、
「おはようございます」
テラとニコリーネが入って来た、朝の挨拶が交わされると、
「ソフィアさん、あれ、描いてもいいですよね」
とニコリーネは瞳を輝かせてソフィアに駆け寄る、
「えっ・・・いいと思うけど・・・」
ソフィアは物好きがもう一人いたよと呆気にとられ、
「さっき、ちょっと覗いたんです、カッコイイですよー」
「でしょー、だよね、だよね」
同好の士を見つけたとばかりにグルジアが腰を上げ、ニコリーネは、
「はい、小さいんだけど機能的だと思います、なんか、こうギュッと詰まった感じで」
「分かる、それ、その機能美よ」
「王都でも見ない型ですね、王都の建築物は石造りか煉瓦造りが多いからなんですが、小さな重機は初めて見ました」
「そうなのよ、ヘルデルでも見た事無いの」
「あれですね、ああいう機械的な物と建物の対比は美しいですね、とっても珍しい状況です」
「うんうん、分かる、あれで柱を立てて、屋根まで乗せるんだよ、絶対面白いよ」
グルジアは分かる分かると連呼しているが、ソフィアとテラは恐らくニコリーネは絵画の対象として見ているのであって、グルジアが好む建築的な機械的な解釈では見ていないのであろうなと思う、しかしそれを指摘するのは余りに酷と言えるし野暮と言えよう、グルジアは実に楽しそうであり、ニコリーネはニコリーネで妙に興奮している、ソフィアはまぁいいかと朝食に向かい、テラもトレーを二つ手にして、
「ニコさん、はい、ソフィアさんがトレーを用意してくれていますから、白湯も自由に、お塩は見れば分かるわね」
とニコリーネにトレーを渡しつつ朝食の説明を加える、
「あっ、ありがとうございます、えっ、すんごい豪華ですね、量もたっぷりだー、嬉しいー」
「そうなのよ、感謝して頂きましょう」
「はい、ありがとうございます」
漸くニコリーネは朝食に向かい、それでもグルジアはニコリーネの対面に座ると、
「さっき見た感じだと、数人で回して固定する形だと思うんだよね」
「そうなんですか?あの取っ手の所ですかね?」
「分かる?あれの仕組みが面白くてね」
とグルジアの建設談義が始まり、テラはへーこれは本物だわと目を丸くする、そこへユーリ達も合流し、騒々しい朝食がさらに騒がしくなった、そして、
「はい、ここなら良いわよ、ジッとしてなさいね、ニコリーネさん監督宜しくね」
「はい、お任せ下さい」
「うん、ジッとしてるー」
朝食を済ませ画板を抱えたニコリーネが内庭に入った為、そうなるとミナが騒ぎ出すだろうなとソフィアはミナを宿舎の脇に座らせ、ニコリーネにもそこで絵を描くようにと言い含める、勿論レインもミナと一緒に見物しているが、ここはニコリーネに監視を頼むのが筋であろうとソフィアは気を利かせた、
「ありゃ、観客が増えたなー」
ブラスが気付いて軽く手を振り、ミナは立ち上がって大きく手を振り返す、職人達も嬉しそうな笑顔を浮かべて観客を眺め、
「じゃ、やりますか」
ブラスが重機の設置を確認して今日の作業は始まった、朝早くから準備されていたのはグルジアの指摘の通りの小型のクレーンである、木製のそれは浄化槽の隣りの空地に設置され、職人というよりも重機用の人夫であろうブラスのような職人よりも筋骨隆々とした男達が取っ手に縋りついている、その高さは勿論であるが最も高い所で3階建ての寮を超えており、よくもまぁこんな長い木材を持ち込んだものだと見上げるしかない、
「始まった?始まった?」
ミナはピョンピョンと飛び跳ね、ニコリーネは黙して手を動かし続ける、レインは、
「こりゃ、落ち着け」
とミナの肩を押さえた、ソフィアはまぁこんなもんかなと重機に夢中になっている三人を置いて寮へと戻る、ソフィアとしても見物していたい欲求はあるが、当然であるが寮の仕事を優先しなければならない、さらに言えばグズグズ言って学園を休もうとするグルジアを叱責して学園に行かせたのは自分であったりする、それで仕事をさぼって見てましたでは面目の立てようも無かったし、申し訳ない気分にもなる、さらに午後からはメイド達の受け入れも始まる、何気に忙しくは無いが少しばかり気を使う日でもある、さて、まずはと食堂に入り、掃除からよねと倉庫へ向かった、すると、
ドン!!
と内庭から寮全体を揺るがすほどの振動が響く、何事かと身を縮こませるが、
「よーし、いいぞー、上げていけー」
ブラスの大声が響く、どうやらそういうものらしい、ソフィアはやれやれと掃除道具を手にし二階へ上がると、
「始まりましたー?」
とサビナが嬉しそうに三階から下りてきた、
「あら、おはよう」
「おはようございます、作業始まりましたね、下で見てもいいですか?」
あら、ここにも物好きがとソフィアは苦笑いとなりつつ、
「いいわよ、宿舎の隣りにミナとニコリーネさんがいるから、そこなら邪魔にならないでしょう」
「ありがとうございます」
サビナは嬉しそうに階段を駆け下り、
「あっ、表から回ってね、危ないからー」
「はい、了解です」
ソフィアがその背に慌てて注意をし、サビナは大声で返す、
「まったく、ま、気持ちは分かるか・・・」
ソフィアが何となく独りごつと、
「そうなんですよねー」
と三階から溜息混じりの声がする、ソフィアはビクリと肩を揺らして振り仰ぐ、
「なんだ、カトカさんか」
「えへへ、すいません、驚かせちゃって」
「まったく、カトカさんはいいの?」
「あー、私は寮の中から見れればいいかなーって、ね?」
カトカは振り返り、
「はい、危なそうなんで」
とゾーイがヒョイと顔を出した、
「あら、何よ二人して」
「えへへ、所長が打ち合わせに行ったもんだから、今日はゆっくりなんです」
「あら、そうなの?」
「聞いてないです?エレインさんも一緒じゃないかな?領主様の所みたいですよ」
「へー、そりゃまた・・・めんどくさそうね」
「まったくですよ、さて」
カトカは階段から離れると、
「少し見物してから転送陣の説明だわね」
「はい、宜しくお願いします」
カトカののんびりとした声とゾーイのハキハキとした声が響いた、どうやらそれなりに仲良くやっている様子である、ソフィアはさてこっちはこっちねと二階の掃除に取りかかるのであった。
「食べたー、見に行くー」
と勢いよく立ち上がり、
「こら、内庭は駄目って言ったでしょ」
ソフィアはだろうなと思い大声を上げてミナを制した、
「やだー、見たいー」
「もう、じゃ、ほら、空いてる部屋から見なさい」
朝食に手をつけたばかりのソフィアであるがヤレヤレと腰を上げて一階の空いてる部屋へミナを連れてゆき、北側の木窓を開ける、ミナはそこへ顔ごとつっこみ、
「大工のおっちゃん、出来た?出来た?」
と大声を上げた、
「もう、邪魔しちゃ駄目よ、ここで大人しくしてなさい」
「わかったー、見てるー」
ミナは上半身を木窓から乗り出して御機嫌である、
「落ちないでよ」
「わかってるー」
まったく調子いいんだからとソフィアは溜息を吐きつつ食堂へ戻ると、騒音の為か寝坊助組も早々に起きてきたようで、エレインとジャネット、ユーリが階段から下りてきた所でバッタリと顔を合わせた、
「あら、おはよう、早いのね」
ソフィアはこういう効果もあるのねと皮肉混じりに微笑み、
「うん、起こされた・・・」
「私もです」
「仕方ないよー」
と三者三様の有様である、
「顔洗うなら作業場に水あるから、それ使いなさいね」
「ホント?」
「ありがとう・・・ございます・・・」
「はい・・・」
三人はそのまま作業場へ向かい、食堂では早起き組が食事を終えたようで、
「うー、今日はこっちの方が勉強になると思うなー、休んじゃ駄目かなー」
「ねーさん、それは駄目でしょ」
「えー、でもさー」
「でももなにも、ねー」
「うん、駄目だと思いますよ、私も見たいですけど」
「でしょー、コミンなら分かってくれると思ってたー」
「気持ちだけ分かります」
「何だよー、冷静だなー」
グルジアが一人ソワソワと内庭の方へ視線を向け、何とも落ち着かない様子である、
「まったく、グルジアさんも?ヘルデルには無かったの?」
ソフィアはこっちもかと呆れつつ腰を下ろし、
「ありましたけど、城壁用のでっかいのはよく見るんですが、小型のは初めてなんです、さっき聞いたら住宅建築用だから、今日組んで、今日撤収するって言ってましたから、貴重ですよー」
「あら、そういうもの?」
「そうなんですー」
グルジアは早口で答え、実に珍しくもソワソワと落ち着きが無い、しかし、建設に関して興味の薄い連中はそれがどうしたのやらと冷めた顔で、その温度差は気の毒な程である、そこへ、
「おはようございます」
テラとニコリーネが入って来た、朝の挨拶が交わされると、
「ソフィアさん、あれ、描いてもいいですよね」
とニコリーネは瞳を輝かせてソフィアに駆け寄る、
「えっ・・・いいと思うけど・・・」
ソフィアは物好きがもう一人いたよと呆気にとられ、
「さっき、ちょっと覗いたんです、カッコイイですよー」
「でしょー、だよね、だよね」
同好の士を見つけたとばかりにグルジアが腰を上げ、ニコリーネは、
「はい、小さいんだけど機能的だと思います、なんか、こうギュッと詰まった感じで」
「分かる、それ、その機能美よ」
「王都でも見ない型ですね、王都の建築物は石造りか煉瓦造りが多いからなんですが、小さな重機は初めて見ました」
「そうなのよ、ヘルデルでも見た事無いの」
「あれですね、ああいう機械的な物と建物の対比は美しいですね、とっても珍しい状況です」
「うんうん、分かる、あれで柱を立てて、屋根まで乗せるんだよ、絶対面白いよ」
グルジアは分かる分かると連呼しているが、ソフィアとテラは恐らくニコリーネは絵画の対象として見ているのであって、グルジアが好む建築的な機械的な解釈では見ていないのであろうなと思う、しかしそれを指摘するのは余りに酷と言えるし野暮と言えよう、グルジアは実に楽しそうであり、ニコリーネはニコリーネで妙に興奮している、ソフィアはまぁいいかと朝食に向かい、テラもトレーを二つ手にして、
「ニコさん、はい、ソフィアさんがトレーを用意してくれていますから、白湯も自由に、お塩は見れば分かるわね」
とニコリーネにトレーを渡しつつ朝食の説明を加える、
「あっ、ありがとうございます、えっ、すんごい豪華ですね、量もたっぷりだー、嬉しいー」
「そうなのよ、感謝して頂きましょう」
「はい、ありがとうございます」
漸くニコリーネは朝食に向かい、それでもグルジアはニコリーネの対面に座ると、
「さっき見た感じだと、数人で回して固定する形だと思うんだよね」
「そうなんですか?あの取っ手の所ですかね?」
「分かる?あれの仕組みが面白くてね」
とグルジアの建設談義が始まり、テラはへーこれは本物だわと目を丸くする、そこへユーリ達も合流し、騒々しい朝食がさらに騒がしくなった、そして、
「はい、ここなら良いわよ、ジッとしてなさいね、ニコリーネさん監督宜しくね」
「はい、お任せ下さい」
「うん、ジッとしてるー」
朝食を済ませ画板を抱えたニコリーネが内庭に入った為、そうなるとミナが騒ぎ出すだろうなとソフィアはミナを宿舎の脇に座らせ、ニコリーネにもそこで絵を描くようにと言い含める、勿論レインもミナと一緒に見物しているが、ここはニコリーネに監視を頼むのが筋であろうとソフィアは気を利かせた、
「ありゃ、観客が増えたなー」
ブラスが気付いて軽く手を振り、ミナは立ち上がって大きく手を振り返す、職人達も嬉しそうな笑顔を浮かべて観客を眺め、
「じゃ、やりますか」
ブラスが重機の設置を確認して今日の作業は始まった、朝早くから準備されていたのはグルジアの指摘の通りの小型のクレーンである、木製のそれは浄化槽の隣りの空地に設置され、職人というよりも重機用の人夫であろうブラスのような職人よりも筋骨隆々とした男達が取っ手に縋りついている、その高さは勿論であるが最も高い所で3階建ての寮を超えており、よくもまぁこんな長い木材を持ち込んだものだと見上げるしかない、
「始まった?始まった?」
ミナはピョンピョンと飛び跳ね、ニコリーネは黙して手を動かし続ける、レインは、
「こりゃ、落ち着け」
とミナの肩を押さえた、ソフィアはまぁこんなもんかなと重機に夢中になっている三人を置いて寮へと戻る、ソフィアとしても見物していたい欲求はあるが、当然であるが寮の仕事を優先しなければならない、さらに言えばグズグズ言って学園を休もうとするグルジアを叱責して学園に行かせたのは自分であったりする、それで仕事をさぼって見てましたでは面目の立てようも無かったし、申し訳ない気分にもなる、さらに午後からはメイド達の受け入れも始まる、何気に忙しくは無いが少しばかり気を使う日でもある、さて、まずはと食堂に入り、掃除からよねと倉庫へ向かった、すると、
ドン!!
と内庭から寮全体を揺るがすほどの振動が響く、何事かと身を縮こませるが、
「よーし、いいぞー、上げていけー」
ブラスの大声が響く、どうやらそういうものらしい、ソフィアはやれやれと掃除道具を手にし二階へ上がると、
「始まりましたー?」
とサビナが嬉しそうに三階から下りてきた、
「あら、おはよう」
「おはようございます、作業始まりましたね、下で見てもいいですか?」
あら、ここにも物好きがとソフィアは苦笑いとなりつつ、
「いいわよ、宿舎の隣りにミナとニコリーネさんがいるから、そこなら邪魔にならないでしょう」
「ありがとうございます」
サビナは嬉しそうに階段を駆け下り、
「あっ、表から回ってね、危ないからー」
「はい、了解です」
ソフィアがその背に慌てて注意をし、サビナは大声で返す、
「まったく、ま、気持ちは分かるか・・・」
ソフィアが何となく独りごつと、
「そうなんですよねー」
と三階から溜息混じりの声がする、ソフィアはビクリと肩を揺らして振り仰ぐ、
「なんだ、カトカさんか」
「えへへ、すいません、驚かせちゃって」
「まったく、カトカさんはいいの?」
「あー、私は寮の中から見れればいいかなーって、ね?」
カトカは振り返り、
「はい、危なそうなんで」
とゾーイがヒョイと顔を出した、
「あら、何よ二人して」
「えへへ、所長が打ち合わせに行ったもんだから、今日はゆっくりなんです」
「あら、そうなの?」
「聞いてないです?エレインさんも一緒じゃないかな?領主様の所みたいですよ」
「へー、そりゃまた・・・めんどくさそうね」
「まったくですよ、さて」
カトカは階段から離れると、
「少し見物してから転送陣の説明だわね」
「はい、宜しくお願いします」
カトカののんびりとした声とゾーイのハキハキとした声が響いた、どうやらそれなりに仲良くやっている様子である、ソフィアはさてこっちはこっちねと二階の掃除に取りかかるのであった。
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