セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

59話 お披露目会 その6

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そして、最後に姿を現したのがエフモントとその家族であった、玄関口でキョロキョロと視線を走らせるエフモントとその娘と孫二人に、エレインは軽く挨拶を交わす、エフモントは招かれた礼を口にしつつ娘を紹介した、娘は、

「初めまして、フェナと申します、本日は私達までお招き頂きありがとうございます」

明るく快活な笑顔で一礼し、

「で、こちらが孫ですね、ほら、挨拶」

その足に絡みついて恥ずかしそうにしている二人の子供の背を押す、二人はおずおずとエレインを見上げゆっくりと頭を下げた、

「初めまして、エレインです、おじいさん?でいいのかしら?」

エレインは少し不安になってエフモントとフェナに確認すると、二人は優しい笑顔でコクリと頷く、エレインも良かったと一言呟いて、

「おじいさんにお世話になっています、宜しくお願いしますね」

エレインの微笑みに、二人は顔を赤くしてサッとフェナの後ろに隠れてしまった、

「あらっ」

「すいません、この子達妙に人見知りで」

フェナは困ったように微笑み、エフモントはニコニコと孫を見下ろしている、

「ふふっ、そうよね、恥ずかしいわよね」

エレインは優しく微笑み、

「さっ、どうぞ、今日は他の子供達も来てますから、気兼ね無く見ていってください」

「ありがとうございます」

エフモントは一礼して店舗へと足を向けた、フェナの足にしがみついたままの子供達もそろそろとついてゆく、するとベーチェが先に立ち男達が揃って店から出て来たようで、エレインが何事かしらと怪訝に思う間もなく、

「すいません、中が大人数になってしまって、皆さんが外で待ちたいとの事です」

ベーチェがエレインに駆け寄って耳打ちする、エレインはそれはまたと男性達へ視線を移すが、男達はエフモントを見つけて軽く言葉を交わしながら笑顔を浮かべていた、不愉快な事があったわけでは無さそうである、単に自分達がいると邪魔になるであろうと気を利かしての事らしい、エレインとしては申し訳ないかしらと思いながらもこれも妻や子供達への配慮の一つなのであろうと推察し、

「わかりました、では、内庭へ、そうね、お茶かソーダ水を用意して下さい、」

「はい、畏まりました」

ベーチェは男達を内庭へ案内し、男達はエレインへ軽く会釈をしながらベーチェについていく、男達は従業員の伴侶であり、その上互いに職場が同じである、モニケンダム軍というよりもクレオノート家の私軍にあたる軍隊の教導団の面々であった、故にその身体は大きくゴツゴツとしており、イフナースの従者も顔負けの偉丈夫達である、さらにエフモントを経由して様々な状況もしっかりとその耳に入れていた、今日のお披露目会に関しては自分達よりも妻や子供が主役になるであろうと一歩引いた立場で参加しているのである、それでもしっかりとガラス鏡を堪能し、壁画も充分に観賞した上に、貴族向けの店舗という本来であれば入る事も難しいその環境を楽しんだ上で、あとは妻達と子供が飽きるまでは自分達は集まって時間を潰すかといった風情なのであった、何とも優しい事である、

「あー、少し多すぎたのかしら・・・」

エレインはその背を見送りつつ、店舗を伺う、見れば確かに広い店舗と言えど従業員の家族たちと生徒達がワチャワチャと立錐の余地も無さそうな塩梅で、もう飽きたのであろう子供達はその足元を駆け回っており、婦人部の面々は仲の良い者どうしが固まって井戸端会議と洒落込んでいる、

「こうなるか・・・あー、マフレナさん、テラさん」

エレインは二人を呼びつけると、

「内庭にお茶とソーダ水を用意させますから、子供達や話しをしている方々はそちらへ誘導して下さい」

二人はコクリと頷き、手近で駄弁っている従業員を内庭へ誘い、走り回っている子供達を捕まえるとそれも内庭へ向かわせる、するとあっという間に店内に居た半数は内庭へ移動したようで、残ったのは真剣に鏡を覗き込んでいるリズモンドの一家とエフモント一家、さらに若干年長のおしゃまな娘達と、リーニーやカチャーのような現地従業員の家族であった、エレインはこれならばとりあえず安心かしらと一息吐く、そこへ、

「内庭の方、焼き菓子を出しますね」

テラが戻ってきて耳打ちする、

「そうね、今日はゆっくりしてもらうのが大事だわね」

エレインもテラの機転を了承し、テラは再び姿を消した、エレインは早めにこうするべきだったかしらと少しばかり反省し、しかし、それなりに楽しんでいるであろう従業員とその家族、いまだ鏡に集中する面々の様子を微笑ましく見守り、取り敢えず今日はこんなもんかしらねとホッと安堵した、エレインが思うところの世話になる人達、世話になった人達は招待できたように思う、招待状を出した相手で来ていない者もいるようであるが、それは先方の都合もあるであろう、後程しっかりと精査する必要もあるかと思うが、それはまた別の仕事である、

「いや、素晴らしい品ですな」

エフモントとリズモンドが満足そうな笑みを浮かべてエレインの元へ歩み寄ってきた、

「ありがとうございます」

エレインはニコリと一礼する、

「マフダから聞いてはいたのですが、実物を目にするとまるで違いますね、これほどとは思いませんでした」

リズモンドは実に楽しそうに微笑んでいる、見れば三面鏡台にはフィロメナが座してマフダとカチャーを相手にキャッキャッと楽しそうにはしゃいでおり、その周りのマフダの姉達はさっさと代われとフィロメナを小突いている、複雑な事情はあれど仲の良い姉妹なのであろう、小さな3人娘は一人はマフダの足から離れないようで、もう二人は壁画を指差して笑い合っていた、

「ですな、しかし、やっとここまできましたね、早いような、遅いような、実に感慨深いです」

エフモントがしみじみと呟く、人材に関して相談する事が多かった為、自然と事業内容に関しても耳にしていたエフモントである、当初は新興の商会がそこまで大きな仕事が出来るのであろうかと懸念していたのであるが、エレインが語った以上に理想的な貴族向けの店舗の設えを見て感嘆せざるを得ない、何せ今現在でも屋台と屋台に毛が生えた程度の店舗しか無いのである、本来であればその飲食を中心とした店をしっかりと作るのが先なのではないかとエフモントは考えていたのであるが、どうやらその当たり前の経営方針はエレインには通用しなかったようであった、

「そうですね、紹介頂いた皆様の御協力のお陰です、特にこちらの店に関してはマフレナさんやケイランさんのお力が大きいですね」

「そうでしたか・・・そう言って頂けると私も鼻が高い」

エフモントは柔和な笑みを浮かべる、

「なるほど、六花商会の影にリューク商会在りですな」

リズモンドが茶化すように微笑む、リズモンドはすっかり上機嫌であった、陽もある為にその本来の顔を表に出す事はないのであるが、何より娘達の楽し気な様子とそれに振り回されているマフダの慌てぶりを心底楽しく感じていたのである、

「そこまで尽力しておりませんよ」

「いえいえ、良い人材こそ商会の宝と思います、奥様方の力有ってこその六花商会ですから」

「そうですか・・・ありがたいお言葉です、私も奥様方には感謝致しませんと・・・ですな」

「そうですな、で、エレイン会長、今日は商談は駄目だとのことだったが」

リズモンドが全身鏡へ視線を向けて話題を変えた、

「はい、申し訳ありません、商談となると時間を取られますから、本日はご遠慮頂いておりました」

「そうだよな・・・うん、いや・・・あー」

とリズモンドがどうするかと首を傾げた所に、

「エレインさーん、あれ10台、10台売って」

フィロメナが駆けて来てごく当たり前のようにエレインの腕に絡みつく、独特の化粧の香りがエレインの鼻腔をくすぐり、その両手はエレインの左手を優しく包みこんだ、あれとは三面鏡台の事であろう、

「10台ですか?多すぎますよ」

エレインは何とも困った顔でそう答えるしかない、フィロメナの豊満な胸が二の腕に当たり、左手に感じる女性らしい柔らかく細い指先がゾクゾクと背中を震わせる、女性であるエレインでも思わずはいと答えてしまいそうになる、

「そう言わないでさー、控室に並べたいのよー、うちの娘達をもっと綺麗にしたいのよねー、絶対欲しいんだからー」

「気持ちは分かりますが、今日は勘弁してください、商談は20日以降でお願いしてますから」

「むー、駄目ー?」

「そんな声を出しても駄目です」

「これでもー」

さらに胸を押し付け、その吐息をエレインの耳に優しく吹きかける、恐らく男性客相手であればこれで完全に落ちるのであろうが、相手はエレインであった、そういったおねだりに慣れていない事もあるが、何せエレインは女性である、

「これでもです」

エレインが顔を赤くしニヤケ顔と困り顔が混じった複雑な表情を浮かべると、

「こらー、会長を困らせるなー」

マフダがすっ飛んできてフィロメナを強引に引きはがす、

「なによー、マフダはエレインさんの味方なのー」

「味方も敵もあるかー」

「あるわよー、もー、マフダは取られちゃったかー、エレインさんも隅に置けないなー」

「取られるも何もないでしょがー」

「そうかしら、あんなに可愛かったマフダが口答えするなんてお姉さん悲しいわー、折角可愛がってあげたのになー」

「それとこれとは別でしょー」

急遽始まった姉妹喧嘩である、エレインはさらに困り顔で見守るしかなく、リズモンドはおいおいと苦笑いで、エフモントはこれは面白いとニヤニヤと眺めるのであった。
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