セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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59話 お披露目会 その16

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「うふふー、美味しいねー」

「ねー、やっぱりナシだわねー」

「リンゴも美味しいよー」

「カスタードも良いぞ、これの良さが分らぬとはお子ちゃまじゃのう」

「むー、ミナはお子ちゃまだからいいのー」

「ユラもお子ちゃまだもーん」

「何を言っているか、でかい身体で・・・」

「むー、レインちゃんが意地悪だー」

「そうなの、レインは意地悪なのよ」

「そうなの?こんなに可愛いのにー」

「こりゃ止めるのだ、撫でるな」

「キャー、レインちゃん可愛いー」

「むー、ミナもミナも可愛いでしょー」

「あー、ミナちゃん妬いてるの?」

「?焼いてないよ?お肉?お野菜?」

「その焼くではないわ」

「もー、ミナちゃんギュー」

ウルジュラがミナを抱き締め、それでもドーナッツを手放さないミナである、エレイン達買い出し組が食堂に入ると、早速ミナとウルジュラはドーナッツを頬張りはじめ、レインもちゃっかりと加わっている、王妃達は食べ過ぎよとウルジュラを窘めるが、そのような苦言を気にするウルジュラではない、

「もう、そういうわけで、どうかしら?ニコリーネの修業に付き合って頂けないかしら?」

パトリシアはウルジュラの戯れを横目で睨みつつ、エレインに確認する、

「はい、その・・・私は構いませんが・・・宜しいのですか?」

エレインは困惑しつつ首を傾げて隣りに座るニコリーネを伺う、パトリシアの説明をそのまま理解すればこれは完全な思い付きである、ソフィアが通りがかりで無責任に放った意見がそのまま採用されたらしく、そんな適当な理由で決めて良い事なのかしらと不安に感じた、なによりも当のニコリーネが小さく俯いたままである、仕事として店舗に入って貰う事には何の問題もないのであるが、本人の意向が最も大事であろうとも思う、

「どう?ニコリーネ」

パトリシアの厳しい声は変わらない、ニコリーネはじっと俯いたままである、何とも要領を得なかった、

「あら、皆さんお揃いねー」

そこへソフィアがフラッと入ってきた、そして、

「あっ、ミナ、レイン、ちゃんと御礼言ったの?」

と嬉しそうにドーナッツを口にしている二人を目にして、早速の小言である、

「言ったー」

ミナが勢いよく答えるが、

「えー、聞いてないなー」

「うそー、言ったー」

「どこで?」

「えっと、お店でー、ありがとうって言ったー」

「そうだっけ?」

「ユラ様忘れてるだけー」

「あらっ、私にかなうと思ってかー」

ガバリと再びミナを抱き締めるウルジュラである、

「キャー、レイン助けてー」

ミナは遠慮無く大声を上げ、レインはヤレヤレと溜息を吐いて手にしたドーナッツを食べきると、

「うむ、馳走になった、礼を言う」

何とも古臭い言葉を残して暖炉の前に逃げ出す始末で、

「あー、レインちゃん、逃げたー」

「むー、レイン助けてー」

「知るか、子供の遊びには付き合ってられん」

「レインだって、子供でしょー」

「そうだそうだ、生意気な子めー」

「ナマイキだー、レインはナマイキだー」

「なんだとー」

レインがムスッとその顔を歪め、

「誰が生意気だー」

とウルジュラに飛び掛かる、

「キャー、ミナちゃん助けてー」

「やだー、ミナとレインはサイキョーなのー」

「えー、聞いてないー」

「クロノスよりも強いんだからー」

「ミナ、どうする?」

「えっと、えっと、泣かすー」

「泣かすか?」

「キャー、ごめんてばー」

三つ巴で遠慮無く嬌声を上げるが、そこはウルジュラもそれなりの大人であり、レインも常識は疑わしいが加減は理解している、二人は上手にミナを巻き込みつつ暖炉前の毛皮に遊びの場を移し、

「わー、ミナちゃん、そこ触っちゃ駄目ー」

「ユラ様の弱点みっけー」

「ほう、ここかー」

「きゃー、駄目、くすぐったいー」

ドタンバタンと転がる有様である、

「まったく」

王妃二人もそうであるが、パトリシアやアフラも何をやっているのやらと冷たい視線を送り、ソフィアもやれやれと溜息を吐き、

「あー、止めます?」

とエフェリーンとマルルースに確認をする、

「ほっときましょう」

「そうね、それよりも」

二人の視線はニコリーネに注がれ、ソフィアはあらっと釣られてニコリーネを見る、先程見かけた体勢のままに縮こまっているニコリーネに、

「どしたの?」

ソフィアは気軽に声をかけるが反応は無い、

「あー、つまりですね」

とエレインが状況を説明した、ソフィアはフンフンと頷きながら席に着く、

「なるほどねー、そっか、さっき適当に答えちゃったからね、あれでしょ、ニコリーネさんとしては絵を描くのを止められないんでしょ」

ソフィアは分かり切ったような口振りであった、

「で、さらに言えばあれだ、あれよ、度胸が足りないんだわ」

とさらに知った風な口である、パトリシアはん?と目をむいてソフィアを睨み、王妃二人はアラッとソフィアを注視する、

「私が見る限りだけどね、アフラさんはいたでしょ、あのお店の壁画のとき」

「はい、居りました」

「ねー、あの時もねー、思い切りが悪いのよ、レインがけつを叩くというか、強引に崖から突き落とさないといつまでもあのままだったんじゃない?」

「あー、確かに・・・」

ガラス鏡店の壁画の際に7割程度描いた時点でニコリーネはピタリと動けなくなってしまったのである、アフラは部屋の真ん中で蹲りうんともすんとも言わなくなったニコリーネの有様を思い出し、今もそうなのであろうかと心配そうにニコリーネを見つめた、

「うん、あのね、あー、偉そうな言い方になるかもだから先に謝っておくけど、私もねここに来てから学ぶ事が多くてね」

「ソフィアさんでもですか?」

エレインが思わず問いかける、

「そうよー、何かと言えばね、エレインさんもそうだけどジャネットさんやケイスさんも、みんなだわね、少し教えたらすぐに自分の物にして、挙句好き放題やってるでしょ、最初は若さかしらって思ったけど、私があんたらくらいの時はユーリと一緒に泥まみれになってた頃なのよね、あれはあれで楽しかったと今思えば感じるんだけど、当時は生きるのに必死だったわね、好きで村から飛び出したくせにね、勝手なもんだわ」

アッハッハとソフィアは笑い、パトリシアや王妃達も急に何の話しかと訝しく思うが、静かに耳を傾けている、

「でね、ふと思ったのよ、当時の私がここにいたらここまで出来るかなって、で、たぶん無理かもなってね」

「そうでしょうか?」

「そう思うわよ、それだけあんたらは賢いし、何より逞しいわね、で、一番感心してるのは欲望に忠実なところと仲間意識かしら?」

「仲間意識ですか?」

思わずアフラも口を開く、

「うん、ここに来た頃は実はあれよね、ケイスさんは文字通り空気だったし、ジャネットさんとエレインさんってあんまり仲良くなかったでしょ」

「・・・そう・・・ですね・・・」

「でも、何のかんので屋台で張り合って、いつの間にやら商会作って、私はほら助言はしたかもだけど、基本的に助けるような事は一切してないからね、大したもんだなーって見てたけど、でも、これはほらエレインさん一人の成果では無いし、オリビアさんやジャネットさん達の助けがあってこそなのよ、違う?」

「違いません、それは本当に心からそう思います」

エレインは思わず大声で答えてしまった、エレインが常々感じている事であったからである、ソフィアも涼しい顔で他人事とばかりに無関心な風であったが、しっかりと見るべき所は見ていてくれたのだと感激してしまっていた、

「勿論あれよ、パトリシア様やクロノスの助力もあってこそですからね」

ソフィアはニヤリとパトリシアを見つめ、パトリシアは誇らしげに微笑む、

「で、話しを戻すとニコリーネさんにはね、その仲間がいないのよね」

ソフィアがニコリーネへ視線を移すがニコリーネはピクリと反応はするが小さいままであった、

「それは仕方無いとも思うんだけどね、芸術の世界がどういうものか知らないんだけど、どうしても一人で紙に向かっているわけでしょ、そうなると・・・うん、刺激が少ないし、なにより・・・うん、知恵が足りなくなるんじゃないかな?」

「知恵・・・ですの?」

「うん、刺激はほら、エレインさんを例にとればね、どのような関係であれジャネットさん達がいたからね、方向性は同じなんだけど、その道程というか考え方が大きく違っていたからお互いに刺激になって、さらにそのお互いの良い所を取り込んでより良くなっていったのよね、本人達がどう思っているかは別よ、隣りで見てる感じではそんな感じ、でも、ニコリーネさんにはそれが無い、ここではね・・・で、知恵に関してもそう、やっぱり偉そうにしてギャーギャーうるさいだけの老人は必要なのよね、ここで言えば私みたいな」

「そんな、ソフィアさんをそう思った事は無いですよ」

「そう?でもさっきも言ったけど、助言はするけど手伝わない、これが大事なのかもね、で、それが知恵なのよ、知識は書で得られるけど、それは言わば物知りであるだけでしかなくて、その知識を活かすのが知恵だって、タロウが言ってたけどね」

「ふん、上手い事言うな」

いつの間にやらパトリシアの隣りに座っていたレインがニヤリと微笑む、見ればミナとウルジュラも落ち着いたのか数冊の書を開いて覗き込んでいた、

「ねー、で、恐らくだけどニコリーネさんはお父さんも絵師さんなんでしょ、だとするとどうしてもその知恵は散々言われていると思うのよね、聞きたくなくても、でもそれが知識として凝り固まってしまって、ま、状況によっては私の言う助言になっているかかどうか怪しいものなんだけど、ほら、ようはそれって叱責とか注意とかって感じで、素直に受け取るのは難しいし、理不尽に思える事も多いでしょう、理解しろとか頭越しに言われても、そんな事簡単には出来ないし、そうなると、あー言われたなーとか、あー言ってたなっていう知識になってしまって、それを知恵として活用する方向に頭では分かっていても心が拒否する・・・うん、拒否しちゃうんだわね、そうなると体が動かなくなって、前に進みたいんだけど後ろ向きになっちゃう、だから・・・」

とソフィアはテーブルに並んだ素描を指差し、

「良い絵は描ける、けど、自分の描きたいものには臆病になっちゃう、描きたいものが恐らく形としてあるんだけど、それを形にしようするとその知識が邪魔しちゃう、どうにも思い描いた形との完成形が違ってくる、よくあるわよね、料理でもそうだけど、こうなるはずなのになーって、でも、こうなっちゃったって、料理とかね、裁縫ならまぁいいかで済むんだけど、絵画となるとね、時間もかかるしお金もかかる・・・、労力も大きいでしょ、真剣に取り組むんだもん疲れるよ、うん、そう考えると慎重になってしまうのも仕方ないわよ、さらに言えば本来知恵であったものが知識として足枷になっているのかもね、これはさっきも言ったか・・・だからあの時はレインの力が必要だったのよ、崖から突き落とす、若しくは自分から飛び込む、これ大事」

「それは・・・」

「どうなの?ニコリーネ?」

パトリシアは優しくも困った声音でニコリーネに問いかける、ニコリーネはゆっくりと顔を上げ、

「その・・・知恵とか何とかは分らないですけど・・・度胸が無いっていうのは・・・その、その通りかなって・・・」

漸く掠れた声で答えた、

「あら、良かった、じゃ、そこね」

ソフィアはニヤリと微笑み、

「本人がそう思っているのであればまずはそれ、度胸か・・・あー・・・度胸を鍛えるって・・・どうするんだ?」

言いたい放題であったソフィアが急に首を傾げ、一同はズルッと肩を落とす、

「ここでそれですか?」

アフラが非難の声を上げ、

「締まらんのう」

レインがジロリとソフィアを睨む、

「そんな事言われても、だって、なに?一人で山ごもりさせる?若しくはナイフ一本持たせて熊狩りさせる?」

「そんな野蛮な・・・」

「だって、冒険者が度胸をつけるとしたらそんな感じよ」

「それは冒険者だからであって」

「分ってるけど、私は元々そうなの、それしか知らないの」

「それは嘘ですよ」

「嘘って、失礼ね、私なんてそんなもんなのよ」

「それこそ嘘ですわ」

「王妃様までなんですかー」

理性的に静かであった食堂は一気にギャーギャーと騒がしくなる、ミナとウルジュラは何事かと書から顔を上げ、ニコリーネは思わずその頬を綻ばせるのであった。
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