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本編
59話 お披露目会 その19
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そして生贄はユーリに変わった、ユーリは下に降りては戻って来ないどころか一人二人と居なくなる助手に軽く立腹していたが、王妃達の姿を見て、これは仕方のない事かしらと席に着く、事情はなんとなく道すがらにサビナに聞いている、ようはニコリーネの練習台なのであった、まぁこういう事もあるわよねと、普段は振り回す側である自分は棚の上にほっぽり投げるユーリである、そして、問題の助手達はカトカの黒板を覗き込んで何やらコソコソと話しており、学園長はすぐ戻ると言って学園に向かった、アフラもこれは長居になりそうだと一旦屋敷に戻った様子で、ソフィアは素知らぬ顔で茶を立てており、ミナとレインはウルジュラを前にして黒板を手にしている、その隣りでは、
「なるほど・・・これは面白いですわね・・・」
「・・・オリビアさんも筆まめね、興味深いですわ・・・」
「大したものですわね・・・」
王妃二人とパトリシアを前にしてエレインが背筋を伸ばして青い顔であった、4人の間には大量の木簡が積まれており、それはオリビアがしたためていた書簡である、学園長が機嫌良く事のあらましを口にした為、エレインはオリビアの部屋から木簡を持って来るしかなくなり、こうして針の筵か蛇に睨まれた蛙かと冷たい汗を全身に感じる有様であった、
「それで・・・これをカトカさんが清書したのですか?」
「あっ、はい、その清書といいますか、場合によっては書き換えております」
カトカがヒョイと顔を上げて答える、丁寧な言葉であったが敬語ではない、
「それはそれで面白そうですわねエレインさん・・・」
ジロリとパトリシアがエレインを睨み、エレインは脂汗と冷や汗って同時にかけるものなのねと何とも詮無い事を考えながら、
「はい、その大変ご好評のようでございまして・・・はい・・・」
しどろもどろに答えるしかない、
「ふふっ、そんなに固くならなくていいですわよ、忙しかったのはよーーーーく存じてますからねっ」
ニヤーと優しくも怪しい笑みを浮かべるパトリシアである、
「はいはい、そんなにエレインさんを虐めちゃ駄目ですよー」
ソフィアはのんびりと茶を配り始め、
「もう、ソフィアさんも知っていらしたら教えて頂いても良かったのですわよ」
「そんな事言われてもねー・・・だって、エレインさんとしては好きで公表したわけではないですし、学園長の思い付きとユーリ先生の悪巧みの結晶ですからね、私が喧伝するのは違うと思いますよー」
「悪巧みですか?」
「そうよー、ねー、ユーリセンセー」
「何がー?」
どうやらこの場においてはユーリも敬語を忘れるようである、ユーリはアッと叫んで、
「失礼しました、何がでございましょう、ソフィアさん」
怪しい敬語を操り作り笑いを浮かべるが、その微笑に気付いた者はニコリーネだけである、
「オリビアさんの書簡の事、エレインさんがねー、パトリシア様に報告してなかったんだってー」
「あー、それは良くないでございますわね、エレインさん」
「そんな、ユーリ先生はお味方になって頂かないと・・・」
エレインが泣きそうな顔を向けるが、
「おほほ、ワタクシ、権力には尻尾を振る事にしたんざますのよ」
「そんな・・・」
エレインは絶句し、
「あー、心にも無い事言ってるわね」
「うん、どうでもいいって感じだわね」
「そうなんですか?」
カトカとサビナは呆れ顔となり、ゾーイは片眉を上げ困惑する、
「素晴らしいですわ、ユーリ先生、それでこそですわ」
パトリシアはユーリのおふざけに乗っかった様子で、オッホッホと上品な高笑いが続いた、
「まぁ、そうですね、エレインさんを弁護するとしたら、学園長の施策に私が何とか協力しろと焚き付けたのが原因ですから、悪巧みよりもあれです点数稼ぎ?の方が正しいですね、言うなれば・・・それと、どうしても、その、家族への報告ですから、公にしたくない事も書いてあるようですし、一読する限りはそれほどね、気にはなりませんが、御本人はだって嫌ですよ、他人様にひけらかす事では無いですし、それをだって大事な御友人であるパトリシア様に隠したくなるのは仕方が無いというものです、なにせ領主様のお嬢様にも言ってなかったですしね、ですのでそんなに目くじら立てないで下さいよ、妙齢のお嬢様であれば当然の恥じらいと言うやつです、それに後々書籍にするのが学園長のタクラミなので、そうなれば必然的に公になってしまいます、その時に実は・・・でも、面白かったと思いますしね、ま・・・そんな感じです、それと、学園に掲示されているのは創作部分も多いです、何より、不要な事は削ってます、なので、その原本にあたるそれらの木簡は何気に貴重ですよ、でしょ、カトカ」
ユーリは一転、真面目な口調でエレインを擁護する、完全に自分は棚の上であったが、
「はい、やはり読み物として編集しなければなりませんし、それとどうしても出すべきではない部分も多いです、なので、創作3割・・・といった所ですね」
カトカも真面目に答え、パトリシアはどうやら納得したらしい、
「可愛いわね・・・本当に可愛いわ」
ボソリと呟き溜息を吐く、
「なるほど、しかし、カトカさんも器用な人ね、どうかしら、王城で書記官として仕えない?」
マルルースはエレインではなくカトカに心底感嘆したらしい、エフェリーンも、
「そうね、あの広告掲示板もカトカさんでしょ、あれはあれで大変面白かったですよ」
と自然な褒め言葉である、
「そんな、畏れ多いです、私なんかまだまだですから・・・」
カトカはこれはめんどくさそうだと途端に小さくなる、
「母様、それは駄目ですわ、ユーリ先生からカトカさんを奪ったら、王都が焼野原になりかねません」
パトリシアがニヤリと微笑む、クロノスから寝物語に聞いた二人の実力が真実であれば国の半分を破壊する事も可能らしい、パトリシアは冗談半分としていたが、光柱の件などを勘案するに、寝物語は話し半分として真に受けた方が良いであろうと考えている、
「あらっ、それは困るわね」
「そうね、でも、ユーリ先生も一緒であればいいのではなくて?」
「であれば、ソフィアさんも一緒に・・・」
「それは名案ですわ」
貴人達がほくそ笑むが、
「はいはい、そしたら私は逃げますからー」
ソフィアはソッポを向いて茶をすすり、
「そんなにハッキリ言わなくても」
これにはエレインが困り顔になる、
「まぁ・・・それは駄目ね」
「そうですわね」
「もう、冗談ですわよ」
貴人達はまったくと呆れ顔となる、どうにもソフィアにしろユーリにしろ掴み所が無い、本来であればこの三人を前にして好き勝手できる人物等この王国にはいないと言っても過言では無い、三人にとってはある意味で新鮮な反応なのであるが、周りとしてはたまったものでは無いであろう、カトカ達はこれはまずいかもと緊張し、食堂内は微妙な空気に包まれる、我関せずと自分の世界に埋没しているのはニコリーネと、もうウルジュラの事など視野にも入れずに黒板に向かうミナである、そこへ、
「失礼します」
と階段からミーンとティルが恐る恐ると顔を出す、冷えた雰囲気が乱雑にかき混ぜられた、
「あら、いらっしゃい、あっ、もうそんな時間?」
とソフィアがヒョイと腰を上げる、
「はい、正午ですね、あの・・・大丈夫ですか?」
「何が?」
「何がって・・・その・・・」
王妃二人に王女が一人、さらに元王女がいる場所でいつも通りに気の抜けた感じのソフィアにミーンとティルは何とも困惑するしかない、挙句この大人数が居て妙に静かであったのである、何かあったかもと警戒するのは正しい反応であろう、
「あっ、買い出し・・・あー、行けなかったか・・・じゃ、どうしようかな」
ソフィアはそんな二人を尻目に夕食の支度に悩みだす、
「あら、足りない物は屋敷から持ってくれば良いのよ」
「そうね、王城からでも宜しいですわよ」
エフェリーンとマルルースが何を悩むことがあると顔を向け、その反応にゾーイ達は勿論エレインもホッと安堵した、
「それはだって、申し訳ないですから」
「そう仰らないで、ティルの教育を頼むときにそうして下さいと話した筈ですわよ」
「そうですわ、アフラ・・・あっ、いないのね、ティル、足りない物はそういう事だから、持って来なさい」
マルルースに直接言われ、ティルはハイッと背筋を伸ばす、ソフィアはまったくと一息吐いて、
「じゃ、ごめんね、頼もうかしら・・・今日は・・・どうしようかなー」
とパタパタと厨房へ入る、
「できましたー」
そこでニコリーネがうーんと立ち上がる、
「あら、早いわね」
「そうですね、どんどん早くなってます」
「そうなの?私もう少し大丈夫よ」
ユーリがいいのかしらと首を傾げる、
「はい、分ってきました、こちらですがどうでしょう?」
ニコリーネは自信満々に肖像画をユーリに差し出し、ユーリは腰を上げて受け取ると、
「あら・・・うふ、私こんなに綺麗かしら?」
一目でニヤリと微笑むユーリであった、その笑顔にどれどれと皆腰を上げ、
「ユーリー、見せてー、見せてー」
ミナがバタバタと両手を振り回す、
「うふ、はい、どうぞ、私としては嬉しいかしらね、グフフ」
ユーリは事情を理解している、故にその意図する事も同じく理解している、そして確かにこれであればお金になるかもなと手にした肖像画をテーブルに置いた、すると、
「おおっ、これは完成してますね・・・」
「確かに完成と言えるはね、しっかりしてます」
「うん、ユーリ先生ですね・・・でも・・・」
「ちょっと若いかしらね」
「それも一興ですわよ、学園長も客の理想とする姿を描くのが商売のコツと言ってましたしね」
「商売としては正しいのですね」
「あまり商売に傾倒しても・・・まっ、主旨とは違うでしょうが必要ですか・・・」
「あら、不評?」
「いいえ、ユーリ先生の肖像画としては満点だと思います」
「あら、嬉しいわ」
ムフンとユーリは機嫌良く胸を張り、ニコリーネも反応の良さに笑顔を見せる、しかし、
「むー、ユーリじゃないー」
ミナが喚き始め、
「なんどぅわとー」
ユーリが大声で応える、
「おばさんじゃないもん、ユーリじゃないー」
「なっ、ニコリーネさんの芸術が分らんとは、まだまだだなミナー」
「分るー、分るけど、ユーリじゃないー、おばさんじゃないー」
「まだ言うかー」
ミナと同程度に張り合うユーリに、一同はポカンと呆気に取られるが、すぐにいつもの事と視線を落とした、取り敢えずニコリーネの突発的な修行は形になったようである、高々数枚で簡易な肖像画を描くコツを掴むニコリーネも大したものなのであるが、それは彼女自身の地力は勿論、学園長の知恵がしっかりと彼女の中で活かされた事と、側で見守っていたパトリシア達の静かな協力もあっての事であろう、エレインは冷静にこれならお金になるわねとユーリの肖像画を眺め、パトリシアも満足そうな笑みを浮かべている、カトカ達はなるほどと納得し、王妃二人も笑顔であった、
「じゃ、次です、色を乗せる方やります」
勢いよく宣言するニコリーネである、先程迄背を丸めていた人物とは思えない、ニコリーネは勢いそのままにテーブルに画材を広げ始め、
「あら、じゃ、どうしようかしら・・・ミーンさんでしたわね」
パトリシアが次の生贄はと周囲を見渡し、その視線に入ったのが困惑して佇む二人のメイドである、
「ハイッ」
思わずミーンは背筋を伸ばして甲高い声で答えた、パトリシアが何者かは重々承知している、故に直接名前を呼ばれ、あまつさえ微笑みかけられてしまっている、メイドの所作等一瞬で忘れるのも致し方無い事であろう、
「ふふっ、ほら、座りなさい、エレインさん構いませんわね?」
「はい、勿論です、ミーン、こちらの席に」
エレインまでがニコニコとユーリが座していた席を示す、ミーンは軽く眩暈を覚えながらもギクシャクと席に着いた、
「あら、ミーンさんはそっちね」
ソフィアが厨房から戻って来る、
「あっ、御免なさいね、そっちが優先かしら?」
パトリシアが振り返るが、
「いえ、全然です、調理は食材が届いてからで、ティルさん、頼める?」
「はい、勿論です」
ティルは天の助けとソフィアの元へ駆け寄った、ティルにしてもこの食堂で何が行われているのかまるで把握出来ておらず、取り敢えず逃げる口実があればそれが良いとの本能的反射行動である、
「そうね、じゃ」
とソフィアは取り敢えず欲しい物を口にし、ティルは慌てて黒板を取り出して書き付ける、大した内容では無いのであるが、忘れてはならないと必死の形相であった、
「そんな固くならないで、今日はカラアゲにしましょう、だから・・・やっぱり鳥肉ね、それと・・・お野菜はいつもの煮物かしらね、うん、だから、それ用に良い感じにお願い、あと何か美味しそうなものがあったらお願いね」
「はい、わかりました」
ティルはビシッと背筋を伸ばして答えるとそそくさと階段へ向かう、その背を見つめ、
「あら・・・何かあったの?」
不思議そうにしているソフィアに、ミーンは自分も逃げたいですとは言えず、ゾーイはそりゃそうなるよなと思う、だいぶ慣れているエレインでさえその気持ちは重々理解できるのであった。
「なるほど・・・これは面白いですわね・・・」
「・・・オリビアさんも筆まめね、興味深いですわ・・・」
「大したものですわね・・・」
王妃二人とパトリシアを前にしてエレインが背筋を伸ばして青い顔であった、4人の間には大量の木簡が積まれており、それはオリビアがしたためていた書簡である、学園長が機嫌良く事のあらましを口にした為、エレインはオリビアの部屋から木簡を持って来るしかなくなり、こうして針の筵か蛇に睨まれた蛙かと冷たい汗を全身に感じる有様であった、
「それで・・・これをカトカさんが清書したのですか?」
「あっ、はい、その清書といいますか、場合によっては書き換えております」
カトカがヒョイと顔を上げて答える、丁寧な言葉であったが敬語ではない、
「それはそれで面白そうですわねエレインさん・・・」
ジロリとパトリシアがエレインを睨み、エレインは脂汗と冷や汗って同時にかけるものなのねと何とも詮無い事を考えながら、
「はい、その大変ご好評のようでございまして・・・はい・・・」
しどろもどろに答えるしかない、
「ふふっ、そんなに固くならなくていいですわよ、忙しかったのはよーーーーく存じてますからねっ」
ニヤーと優しくも怪しい笑みを浮かべるパトリシアである、
「はいはい、そんなにエレインさんを虐めちゃ駄目ですよー」
ソフィアはのんびりと茶を配り始め、
「もう、ソフィアさんも知っていらしたら教えて頂いても良かったのですわよ」
「そんな事言われてもねー・・・だって、エレインさんとしては好きで公表したわけではないですし、学園長の思い付きとユーリ先生の悪巧みの結晶ですからね、私が喧伝するのは違うと思いますよー」
「悪巧みですか?」
「そうよー、ねー、ユーリセンセー」
「何がー?」
どうやらこの場においてはユーリも敬語を忘れるようである、ユーリはアッと叫んで、
「失礼しました、何がでございましょう、ソフィアさん」
怪しい敬語を操り作り笑いを浮かべるが、その微笑に気付いた者はニコリーネだけである、
「オリビアさんの書簡の事、エレインさんがねー、パトリシア様に報告してなかったんだってー」
「あー、それは良くないでございますわね、エレインさん」
「そんな、ユーリ先生はお味方になって頂かないと・・・」
エレインが泣きそうな顔を向けるが、
「おほほ、ワタクシ、権力には尻尾を振る事にしたんざますのよ」
「そんな・・・」
エレインは絶句し、
「あー、心にも無い事言ってるわね」
「うん、どうでもいいって感じだわね」
「そうなんですか?」
カトカとサビナは呆れ顔となり、ゾーイは片眉を上げ困惑する、
「素晴らしいですわ、ユーリ先生、それでこそですわ」
パトリシアはユーリのおふざけに乗っかった様子で、オッホッホと上品な高笑いが続いた、
「まぁ、そうですね、エレインさんを弁護するとしたら、学園長の施策に私が何とか協力しろと焚き付けたのが原因ですから、悪巧みよりもあれです点数稼ぎ?の方が正しいですね、言うなれば・・・それと、どうしても、その、家族への報告ですから、公にしたくない事も書いてあるようですし、一読する限りはそれほどね、気にはなりませんが、御本人はだって嫌ですよ、他人様にひけらかす事では無いですし、それをだって大事な御友人であるパトリシア様に隠したくなるのは仕方が無いというものです、なにせ領主様のお嬢様にも言ってなかったですしね、ですのでそんなに目くじら立てないで下さいよ、妙齢のお嬢様であれば当然の恥じらいと言うやつです、それに後々書籍にするのが学園長のタクラミなので、そうなれば必然的に公になってしまいます、その時に実は・・・でも、面白かったと思いますしね、ま・・・そんな感じです、それと、学園に掲示されているのは創作部分も多いです、何より、不要な事は削ってます、なので、その原本にあたるそれらの木簡は何気に貴重ですよ、でしょ、カトカ」
ユーリは一転、真面目な口調でエレインを擁護する、完全に自分は棚の上であったが、
「はい、やはり読み物として編集しなければなりませんし、それとどうしても出すべきではない部分も多いです、なので、創作3割・・・といった所ですね」
カトカも真面目に答え、パトリシアはどうやら納得したらしい、
「可愛いわね・・・本当に可愛いわ」
ボソリと呟き溜息を吐く、
「なるほど、しかし、カトカさんも器用な人ね、どうかしら、王城で書記官として仕えない?」
マルルースはエレインではなくカトカに心底感嘆したらしい、エフェリーンも、
「そうね、あの広告掲示板もカトカさんでしょ、あれはあれで大変面白かったですよ」
と自然な褒め言葉である、
「そんな、畏れ多いです、私なんかまだまだですから・・・」
カトカはこれはめんどくさそうだと途端に小さくなる、
「母様、それは駄目ですわ、ユーリ先生からカトカさんを奪ったら、王都が焼野原になりかねません」
パトリシアがニヤリと微笑む、クロノスから寝物語に聞いた二人の実力が真実であれば国の半分を破壊する事も可能らしい、パトリシアは冗談半分としていたが、光柱の件などを勘案するに、寝物語は話し半分として真に受けた方が良いであろうと考えている、
「あらっ、それは困るわね」
「そうね、でも、ユーリ先生も一緒であればいいのではなくて?」
「であれば、ソフィアさんも一緒に・・・」
「それは名案ですわ」
貴人達がほくそ笑むが、
「はいはい、そしたら私は逃げますからー」
ソフィアはソッポを向いて茶をすすり、
「そんなにハッキリ言わなくても」
これにはエレインが困り顔になる、
「まぁ・・・それは駄目ね」
「そうですわね」
「もう、冗談ですわよ」
貴人達はまったくと呆れ顔となる、どうにもソフィアにしろユーリにしろ掴み所が無い、本来であればこの三人を前にして好き勝手できる人物等この王国にはいないと言っても過言では無い、三人にとってはある意味で新鮮な反応なのであるが、周りとしてはたまったものでは無いであろう、カトカ達はこれはまずいかもと緊張し、食堂内は微妙な空気に包まれる、我関せずと自分の世界に埋没しているのはニコリーネと、もうウルジュラの事など視野にも入れずに黒板に向かうミナである、そこへ、
「失礼します」
と階段からミーンとティルが恐る恐ると顔を出す、冷えた雰囲気が乱雑にかき混ぜられた、
「あら、いらっしゃい、あっ、もうそんな時間?」
とソフィアがヒョイと腰を上げる、
「はい、正午ですね、あの・・・大丈夫ですか?」
「何が?」
「何がって・・・その・・・」
王妃二人に王女が一人、さらに元王女がいる場所でいつも通りに気の抜けた感じのソフィアにミーンとティルは何とも困惑するしかない、挙句この大人数が居て妙に静かであったのである、何かあったかもと警戒するのは正しい反応であろう、
「あっ、買い出し・・・あー、行けなかったか・・・じゃ、どうしようかな」
ソフィアはそんな二人を尻目に夕食の支度に悩みだす、
「あら、足りない物は屋敷から持ってくれば良いのよ」
「そうね、王城からでも宜しいですわよ」
エフェリーンとマルルースが何を悩むことがあると顔を向け、その反応にゾーイ達は勿論エレインもホッと安堵した、
「それはだって、申し訳ないですから」
「そう仰らないで、ティルの教育を頼むときにそうして下さいと話した筈ですわよ」
「そうですわ、アフラ・・・あっ、いないのね、ティル、足りない物はそういう事だから、持って来なさい」
マルルースに直接言われ、ティルはハイッと背筋を伸ばす、ソフィアはまったくと一息吐いて、
「じゃ、ごめんね、頼もうかしら・・・今日は・・・どうしようかなー」
とパタパタと厨房へ入る、
「できましたー」
そこでニコリーネがうーんと立ち上がる、
「あら、早いわね」
「そうですね、どんどん早くなってます」
「そうなの?私もう少し大丈夫よ」
ユーリがいいのかしらと首を傾げる、
「はい、分ってきました、こちらですがどうでしょう?」
ニコリーネは自信満々に肖像画をユーリに差し出し、ユーリは腰を上げて受け取ると、
「あら・・・うふ、私こんなに綺麗かしら?」
一目でニヤリと微笑むユーリであった、その笑顔にどれどれと皆腰を上げ、
「ユーリー、見せてー、見せてー」
ミナがバタバタと両手を振り回す、
「うふ、はい、どうぞ、私としては嬉しいかしらね、グフフ」
ユーリは事情を理解している、故にその意図する事も同じく理解している、そして確かにこれであればお金になるかもなと手にした肖像画をテーブルに置いた、すると、
「おおっ、これは完成してますね・・・」
「確かに完成と言えるはね、しっかりしてます」
「うん、ユーリ先生ですね・・・でも・・・」
「ちょっと若いかしらね」
「それも一興ですわよ、学園長も客の理想とする姿を描くのが商売のコツと言ってましたしね」
「商売としては正しいのですね」
「あまり商売に傾倒しても・・・まっ、主旨とは違うでしょうが必要ですか・・・」
「あら、不評?」
「いいえ、ユーリ先生の肖像画としては満点だと思います」
「あら、嬉しいわ」
ムフンとユーリは機嫌良く胸を張り、ニコリーネも反応の良さに笑顔を見せる、しかし、
「むー、ユーリじゃないー」
ミナが喚き始め、
「なんどぅわとー」
ユーリが大声で応える、
「おばさんじゃないもん、ユーリじゃないー」
「なっ、ニコリーネさんの芸術が分らんとは、まだまだだなミナー」
「分るー、分るけど、ユーリじゃないー、おばさんじゃないー」
「まだ言うかー」
ミナと同程度に張り合うユーリに、一同はポカンと呆気に取られるが、すぐにいつもの事と視線を落とした、取り敢えずニコリーネの突発的な修行は形になったようである、高々数枚で簡易な肖像画を描くコツを掴むニコリーネも大したものなのであるが、それは彼女自身の地力は勿論、学園長の知恵がしっかりと彼女の中で活かされた事と、側で見守っていたパトリシア達の静かな協力もあっての事であろう、エレインは冷静にこれならお金になるわねとユーリの肖像画を眺め、パトリシアも満足そうな笑みを浮かべている、カトカ達はなるほどと納得し、王妃二人も笑顔であった、
「じゃ、次です、色を乗せる方やります」
勢いよく宣言するニコリーネである、先程迄背を丸めていた人物とは思えない、ニコリーネは勢いそのままにテーブルに画材を広げ始め、
「あら、じゃ、どうしようかしら・・・ミーンさんでしたわね」
パトリシアが次の生贄はと周囲を見渡し、その視線に入ったのが困惑して佇む二人のメイドである、
「ハイッ」
思わずミーンは背筋を伸ばして甲高い声で答えた、パトリシアが何者かは重々承知している、故に直接名前を呼ばれ、あまつさえ微笑みかけられてしまっている、メイドの所作等一瞬で忘れるのも致し方無い事であろう、
「ふふっ、ほら、座りなさい、エレインさん構いませんわね?」
「はい、勿論です、ミーン、こちらの席に」
エレインまでがニコニコとユーリが座していた席を示す、ミーンは軽く眩暈を覚えながらもギクシャクと席に着いた、
「あら、ミーンさんはそっちね」
ソフィアが厨房から戻って来る、
「あっ、御免なさいね、そっちが優先かしら?」
パトリシアが振り返るが、
「いえ、全然です、調理は食材が届いてからで、ティルさん、頼める?」
「はい、勿論です」
ティルは天の助けとソフィアの元へ駆け寄った、ティルにしてもこの食堂で何が行われているのかまるで把握出来ておらず、取り敢えず逃げる口実があればそれが良いとの本能的反射行動である、
「そうね、じゃ」
とソフィアは取り敢えず欲しい物を口にし、ティルは慌てて黒板を取り出して書き付ける、大した内容では無いのであるが、忘れてはならないと必死の形相であった、
「そんな固くならないで、今日はカラアゲにしましょう、だから・・・やっぱり鳥肉ね、それと・・・お野菜はいつもの煮物かしらね、うん、だから、それ用に良い感じにお願い、あと何か美味しそうなものがあったらお願いね」
「はい、わかりました」
ティルはビシッと背筋を伸ばして答えるとそそくさと階段へ向かう、その背を見つめ、
「あら・・・何かあったの?」
不思議そうにしているソフィアに、ミーンは自分も逃げたいですとは言えず、ゾーイはそりゃそうなるよなと思う、だいぶ慣れているエレインでさえその気持ちは重々理解できるのであった。
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彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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