セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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60話 光と影の季節 その14

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リンドはすぐに戻って来た、ティルが食材を取りに屋敷に戻っていたらしく、二人はティルに任せたとの事である、タロウは転送陣を使いこなしているなーとのほほんとチーズケーキを口中に押し込むと茶を呷って流し込み、

「じゃ、次だ」

と胸元へ腕を突っ込み、これまた長い巻物を取り出した、

「今度はなんだ?」

クロノスがジトリと巻物を睨む、

「まぁ、ゆっくり行こう、邪魔する者もおらんしな」

タロウはテーブル上の地図を丸めて、リンドに手渡す、

「いいのか?」

クロノスが一応と確認すると、

「構わんよ、それを使って攻め込んだとしても俺は文句を言う事は無い、賛同はしないし協力もしないがな、そこまで阿呆だとは思ってない」

大変に失礼な事を口にして新たな巻物を開いた、

「これも地図か・・・おい、これは・・・」

開かれた巻物を一目見て、クロノスら四人は絶句し、書記官も目を見開いて手が止まっている、

「うん、こっちのが重要だろ?王国とその周辺の地図だな」

その新たな巻物には先ほどと同様に入り組んだ巨大な大陸と逆三角で記された山、細い二本の線で川が書き込まれている、

「この線は街道か・・・」

「そうだな」

「この斜線はなんですか?」

「森だよ、巨大な森林地帯と思ってくれ」

「この太い線は?」

「国境だな、但しこれはあいまいだよな、恐らくこんなもんだろうと思って引いた線だよ、国と国との間を見やすくしているつもりだ」

「待て、これが王国か?」

イフナースの差した部分には王国語で王都と記されている、

「そうですね、そこが王都、ここが北ヘルデル、ここの街がこれかな、町の名は書いてない、詳しく無かったもんでね」

タロウは丸で記した箇所を指し示す、王都と北ヘルデル、ヘルデルの都市名は記入があるが他の都市には地名は書かれていない、

「まて、どこまで正確なんだこれは?」

「どこまでって・・・そう聞かれると困るな、球体を平面にするには様々な手法があってだな」

「球体?」

「あー、ま、正確性を問われれば少し難はある、が、この程度の広さであれば許容範囲だろう」

タロウは適当に誤魔化すことにした、タロウが知る限りこの星が球体である事を認知している者はこの王国では存在しない、他国であればそれを証明した研究者もいたそうである、

「まぁいい、これは使えるのか?」

「どういう意味で?」

「信じてよいのかと聞いている」

クロノスは熱を帯びた声音となる、聞く者が聞けばなにを怒鳴っているのかと背筋を寒くするほどであろう、

「それはそちらに任せるよ、少なくとも俺は使えると思って作ったんだ、疑うなら・・・そうだな、せめて自分の国くらいは測量した方がいいだろうな」

「測量ですか?」

「うん、ま、それも含めての話しになるんだが・・・」

タロウは四人から集まる様々な感情の入り混じった視線を受けながら、さてどう話しを進めるかと首を捻る、

「じゃ、近いところだな」

と地図を指し示すと、

「まず、この右上の大きな国が王国だな、中央のやや下、東側に王都がある、これは実感できるか?」

と顔を上げてクロノスとイフナースへ視線を向ける、二人は応えることなく地図を見下ろすばかりであったが、

「はい、正しいと思われます」

ブレフトが代わって答えた、

「良かった、そこから街を二つ挟んでこの街、その北西にヘルデル、その北が北ヘルデル、合ってるかな?」

「合ってるな」

「それは間違っていないだろう」

「うん、これだけでこの地図を信じろとは言わないが、後でじっくりと精査してくれ、次に見るのはここ」

王国の南側を差すと、

「ここが内海、これも国によって呼び名が変わっているが、仮にそうだな、おれの知ってる名前を当てさせて貰えば地中海かな?そう呼ばせてくれ、この西側と東側から大洋に通じていて、そこは海峡となっている、かなり狭いな」

「これは聞いております」

ブレフトが理解を示す、

「ありがたい、で、その地中海の北側に並んでいるのが都市国家?でいいのかな、王国とは同盟関係と聞いているが正しいか?」

「確かに、同盟関係ではありますね」

「うん、見事に王国側は地中海に接していないんだよな、それはそれとして、この地中海には大きな島が幾つか、それを挟んで反対側、ここにも大小さまざまな国があるな」

「はい、確かに」

「ん、でだ、緊急の問題となるのがこの東側にある巨大な国だ」

タロウは地中海に面した巨大な枠を指さす、国境を表す太い実線が地図の三分の一程度を埋めている、

「これが国なのか?」

「ブレフト、聞いているか?」

「はい、都市国家からの情報ですと帝国と呼ばれる国かと思います、都市国家とは交易関係にありまして・・・しかし、これほど巨大とは・・・都市国家からは東側の大国で良い商売相手であるとは聞いておりますが・・・」

ブレフトも首を捻らざるを得ないようであった、王国でも地図は作成されているが他国の地図を見るのは初めての事である、それは同盟関係にある都市国家のものでも同様で、王国に比べ小さいとは思っていたがこれ程に小さいのかと目を見張り、それ以上に内海の大きさや内海を挟んだ先の土地、そして帝国と名ばかりは聞いている国家の存在と、この一枚の地図から得られる知見は想像を絶するものであった、

「そうですか・・・刺激が強すぎましたかね・・・」

タロウは少しばかり早まったかなと後悔する、王国の中枢に関わるようになったクロノスであればこの程度の情報は得ているものと思っていた、それは買い被りであったようである、

「いや、大丈夫だ」

クロノスは難しい顔で地図を睨みつけている、とても大丈夫とは思えない顔であった、

「そうか?まぁいい、でだ」

タロウはさて本題かなと一呼吸置くと、

「ここ、帝国の北の端、ここが帝国曰く呪いの地らしい、帝国人はそう呼んでいた」

「ん?すぐ近くではないか?」

「確かに、目と鼻の先になりますね」

「そうなります、この丸い円が湖となっておりまして、この周辺が荒れ地ですね、人は住めない土地、無理すれば住める土地と俺は見ましたが、そういう土地です」

「まて、これは先日見てきたぞ」

「そうなんですか?」

「うん、こっちでは荒野と呼んでいる、モニケンダムのすぐ隣だ」

「でしょうね、だから、俺も急いだんですよ」

タロウはこれは話しが早そうだと再び地図を示すと、

「帝国ですが、ここの一番上は皇帝と呼ばれているんですが、その皇帝が代替わりしましてね、数年前ですが、で、若い皇帝なもんで、それからの数年は政争に明け暮れていたそうです、政治闘争ですね、皇帝位を盤石にする為の・・・まぁ、親類殺し、権力者の懐柔等々です、それはまぁそれでいいんですが、それとは別で民衆向けの人気取りが必要なんですな、それは端的に言えば武力を示すこと、それだけです、民衆向けの力の誇示だと考えて下さい、しかし、なんとも幸運な事に現状帝国に面と向かって歯向かっている国がありませんで、あったとしてもこの地図には書いてない山を挟んだ東側の大国との関係程度でして、そっちに手を出すのも考えたらしいですが、時間が係るのが明白・・・と判断したらしいです、そこで、手っ取り早く結果を示せる問題として目を付けたのがこの呪いの地です、ここには元々帝国の街がありまして、さらに、その隣り、まさにこのモニケンダムと、その隣り、何と言いましたか?」

「アルメレか?」

「悪い、聞かれても困る、まるで分らん」

「アルメレで正しいです」

リンドが口を挟み、ブレフトが頷く、

「そうですか、そのアルメレまでが帝国領であったとして奪還するとの号令を掛けました」

「なに?」

「そうなのか?」

「いや、交流も無い国に軍を送るのか?」

「正気なのか?」

四人は信じられんとタロウを睨む、青天の霹靂とはこのことであろう、今知ったような国から宣戦布告も無しに侵略されるとの情報である、まるで現実感が伴わない、

「そこですね、俺もね、どこまで本気なのかと不思議に思って探って来ました」

タロウは懐に手を差し込んで厚い書を引っ張り出す、

「これが王国の調査書類です、帝国の中枢から盗んで来ました」

「なに?」

再び驚きの声を上げる四人である、

「で、これと合わせて、もう一つの証拠がこれ」

タロウはさらに革袋を取り出す、

「これは?」

クロノスが問うと、

「半年前にさ、白い黒糖がどうのと言ってただろう?」

「あ、あぁ・・・話したかな?」

クロノスはそんな事もあったかなと首を傾げる、

「これがそれだな、舐めてみろ、旨いぞ」

タロウはその革袋を開けて中身を見せつつ少量を摘まんで口に入れる、クロノスはまた白い粉かと訝しく思いながらもその勧めに従って指先にチョンと付けて口に運んだ、途端、

「なっ・・・甘い、いや、甘いだけだが、なんだ、こりゃ、他の味がしない・・・」

「凄いだろ?」

ニヤリと微笑むタロウである、イフナースもリンドもその好奇心に負けて手を伸ばし、口に運んだ瞬間に驚きの声を上げた、

「で、この報告書に記載があるんだが、これを売って現地の資金を得たらしい、大したもんだよな、金や銀だと話しが早いが面倒に巻き込まれる、他の貴金属でも同様、対してこの白砂糖やら食い物であれば必要以上に怪しまれないし、食べてしまえば無くなる、これ程に上質であれば相手を選べば高額で売りつけられる、よく考えられているよ」

「・・・そこまでか・・・」

「信じられん」

「考えすぎじゃないか?」

四人はタロウの言葉をまるで信じられずに顔を見合わせた、

「だろうね、でも、これが真実、実際にこの白砂糖の噂があったんだろう?」

「それは確かに・・・」

クロノスが何とも渋い顔で頷き、リンドもコクコクと頷き同意を示す、

「うん、ま、流石の帝国人も噂はどうしようもないだろうからな、それでもほら、金やら銀やらよりもこの砂糖であればそういう物もあるかもしらんとなって、で、その内そんな噂は消えてなくなるし、実際に誰も敵国の諜報だとは思わない、珍しい行商人が遠くから来た程度の認識だったんじゃないかな?で、この調査書だ、帝国語を読めればいいんだろうが、まぁー詳しく書かれているぞ、帝国の昔の名前で書かれているが、モニケンダムとアルメレ?、ヘルデルから北ヘルデル、王都に関しても書かれているな、採れる作物から大雑把な人口、生活様式、簡易的な地図も付されている、それと勿論だが軍の構成とその装備だな、魔族軍との戦闘に関しても書かれているな、それは噂程度だが・・・大した情報だよ」

「そんなにか?」

「おう、ただ一つだけ、詳しくないのがある」

「なんだ?」

「魔法だよ」

えっ、と不思議そうな四人の顔がタロウを見つめた。
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