セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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60話 光と影の季節 その19

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正午を回ってミーンとティルがいつものように顔を出す、すると、

「今日は実験するわよー」

ソフィアはいつも通りに二人を迎えるがその口から出た言葉は相も変わらず頓狂なものである、

「実験ですか?」

二人は同時に首を傾げた、

「そうよ、タロウさーん、助手が来たわよー」

ソフィアは厨房に首を突っ込む、

「おう、待ってたぞー」

「待ってたー」

「速く、支度せい」

厨房から何ともやる気に満ちたミナとレインの声もする、ミーンとティルはどういうことかと慌てて厨房に入ると、

「えっとね、えっとね、タロウがねジッケンするんだってー」

二人に駆け寄って飛び跳ねるミナである、見ればミナもレインも前掛けをつけて準備万端であった、

「・・・実験ですか?」

「そうだよ、俺も初めて作るからさ、まさに実験だ、上手くいったら面白いんだが、上手くいかなくても次があるしな、ま、やってみよう」

タロウが作業台に並べられた品々を見下ろして、ではどうやろうかと段取りを考える、

「えっと・・・」

二人は不安そうにソフィアへ振り返る、ソフィアは、

「そんな顔しないの、私もねー、タロウさんに料理を教えてもらってた時はそんな感じだったけど、なんのかんの言っても何とかなってるから、大丈夫よ、失敗したとしても食材が無駄になるだけだから・・・それが一番問題なんだけどねー」

ソフィアは呆れたように微笑んでタロウを睨む、

「何を言う、旨い物は一朝一夕で得らるものではないのだよ、ソフィア君、何事もやってみる、これ大事」

「大事ー」

「確かにな」

ミナがピョンピョン飛び跳ね、レインも何故かうんうんと納得している、

「まったく、そういう事だから、今日は先にそっちを手伝ってあげて、大した手間では無いみたいなんだけど、時間はかかるらしいわね」

「そうだな、出来上がるのは夕飯の後・・・もしくは明日かなー」

「そうなの?」

「そうだぞー、上手く出来たらびっくりするぞー」

「分かったー、ミナ、頑張るー」

「よし、その意気だ、じゃ、まずは・・・」

タロウは小麦粉を手にする、ミーンとティルからすれば当たり前の食材であり、シロメンでも作るのかしらと思い、それなら習ったはずと一瞬前向きになるが、

「ミーンさんか、こいつで麦がゆを作ってくれるか?あっ、味は付けなくていいぞ」

ニヤリとタロウは顔を上げる、麦がゆであれば簡単どころか水で煮るだけである、若干肩透かしを食った感のあるミーンは思わずハァと気の抜けた返事をしてしまい、慌ててハイと言い換えて小麦粉を受け取った、しかし、小麦粉で麦がゆと改めて首を捻る、

「で、ティルさんは記録を頼む」

「記録ですか?」

「うん、分量を大雑把でも記録しておいた方がいいな、なにしろ初めて作るから」

さらにニヤリと微笑むタロウにティルも思わずハァと気の抜けた吐息を返す、しかし、ソフィアの料理の師であるという言葉を思い出し、これは気合を入れ直さねばと慌てて黒板を取り出した、

「ん、じゃ、ミナはどうしようかな・・・カブを切ってー、絞るぞー」

「カブ?」

「カブか?」

「うんカブだよー」

タロウがカブを手にしてニヤリと微笑む、ミナは嬉しそうにカブを受け取るが、レインはん?と当てが外れたかなと首を傾げた、

「なんだ、レイン、分かんない?」

「何を言う、皆まで言うな、知っておる」

「ホントかー」

ニヤニヤと意地悪そうに微笑むタロウをレインはムッと睨みつけ、

「ふん、絞るのだろ、ミナやるぞ」

「やるー、えっと、えっと、ナイフー」

「おう気を付けるんだぞー」

「わかってるー」

ミナとレインがまな板に向かうと、

「じゃ、こっちは・・・」

とタロウは市場で買い込んできた豆類を手にするのであった。



ユーリが学園長とエーリク、それから面白そうだと首を突っ込んだ事務長を連れて寮に入ると、

「これでいいの?」

「いいぞ、後は夕飯の後まで温かくしておく」

「あの、これであってます?」

「あってると思う」

「・・・随分簡単ですけど・・・」

「そうなんだよ、但し上手くいくかはわからん」

「今度は何ですか?」

「美味しい物だってー」

「これだけで?」

「どうなるんですか?」

「それはもう少ししてからだってー」

「楽しみじゃのう」

「何だ、レインは知っているのか?」

「知らんが、酒だろ?」

「違うぞー」

「違うのか?」

「違うんだよなー、ふふん」

「なんじゃ、不愉快な奴め」

「へへん、上手くいったらびっくりするぞー」

「ムー」

食堂では一つの鍋を囲んでキャッキャッと騒々しい、どうやらタロウが中心になっており、その周りを帰寮して荷物を持ったままの女生徒達とメイドが取り囲んでいる、ソフィアも少し離れて楽しそうに眺めている様子であった、

「あー、学園長連れて来たわよー」

ユーリは何を戯れているのかと目を細める、たかが二日三日で随分とタロウは受け入れられたように見える、こんなに社交的な人だったかしらとユーリは首を傾げるが、昨日の白砂糖の件もある、ミナの機嫌をとる為かと現金なものだと微笑ましく見ていたのであるが、その手法はミナのみならず他の女生徒にも効果的であったようだ、どうにもこの寮に関わると夫婦共同で胃袋を掴まれるという罠が発動するらしい、自分もまたそれを狙ってソフィアを連れて来た面もある為、他人事ではないのであるが、

「おっ、ほらお客さんだ、毛布とってくれ」

「はいどうぞ」

ミーンに手渡された毛布でタロウはその鍋を丸っと包む、ユーリはおろか他の面々も何の儀式かと顔を顰めた、

「これが大事なんだよ、ま、夕食の後あたりには変わってると思うんだけどねー」

タロウは女性達の注目を集める鍋を壁際のテーブルに避けると、

「ん、こんなもんかな、ソフィア、お二人は返すよ」

「はいはい、じゃ、ミーンさんとティルさんは夕飯のお手伝いお願いねー」

「あっ、はい」

と二人はそそくさと厨房へ入る、そこへ、

「おう、なんじゃ、集まっておるのか?」

学園長がぬっと顔を出し、

「あー、学園長先生だー」

ミナがダダッと駆け寄る、

「おう、ミナちゃん、どうした?なんぞやっておったのか?」

「うん、タロウとジッケンしたのー、美味しいものができるのよー」

「美味しいもの?」

「うん、楽しみー」

満面の笑みを浮かべるミナを見下ろし、学園長は首を傾げる、そして、

「これは素晴らしいな、そうか、土足を止めれば家の中は汚れないのか」

「そのようですな、しかし、毎回足を洗うのが手間に感じます」

「いや、建物の劣化を防ぐ意味でも有効かもしれんぞ、この布の履物も良い感じだ、軽くて気持ちが良い」

「では、学園でも採用しますか?」

「それも良いと思うが・・・少し大がかりだな・・・」

「確かに」

事務長ともう一人、四角い顔で白髪交じりの中年男性が入ってくる、

「エーリク先生、事務長先生もいらっしゃいませ」

グルジアがパッと二人に駆け寄った、

「おう、グルジアさん、お邪魔するよ、あら、他の生徒もどうした事だ?」

中年男性はエーリク・フォント、学園の建築科の教師であり、グルジアの担任、ブラスの恩師その人である、

「今帰った所なんです、さ、どうぞ」

事情を聞いているグルジアが取り合えずと率先して二人を招き入れた、

「ん、じゃ、ブラスさん呼んできますね、それと、リノルトさんも来てますんで同席させて良いですか?」

タロウが学園長へと確認する、午前中に挨拶を済ませている為特に遠慮する事も無い、挙句学園長はタロウの服装に興味を引かれたらしい、質問攻めにしようとした瞬間にユーリに遮られ不満顔での別れであった、

「リノルト?」

「はい、フローケル鍛冶屋さん?の息子さん?職人さん?彼も学園出身だったと聞きました、さっき」

「ほう、そうか、うん、タロウさんが良ければ儂は構わんぞ」

「はい、ではそのように」

タロウは厨房から内庭へ向かう、正午を過ぎたあたりにリノルトも荷車を引いて寮に来ていた、昨日タロウが依頼した曲がりくねった管を数本早速と試作しており、さらに便器として作っていた銅製のオマルも持参している、ブラスがどうせだから全部見て貰おうと言い出した為である、リノルトとしても初めて作った代物である、設置した後で問題が発生するよりは先に修正した方が早いと乗り気であった、タロウが二人を伴って食堂に戻ると、

「エーリク先生、御無沙汰しております」

ブラスは早速といつになく緊張した顔で頭を下げ、リノルトも、

「すいません、俺、いや、私も同席させてもらいます」

丁寧に三人へ頭を下げた、

「おっ、確かに見た顔だな・・・」

「工学科じゃな、確か妹さんも通っておっただろう」

「はい、その妹はこれの嫁さんです」

「ほう、そうだったのか」

「あー、ブノワトさんの兄弟か、覚えておるぞ、顔を見たら思い出した、名前だけだと似たようなのが多くてなー、いや、どうだ、元気にやっておるか?」

急に所帯染みた会話が交わされ、緊張していたブラスもリノルトも幾分か肩の力を抜いたようであった。
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