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本編
63話 荒野の果てには その3
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「リンドはどうだ?」
クロノスが次に腹心へ発言を求める、リンドは少し悩むと、
「はい、私も取り合えずはタロウ殿の意見に賛同致します」
と静かに答え、
「理由としましては、ルーツ殿の意見が尤もである事と、勘ですね」
と続けた、
「勘?」
「はい、ルーツ殿の観察に付け加えるとすればこの気候でしょうか、北ヘルデルは既に冬です、ヘルデルもだいぶ寒くなっているとの事でしたが、こちらはモニケンダムとほぼ同じ程度に暖かい・・・暖かいは言い過ぎですがね、少なくとも寒いと悲鳴を上げる程ではありません、少々風が強いと思いますが・・・」
「それだけか?」
「現状では、できればその要塞内を見学したいと思いますが、難しいでしょうな」
リンドがニコリとタロウを伺う、
「そうですね、私としてもそれが一番手っ取り早いとも思ったのですが・・・流石に言葉も通じない商人が自由に出入りできる所では無いですね」
「待て、ではお前はどうやって中を見て来たのだ?」
メインデルトが食って掛かる、
「・・・そうですね、幾らでもやりようはあるもので・・・その辺は俺よりもルーツの方が得意ですよ」
と何故かルーツに押し付けた、
「おいおい、それを俺に教えたのはお前だろうが」
これにはルーツも非難せざるを得ない、
「そうか?まぁ、そういう感じでやりようはあると、御味方とは言え手の内は隠すものです」
ニコリとタロウは微笑むも、メインデルトとエメリンスはいよいよ怪しいと眉を顰める、
「タロウ、物言いには気を付けてくれ、メインデルトもエメリンスも国の重鎮だ、からかう様な口を使うな」
クロノスが抑えに回り、タロウはそうですね失礼しましたと再びニコリと笑顔で会釈する、
「・・・まったく・・・お前は把握しているんだろうな」
メインデルトがクロノスを睨む、
「それはある程度、かつてはタロウとルーツのその技術でもって魔王の居場所を特定して討ち取ることが出来たのです、戦場に於いては特に有効で、平時であっても有効ですよ、はっきり言いますがルーツのお陰でヘルデルやモニケンダム、マーメールの各都市からの情報が逐次入っております、軍団長も目にしていると思いますが」
「なに・・・そうか、あの定期連絡はお前の仕事か・・・」
今度はルーツを睨むメインデルトである、
「へへ、有効活用頂ければ幸い、今のところは表立った動きはありませんがね」
ルーツがニヤリと微笑む、マーメールとは地方名である、ヘルデルと同じようにかつては王国と正面切って争いその傘下に落ちた地方であった、ヘルデルとの違いはかつての支配者が公爵に任じられる事無く一族郎党処刑された事であろうか、以後その地は表面上は王国の都市として安定した統治下にあるのであるが、独立の機運が高くそれは為政者よりも平民に顕著であった、
「そういう事か、これがお前の言っていたカゲとか言うやつか?」
「いや、これはまだ情報を集めているだけの枝葉・・・のようなものでね、まぁ、貴方には話しても良いかと思うが・・・」
とクロノスは一瞬悩み、
「うん・・・その情報にしろ、その収集手法にしろ、それをどう活かすかにしろ、それを教えてくれたのがタロウなんですよ」
「ナニ?」
メインデルトとエメリンスがタロウを睨みつける、タロウは何もここで話すことではないだろうと、口をへの字に曲げた、
「ですので、カゲに関してはまだこれからなんですが、情報の重要性に関しては各軍団長皆に重要視されていると思います、いや、そうなっていると思っておりますが・・・そうなって欲しい・・・かな?まっ、取り合えず今後考えるべきはその取り扱いと、どこまで何をどうするか、そして、どう活かすか・・・でね、これは陛下とも時折話しておりますし、ルーツ個人に頼るべきではないとも思いますので、難しい所です」
「大将、それを俺が居る前で言うのかよ」
ルーツがニヤリと微笑む、
「何度も言っているだろう、だから、ヒデオンにしろモーゼスにしろ有能な奴を任せているのだ」
「それはそうだがよ、結局ほれ・・・」
「ここでする話しではないですな」
ルーツの言葉を遮りリンドが柔らかく二人を諫めた、確かにとクロノスとルーツは押し黙る、しかしメインデルトとエメリンスは納得していない様子であった、
「この話しは別の席でゆっくりと、陛下も御存知の上での事であります、王国に仇なすものでは無い事だけは御理解下さい」
リンドがメインデルトとエメリンスに諭すように告げる、二人も陛下の名を出されては黙るしかなく、まして、リンドも把握しているのであればクロノスの暴走によるもので無い事は理解できた、
「分った・・・しかし、説明はあるのであろうな」
「はい、いずれは公になるかと、しかし、そうすることで混乱する事も考えられます、なので当分は知るべき者は限られる事を御理解下さい」
リンドの冷静な言葉にメインデルトは頷くしかなかった、
「では、ここはこんなものかな?」
クロノスが収まったようだと周囲を改めて見渡す、
「皆さんが良ければ、この高台を見つけるのも一苦労だったのですよ、中々に素晴らしい景観でしょ」
タロウがやれやれと要塞へ視線を移す、実際にタロウは昨晩要塞を一望出来る場所を探して暗闇の中をウロウロと散策したのだ、転送陣を設置した巨大な岩塊を見つけた時はこれだと歓喜し、眺望も素晴らしいこの場所はまさに景勝地と呼ぶにふさわしいと自画自賛していたりもする、
「何を呑気に」
「そりゃだって、折角ここまで足を運んでもらったんだぞ、楽しまないとさ」
「遊びじゃないんだぞ」
「半分遊びだよ、少なくとも今の俺達は仕事半分観光半分の商人一行だ、紛れる為にも楽しまないとな」
「違いねぇ」
ルーツがアッハッハと笑い、クロノスは笑いごとかと叱責する、その三人独特のやり取りにメインデルト達は何とも困った顔にならざるを得なかった。
「ここがノーバ・バネフィシア、訳すと新たな祝福の街となるのかなと思います」
要塞から一度屋敷に戻ると一行はすぐさま次の転送陣を潜った、その先は荒野の果てに建設された街である、
「いよいよですなー」
学園長が楽しそうに微笑む、転送陣は街外れのボロ屋の納戸に設置されたらしく、大柄な者はやや窮屈な思いをして潜り抜けたのであるが、転送陣を隠し、怪しい一団が出入りする事を考えればその場所は大変に有効であると誰もが感じる、
「そうですね、では歩きながら説明致します」
タロウはまずはと街の中心部へ向う事とした、
「モニケンダムよりも、アルメレに近い感じかな?」
「そうですね、モニケンダムは農業が盛んであると聞いていますが、こちらはそれほどではないです、盛んになるとしてもこれからだと思います、森にしろ野原にしろ開墾が必要でしょう」
「その辺は兵士の力を借りないのか?」
「どうでしょう、この街も先程の要塞と同じで若い街です、その上、皇帝が作った街でもありまして、退役軍人を中心にして入植させたとも聞いております、なので、本当の意味でこれからの街なのだと思います、それこそモニケンダムに攻め入った後でも、王国との戦争が激しくなった後でも、この街は最前線として重要な拠点になるでしょう、なので、為政者としても力の入れ所を探っている状態だと思いますね」
「確かに、あまり前向きに捉えたくはないが、冷静に見れば要塞との中継点だからな、何をするにも重要な都市となるであろうな」
「そうなんです」
主にタロウと学園長があーだこーだと楽しそうに話し、他の面々はその会話を耳に入れながらキョロキョロと周囲を見渡して歩いていく、その街は街がいきなり存在し、その周囲に広がるべき田畑や牧場等が極端に少ないように見えた、これはタロウの説明そのままであり、今後開発されていくのであろうとクロノス達はボンヤリと考えてしまう、荒野とは違って森も雑草の茂る丘も見える、しっかりと開墾すれば良い畑になるであろう、それでも若干の農家らしい建物群はあり、一同が出て来たボロ屋を含めた一角から抜け出ると歩行者と荷車が行き交う街道に当たった、
「で、まずは、これが街道です、先ほどは遠目に見ましたが、何と言ったかな、36番シェザー街道ですね、確か」
タロウが若干うろ覚えでその街道を指差す、
「これは広いな・・・」
「確かに」
「作りも頑丈そうですね」
「うむ、それに、なんだ、人が歩く場所を分けているのか?街中でも無いのに?」
「そのようですな・・・素晴らしい」
一同はその広さに目をむいた、王国で敷設される街道の倍ほどもあり、馬車であれば四台は並んで走れる程に広い、さらに、歩行者用の通路が両端に設置されているようで、街道を歩く者と馬車とが完全に別れて通行している様子であった、王国においては王都であってもこれほどに広い街路は敷設されていない、
「名前の由来ですが、シェザーとは皇帝の意味になります、正確には皇帝とはシェザールとかシェザーレとか呼ぶんですが、こういった品名や街道名等に皇帝の名を冠する時はシェザーと短縮して使うようです」
「ほう、それは面白い」
「そうですね、で、36番目の皇帝が敷設した街路という意味になりまして、帝国では街路には出資者の名前を冠するのが普通なのですが、こういった辺境の街路には金を出す者がいなかったのでしょうね、そうすると発注者である皇帝の名が冠されます」
「ほうほう、するとあれか36本も辺境に向けて皇帝が金を出したという事か」
「そう考えて間違いは無いです、実際、帝都周辺や大きな街に繋がる街路はほぼ全て有力貴族とか高名な金持ちの名が付いてます、ま、いろいろと事情があると思いますが、それは歴史家の仕事なのでしょうね」
「じゃろうのう、いや、興味深い、実に興味深い」
学園長は満面の笑みで小躍りするように街道に足を踏み入れた、実に楽しそうである、
「しかし、ここまで広くする必要があるのか?」
クロノスが当然の疑問を口にする、
「広ければ広いだけ便利だろ」
ルーツが真っ直ぐに伸びる街路を眺めて感心している、実際にその街路は長くどこまでも直線で続いており、街の端から外を見る限り果てが無いようにすら感じる、
「だろうがさ、手間も金もかかるんだぞ」
「確かにな」
クロノスとメインデルトが渋い顔となる、王国で街道の敷設となると大仕事であった、兵を動かすだけで済めば良いが実際は資材の搬入から拠点の移動、それに伴う糧食の確保等々、軍団長としては何とも地味でめんどくさいだけの仕事なのである、
「そうですね、ですから出資者を募るのですよ、せめて金策だけでも楽になります」
「それだ、それでその出資者は何を得るのだ?」
「その名が永遠に残ります、恐らくですが帝国が滅びたとしても街道は残ります、こんな便利なもの壊す必要が無いですからね、そうなると恐らくそのままの名が使われるでしょう」
「それはまた・・・」
「そうなのかもしれんが・・・」
クロノスもメインデルトもその理屈にはそれで良いのかとしかめっ面になる、
「ま、あれです、それは副次的な効果でしてね、やはりあれです、街道に自分の名前や家門の名前、一族の名前とかが付けば誇らしいですし、領民としても嬉しいのではないですか?それとその経路についても口出し出来るでしょう、もう少し伸ばせとか、こっちの村を通せとか、地方としては街道のあるなしで流通が大きく変わりますからね、そういう意味で領地の活性化にもなります、もし商売をしているのであれば宣伝にもなります、なので、なんとか商会街道なんてのもありますよ、あくまで王国風に言うのであればですが」
「・・・なるほど、宣伝か・・・」
「なんとも・・・逞しい」
「まったくですな」
為政者達はフルフルと頭を振り、ルーツはそういうもんかと鼻で笑う、学園長は、
「いや、それこそ利と実を取る見事な策じゃ」
と楽しそうにはしゃぐのであった。
クロノスが次に腹心へ発言を求める、リンドは少し悩むと、
「はい、私も取り合えずはタロウ殿の意見に賛同致します」
と静かに答え、
「理由としましては、ルーツ殿の意見が尤もである事と、勘ですね」
と続けた、
「勘?」
「はい、ルーツ殿の観察に付け加えるとすればこの気候でしょうか、北ヘルデルは既に冬です、ヘルデルもだいぶ寒くなっているとの事でしたが、こちらはモニケンダムとほぼ同じ程度に暖かい・・・暖かいは言い過ぎですがね、少なくとも寒いと悲鳴を上げる程ではありません、少々風が強いと思いますが・・・」
「それだけか?」
「現状では、できればその要塞内を見学したいと思いますが、難しいでしょうな」
リンドがニコリとタロウを伺う、
「そうですね、私としてもそれが一番手っ取り早いとも思ったのですが・・・流石に言葉も通じない商人が自由に出入りできる所では無いですね」
「待て、ではお前はどうやって中を見て来たのだ?」
メインデルトが食って掛かる、
「・・・そうですね、幾らでもやりようはあるもので・・・その辺は俺よりもルーツの方が得意ですよ」
と何故かルーツに押し付けた、
「おいおい、それを俺に教えたのはお前だろうが」
これにはルーツも非難せざるを得ない、
「そうか?まぁ、そういう感じでやりようはあると、御味方とは言え手の内は隠すものです」
ニコリとタロウは微笑むも、メインデルトとエメリンスはいよいよ怪しいと眉を顰める、
「タロウ、物言いには気を付けてくれ、メインデルトもエメリンスも国の重鎮だ、からかう様な口を使うな」
クロノスが抑えに回り、タロウはそうですね失礼しましたと再びニコリと笑顔で会釈する、
「・・・まったく・・・お前は把握しているんだろうな」
メインデルトがクロノスを睨む、
「それはある程度、かつてはタロウとルーツのその技術でもって魔王の居場所を特定して討ち取ることが出来たのです、戦場に於いては特に有効で、平時であっても有効ですよ、はっきり言いますがルーツのお陰でヘルデルやモニケンダム、マーメールの各都市からの情報が逐次入っております、軍団長も目にしていると思いますが」
「なに・・・そうか、あの定期連絡はお前の仕事か・・・」
今度はルーツを睨むメインデルトである、
「へへ、有効活用頂ければ幸い、今のところは表立った動きはありませんがね」
ルーツがニヤリと微笑む、マーメールとは地方名である、ヘルデルと同じようにかつては王国と正面切って争いその傘下に落ちた地方であった、ヘルデルとの違いはかつての支配者が公爵に任じられる事無く一族郎党処刑された事であろうか、以後その地は表面上は王国の都市として安定した統治下にあるのであるが、独立の機運が高くそれは為政者よりも平民に顕著であった、
「そういう事か、これがお前の言っていたカゲとか言うやつか?」
「いや、これはまだ情報を集めているだけの枝葉・・・のようなものでね、まぁ、貴方には話しても良いかと思うが・・・」
とクロノスは一瞬悩み、
「うん・・・その情報にしろ、その収集手法にしろ、それをどう活かすかにしろ、それを教えてくれたのがタロウなんですよ」
「ナニ?」
メインデルトとエメリンスがタロウを睨みつける、タロウは何もここで話すことではないだろうと、口をへの字に曲げた、
「ですので、カゲに関してはまだこれからなんですが、情報の重要性に関しては各軍団長皆に重要視されていると思います、いや、そうなっていると思っておりますが・・・そうなって欲しい・・・かな?まっ、取り合えず今後考えるべきはその取り扱いと、どこまで何をどうするか、そして、どう活かすか・・・でね、これは陛下とも時折話しておりますし、ルーツ個人に頼るべきではないとも思いますので、難しい所です」
「大将、それを俺が居る前で言うのかよ」
ルーツがニヤリと微笑む、
「何度も言っているだろう、だから、ヒデオンにしろモーゼスにしろ有能な奴を任せているのだ」
「それはそうだがよ、結局ほれ・・・」
「ここでする話しではないですな」
ルーツの言葉を遮りリンドが柔らかく二人を諫めた、確かにとクロノスとルーツは押し黙る、しかしメインデルトとエメリンスは納得していない様子であった、
「この話しは別の席でゆっくりと、陛下も御存知の上での事であります、王国に仇なすものでは無い事だけは御理解下さい」
リンドがメインデルトとエメリンスに諭すように告げる、二人も陛下の名を出されては黙るしかなく、まして、リンドも把握しているのであればクロノスの暴走によるもので無い事は理解できた、
「分った・・・しかし、説明はあるのであろうな」
「はい、いずれは公になるかと、しかし、そうすることで混乱する事も考えられます、なので当分は知るべき者は限られる事を御理解下さい」
リンドの冷静な言葉にメインデルトは頷くしかなかった、
「では、ここはこんなものかな?」
クロノスが収まったようだと周囲を改めて見渡す、
「皆さんが良ければ、この高台を見つけるのも一苦労だったのですよ、中々に素晴らしい景観でしょ」
タロウがやれやれと要塞へ視線を移す、実際にタロウは昨晩要塞を一望出来る場所を探して暗闇の中をウロウロと散策したのだ、転送陣を設置した巨大な岩塊を見つけた時はこれだと歓喜し、眺望も素晴らしいこの場所はまさに景勝地と呼ぶにふさわしいと自画自賛していたりもする、
「何を呑気に」
「そりゃだって、折角ここまで足を運んでもらったんだぞ、楽しまないとさ」
「遊びじゃないんだぞ」
「半分遊びだよ、少なくとも今の俺達は仕事半分観光半分の商人一行だ、紛れる為にも楽しまないとな」
「違いねぇ」
ルーツがアッハッハと笑い、クロノスは笑いごとかと叱責する、その三人独特のやり取りにメインデルト達は何とも困った顔にならざるを得なかった。
「ここがノーバ・バネフィシア、訳すと新たな祝福の街となるのかなと思います」
要塞から一度屋敷に戻ると一行はすぐさま次の転送陣を潜った、その先は荒野の果てに建設された街である、
「いよいよですなー」
学園長が楽しそうに微笑む、転送陣は街外れのボロ屋の納戸に設置されたらしく、大柄な者はやや窮屈な思いをして潜り抜けたのであるが、転送陣を隠し、怪しい一団が出入りする事を考えればその場所は大変に有効であると誰もが感じる、
「そうですね、では歩きながら説明致します」
タロウはまずはと街の中心部へ向う事とした、
「モニケンダムよりも、アルメレに近い感じかな?」
「そうですね、モニケンダムは農業が盛んであると聞いていますが、こちらはそれほどではないです、盛んになるとしてもこれからだと思います、森にしろ野原にしろ開墾が必要でしょう」
「その辺は兵士の力を借りないのか?」
「どうでしょう、この街も先程の要塞と同じで若い街です、その上、皇帝が作った街でもありまして、退役軍人を中心にして入植させたとも聞いております、なので、本当の意味でこれからの街なのだと思います、それこそモニケンダムに攻め入った後でも、王国との戦争が激しくなった後でも、この街は最前線として重要な拠点になるでしょう、なので、為政者としても力の入れ所を探っている状態だと思いますね」
「確かに、あまり前向きに捉えたくはないが、冷静に見れば要塞との中継点だからな、何をするにも重要な都市となるであろうな」
「そうなんです」
主にタロウと学園長があーだこーだと楽しそうに話し、他の面々はその会話を耳に入れながらキョロキョロと周囲を見渡して歩いていく、その街は街がいきなり存在し、その周囲に広がるべき田畑や牧場等が極端に少ないように見えた、これはタロウの説明そのままであり、今後開発されていくのであろうとクロノス達はボンヤリと考えてしまう、荒野とは違って森も雑草の茂る丘も見える、しっかりと開墾すれば良い畑になるであろう、それでも若干の農家らしい建物群はあり、一同が出て来たボロ屋を含めた一角から抜け出ると歩行者と荷車が行き交う街道に当たった、
「で、まずは、これが街道です、先ほどは遠目に見ましたが、何と言ったかな、36番シェザー街道ですね、確か」
タロウが若干うろ覚えでその街道を指差す、
「これは広いな・・・」
「確かに」
「作りも頑丈そうですね」
「うむ、それに、なんだ、人が歩く場所を分けているのか?街中でも無いのに?」
「そのようですな・・・素晴らしい」
一同はその広さに目をむいた、王国で敷設される街道の倍ほどもあり、馬車であれば四台は並んで走れる程に広い、さらに、歩行者用の通路が両端に設置されているようで、街道を歩く者と馬車とが完全に別れて通行している様子であった、王国においては王都であってもこれほどに広い街路は敷設されていない、
「名前の由来ですが、シェザーとは皇帝の意味になります、正確には皇帝とはシェザールとかシェザーレとか呼ぶんですが、こういった品名や街道名等に皇帝の名を冠する時はシェザーと短縮して使うようです」
「ほう、それは面白い」
「そうですね、で、36番目の皇帝が敷設した街路という意味になりまして、帝国では街路には出資者の名前を冠するのが普通なのですが、こういった辺境の街路には金を出す者がいなかったのでしょうね、そうすると発注者である皇帝の名が冠されます」
「ほうほう、するとあれか36本も辺境に向けて皇帝が金を出したという事か」
「そう考えて間違いは無いです、実際、帝都周辺や大きな街に繋がる街路はほぼ全て有力貴族とか高名な金持ちの名が付いてます、ま、いろいろと事情があると思いますが、それは歴史家の仕事なのでしょうね」
「じゃろうのう、いや、興味深い、実に興味深い」
学園長は満面の笑みで小躍りするように街道に足を踏み入れた、実に楽しそうである、
「しかし、ここまで広くする必要があるのか?」
クロノスが当然の疑問を口にする、
「広ければ広いだけ便利だろ」
ルーツが真っ直ぐに伸びる街路を眺めて感心している、実際にその街路は長くどこまでも直線で続いており、街の端から外を見る限り果てが無いようにすら感じる、
「だろうがさ、手間も金もかかるんだぞ」
「確かにな」
クロノスとメインデルトが渋い顔となる、王国で街道の敷設となると大仕事であった、兵を動かすだけで済めば良いが実際は資材の搬入から拠点の移動、それに伴う糧食の確保等々、軍団長としては何とも地味でめんどくさいだけの仕事なのである、
「そうですね、ですから出資者を募るのですよ、せめて金策だけでも楽になります」
「それだ、それでその出資者は何を得るのだ?」
「その名が永遠に残ります、恐らくですが帝国が滅びたとしても街道は残ります、こんな便利なもの壊す必要が無いですからね、そうなると恐らくそのままの名が使われるでしょう」
「それはまた・・・」
「そうなのかもしれんが・・・」
クロノスもメインデルトもその理屈にはそれで良いのかとしかめっ面になる、
「ま、あれです、それは副次的な効果でしてね、やはりあれです、街道に自分の名前や家門の名前、一族の名前とかが付けば誇らしいですし、領民としても嬉しいのではないですか?それとその経路についても口出し出来るでしょう、もう少し伸ばせとか、こっちの村を通せとか、地方としては街道のあるなしで流通が大きく変わりますからね、そういう意味で領地の活性化にもなります、もし商売をしているのであれば宣伝にもなります、なので、なんとか商会街道なんてのもありますよ、あくまで王国風に言うのであればですが」
「・・・なるほど、宣伝か・・・」
「なんとも・・・逞しい」
「まったくですな」
為政者達はフルフルと頭を振り、ルーツはそういうもんかと鼻で笑う、学園長は、
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そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
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