846 / 1,445
本編
69話 お風呂と戦場と その10
しおりを挟む
「報告で聞いてはいたが、これほど興味深いものとは思わなんだな」
「まったくですな・・・」
ボニファースとロキュスが浄化槽を見下ろし、その隣りでは、
「これー、スライムー、気持ちいいのー」
「触ってもいいのですか?」
「大丈夫だってー、ほらー、プニプニー」
「あー、水は汚いからな、後でちゃんと手を洗え」
「ワカッター」
「ん、で、こっちがヒトデだな」
「わっ、変な形ですね」
「なー」
とタロウとミナ、イージスが座り込んで笑っている、その隣りでブラスが手製のたも網でもって、スライムとヒトデを掬いあげ、今度はシジミだなと浄化槽に向かっていた、
「これがそうか?」
ボニファースらもその集団を上から覗き込み、イフナースとクロノスも集まってきた、正午に近くなり、王妃達が入浴後に蜂蜜でもって顔面パックを楽しんでいる頃合いで男性陣が揃って顔を出した、居並ぶ面々のタオルを頭に巻いて黄色い顔をしただらしない様子を見てボニファースは何をやっているのかと目を細め、エフェリーンとマルルースは金切声で女の世界だとボニファースを叩き出してしまった、これにはボニファースも渋い顔となってしまったが、そういう事であればとタロウは浄化槽を先に見ましょうと誘い、何とかボニファースの不興を逸らせる事に成功したようで、ミナとイージスも外に出るならと駆け出し、ブラスも顔を出した為、浄化槽の周りは一気に騒がしくなってしまっていた、
「無色の魔法石はどうなっている?」
ロキュスがブラスに問いかけると、
「はい、まだまだ全然ですね、浄化槽自体がまだ本格稼働とはなっておりませんから」
ブラスがシジミを掬いあげながら答えた、実際の所ブラスが見る限り、無色の魔法石が付着するであろう板には何の変化も無い、あるとすれば少々薄汚れたかな程度の変化で、浄化槽全体の匂いも気になるほどではなかった、つまりまだその想定した使い方をしておらず、糞便を流し込んで漸く本格運用の開始となる筈で、この視察の為に風呂は使っているが糞便の処理は始めていない、明日明後日の視察を終えてからの本格運用となる予定であるらしい、
「なるほど・・・タロウ殿もそう言っておったな・・・」
ロキュスはフンフンと頷いている、ロキュスは風呂も配管等といった建築的な観点に関しても特に興味は無い、クロノスやリンドの話しを聞く限り、やはり無色の魔法石の生成過程の調査こそがこの浄化槽の根幹であろうなと感じ、やはりユーリという人物は今後も注視していかなければならないと考えていた、寂しい事にゾーイはもうすっかりとユーリに取り込まれてしまっており、その点に於いても負い目を感じてしまっている、ゾーイにとってはそれが最も良い経験であろうと頭では理解しているのであるが、やはり悔しさはあった、一人の専門家として、同じ道の研究者として何とも歯痒い所である、
「そうですね、で、これがシジミです」
ブラスは一同の前にジャラリとシジミを転がした、お手製のたも網はソフィアが図示したものをそのまま再現したもので、急造の為かやや作りは荒く不格好であったがその用途には充分答えられる品となっている、
「ほう、これはあれかあの水槽のと同じか?」
「そうなのー、水槽のはメダカとシジミとタニシでー、これはシジミー」
「貝じゃな」
「貝ですね、それはもう、貝です、美味いですよ、これは食べない方が良いですけど」
「そうなのか?」
「そうなの?」
大人達は唖然として、ミナは嬉しそうに目を輝かせる、
「はい、俺の田舎ではよく食べますよ、シジミの味噌汁・・・スープですね、美味しいですよ、ただ、これは食べない方が良いですね、ちゃんと生きてますし新鮮ですが・・・今後の事を考えると食用とするには少し抵抗があります、もし食すのであれば湖の奥の方から獲ってきた物に限った方が良さそうです」
「それはあれか、汚い故か?」
「はい、人の糞便にまみれてますから、確実に腹を壊すでしょう、なので、湖でも街からできるだけ離れた地のシジミであれば良いでしょうが・・・これも、近くのも、勿論その辺で獲れたシジミも食すには適さないですね」
「んー・・・そういう事か、しかし、これだけで糞便が綺麗になるものなのか?」
ボニファースが疑問を呈する、タロウの説明によるとこの三種の生物に糞便やら生ごみやらを消化させ水を綺麗にするらしい、その説明だけ聞けばそういうものなのかと納得も出来るが、実際に見たその生物は実に貧弱であった、スライムは魔物に類する生物とされるが、水から上げたそれは生物であるかどうかも疑わしい程に身動きすら見せず、ヒトデとシジミとやらも何とも頼りない、
「なると思います、帝国は今でもこれで浄化してますね」
「そうなのか・・・であれば、充分なのであろうな」
「そう思います」
「するとあれか、帝国では未だに無色の魔法石を生産しているという事になるのではないかな?」
ロキュスが別の疑問を呈した、
「そうなると思います、ですが・・・恐らくですが、小さい段階でこそぎ落としているのかと、整備やら清掃と一緒に、下水道は街道と一緒で整備が不可欠ですから、こちらで見た資料にもこまめにそうするようにとの記述がありましたので、この街の地下にあるような状態は手入れをしていなかったが故の結果なのかなと思います」
「なるほど・・・そうなるか・・・」
「しかし、大量であったのだろう?この地下のそれは、少々都合が良すぎるのではないか?」
「はい、私もそう思います、ですが結果だけを見ればそう解釈するしかないですね、今のところ、なので、その点もこの浄化槽で検証していく必要があると考えます」
「確かにな・・・」
「そうなりますな」
ボニファースとロキュスは納得するしかなく、クロノスとイフナースもまだまだこれからだなと改めて浄化槽を見渡している、クロノスは事ある毎に見ていたし計画段階から報告を受けている、イフナースもその建設現場を横に見て裏山に通っていた、その目的も何をやっているのかもしっかりと理解している、故に時間がかかる検証である事も理解していた、
「ここはこんなもので、もし他に作るとしても立派な職人さんがいますからね、浄化槽本体は問題無く製作出来る事は立証できています、問題のスライムもヒトデもシジミも、近くの湖で簡単に採取できました、なので・・・小規模な浄化槽であれば再現は容易いと思います、但し、モニケンダム、この街であれば地下の下水道を整備した方が容易いかと思いますが、それは明日にでも提案しておこうと考えておりました」
「ふむ・・・伯爵がどう考えるかだな・・・」
「そうなりますね、どうしても金も人員も時間も必要なので、私としては無色の魔法石の生産も同時に出来ると考えればやらない手は無いとも思いますが・・・まぁ、そこは私が口出しできる事ではないと心得ます」
「そうだな、あまりうるさく言わないことだ、変にせっつくと逆に嫌がられるものだからな」
「はい、肝に銘じます」
「うむ」
と一行は浄化槽の下見をそこで切り上げる事とし、食堂の様子をミナとイージスに確認に走らせた、蜂蜜パックは何も珍しい事では無くなっており、ボニファースもクロノスも実は一度は体験している、実に気持ち良く爽快であった、ソフィアが伝えたそれはあっという間に王族の間に広まり、毎日では無いにしても気付けば王妃やパトリシアの顔面は黄色く滑ついていた、故に何も叩きだされるような言われは無いもので、女の世界等と言われてはさらに納得がいかなかったりする、尤もボニファースは男の世界とは明言した事は無いが、そういう雰囲気を醸し出せば女達は気を利かせて席を外すもので、そうなると先程はさっさと退出するのが男の気の利かせ方であったかと、冷えた頭でボニファースは考える、ボニファースも立派な老人と言える歳なのであるが、未だその思考は柔軟であった、大したものなのであるが、それを褒める人物もそれに気付く者も少ない、人は歳を経ると他者から褒められることも評価される事も少なくなるものなのである、立場うんぬんは関係無い、どうやら年齢と格が同期しているからこそそうなるのであろうなとボニファースは考えている、現実として、年齢を重ねれば偉くなる訳でも賢くなる訳でも無い、何も褒めて欲しい等と思ってはいないが、冷静な評価なり判定なりが欲しい事はただあり、その点を相談役には頼んでいたりする、ロキュスしかり、他の相談役しかりであった、しかし、先日タロウを相談役として肩書を預けた時に気付いたのであるが、ボニファースの周りの相談役は皆自分と同じ老人である、タロウがあまりにも若い事を他の相談役が心配した為にそこでやっと気付いた事であった、ボニファースは自分もなんのかんのと言って老人を頼っているのだなとそこでやっと気が付き、盛大に何の皮肉やらと鼻で笑ってしまっていた、
「大丈夫だってー」
ミナとイージスが勝手口を開けて大きく叫ぶ、うむとボニファースは頷いて一行は食堂に入った、すると、
「これは快適ですわね」
「そうね、何かと思って見てましたけど・・・」
「ねー、あっ、陛下、これ買いましょう、素晴らしく心地良いですわ」
「あー、それミナのー、ミナのなのー」
「そうなの?」
「ミナちゃん、贅沢だー」
「ブー、タロウが作ったのー、だからミナのなのー」
「おいおいどういう理屈だよ」
「いいのー、ミナのー」
寝台の上で優雅に微笑む王妃とウルジュラにミナはギャーギャー喚いて飛び掛かる、
「キャー、ミナちゃん怖いー」
「むー、ユラ様めー、こうだー」
「キャー、イージス君助けてー」
「えー・・・」
さらにバタバタと戯れるウルジュラとミナである、助けを求められたイージスは困惑するしかなく、しかし、王妃達が言うようにその寝台には興味があった、なにせ暖炉の前にズデンと置かれており、非常に邪魔であったのである、しかし、高貴な奥様方は特に気にする事無く席を定めた為、そう言う物なのかなとイージスらしい優等生ぶりで特に口にする事は無かった、而してこの有様である、
「あー・・・確かに気持ちいいんだよな」
「?お前さんは知っていたのか?」
「あぁ、前に来た時にな、ほれ、お前も座るなり寝ころぶなりしてみろ、全然違うぞ」
「そうなのか?」
「うん、タロウ、こいつはいつ作るんだ?」
「ブラスさん次第かな?」
「えっ、俺っすか?」
「そうか、作れ、大至急、ここに居る人数分だ」
「ちょ・・・そりゃ作れって言われたら作りますけどー、結構大変なんですから、時間頂きますよ」
「構わん、このままでは喧嘩になるからな、一人一台として・・・」
「だから、それはもう少し試してからだよ」
「何を呑気な事を言っているか、見る限り充分だろ」
「中身を見てみないと分らんよ」
「なら、見ろ」
「はいはい、あー、じゃ、ブラスさんね、取り合えず材料だけでも作り始めるか、偉いさんが御執心だ」
「そう・・・ですね、不安があるとすれば締め付けとか革の耐久性ですかね」
「そう思う、まぁ、これ見よがしに置いておいた俺も悪いんだがさ、ミナがどけるなってうるさくてさ・・・」
「別にそれは構いませんけど」
とタロウとブラスがブツブツと打合せをしていると、
「うぉっ、これはいいな」
「だろ?」
「確かに、あれかお前の所の椅子と同じだな」
「ほうほう、これは心地良い」
「ブー、ミナのー、ミナのなのー」
「はいはい、ミナー、ちょっと借りるぞー」
「うー、イース様ならいいよー」
「ありゃ、素直じゃな」
と寝台の上は男達が占拠したようで、ミナはイフナースの背中に抱きついてギャーギャー喚いている、
「そんなにいいの?」
パトリシアが羨ましそうにウルジュラに問いかけた、身重である以上無理は出来ないとお気に入りの椅子に座ったままである、
「うん、気持ちいいの、その椅子と一緒?タロウさん、これ中どうなってるの?」
「あー、はい、これもバネ仕掛けです、椅子とは違って捩じりバネをそのまま並べた感じですかね」
「ほう・・・それだけか?」
「それだけです、作りは割と単純ですね」
「そうなのか・・・うん、どこで買える?」
「ですからー」
と本題に入る前から忙しくなるタロウと、乗り遅れたと寂しそうに大人達を見上げるイージス、何をやっているのやらと冷たい視線を送るクロノスと、まぁ気持ちは分るなと苦笑いとなるソフィアとユーリ、ミーンにティルであった。
「まったくですな・・・」
ボニファースとロキュスが浄化槽を見下ろし、その隣りでは、
「これー、スライムー、気持ちいいのー」
「触ってもいいのですか?」
「大丈夫だってー、ほらー、プニプニー」
「あー、水は汚いからな、後でちゃんと手を洗え」
「ワカッター」
「ん、で、こっちがヒトデだな」
「わっ、変な形ですね」
「なー」
とタロウとミナ、イージスが座り込んで笑っている、その隣りでブラスが手製のたも網でもって、スライムとヒトデを掬いあげ、今度はシジミだなと浄化槽に向かっていた、
「これがそうか?」
ボニファースらもその集団を上から覗き込み、イフナースとクロノスも集まってきた、正午に近くなり、王妃達が入浴後に蜂蜜でもって顔面パックを楽しんでいる頃合いで男性陣が揃って顔を出した、居並ぶ面々のタオルを頭に巻いて黄色い顔をしただらしない様子を見てボニファースは何をやっているのかと目を細め、エフェリーンとマルルースは金切声で女の世界だとボニファースを叩き出してしまった、これにはボニファースも渋い顔となってしまったが、そういう事であればとタロウは浄化槽を先に見ましょうと誘い、何とかボニファースの不興を逸らせる事に成功したようで、ミナとイージスも外に出るならと駆け出し、ブラスも顔を出した為、浄化槽の周りは一気に騒がしくなってしまっていた、
「無色の魔法石はどうなっている?」
ロキュスがブラスに問いかけると、
「はい、まだまだ全然ですね、浄化槽自体がまだ本格稼働とはなっておりませんから」
ブラスがシジミを掬いあげながら答えた、実際の所ブラスが見る限り、無色の魔法石が付着するであろう板には何の変化も無い、あるとすれば少々薄汚れたかな程度の変化で、浄化槽全体の匂いも気になるほどではなかった、つまりまだその想定した使い方をしておらず、糞便を流し込んで漸く本格運用の開始となる筈で、この視察の為に風呂は使っているが糞便の処理は始めていない、明日明後日の視察を終えてからの本格運用となる予定であるらしい、
「なるほど・・・タロウ殿もそう言っておったな・・・」
ロキュスはフンフンと頷いている、ロキュスは風呂も配管等といった建築的な観点に関しても特に興味は無い、クロノスやリンドの話しを聞く限り、やはり無色の魔法石の生成過程の調査こそがこの浄化槽の根幹であろうなと感じ、やはりユーリという人物は今後も注視していかなければならないと考えていた、寂しい事にゾーイはもうすっかりとユーリに取り込まれてしまっており、その点に於いても負い目を感じてしまっている、ゾーイにとってはそれが最も良い経験であろうと頭では理解しているのであるが、やはり悔しさはあった、一人の専門家として、同じ道の研究者として何とも歯痒い所である、
「そうですね、で、これがシジミです」
ブラスは一同の前にジャラリとシジミを転がした、お手製のたも網はソフィアが図示したものをそのまま再現したもので、急造の為かやや作りは荒く不格好であったがその用途には充分答えられる品となっている、
「ほう、これはあれかあの水槽のと同じか?」
「そうなのー、水槽のはメダカとシジミとタニシでー、これはシジミー」
「貝じゃな」
「貝ですね、それはもう、貝です、美味いですよ、これは食べない方が良いですけど」
「そうなのか?」
「そうなの?」
大人達は唖然として、ミナは嬉しそうに目を輝かせる、
「はい、俺の田舎ではよく食べますよ、シジミの味噌汁・・・スープですね、美味しいですよ、ただ、これは食べない方が良いですね、ちゃんと生きてますし新鮮ですが・・・今後の事を考えると食用とするには少し抵抗があります、もし食すのであれば湖の奥の方から獲ってきた物に限った方が良さそうです」
「それはあれか、汚い故か?」
「はい、人の糞便にまみれてますから、確実に腹を壊すでしょう、なので、湖でも街からできるだけ離れた地のシジミであれば良いでしょうが・・・これも、近くのも、勿論その辺で獲れたシジミも食すには適さないですね」
「んー・・・そういう事か、しかし、これだけで糞便が綺麗になるものなのか?」
ボニファースが疑問を呈する、タロウの説明によるとこの三種の生物に糞便やら生ごみやらを消化させ水を綺麗にするらしい、その説明だけ聞けばそういうものなのかと納得も出来るが、実際に見たその生物は実に貧弱であった、スライムは魔物に類する生物とされるが、水から上げたそれは生物であるかどうかも疑わしい程に身動きすら見せず、ヒトデとシジミとやらも何とも頼りない、
「なると思います、帝国は今でもこれで浄化してますね」
「そうなのか・・・であれば、充分なのであろうな」
「そう思います」
「するとあれか、帝国では未だに無色の魔法石を生産しているという事になるのではないかな?」
ロキュスが別の疑問を呈した、
「そうなると思います、ですが・・・恐らくですが、小さい段階でこそぎ落としているのかと、整備やら清掃と一緒に、下水道は街道と一緒で整備が不可欠ですから、こちらで見た資料にもこまめにそうするようにとの記述がありましたので、この街の地下にあるような状態は手入れをしていなかったが故の結果なのかなと思います」
「なるほど・・・そうなるか・・・」
「しかし、大量であったのだろう?この地下のそれは、少々都合が良すぎるのではないか?」
「はい、私もそう思います、ですが結果だけを見ればそう解釈するしかないですね、今のところ、なので、その点もこの浄化槽で検証していく必要があると考えます」
「確かにな・・・」
「そうなりますな」
ボニファースとロキュスは納得するしかなく、クロノスとイフナースもまだまだこれからだなと改めて浄化槽を見渡している、クロノスは事ある毎に見ていたし計画段階から報告を受けている、イフナースもその建設現場を横に見て裏山に通っていた、その目的も何をやっているのかもしっかりと理解している、故に時間がかかる検証である事も理解していた、
「ここはこんなもので、もし他に作るとしても立派な職人さんがいますからね、浄化槽本体は問題無く製作出来る事は立証できています、問題のスライムもヒトデもシジミも、近くの湖で簡単に採取できました、なので・・・小規模な浄化槽であれば再現は容易いと思います、但し、モニケンダム、この街であれば地下の下水道を整備した方が容易いかと思いますが、それは明日にでも提案しておこうと考えておりました」
「ふむ・・・伯爵がどう考えるかだな・・・」
「そうなりますね、どうしても金も人員も時間も必要なので、私としては無色の魔法石の生産も同時に出来ると考えればやらない手は無いとも思いますが・・・まぁ、そこは私が口出しできる事ではないと心得ます」
「そうだな、あまりうるさく言わないことだ、変にせっつくと逆に嫌がられるものだからな」
「はい、肝に銘じます」
「うむ」
と一行は浄化槽の下見をそこで切り上げる事とし、食堂の様子をミナとイージスに確認に走らせた、蜂蜜パックは何も珍しい事では無くなっており、ボニファースもクロノスも実は一度は体験している、実に気持ち良く爽快であった、ソフィアが伝えたそれはあっという間に王族の間に広まり、毎日では無いにしても気付けば王妃やパトリシアの顔面は黄色く滑ついていた、故に何も叩きだされるような言われは無いもので、女の世界等と言われてはさらに納得がいかなかったりする、尤もボニファースは男の世界とは明言した事は無いが、そういう雰囲気を醸し出せば女達は気を利かせて席を外すもので、そうなると先程はさっさと退出するのが男の気の利かせ方であったかと、冷えた頭でボニファースは考える、ボニファースも立派な老人と言える歳なのであるが、未だその思考は柔軟であった、大したものなのであるが、それを褒める人物もそれに気付く者も少ない、人は歳を経ると他者から褒められることも評価される事も少なくなるものなのである、立場うんぬんは関係無い、どうやら年齢と格が同期しているからこそそうなるのであろうなとボニファースは考えている、現実として、年齢を重ねれば偉くなる訳でも賢くなる訳でも無い、何も褒めて欲しい等と思ってはいないが、冷静な評価なり判定なりが欲しい事はただあり、その点を相談役には頼んでいたりする、ロキュスしかり、他の相談役しかりであった、しかし、先日タロウを相談役として肩書を預けた時に気付いたのであるが、ボニファースの周りの相談役は皆自分と同じ老人である、タロウがあまりにも若い事を他の相談役が心配した為にそこでやっと気付いた事であった、ボニファースは自分もなんのかんのと言って老人を頼っているのだなとそこでやっと気が付き、盛大に何の皮肉やらと鼻で笑ってしまっていた、
「大丈夫だってー」
ミナとイージスが勝手口を開けて大きく叫ぶ、うむとボニファースは頷いて一行は食堂に入った、すると、
「これは快適ですわね」
「そうね、何かと思って見てましたけど・・・」
「ねー、あっ、陛下、これ買いましょう、素晴らしく心地良いですわ」
「あー、それミナのー、ミナのなのー」
「そうなの?」
「ミナちゃん、贅沢だー」
「ブー、タロウが作ったのー、だからミナのなのー」
「おいおいどういう理屈だよ」
「いいのー、ミナのー」
寝台の上で優雅に微笑む王妃とウルジュラにミナはギャーギャー喚いて飛び掛かる、
「キャー、ミナちゃん怖いー」
「むー、ユラ様めー、こうだー」
「キャー、イージス君助けてー」
「えー・・・」
さらにバタバタと戯れるウルジュラとミナである、助けを求められたイージスは困惑するしかなく、しかし、王妃達が言うようにその寝台には興味があった、なにせ暖炉の前にズデンと置かれており、非常に邪魔であったのである、しかし、高貴な奥様方は特に気にする事無く席を定めた為、そう言う物なのかなとイージスらしい優等生ぶりで特に口にする事は無かった、而してこの有様である、
「あー・・・確かに気持ちいいんだよな」
「?お前さんは知っていたのか?」
「あぁ、前に来た時にな、ほれ、お前も座るなり寝ころぶなりしてみろ、全然違うぞ」
「そうなのか?」
「うん、タロウ、こいつはいつ作るんだ?」
「ブラスさん次第かな?」
「えっ、俺っすか?」
「そうか、作れ、大至急、ここに居る人数分だ」
「ちょ・・・そりゃ作れって言われたら作りますけどー、結構大変なんですから、時間頂きますよ」
「構わん、このままでは喧嘩になるからな、一人一台として・・・」
「だから、それはもう少し試してからだよ」
「何を呑気な事を言っているか、見る限り充分だろ」
「中身を見てみないと分らんよ」
「なら、見ろ」
「はいはい、あー、じゃ、ブラスさんね、取り合えず材料だけでも作り始めるか、偉いさんが御執心だ」
「そう・・・ですね、不安があるとすれば締め付けとか革の耐久性ですかね」
「そう思う、まぁ、これ見よがしに置いておいた俺も悪いんだがさ、ミナがどけるなってうるさくてさ・・・」
「別にそれは構いませんけど」
とタロウとブラスがブツブツと打合せをしていると、
「うぉっ、これはいいな」
「だろ?」
「確かに、あれかお前の所の椅子と同じだな」
「ほうほう、これは心地良い」
「ブー、ミナのー、ミナのなのー」
「はいはい、ミナー、ちょっと借りるぞー」
「うー、イース様ならいいよー」
「ありゃ、素直じゃな」
と寝台の上は男達が占拠したようで、ミナはイフナースの背中に抱きついてギャーギャー喚いている、
「そんなにいいの?」
パトリシアが羨ましそうにウルジュラに問いかけた、身重である以上無理は出来ないとお気に入りの椅子に座ったままである、
「うん、気持ちいいの、その椅子と一緒?タロウさん、これ中どうなってるの?」
「あー、はい、これもバネ仕掛けです、椅子とは違って捩じりバネをそのまま並べた感じですかね」
「ほう・・・それだけか?」
「それだけです、作りは割と単純ですね」
「そうなのか・・・うん、どこで買える?」
「ですからー」
と本題に入る前から忙しくなるタロウと、乗り遅れたと寂しそうに大人達を見上げるイージス、何をやっているのやらと冷たい視線を送るクロノスと、まぁ気持ちは分るなと苦笑いとなるソフィアとユーリ、ミーンにティルであった。
2
あなたにおすすめの小説
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる