924 / 1,445
本編
71話 晩餐会、そして その5
しおりを挟む
それから幾つかの問答が交わされた、王家の相談役についてとか、帝国の事、魔族の事等である、さらには消えた英雄と綽名される他の四人に関してもであった、タロウはなるほど人材を求めているらしいと察する、確かにクロノスと比肩する英雄を手駒に加えたいと思うのは為政者としては当然であろうし、まして眼前に迫った戦争もある、一人でも多く現場で使える者が欲しいのだなと納得するしかない、しかしタロウはこれには明言を避けている、暗にユーリを示唆する単語も飛び出したのであるが、そこは明確に否定した、無論嘘である、これは曖昧にする事は肯定と受け取られかねなかったからで、タロウは以前にユスティーナに話したらしい事が真実ですとさらに嘘を重ねて惚ける事とした、そして、
「・・・すまない、最後になるのだが・・・」
とカラミッドがやや疲れた顔で切り出す、タロウの口から語られた事はその多くがやはり驚愕に値し、また、自身もしっかりと目にしたその実力と転送陣、さらには実在する荒野の要塞等を考え合わせれば信用せざるを得ないとの結論しか導けず、疑う事は難しくなってしまった、
「此度の戦、貴殿はどう見るのかな?」
とテーブルに両肘を着く、話し疲れもあったが、タロウがどう考え、どう見るのかに興味があった、思わず前のめりになってしまうのを誤魔化す仕草でもある、
「どう・・・とは?」
タロウはこれも自制が大事そうだと問い返した、先程までの質問もそうであったが、あまりにペラペラと話すと余計な事を言いそうで、故にゆっくりと考えつつ答えている、タロウとしてはもどかしさもあったが、どうやら逆にそれが良い印象を齎しているらしい、若しくは単に向こうの理解に丁度即した速度になっていたのかもしれない、
「単純だ、勝つか負けるか・・・勝つとしてもどうなるか、負けるとしてもどうなるか・・・どこまで予測しているのだ?」
「・・・それは・・・その・・・フム・・・」
とタロウは腕を組んで大きく首を傾げる、答える事は実は簡単である、しかしそれを即座に答えてはあまりにもだなと感じ、また、そうする事によって少しは自分の価値を落す事になればよいのだがとも思う、
「貴様でも難しいのか?」
レイナウトが静かに問いかけた、レイナウトは冒険者時代からタロウを見知ってはいる、当時は小汚い冒険者の一人で、何をとち狂っているのか赤子を抱いて戦場に立っていた、故に強く印象に残っており、思わず自分から声をかけてしまった程である、それが結果的には良い関係を結ぶ端緒にはなったが、しかし、まさかその人物が英雄の一人であったとは思わなかったのだ、こればかりは前線に参加しなかった自分の落ち度であろう、
「そう・・・ですね、いえ、どう答えるべきか・・・」
タロウは逆方向に首を傾げる、そして、
「はい、その・・・戦争そのものについては準備万端整えている我々に勝機は充分にあるかと思われます、また、こちらの兵の士気は高く・・・私が見る限りですが、戦略的にも充分、これはこの場にいる皆様であれば御理解の事と思いますが」
「そう・・・思うか・・・」
「はい、私が進言する事はもうないかなと思っている次第です、相談役としては甚だ力不足となりましょうが」
タロウは静かに対する二人を見つめる、実際にタロウからの進言を受け入れ政治的なタロウも認めざるを得ない戦略と言える策略が構築されつつあった、それはモニケンダムやヘルデルを巻き込んだものであり、戦後を見据えた対応となっている、と同時に負けた時の策略も整ってきている、ユスティーナとマルヘリートが参加した会合がその内の一つであり、その他にも政治レベルでの対応策が練られていたりする、タロウとしては少々言い過ぎたかと反省もしたのであるが、王であるボニファースは幸運な事に柔軟な思考力のある為政者であった、さらに先の大戦の経験もある為、軍は勿論官僚達も真剣に取り組んでいる様子である、
「それほどか?」
「はい、現時点では最良・・・は難しいですね、戦に最良の手などありませんでしょうから、さらに様々な妨害工作も献策してはありますが、それは戦術の話し、故にこれから取り沙汰される事となりますが、正直・・・汚い手ばかりですからね、軍団長の皆様は良い顔をしておりませんでした、まぁ、あの人達は正面切って戦ってなんぼですからね、その点は致し方ない事」
「どのような策だ?」
レイナウトがニヤリと微笑む、タロウが汚いとまで言う策である、大変に興味がある、
「それはもういろいろと・・・フォンス殿であれば理解されていましょうが、現時点において、先方は完全に油断しております」
タロウがフォンスに視線を向けるとフォンスはゆっくりと頷いた、
「でしょう、となれば、そうですね、一方的に破壊工作・・・要塞内の井戸を潰す事も可能でしょうし、糧食に毒を混ぜる事も可能、さらには補給を阻害する事も簡単、後背にある街を混乱させるのも良い手です、考えつく限り悪辣な手は幾らでもありますでしょう?やられたら嫌な事を考えて下さい、それが全て妨害工作として有用です」
「そういう意味か」
「はい、そういう意味です、故に私は上手い事やれば向こうの出陣時期すら制御できるのではないかと考えてますが・・・まぁ、そこまでは・・・」
「やらんか」
「ですね、しかし戦争とは本来そういうものです、そういう考え方や実行力も必要であると思っているのですが、その辺はもしかしたら・・・」
タロウはレイナウトに視線を合わせ、
「先代様が得意とされる所でしょうか?」
と続けた、レイナウトはその視線を静かに受け止める、どうやらタロウはタロウでボニファースかもしくはその近しい者から王家とヘルデルの状況を聞いているのであろう、しかし、その視線には非難の色は無かった、しかし肯定するものでも無いらしい、ただそれが当然と受け止めているとの意思が滲んでいる、
「フンッ、言いおる」
レイナウトは思わずニヤリと微笑んだ、相手がタロウでなければすぐさま捕らえて牢獄にぶち込みどこまで知っているのかと尋問の後に暗殺している所である、
「言い過ぎた、でしょうか」
「いや、構わん、儂と貴様の仲だ・・・そうだ、ではついでに聞くのだが」
とレイナウトが話題を変えた、カラミッドがスッと姿勢を正す、
「荒野の件はどこまで噛んでいる?」
「荒野の件ですか?」
「うむ、戦後の統治だな、向こうはやたらと良い条件を出しているが・・・これは真に受けて良いものかな?」
「あー・・・あれですか・・・あれはそのままですね、私としても詳細を聞くに妥当かなと思います」
「そう思うか」
「はい、まぁ、それも現時点での事、私が言っては駄目なのですが、ヘルデルを引き込む策の一つではあるでしょうね、なので、しっかりと明文化して双方の調印が欲しいと思いますよ」
タロウはここはあっさりと答えてしまった、王国とモニケンダム、そこにヘルデルを加えた三者は戦後の荒野の領有についても話し合っている、カラミッドは時期尚早ではないかと考えたが、先の大戦の事と対帝国の視点もあり、レイナウトもクンラートもそこが重要であると最も力を入れていた、とくにクンラートは先の大戦後、北ヘルデルを王国に奪われたとの意識が強く、あれは完全な騙し討ちであると公言している、王国としては対魔族と戦後復興の為を思ってそう図ったのであるが、結果的にヘルデルの憎悪をかき立ててしまったようで、ボニファースはその反省もあってか早々に、荒野の統治については三分の二を王国が、残りのうち三分の二をコーレイン公爵家に、その残りをクレオノート伯爵家の担当領地とするとの案を出してきている、さらに街道の敷設は王国軍が担うと同時に請負、また巨岩の対処に関しても双方協力して進めるとされていた、足りないとすれば治水である、これに関しては荒野の全貌を把握するに至っておらず、懸案事項として先送りにされている、
「その程度で上手く行くかな?」
「どうでしょう?」
タロウはさらにあっさりと答える、ムッとカラミッドは目を細め、レイナウトはやはり何かあるのかと片眉を上げた、
「あー・・・これもハッキリ言ってしまうのですが、やはり王国とヘルデル、いや、アイスル地方ですか、この戦力差は元より人的資源に於いてもその差は大きいです、これは私が指摘する事も無く、理解されておりましょう」
「・・・で?」
「はい、なので、私が陛下にお伝えしたのは、まぁ、これも言ってしまいますけどね、軍事なんぞに継ぎ込む余裕があるならその余裕を無くしてしまえば良いと、自領とほぼ同じかそれ以上に広大な土地を任せてしまって、無論、そこから上がる収益は魅力的ですが、そうする事によってその領地に労力を集中させてしまえと、力の方向を変えてやるのも一つの策だと」
「そんな事を言ったのか!!」
レイナウトは目を見開いた、なんとも舐められたものである、
「えぇ、言いました」
タロウは臆せず答え、カラミッドは流石にそれを先代とはいえ公爵本人に直接言うのはいかがなものかと眉根を寄せる、そしてタロウは、
「悪くない策でしょう?」
とニヤリと微笑んだ、憤慨するレイナウトに笑いかけるなど、この男はどれだけの胆力があるのかとカラミッドとリシャルトは冷や汗を感じ、フォンスもジットリとタロウを睨みつける、
「・・・いや・・・フー」
レイナウトはそこでゆっくりと呼吸を吐き出し、
「確かに、策としては悪くない・・・」
と静かに認めた、しかし、その内心は何とも不愉快であった、荒野の資源とその広大な領土を餌にしてそれに食いついた野犬の如き扱いである、公爵家としての矜持もある、そのような扱いは甚だ無礼である、
「はい、なので・・・王国側が約束を違える事は無いでしょう、国内の安定、これは王国として常に考える事、当然ですね、それと、これはより重要と思いますが、荒野そのものがまだまだこれからの地、その資源は勿論、耕作も数十年規模の事業となります、さらにはその後の帝国との交易、これは都市国家もまた陸路を使えるとなれば王都は勿論、このモニケンダムも交易の中継点としてより盛んになりましょう」
「まて、交易?」
「はい」
「そこまで考えているのか?」
「当然です、何しろ私が向こうから持って来たもの、その全てが皆様にとっては新しいものであった筈」
「それはそうだが」
「そして、これは陛下にも話していないのですが、こちらで生産されている品で向こうで確実に売れるものは多いですよ」
エッと四人は意外そうに目の色を変えた、
「例えばですが、家畜だとやはり鶏ですね、向こうにもいるにはいますが、これほど卵を安定して産む種ではないです」
「そう・・・なのか?」
「はい、他には上質紙、あれは樹木から作られているでしょ?」
「そうらしいな」
「あれも向こうには無いですね、向こうにあるのは獣の革、羊皮紙とそれに類するもの、それと草を編んだもの、上質紙のように樹木の皮を削って繊維を抽出し精製した紙は向こうにはありません」
なんとと四人は目を見開く、
「他にはそれこそガラス鏡、ガラス製品と言い換えても良いかと思いますが、向こうにもあるにはありますが今一つ、ガラス鏡はまさに言うに及ばずですがね、それと、爪ヤスリもこっちで作ったものの方が上等ですね・・・他には・・・馬もこっちの方が大きく強いです、なにより美しい、他にもしっかりと精査すれば売れるものは多いと思いますよ、向こうの報告書とやらはそこまでは突っ込んでいなかったようです・・・まぁ、視点が異なるでしょうから、つまりなんですが」
タロウはニコリと微笑み、
「例え戦争中の相手であっても交易は可能です、それは富を増やし、生活を豊かにするでしょう、それはヘルデルやこの街と王都との関係を見ても明らか、裏では殴り合って、表では手を結ぶ、これが国同士の付き合い方、そして時折表だって殴り合う、その時折をどう処するかが政、今王国はまずヘルデルとの関係を正常化したいと考えています、その方策の一つが先程の懐柔策、そして、手を組んで次に殴り合うのは・・・・」
「帝国か?」
「はい、相手は大きいですよ、先程話した通りに、領土は王国の三倍以上、民族も私が知る限り十以上、使われる言葉は二十はあります、それを統治している皇帝が直々にすぐそこまで来ています、ここは胸襟を開きましょう、我々が諍っている暇は無いのです」
タロウは二人に真摯な視線を向け、それを静かに受け止めるレイナウトとカラミッドであった。
「・・・すまない、最後になるのだが・・・」
とカラミッドがやや疲れた顔で切り出す、タロウの口から語られた事はその多くがやはり驚愕に値し、また、自身もしっかりと目にしたその実力と転送陣、さらには実在する荒野の要塞等を考え合わせれば信用せざるを得ないとの結論しか導けず、疑う事は難しくなってしまった、
「此度の戦、貴殿はどう見るのかな?」
とテーブルに両肘を着く、話し疲れもあったが、タロウがどう考え、どう見るのかに興味があった、思わず前のめりになってしまうのを誤魔化す仕草でもある、
「どう・・・とは?」
タロウはこれも自制が大事そうだと問い返した、先程までの質問もそうであったが、あまりにペラペラと話すと余計な事を言いそうで、故にゆっくりと考えつつ答えている、タロウとしてはもどかしさもあったが、どうやら逆にそれが良い印象を齎しているらしい、若しくは単に向こうの理解に丁度即した速度になっていたのかもしれない、
「単純だ、勝つか負けるか・・・勝つとしてもどうなるか、負けるとしてもどうなるか・・・どこまで予測しているのだ?」
「・・・それは・・・その・・・フム・・・」
とタロウは腕を組んで大きく首を傾げる、答える事は実は簡単である、しかしそれを即座に答えてはあまりにもだなと感じ、また、そうする事によって少しは自分の価値を落す事になればよいのだがとも思う、
「貴様でも難しいのか?」
レイナウトが静かに問いかけた、レイナウトは冒険者時代からタロウを見知ってはいる、当時は小汚い冒険者の一人で、何をとち狂っているのか赤子を抱いて戦場に立っていた、故に強く印象に残っており、思わず自分から声をかけてしまった程である、それが結果的には良い関係を結ぶ端緒にはなったが、しかし、まさかその人物が英雄の一人であったとは思わなかったのだ、こればかりは前線に参加しなかった自分の落ち度であろう、
「そう・・・ですね、いえ、どう答えるべきか・・・」
タロウは逆方向に首を傾げる、そして、
「はい、その・・・戦争そのものについては準備万端整えている我々に勝機は充分にあるかと思われます、また、こちらの兵の士気は高く・・・私が見る限りですが、戦略的にも充分、これはこの場にいる皆様であれば御理解の事と思いますが」
「そう・・・思うか・・・」
「はい、私が進言する事はもうないかなと思っている次第です、相談役としては甚だ力不足となりましょうが」
タロウは静かに対する二人を見つめる、実際にタロウからの進言を受け入れ政治的なタロウも認めざるを得ない戦略と言える策略が構築されつつあった、それはモニケンダムやヘルデルを巻き込んだものであり、戦後を見据えた対応となっている、と同時に負けた時の策略も整ってきている、ユスティーナとマルヘリートが参加した会合がその内の一つであり、その他にも政治レベルでの対応策が練られていたりする、タロウとしては少々言い過ぎたかと反省もしたのであるが、王であるボニファースは幸運な事に柔軟な思考力のある為政者であった、さらに先の大戦の経験もある為、軍は勿論官僚達も真剣に取り組んでいる様子である、
「それほどか?」
「はい、現時点では最良・・・は難しいですね、戦に最良の手などありませんでしょうから、さらに様々な妨害工作も献策してはありますが、それは戦術の話し、故にこれから取り沙汰される事となりますが、正直・・・汚い手ばかりですからね、軍団長の皆様は良い顔をしておりませんでした、まぁ、あの人達は正面切って戦ってなんぼですからね、その点は致し方ない事」
「どのような策だ?」
レイナウトがニヤリと微笑む、タロウが汚いとまで言う策である、大変に興味がある、
「それはもういろいろと・・・フォンス殿であれば理解されていましょうが、現時点において、先方は完全に油断しております」
タロウがフォンスに視線を向けるとフォンスはゆっくりと頷いた、
「でしょう、となれば、そうですね、一方的に破壊工作・・・要塞内の井戸を潰す事も可能でしょうし、糧食に毒を混ぜる事も可能、さらには補給を阻害する事も簡単、後背にある街を混乱させるのも良い手です、考えつく限り悪辣な手は幾らでもありますでしょう?やられたら嫌な事を考えて下さい、それが全て妨害工作として有用です」
「そういう意味か」
「はい、そういう意味です、故に私は上手い事やれば向こうの出陣時期すら制御できるのではないかと考えてますが・・・まぁ、そこまでは・・・」
「やらんか」
「ですね、しかし戦争とは本来そういうものです、そういう考え方や実行力も必要であると思っているのですが、その辺はもしかしたら・・・」
タロウはレイナウトに視線を合わせ、
「先代様が得意とされる所でしょうか?」
と続けた、レイナウトはその視線を静かに受け止める、どうやらタロウはタロウでボニファースかもしくはその近しい者から王家とヘルデルの状況を聞いているのであろう、しかし、その視線には非難の色は無かった、しかし肯定するものでも無いらしい、ただそれが当然と受け止めているとの意思が滲んでいる、
「フンッ、言いおる」
レイナウトは思わずニヤリと微笑んだ、相手がタロウでなければすぐさま捕らえて牢獄にぶち込みどこまで知っているのかと尋問の後に暗殺している所である、
「言い過ぎた、でしょうか」
「いや、構わん、儂と貴様の仲だ・・・そうだ、ではついでに聞くのだが」
とレイナウトが話題を変えた、カラミッドがスッと姿勢を正す、
「荒野の件はどこまで噛んでいる?」
「荒野の件ですか?」
「うむ、戦後の統治だな、向こうはやたらと良い条件を出しているが・・・これは真に受けて良いものかな?」
「あー・・・あれですか・・・あれはそのままですね、私としても詳細を聞くに妥当かなと思います」
「そう思うか」
「はい、まぁ、それも現時点での事、私が言っては駄目なのですが、ヘルデルを引き込む策の一つではあるでしょうね、なので、しっかりと明文化して双方の調印が欲しいと思いますよ」
タロウはここはあっさりと答えてしまった、王国とモニケンダム、そこにヘルデルを加えた三者は戦後の荒野の領有についても話し合っている、カラミッドは時期尚早ではないかと考えたが、先の大戦の事と対帝国の視点もあり、レイナウトもクンラートもそこが重要であると最も力を入れていた、とくにクンラートは先の大戦後、北ヘルデルを王国に奪われたとの意識が強く、あれは完全な騙し討ちであると公言している、王国としては対魔族と戦後復興の為を思ってそう図ったのであるが、結果的にヘルデルの憎悪をかき立ててしまったようで、ボニファースはその反省もあってか早々に、荒野の統治については三分の二を王国が、残りのうち三分の二をコーレイン公爵家に、その残りをクレオノート伯爵家の担当領地とするとの案を出してきている、さらに街道の敷設は王国軍が担うと同時に請負、また巨岩の対処に関しても双方協力して進めるとされていた、足りないとすれば治水である、これに関しては荒野の全貌を把握するに至っておらず、懸案事項として先送りにされている、
「その程度で上手く行くかな?」
「どうでしょう?」
タロウはさらにあっさりと答える、ムッとカラミッドは目を細め、レイナウトはやはり何かあるのかと片眉を上げた、
「あー・・・これもハッキリ言ってしまうのですが、やはり王国とヘルデル、いや、アイスル地方ですか、この戦力差は元より人的資源に於いてもその差は大きいです、これは私が指摘する事も無く、理解されておりましょう」
「・・・で?」
「はい、なので、私が陛下にお伝えしたのは、まぁ、これも言ってしまいますけどね、軍事なんぞに継ぎ込む余裕があるならその余裕を無くしてしまえば良いと、自領とほぼ同じかそれ以上に広大な土地を任せてしまって、無論、そこから上がる収益は魅力的ですが、そうする事によってその領地に労力を集中させてしまえと、力の方向を変えてやるのも一つの策だと」
「そんな事を言ったのか!!」
レイナウトは目を見開いた、なんとも舐められたものである、
「えぇ、言いました」
タロウは臆せず答え、カラミッドは流石にそれを先代とはいえ公爵本人に直接言うのはいかがなものかと眉根を寄せる、そしてタロウは、
「悪くない策でしょう?」
とニヤリと微笑んだ、憤慨するレイナウトに笑いかけるなど、この男はどれだけの胆力があるのかとカラミッドとリシャルトは冷や汗を感じ、フォンスもジットリとタロウを睨みつける、
「・・・いや・・・フー」
レイナウトはそこでゆっくりと呼吸を吐き出し、
「確かに、策としては悪くない・・・」
と静かに認めた、しかし、その内心は何とも不愉快であった、荒野の資源とその広大な領土を餌にしてそれに食いついた野犬の如き扱いである、公爵家としての矜持もある、そのような扱いは甚だ無礼である、
「はい、なので・・・王国側が約束を違える事は無いでしょう、国内の安定、これは王国として常に考える事、当然ですね、それと、これはより重要と思いますが、荒野そのものがまだまだこれからの地、その資源は勿論、耕作も数十年規模の事業となります、さらにはその後の帝国との交易、これは都市国家もまた陸路を使えるとなれば王都は勿論、このモニケンダムも交易の中継点としてより盛んになりましょう」
「まて、交易?」
「はい」
「そこまで考えているのか?」
「当然です、何しろ私が向こうから持って来たもの、その全てが皆様にとっては新しいものであった筈」
「それはそうだが」
「そして、これは陛下にも話していないのですが、こちらで生産されている品で向こうで確実に売れるものは多いですよ」
エッと四人は意外そうに目の色を変えた、
「例えばですが、家畜だとやはり鶏ですね、向こうにもいるにはいますが、これほど卵を安定して産む種ではないです」
「そう・・・なのか?」
「はい、他には上質紙、あれは樹木から作られているでしょ?」
「そうらしいな」
「あれも向こうには無いですね、向こうにあるのは獣の革、羊皮紙とそれに類するもの、それと草を編んだもの、上質紙のように樹木の皮を削って繊維を抽出し精製した紙は向こうにはありません」
なんとと四人は目を見開く、
「他にはそれこそガラス鏡、ガラス製品と言い換えても良いかと思いますが、向こうにもあるにはありますが今一つ、ガラス鏡はまさに言うに及ばずですがね、それと、爪ヤスリもこっちで作ったものの方が上等ですね・・・他には・・・馬もこっちの方が大きく強いです、なにより美しい、他にもしっかりと精査すれば売れるものは多いと思いますよ、向こうの報告書とやらはそこまでは突っ込んでいなかったようです・・・まぁ、視点が異なるでしょうから、つまりなんですが」
タロウはニコリと微笑み、
「例え戦争中の相手であっても交易は可能です、それは富を増やし、生活を豊かにするでしょう、それはヘルデルやこの街と王都との関係を見ても明らか、裏では殴り合って、表では手を結ぶ、これが国同士の付き合い方、そして時折表だって殴り合う、その時折をどう処するかが政、今王国はまずヘルデルとの関係を正常化したいと考えています、その方策の一つが先程の懐柔策、そして、手を組んで次に殴り合うのは・・・・」
「帝国か?」
「はい、相手は大きいですよ、先程話した通りに、領土は王国の三倍以上、民族も私が知る限り十以上、使われる言葉は二十はあります、それを統治している皇帝が直々にすぐそこまで来ています、ここは胸襟を開きましょう、我々が諍っている暇は無いのです」
タロウは二人に真摯な視線を向け、それを静かに受け止めるレイナウトとカラミッドであった。
1
あなたにおすすめの小説
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる