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本編
71話 晩餐会、そして その31
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その頃寮である、
「あらっ、一人?」
玄関からタロウがヒョイと顔を出すと、食堂内ではサビナが木簡やら黒板やらを並べて上質紙に向かって黙々と何やらやっていた、
「あっ、お帰りなさい」
サビナがウーンと伸びをしながら顔を上げる、
「ミナは?」
「あー、あれです、殿下のお屋敷です」
「へっ、なんで?」
「なんか、エレインさんが倒れたとかなんとかで、ソフィアさんと一応見に行くって、レインちゃんも、なので私は留守番です」
「エッ、マジ?大丈夫?」
「どうでしょう、私はそれしか聞いてないです」
フーッと溜息を吐き出してタロウを見上げるサビナである、
「はて・・・元気そうだったけど・・・」
「そうなんですか?」
「うん、まぁ、朝一で一緒だったんだよ・・・まぁ、ソフィアがいれば何とかなるだろ」
タロウは自分が行くほどではないだろうと首を傾げ、少しゆっくりするかと水差しと湯呑の並んだテーブルに向かう、歩き回って喉が渇いていた、雨が降らないと途端に乾燥気味になる季節である、白湯を手にして暖炉にあたりつつ外套を脱いだ、
「フーッ、しっかり冬だねー」
「そうですねー」
サビナは心無い返事を呟き、さてと作業に戻った、そろそろ学園長の資料のまとめの最終段階である、あれやこれやと振り回されそちらに時間を取られはしたが何とか形になりそうで、今日中にまとめてしまい、明日は誤字脱字の確認、カトカとゾーイに頼んで構成作業のつもりであった、無論ユーリも巻き込むつもりであったりする、そしてそれから学園長の最終確認であった、もう10月も半ばである、今年も終わるなとサビナは思いつつ木軸のガラスペンを手にする、しかし、
「あっ」
とサビナは顔を上げた、
「ん?なんかあった?」
タロウが振り返る、よく見ればその顔は鼻の頭や頬のあたりが赤く染まっている、それだけ外が寒かったという事であろう、
「えっと・・・二つほど・・・」
「二つも?」
「はい、二つです」
ウフフーとサビナは微笑み、タロウもニヤリと適当な笑みを浮かべた、
「あのですね、服飾に関してなんですが、あの遊女さんの服が終わったら新しい技術を教えるとかなんとか言ってたじゃないですか」
サビナはここは聞きだしてしまえと強引に続けた、どうやらタロウに遠慮は不用である、なによりタロウ自身が無遠慮な人間であったりする、少しは周りに気を遣えとユーリはブツクサ言っていたりするが、最終的には興味深い結果を得られている以上文句も言えなかったりする、
「あったねー」
「どういう感じなんですか?」
「どういう感じって・・・んー、どうしようかな、もう少し落ち着いて・・・そだね、マフダさんが新しい服を作り上げてからでもいいかなって思ってるんだけど」
タロウらしい勿体ぶり方である、どうにもこの男は考えていないようで考えているらしい、もしくはあくまで自己中なのであろう、それだからこっちの身が持たないのだなとサビナは目を細める、
「簡単に言うとね・・・まぁ、見せられればそれが一番理解が早いんだが・・・」
とタロウは真面目に説明するかとサビナの対面の席に腰を落ち着けると、
「君達が使う型紙ってさ、基本一緒でしょ」
「型紙・・・はい、一緒というか、そう大きくは変わらないですね」
「そうだよね、男も女も子供も老人も一緒」
「ですね」
「うん、で、これは店で売ってる服に限定されるんだろうけど、それを買って来て、自分達で調整して着てるよね」
「そう、ですね、はい、その通りです」
「そうなるとだ・・・どうしてもこう野暮ったくなる、服の方がどうしても大きくて、で、こう・・・なんていうか体に大してボサッと覆いかぶさる感じ?」
タロウは自分の体を見下ろして裾のあたりを摘まんで見せる、サビナからすればそれが服であり、そういうものでしか無かった、タロウに教えられたチャイナドレスは衝撃的な品であったが、あれも結局は型紙が一つで個々人には別途調整して着付けている、そうするのが当然で当たり前だからであり、また、平民の着る服なんて擦り切れるまで大事に着るもので、親が着た服を調整して子供に着せ、その子供が大きくなったらさらに小さい子供に着せ、最終的には襤褸雑巾として使う、それが服の一生であったりする、また男女の違いもあまりない、訪問着や正装などであれば男女別に発展しているのであるが、平民服にはその別が無く、体格の近い夫婦などは共有していたりもする、そしてその為にはある程度余裕を持って作られており、タロウの言うボサッとした外観になるのは致し方ない事であった、
「それはだって、そういうもんですよ・・・」
「だね、なんだけど・・・だから、俺が教える・・・っていったらおこがましいんだけどさ、提案したい技術はね、より、こう体に密着した服装なんだな、訪問着とか正装とかもその技術であればもっとこう、綺麗な見た目?スッとした感じになるよ、この間のあれみたいに」
「それです、それを教えて欲しいです」
サビナがキッとタロウを睨みつける、
「うん、じゃ、どうしようかな・・・サビナさんも忙しいでしょ」
「これはこれです、私としても興味があります」
「そう?じゃ、明日改めてって事で良い?ほら、どうせやるならね、マフダさんとかも同席してもらった方が早いし・・・あっ、姫様も巻き込むって言っちゃったんだよね・・・」
「姫様?パトリシア様ですか?」
「うん、なんか捕まって・・・逃げれなくなって・・・うん」
思いっきり顔を顰めるタロウである、それはそれで大変に不敬だなと思うサビナであるが、流石のタロウもパトリシアには形無しなのであろう、これはまた一つ弱点を握ったかなとサビナはニヤリとほくそ笑み、
「そういう事ならちゃんと場所を作りますよ、明日でも明後日でも」
「そだね・・・でも、明日あたりはバタバタと騒がしそうだけど・・・まぁ、いいさ、サビナさんに任せるよ、前日に声を掛けてくれれば対応するよ」
何とも大人らしい事を口にするタロウである、はいとサビナは微笑み、これは逃がすわけには行かないなとその段取りを考えつつ、
「で、まったくの別件なんですが」
と話題を変えた。
「あっ、こちらでしたか」
サビナとタロウが話し込んでいる所にアフラがスッと顔を出した、
「あらっ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
タロウが振り返り、サビナもつられてそう口にするが、ん?と疑問を感じて腰を上げた、相手はアフラである、とてもではないがお疲れ様などと適当な挨拶で済ませて良い相手ではない、
「えっと、すいません、御無礼を」
しかしどう挨拶すればいいのか判断できず、慌てて頭を下げた、エッとタロウがサビナを見上げ、
「構いませんよ、堅苦しくされるよりは全然いいです」
逆にアフラも恐縮してしまっている、
「ですけど・・・」
「気にしないで下さい、それよりも」
とアフラはタロウに向かい、
「イザーク軍団長補佐を待たせております、打合せが可能なのですが、如何致しますか」
と問いかけた、
「あっ、ホント、早いね、会議は終わった?」
「はい」
「じゃ、行くよ」
とタロウはサッと腰を上げ、
「どこ?」
「イフナース様のお屋敷です」
「エッ、なんでまた?」
「エレインさんのお見舞いにマリア様がいらっしゃっておりまして、イフナース殿下も興味があるとかなんとか」
「そういう事か・・・殿下、暇なの?さっきも一緒だったんだけどさ」
と何とも明け透けな疑問を口にするタロウである、サビナはそれは流石にとタロウを睨みつけてしまった、
「今日までは」
しかしアフラはニヤリと微笑む、何とも含みのある笑みである、
「そっか、そういう事ね」
「はい、そういう事です、あっ・・・ついでなのですが、殿下の修行の成果も確認頂きたいと思うのですが」
「それもあったね、どう?順調?」
「はい、私とリンドさんの見る所、それなりかと思います」
「そっか・・・うん、じゃ、今日はそっちかな」
とタロウはサッサと階段へ向かう、サビナは、
「あっ、すいませんアフラさん」
とタロウに続きかけたアフラを呼び止め、
「先程タロウさんと話しまして、新しい服飾の技術についてなんですが」
と恐る恐ると口にする、途端、アフラの瞳がキラリと輝き、
「はい、なんでしょう」
とキッとサビナを睨むアフラであった、そうしてタロウはのほほんとイフナースの屋敷へ向かう、アフラがついて来ていない事に気付いたのは屋敷に入った時で、まぁ別にいいかと、屋敷の転送陣が並ぶ部屋の衛兵に声を掛けた、すぐにメイドが迎えに来て通された部屋では、
「むぉっ、まて、イージス、それは待て」
「駄目です、サイコロの目は絶対です」
「絶対なのー」
「いや、そこはだな、加減というものが必要でな」
「父上、往生際が悪いです」
「悪いですー」
「ダッハッハ、なんだ、軍団長補佐とあろう者が命乞いか」
「殿下、それは手厳しい」
「手厳しいものか、ほれ、次だ」
「うん」
とミナがピョンと飛び跳ね賽を転がし、
「ん、猫のマス、イース様勝負だ」
「ふふん、簡単には捕まらんぞ」
と何とも賑やかである、あー双六持って来たのかとタロウは瞬時に気付いた、そしてどうやらそれを囲んでいるのがイフナースとイザーク、イージスにミナである、マリアと乳母が興味深そうに覗き込んでおり、レインはつまらなそうに寝台に寝そべり眺めている、
「あら、来たの?」
その一団とは離れていたソフィアがタロウに気付き、隣に座るエレインはマリエッテを抱いてニコニコと楽しそうにしていた、
「おう、なに?エレインさん倒れたって?」
「そうなのよ」
「すいません、御心配おかけして」
マリエッテの小さな手を振ってその頭の後ろに恥ずかしそうに隠れるエレインであった、
「いやいや、大事が無いならいいよ、心労かな」
「そうなのよ、寝不足もあったみたい、もっとあれね、ユーリみたいに肝を太くしないと駄目ね」
「アッハッハ、お前さんの肝でもいいんじゃないか?」
「何よ、失礼ねー」
と何とも呑気な会話である、タロウはエレインの様子に小さく安堵しつつもう少し気を配れるようにならないとなと反省する、これが中々に難しい、自分は周囲の見えない狭量な子供では無く立派な大人なのである、しかし年を経るにつれ、はて大人とは何だろうと考え、それも考えなくなってふとこれが大人なのかなと気付いた、しかし、客観的に考えるにどうにも子供の頃に感じていた大人では無いように思う、大人とはもう少し賢く目端が利き、落ち着いた存在であったと思うが、そんな大人になっているかと自問すれば否であった、困ったものである、
「おう、タロウが来たな、レイン、代われ」
とイフナースが寝台から立ち上がり、ウムとイザークも腰を上げる、代わりにマリアが腰掛けた、
「あー、父様負け逃げですかー」
イージスがブーブー騒ぎ出し、
「負け逃げだー」
ミナも調子に乗って囃し立てる、
「なっ・・・口の減らない奴め、仕事が終わったら嫌って程相手してやるからな」
イザークがイージスの頭を撫で回し、
「フフッ、分かりました、お相手します」
嬉しそうに見上げるイージスである、
「でっ、何用なんだ?」
イフナースがやれやれと応接席に腰を下ろした、タロウは大丈夫かなとエレインを伺うが、エレインはマリエッテに集中しているようで気にしていない、それはそれで不敬なのであろうが、まぁそこはイフナースである、まるで気にしてはいないようで、
「すいません、軍団長補佐、お忙しい所」
とイザークには礼を尽くすタロウであった、
「そんなこちらこそです、相談役に御指名頂けるとは望外の栄誉、何なりとお申し付けください」
イザークも近寄りながら笑顔を見せた、見事に硬い言葉である、真面目なその性格が表れていた、
「では、早速」
とタロウはソフィアの隣に腰を落ち着け、イザークはイフナースの隣に座る、
「まずですが」
とタロウはレモンとアロエを懐から取り出すと、訥々と話し始めた。
「あらっ、一人?」
玄関からタロウがヒョイと顔を出すと、食堂内ではサビナが木簡やら黒板やらを並べて上質紙に向かって黙々と何やらやっていた、
「あっ、お帰りなさい」
サビナがウーンと伸びをしながら顔を上げる、
「ミナは?」
「あー、あれです、殿下のお屋敷です」
「へっ、なんで?」
「なんか、エレインさんが倒れたとかなんとかで、ソフィアさんと一応見に行くって、レインちゃんも、なので私は留守番です」
「エッ、マジ?大丈夫?」
「どうでしょう、私はそれしか聞いてないです」
フーッと溜息を吐き出してタロウを見上げるサビナである、
「はて・・・元気そうだったけど・・・」
「そうなんですか?」
「うん、まぁ、朝一で一緒だったんだよ・・・まぁ、ソフィアがいれば何とかなるだろ」
タロウは自分が行くほどではないだろうと首を傾げ、少しゆっくりするかと水差しと湯呑の並んだテーブルに向かう、歩き回って喉が渇いていた、雨が降らないと途端に乾燥気味になる季節である、白湯を手にして暖炉にあたりつつ外套を脱いだ、
「フーッ、しっかり冬だねー」
「そうですねー」
サビナは心無い返事を呟き、さてと作業に戻った、そろそろ学園長の資料のまとめの最終段階である、あれやこれやと振り回されそちらに時間を取られはしたが何とか形になりそうで、今日中にまとめてしまい、明日は誤字脱字の確認、カトカとゾーイに頼んで構成作業のつもりであった、無論ユーリも巻き込むつもりであったりする、そしてそれから学園長の最終確認であった、もう10月も半ばである、今年も終わるなとサビナは思いつつ木軸のガラスペンを手にする、しかし、
「あっ」
とサビナは顔を上げた、
「ん?なんかあった?」
タロウが振り返る、よく見ればその顔は鼻の頭や頬のあたりが赤く染まっている、それだけ外が寒かったという事であろう、
「えっと・・・二つほど・・・」
「二つも?」
「はい、二つです」
ウフフーとサビナは微笑み、タロウもニヤリと適当な笑みを浮かべた、
「あのですね、服飾に関してなんですが、あの遊女さんの服が終わったら新しい技術を教えるとかなんとか言ってたじゃないですか」
サビナはここは聞きだしてしまえと強引に続けた、どうやらタロウに遠慮は不用である、なによりタロウ自身が無遠慮な人間であったりする、少しは周りに気を遣えとユーリはブツクサ言っていたりするが、最終的には興味深い結果を得られている以上文句も言えなかったりする、
「あったねー」
「どういう感じなんですか?」
「どういう感じって・・・んー、どうしようかな、もう少し落ち着いて・・・そだね、マフダさんが新しい服を作り上げてからでもいいかなって思ってるんだけど」
タロウらしい勿体ぶり方である、どうにもこの男は考えていないようで考えているらしい、もしくはあくまで自己中なのであろう、それだからこっちの身が持たないのだなとサビナは目を細める、
「簡単に言うとね・・・まぁ、見せられればそれが一番理解が早いんだが・・・」
とタロウは真面目に説明するかとサビナの対面の席に腰を落ち着けると、
「君達が使う型紙ってさ、基本一緒でしょ」
「型紙・・・はい、一緒というか、そう大きくは変わらないですね」
「そうだよね、男も女も子供も老人も一緒」
「ですね」
「うん、で、これは店で売ってる服に限定されるんだろうけど、それを買って来て、自分達で調整して着てるよね」
「そう、ですね、はい、その通りです」
「そうなるとだ・・・どうしてもこう野暮ったくなる、服の方がどうしても大きくて、で、こう・・・なんていうか体に大してボサッと覆いかぶさる感じ?」
タロウは自分の体を見下ろして裾のあたりを摘まんで見せる、サビナからすればそれが服であり、そういうものでしか無かった、タロウに教えられたチャイナドレスは衝撃的な品であったが、あれも結局は型紙が一つで個々人には別途調整して着付けている、そうするのが当然で当たり前だからであり、また、平民の着る服なんて擦り切れるまで大事に着るもので、親が着た服を調整して子供に着せ、その子供が大きくなったらさらに小さい子供に着せ、最終的には襤褸雑巾として使う、それが服の一生であったりする、また男女の違いもあまりない、訪問着や正装などであれば男女別に発展しているのであるが、平民服にはその別が無く、体格の近い夫婦などは共有していたりもする、そしてその為にはある程度余裕を持って作られており、タロウの言うボサッとした外観になるのは致し方ない事であった、
「それはだって、そういうもんですよ・・・」
「だね、なんだけど・・・だから、俺が教える・・・っていったらおこがましいんだけどさ、提案したい技術はね、より、こう体に密着した服装なんだな、訪問着とか正装とかもその技術であればもっとこう、綺麗な見た目?スッとした感じになるよ、この間のあれみたいに」
「それです、それを教えて欲しいです」
サビナがキッとタロウを睨みつける、
「うん、じゃ、どうしようかな・・・サビナさんも忙しいでしょ」
「これはこれです、私としても興味があります」
「そう?じゃ、明日改めてって事で良い?ほら、どうせやるならね、マフダさんとかも同席してもらった方が早いし・・・あっ、姫様も巻き込むって言っちゃったんだよね・・・」
「姫様?パトリシア様ですか?」
「うん、なんか捕まって・・・逃げれなくなって・・・うん」
思いっきり顔を顰めるタロウである、それはそれで大変に不敬だなと思うサビナであるが、流石のタロウもパトリシアには形無しなのであろう、これはまた一つ弱点を握ったかなとサビナはニヤリとほくそ笑み、
「そういう事ならちゃんと場所を作りますよ、明日でも明後日でも」
「そだね・・・でも、明日あたりはバタバタと騒がしそうだけど・・・まぁ、いいさ、サビナさんに任せるよ、前日に声を掛けてくれれば対応するよ」
何とも大人らしい事を口にするタロウである、はいとサビナは微笑み、これは逃がすわけには行かないなとその段取りを考えつつ、
「で、まったくの別件なんですが」
と話題を変えた。
「あっ、こちらでしたか」
サビナとタロウが話し込んでいる所にアフラがスッと顔を出した、
「あらっ、お疲れ様」
「お疲れ様です」
タロウが振り返り、サビナもつられてそう口にするが、ん?と疑問を感じて腰を上げた、相手はアフラである、とてもではないがお疲れ様などと適当な挨拶で済ませて良い相手ではない、
「えっと、すいません、御無礼を」
しかしどう挨拶すればいいのか判断できず、慌てて頭を下げた、エッとタロウがサビナを見上げ、
「構いませんよ、堅苦しくされるよりは全然いいです」
逆にアフラも恐縮してしまっている、
「ですけど・・・」
「気にしないで下さい、それよりも」
とアフラはタロウに向かい、
「イザーク軍団長補佐を待たせております、打合せが可能なのですが、如何致しますか」
と問いかけた、
「あっ、ホント、早いね、会議は終わった?」
「はい」
「じゃ、行くよ」
とタロウはサッと腰を上げ、
「どこ?」
「イフナース様のお屋敷です」
「エッ、なんでまた?」
「エレインさんのお見舞いにマリア様がいらっしゃっておりまして、イフナース殿下も興味があるとかなんとか」
「そういう事か・・・殿下、暇なの?さっきも一緒だったんだけどさ」
と何とも明け透けな疑問を口にするタロウである、サビナはそれは流石にとタロウを睨みつけてしまった、
「今日までは」
しかしアフラはニヤリと微笑む、何とも含みのある笑みである、
「そっか、そういう事ね」
「はい、そういう事です、あっ・・・ついでなのですが、殿下の修行の成果も確認頂きたいと思うのですが」
「それもあったね、どう?順調?」
「はい、私とリンドさんの見る所、それなりかと思います」
「そっか・・・うん、じゃ、今日はそっちかな」
とタロウはサッサと階段へ向かう、サビナは、
「あっ、すいませんアフラさん」
とタロウに続きかけたアフラを呼び止め、
「先程タロウさんと話しまして、新しい服飾の技術についてなんですが」
と恐る恐ると口にする、途端、アフラの瞳がキラリと輝き、
「はい、なんでしょう」
とキッとサビナを睨むアフラであった、そうしてタロウはのほほんとイフナースの屋敷へ向かう、アフラがついて来ていない事に気付いたのは屋敷に入った時で、まぁ別にいいかと、屋敷の転送陣が並ぶ部屋の衛兵に声を掛けた、すぐにメイドが迎えに来て通された部屋では、
「むぉっ、まて、イージス、それは待て」
「駄目です、サイコロの目は絶対です」
「絶対なのー」
「いや、そこはだな、加減というものが必要でな」
「父上、往生際が悪いです」
「悪いですー」
「ダッハッハ、なんだ、軍団長補佐とあろう者が命乞いか」
「殿下、それは手厳しい」
「手厳しいものか、ほれ、次だ」
「うん」
とミナがピョンと飛び跳ね賽を転がし、
「ん、猫のマス、イース様勝負だ」
「ふふん、簡単には捕まらんぞ」
と何とも賑やかである、あー双六持って来たのかとタロウは瞬時に気付いた、そしてどうやらそれを囲んでいるのがイフナースとイザーク、イージスにミナである、マリアと乳母が興味深そうに覗き込んでおり、レインはつまらなそうに寝台に寝そべり眺めている、
「あら、来たの?」
その一団とは離れていたソフィアがタロウに気付き、隣に座るエレインはマリエッテを抱いてニコニコと楽しそうにしていた、
「おう、なに?エレインさん倒れたって?」
「そうなのよ」
「すいません、御心配おかけして」
マリエッテの小さな手を振ってその頭の後ろに恥ずかしそうに隠れるエレインであった、
「いやいや、大事が無いならいいよ、心労かな」
「そうなのよ、寝不足もあったみたい、もっとあれね、ユーリみたいに肝を太くしないと駄目ね」
「アッハッハ、お前さんの肝でもいいんじゃないか?」
「何よ、失礼ねー」
と何とも呑気な会話である、タロウはエレインの様子に小さく安堵しつつもう少し気を配れるようにならないとなと反省する、これが中々に難しい、自分は周囲の見えない狭量な子供では無く立派な大人なのである、しかし年を経るにつれ、はて大人とは何だろうと考え、それも考えなくなってふとこれが大人なのかなと気付いた、しかし、客観的に考えるにどうにも子供の頃に感じていた大人では無いように思う、大人とはもう少し賢く目端が利き、落ち着いた存在であったと思うが、そんな大人になっているかと自問すれば否であった、困ったものである、
「おう、タロウが来たな、レイン、代われ」
とイフナースが寝台から立ち上がり、ウムとイザークも腰を上げる、代わりにマリアが腰掛けた、
「あー、父様負け逃げですかー」
イージスがブーブー騒ぎ出し、
「負け逃げだー」
ミナも調子に乗って囃し立てる、
「なっ・・・口の減らない奴め、仕事が終わったら嫌って程相手してやるからな」
イザークがイージスの頭を撫で回し、
「フフッ、分かりました、お相手します」
嬉しそうに見上げるイージスである、
「でっ、何用なんだ?」
イフナースがやれやれと応接席に腰を下ろした、タロウは大丈夫かなとエレインを伺うが、エレインはマリエッテに集中しているようで気にしていない、それはそれで不敬なのであろうが、まぁそこはイフナースである、まるで気にしてはいないようで、
「すいません、軍団長補佐、お忙しい所」
とイザークには礼を尽くすタロウであった、
「そんなこちらこそです、相談役に御指名頂けるとは望外の栄誉、何なりとお申し付けください」
イザークも近寄りながら笑顔を見せた、見事に硬い言葉である、真面目なその性格が表れていた、
「では、早速」
とタロウはソフィアの隣に腰を落ち着け、イザークはイフナースの隣に座る、
「まずですが」
とタロウはレモンとアロエを懐から取り出すと、訥々と話し始めた。
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アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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