957 / 1,445
本編
71話 晩餐会、そして その38
しおりを挟む
「何を言っている、まったくお陰でこっちは忙しかったんだよ、で、タロウ、イフナースの修行の方、どう思う?」
とクロノスは真面目な顔である、あっこれはふざけては駄目な雰囲気だなと大人達はゆっくりと腰を下ろした、
「ん?充分だと思うよ、完璧とは言えないけどね、使える状態には仕上がっている」
タロウが静かに答えた、天幕での打合せの後、タロウはアフラと共にイフナースの修行の成果を確認している、初日以降なんだかんだでアフラとリンドに任せっきりになっていたのであるが、どうやらタロウの考える程度には制御できるようになっているらしい、大したもんだとタロウは素直にイフナースを褒め、アフラとリンドの地道な努力を讃えている、
「そうか、そうなると・・・あれか、転送陣の起動も任せられるか?」
「恐らくな、あれもほれ、大量に一気に流すのが良くないのであって、その塩梅が分ればいいだけだ、知ってるだろ?」
「勿論だ、そうなると・・・」
クロノスは背後のリンドを振り仰ぎ、リンドは小さく頷く、
「イフナース、どうする、人事の問題がでてきていてな、お前、王都に常駐するか?」
「はっ?」
とイフナースは不思議そうに目を丸くした、突然の事であり、何故そうなるのかがまるで理解できない、
「はっ、じゃねえよ、あれを使える人材がおらんのだ、使える者はな、誰であっても扱き使う、陛下とも話してそうなった」
「待て、聞いてないぞ」
「だから、今言ってるんだよ」
どうやらクロノスは若干御立腹らしい、普段の自信と余裕に溢れ、他人をすぐに茶化しだす悪癖が微塵も感じられられない、その背後のリンドも厳しい顔つきで、これは少しばかり雲行きが怪しいなと研究所の面々は顔を見合わせ、イザークもゆっくりと背筋を伸ばしている、
「・・・あのな・・・」
クロノスは鼻息を荒くしてジットリとイフナースを睨みつけ、しかし、ここは言葉を選ぶべきかと黙り込む、
「あっ、じゃ、私達は席を外しますね」
とユーリがこれは場違いであろうなとグラスを片手に腰を上げ、サビナ達もそれが良さそうだと腰を上げる、
「ん・・・悪いな、いや、ユーリお前は残れ」
エッと固まるユーリである、何気にクロノスは怒ると怖い、普段から適当にからかってはいるが、それはクロノスがそれを許容し、またそういう仲でもある為だからで、冒険者時代にまだそれほど仲が良く無かった頃はよく怒鳴られていたものである、特にユーリもソフィアもあくまで冒険者でしかなく、タロウに至っては口は達者で知識はあるが経験が無いのはまるわかりで、クロノスから見ればこと戦争に関してはまるっきりの素人であった、命を懸けた戦場という場にあって、その適当さには我慢出来なかったのである、
「すいません、では私達は・・・」
とサビナとカトカ、ゾーイが小さく一礼し食堂へ下りた、グラスはしっかり手にしているあたり、流石ユーリの弟子である、
「なんだよ・・・めんどくさい」
イフナースがグラスを呷って目を細める、
「・・・二点ある」
クロノスは自分の膝に肘を置いて手を組んだ、あー・・・これは本格的な説教になるなとユーリとタロウは覚悟を決め、イザークはいよいよ顔を強張らせてしまった、
「今日のあれだ、タロウの扱いに関してだ」
「それは別に構わんだろ」
「いや、違う、はっきり言うが、軍に関する事でこいつを頼りすぎるのは駄目だ、危険な上に適当過ぎる」
本人を前にしてクロノスはハッキリと言い切った、えーとタロウは口を尖らせるも、まぁクロノスがそう考えているのであればこちらとしても都合が良いかと思い直す、タロウ自身も協力するにやぶさかではないが、積極的では無かった、特に軍事に関しては距離を置きたいと考えている、ガッツリと首を突っ込んでしまってはいるのであるが、
「どういう意味だ」
「そのままだよ、こいつはな、博識だし、便利だ、適当だがやる事はやる、挙句に異常だ、特に魔法に関してはな、無論他にもあるが、とにかく異質で、尋常ではない、それはお前も理解していると思うがな」
何て言い草だとタロウは瞑目する、一言も言い返せないのが何とも悲しい、
「陛下もな、あれを子飼いにするのは無理だと明言している、俺もそう思う、故に王族の相談役なのだ、王国の相談役ではない、この意味はお前であれば分かるだろ」
「・・・確かにそうだがさ・・・」
「そこに意味があるんだよ、考えろ、陛下はな、王族が個人を頼みにするのは構わないが、王国が個人に裁量を委ねるような事態や、個人の力量で差配される事はあってはならない、そう考えていらっしゃるんだ、だから、王族の相談役なんだよ」
へーなるほどなーとユーリは理解し、イザークもそういう事なのかと腑に落ちた、確かにタロウは王族の相談役との肩書で、それはあくまで肩書であって役職では無く、他にも数人いる相談役と同格な訳で、さらには王国の相談役も実は別に存在する、しかし彼らはしっかりとした役職があり仕事があり正規の肩書を持っている、王国の相談役として名が上がる時にはあくまで専門家としての意見聴取に留まっていた筈であった、
「・・・理解はしているよ」
「だろうな、お前さんはガキの頃から叩き込まれているだろうからな・・・で、もう一点だ、こっちのが重要なんだが、軍はな、あくまで組織として動かなければならん、個人を軸にした戦術や戦略など以ての外だ」
「それも理解しているよ」
「いいや、していない、今日のあれはなんだ、まんまこいつの異常さに乗っかった策ではないか、メインデルトもアンドリースも呆れていたぞ、お前の手前誰も何も言わなかったし、確かにあらゆる意味で便利にはなる、文句の付けようもない、だがな、個人に頼りすぎるのだ、そうならないようにリンドもロキュスも動いていたものを、引っかき回した事になるのだぞ」
ヘー、あの先生やる事やってたんだーとユーリとタロウは驚いた、そう言えば暫く顔を見ていない、どうやら王都で頑張っているらしい、まぁ、転送陣やら光柱やらと研究材料は大量に持ち帰っている、それらを弄繰り回すだけでも時間は足りない事であろう、
「だから、それはだな」
「言い分は分かる、こいつの目的も聞いた、軍としても有難い事この上無い、しかしだ、何度も言うが軍は組織で動くのだ、それを一番上のお前が引っかき回すのは駄目だ、今日の提言でリンドはまだしもロキュスの顔を潰す事になり、軍団長の指示も計画もひっくり返す事になる、これはな、その下の官僚、事務官、将兵に至る迄不信感を与えかねない、それほどの愚行なのだ、いいか、これがな、例えばイザークがこういう案もあると言い出しならまだ話しは違う、お前が言い出したのが問題なんだ、戦の中心で、総大将たるお前が思い付きで作戦を変える男だとなったら、誰もお前の言う事を真に受けなくなる、それどころか無視する事もあるだろう、迅速に動くべき時にも動けなくなる、その経験はあるだろ、お前でも」
「・・・そうだが・・・」
「いいか、お前の立場は魔族大戦時の兄貴の腰巾着では無いんだよ、一国の命運を背負っているんだ、責任が大きく異なる、それを忘れるな」
クロノスとしては珍しい理屈っぽい説教であった、ユーリはあらこいう怒り方も出来るんだとクロノスその人の成長に感心してしまう、その昔は感情に任せて怒鳴り散らしていた記憶があった、どうやらクロノスも為政者として大人として鍛えられたらしい、
「・・・まぁ・・・確かにな・・・」
イフナースはフンと鼻息を吐き出して、渋々と認めたらしい、確かに今日は少々浮ついていた、いや、ここ数日、なんだかんだと忙しく、周囲が見えていなかったかもしれない、エレインの一件然り、今日のこれ然りである、
「分かればいい、策の変更自体はよくある事だし、いざとなったらタロウに頼むかと俺もリンドも考えてはいた」
エッとタロウが顔を上げ、
「なんだよ、だったら同じだろ」
とイフナースがクロノスを睨む、
「同じなものか、やるだけやってどうしようもなくなったらって事だよ、最終手段は常に用意しておくものだ、こいつはな最終手段なんだ」
エッと再びタロウは驚いた、そういう扱いだったのかと口をへの字に曲げてしまう、
「・・・それはそれでどうかしら・・・」
ユーリも思わず呟いてしまう、しかし、
「まぁ・・・あんたの気持ちは分かるけど・・・」
とクロノスの一睨みで黙り込む、
「ふー・・・まぁ、そういう訳でな、説教は得意じゃない、この程度にしておくが・・・あれだ、お前、少し落ち着きが無いぞ、どうかしたか?」
クロノスはスッと肩の力を抜き背筋を伸ばした、
「それは・・・まずな・・・」
イフナースは素直に認めざるを得ない、自分も今さっきそう感じた事なのである、
「まぁ・・・第六がこっちに着いたらちゃんとした副官を選べ、なんなら俺から推挙してもいい、やはり軍関係の副官がいないとどうしてもな、ブレフトだけでは難しいだろ」
「それは前にも言われている」
「だな、まぁ、それまでは少し自重しろ、その程度が丁度いいもんだ、俺もな、リンドによく怒鳴られたもんだよ」
リンドがニヤリと微笑む、その笑みにイフナースは苦笑いで答えた、リンドも怒ったら怖そうだなーとユーリとタロウは目を細める、
「まぁ・・・こうやって叱ってくれる人がいるのはありがたいんだがな・・・そうだ、イザークお前少しの間イフナースに付いてくれ」
突然の指名にエッと驚くイザークであった、
「お前さんも暇じゃないのは知っているが他に良さそうなのがおらん、お前さんなら実戦も事務も把握している、なに、後任が決まるまでの10日かその程度だ、どうせあれだ、転送陣の設置やら何やらでタロウとイフナースに付きっきりになるだろ、こいつの暴走を諫めろ」
「ハッ、はい、命令とあれば・・・ですが、軍団長の許可を得ませんと・・・」
「俺から話しておく、なにイフナースと仕事をするときだけだ、通達も出しておく、足を引っ張れってのは表現が違うが、丁度良い重しになれ、お前さんなら出来るだろ」
ジッとイザークを睨むクロノスである、その無言の圧力にイザークはこれは本気のようだと理解し、
「ハッ、確かに承りました」
バッと立ち上がり軍人式の敬礼である、
「ヨシッ、それでいい、イフナース、暫くはイザークを頼れ、こいつが何か言い出しても一旦イザークと相談しろ、決して逸るな、お前の為にならん」
こいつとはタロウの事であろう、俺ってそんなに信用ないのかなとタロウは首を傾げるが、ユーリはニヤニヤと微笑んでいる、
「・・・わかった、そうしよう」
イフナースは静かに頷いた、イフナースも確かに自分が足りない事は自覚している、少しばかり調子に乗っていたのも事実で、それは恐らく体調の良さとか魔法修行が上手く行っている事から来ているのであろうかとも思う、そしてまたやたらと持ち上げられてしまっていることもあった、荒野での騒動以降顔を合わせるあらゆる人物から祝福の言葉を贈られ、チヤホヤされてしまっていた、確かにここはより自重し、慎重にならなければならかったと思う、その隣りでユーリは随分素直な王子様だなと片眉を上げた、ボニファースもそうなのであるがどうにも王族の方々は思慮深い、その立場も重責もあっての事であろう、それはそれで王国民としては大変に結構な事である、能天気で奔放、さらに暴力的な王様なんぞ目も当てられない、クロノスでさえその環境に感化されたのかリンドの教育の賜物か随分と理知的になっている、環境が人を育てるのであろうか、大変に興味深いなと無礼な事を考えてしまった、
「うん、でだ、ここからは相談だ」
とクロノスは視線でイザークに座るように促し、イザークは即座に着席する、軍人だなーとタロウはのほほんとしていると、
「タロウ、ユーリ、人材の確保が急務なのだ、知恵を貸せ」
クロノスの強い視線が二人を襲い、今度はこっちかよと嫌そうに顔を歪める二人であった。
とクロノスは真面目な顔である、あっこれはふざけては駄目な雰囲気だなと大人達はゆっくりと腰を下ろした、
「ん?充分だと思うよ、完璧とは言えないけどね、使える状態には仕上がっている」
タロウが静かに答えた、天幕での打合せの後、タロウはアフラと共にイフナースの修行の成果を確認している、初日以降なんだかんだでアフラとリンドに任せっきりになっていたのであるが、どうやらタロウの考える程度には制御できるようになっているらしい、大したもんだとタロウは素直にイフナースを褒め、アフラとリンドの地道な努力を讃えている、
「そうか、そうなると・・・あれか、転送陣の起動も任せられるか?」
「恐らくな、あれもほれ、大量に一気に流すのが良くないのであって、その塩梅が分ればいいだけだ、知ってるだろ?」
「勿論だ、そうなると・・・」
クロノスは背後のリンドを振り仰ぎ、リンドは小さく頷く、
「イフナース、どうする、人事の問題がでてきていてな、お前、王都に常駐するか?」
「はっ?」
とイフナースは不思議そうに目を丸くした、突然の事であり、何故そうなるのかがまるで理解できない、
「はっ、じゃねえよ、あれを使える人材がおらんのだ、使える者はな、誰であっても扱き使う、陛下とも話してそうなった」
「待て、聞いてないぞ」
「だから、今言ってるんだよ」
どうやらクロノスは若干御立腹らしい、普段の自信と余裕に溢れ、他人をすぐに茶化しだす悪癖が微塵も感じられられない、その背後のリンドも厳しい顔つきで、これは少しばかり雲行きが怪しいなと研究所の面々は顔を見合わせ、イザークもゆっくりと背筋を伸ばしている、
「・・・あのな・・・」
クロノスは鼻息を荒くしてジットリとイフナースを睨みつけ、しかし、ここは言葉を選ぶべきかと黙り込む、
「あっ、じゃ、私達は席を外しますね」
とユーリがこれは場違いであろうなとグラスを片手に腰を上げ、サビナ達もそれが良さそうだと腰を上げる、
「ん・・・悪いな、いや、ユーリお前は残れ」
エッと固まるユーリである、何気にクロノスは怒ると怖い、普段から適当にからかってはいるが、それはクロノスがそれを許容し、またそういう仲でもある為だからで、冒険者時代にまだそれほど仲が良く無かった頃はよく怒鳴られていたものである、特にユーリもソフィアもあくまで冒険者でしかなく、タロウに至っては口は達者で知識はあるが経験が無いのはまるわかりで、クロノスから見ればこと戦争に関してはまるっきりの素人であった、命を懸けた戦場という場にあって、その適当さには我慢出来なかったのである、
「すいません、では私達は・・・」
とサビナとカトカ、ゾーイが小さく一礼し食堂へ下りた、グラスはしっかり手にしているあたり、流石ユーリの弟子である、
「なんだよ・・・めんどくさい」
イフナースがグラスを呷って目を細める、
「・・・二点ある」
クロノスは自分の膝に肘を置いて手を組んだ、あー・・・これは本格的な説教になるなとユーリとタロウは覚悟を決め、イザークはいよいよ顔を強張らせてしまった、
「今日のあれだ、タロウの扱いに関してだ」
「それは別に構わんだろ」
「いや、違う、はっきり言うが、軍に関する事でこいつを頼りすぎるのは駄目だ、危険な上に適当過ぎる」
本人を前にしてクロノスはハッキリと言い切った、えーとタロウは口を尖らせるも、まぁクロノスがそう考えているのであればこちらとしても都合が良いかと思い直す、タロウ自身も協力するにやぶさかではないが、積極的では無かった、特に軍事に関しては距離を置きたいと考えている、ガッツリと首を突っ込んでしまってはいるのであるが、
「どういう意味だ」
「そのままだよ、こいつはな、博識だし、便利だ、適当だがやる事はやる、挙句に異常だ、特に魔法に関してはな、無論他にもあるが、とにかく異質で、尋常ではない、それはお前も理解していると思うがな」
何て言い草だとタロウは瞑目する、一言も言い返せないのが何とも悲しい、
「陛下もな、あれを子飼いにするのは無理だと明言している、俺もそう思う、故に王族の相談役なのだ、王国の相談役ではない、この意味はお前であれば分かるだろ」
「・・・確かにそうだがさ・・・」
「そこに意味があるんだよ、考えろ、陛下はな、王族が個人を頼みにするのは構わないが、王国が個人に裁量を委ねるような事態や、個人の力量で差配される事はあってはならない、そう考えていらっしゃるんだ、だから、王族の相談役なんだよ」
へーなるほどなーとユーリは理解し、イザークもそういう事なのかと腑に落ちた、確かにタロウは王族の相談役との肩書で、それはあくまで肩書であって役職では無く、他にも数人いる相談役と同格な訳で、さらには王国の相談役も実は別に存在する、しかし彼らはしっかりとした役職があり仕事があり正規の肩書を持っている、王国の相談役として名が上がる時にはあくまで専門家としての意見聴取に留まっていた筈であった、
「・・・理解はしているよ」
「だろうな、お前さんはガキの頃から叩き込まれているだろうからな・・・で、もう一点だ、こっちのが重要なんだが、軍はな、あくまで組織として動かなければならん、個人を軸にした戦術や戦略など以ての外だ」
「それも理解しているよ」
「いいや、していない、今日のあれはなんだ、まんまこいつの異常さに乗っかった策ではないか、メインデルトもアンドリースも呆れていたぞ、お前の手前誰も何も言わなかったし、確かにあらゆる意味で便利にはなる、文句の付けようもない、だがな、個人に頼りすぎるのだ、そうならないようにリンドもロキュスも動いていたものを、引っかき回した事になるのだぞ」
ヘー、あの先生やる事やってたんだーとユーリとタロウは驚いた、そう言えば暫く顔を見ていない、どうやら王都で頑張っているらしい、まぁ、転送陣やら光柱やらと研究材料は大量に持ち帰っている、それらを弄繰り回すだけでも時間は足りない事であろう、
「だから、それはだな」
「言い分は分かる、こいつの目的も聞いた、軍としても有難い事この上無い、しかしだ、何度も言うが軍は組織で動くのだ、それを一番上のお前が引っかき回すのは駄目だ、今日の提言でリンドはまだしもロキュスの顔を潰す事になり、軍団長の指示も計画もひっくり返す事になる、これはな、その下の官僚、事務官、将兵に至る迄不信感を与えかねない、それほどの愚行なのだ、いいか、これがな、例えばイザークがこういう案もあると言い出しならまだ話しは違う、お前が言い出したのが問題なんだ、戦の中心で、総大将たるお前が思い付きで作戦を変える男だとなったら、誰もお前の言う事を真に受けなくなる、それどころか無視する事もあるだろう、迅速に動くべき時にも動けなくなる、その経験はあるだろ、お前でも」
「・・・そうだが・・・」
「いいか、お前の立場は魔族大戦時の兄貴の腰巾着では無いんだよ、一国の命運を背負っているんだ、責任が大きく異なる、それを忘れるな」
クロノスとしては珍しい理屈っぽい説教であった、ユーリはあらこいう怒り方も出来るんだとクロノスその人の成長に感心してしまう、その昔は感情に任せて怒鳴り散らしていた記憶があった、どうやらクロノスも為政者として大人として鍛えられたらしい、
「・・・まぁ・・・確かにな・・・」
イフナースはフンと鼻息を吐き出して、渋々と認めたらしい、確かに今日は少々浮ついていた、いや、ここ数日、なんだかんだと忙しく、周囲が見えていなかったかもしれない、エレインの一件然り、今日のこれ然りである、
「分かればいい、策の変更自体はよくある事だし、いざとなったらタロウに頼むかと俺もリンドも考えてはいた」
エッとタロウが顔を上げ、
「なんだよ、だったら同じだろ」
とイフナースがクロノスを睨む、
「同じなものか、やるだけやってどうしようもなくなったらって事だよ、最終手段は常に用意しておくものだ、こいつはな最終手段なんだ」
エッと再びタロウは驚いた、そういう扱いだったのかと口をへの字に曲げてしまう、
「・・・それはそれでどうかしら・・・」
ユーリも思わず呟いてしまう、しかし、
「まぁ・・・あんたの気持ちは分かるけど・・・」
とクロノスの一睨みで黙り込む、
「ふー・・・まぁ、そういう訳でな、説教は得意じゃない、この程度にしておくが・・・あれだ、お前、少し落ち着きが無いぞ、どうかしたか?」
クロノスはスッと肩の力を抜き背筋を伸ばした、
「それは・・・まずな・・・」
イフナースは素直に認めざるを得ない、自分も今さっきそう感じた事なのである、
「まぁ・・・第六がこっちに着いたらちゃんとした副官を選べ、なんなら俺から推挙してもいい、やはり軍関係の副官がいないとどうしてもな、ブレフトだけでは難しいだろ」
「それは前にも言われている」
「だな、まぁ、それまでは少し自重しろ、その程度が丁度いいもんだ、俺もな、リンドによく怒鳴られたもんだよ」
リンドがニヤリと微笑む、その笑みにイフナースは苦笑いで答えた、リンドも怒ったら怖そうだなーとユーリとタロウは目を細める、
「まぁ・・・こうやって叱ってくれる人がいるのはありがたいんだがな・・・そうだ、イザークお前少しの間イフナースに付いてくれ」
突然の指名にエッと驚くイザークであった、
「お前さんも暇じゃないのは知っているが他に良さそうなのがおらん、お前さんなら実戦も事務も把握している、なに、後任が決まるまでの10日かその程度だ、どうせあれだ、転送陣の設置やら何やらでタロウとイフナースに付きっきりになるだろ、こいつの暴走を諫めろ」
「ハッ、はい、命令とあれば・・・ですが、軍団長の許可を得ませんと・・・」
「俺から話しておく、なにイフナースと仕事をするときだけだ、通達も出しておく、足を引っ張れってのは表現が違うが、丁度良い重しになれ、お前さんなら出来るだろ」
ジッとイザークを睨むクロノスである、その無言の圧力にイザークはこれは本気のようだと理解し、
「ハッ、確かに承りました」
バッと立ち上がり軍人式の敬礼である、
「ヨシッ、それでいい、イフナース、暫くはイザークを頼れ、こいつが何か言い出しても一旦イザークと相談しろ、決して逸るな、お前の為にならん」
こいつとはタロウの事であろう、俺ってそんなに信用ないのかなとタロウは首を傾げるが、ユーリはニヤニヤと微笑んでいる、
「・・・わかった、そうしよう」
イフナースは静かに頷いた、イフナースも確かに自分が足りない事は自覚している、少しばかり調子に乗っていたのも事実で、それは恐らく体調の良さとか魔法修行が上手く行っている事から来ているのであろうかとも思う、そしてまたやたらと持ち上げられてしまっていることもあった、荒野での騒動以降顔を合わせるあらゆる人物から祝福の言葉を贈られ、チヤホヤされてしまっていた、確かにここはより自重し、慎重にならなければならかったと思う、その隣りでユーリは随分素直な王子様だなと片眉を上げた、ボニファースもそうなのであるがどうにも王族の方々は思慮深い、その立場も重責もあっての事であろう、それはそれで王国民としては大変に結構な事である、能天気で奔放、さらに暴力的な王様なんぞ目も当てられない、クロノスでさえその環境に感化されたのかリンドの教育の賜物か随分と理知的になっている、環境が人を育てるのであろうか、大変に興味深いなと無礼な事を考えてしまった、
「うん、でだ、ここからは相談だ」
とクロノスは視線でイザークに座るように促し、イザークは即座に着席する、軍人だなーとタロウはのほほんとしていると、
「タロウ、ユーリ、人材の確保が急務なのだ、知恵を貸せ」
クロノスの強い視線が二人を襲い、今度はこっちかよと嫌そうに顔を歪める二人であった。
1
あなたにおすすめの小説
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
クラスで異世界召喚する前にスキルの検証に30年貰ってもいいですか?
ばふぉりん
ファンタジー
中学三年のある朝、突然教室が光だし、光が収まるとそこには女神様が!
「貴方達は異世界へと勇者召喚されましたが、そのままでは忍びないのでなんとか召喚に割り込みをかけあちらの世界にあった身体へ変換させると共にスキルを与えます。更に何か願いを叶えてあげましょう。これも召喚を止められなかった詫びとします」
「それでは女神様、どんなスキルかわからないまま行くのは不安なので検証期間を30年頂いてもよろしいですか?」
これはスキルを使いこなせないまま召喚された者と、使いこなし過ぎた者の異世界物語である。
<前作ラストで書いた(本当に描きたかったこと)をやってみようと思ったセルフスピンオフです!うまく行くかどうかはホント不安でしかありませんが、表現方法とか教えて頂けると幸いです>
注)本作品は横書きで書いており、顔文字も所々で顔を出してきますので、横読み?推奨です。
(読者様から縦書きだと顔文字が!という指摘を頂きましたので、注意書をと。ただ、表現たとして顔文字を出しているで、顔を出してた時には一通り読み終わった後で横書きで見て頂けると嬉しいです)
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる