セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

今卓&

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本編

71話 晩餐会、そして その40

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それから夕食後となる、今日の夕食はミナとイージスがはしゃぎまくりマリエッテの存在もあった為か、昼間の陰鬱とした雰囲気は一切無い普段通りの明るく姦しいもので、さらにはその名も猛きクロノスとイフナースが二階で酒を飲んでいるとなれば、まだそれだけの余裕があるのだなと食堂の生徒達に安心感を与えたようだ、ソフィアとしてはこれでいいのよと満足そうで、特に暗い顔をしていたテラやグルジアもその雰囲気に飲まれたのか笑顔を見せている、テラなどは食事を終えて二階の飲み会に合流する始末で、流石にエレインはマリエッテの側から断固として動かなかった、久しぶりに顔を出したマリア達は存分に食事と会話を楽しんで帰途についており、クロノスとイフナース、イザークも酒に満足し御機嫌で風呂も堪能したようだ、そして、

「あら、まだ起きてたの?」

ユーリがフラリと食堂に下りるとソフィアが寝台で大の字になるミナに毛布を掛けている所であった、

「ん?お疲れさん」

とソフィアが顔を上げた、すっかり夜も更け、光柱の灯りも一つだけになっている、最近ではこのまま朝まで一つだけ点けている事が多い、食堂の灯りは薄っすらと階段から二階にも届いており、二階のホールにももう一本の光柱が輝いている、夜トイレに抜け出す生徒達があったら嬉しいとの事でそうなっていた、

「お疲れさん、あら、レインは向こうで寝てるの?」

と寝台の上にいる筈のもう一人の子供の姿が無い事にユーリは片眉を上げる、

「そうみたいねー、ほら、ミナの寝相が悪いから、二人一緒の寝台はいやじゃーって言ってたかなー」

ソフィアは適当に誤魔化した、恐らくレインは裏山である、睡眠を必要としないレインにとっては夜こそが一人となって思い通りに過ごせる時間で、ソフィアもタロウもどこでなにをしているかなど把握していないし、そのつもりも無い、

「そっ・・・まぁ、そんな事もあるか」

いつもベッタリと二人は一緒なのである、夜ぐらいは離れても良かろうなとユーリは思う、

「あっ、ジャネットさん達に聞いたけど、あんた何か言ったの?」

ソフィアが今日も終わりだわねーと近場の席に腰掛けた、

「ん?まぁね、なんかほら、生徒達が暗くなってさ、そりゃいきなり戦争だなんだって言われたら暗くもなるもんだけど・・・それでもね、やる事もやれる事もあるんだから、忙しくなるぞってね、そういう感じの事・・・」

ユーリが水差しを手にした、どうやら水を飲みに来たらしい、

「そっか、まぁ、その程度よね」

「そういう事よ」

湯呑に注いだ白湯をグイッとユーリは煽る、ソーダ水とレモンで割ったウィスキーはエレインの惨状を目にしていた事もあり、かなり自制して楽しんだ、カトカ達も控え目で、故に今日の飲み会は酒を楽しむには丁度良いと思われる程度の酔い方で終わった、なんとも上品で大人な嗜み方であったのである、

「あっ、でね、あんたどこまで聞いてるの?」

「なにを?」

「その戦争の事、ブラスさんとかフィロメナさんも何か聞いてるんじゃないかって来たのよ、昼間」

「あら・・・そりゃ災難ね、あんた何も知らないでしょ」

「そうなのよ、だから、まぁ、適当に答えたんだけど、ほら、あの人らも前の戦争の時は大変だったみたいだし、そりゃ不安にもなるわよね、突然だったみたいだし」

「そりゃ、そうなんだけど、タロウさんに聞いてない?」

とユーリは湯呑に白湯を注ぎ足してソフィアの斜め向かいの席に腰を落ち着けた、

「聞いてないわよ、あれが絡んでるのは知ってるけど、そんなに大事だったの?」

「そうよー、私もほら、最初の方だけ少し巻き込まれたかな、それ以降は学園長から時々聞いた程度かしら」

「そっ、で、どんな感じ?」

「ん?あー・・・どうだろうね、さっきも少しクロノスとリンドさんに言われたんだけど、まぁ、実際にね、戦闘になったら呼び出すかもしれんてさ」

「あら、御愁傷様」

「あんたもよ」

「エッ、私も?」

「そりゃそうでしょ」

「クロノスとルーツがいれば充分でしょ、タロウさんもいるんだし」

「そうだろうけどさ、いざって時じゃない?私やアンタを頼りにするのは」

「アンタはいいとしても私は何の役に立つのよ」

「その気になればなんでもできるでしょ、アンタは」

「そのなんでもが問題じゃない」

「何言ってるのよ、最近少しは真面目に生きてると思ったらすぐこれだ、あのね、前にも言ったけどいつまですっとぼけているつもりよ、ミナとレインの子育てを言い訳にするのは分るし、寮母の仕事だってそうだけど、どっちもほっといてもなんとかなるでしょ」

「子供をほっとけるわけないでしょ」

「大丈夫よ、第一私もアンタもこの程度の歳で家の手伝いしてたわよ、少し甘やかしすぎじゃない?」

「そうだけど・・・その手伝いがねー、田舎だったらまだ・・・ほら、やる事もあるし、危険が少ないんだけど・・・都会だとどうしてもね、なんか勝手が違くてね・・・」

「そうなの?」

「そうよ、それにほら、買い出しとかもあまり行かなくなったから・・・それも駄目なのよね」

「あー・・・王城から持ってきてるんだっけ?」

「そうなの、すっかり甘やかされてるんだわ」

「確かに・・・問題よね、何か贅沢してるしね、今日の食事も・・・クロノスもイフナースも城でも食べれんとかって夢中になってたわ」

「そうよねー・・・あれかな、少しばかり節制しようかしら」

「それは駄目」

「なんでよ」

「数少ない楽しみを奪うな」

「そうは言うけど・・・贅沢は駄目なんでしょ」

「贅沢は駄目よ、ただ食事は別」

「どういう理屈よ」

「食事を馬鹿にしては駄目よ、アンタなら分かってるでしょ」

「そりゃそうだけど・・・まぁいいわ、で、戦争なんだけど、どんな感じ?」

「あー・・・タロウさんに聞いた方がいいとは思うけど、何か荒野のね、真ん中あたりにその帝国の要塞があるんだって、で、そことこの街の中間地点あたり?が戦場になる予定だってさ」

「あら・・・随分あれね、ハッキリしているのね」

「そうよ、現地は見てないんだけど、ほら、あの岩ばかりの土地でね、開けた場所があったんだとか」

「あー・・・ミナが見てきたってはしゃいでた場所かしら、何かの焼け跡って聞いたけど」

「それだと思うわよ、向こうも大部隊で来るらしくてね、それを迎え撃つには絶好の場所だとか、さっきクロノスと殿下がギャーギャー言ってたわ」

「そっか、じゃ、別に私らが出る事無いじゃない」

「そういう訳にもいかないでしょ」

「そう?」

「そうよ、こんだけ王国には世話になっているんだし、贅沢して好き放題できるのは王様のお陰でしょ」

「そりゃそうだけど・・・それだって別にこっちからお願いした訳じゃないし・・・」

「向こうの思惑ってやつを察しなさいよ、まぁ・・・他にもあるから私には直接お声がかりがあるんだけどもさ」

「何よそれ」

「ほら・・・クロノスの所にいた時にね、いろいろやったの、それが扱いが難しい代物ばかりでね・・・調子に乗るんじゃなかったな」

「なにやったのよ?」

「大したものじゃないわよ、でも、リンドさんがそれを使いたいらしくてね、クロノスも乗り気らしくて、そうなると、私か・・・それこそ、アンタかタロウさんじゃないと扱えないかもね」

「・・・何よそれ・・・」

「危険なものでは無いから気にしなくていいわ、見れば分かるだろうしね、アンタなら」

「ちょっと、ハッキリ言いなさいよ」

「やだ」

「あん?」

「アンタの真似」

「ちょ・・・」

ソフィアが頬を引く付かせてユーリを睨み、ユーリはのほほんとニヤついた、そこへ、

「あら、何やってんだ?」

と外套を手にしたタロウが厨房から入ってきた、

「ん?そっちこそどうしたのよ」

ユーリが振り向く、

「一仕事しにいくんだよ、昼間は遊びたいからな、夜に働くんだ、偉いだろ?」

タロウがニコリと片眉を上げる、

「あら、もう行くの?」

とソフィアが腰を上げた、先程チラッと聞いてはいたが、もう動くのかと意外そうな顔である、

「うん、じゃ、後宜しく」

タロウは外套を纏うとニヤリと微笑み厨房に消えた、どうやらソフィアに一声掛ける為に顔を出しただけらしい、ソフィアはやれやれと腰を下ろし、ユーリは、

「どこ行くの?」

と純粋な疑問を口にする、

「ほら、聞いてない?軍団基地に転送陣を設置するとかなんとか」

「アー・・・エッ、今から?」

「そうみたい」

「幾ら何でも遅くない?」

「夜の方が楽なんだって、ほら、あれのあれを使うでしょ、昼間だと隠れる場所に難儀するってさ」

「あー・・・そういう事か、タロウさんのあれね」

「そっ、あれだけはね、結局真似出来なかったわね」

「そうなの?私は一度しか見てないからだけど、教わってないの?」

「ないの、あれってほら、見てるだけで気持ち悪くなるんだもん、本人は平気だってのが良く分かんないわ、挙句私が見てもサッパリでね、やっぱりあれは違うわよ、理屈が見えないもの・・・」

「確かにねー、そっか、夜の方が都合が良いって事か」

「そうみたい、そりゃだって、いきなり人が出てくるのよ、知らない人が見たら、いや、知ってる人でもたまげるわよあんなもん」

「その通りだわ・・・あっ、なんだ捕まえて聞き出せば良かったわ」

「なにを?」

「戦争の事、私よりも詳しいでしょ」

「あっ、そうね・・・でも、まぁ、いいんじゃない」

「何よ、あんたが気にしてたんでしょ」

「気にしてもしょうがないわよ、それにね、今日思い知ったんだわ」

「なにを」

「知らない方が幸せだし、楽だなって」

「ありゃ・・・」

「ほら、変に慌てなくていいし、知らないものはそれ以上言い様が無いしね、下手に詳しいとね・・・聞かれればついつい話したくなるじゃない・・・」

「そりゃそうだろうけど」

「そういうものよ、だから、変な事は答えなくて済んだし、楽よね、知らないってのは・・・その上でね、ブラスさん達にも生徒達にも話したんだけど、騒がず慌てず、上の言う事に従うのが一番だって」

「確かにね・・・特に今回はまだほら相手の姿も見えてないんだし」

「でしょ、それに軍団が三つも来てるんでしょ、それにクロノスに殿下にルーツもいるし、リンドさんもアフラさんもいるんだし、やっぱりあれよ、私の出番なんて無いのよ」

「だったらいいんだけど」

「・・・そんなに危ないの?」

「どうかしら?」

「なによ、分かってないんじゃない」

「そうよ、だってまだ一戦もやってないのよ、クロノスも殿下もイザークさんも何か余裕ぶっこいてるけどね、実際に戦端が開かれたどうなるか・・・誰にも分からないわよ」

「・・・そういうもんか・・・」

「そういうもんでしょ、まぁ、だから私はあれだけど、アンタに声がかかったら最悪の状況かも・・・いや、タロウさんもいるんだしなんとかなるわよ」

「ならいいんだけど・・・あっ、学園がなに?病院になるの?」

「それも聞いた?」

「うん、レスタさんが緊張してたわよ」

「そっか、あっ、あんた、そっちを手伝いなさい」

「なんでよ」

「得意でしょ、救護関係」

「得意ってほどじゃないわよ」

「何言ってるの、私もアンタも傷痕一つ無いのはアンタのお陰でしょ」

「そりゃそうだけど・・・あっ、思い出した、明日王妃様が来るわよ」

「エッ、何しに?」

「ほら、流行り病の治療?爛れた肌を治して欲しいって・・・」

「あー・・・言ってたわね・・・エー・・・明日?」

「明日」

「サビナもカトカも忙しいのよね、教科書作りで」

「それ聞いたわね、サビナさんも大したものよね」

「そうなのよ、でもな・・・誰か・・・リーニーさんに頼もうかしら、こっちの作業をこれ以上遅らせられないのよね・・・ゾーイも忙しいし」

「別に助けてくれなんて言ってないわよ」

「助けるつもりはないわよ、記録が欲しいだけ」

「あら・・・正直ね」

「そうよー、正直が一番ね、でも、そういう事は先に言いなさいよ、朝一番でエレインさんに頼もうかしら・・・あっ、アフラさんも来るの?」

「多分ね」

「なら・・・報告はアフラさんに一任しようかしら、で、やっぱりリーニーさん・・・カトカも興味あるだろうな・・・」

「でしょうねー」

「何よ、他人事?」

「ヒトゴトー」

コノーとユーリはソフィアを睨みつけ、ソフィアはニヤリと微笑むのであった。
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