セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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本編

74話 東雲の医療魔法 その27

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「わっ、美味しい・・・」

「でしょー、焼き立てが一番なのー」

「ホントだねー」

「ムフフー、それにミナが焼いたやつだからー」

「あー、それでなんか変なんだー」

「変じゃないー」

「そうなの?」

「上手く焼けたー」

「そうかなー」

「そうなのー」

「ウー・・・ノールのも食べてー」

「ノーラのもー」

「じゃ、私のもー」

ウルジュラの回りに女児が集まりキャッキャッとはしゃぎまくっており、レアンはその輪の中にあってやはり本物のお姫様には適わぬなーと諦め顔となるもそれでも楽しそうで、その輪に入れなかったブロースが若干へそを曲げたようであるが、タロウがこっちに来いとブロースを隣りに招き、新しい紙飛行機を伝授した、途端に顔を明るくするブロース、やはり男の子は楽で良いと微笑んでしまうタロウである、

「良かったです、もうすっかり元気になられたようですね」

ライニールがいつも通りの従者然とした直立不動でタロウに微笑んだ、

「ん?あっ、昨日はゴメンね、迷惑かけた、驚いたでしょ」

タロウがそう言えばとライニールを見上げ、ライニールはニコリと微笑み、

「迷惑なんて全然ですよ、先程エレイン様から回復なされた事は聞いております、お嬢様も朝から見舞いに行くと言って聞かなくて・・・結局こうして来てしまってますけどね」

となんとも優しい顔である、どうやらレアンのその思いやりが嬉しいらしい、ライニールの記憶にある限りレアンが友人の病気をこれほど心配した事はかつて無かったのではないだろうかと思う、まぁ、レアンに限らず貴族というものはどうしても友人と言える存在が少ない、特に女性となると各々の領地から出る事は少なく、それが田舎となるとよりであり、モニケンダムの周辺は特に田舎と呼ばれる地方となってしまっている為、貴族同士の交友が少ないのであった、となれば友人となると近習の子弟か平民の子供となるが、どうにもそのあたりに丁度良い年齢の子供が少なく、またレアンの癇癪もあり、子供は近づけなくなっていたようで、これにはカラミッドも心を痛めていたようである、それがミナと知り合ってからすっかり人当たりも良くなり、未だ癇癪癖はあれど、余程の事でない限り表には出てきていない、大変に喜ばしい事である、そしてより重要なのがここ数日、政治的な思惑があるにせよ、王都を中心とする高位貴族の奥方との交流と何よりも王家との交友が深まり、そして今日、こうして王女であるウルジュラと共にミナの見舞いと称して遊びに来る程に仲を深めている、昨日のパトリシアへの訪問もそうであったが、これほどにレアンが、いや、クレオノート家が王家に近づいた事はかつてないであろう、惜しむらくはここにマルヘリートが不在である事であった、先程まではガラス鏡店でレアンと共に接客に当たっていたのだが、ヘルデルで職人達との打合せが入っており、昨日のパトリシアの案も預かっている為、そちらを優先する事にしたらしい、本人は大変に惜しがっていたがそちらはそちらでヘルデルの領主として、また、対王家を考えた場合でも重要な仕事となっている、

「そっか、有難いことだね・・・」

タロウがしみじみと呟く、

「で、なんですが・・・」

ライニールはニンマリと微笑み、ブロースの手元を覗き込む、

「ん?あぁ、ほれ、ライニールさんも座って作りなさいよ、ブロース君、ライニールさんに教えてあげて」

「んー、いいよー」

懸命に紙を折りつつ答えるブロース、大変に無礼な態度であった為こりゃとタロウは叱りかけ、まぁ、男子たるものこんなもんでいいだろうと微笑んでしまう、女性に囲まれて生活しているとどうしても男性や特に男子には甘くなるのかもしれない、男にはやはり男の遊び相手がどうしても必要なものなのである、

「えっと、なんなんですか?」

ライニールが少し迷ってブロースの隣に腰を落ち着けた、壁際にはウルジュラのメイドが二人控えており、従者としては彼女達のように畏まるべきなのであるが、タロウの誘いには抗えず、まして大変に興味もある、何せ上質紙を折って何やら作っているのである、興味を引かれない訳が無い、

「まぁね、ほれ、ブロース君、人に教えるのも楽しいんだぞ」

「そうなの?」

やっと顔を上げるブロース、

「そうなの、リノルトさんは逃げちゃったからな、ここは男同士で結託しないとな、女共には負けられん」

「ん、分かった、えっとね、これ、これ使っていい?」

「いいぞー」

「じゃ、これで、半分に折って、でねー」

とブロースが甲斐甲斐しく指導を始め、ライニールが慌てて紙を折り始める、ちなみにリノルトはそそくさと帰ってしまった、レアンの顔は知っており、さらにはいかにも高位貴族然としたウルジュラが顔を出せば、そりゃ逃げたくもなるもので、無論仕事の話しも済んでおり、完成したらすぐにお持ちしますと自作の紙飛行機はしっかり胸元にしまって寮を後にしていた、

「これですか?」

そこへヒョイとカトカとゾーイが首を伸ばした、

「うん、新しいのだねー」

「ありゃ、また全然違いますね」

「まずね、どう、この三つが並べば基本的な所、理解できるんじゃない?」

「基本的な所・・・ですか?」

「うん、これのコツはね、前方を折りたたんで加重というか、重心を前の方に置いて、翼を作ってあげれば、それだけで飛ぶ事は飛ぶんだよ」

飛ぶとは?とライニールが顔を上げるもすぐに作業に戻る、見ればブロースのそれはもう完成しており、ライニールのそれは未だ半分程度の出来であった、

「あっ・・・なるほど、確かにそうですね・・・」

「ホントだ・・・えっでも、理論的にはそれだけなんですか?」

「まぁ、これはね、飛ぶというか、滑空になるんだけど・・・まぁ、どっちにしろ難解な理屈があるんだろうけどね、どうなんだろう、そういうの、空を飛ぶとかっていう研究している人っていないの?」

「あー・・・どうなんでしょう、それこそ、学園長に聞いてみないとですねー」

「・・・んー、王都では聞いた事無いです・・・」

「文献とかにも無い?」

「文献となると・・・あれは物語だと思うんですけど、羽を集めて蝋で固めて・・・城壁から飛び降りて亡くなった人はいるらしいですね、どこまで事実かは分からないです、鳥のように飛びたいって事らしくて、でも、そんな事をするなって教訓染みた書き方をしていて・・・空は人のものでは無いとかなんとか、説教じみた事書いてあったかな・・・なので、どう解釈すればいいのかなって悩みましたね、寓話なんだか説教話なんだかって感じで・・・」

「ありゃ・・・どこぞも似たような話しがあるもんなんだねー」

タロウは某ギリシャ神話を思い出す、あれは太陽に向けて飛んだのであったか、それで蝋が溶けて落ちたと記憶しているが、こちらではどうやら素直に落ちて亡くなったらしい、まぁ、羽と蝋で作った翼ではよほど大きくするか、蝋そのものを異常に軽く固いものにしないと用を為さないであろうなと想像してしまう、

「似たような・・・ですか?」

「うん、俺の故郷にもそんな感じの話しはあるかな?空を飛びたいってのはやっぱり誰しも思う所だろうからね」

「へー、あー、分かる気がしますけど・・・やっぱり駄目でした?」

「駄目だっただろうね、まぁ、それこそさ、理屈的な事を言うと、鷲とか鷹ってさ、羽を広げると俺よりもでかいんだけど、びっくりするくらい軽いんだよね、多分・・・ミナよりも軽いんじゃないかな、詳しく無いけど・・・」

へーそうなんですかーと二人は素直に感心し、ライニールも紙を折りつつ聞き耳を立ててしまう、

「だから、人の重さで鳥の羽で飛ぼうとすると・・・それこそどんぐらいの大きさが必要か分からないくらいにでっかくしないと飛べないと思う、だから、つまりこの紙飛行機、カミトリか、仮にこれに乗って飛ぼうと思ったら、それこそ・・・うん、裏の庭くらいにでっかいカミトリじゃないと人は乗れないんじゃないかな・・・で、問題はそんな丈夫な紙も大きな紙も無いって事で・・・まぁ、色々研究してみるといいよ、これはこれで面白いから」

タロウはアッハッハと笑い、鳥の羽かーと何やら思い出す、そう言えば鳥の羽を使った製品は王国には少ないようで、タロウが知る限り、羽ペンと貴族が着る正装とされる貴族服に飾りとして付けられている程度で、それ以外ではついぞ見た事が無かった、これほどに鳥肉の流通が多いとなればそれだけ羽毛も生産されている筈で、はてそれらは素直に捨てているだけなのであろうかと疑問を持ち、口を開きかけると、

「タロー」

ミナがバッとタロウの腕にしがみ付く、

「おわっ、どした?」

「シャボン玉ー」

「シャボン玉?」

「うん、ユラ様に見せたいー」

「あー・・・それもあったなー」

「うん、あったー、作ってー」

「あー・・・どうしようかなー」

とタロウが女性達の輪に視線を移すと、レアンはいかにもサッサと作れと言いたげで、ウルジュラは貴族らしい笑顔を浮かべ、女児達も爛々と目を輝かせている、さらに、

「あー、あれ面白かったー、もっとやりたい!!」

すぐ隣りのブロースも叫ぶ始末で、

「エッ・・・あっ、そっか、フェナさんから貰ったの?」

「うん、昨日かあちゃんが持って来た、ちょっとしか無くて、あっという間に終わったー」

「そういう事かー」

タロウは仕方が無いなと腰を上げる、昨日作ったシャボン玉液はその半分を事務所に残し、お好きにどうぞと戻ってきてしまっていた、恐らくそれを奥様達が自宅に持って帰ったのだろう、となればノールやノーラ達もマフダから貰っているやもしれず、しかしそれは少量である事は簡単に想像できてしまう、

「じゃ、作るか」

「うん」

ミナの輝くような笑みがタロウを見上げ、ヤッターとはしゃぎだす子供達、カトカとゾーイは何のことやらと首を傾げた。



「これ、楽しー」

「でしょー」

「待て、ライニール、それがいい、寄越せ」

「駄目です、御自分で折られたのをお使い下さい」

「むー、下手だから飛ばぬのじゃー」

「なら、綺麗にちゃんと折りましょう」

食堂内は再び紙飛行機が飛び交う事態となり、タロウとカトカ、ゾーイは厨房に入りソフィアに邪険にされながらシャボン玉液作りである、ティルとミーンも興味があるらしく時折覗きに来るが、ソフィアはまるで無関心で、そうしてそれなりに出来たそれを手にして食堂に戻ると、

「ほれ、やってみろ」

人数分の湯呑に別けたそれをテーブルに置いた、やったーと駆け寄る子供達、

「こら、外でやれよ、あっ、寒いからな、ちゃんと外套を着なさい、それとミナ、はしゃぎすぎるな、昨日みたいになるぞ」

タロウは子供達を見下ろして分かったか?と念を押すも聞いているのかいないのか、空返事で玄関へ走る子供達、

「なにそれー」

とウルジュラも駆け出し、レアンも、

「こっちはいいのかー」

と大声を上げる始末、そして子供達と一緒に玄関へ向かおうとするも二人のサンダルは三階に置いてきた為、慌てて厨房へ駆け込み、

「お待ちください外套を」

とウルジュラを追うメイド二人と、あっそうだったとライニールもレアンの外套を手にして追いかける、あっという間に食堂は閑散としてしまい、

「やれやれ・・・あー・・・レイン、頼む」

タロウがまったくと微笑み、レインは仕方ないのうと腰を上げた、どうやらレインはエルマと共に紙飛行機で遊ぶ一同を眺めていたらしく、しかし、その手にはしっかりと三種類の紙飛行機が握られており、そっと胸元に忍ばせるレインである、

「ふー・・・エルマさんごめんね、騒がしくして・・・」

疲れた顔で腰を下ろすタロウ、今日やりたかった事には一応手を着けているが、こうも慌ただしいと疲れも溜まるわなと溜息を吐かざるを得ない、

「楽しくていいですよ、私は好きです」

ニコリと微笑むエルマ、カトカとゾーイはもう既に内庭でシャボン玉を実践中である、こんな美しく楽しいものがあったのかと目を輝かせる大人が二人、そこに子供達も加わり食堂を震わせていた賑わいは完全に内庭へ移ったようであった、

「まぁね、暗いよりかは百倍マシだけど・・・年寄りにはつらいな、ついていけない・・・」

「・・・そうですか、もしかして同意を求めてます?」

「だめ?」

「うーん、私から見ればタロウさんはまだまだ若いですよ」

「そう?」

「はい、全然これからです」

「ありゃ、それは手厳しい」

ニコリと微笑むタロウに、笑顔では伝わらないかなと小さく首を傾げて答えとするエルマ、そう言えばエルマの素顔を見た事はまだないんだなとタロウは思う、それと合わせて年齢についても詳しくは聞いていない、成人した子供がいるとは聞いており、であれば確実に自分よりは年上で、となるとこの寮に於いては一番の年配者という事になる、まぁ、治療が済めば黒いベールを外す事も出来るであろう、それも上手い事いけばすぐ目の前の事となっている、そこへ、

「おう、いたか」

ヌッとクロノスが顔を出す、

「わっ、お前もかよ」

思わず悲鳴のような怒声のよう叫び声となってしまうタロウ、

「お前も?」

「王妃様と姫様が来てるぞ」

「ん?誰?」

「誰ってお前なー」

「マルルース様とウルジュラ様です、クロノス殿下」

エルマが腰を上げて一礼しながら答えた、

「あん?なんで?」

「なんでって・・・あー・・・あれだ、ミナの見舞い?」

「・・・あー、それもあったな、なんだ元気なのだろう?」

「そうだがさ、まぁいい、どうした?」

「おう、少し顔を貸せ、二階がいいかな、学園長とバルテルも呼び出した、リンドも来る」

「ありゃ・・・もしかして・・・」

「もしかしなくても、来い、それと、ユーリはいるか?」

「ユーリもか?」

「ユーリもだ、それと・・・」

とクロノスはテーブルを見つめ、

「ナンブと茶をくれ」

「・・・分かったよ・・・」

まったくと呆れ顔となるタロウ、エルマがそういう事ならと食堂内の茶器に手を伸ばす、

「あー・・・じゃ、ユーリ、呼んで来るよ」

とタロウは玄関へ向かい、

「おう、何だ、外か?」

「商会の事務所だと思う、そう言えば長いな・・・まぁ、話し込んでるんだろ」

「そうか、頼む、エルマ、すまんな騒がせた」

クロノスはサッと二階へ上がり、

「次から次へとまー、ホントにもー」

ブチブチ言いつつ食堂を出るタロウ、エルマも思わず、

「ホントですね、今日はいつにもまして騒がしい」

小さく呟き、それでもどこか楽しくて優しく微笑んでしまうのであった。
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