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本編
74話 東雲の医療魔法 その39
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その日の夕食は大変に豪華であった、大量のオリーブオイル漬け牛肉ステーキ、もやしと玉子の炒め物、カブと玉ねぎで和えたパスタとなる、無論大好評であった、
「んー、お肉がやわらかいー」
「だよねー、幾らでも食べられるー」
「カブが、カブが美味しい・・・」
「パスタもいいね、これは事務所で作ったやつ?」
「そうですね、良い出来です」
「うん、これなら向こうの店でも胸を張って出せるよー」
「うんうん、試食もしたけど、やっぱりソフィアさんが作るとなんか違うー」
「あー・・・あれよ、タロウが味付けしたからね、濃いのよ、今日のは・・・」
「そうなんですかー」
「・・・濃かったか?」
「そうねー、少しねー」
「少しですよー、美味しかったらいいんですー」
「そだねー」
ワーワーギャーギャーといつも通りに騒がしく、妙に静かだなとタロウが隣のミナを見てみれば、ミナは頬をパンパンに膨らませてなおスプーンの先にステーキを突き刺しており、レインも負けじと忙しく手を動かしている、時々ウーウーと声にならない争いをしている二人、こりゃゆっくり食べろとタロウが叱りつけるもどこ吹く風と夢中なようで、ソフィアもやれやれと呆れているが、まぁその気持ちも理解できるとステーキを頬張ってムフンと微笑んでしまう、このオリーブオイルに浸けた牛肉は絶品であった、タロウ曰く、鳥肉でも美味しくなるぞとの事で、ティルとミーンもこれは良いと黒板を取り出して熱心に書き付けており、タロウはまだまだ俺の知識も役に立ちそうだと得意顔であった、しかし肝心のニンニクや胡椒が手に入らなければこの味は出せない、やはり胡椒とニンニクは早急に栽培に取り掛からないと駄目だなと再認識するタロウである、そして、
「うー・・・苦しいー・・・」
「だねー・・・」
「食べ過ぎたー・・・・」
「美味しいんだもん・・・」
「美味しかったー」
「幸せー」
「そだねー・・・幸せー・・・」
嵐のような夕食はあっという間に終わりを迎え、残ったのは遠慮なく伸びる女性達と見事に空になった大量の皿である、
「もう、だから言ったでしょ」
ソフィアがまったくと一同を見渡すが、自分もまた今日は夢中になってしまった、席を立つのも難しい程に満腹で、これはいかんなと白湯に手を伸ばし、少しゆっくりするかと椅子の背にもたれかかる、
「そうですけどー・・・」
「美味しいんですものー・・・」
「だよねー・・・」
幸せそうにグズグズ言ってる生徒達、大人達は大人達でこちらは言葉も無いと黙り込んでいる、
「フフッ、あっ、そうだ、エレインさん、明日はどうなるんだ?」
タロウが白湯を片手にヒョイと首を伸ばした、どうやら普通に動けるのはタロウだけらしい、タロウは今日は肉をたんまり食って憂さ晴らしだと気合を入れ直したのであるが、実は調理をするだけで充分に憂さ晴らしになったようで、自分の分のステーキを半分ミナとレインに分けてあげてたりする、ンーと事にならない歓声を上げ、その皿も綺麗に食べ尽くしたミナは、タロウの隣で苦しそうに腹を摩っていた、実に静かである、黙らせるには美味いものを食わせればいいんだよなとほくそ笑むタロウであった、
「あっ、はい、えっと・・・」
とエレインがうんしょと座り直す、そうしなければならないほどにだらしない有様であったという事である、オリビアあたりがうるさそうであるが、そのオリビアもまた伸びていた、珍しい事である、
「午前中は主に男性の方々が来る予定です、で、午後から、御夫人方が集まる予定となっております」
「へー、結局別になったの?」
「はい、一度にお越し頂いても良かったのですが、明日は第八軍団が到着予定との事で、皆様午後はそちらに向かうとの事でした、なので御婦人方は昼頃からゆっくりされる予定です」
「あっ・・・そっか、そんな事言ってたね・・・」
タロウはそれもあったなと頬をかく、第八軍団は西の軍団基地からの移動となっており、今回参戦する軍団の中では最も遅い到着となっている、また、冬の準備もあり王都で冬用の装備を支給されたらしく、追加の糧食も大量に携えているとの事で行軍が遅れているとの報告が今朝の会議でなされていた、クンラートとレイナウトにはそのような軍ではこちらの冬にも勝てぬぞと大声でがなり立てられたのであるが、先の大戦時、その第八軍団の活躍もあって魔族を追い返してもいる、何気に長距離移動に長け、常に西の蛮族との戦闘で経験豊富な第八軍団は王国の要と呼べる軍団で、それを指揮するビュルシンク軍団長と、首席補佐官であるイザーク軍団長補佐は王国軍の中でも一目置かれる存在であった、二人はクンラートとレイナウトを冷ややかに見つめ、であれば一度手合わせ願おうかと、その場を凍らせる言葉を発し、憤然と立ち上がろうとするクンラートを慌てて止めたのがカラミッドであったりする、それをタロウはイザークさんもやっぱり軍人なんだなーとノホホンと眺めていたりした、
「はい、あっ、どうしましょう、ミナちゃんもいらっしゃいます?ウルジュラ様もいらっしゃいますし、イージスも来ますよ」
バッと半身を上げるミナ、しかし、すぐにウーと呻いてコテンと倒れ込む、オイオイと心配そうに見下ろすタロウ、しかしミナはウーとかヌーととか言いつつも幸せそうな笑顔であったりする、
「もう、でも、あれよ、ミナを連れて行くと他の子供達もってなるからね、来てもらう分にはいいけど、お邪魔するとホントに邪魔になるわよ」
ソフィアがのんびりと口を挟む、
「そうですねー・・・そっか他の子達もいるし・・・じゃ、やっぱり明後日でいいですかね、あっ、エルマ先生、向こうの教室はいつから使いますか?」
エレインがヒョイと首を伸ばし、エルマがフッと顔を上げゆっくりと座り直す、エルマもまた食べ過ぎであった、故にすっかり伸びていた、
「あっ、じゃ、ちゃんと打合せしましょうか、そこらへんまだ確定してなかったですね」
テラもゆっくりと起き上がる、
「そうですね・・・じゃ、どうしようかな・・・」
「先に片付けてからだわね」
とソフィアがヨイショと腰を上げ、アーとかウーとか言いつつティルとミーンも立ち上がる、
「・・・もう少し休めば?急ぐ必要は無いだろ」
タロウが流石にそれはとソフィアを諫める、
「・・・そうね・・・じゃ、もう少しグデグデしますか・・・」
ソフィアがドスンと座り直すと、ティルとミーンもホッとしつつ腰を下ろした、
「じゃ、私達も・・・」
「ですね・・・」
と再びグデーと伸びるエレインとエルマとテラ、なんか悪い事聞いたかなと少しばかり反省するタロウであった。
それから暫くして何とか片付けに入り、エレインらは教室やら店舗やらの打合せに入ったようで、さらにその隣では枕に蕎麦殻を詰めだすゾーイとニコリーネ、それを手伝いつつも布袋を縫う生徒達、ミナとレインが入浴中という事もあり、今の内にと必死になってしまうのは誰でもないゾーイで、
「こんな感じですかね?」
「ですねー、良い感じですー」
タロウの助言もあって、布袋の半分を超える程度に蕎麦殻を入れ、パンパンポンポンと嬉しそうに感触を確かめるゾーイである、
「どんな感じ?」
ヒョイとゾーイの隣りに立ったユーリ、ゾーイはあっと叫んで自作の枕を抱き締める、
「なによー、見せてよー」
「駄目ですよ、見せたくないです」
「えー、ニコリーネさんには見せたんでしょー」
「ニコリーネさんはいいんです、所長は駄目です」
「えー、ケチー」
「ケチでもなんでもいいです、見せたくないです」
「ケチー、ドケチー、ヘンタイー」
「ドケチはいいですけど、ヘンタイってなんですか?」
「ヘンタイはヘンタイよ、このスケベー」
「意味分かんないですよ」
「分かんなくていいから見せてよー」
「やですー」
ユーリの訳の分からない猛攻に必死に抗うゾーイ、あー、すっかり仲良くなったなーと白湯を片手に余裕の笑みを浮かべるカトカとサビナ、タロウもヘンタイとスケベは違うかなーと微笑んでしまう、
「全然大丈夫でしたよー」
とニコリーネが余裕の笑みを浮かべる、
「そう?」
「そうですよー、だって、縫い目なんて裏返しちゃえば見えないんですからー、気にする事ないですよー」
ニコリーネはニコニコと微笑みつつ、こんなもんかな?と自作の枕をポンポン叩いている、タロウ曰く蕎麦殻の量にも好みがあるとの事で、ニコリーネは少しばかり多めに入れて後で調整しようと抜け目ない事を考えていたりする、
「そうよねー、ゾーイ、見せなさい」
「えー、だってー」
「だってもなにもないのー、いつまでも隠しておけると思うなよー」
「隠せますよ、なんですか?宿舎まで来るんですか?」
「あー・・・それも良いわねー、私もほら、まだ講師だからねー、その権限があるんだわー」
「そっ、えっ、そんな権限あるんですか?」
バッと振り返るゾーイ、その視線の先のカトカとサビナは同時に首を傾げているようで、
「あったかな・・・」
「あるのかな・・・聞いたこと無いけど・・・」
と不審そうに呟く、
「あー、ほらー、無いですよ、絶対無いです」
ゾーイが叫ぶも、
「無いなら作ればいいのよー、事務長あたりを甘いもので釣ってー、適当に屁理屈捏ねればいいだけだわー、やってやれない事は無いのよー」
オホホホーと高笑いに繋げるユーリ、
「えっ、なんですかそれ」
「ふふん、目的の為にはー・・・なんでもするオンナー・・・それがワタシー」
「ちょ、カトカさん、サビナさん助けてー、宿舎が危険で危ないー」
「それは駄目ね」
「うん、駄目だ」
やっとカトカとサビナが腰を上げ、やった味方が出来たと喜ぶゾーイ、しかし、
「まぁ、それを見せてくれれば済むだけだしね」
「そうだよねー」
と二人の瞳がキラリと光り、ゾーイが胸に抱く枕を捉えたようで、
「えっ、二人もですか」
「ですねー」
「うん、大丈夫よ、笑わないからー」
味方だと思ったら敵である、ゾーイはギャーと叫び、
「ふふーん、あの二人はねー、私の手下なんだからー」
いよいよ調子に乗るユーリ、
「ギャー助けてー、ジャネットさん、ルルさん、この人たち何とかしてー」
ゾーイもここは人を選んだようである、真面目に話し込んでいる大人達よりも生徒達に助けを頼んだあたり、どうやらふざけ半分である事は理解しているようで、
「ムッ、ルルっち、ゾーイさんが危険だ」
「はい、行きましょう」
縫物を放り出し、勢いよく立ち上がる二人、ケイスがオイオイと二人を見上げ、レスタはウフフと楽しそうである、グルジアはまったくもうと他人顔であった、
「おっ、戦術科の二人が出て来たぞ、ここは元講師として負けるわけにはいかん」
「そのようですね、所長、宜しくお願いします」
「腕の見せ所です所長」
「うむ、さぁかかってくるがいい」
ムフンと腕を組んでそっくり返るユーリ、ムゥと睨みつけるジャネットとルル、ここにミナがいればヤンヤと参加したであろう状況である、そこへ、
「さて・・・なにやってんのアンタら・・・」
前掛けで手を拭いながらソフィアが厨房から戻ってくる、ティルとサレバとコミンも続いており、ジャネットとルルに対峙するユーリとカトカとサビナ、壁に追い詰められているゾーイ、ケイスとレスタとグルジアは楽しそうにその騒動を見つめており、ニコリーネは我関せずと立ったままマクラに顔を埋めてフガフガ言っている、そしてエレインらは真面目に話し込んでいる様子で、タロウはノホホンと白湯を啜っていた、つまり普段よりもいっそう奇妙な状況のようである、
「ムフフ、生徒の実力を測るのもまた講師の務め」
「ムッ、ルルッチ、先生は本気だ」
「そうなんですか?」
「うん、私にはわかる」
「ほう、腕を上げたなジャネット」
ニヤリと微笑むユーリ、しかし、
「はいはい、遊んでないで、あっ、タロウさんね、どうするの?魔力の増大だかなんだか、今の内に打合せしときなさいよ、明日も殿下かクロノスに会うんでしょ」
ソフィアがタロウを睨みつけ、ビクリと肩を震わせるタロウ、
「あっ、それもあったわね・・・どうするの?」
とタロウに向かうユーリ、ありゃっと拍子抜けするジャネットとルル、
「あー・・・どうしようか・・・ゴメン、ゾーイさん、少し意見を伺いたい」
タロウがうーんと頭をボリボリかきながらゆっくりと半身を上げる、エッ私ですか?とゾーイがそっと、歩み寄る、どうやら戯れは終わったようである、カトカとサビナもすっかり真面目な顔でタロウを見つめていた、こうなると可哀そうなのはジャネットとルルであるが、二人もまぁこんなもんだろうなと自席に戻ろうと振り返ったようで、
「うん、ほら、魔力の鍛錬ね、あれの感じっていうか、どうかなーって」
「あっ、はい、真面目にやってますよ」
「それはわかるけど・・・」
タロウがさてじゃ少し真面目にやるかと座り直した瞬間、
「今だ!!」
サッとユーリがゾーイの枕を抜き取り、アッと叫ぶゾーイ、どれどれと枕を弄りだすユーリとそれを覗き込むカトカとサビナ、あちゃーと呆れる生徒達、
「もー、なんですかー、みんなしてー」
キーッと悲鳴を上げるゾーイであった。
「んー、お肉がやわらかいー」
「だよねー、幾らでも食べられるー」
「カブが、カブが美味しい・・・」
「パスタもいいね、これは事務所で作ったやつ?」
「そうですね、良い出来です」
「うん、これなら向こうの店でも胸を張って出せるよー」
「うんうん、試食もしたけど、やっぱりソフィアさんが作るとなんか違うー」
「あー・・・あれよ、タロウが味付けしたからね、濃いのよ、今日のは・・・」
「そうなんですかー」
「・・・濃かったか?」
「そうねー、少しねー」
「少しですよー、美味しかったらいいんですー」
「そだねー」
ワーワーギャーギャーといつも通りに騒がしく、妙に静かだなとタロウが隣のミナを見てみれば、ミナは頬をパンパンに膨らませてなおスプーンの先にステーキを突き刺しており、レインも負けじと忙しく手を動かしている、時々ウーウーと声にならない争いをしている二人、こりゃゆっくり食べろとタロウが叱りつけるもどこ吹く風と夢中なようで、ソフィアもやれやれと呆れているが、まぁその気持ちも理解できるとステーキを頬張ってムフンと微笑んでしまう、このオリーブオイルに浸けた牛肉は絶品であった、タロウ曰く、鳥肉でも美味しくなるぞとの事で、ティルとミーンもこれは良いと黒板を取り出して熱心に書き付けており、タロウはまだまだ俺の知識も役に立ちそうだと得意顔であった、しかし肝心のニンニクや胡椒が手に入らなければこの味は出せない、やはり胡椒とニンニクは早急に栽培に取り掛からないと駄目だなと再認識するタロウである、そして、
「うー・・・苦しいー・・・」
「だねー・・・」
「食べ過ぎたー・・・・」
「美味しいんだもん・・・」
「美味しかったー」
「幸せー」
「そだねー・・・幸せー・・・」
嵐のような夕食はあっという間に終わりを迎え、残ったのは遠慮なく伸びる女性達と見事に空になった大量の皿である、
「もう、だから言ったでしょ」
ソフィアがまったくと一同を見渡すが、自分もまた今日は夢中になってしまった、席を立つのも難しい程に満腹で、これはいかんなと白湯に手を伸ばし、少しゆっくりするかと椅子の背にもたれかかる、
「そうですけどー・・・」
「美味しいんですものー・・・」
「だよねー・・・」
幸せそうにグズグズ言ってる生徒達、大人達は大人達でこちらは言葉も無いと黙り込んでいる、
「フフッ、あっ、そうだ、エレインさん、明日はどうなるんだ?」
タロウが白湯を片手にヒョイと首を伸ばした、どうやら普通に動けるのはタロウだけらしい、タロウは今日は肉をたんまり食って憂さ晴らしだと気合を入れ直したのであるが、実は調理をするだけで充分に憂さ晴らしになったようで、自分の分のステーキを半分ミナとレインに分けてあげてたりする、ンーと事にならない歓声を上げ、その皿も綺麗に食べ尽くしたミナは、タロウの隣で苦しそうに腹を摩っていた、実に静かである、黙らせるには美味いものを食わせればいいんだよなとほくそ笑むタロウであった、
「あっ、はい、えっと・・・」
とエレインがうんしょと座り直す、そうしなければならないほどにだらしない有様であったという事である、オリビアあたりがうるさそうであるが、そのオリビアもまた伸びていた、珍しい事である、
「午前中は主に男性の方々が来る予定です、で、午後から、御夫人方が集まる予定となっております」
「へー、結局別になったの?」
「はい、一度にお越し頂いても良かったのですが、明日は第八軍団が到着予定との事で、皆様午後はそちらに向かうとの事でした、なので御婦人方は昼頃からゆっくりされる予定です」
「あっ・・・そっか、そんな事言ってたね・・・」
タロウはそれもあったなと頬をかく、第八軍団は西の軍団基地からの移動となっており、今回参戦する軍団の中では最も遅い到着となっている、また、冬の準備もあり王都で冬用の装備を支給されたらしく、追加の糧食も大量に携えているとの事で行軍が遅れているとの報告が今朝の会議でなされていた、クンラートとレイナウトにはそのような軍ではこちらの冬にも勝てぬぞと大声でがなり立てられたのであるが、先の大戦時、その第八軍団の活躍もあって魔族を追い返してもいる、何気に長距離移動に長け、常に西の蛮族との戦闘で経験豊富な第八軍団は王国の要と呼べる軍団で、それを指揮するビュルシンク軍団長と、首席補佐官であるイザーク軍団長補佐は王国軍の中でも一目置かれる存在であった、二人はクンラートとレイナウトを冷ややかに見つめ、であれば一度手合わせ願おうかと、その場を凍らせる言葉を発し、憤然と立ち上がろうとするクンラートを慌てて止めたのがカラミッドであったりする、それをタロウはイザークさんもやっぱり軍人なんだなーとノホホンと眺めていたりした、
「はい、あっ、どうしましょう、ミナちゃんもいらっしゃいます?ウルジュラ様もいらっしゃいますし、イージスも来ますよ」
バッと半身を上げるミナ、しかし、すぐにウーと呻いてコテンと倒れ込む、オイオイと心配そうに見下ろすタロウ、しかしミナはウーとかヌーととか言いつつも幸せそうな笑顔であったりする、
「もう、でも、あれよ、ミナを連れて行くと他の子供達もってなるからね、来てもらう分にはいいけど、お邪魔するとホントに邪魔になるわよ」
ソフィアがのんびりと口を挟む、
「そうですねー・・・そっか他の子達もいるし・・・じゃ、やっぱり明後日でいいですかね、あっ、エルマ先生、向こうの教室はいつから使いますか?」
エレインがヒョイと首を伸ばし、エルマがフッと顔を上げゆっくりと座り直す、エルマもまた食べ過ぎであった、故にすっかり伸びていた、
「あっ、じゃ、ちゃんと打合せしましょうか、そこらへんまだ確定してなかったですね」
テラもゆっくりと起き上がる、
「そうですね・・・じゃ、どうしようかな・・・」
「先に片付けてからだわね」
とソフィアがヨイショと腰を上げ、アーとかウーとか言いつつティルとミーンも立ち上がる、
「・・・もう少し休めば?急ぐ必要は無いだろ」
タロウが流石にそれはとソフィアを諫める、
「・・・そうね・・・じゃ、もう少しグデグデしますか・・・」
ソフィアがドスンと座り直すと、ティルとミーンもホッとしつつ腰を下ろした、
「じゃ、私達も・・・」
「ですね・・・」
と再びグデーと伸びるエレインとエルマとテラ、なんか悪い事聞いたかなと少しばかり反省するタロウであった。
それから暫くして何とか片付けに入り、エレインらは教室やら店舗やらの打合せに入ったようで、さらにその隣では枕に蕎麦殻を詰めだすゾーイとニコリーネ、それを手伝いつつも布袋を縫う生徒達、ミナとレインが入浴中という事もあり、今の内にと必死になってしまうのは誰でもないゾーイで、
「こんな感じですかね?」
「ですねー、良い感じですー」
タロウの助言もあって、布袋の半分を超える程度に蕎麦殻を入れ、パンパンポンポンと嬉しそうに感触を確かめるゾーイである、
「どんな感じ?」
ヒョイとゾーイの隣りに立ったユーリ、ゾーイはあっと叫んで自作の枕を抱き締める、
「なによー、見せてよー」
「駄目ですよ、見せたくないです」
「えー、ニコリーネさんには見せたんでしょー」
「ニコリーネさんはいいんです、所長は駄目です」
「えー、ケチー」
「ケチでもなんでもいいです、見せたくないです」
「ケチー、ドケチー、ヘンタイー」
「ドケチはいいですけど、ヘンタイってなんですか?」
「ヘンタイはヘンタイよ、このスケベー」
「意味分かんないですよ」
「分かんなくていいから見せてよー」
「やですー」
ユーリの訳の分からない猛攻に必死に抗うゾーイ、あー、すっかり仲良くなったなーと白湯を片手に余裕の笑みを浮かべるカトカとサビナ、タロウもヘンタイとスケベは違うかなーと微笑んでしまう、
「全然大丈夫でしたよー」
とニコリーネが余裕の笑みを浮かべる、
「そう?」
「そうですよー、だって、縫い目なんて裏返しちゃえば見えないんですからー、気にする事ないですよー」
ニコリーネはニコニコと微笑みつつ、こんなもんかな?と自作の枕をポンポン叩いている、タロウ曰く蕎麦殻の量にも好みがあるとの事で、ニコリーネは少しばかり多めに入れて後で調整しようと抜け目ない事を考えていたりする、
「そうよねー、ゾーイ、見せなさい」
「えー、だってー」
「だってもなにもないのー、いつまでも隠しておけると思うなよー」
「隠せますよ、なんですか?宿舎まで来るんですか?」
「あー・・・それも良いわねー、私もほら、まだ講師だからねー、その権限があるんだわー」
「そっ、えっ、そんな権限あるんですか?」
バッと振り返るゾーイ、その視線の先のカトカとサビナは同時に首を傾げているようで、
「あったかな・・・」
「あるのかな・・・聞いたこと無いけど・・・」
と不審そうに呟く、
「あー、ほらー、無いですよ、絶対無いです」
ゾーイが叫ぶも、
「無いなら作ればいいのよー、事務長あたりを甘いもので釣ってー、適当に屁理屈捏ねればいいだけだわー、やってやれない事は無いのよー」
オホホホーと高笑いに繋げるユーリ、
「えっ、なんですかそれ」
「ふふん、目的の為にはー・・・なんでもするオンナー・・・それがワタシー」
「ちょ、カトカさん、サビナさん助けてー、宿舎が危険で危ないー」
「それは駄目ね」
「うん、駄目だ」
やっとカトカとサビナが腰を上げ、やった味方が出来たと喜ぶゾーイ、しかし、
「まぁ、それを見せてくれれば済むだけだしね」
「そうだよねー」
と二人の瞳がキラリと光り、ゾーイが胸に抱く枕を捉えたようで、
「えっ、二人もですか」
「ですねー」
「うん、大丈夫よ、笑わないからー」
味方だと思ったら敵である、ゾーイはギャーと叫び、
「ふふーん、あの二人はねー、私の手下なんだからー」
いよいよ調子に乗るユーリ、
「ギャー助けてー、ジャネットさん、ルルさん、この人たち何とかしてー」
ゾーイもここは人を選んだようである、真面目に話し込んでいる大人達よりも生徒達に助けを頼んだあたり、どうやらふざけ半分である事は理解しているようで、
「ムッ、ルルっち、ゾーイさんが危険だ」
「はい、行きましょう」
縫物を放り出し、勢いよく立ち上がる二人、ケイスがオイオイと二人を見上げ、レスタはウフフと楽しそうである、グルジアはまったくもうと他人顔であった、
「おっ、戦術科の二人が出て来たぞ、ここは元講師として負けるわけにはいかん」
「そのようですね、所長、宜しくお願いします」
「腕の見せ所です所長」
「うむ、さぁかかってくるがいい」
ムフンと腕を組んでそっくり返るユーリ、ムゥと睨みつけるジャネットとルル、ここにミナがいればヤンヤと参加したであろう状況である、そこへ、
「さて・・・なにやってんのアンタら・・・」
前掛けで手を拭いながらソフィアが厨房から戻ってくる、ティルとサレバとコミンも続いており、ジャネットとルルに対峙するユーリとカトカとサビナ、壁に追い詰められているゾーイ、ケイスとレスタとグルジアは楽しそうにその騒動を見つめており、ニコリーネは我関せずと立ったままマクラに顔を埋めてフガフガ言っている、そしてエレインらは真面目に話し込んでいる様子で、タロウはノホホンと白湯を啜っていた、つまり普段よりもいっそう奇妙な状況のようである、
「ムフフ、生徒の実力を測るのもまた講師の務め」
「ムッ、ルルッチ、先生は本気だ」
「そうなんですか?」
「うん、私にはわかる」
「ほう、腕を上げたなジャネット」
ニヤリと微笑むユーリ、しかし、
「はいはい、遊んでないで、あっ、タロウさんね、どうするの?魔力の増大だかなんだか、今の内に打合せしときなさいよ、明日も殿下かクロノスに会うんでしょ」
ソフィアがタロウを睨みつけ、ビクリと肩を震わせるタロウ、
「あっ、それもあったわね・・・どうするの?」
とタロウに向かうユーリ、ありゃっと拍子抜けするジャネットとルル、
「あー・・・どうしようか・・・ゴメン、ゾーイさん、少し意見を伺いたい」
タロウがうーんと頭をボリボリかきながらゆっくりと半身を上げる、エッ私ですか?とゾーイがそっと、歩み寄る、どうやら戯れは終わったようである、カトカとサビナもすっかり真面目な顔でタロウを見つめていた、こうなると可哀そうなのはジャネットとルルであるが、二人もまぁこんなもんだろうなと自席に戻ろうと振り返ったようで、
「うん、ほら、魔力の鍛錬ね、あれの感じっていうか、どうかなーって」
「あっ、はい、真面目にやってますよ」
「それはわかるけど・・・」
タロウがさてじゃ少し真面目にやるかと座り直した瞬間、
「今だ!!」
サッとユーリがゾーイの枕を抜き取り、アッと叫ぶゾーイ、どれどれと枕を弄りだすユーリとそれを覗き込むカトカとサビナ、あちゃーと呆れる生徒達、
「もー、なんですかー、みんなしてー」
キーッと悲鳴を上げるゾーイであった。
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使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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