セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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75話 茶店にて その32

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タロウとボニファース、リンドはその姿を三階の教室に移した、二階がバタバタと騒々しくなり、また恐らくここからの会話は他人に、それも平民に聞かせて良いものではないとタロウが判断した為である、タロウは上を使わせてくれとケイランに伝え、ケイランは諸々を察してテラに報告し、すぐに了承されたらしい、三人はすぐに席を移し、ケイランとマフレナが茶と寒天料理とプリンを運び込む、そうしてボニファースはゆっくりと脚本を読み込み、タロウとリンドは魔法技術について話し込んだ、リンドはこの教室に一歩足を踏み入れすぐにその異様な静けさを感じ取り、さらには魔法の気配を感じ取るに至って、これはとタロウを質問攻めにしてしまったのである、タロウは流石リンドさんだなーと柔らかくほくそ笑み、その質問に丁寧に答えていく、リンドとしても何気に珍しい状況である、普段であればあくまで従者か副官として一歩下がってタロウと対する事が多いが、今回はボニファースが隣りにいるとは言え、そのボニファースは書に集中しており、タロウとリンドはまるで無視とすっかり熱中している様子で、となればここは普段抱いていた疑問も合わせ遠慮なくタロウとの議論を楽しむ事としたらしい、タロウとしてもリンドの実力は確かなもので、恐らく天然の魔法使いとしては王国でも随一、帝国でも、魔法の島国でさえも比肩する者を探すのが難しい程の人物である、それだけの実力者となれば王国に於ける魔法その本来の発展や、概念を知るにはうってつけの人物なのだ、タロウが好き放題やってかき回している魔法という技術であるが、それが無ければどう活かされ発展していたものか、タロウとしてはもう夢想するしかないのであるが、その夢想もまた楽しかったりする、そして、

「ふむ、悪くない」

ボニファースが台本を置いてフーと一息つくと、お前も読めとばかりにリンドへ押しやった、リンドは静かに頷きそれを手にする、

「でしょう?」

タロウがニコリと微笑む、

「うむ、お前らの会談も興味深かったがな」

ニヤリとボニファースが微笑み、そうですかとタロウは片眉を上げ、リンドがスッと顔を上げた、

「まぁ、それはお前らに任せるとしよう、儂としても気にはなるが、門外漢だ、ロキュスを呼び出そうかとここまで出かかったぞ」

喉元に手刀を当てニヤリと口元を歪めるボニファース、しかしその目は笑っていない、それをやると長くなるので勘弁ですとタロウは微笑み、確かにと薄く笑うリンド、

「でだ、これを利用しろと言うのだろ、貴様は・・・」

ジッとタロウを睨むボニファース、

「はい、その通りです」

タロウはゆっくりと頷いた、

「・・・だろうな、先の大戦時にも・・・ベークマンが上手い事仕立ててくれた、あれのお陰で王都回りの貴族もな、積極的に協力するようになってな、国民も後押ししてくれるようになったと感じる・・・」

ベークマンとは侯爵位にある貴族である、王家の直参にあたり、ライダー家の直属の上役で、かつてエレインの縁談を準備し、破談になるもその顛末を演劇にして一山当てた上に、厭戦気味であった諸侯を戦場に駆り立てる事に成功した人物である、

「ベークマン?ですか?」

「おう、侯爵じゃ、これの第一幕の作者じゃな」

「へー、そりゃまた・・・そのような方がいらっしゃったとは・・・そりゃいるか、誰かが書くもんですしね」

「まだ会ってなかったか?」

「恐らく、ほら・・・私はそこまで・・・ね・・・」

タロウが誤魔化すように呟き茶に手を伸ばす、

「まったく・・・まぁ、お前はそれでいい」

ボニファースも湯呑を手にして一口含む、その間もギチギチとその脳みそは動いていた、タロウは大したもんだよなこの人もと素直に感心する、その思考音が漏れ聞こえるように感じる、イフナースも言っていたし、クロノスももう完全に撤退しているが、やはり一国の王ともなれば常人を遥かに超えた思考力と精神力、胆力に知識が求められるもので、どうやらボニファースは王として必要な才をしっかりと身に付けた傑物と言えよう、

「・・・確かに使えるな・・・」

「でしょう?」

「うむ、しかし、こうなるとあれだな、エレイン嬢を利用しすぎているようにも感じる・・・」

「ありゃ、そこを気にされます?」

「それはな・・・二度も利用しては流石に気の毒に感じる、先のあれはまだな、ベークマンの立場もあったろうから致し方ないとは言え、二度目となると少しな・・・」

「気が引けます?」

「まぁな、第一本人を知るとな・・・もう少しやんちゃな人物かと思っておったのだよ」

「ありゃ・・・まぁ、その演劇を見ればそう思うかもしれませんね」

「だろう?しかし、イフナースから聞いてはいたが、本当にこれのような事を公爵に言ったのか?あの娘が」

「はい、そのようです」

「・・・これもまた意外だな・・・とてもそこまでの覇気は感じられないが・・・」

リンドがチラリとボニファースへ視線を向け、すぐに書に戻った、リンドもイフナースから事の顛末は聞いているが、確かに普段のエレインを知ればそのような言葉を発するとは思えず、余程の事があったのだろうかと考える、しかし、その状況を考えるに余程の状況であったのだ、片や王家の宿敵である公爵と、つい最近回復したばかりの王太子、晩餐会の席であるとはいえ、公爵は近衛を連れているが、イフナースは従者も連れておらず、エレインはそのイフナースに請われて出席している立場、となれば何かあれば自分が盾にならなければと感じたのではないだろうか、リンドはそう解釈し、だとすれば女だてらに王国史に残すべき忠臣であると思う、さてその場面をどう活写しているのかと期待しつつ読み進める、

「女性を見くびり過ぎですよ、いざとなると男以上に男らしい」

タロウがニコリと微笑む、

「フハッ、確かにその通りかもしれん」

「でしょう、そういう女こそイイ女ってやつです」

「貴様も言うな、そうだその通りだ、イイ女だな」

ガッハッハとボニファースは嬉しそうに大笑し、

「王妃やパトリシアが見抜いた通りであったかな、ヤンヤとうるさいのだ」

「ヤンヤ?ですか?」

「おう、イフナースがだらしないだの、エレイン嬢は面白いだのなんだのと、あれかな女が女を褒めるのは貶すときだけだと儂は思っておったのだが、違うらしいな」

「ありゃ・・・陛下にまで?そう仰っているんですか?王妃様達が?」

「そうなのじゃ、好きにすれば良いと放ってあるがな、フン、こうなるとイフナース次第じゃが・・・あれも今一つ分からんでな」

「分からない?」

「仕方なかろう、つい先日まで寝込んでいたのだ、三日に一度は顔を見てはいたがな、あの年頃の男が5年もそうだったのだ、人格も変わっていよう・・・違うか?」

「あー・・・確かにそうですね、確かに子供が大人になる期間・・・それがまるっと寝台の上では・・・」

「そうなのだ、今はほれ、回りに持ち上げられて何とかやってはいるようだが・・・どうだ、リンド、お前から見たら」

不意に問いかけられたリンドがパッと目を丸くして顔を上げ、

「・・・そう・・・ですね・・・確かに現状は持ち上げられている感が否めません」

と静かで辛辣な口調である、

「しかし・・・御本人も努力されております、少々・・・酒が過ぎている様子ですが、あれもまた、訓練だと嘯いておる様子、軍にあっては事務官達を振り回しておりますよ」

「そうなの?」

「はい、但し良い意味でです、イザーク補佐が大したもんだと褒めていました、何もわからんから全てを報告しろ、一同を集めてそうおっしゃったとか、事務官達としては面食らう所でしょうがね、しかし、今のところは大きな問題にはなっていない様子、ある種の人徳ですな・・・クロノス殿下もそうでしたが、やはり軍団長はまずもって人を率いる立場であります、何よりも分かりやすい権威が必要」

「それだけではならんと言っておるだろ」

ボニファースがブスリと釘を刺すも、

「現場に於いては最重要ですよ、兵達は特に・・・この男であれば命を預けられる・・・そう思わなければ突撃なぞ出来ません、戦場に於いては勢いと理の及ばぬ権威、軍を運用する知と軍を率いる勇、相反する価値観を内包し操ってこそ兵は動きます」

「そうだがな、馬鹿な指揮官の下では被害が増すばかりだ」

「その点はまだまだこれから、特に今回も一軍のみで対しておるわけではないですし、状況が良かったですね、西も都市国家も落ち着いておりますから、なんのかんの言って結局全軍団長が揃ってますからね、荒野に、逆にメインデルトがやり難そうですよ、公爵軍もおりますし」

「それは聞いているがな、それをまとめてこそのメインデルトだ、いつまでもアンドリースに頼る訳にもいかん、あいつはもう老人だ」

「はい、確かに、それはほら、アンドリース自身がそう言ってますから、メインデルトもその点よくよく理解しておりましょう・・・エメリンスも良く動いております、次代も育っておりますよ、イザークにしろ、他の補佐官にしろ」

「なら良いがな・・・まぁ、軍に関してはなんとなるか・・・」

「はい、そのように思います、皆、殿下には期待しております、あの公爵でさえそうなのですから・・・」

「それもあるな・・・となれば、確かにそれは使えるな・・・」

ボニファースが脚本を見つめ、リンドはすいません、最後まで読ませて下さいと視線を戻す、ボニファースはすまんなと鼻で笑うと、

「あれか、学園長もローデヴェイクも呼び出せるか?」

フッとタロウに問いかける、

「あー・・・どうでしょう・・・って、あなたであれば誰でも呼び出せますでしょ」

何を言っているのやらとタロウは苦笑いである、それもそうだと笑うボニファース、リンドも視線を下げたまま大きく頷いた、

「となれば・・・あの時はどうだったかな・・・リンドでは無いな、事務官を呼んで・・・」

「あっ、公演の前に公爵様と殿下に確認頂かないとですよ」

まったくと目を細めるタロウ、

「なんで?」

意外そうに目を丸くするボニファース、

「なんでって・・・だって、せめて根回ししておかないとまた火種が出来ます」

「今更なんだ気にするな」

「いやいや、そういう所ですよ、いらん軋轢を増やしなさるな、学園長にも話しましたが、演劇となれば改編されるのが当然です、正直どう表現されるかも分からないのですから、その点も踏まえて根回しが重要なのですよ、創作が9割と説明しましたでしょ、その創作である事を理解して、その裏にある主旨も理解頂かないと一騒動起きますよ、それにエレインさんもまだ了承はしてないです」

「そうなのか?」

「はい、本人はあまり良い気持ちはしないでしょう」

「・・・そういうものか・・・」

「そういうもんです」

「ならそれこそだ、パトリシアと王妃に任せよう、儂が出るのはお門違い」

「・・・そうでしょうけど・・・」

「そういうものじゃろ、まぁ、いくら急いだところで公演は来年になる、王都の劇団がどれほど優秀だとしてもいきなりこれを演じろでは対応も難しい」

「・・・それもそうですね・・・」

「じゃろう、となれば、今の内から動かしてか・・・その間に根回しなりなんなり好きにやれば良い、儂としてはその演劇こそ観てみたい」

ニヤリと微笑むボニファース、どうやらすっかりこの脚本を気に入ったらしい、

「・・・確かに面白そうではありますが・・・まぁ、プロパガンダとしては穏当な部類かな?」

「何だそれは?」

「あー・・・あれです政治的な宣伝とか、思想誘導とかそういう意味あいです」

「・・・面白いな、詳しく話せ」

「・・・詳しくと言われても・・・」

タロウはこれは困ったと両目をきつく瞑って首を傾げる、とても説明する事は難しく、実例を上げるにしても困難であった、まずもって公に周知する手段が少ないのである、当然であるがテレビもラジオもネットも映画も無い、あるとすれば広報官の定期的な連絡と公的な掲示板、そして演劇となる、プロパガンダを目的とすると演劇が最もその手段として有効とは思うが、その演劇にしても完全に制御する事は難しいであろう事をタロウは理解しており、その点を最も懸念していたりする、

「なんだ、珍しいな相談役」

ニヤリと意地悪く微笑むボニファース、リンドもチラリとタロウを見つめる、

「その肩書は出さないで下さいよ」

「誤魔化すな、で、プロなんだっけ?」

「プロパガンダですね・・・まぁ、演劇が良い例です、お二人なら既に理解しておる事だと思いますよ」

さて少々難解だがとタロウは背筋を伸ばして続けるのであった。
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