セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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75話 茶店にて その45

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再びソウザイ店の三階では、

「こうなります、これもまた御洒落でしょ」

タロウがニコリと振り返り、オオーッ確かにとすっかり感心し慣れてしまった女性達、リーニーはどんな風に見えるのかなと思いつつ胸元に視線を落とし、アッと思って、顔を上げる、

「あとでゆっくり見ればいいよ」

タロウは微笑み、はい、そうしますと小さく答えるリーニー、

「タロウ、それはなんと呼ぶの?」

「あっ、はい、こちら、首の襟の下に巻いているのがネクタイ、胸のポケットのはハンカチ-フですかね」

パトリシアの質問にタロウが即座に答えた、なるほどと女性達の手が動く、パトリシアもまた猛然とガラスペンを走らせ、

「あれかしら、実用性はないのね」

「はい、ほぼないですね、ネクタイはあくまで装飾品です、ハンカチーフは手拭いとしても使えますが、こうして装飾とした方が良いと思います、この微妙な形を維持するのは一度使ってしまうと難しいですから」

「・・・そのようね、生地は?」

「はい、ネクタイは正直・・・何でもいいですね、ハンカチーフも同様ですが、これはどちらもシルクを使ってます、昨日商会で余った布で急ごしらえしたものですね」

タロウがニコリとリーニーを伺い、リーニーはニヤリと、マフダもそうだったと嬉しそうに微笑む、

「それはあれ、そのハンカチーフは上着に直接縫い付けては駄目なの?」

エフェリーンの質問である、

「あー、直接縫い付けても良いと思いますが、それだとほら、なんと言うか・・・変化を楽しめないかなって思います、例えばですが、今日は気分がすぐれないけど明るくしたいから、黄色いのを着けようとか・・・あっ、あれです、やっぱりほら、従者さんの衣装になりますから、上位の貴族様に会う時は白、普段の仕事では青とか、そういう変化ですね、その変化を楽しむ、もしくは活かす為には縫い付けない方が良いかなと思います、それと形ですね、現状三角に折ってますが、これも折り方で形を変えれます、なので・・・まぁこれもね、皆さんのお好みで色々試してみて下さい、ちょっとした工夫で可愛らしくもできますし、カッコ良くも出来ます」

「・・・それも面白そうね」

「ですね、御洒落はほら、そのちょっとの手間をこそ楽しむべきですしね」

「あらっ・・・良い事言うじゃない」

「ですか?」

「少しは見直しましたわよ」

ニヤリと微笑むエフェリーン、タロウは光栄ですとニコリと微笑む、そろそろ正午を過ぎる時間となっている、休憩を終えた一同が三階に上がり、講義の続きとなった、タロウは書き付けを確認しながら講義を再開し、美容における保湿の重要性を説明し、さらに服飾に関する点として男女に求められるシルエットの差を解説したり、あまり勧めたくはないとしつつハイヒールを紹介した、それは実物を提示する事は無かったが、シルエットから派生し、足を長く見せる事による視覚的効果を狙ったものとし、また、大変に慣れが必要な履物である事と、都会や屋内のようなしっかりと舗装された道でないと危ない事を付け加えている、さらに妊婦には絶対に履かせないようにと付け加えると、パトリシアはムッとタロウを睨みつけるが、確かにそうかもなと頷く者が多かった、そして寝間着についても説明している、あっ、これが昨日のあれかとユーリ達は気付いたのであるが、やはり貴族達にはピンと来るものでは無かったらしい、自室にあっては部屋着に着替える事が当然の貴族としては、ゆったりとして楽な服装とタロウが説明した寝間着と部屋着との違いが明確では無かったのであろう、しかしタロウがその寝間着をタオル生地で作る事を提案すると、それは良いかもなと絶賛される事となった、なんでもパトリシアはタオル生地を衣服にする事を考えており、マルヘリートもまたその用途に合わせた生地をヘルデルで開発させているそうで、丁度良いとばかりに二人は盛り上がり、タロウもまたそれならすぐにミナの為に作って欲しいと微笑む程で、マルヘリートは勿論ですと大変に興奮していたりする、そして次の議題となり、再びリーニーが黒板の前に立ち、紹介されたのがネクタイとハンカチーフとなっていた、

「まぁ、ほら、どうしても最初の内は生地の余りが発生すると思いますので、それを有効活用するという意味でも使えるのかなと思います、何せね、生地は貴重ですし高価ですからね」

タロウはニコリとマフダに微笑む、昨日事務所に顔を出したところマフダから寂しそうに相談されたのである、確かになと型紙に抜かれ、もうそれ以上どうしようもなく小さくなった生地を見つめてしまったタロウである、王国でのそれまでの服飾であれば、そのような小さな端切れが生まれる事は少なかったそうで、布をほぼ丸っとそのまま胴体部分に活用し、腕の部分もただの円筒となる、端切れが生じたとしても長方形であるらしく、それはそのまま手拭いなりなんなりに転用可能であったのだ、なるほど、こういう問題もあるのかとタロウは思い知り、であればと思いついたのが小さな布でも何とか活用でるきであろうハンカチーフと、タロウ自身はあまり好んではいなかったネクタイとなる、昨日は端切れを適当な大きさに切ってウンウンとやっているとあっという間に夕方になってしまい、試す事が出来なかった為こうして本番でやってみたのであるが、何とか形にはなったらしい、細く長いネクタイと、実用性皆無のハンカチになってしまっているが、お洒落の為と嘯いて、これで何とか趣旨が伝わったかなとホッと安堵したタロウである、

「確かにね・・・悪くないわ」

「だねー、うん、アフラとか似合いそー」

「リーニーさんもちゃんと似合ってますよ」

「そだねー、私はー、私も着てみたいー」

「あなたは駄目よ」

「駄目ね」

「なんでさー」

「だらしないのよ」

「そうねー」

「えー、そんな事ないでしょー」

「顔がねー」

「全体的にねー」

「なんかねー」

「グデッとしてるからねー」

「エー、言い過ぎー、それ絶対言い過ぎー」

「そうかしら?」

「間違っては無いわね」

パトリシアとエフェリーンに言いたい放題言われるウルジュラである、ブスーッと頬を膨らませて御立腹のようで、

「もー、私だってちゃんと出来るでしょー」

「なら、普段からちゃんとなさい」

「そうよ、もういい歳なんだから」

マルルースまでもが苦言を呈する始末、いよいよムーと顔を顰めるウルジュラ、

「まぁまぁ、あれですよ、服装で気が引き締まるという事もありますから」

タロウがヤンワリと諫めにかかる、

「そうねー・・・それはあるわねー」

「ですよね、なので、是非一度試してください、従者さん用の服としてますが、動きやすいし、快適です、貴族様でもお仕事をされる時はこちらの方が良いかもしれません」

「・・・まぁ、考えておくわ」

パトリシアがフンと鼻を鳴らしたようである、タロウは少しは和んだかなと女性達を見渡し、

「では次になります、どうしようかな、リーニーさんはそのままお願い出来る?」

と確認する、リーニーはハイッと明るく返すも最後に残った講義内容はガラス鏡の活用であった、リーニーはハテ何をするのかな?と首を傾げてしまう、講義内容は全て頭に入っていた、それも致し方ない、なにせ上質紙に複写した当人なのである、カチャーと二人でヒーヒー言いながら作業していたのだ、マフダはマフダで型紙の複写に忙しく、これも仕事と昨日は三人で踏ん張っていた、

「ん、じゃ、ガラス鏡は・・・」

とタロウはどうしようかと頭をかいた、すっかり準備し忘れており、テラがサッと立ち上がる、それより速くケイランが三階の奥に走ったようで、

「あっ、すぐにお持ちしますね、壁鏡でいいですか?」

テラがそれに気付いて確認すると、

「あっ、ありがとう、ごめんね、手間かけさせる」

タロウがすぐに謝罪した、昨日事務所に顔を出した折に段取り含めて打合せをしておこうかと思っていたのであるが、すっかりと抜け落ちしてしまっていた、なにより端切れの活用に時間を取られたのが宜しくなかった、まぁ、そちらは急遽組み入れたわりには好評だったようであるから良しとする他無かったが、そうして、すぐにケイランがガラス鏡を胸に抱えて戻ったようで、タロウは申し訳ないと陳謝し、ケイランは構いませんと手渡す、タロウは受け取ったそれを教壇に置き、片手で支えると、

「では、ちょっとした実験をしてみます」

ニコリと微笑み仕切り直しとする、一同はここにきて実験?と眉を顰めた、

「ホントにね、ちょっとしたものなんですが、興味深いものとなると思います、じゃ、リーニーさん、この鏡見てくれる?」

タロウは立ったままのリーニーを伺い、リーニーははいと小さく頷いて鏡に向かった、ガラス鏡は立ったままでも丁度良い高さで、リーニーはアッ、ネクタイとハンカチーフってこんな感じになるんだと思わず頬を緩めてしまう、

「ん、ちゃんと見てね、自分の顔」

タロウが察して集中するように促し、アッとリーニーは視点を鏡に映る顔に合わせた、しかしそこには自分の顔があるばかりである、それは当然で、しかしリーニーもすっかりガラス鏡には慣れている、顔の筋肉が自然に動いた、

「そこ」

タロウが鏡の上からリーニーを覗いており、エッとリーニーはタロウを見つめ、女性達も何が?とタロウを見上げる、

「そのまま、そのままの顔で皆さんの方に向いてみて」

「このままですか?」

「そう、そのまま」

タロウに促されるままにリーニーはゆっくりと受講者へ顔を向けた、それがどうしたと一同は不思議そうにリーニーを見つめる、

「ん、いいよ、じゃ、一旦目を閉じて」

エッ?とリーニーはタロウを見つめ、

「いいから、大丈夫、何もしないから、目を閉じて、顔の力を抜いてみて」

ムーとリーニーはタロウを睨みつけるも素直に目を閉じ、フッと脱力する、

「ん、いいよ、そのままで目を開けて、皆さんの方に向けてだよー」

素直に実行するリーニー、そこにはリーニーの普段の顔があり、だからなんだと首を傾げる一同となる、

「じゃ、もっかい、そのまま、その顔のまま鏡を見てごらん」

リーニーは訳も分らず鏡へ向かった、そしてそこにあるのはいつものリーニーの顔である、しかし、少しばかり印象が違っていた、何とも眠そうで、だらしない、リーニーは自然と顔に力が入るのを実感し、アッと思って力を抜いた、

「うん、どう、違いが分かる?」

「エッ・・・違いですか?」

「そっ、違い」

「エッと・・・そのなんかだらしないです・・・」

素直に答えるリーニー、思わずムゥと口元顰めてしまう、

「そっ、大正解」

ニヤーと微笑むタロウ、失礼だなーとリーニーはタロウを睨みつけるも、エレインがアッと大声を上げた、

「あらっ、エレインさん気付いた?」

サッと振り返るタロウ、

「あっ、はい、えっと・・・その・・・」

しかしエレインはどう答えるべきかと言い淀み、どういう事かと振り向く王妃達、

「うん、まぁ、はっきり言うね、リーニーさんにはすんごい嫌な言い方になるけど、そのだらしない顔が普段のリーニーさんの顔で、その顔でみんなと話してる」

エッ・・・と絶句するリーニー、

「でね、さっきの鏡を見て、顔の筋肉に力が入った状態、あったでしょ、あれがね、リーニーさんが自分の顔を一番魅力的だと思う状態の顔って事・・・言ってる意味わかる?」

「・・・えっと・・・はい・・・分かる気がします・・・」

リーニーも気転の利く娘である、すぐに鏡に向かい、いつもの鏡の前に座った時の面相となり、これがその魅力的な状態でと確認すると、目を閉じて力を抜き、スッと鏡を見つめ、これが普段の顔なのかとその落差に改めて驚愕した、

「・・・そういう事ですか・・・」

「そういう事」

目を丸くしてタロウを見つめるリーニーにタロウはニヤリと微笑み返すと、

「見て頂いた通りですね、ハッキリ言います、これは俺自身もそうなんですが、皆さんは皆さんが思っている以上に魅力的には見えてないです」

また酷い言い草だなとユーリはタロウを睨みつけ、王妃やパトリシアも何を言い出すのやらと目を細める、

「ですが、鏡の中に映る姿、これは面白い事にその人の自然で魅力的な表情を映してくれるのですね、何故そうなるか、簡単です、自分でそうしているからなんですよ」

わかります?とタロウが不安そうに問いかける、少しばかり表現が拙かったかなと思うも、確かにそうかも・・・と首を傾げる者がチラホラあった、カトカやゾーイ、テラやメイド達もアッと気付いたようである、

「なので、私の国なんかでは、鏡の中の姿は普段よりも三割増しで美しいと考えろと言われてました、で、逆を言えば普段の姿は三割減で鏡の中の姿よりも美しくないという事なんです、となれば」

とタロウはリーニーへ視線を移し、

「さっきのね、鏡の中の良い顔?あれを普段から意識してごらん、めちゃくちゃモテるぞ」

ニヤリと微笑むタロウ、エッと目を剥くリーニー、あっ、そういう事かとパトリシアも勘付いたようで、

「待ちなさいタロウ、どこまで本気で言ってるの?」

「どこまでもですよ、これは美容というよりかは・・・あれですね、作法かな・・・行儀とも違うかな、どう言えばよいか・・・エチケットも違うし・・・印象を良くするって事なんですけどね・・・良い表現が無いですね、やっぱり作法が近いのかな・・・その程度の・・・あっ、礼儀・・・でもいいのかな、まぁ、そんな感じの事なんですが、特に女性にとっては大事な事と思います、このガラス鏡、これによって、自分の顔がより分かりやすくなったと思うんですね、で、そうなるとこれに映る自分ってやつは大変に魅力的だと思います、それは誰しもが思ってます、俺でもです・・・なんですが、その鏡から少しズレただけで、普段の顔に戻ります、そうなると先程ガラス鏡の中で見た自分の顔、その表情になって無いんです、魅力が三割減った、力の抜けた顔なんです、リーニーさんの顔を見て実感されましたでしょ、鏡を見たすぐ後のリーニーさんは大変に可愛らしく魅力的でした、ですが、普段のリーニーさんは、たしかに可愛らしいですが、魅力的とまでは言えないと、ごめんね、ハッキリ言っているけど、貶してる訳じゃないからね」

タロウは慌ててリーニーを伺い、リーニーはしかしタロウの言っていることを実感出来た為大きく何度も頷いている、

「良かった、そういう事なんです、なので、是非ね、皆さん鏡に向かった時の良い顔、それを維持するように練習してみても良いかと思いますよ、恐らく皆さんに対する他の人達の当たりというか扱いが少し変わると思います、より柔らかく、そして・・・うん、優しいものになるかもですね、まぁ、この場にいる皆さんは皆美しい人ばかりですから、それがより美しくなるのです、大変に結構な事と思います」

タロウはガッハッハと笑って軽く誤魔化した、最後の最後には一応と胡麻をすったつもりでもある、しかし、そんな事はどうでもいいとばかりにパトリシアも王妃達も視線が厳しい、そして、

「アフラ」

「ハイッ」

パトリシアに呼びつけられアフラがサッと駆け寄る、

「鏡を」

「アッ・・・すいません、メイド・・・ですね・・・」

ムッとアフラを睨むパトリシア、エレインがサッと立ち上がり、

「テラさん、向こうから手鏡を持って来ましょう」

「はい、すいません、皆様、用意します」

テラとメイド達が音も無く階段へ向かう、アー・・・やっぱり段取りが足りなかったなーと申し訳なさそうにそれを見送るタロウと、何とも落ち着きが無くなってしまっている王妃達とパトリシアであった。
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