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本編
75話 茶店にて その48
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それからあーだこーだと盛り上がる女性達、あの時はあーで、あの祭りは楽しかったけど、あれは駄目とか、ミナちゃんがどうとか、あのお菓子が美味しいとかと取り留めのない思い出話に花が咲く、学園長と司法長官はなるほどと忙しく手を動かしつつも見事に聞き出していた、そこは流石の学園長である、昔取った杵柄と情報収集はお手の物のようで、さらに司法長官もまた自ら犯罪者を問い詰める事もあるようで、先程の話しだとこうなるだとか、となればこのように考えたのではないかと主に心理的な部分を聞き取る始末、タロウは大したもんだなーと眺めていると、そこへ脚本を読み終えたレアンらが嬉々として参戦するに至り、そんなこともあったのかと今度は王妃達も聞き役に回ったようで、さらにマリアが両親の描写があまりにも非情過ぎると言い出し、エレインも確かにそうです、母上は優しい方ですと話題が変わり、そこは物語上どうしてもと再びしどろもどろになる学園長と司法長官、そこへ、
「失礼します」
とメイド科の生徒がエレインを呼びに来たようで、すいませんとエレインが席を外し一階に下りた、やれやれと一息吐くもすぐにタロウも呼ばれてしまう、詳細は聞かずなにかあったのか訝し気にとタロウが一階に下りると、
「あっ、すいません、タロウさん忙しい所」
バーレントが商品棚の前でタロウを待っていた、さらにはブラスとリノルトの顔もある、その二人は商品を取り出し陳列中のようで、マンネルとメイド科の生徒達が手伝っているようであった、それを監督しているエレインとなる、
「わっ、なんだ、みんなして来たの?」
タロウはそろい踏みだなーとニヤリと微笑み、エレインもウフフと怪しげな笑みを浮かべている、
「そうですね、俺はほら、ガラス鏡の納品で来たんですが、こっちの二人は・・・」
バーレントが振り返ると、
「学園から帰ってもう一仕事って感じですー」
ブラスがぼやくように呟き、
「そうなんすよー、まったく、先生方だけでなんとでもなるでしょうにねー」
リノルトも溜息と愚痴の入り混じった疲れた口調である、
「ありゃ・・・まぁ、頼ってもらっている内が華ってもんだろ」
「そうですけどー」
「でもさー・・・まぁ、そうなんですけどねー」
ブーブー言いつつ動き続けるブラスとリノルト、マンネルと従業員も事情は理解していないであろうが大変そうだなと苦笑いを浮かべている、
「まぁいいさ、で、なんだっけ?」
「はい、あれです、さっきお届けしてきました寮の方へ」
バーレントがカウンターテーブルへ視線を向ける、そこには件のガラス容器がデンと置かれており、
「あっ、ホント?速いね嬉しいよ」
タロウは満面の笑みとなる、
「いえいえ、こちらこそです、売れるだろうと思って幾つか作って置いたんですが、まるで引き合いが無くて」
「そうねー、皆さん興味は惹かれたみたいなんですけど、具体的に欲しいって人が現れなくて、一個も売れなかったですね・・・」
エレインも困った顔でガラス容器を見つめる、ショーケースとも呼ばれるそれは今日は空であった、明日からはその中に様々な料理が並ぶ予定となっているが、今はまだ寂しそうに佇んでいる、
「そうなんだ・・・あれかな、やっぱり高いでしょ・・・たぶんだけど」
「いや、あれです、冷たい菓子の時は大活躍してましたから、温かいものでも使えるって事が分からなかったのかもですね、ドーナッツとかも結局揚げたてを販売してましたし・・・」
「あー、なるほどー・・・でも、屋台で使えると思うんだけどなー・・・あー・・・屋台でこれを置くとなると場所が・・・ないのかなー」
「それもあるわねー・・・」
うーんと首を捻るエレインとリノルト、エレインもすっかり落ち着いて商売人の顔となっている、先程タロウに向けた細く冷たく尖った視線はもう微塵も感じられない、
「そういう事もあるか・・・あっ、お金払うよ」
「えっ、いいですよー」
「良くないよ、直接?エレインさんに?」
タロウは懐から布袋を取り出すも、
「頂けないですよ、それこそ、あれです、あれで何をするんですか?」
ニヤリとタロウを見上げるエレイン、バーレントも興味津々とタロウを見つめており、オッと陳列中の男達も従業員も手を止めたようである、
「何って・・・まぁ・・・うん、それはほら・・・やってみないとだなー」
タロウはニヤーとあからさまな厭らしい笑みを浮かべる、
「またー、そんな事言ってー」
「そうですよ、素直に教えて下さいよー」
「素直って・・・俺はいつでも素直で正直で真面目だよー」
「なっ、どこがですか!!」
ギッとタロウを睨むエレイン、先程までの冷たい視線がタロウを射貫くも、タロウはどこ吹く風と笑顔のままで、
「見ての通りださー」
「何が見ての通りですか、結局タロウさんも片棒担いでたじゃないですか」
「どの片棒だよ、そんなもん担いでないだろさ」
「いいえ、陛下に教えたのも、助言だかなんだかもしてたんでしょ、それは加担していたと見なします」
「そりゃそうだけど、それはだってさ、そのうちそうなる事確定なんだよ、早いか遅いかの違いしかないでしょが」
「それでもです、他人事って顔して、もー」
エレインの突然の剣幕にバーレントはエッと言葉を無くし、他の面々も何があったのやらと唖然としている、
「まぁまぁ、なんとかなりそうなんだから結果オーライって事で」
「なんですかそれ、変な言葉使わないで下さい」
「あらっ・・・駄目?」
「駄目です」
ピシャリと言い放つエレイン、タロウはダッハッハと誤魔化し笑いをして、
「あっ、で、なんぼ?」
と手にした布袋を開く、
「あっ、だから、いいですよ、それ以上に儲けさせてもらってますから」
「・・・ですね、それはいいです」
慌てるバーレントに不愉快そうなエレイン、タロウはまったくと顔を顰め、
「そう言うなら、まぁ・・・素直に頂いておくよ、ほら、俺、素直で正直で真面目なイケメンだから」
「なんか増えましたけど・・・なんです?イケメン?」
「うん、良い男って意味だな」
「急になんですか、気持ち悪い」
エレインが再びギリッとタロウを睨む、
「気持ち悪いって・・・あー、エレインさんの本音が出たねー、そっか、どうせ俺は気持ち悪いオジサンだもんなー」
しょんぼりと俯くタロウ、アッとエレインは目を丸くし、
「そんな事言ってないですよ」
即座に否定するも、
「えーだってさー、なぁ、あれだろ、邪魔くさくて、髭面でー、臭くてー、めんどくさくてー、我慢して相手してあげてるのに調子乗ってる嫌な奴だろー・・・知ってんだー、俺ー・・・」
「なっ、急になんですか」
「そうですよ、そんなに卑下しなくてもいいですよー」
「・・・どうしたんです?急に?」
「ですね、なんか嫌な事ありました?」
どうも様子が変だとブラスとリノルトも一歩近づく、タロウの言動が余りにも不穏であった為で、マンネルと従業員も顔を顰めてしまっていた、
「えーだってさー、エレインさんに嫌われたら生きていけないしー」
「だから、嫌ってないですよー」
「でもさー、だって、冷たいんだよ、この子・・・怖いし・・・お姫様に似てきたし・・・お姫様も怖いんだよ・・・ズーッと睨んでるの、クロノスには優しいくせにさー・・・」
「だからー!!」
キーッと叫ぶエレイン、エッと驚く職人達と従業員である、タロウの言動もそうであるが、エレインの取り乱した様も珍しいように思う、
「ねー・・・怖いでしょー」
泣きそうな顔となるタロウに、コノーと目を吊り上げてしまうエレイン、そこでやっと、あーこれはからかっているんだなと職人達も気付く、そして、
「あー・・・ホントに嫌われますからその辺で」
バーレントがまったくと微笑み、
「・・・ダメ?」
「駄目ですよ、で、あれです、話し戻しますけど、あのガラス容器なんですが」
と事務的な口調になるバーレント、まったく人騒がせなと作業に戻るブラスとリノルト、ムフーと不愉快そうに鼻息を荒くするエレインである、そうしてその場で軽く打合せが済まされた、何のことは無い、ガラス容器そのものは数台用意してあったのだが、肝心の魔法板は研究所に頼まなければならないそうで、注文がきてから用意する段取りであったそうである、それであれば何とでもなるとタロウは微笑み、ついでだからとこの店にも用意した方が良かろうなとエレインに告げた、エレインもすぐに機嫌を直してその真意を問い質すもタロウは見事にはぐらかし、これだからと再び似たような騒ぎが起きそうになったところに、アフラがエレインを呼びに来たようで、エレインはプリプリと肩を怒らせ二階へ向かい、タロウはタロウで、
「あっ、洗濯ばさみだ、これ上手い事出来てるねー」
とブラスらに合流する、
「これもだって、ソフィアさんが作ってみろって事で作ったんですよー」
「うん、聞いたー、でも、ここまで作れたら・・・もっと色々出来るだろ」
スッとその一つを手にするタロウ、木製の洗濯ばさみは実際良く出来ている、タロウのよく知るそれよりも幾分か大きいように感じるが、それは強度の面を考えれば致し方ない、
「そうですね、あっ、エレイン会長と髪留めとか作りましたね・・・あと、ミナちゃんが遊び道具にしてまして、そういうのもいいかなーって試行錯誤はしてたんですけど、手が回らなくて・・・」
「そっか・・・あっ、遊び道具な・・・それも欲しかったんだよなー」
タロウはンーと首を傾げ、アッと固まるブラスである、ここでまた仕事を増やすのは今は不味い、
「・・・どうしようかな・・・」
タロウがニヤリと顔を上げた瞬間、ビクッと肩を震わせるブラス、
「少し打合せする?すんげー大事で、すんげーめんどくさいモノ、依頼されると思うよ」
「・・・大事なモノで・・・めんどくさい?」
「うん、俺じゃなくてエレインさんから・・・」
「・・・マジですか?」
「マジ、あっ、もしかしたらリノルトさんも・・・」
「エッ」
と振り向くリノルト、商品棚の一角には鈍く輝く湯たんぽが並んでおり、うん、これなら見栄えも良いと満足していた所であった、
「ほら、日傘の骨の部分ね、もしかしたら金属の方がいいかも、針金で作った方が早いかもな・・・って思ってね、まぁ、ブラスさんであれば見れば分ると思う」
「ヒガサ?」
「ホネ?」
同時に首を傾げるブラスとリノルトである、バーレントは俺はいいのかなーと若干寂しそうにしている、
「うん、だから・・・あっ、どうしようかな、エレインさんだなー・・・」
と階段を振り仰ぐタロウ、エッ・・・と固まるブラスとリノルト、そこへ、丁度良く階段を下りて来たのが学園長と司法長官であった、どうやら打合せは一段落したらしく、なにやらボソボソと話している、
「あっ、お疲れ様です」
ニコリとタロウが微笑むと、
「ムッ、おう、すまんなタロウ殿、手間を取らせた」
学園長は満面の笑みとなり、
「うむ、どうにかなりそうじゃ、いや、冷や汗ものじゃった」
司法長官も柔らかい笑みを浮かべる、
「ですねー、もうどうなる事かと思いましたよー」
アッハッハと笑うタロウ、何があったのだろうと首を傾げる他一同である、
「おっ、ブラス君にリノルト君じゃな、どうかな学園の方は」
二人に気付きニコニコと微笑む学園長、
「あっ、はい、及ばずながら協力させて頂いてます」
「はい、嬉しく思います」
サッと居住まいを正すブラスとバーレント、さっき言ってた事と違うなーと苦笑するタロウにバーレントにマンネル、従業員もスッと視線を外して薄く笑っている様子で、
「そうか、エーリクもあーだからな、上手い事やってくれ」
「はい、お世話になりましたから、御恩返しと思っております」
ブラスが背筋を正すに至り、ブフッと吹き出すバーレント、オイッと睨みつけるブラスである、
「うむ、おっ、商品が増えておるの」
「ですね、あっ、どうでしょう、学園長、こちら、素晴らしい品ですよ、ユタンポです」
ブラスが誤魔化すように商品説明を始めてしまい、話しはすっかりそちらに移ったようで、司法長官もなんだそれはと引き寄せられた、さらに他の商品、洗濯ばさみに木軸のガラスペン、髪留めから爪磨き、タオルもどうやら納品されていたらしい、学園長はちょくちょく見てはいたらしいが、司法長官はどれも初見であるらしく、一つ一つに歓声を上げている、従業員も楽しそうに加わりこれが使いやすいだの、贈り物にもいいんですよと商売に余念が無い、
「ふむ・・・これはあれだな、明日も来なければならん・・・」
「ですな・・・いや、面白い・・・」
今日はまだ開店前との事で、販売はしていないと説明されると落胆を隠せない二人、司法長官の従者も残念そうである、
「私共も頑張って生産してますんで、どうぞよろしくお願いします」
ブラスが商売人のような口調となると、まったくだと微笑む職人達である、そうして少し落ち着いたところで、
「どうじゃ、タロウ殿、少し飲みにいかんか?」
学園長がニヤリとタロウを誘った、
「・・・飲み?ですか?」
「うむ、司法長官もな、もう少し話したいとの事でな、しかし、もう良い時間だ、折角だからと思っての」
学園長はニヤニヤ笑いを顔面に張りつけており、タロウはこれは何かあるのかなと首を傾げるも、
「なに、馴染みの店にな、顔を出さねばならなくてな」
司法長官がどこか嫌そうに目を細める、
「何を言う、お主が誘ったのじゃぞ」
「分かっておる、それにタロウ殿には礼を言わねばならん、なにより、領主様にも公爵家にも伝手が出来た、儂はそちらの方こそ気掛かりであったのだ」
「あっ、そうですよねー、どうでした、そちらは?」
「うむ、お嬢様も奥方様も乗り気のようでな・・・うん、有難いことにな」
「それは良かった」
「じゃな、での・・・まぁよい、先はその店でという事で」
「どうかな?」
ニヤリと微笑む学園長と司法長官、タロウはまぁ偶にはいいか、疲れたしと軽く微笑み了承する事とした。
「失礼します」
とメイド科の生徒がエレインを呼びに来たようで、すいませんとエレインが席を外し一階に下りた、やれやれと一息吐くもすぐにタロウも呼ばれてしまう、詳細は聞かずなにかあったのか訝し気にとタロウが一階に下りると、
「あっ、すいません、タロウさん忙しい所」
バーレントが商品棚の前でタロウを待っていた、さらにはブラスとリノルトの顔もある、その二人は商品を取り出し陳列中のようで、マンネルとメイド科の生徒達が手伝っているようであった、それを監督しているエレインとなる、
「わっ、なんだ、みんなして来たの?」
タロウはそろい踏みだなーとニヤリと微笑み、エレインもウフフと怪しげな笑みを浮かべている、
「そうですね、俺はほら、ガラス鏡の納品で来たんですが、こっちの二人は・・・」
バーレントが振り返ると、
「学園から帰ってもう一仕事って感じですー」
ブラスがぼやくように呟き、
「そうなんすよー、まったく、先生方だけでなんとでもなるでしょうにねー」
リノルトも溜息と愚痴の入り混じった疲れた口調である、
「ありゃ・・・まぁ、頼ってもらっている内が華ってもんだろ」
「そうですけどー」
「でもさー・・・まぁ、そうなんですけどねー」
ブーブー言いつつ動き続けるブラスとリノルト、マンネルと従業員も事情は理解していないであろうが大変そうだなと苦笑いを浮かべている、
「まぁいいさ、で、なんだっけ?」
「はい、あれです、さっきお届けしてきました寮の方へ」
バーレントがカウンターテーブルへ視線を向ける、そこには件のガラス容器がデンと置かれており、
「あっ、ホント?速いね嬉しいよ」
タロウは満面の笑みとなる、
「いえいえ、こちらこそです、売れるだろうと思って幾つか作って置いたんですが、まるで引き合いが無くて」
「そうねー、皆さん興味は惹かれたみたいなんですけど、具体的に欲しいって人が現れなくて、一個も売れなかったですね・・・」
エレインも困った顔でガラス容器を見つめる、ショーケースとも呼ばれるそれは今日は空であった、明日からはその中に様々な料理が並ぶ予定となっているが、今はまだ寂しそうに佇んでいる、
「そうなんだ・・・あれかな、やっぱり高いでしょ・・・たぶんだけど」
「いや、あれです、冷たい菓子の時は大活躍してましたから、温かいものでも使えるって事が分からなかったのかもですね、ドーナッツとかも結局揚げたてを販売してましたし・・・」
「あー、なるほどー・・・でも、屋台で使えると思うんだけどなー・・・あー・・・屋台でこれを置くとなると場所が・・・ないのかなー」
「それもあるわねー・・・」
うーんと首を捻るエレインとリノルト、エレインもすっかり落ち着いて商売人の顔となっている、先程タロウに向けた細く冷たく尖った視線はもう微塵も感じられない、
「そういう事もあるか・・・あっ、お金払うよ」
「えっ、いいですよー」
「良くないよ、直接?エレインさんに?」
タロウは懐から布袋を取り出すも、
「頂けないですよ、それこそ、あれです、あれで何をするんですか?」
ニヤリとタロウを見上げるエレイン、バーレントも興味津々とタロウを見つめており、オッと陳列中の男達も従業員も手を止めたようである、
「何って・・・まぁ・・・うん、それはほら・・・やってみないとだなー」
タロウはニヤーとあからさまな厭らしい笑みを浮かべる、
「またー、そんな事言ってー」
「そうですよ、素直に教えて下さいよー」
「素直って・・・俺はいつでも素直で正直で真面目だよー」
「なっ、どこがですか!!」
ギッとタロウを睨むエレイン、先程までの冷たい視線がタロウを射貫くも、タロウはどこ吹く風と笑顔のままで、
「見ての通りださー」
「何が見ての通りですか、結局タロウさんも片棒担いでたじゃないですか」
「どの片棒だよ、そんなもん担いでないだろさ」
「いいえ、陛下に教えたのも、助言だかなんだかもしてたんでしょ、それは加担していたと見なします」
「そりゃそうだけど、それはだってさ、そのうちそうなる事確定なんだよ、早いか遅いかの違いしかないでしょが」
「それでもです、他人事って顔して、もー」
エレインの突然の剣幕にバーレントはエッと言葉を無くし、他の面々も何があったのやらと唖然としている、
「まぁまぁ、なんとかなりそうなんだから結果オーライって事で」
「なんですかそれ、変な言葉使わないで下さい」
「あらっ・・・駄目?」
「駄目です」
ピシャリと言い放つエレイン、タロウはダッハッハと誤魔化し笑いをして、
「あっ、で、なんぼ?」
と手にした布袋を開く、
「あっ、だから、いいですよ、それ以上に儲けさせてもらってますから」
「・・・ですね、それはいいです」
慌てるバーレントに不愉快そうなエレイン、タロウはまったくと顔を顰め、
「そう言うなら、まぁ・・・素直に頂いておくよ、ほら、俺、素直で正直で真面目なイケメンだから」
「なんか増えましたけど・・・なんです?イケメン?」
「うん、良い男って意味だな」
「急になんですか、気持ち悪い」
エレインが再びギリッとタロウを睨む、
「気持ち悪いって・・・あー、エレインさんの本音が出たねー、そっか、どうせ俺は気持ち悪いオジサンだもんなー」
しょんぼりと俯くタロウ、アッとエレインは目を丸くし、
「そんな事言ってないですよ」
即座に否定するも、
「えーだってさー、なぁ、あれだろ、邪魔くさくて、髭面でー、臭くてー、めんどくさくてー、我慢して相手してあげてるのに調子乗ってる嫌な奴だろー・・・知ってんだー、俺ー・・・」
「なっ、急になんですか」
「そうですよ、そんなに卑下しなくてもいいですよー」
「・・・どうしたんです?急に?」
「ですね、なんか嫌な事ありました?」
どうも様子が変だとブラスとリノルトも一歩近づく、タロウの言動が余りにも不穏であった為で、マンネルと従業員も顔を顰めてしまっていた、
「えーだってさー、エレインさんに嫌われたら生きていけないしー」
「だから、嫌ってないですよー」
「でもさー、だって、冷たいんだよ、この子・・・怖いし・・・お姫様に似てきたし・・・お姫様も怖いんだよ・・・ズーッと睨んでるの、クロノスには優しいくせにさー・・・」
「だからー!!」
キーッと叫ぶエレイン、エッと驚く職人達と従業員である、タロウの言動もそうであるが、エレインの取り乱した様も珍しいように思う、
「ねー・・・怖いでしょー」
泣きそうな顔となるタロウに、コノーと目を吊り上げてしまうエレイン、そこでやっと、あーこれはからかっているんだなと職人達も気付く、そして、
「あー・・・ホントに嫌われますからその辺で」
バーレントがまったくと微笑み、
「・・・ダメ?」
「駄目ですよ、で、あれです、話し戻しますけど、あのガラス容器なんですが」
と事務的な口調になるバーレント、まったく人騒がせなと作業に戻るブラスとリノルト、ムフーと不愉快そうに鼻息を荒くするエレインである、そうしてその場で軽く打合せが済まされた、何のことは無い、ガラス容器そのものは数台用意してあったのだが、肝心の魔法板は研究所に頼まなければならないそうで、注文がきてから用意する段取りであったそうである、それであれば何とでもなるとタロウは微笑み、ついでだからとこの店にも用意した方が良かろうなとエレインに告げた、エレインもすぐに機嫌を直してその真意を問い質すもタロウは見事にはぐらかし、これだからと再び似たような騒ぎが起きそうになったところに、アフラがエレインを呼びに来たようで、エレインはプリプリと肩を怒らせ二階へ向かい、タロウはタロウで、
「あっ、洗濯ばさみだ、これ上手い事出来てるねー」
とブラスらに合流する、
「これもだって、ソフィアさんが作ってみろって事で作ったんですよー」
「うん、聞いたー、でも、ここまで作れたら・・・もっと色々出来るだろ」
スッとその一つを手にするタロウ、木製の洗濯ばさみは実際良く出来ている、タロウのよく知るそれよりも幾分か大きいように感じるが、それは強度の面を考えれば致し方ない、
「そうですね、あっ、エレイン会長と髪留めとか作りましたね・・・あと、ミナちゃんが遊び道具にしてまして、そういうのもいいかなーって試行錯誤はしてたんですけど、手が回らなくて・・・」
「そっか・・・あっ、遊び道具な・・・それも欲しかったんだよなー」
タロウはンーと首を傾げ、アッと固まるブラスである、ここでまた仕事を増やすのは今は不味い、
「・・・どうしようかな・・・」
タロウがニヤリと顔を上げた瞬間、ビクッと肩を震わせるブラス、
「少し打合せする?すんげー大事で、すんげーめんどくさいモノ、依頼されると思うよ」
「・・・大事なモノで・・・めんどくさい?」
「うん、俺じゃなくてエレインさんから・・・」
「・・・マジですか?」
「マジ、あっ、もしかしたらリノルトさんも・・・」
「エッ」
と振り向くリノルト、商品棚の一角には鈍く輝く湯たんぽが並んでおり、うん、これなら見栄えも良いと満足していた所であった、
「ほら、日傘の骨の部分ね、もしかしたら金属の方がいいかも、針金で作った方が早いかもな・・・って思ってね、まぁ、ブラスさんであれば見れば分ると思う」
「ヒガサ?」
「ホネ?」
同時に首を傾げるブラスとリノルトである、バーレントは俺はいいのかなーと若干寂しそうにしている、
「うん、だから・・・あっ、どうしようかな、エレインさんだなー・・・」
と階段を振り仰ぐタロウ、エッ・・・と固まるブラスとリノルト、そこへ、丁度良く階段を下りて来たのが学園長と司法長官であった、どうやら打合せは一段落したらしく、なにやらボソボソと話している、
「あっ、お疲れ様です」
ニコリとタロウが微笑むと、
「ムッ、おう、すまんなタロウ殿、手間を取らせた」
学園長は満面の笑みとなり、
「うむ、どうにかなりそうじゃ、いや、冷や汗ものじゃった」
司法長官も柔らかい笑みを浮かべる、
「ですねー、もうどうなる事かと思いましたよー」
アッハッハと笑うタロウ、何があったのだろうと首を傾げる他一同である、
「おっ、ブラス君にリノルト君じゃな、どうかな学園の方は」
二人に気付きニコニコと微笑む学園長、
「あっ、はい、及ばずながら協力させて頂いてます」
「はい、嬉しく思います」
サッと居住まいを正すブラスとバーレント、さっき言ってた事と違うなーと苦笑するタロウにバーレントにマンネル、従業員もスッと視線を外して薄く笑っている様子で、
「そうか、エーリクもあーだからな、上手い事やってくれ」
「はい、お世話になりましたから、御恩返しと思っております」
ブラスが背筋を正すに至り、ブフッと吹き出すバーレント、オイッと睨みつけるブラスである、
「うむ、おっ、商品が増えておるの」
「ですね、あっ、どうでしょう、学園長、こちら、素晴らしい品ですよ、ユタンポです」
ブラスが誤魔化すように商品説明を始めてしまい、話しはすっかりそちらに移ったようで、司法長官もなんだそれはと引き寄せられた、さらに他の商品、洗濯ばさみに木軸のガラスペン、髪留めから爪磨き、タオルもどうやら納品されていたらしい、学園長はちょくちょく見てはいたらしいが、司法長官はどれも初見であるらしく、一つ一つに歓声を上げている、従業員も楽しそうに加わりこれが使いやすいだの、贈り物にもいいんですよと商売に余念が無い、
「ふむ・・・これはあれだな、明日も来なければならん・・・」
「ですな・・・いや、面白い・・・」
今日はまだ開店前との事で、販売はしていないと説明されると落胆を隠せない二人、司法長官の従者も残念そうである、
「私共も頑張って生産してますんで、どうぞよろしくお願いします」
ブラスが商売人のような口調となると、まったくだと微笑む職人達である、そうして少し落ち着いたところで、
「どうじゃ、タロウ殿、少し飲みにいかんか?」
学園長がニヤリとタロウを誘った、
「・・・飲み?ですか?」
「うむ、司法長官もな、もう少し話したいとの事でな、しかし、もう良い時間だ、折角だからと思っての」
学園長はニヤニヤ笑いを顔面に張りつけており、タロウはこれは何かあるのかなと首を傾げるも、
「なに、馴染みの店にな、顔を出さねばならなくてな」
司法長官がどこか嫌そうに目を細める、
「何を言う、お主が誘ったのじゃぞ」
「分かっておる、それにタロウ殿には礼を言わねばならん、なにより、領主様にも公爵家にも伝手が出来た、儂はそちらの方こそ気掛かりであったのだ」
「あっ、そうですよねー、どうでした、そちらは?」
「うむ、お嬢様も奥方様も乗り気のようでな・・・うん、有難いことにな」
「それは良かった」
「じゃな、での・・・まぁよい、先はその店でという事で」
「どうかな?」
ニヤリと微笑む学園長と司法長官、タロウはまぁ偶にはいいか、疲れたしと軽く微笑み了承する事とした。
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アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』
とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~
-第二部(11章~20章)追加しました-
【あらすじ】
「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」
王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。
彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
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ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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