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本編
76話 王家と公爵家 その5
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それから暫く作戦会議が執り行われた、マルルースとユスティーナが意見を出し合い、ウルジュラがちゃちゃを入れつつ、ライニールにも実務面での助言が求められ、あっさりとその計画は組み立てられてしまう、エレインとレアンはこりゃまた凄いと素直に舌を巻いてしまった、マルルースからポンポンと出てくる巧緻な策と、負けてなるかとユスティーナも調整案を出す、時折マルヘリートに意見を求め、その計画の現場を提供するのはエレインの仕事となった、さらには公爵家と伯爵家との食事会までが設定されてしまう、なるほど、マルルースもやはり王妃なのである、エフェリーンと異なり普段は優しく穏やかで、口数も比較的に少ない人物なのであるが、いざとなればこうした策はお手の物らしく、エレインはその印象を改める必要があるなと思い知る事態となっていた、
「まぁ、こんなもんかしら・・・あとは、先代公爵と伯爵を説得する事ね、そこは私が口出ししてはいけない・・・違うわね、出来ない部分だから・・・まぁ、彼等も好事家のようだし、マルヘリートさんには優しいのでしょう?貴方の願いとなれば無碍にはしないでしょうし・・・なにより、政治的にも悪くない話しだとおもうかしら・・・現時点での願望・・・だけどね」
やれやれと優しく微笑むマルルース、時折視線を外すのは鏡を確認しているからなのかなとエレインは察する、実に柔らかく魅力的な笑顔を維持しており、タロウの言う良い顔とはこういう顔なのだろうとエレインも昨日の講義を思い出してしまっていた、
「はい、御助力感謝致しますマルルース様」
ユスティーナが大きく頭を垂れ、レアンとマルヘリートもそれに倣った、その二人もどこか唖然としている、エレイン同様マルルースの印象が大きく変わってしまい、またユスティーナもマルルースの狡知に負けていないように思う、王妃は言わずもがなであるが高位貴族はかくあるべしとユスティーナの背中を見せつけられた気分であった、
「んー、あれー、じゃー、私の出番はないのねー、つまんなーい」
ウルジュラが大きく首を傾げてブスーッと口を尖らせた、
「そりゃそうよ、邪魔しちゃ駄目よ」
マルルースが横目でウルジュラを睨む、
「邪魔はしないけどー・・・つまんないー、つまんないなー」
「そういうもんでしょ、部外者が口出ししても良い事ないんだから」
「・・・部外者かー・・・」
不愉快そうにさらに口を尖らせるウルジュラ、もうと微笑むエレインとレアンとマルヘリートである、
「まぁいいけどー・・・あっ、お店の方ってどうなのー?あっちのー」
サッと話題を変えるウルジュラである、どうやら策謀の時間は終わったようで、となれば気楽な時間であった、
「はい、今日から正式開店となっております、見ていかれますか?」
「うん、見たい」
バッと立ち上がるウルジュラをコラッとマルルースが叱りつける、
「えー、いいでしょー」
「混んでるんじゃないの?・・・第一、昨日も行ったでしょ」
「えー、ほらー、今日からなんだっけ、ソウザイ?が並ぶんでしょ」
「はい、今朝も仕込みで大忙しでした」
エレインがニコリと微笑む、
「おっ、そうであった、違うものを出すと言っておったな」
レアンも嬉々として口を挟む、
「はい、昨日迄は菓子や軽食を中心としておりましたが、今日からちゃんとした・・・といったら変ですがちゃんとした料理をソウザイとして提供しております」
「そうなんだよねー、それ食べたいなー」
ウルジュラがニコーッとエレインを伺う、レアンもニヤニヤと楽しそうにエレインを見つめており、あら、ミナちゃんが二人になったみたいとほくそ笑んでしまうエレイン、
「フフッ、用意させますか?」
エレインは二人の圧にあっさりと負けを認めたらしい、うんうんと大きく頷く二人と、もうと顔を顰めるその母親二人、マルヘリートもまだ早いのにと目を細めるも、やはりソウザイとやらには興味があった、
「じゃ、ティルさん」
とエレインが席を立ってティルを呼びつけコソコソと打合せとなる、ライニールも申し訳ないなと苦笑してしまっていた、そこへ、
「失礼します」
スッとアフラが入室し、
「失礼致します」
とエルマが続く、アラッと一同が振り返り、
「フフッ、やっと来たのね、待ってましたわよ」
マルルースがニコリと微笑んだ、
「申し訳ありません、マルルース様、子供達が離してくれませんでした」
楽しそうに微笑みゆっくりと頭を垂れるエルマ、
「あらっ、大丈夫なの?」
「はい、みんなで見送って頂きました、それにタロウさんもソフィアさんもいらっしゃいましたので、早く戻ってねーって・・・もう・・・」
思わずグズリと鼻を啜るエルマ、アフラも眩しそうにエルマを見つめており、マルルースは柔らかく微笑む、エレインやレアンもその光景を想像するに自然と微笑んでしまった、
「そっ、良かったわ、じゃ、どうしようかしら」
とマルルースがアフラに確認する、実は今日のこの場での懇談は偶然であったりする、エレインとユスティーナらのヒガサを主題とした打合せは昨日段どったものであったが、マルルースとウルジュラはエルマを迎えに足を向けただけであったりした、アフラが何もわざわざと二人を軽く止めたのであるが、暇だからーと明るくウルジュラは答え、マルルースも折角だし向こうでお茶ぐらいは飲めるでしょうとなって、二人がイフナースの屋敷に入ってみれば丁度ユスティーナらが屋敷に入って来た所で、なら一緒にと自然とテーブルを囲むんでしまったのである、しかしそれはそれだけ仲良くなっているという証左でもあり、エレインもユスティーナらも喜んで迎え入れていた、
「はい、こちらの歓談は宜しいのでしょうか?」
アフラが静かに確認する、
「そうね・・・」
とマルルースが同席の一同を見渡した、特にこれといった事は無いらしい、皆口を開く事は無く、しかし若干寂しそうではある、
「フフッ、じゃ、お邪魔したわね・・・」
ニコリと微笑み腰を上げるマルルース、一同も同時に腰を上げるも、
「あっ・・・」
とマルルースは振り返る、ンッ?とマルルースを見つめる女性達、
「あれ、渡してなかったわね・・・」
マルルースに見つめられたアフラがアレ?と一瞬首を傾げ、アーッと大声を上げてしまい、慌ててすいませんと顔を真っ赤にしてしまった、普段冷静沈着を絵に描いたようなアフラにしては珍しいと、皆フフッと微笑んでしまう、
「・・・はい、申し訳ありません、持ってまいります」
顔を真っ赤に染めたままアフラはそそくさと退室した、
「ごめんなさいね、ちょっと待ちましょう・・・あっ、丁度いいわ、エルマ、鏡を選びなさい」
マルルースは座り直すのもなんだからとそのまま鏡の並ぶ商品棚に向かう、
「エッ・・・選ぶ・・・ですか?」
キョトンと問い返してしまうエルマ、
「そうよー、お土産の一つもないとしまらないわ、折角だしね、エレインさん、すぐ用意できる品はあるかしら?」
「はっ、はい」
とエレインが速足でマルルースの元に向かう、エルマはいいのかなと不安そうに首を傾げるも、
「エルマ、早くなさい、勝手に決めるわよ」
ニヤリと振り返るマルルース、
「そんな・・・もう、私には贅沢過ぎますよ・・・」
エルマが困り顔で荷物を下ろすとソッとティルが近づいて受け取った、ウフフと嬉しそうな笑みを浮かべており、エルマはありがとうと微笑み返す、
「何を言っているの、折角綺麗になったのだし、なによりあれよ、あの男が言うように、あなた随分若いみたいだしね、あっ、見た目だけよ、調子にのらないでね」
「調子って・・・私はそれどころでは無いですよ・・・」
「まぁ・・・余裕だわねー、まぁいいわ・・・、私もこれからいろいろやってみようと思っているから、あっ、エレインさん、全身鏡は持って行けるかしら?在庫はあるの?」
「エッ・・・マルルース様そんな大きいものは家には入りませんし、重いですよ」
「あらそうなの?家ごと改築させましょうか?狭すぎない?」
「無茶言わないで下さいよー」
エルマの悲鳴に似た笑い声が響き、ウフフと微笑んでしまうユスティーナ達であった。
そろそろ正午になる頃合いとなり、カトカとゾーイが陶器板を持って食堂に下りると、
「あったかーい」
「美味しいー」
「うふふー、幸せー」
子供達が暖炉に群がって楽しそうに湯呑を口にしており、ソフィアが顔を顰めて子供達の外套を椅子の背にかけ子供達の背後に並べていた、
「あらっ、どうしたんです?」
カトカが首を傾げる、
「んー、ほら、この子達雪塗れなのよ、頭から雪をかぶって酷いんだからもー、風邪ひいちゃうわよ、ほらちゃんと拭いた?」
ムスッと答えるソフィア、あー、外で遊んでたなーとカトカとゾーイはすぐに理解する、つい先程まで内庭の歓声が三階まで届いていた、子供はいいなー等と思いつつ、細かい作業に集中するしかないカトカとゾーイであったりした、
「うふふー、あー、カマクラできたのー、見る?」
タオルを頭に乗せたミナがピョンと立ち上がるも、
「こらっ、まだだめ、しっかり乾かしなさい」
すぐにソフィアに怒鳴られ、ブーと呻いて座り込んだ、他の子達も片手に湯呑を持ったまま空いた手でガシガシとタオルで頭を拭っており、そんなに濡れたのかとゾーイは呆れて顔を顰めてしまう、
「カマクラ・・・ですか?」
「なんですそれ?」
「なんか雪で作った小屋?みたいなものよ、でも、子供しか入れないの、小さくて」
ソフィアがやれやれと腰に手を当て、
「あっ、アンタらも飲む?温かいミルク」
と薄く微笑みテーブル上の小鍋を手にした、
「頂きます」
「はい、遠慮なく」
ウフッと微笑むカトカとゾーイ、ソフィアの誘いは下手に遠慮すると逆に面倒になる事を理解してしまっている、この場合ソフィアの飲む?との誘いは、飲んでいけという意味あいで、余程の理由が無い限り強制なのであった、
「ん、素直で宜しい」
ソフィアは湯呑に手を伸ばし、ゆっくりと湯気の立つミルクを注ぎ入れた、どうぞと二人に配るソフィア、ありがとうございますと二人は受け取り、早速と口にする、温かいミルクが食道から胃に落ちるのが実感され、ジンワリとその温かさが全身に広がっていく、
「あー・・・温かい・・・」
「美味しいなー」
思わず呟く二人、
「フフッ、上の薪ってまだある?」
「はい、まだありますね、もう二三日はもちますと思います」
「じゃ、大丈夫か・・・」
「うふふ、ユタンポもありますし快適です」
ムフンと胸を張るカトカ、ハイハイと微笑むソフィアとゾーイである、
「で、何しに来たの?ってそれか・・・」
二人が重そうにテーブルに置いた陶器板を見つめるソフィア、ふと振り返れば二つ並んで邪魔くさかったガラス容器が一つ無くなっていた、あらっとソフィアは思うも、まぁ、別に盗む者もいない、誰かが上に持っていったのだろうとすぐに自答する、
「はい、あっ、でっ、こっちなんですけど、ソフィアさん聞いてます?」
カトカが持ち込んだ陶器板の大きい方を手にした、
「何それ?なんか違うの?」
「違わないです、大きいだけで、タロウさんが作ってくれってことで作ったんですけどー」
チビチビとホットミルクを楽しみつつカトカが答える、
「・・・聞いてないけど・・・あれかしら、今なんかやってるのよね、それかな?」
「・・・なんかですか?」
「なんですか?」
カトカとゾーイの瞳が怪しく輝く、
「知らないわー、見てみたらいいわよ、内庭でゴソゴソやってるから、私は勘弁、寒いからー、じゃ、ほら、アンタ達、おかわりいるー」
小鍋を手にして振り返るソフィア、いるーと大声を上げる子供達、
「ん、あっ、急いで飲まないの、はい、湯呑だして注いであげるからー」
ハーイと素直な子供達、ソフィアは捧げられた湯呑に器用に注いでいき、
「はい、ちゃんと乾かすのよ、風邪ひいたら承知しないからねー」
ムンと腰に手を当て睨みつける、再び素直にハーイと返す子供達である、カトカとゾーイは素直な子供はやっぱり可愛いなと微笑みつつ、さてこっちはこっちでさっさとやってしまうかとガラス容器に向かうのであった。
「まぁ、こんなもんかしら・・・あとは、先代公爵と伯爵を説得する事ね、そこは私が口出ししてはいけない・・・違うわね、出来ない部分だから・・・まぁ、彼等も好事家のようだし、マルヘリートさんには優しいのでしょう?貴方の願いとなれば無碍にはしないでしょうし・・・なにより、政治的にも悪くない話しだとおもうかしら・・・現時点での願望・・・だけどね」
やれやれと優しく微笑むマルルース、時折視線を外すのは鏡を確認しているからなのかなとエレインは察する、実に柔らかく魅力的な笑顔を維持しており、タロウの言う良い顔とはこういう顔なのだろうとエレインも昨日の講義を思い出してしまっていた、
「はい、御助力感謝致しますマルルース様」
ユスティーナが大きく頭を垂れ、レアンとマルヘリートもそれに倣った、その二人もどこか唖然としている、エレイン同様マルルースの印象が大きく変わってしまい、またユスティーナもマルルースの狡知に負けていないように思う、王妃は言わずもがなであるが高位貴族はかくあるべしとユスティーナの背中を見せつけられた気分であった、
「んー、あれー、じゃー、私の出番はないのねー、つまんなーい」
ウルジュラが大きく首を傾げてブスーッと口を尖らせた、
「そりゃそうよ、邪魔しちゃ駄目よ」
マルルースが横目でウルジュラを睨む、
「邪魔はしないけどー・・・つまんないー、つまんないなー」
「そういうもんでしょ、部外者が口出ししても良い事ないんだから」
「・・・部外者かー・・・」
不愉快そうにさらに口を尖らせるウルジュラ、もうと微笑むエレインとレアンとマルヘリートである、
「まぁいいけどー・・・あっ、お店の方ってどうなのー?あっちのー」
サッと話題を変えるウルジュラである、どうやら策謀の時間は終わったようで、となれば気楽な時間であった、
「はい、今日から正式開店となっております、見ていかれますか?」
「うん、見たい」
バッと立ち上がるウルジュラをコラッとマルルースが叱りつける、
「えー、いいでしょー」
「混んでるんじゃないの?・・・第一、昨日も行ったでしょ」
「えー、ほらー、今日からなんだっけ、ソウザイ?が並ぶんでしょ」
「はい、今朝も仕込みで大忙しでした」
エレインがニコリと微笑む、
「おっ、そうであった、違うものを出すと言っておったな」
レアンも嬉々として口を挟む、
「はい、昨日迄は菓子や軽食を中心としておりましたが、今日からちゃんとした・・・といったら変ですがちゃんとした料理をソウザイとして提供しております」
「そうなんだよねー、それ食べたいなー」
ウルジュラがニコーッとエレインを伺う、レアンもニヤニヤと楽しそうにエレインを見つめており、あら、ミナちゃんが二人になったみたいとほくそ笑んでしまうエレイン、
「フフッ、用意させますか?」
エレインは二人の圧にあっさりと負けを認めたらしい、うんうんと大きく頷く二人と、もうと顔を顰めるその母親二人、マルヘリートもまだ早いのにと目を細めるも、やはりソウザイとやらには興味があった、
「じゃ、ティルさん」
とエレインが席を立ってティルを呼びつけコソコソと打合せとなる、ライニールも申し訳ないなと苦笑してしまっていた、そこへ、
「失礼します」
スッとアフラが入室し、
「失礼致します」
とエルマが続く、アラッと一同が振り返り、
「フフッ、やっと来たのね、待ってましたわよ」
マルルースがニコリと微笑んだ、
「申し訳ありません、マルルース様、子供達が離してくれませんでした」
楽しそうに微笑みゆっくりと頭を垂れるエルマ、
「あらっ、大丈夫なの?」
「はい、みんなで見送って頂きました、それにタロウさんもソフィアさんもいらっしゃいましたので、早く戻ってねーって・・・もう・・・」
思わずグズリと鼻を啜るエルマ、アフラも眩しそうにエルマを見つめており、マルルースは柔らかく微笑む、エレインやレアンもその光景を想像するに自然と微笑んでしまった、
「そっ、良かったわ、じゃ、どうしようかしら」
とマルルースがアフラに確認する、実は今日のこの場での懇談は偶然であったりする、エレインとユスティーナらのヒガサを主題とした打合せは昨日段どったものであったが、マルルースとウルジュラはエルマを迎えに足を向けただけであったりした、アフラが何もわざわざと二人を軽く止めたのであるが、暇だからーと明るくウルジュラは答え、マルルースも折角だし向こうでお茶ぐらいは飲めるでしょうとなって、二人がイフナースの屋敷に入ってみれば丁度ユスティーナらが屋敷に入って来た所で、なら一緒にと自然とテーブルを囲むんでしまったのである、しかしそれはそれだけ仲良くなっているという証左でもあり、エレインもユスティーナらも喜んで迎え入れていた、
「はい、こちらの歓談は宜しいのでしょうか?」
アフラが静かに確認する、
「そうね・・・」
とマルルースが同席の一同を見渡した、特にこれといった事は無いらしい、皆口を開く事は無く、しかし若干寂しそうではある、
「フフッ、じゃ、お邪魔したわね・・・」
ニコリと微笑み腰を上げるマルルース、一同も同時に腰を上げるも、
「あっ・・・」
とマルルースは振り返る、ンッ?とマルルースを見つめる女性達、
「あれ、渡してなかったわね・・・」
マルルースに見つめられたアフラがアレ?と一瞬首を傾げ、アーッと大声を上げてしまい、慌ててすいませんと顔を真っ赤にしてしまった、普段冷静沈着を絵に描いたようなアフラにしては珍しいと、皆フフッと微笑んでしまう、
「・・・はい、申し訳ありません、持ってまいります」
顔を真っ赤に染めたままアフラはそそくさと退室した、
「ごめんなさいね、ちょっと待ちましょう・・・あっ、丁度いいわ、エルマ、鏡を選びなさい」
マルルースは座り直すのもなんだからとそのまま鏡の並ぶ商品棚に向かう、
「エッ・・・選ぶ・・・ですか?」
キョトンと問い返してしまうエルマ、
「そうよー、お土産の一つもないとしまらないわ、折角だしね、エレインさん、すぐ用意できる品はあるかしら?」
「はっ、はい」
とエレインが速足でマルルースの元に向かう、エルマはいいのかなと不安そうに首を傾げるも、
「エルマ、早くなさい、勝手に決めるわよ」
ニヤリと振り返るマルルース、
「そんな・・・もう、私には贅沢過ぎますよ・・・」
エルマが困り顔で荷物を下ろすとソッとティルが近づいて受け取った、ウフフと嬉しそうな笑みを浮かべており、エルマはありがとうと微笑み返す、
「何を言っているの、折角綺麗になったのだし、なによりあれよ、あの男が言うように、あなた随分若いみたいだしね、あっ、見た目だけよ、調子にのらないでね」
「調子って・・・私はそれどころでは無いですよ・・・」
「まぁ・・・余裕だわねー、まぁいいわ・・・、私もこれからいろいろやってみようと思っているから、あっ、エレインさん、全身鏡は持って行けるかしら?在庫はあるの?」
「エッ・・・マルルース様そんな大きいものは家には入りませんし、重いですよ」
「あらそうなの?家ごと改築させましょうか?狭すぎない?」
「無茶言わないで下さいよー」
エルマの悲鳴に似た笑い声が響き、ウフフと微笑んでしまうユスティーナ達であった。
そろそろ正午になる頃合いとなり、カトカとゾーイが陶器板を持って食堂に下りると、
「あったかーい」
「美味しいー」
「うふふー、幸せー」
子供達が暖炉に群がって楽しそうに湯呑を口にしており、ソフィアが顔を顰めて子供達の外套を椅子の背にかけ子供達の背後に並べていた、
「あらっ、どうしたんです?」
カトカが首を傾げる、
「んー、ほら、この子達雪塗れなのよ、頭から雪をかぶって酷いんだからもー、風邪ひいちゃうわよ、ほらちゃんと拭いた?」
ムスッと答えるソフィア、あー、外で遊んでたなーとカトカとゾーイはすぐに理解する、つい先程まで内庭の歓声が三階まで届いていた、子供はいいなー等と思いつつ、細かい作業に集中するしかないカトカとゾーイであったりした、
「うふふー、あー、カマクラできたのー、見る?」
タオルを頭に乗せたミナがピョンと立ち上がるも、
「こらっ、まだだめ、しっかり乾かしなさい」
すぐにソフィアに怒鳴られ、ブーと呻いて座り込んだ、他の子達も片手に湯呑を持ったまま空いた手でガシガシとタオルで頭を拭っており、そんなに濡れたのかとゾーイは呆れて顔を顰めてしまう、
「カマクラ・・・ですか?」
「なんですそれ?」
「なんか雪で作った小屋?みたいなものよ、でも、子供しか入れないの、小さくて」
ソフィアがやれやれと腰に手を当て、
「あっ、アンタらも飲む?温かいミルク」
と薄く微笑みテーブル上の小鍋を手にした、
「頂きます」
「はい、遠慮なく」
ウフッと微笑むカトカとゾーイ、ソフィアの誘いは下手に遠慮すると逆に面倒になる事を理解してしまっている、この場合ソフィアの飲む?との誘いは、飲んでいけという意味あいで、余程の理由が無い限り強制なのであった、
「ん、素直で宜しい」
ソフィアは湯呑に手を伸ばし、ゆっくりと湯気の立つミルクを注ぎ入れた、どうぞと二人に配るソフィア、ありがとうございますと二人は受け取り、早速と口にする、温かいミルクが食道から胃に落ちるのが実感され、ジンワリとその温かさが全身に広がっていく、
「あー・・・温かい・・・」
「美味しいなー」
思わず呟く二人、
「フフッ、上の薪ってまだある?」
「はい、まだありますね、もう二三日はもちますと思います」
「じゃ、大丈夫か・・・」
「うふふ、ユタンポもありますし快適です」
ムフンと胸を張るカトカ、ハイハイと微笑むソフィアとゾーイである、
「で、何しに来たの?ってそれか・・・」
二人が重そうにテーブルに置いた陶器板を見つめるソフィア、ふと振り返れば二つ並んで邪魔くさかったガラス容器が一つ無くなっていた、あらっとソフィアは思うも、まぁ、別に盗む者もいない、誰かが上に持っていったのだろうとすぐに自答する、
「はい、あっ、でっ、こっちなんですけど、ソフィアさん聞いてます?」
カトカが持ち込んだ陶器板の大きい方を手にした、
「何それ?なんか違うの?」
「違わないです、大きいだけで、タロウさんが作ってくれってことで作ったんですけどー」
チビチビとホットミルクを楽しみつつカトカが答える、
「・・・聞いてないけど・・・あれかしら、今なんかやってるのよね、それかな?」
「・・・なんかですか?」
「なんですか?」
カトカとゾーイの瞳が怪しく輝く、
「知らないわー、見てみたらいいわよ、内庭でゴソゴソやってるから、私は勘弁、寒いからー、じゃ、ほら、アンタ達、おかわりいるー」
小鍋を手にして振り返るソフィア、いるーと大声を上げる子供達、
「ん、あっ、急いで飲まないの、はい、湯呑だして注いであげるからー」
ハーイと素直な子供達、ソフィアは捧げられた湯呑に器用に注いでいき、
「はい、ちゃんと乾かすのよ、風邪ひいたら承知しないからねー」
ムンと腰に手を当て睨みつける、再び素直にハーイと返す子供達である、カトカとゾーイは素直な子供はやっぱり可愛いなと微笑みつつ、さてこっちはこっちでさっさとやってしまうかとガラス容器に向かうのであった。
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【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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