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本編
76話 王家と公爵家 その14
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翌日、タロウがいつも通りに荒野の施設に入ると、ルーツから適当に報告を受け、さらにクロノスらは既に焼け跡の天幕に向かったと知らされた、今日は早いのかと確認するとそうでもないらしい、単に天幕周辺の状況を確認する為らしく、向こうはこちら以上の積雪となっており、兵士達が大変に難儀しているとの事でそりゃ大変だとタロウも焼け跡の天幕へ向かった、すると、
「遅いぞ」
クロノスに睨まれ、
「なんだ寝坊か」
イフナースが意地悪そうに微笑む、ルーツから聞いた話と違うなと思うも、見ればクロノスもイフナースも寒そうにもうすっかりストーブとしてしか使われていない湯沸し器に張り付いて背を丸め、デニスが一生懸命薪をくべていた、他にもそんな集団が幾つか、皆寒そうに背を丸め、従者達が薪を抱えて走り回っている、
「・・・何だそりゃ?」
「なんだってなんだよ」
「そんなに寒いの?」
「そりゃ寒いぞ、ビックリしたわ」
クロノスがムスッと顔を顰め、
「まったくだ、あれだな、遮るものが少ないから風が直接当たるんだよ、挙句雪が深すぎる」
「北ヘルデル並だぞこれは」
「エッ、そんなに?」
タロウはやっと事態を理解する、ルーツはニヤニヤと薄ら笑いで酷いとしか言っていなかったが、北ヘルデルと同等の積雪となると大きく話が変わってくる、
「おう、お前も見て来い、デニス、案内してやれ」
ハイッとデニスが勢いよく腰を上げ、いや、案内が必要か?とタロウは思いつつもデニスに従って天幕の外へ出てみれば、
「こりゃ凄いな・・・」
「そうなんですよ・・・」
デニスも思わず敬語を忘れる事態であった、すぐ目の前は除雪されているが、天幕と同程度の高さまで雪が積もっており、多数並んでいる天幕は雪に埋まって小山のようになっている、さらに除雪された雪が天幕と天幕の間にうずたかく積まれているものだからその量はより多く感じられてしまう、あれだけ広々と何も無かった焼け跡が視界の全てを雪に包まれ、なんとも狭苦しくまた寒々しい、そして兵達が天幕の雪を下ろそうと四苦八苦しているようで、あー、耐えられないよなそりゃーと気の毒に思ってしまう、
「・・・俺・・・こっちに来たばかりだから知らないんだが・・・モニケンダムもこんなに積もるの?」
「いや・・・俺が知る限りは昨日くらいが精々です」
デニスも困り顔でタロウを見上げた、
「そっか・・・あれかな一時的なものなのかな?」
「すいません、わかりません、でも、もう年末ですから・・・親父がよく言ってました、年始を過ぎたあたりにドカッと降って、あとは、ちょこちょこ降るもんだって、毎年そうなんだから、そのドカッってやつを耐えればこの街は過ごしやすいんだぞって」
「・・・あー、そういう感じ?」
「はい」
「そのドカッてやつが昨日の雪?あれとは別?」
「別だと思いますけど・・・どうでしょう確証は無いです、あの程度であればまぁ10月なら降るかなーって感じですから」
「・・・そっか、うん、分かった、戻ろう」
「ですね」
タロウはサッと踵を返して天幕に入り、デニスもそれに従う、そしてクロノスとイフナースと軽く打合せでもと思って二人に近づくと、
「お前、コタツか、作れ」
「あと、タケか?あれもさっさと栽培しろ」
タロウの顔を見るなりグチグチ始めるクロノスとイフナース、
「あとはなにかあったかな・・・」
「あれだ、エレイン嬢の店、デニス、ソウザイとやらを買ってこい」
「ハッ、はい、今すぐですか?」
「あー・・・会議が終わってからでいい、美味いと聞いた、お前の分と他の従者の分もな、それと隊長連中にもだ、なんのかんので・・・20人分もあればいいか・・・」
「俺のもだ、あっ、パトリシアにも届けねばならん」
「おいおい、大量だな・・・」
タロウが呆れ顔となるも、
「で、コタツはどう作るんだ?」
「おう、ウルジュラがキーキー自慢してたぞ」
「・・・いや、大したもんじゃないぞ」
「なら、作れ」
「だな、で、タケだ、どうする?」
「落ち着けよ、あれだってお前・・・そんな簡単にはいかないぞ」
「それは聞いた、だから早くしろ」
「だな、早くしろ」
おいおいとしかめっ面を隠さないタロウ、デニスはデニスでどこまで本気なのかと不安になり確認のためとリンドの姿を探すのであった。
それから定例会議となった、しかし昨日の状況から大きな変化は無いらしい、しかし、第二軍団と第八軍団から正式な謝意がヘルデル軍とモニケンダム軍、第六軍団に送られている、やはり第二と第八は雪に慣れた者が少なかったらしく、兵士の装備は充実していたのだが雪に対処する道具類はまるで準備されていなかったらしい、第六軍団が急遽大量のスコップだの雪かき用具を持ち込み、ヘルデル軍とモニケンダム軍は人員を派遣して除雪にあたったとの事で、クンラートもレイナウトもそれ見た事かと得意そうな顔であった、しかしメインデルト本人が準備不足を認めた為、それでいいと溜飲を下げている、何より二人も雪深いヘルデル出身である、雪そのものの脅威は身に染みて理解していた、これ以上虐めた所で意味はないと大人な対応となっている、
「で、帝国側も変わり無しか?」
クンラートがクロノスに問うた、
「ん?あぁ、次はそれを報告するつもりだったんだ・・・聞く限りこっちよりも可哀そうな感じだぞ」
「なんだそれは?」
クロノスを睨むクンラート、他の軍団長達も妙な言い草だ顔を顰める、
「うん、例の蛇な、デカイやつ、二匹、それが完全に動かなくなったらしくてな、その場で丸まってどうにもできない様子らしい」
「・・・なんとまぁ・・・」
レイナウトが思わず呟き、カラミッドも苦笑いである、
「それでもほれ、道は作らにゃならんて事で雪を掻いてるらしいが不慣れな様子でな、それこそ第二と第八と同じ感じだな、どうやら連中雪には慣れていないらしい、昨日はそれで一日終わったようで、挙句今朝もこっちと同じくらいに積もってるみたいでな・・・つまりは立往生だ」
「それはまた・・・」
「気の毒と言ってはなんだが・・・」
第二軍団の軍団長であるメインデルト、第八軍団の軍団長であるビュルシンクが顔を顰め、イザークもまた渋い顔である、実に身につまされる報告であった、
「まぁ・・・この時期に軍を動かす時点で何となく予想はしていたが・・・やはり、連中こっちの気候を知らんのか?」
「そう見えるな、まぁ・・・仕方なかろう、魔族軍ですら雪が降ったら動けなくなったんだぞ、おかげでその間は休戦状態だったろ、あんな感じだよ、連中がどう考えているかしらんが、正直戦争なぞやってられる時期じゃない・・・」
「それもそうなんだよな・・・」
「うむ、然りだな・・・」
大きく頷く軍団長達、タロウもまたそうだったなーと遠い目で天井を見上げた、先の大戦は数年続いたのであるがその間、冬季は気候の問題もあり休戦期となっていた、これは魔族と話し合ってそうなったのではない、互いに動けなくなってそうなっている、ヘルデルから北ヘルデルにかけての土地は大変に雪深く、特に10月の終わりから2月の初頭までは雪に覆われ戦争どころではなかったのである、王国側としてはこれ幸いとその時期に兵の補充やら補給やらに忙しく、恐らく魔族側でもそういった活動に充てたのであろうと思われた、雪解けと同時に始まる戦闘はより苛烈となり、また新しい部隊が投入されていたりと大変に難儀した記憶がある、まぁタロウ自身が戦闘に参加した期間は短いものであったが、こんなに違うのかと度肝を抜かれたものであった、
「となると・・・やはりこっちから攻めるか?」
ニヤリと微笑むクンラート、メインデルトも嬉しそうに微笑むも、
「それは止められている、ここは陛下の意向を尊重する、戦略通りだ、それに下手に軍を動かしても痛い目を見るだけだぞ、この状況ではな・・・」
微笑みながらも冷静なメインデルトにつまらなそうに鼻で笑うクンラートとなる、そうして会議はさらに細かな状況報告へ移り、さらにはイフナースから施設の魔法教練についての報告となった、曰く、雪掻きは別の者に任せ教練に集中するようにと厳命し、講師役で作業の中心となる予定のイグレシアは大岩を揺する程度には上達し、兵達もまた各々の得意とする魔法から実践練習に入ったらしい、タロウは随分と早いなと感心し、カラミッドが満足そうに微笑む、
「取り合えずあれはじっくりやるしかないな、その間に工兵部隊で現地測量をさせている、それと巨岩の処理だな、それも幾つか案が出ている、有望そうなのを厳選させている所だ」
こんなもんだなとイフナースは締めた、少しばかり質疑が入り、今日は以上かなと終わりかけた瞬間、
「失礼、相談役、タケについてお伺いしたい」
カラミッドがニヤリと微笑み発言し、隣りのレイナウトとクンラートもジッとタロウを見つめる始末、あっヤベーと思うタロウであったが、
「おうそうか、伯のところの従者も同席していたらしいな」
クロノスが片眉を上げ、
「そうなのか?」
イフナースが確認する、
「らしいぞ、で、相談役、さっきも少し聞いたがさ、改めて頼むぞ」
クロノスがニヤニヤとタロウを促し、こいつはーとクロノスを睨むタロウであった。
「いや、すまんな、あの場であれば貴様も隠し事は出来なかろうと思ってな」
ガッハッハと笑うカラミッド、
「まぁ、そんな顔をするな、隠れて問い質すよりは各段によかろう、公明正大にいこうじゃないか」
ニヤリと微笑むレイナウトに、
「フン、まぁ、使い勝手は良さそうではあるがな」
不愉快そうなクンラート、さらにリシャルトもうんうんと大きく頷いており、クンラートとレイナウトの従者達は表情一つ変えずに屹立している、タロウはどうしたもんだかと閉口してしまった、会議を終えさて帰るかと転送陣に向かったタロウをリシャルトが呼び止め、なんでしょうと振り返ればこの三人が仁王立ちとなっており、クロノスとイフナース、さらにメインデルトも何事かと目を光らせるも、カラミッドが公爵家のお家問題であると王家の者達を諫め、タロウはそのままクンラートの天幕へと拉致られてしまったのだ、クロノスとイフナースはまぁそれならしょうがないだろうとまったくの他人事で、メインデルトも二人がそう言うのであればと不干渉としたらしい、イザークが気の毒そうに見つめており、タロウはやっぱりイザークさんはいい人だなー等と思ってしまう、
「そう・・・ですねー・・・」
タロウははて俺何かやったかなと首を傾げる、昨日の件はどうやらライニール経由でかなり正確に伝わっているようで、特に竹に関してはリシャルトは木簡を片手に確認する程度であった様子、逆に他の軍団長やらクロノスらに質問攻めにされてしまっている、まぁ、話しで聞くだけでも有用な材となる、タロウは仕方が無いと最後の一本を運んできますと転送陣を潜りわざわざ時間を空けて天幕に運び込んでいた、収納魔法を見せればそれはそれで騒ぎになってしまう、もう見慣れたであろう連中ばかりでは無いのが一手間増やさなければならない点で面倒な事であった、今その一本は軍団長やら工兵長やら兵器担当やらが囲んで見聞中となっている、
「まぁ、良い、あれはあれでまた相談したいと思うがだ」
レイナウトがストーブに手を翳し、カラミッドとクンラートもストーブの側から離れない、カラミッドはまだしも雪国自慢をしていた二人が離れないのはそれだけ寒いのかなと思うも、まぁ二人の年齢を考えればそれも致し方ないと思われる、それに確かにそれだけ寒かった、天幕内であってもである、
「で・・・貴様、どこまで噛んでいる」
クンラートがジロリとタロウを睨みつけ、ヘッ?とタロウは間の抜けた声で返してしまい、アッ失礼とすぐに謝ってしまった、
「・・・なんだ、その顔は?」
レイナウトがタロウの様子を敏感に察したらしい、
「えっと・・・何のことやら・・・」
タロウは大きく首を傾げる、
「本気か?貴様・・・」
さらにジロリと睨むクンラート、タロウは本気かと問われてもなとさらに首を傾げ、こういう場合はと眼前の三人以外へ視線を向けるも知った顔はリシャルトくらいのもので、そのリシャルトもありゃと不思議そうにタロウを見つめている、思わず不思議そうにリシャルトを見つめ返すタロウ、
「本気のようですな・・・」
カラミッドも呆れたように呟いた、
「・・・そう・・・だと思いますよ・・・はい、ほら・・・皆様に関わる事で何かやりましたっけ?」
タロウにキョトンと問い返され、これはいよいよ知らんらしいとレイナウトは顔を顰め、
「なんだ、違ったではないか」
クンラートが不愉快そうに実父を睨む、
「らしいな・・・いや、であれば・・・まぁ、良いのだが・・・いや、良いのか?」
「てっきり貴様の入れ知恵と思ったのだが」
「うむ、しかしそうなると・・・」
「まぁ、いいだろ、もう書簡は送ってしまったのだ」
「そうだがさ・・・」
「えっと・・・なにかありました?」
素直に問い直すタロウ、ムーと眉根を寄せて顔を見合わせる男三人であった。
「遅いぞ」
クロノスに睨まれ、
「なんだ寝坊か」
イフナースが意地悪そうに微笑む、ルーツから聞いた話と違うなと思うも、見ればクロノスもイフナースも寒そうにもうすっかりストーブとしてしか使われていない湯沸し器に張り付いて背を丸め、デニスが一生懸命薪をくべていた、他にもそんな集団が幾つか、皆寒そうに背を丸め、従者達が薪を抱えて走り回っている、
「・・・何だそりゃ?」
「なんだってなんだよ」
「そんなに寒いの?」
「そりゃ寒いぞ、ビックリしたわ」
クロノスがムスッと顔を顰め、
「まったくだ、あれだな、遮るものが少ないから風が直接当たるんだよ、挙句雪が深すぎる」
「北ヘルデル並だぞこれは」
「エッ、そんなに?」
タロウはやっと事態を理解する、ルーツはニヤニヤと薄ら笑いで酷いとしか言っていなかったが、北ヘルデルと同等の積雪となると大きく話が変わってくる、
「おう、お前も見て来い、デニス、案内してやれ」
ハイッとデニスが勢いよく腰を上げ、いや、案内が必要か?とタロウは思いつつもデニスに従って天幕の外へ出てみれば、
「こりゃ凄いな・・・」
「そうなんですよ・・・」
デニスも思わず敬語を忘れる事態であった、すぐ目の前は除雪されているが、天幕と同程度の高さまで雪が積もっており、多数並んでいる天幕は雪に埋まって小山のようになっている、さらに除雪された雪が天幕と天幕の間にうずたかく積まれているものだからその量はより多く感じられてしまう、あれだけ広々と何も無かった焼け跡が視界の全てを雪に包まれ、なんとも狭苦しくまた寒々しい、そして兵達が天幕の雪を下ろそうと四苦八苦しているようで、あー、耐えられないよなそりゃーと気の毒に思ってしまう、
「・・・俺・・・こっちに来たばかりだから知らないんだが・・・モニケンダムもこんなに積もるの?」
「いや・・・俺が知る限りは昨日くらいが精々です」
デニスも困り顔でタロウを見上げた、
「そっか・・・あれかな一時的なものなのかな?」
「すいません、わかりません、でも、もう年末ですから・・・親父がよく言ってました、年始を過ぎたあたりにドカッと降って、あとは、ちょこちょこ降るもんだって、毎年そうなんだから、そのドカッってやつを耐えればこの街は過ごしやすいんだぞって」
「・・・あー、そういう感じ?」
「はい」
「そのドカッてやつが昨日の雪?あれとは別?」
「別だと思いますけど・・・どうでしょう確証は無いです、あの程度であればまぁ10月なら降るかなーって感じですから」
「・・・そっか、うん、分かった、戻ろう」
「ですね」
タロウはサッと踵を返して天幕に入り、デニスもそれに従う、そしてクロノスとイフナースと軽く打合せでもと思って二人に近づくと、
「お前、コタツか、作れ」
「あと、タケか?あれもさっさと栽培しろ」
タロウの顔を見るなりグチグチ始めるクロノスとイフナース、
「あとはなにかあったかな・・・」
「あれだ、エレイン嬢の店、デニス、ソウザイとやらを買ってこい」
「ハッ、はい、今すぐですか?」
「あー・・・会議が終わってからでいい、美味いと聞いた、お前の分と他の従者の分もな、それと隊長連中にもだ、なんのかんので・・・20人分もあればいいか・・・」
「俺のもだ、あっ、パトリシアにも届けねばならん」
「おいおい、大量だな・・・」
タロウが呆れ顔となるも、
「で、コタツはどう作るんだ?」
「おう、ウルジュラがキーキー自慢してたぞ」
「・・・いや、大したもんじゃないぞ」
「なら、作れ」
「だな、で、タケだ、どうする?」
「落ち着けよ、あれだってお前・・・そんな簡単にはいかないぞ」
「それは聞いた、だから早くしろ」
「だな、早くしろ」
おいおいとしかめっ面を隠さないタロウ、デニスはデニスでどこまで本気なのかと不安になり確認のためとリンドの姿を探すのであった。
それから定例会議となった、しかし昨日の状況から大きな変化は無いらしい、しかし、第二軍団と第八軍団から正式な謝意がヘルデル軍とモニケンダム軍、第六軍団に送られている、やはり第二と第八は雪に慣れた者が少なかったらしく、兵士の装備は充実していたのだが雪に対処する道具類はまるで準備されていなかったらしい、第六軍団が急遽大量のスコップだの雪かき用具を持ち込み、ヘルデル軍とモニケンダム軍は人員を派遣して除雪にあたったとの事で、クンラートもレイナウトもそれ見た事かと得意そうな顔であった、しかしメインデルト本人が準備不足を認めた為、それでいいと溜飲を下げている、何より二人も雪深いヘルデル出身である、雪そのものの脅威は身に染みて理解していた、これ以上虐めた所で意味はないと大人な対応となっている、
「で、帝国側も変わり無しか?」
クンラートがクロノスに問うた、
「ん?あぁ、次はそれを報告するつもりだったんだ・・・聞く限りこっちよりも可哀そうな感じだぞ」
「なんだそれは?」
クロノスを睨むクンラート、他の軍団長達も妙な言い草だ顔を顰める、
「うん、例の蛇な、デカイやつ、二匹、それが完全に動かなくなったらしくてな、その場で丸まってどうにもできない様子らしい」
「・・・なんとまぁ・・・」
レイナウトが思わず呟き、カラミッドも苦笑いである、
「それでもほれ、道は作らにゃならんて事で雪を掻いてるらしいが不慣れな様子でな、それこそ第二と第八と同じ感じだな、どうやら連中雪には慣れていないらしい、昨日はそれで一日終わったようで、挙句今朝もこっちと同じくらいに積もってるみたいでな・・・つまりは立往生だ」
「それはまた・・・」
「気の毒と言ってはなんだが・・・」
第二軍団の軍団長であるメインデルト、第八軍団の軍団長であるビュルシンクが顔を顰め、イザークもまた渋い顔である、実に身につまされる報告であった、
「まぁ・・・この時期に軍を動かす時点で何となく予想はしていたが・・・やはり、連中こっちの気候を知らんのか?」
「そう見えるな、まぁ・・・仕方なかろう、魔族軍ですら雪が降ったら動けなくなったんだぞ、おかげでその間は休戦状態だったろ、あんな感じだよ、連中がどう考えているかしらんが、正直戦争なぞやってられる時期じゃない・・・」
「それもそうなんだよな・・・」
「うむ、然りだな・・・」
大きく頷く軍団長達、タロウもまたそうだったなーと遠い目で天井を見上げた、先の大戦は数年続いたのであるがその間、冬季は気候の問題もあり休戦期となっていた、これは魔族と話し合ってそうなったのではない、互いに動けなくなってそうなっている、ヘルデルから北ヘルデルにかけての土地は大変に雪深く、特に10月の終わりから2月の初頭までは雪に覆われ戦争どころではなかったのである、王国側としてはこれ幸いとその時期に兵の補充やら補給やらに忙しく、恐らく魔族側でもそういった活動に充てたのであろうと思われた、雪解けと同時に始まる戦闘はより苛烈となり、また新しい部隊が投入されていたりと大変に難儀した記憶がある、まぁタロウ自身が戦闘に参加した期間は短いものであったが、こんなに違うのかと度肝を抜かれたものであった、
「となると・・・やはりこっちから攻めるか?」
ニヤリと微笑むクンラート、メインデルトも嬉しそうに微笑むも、
「それは止められている、ここは陛下の意向を尊重する、戦略通りだ、それに下手に軍を動かしても痛い目を見るだけだぞ、この状況ではな・・・」
微笑みながらも冷静なメインデルトにつまらなそうに鼻で笑うクンラートとなる、そうして会議はさらに細かな状況報告へ移り、さらにはイフナースから施設の魔法教練についての報告となった、曰く、雪掻きは別の者に任せ教練に集中するようにと厳命し、講師役で作業の中心となる予定のイグレシアは大岩を揺する程度には上達し、兵達もまた各々の得意とする魔法から実践練習に入ったらしい、タロウは随分と早いなと感心し、カラミッドが満足そうに微笑む、
「取り合えずあれはじっくりやるしかないな、その間に工兵部隊で現地測量をさせている、それと巨岩の処理だな、それも幾つか案が出ている、有望そうなのを厳選させている所だ」
こんなもんだなとイフナースは締めた、少しばかり質疑が入り、今日は以上かなと終わりかけた瞬間、
「失礼、相談役、タケについてお伺いしたい」
カラミッドがニヤリと微笑み発言し、隣りのレイナウトとクンラートもジッとタロウを見つめる始末、あっヤベーと思うタロウであったが、
「おうそうか、伯のところの従者も同席していたらしいな」
クロノスが片眉を上げ、
「そうなのか?」
イフナースが確認する、
「らしいぞ、で、相談役、さっきも少し聞いたがさ、改めて頼むぞ」
クロノスがニヤニヤとタロウを促し、こいつはーとクロノスを睨むタロウであった。
「いや、すまんな、あの場であれば貴様も隠し事は出来なかろうと思ってな」
ガッハッハと笑うカラミッド、
「まぁ、そんな顔をするな、隠れて問い質すよりは各段によかろう、公明正大にいこうじゃないか」
ニヤリと微笑むレイナウトに、
「フン、まぁ、使い勝手は良さそうではあるがな」
不愉快そうなクンラート、さらにリシャルトもうんうんと大きく頷いており、クンラートとレイナウトの従者達は表情一つ変えずに屹立している、タロウはどうしたもんだかと閉口してしまった、会議を終えさて帰るかと転送陣に向かったタロウをリシャルトが呼び止め、なんでしょうと振り返ればこの三人が仁王立ちとなっており、クロノスとイフナース、さらにメインデルトも何事かと目を光らせるも、カラミッドが公爵家のお家問題であると王家の者達を諫め、タロウはそのままクンラートの天幕へと拉致られてしまったのだ、クロノスとイフナースはまぁそれならしょうがないだろうとまったくの他人事で、メインデルトも二人がそう言うのであればと不干渉としたらしい、イザークが気の毒そうに見つめており、タロウはやっぱりイザークさんはいい人だなー等と思ってしまう、
「そう・・・ですねー・・・」
タロウははて俺何かやったかなと首を傾げる、昨日の件はどうやらライニール経由でかなり正確に伝わっているようで、特に竹に関してはリシャルトは木簡を片手に確認する程度であった様子、逆に他の軍団長やらクロノスらに質問攻めにされてしまっている、まぁ、話しで聞くだけでも有用な材となる、タロウは仕方が無いと最後の一本を運んできますと転送陣を潜りわざわざ時間を空けて天幕に運び込んでいた、収納魔法を見せればそれはそれで騒ぎになってしまう、もう見慣れたであろう連中ばかりでは無いのが一手間増やさなければならない点で面倒な事であった、今その一本は軍団長やら工兵長やら兵器担当やらが囲んで見聞中となっている、
「まぁ、良い、あれはあれでまた相談したいと思うがだ」
レイナウトがストーブに手を翳し、カラミッドとクンラートもストーブの側から離れない、カラミッドはまだしも雪国自慢をしていた二人が離れないのはそれだけ寒いのかなと思うも、まぁ二人の年齢を考えればそれも致し方ないと思われる、それに確かにそれだけ寒かった、天幕内であってもである、
「で・・・貴様、どこまで噛んでいる」
クンラートがジロリとタロウを睨みつけ、ヘッ?とタロウは間の抜けた声で返してしまい、アッ失礼とすぐに謝ってしまった、
「・・・なんだ、その顔は?」
レイナウトがタロウの様子を敏感に察したらしい、
「えっと・・・何のことやら・・・」
タロウは大きく首を傾げる、
「本気か?貴様・・・」
さらにジロリと睨むクンラート、タロウは本気かと問われてもなとさらに首を傾げ、こういう場合はと眼前の三人以外へ視線を向けるも知った顔はリシャルトくらいのもので、そのリシャルトもありゃと不思議そうにタロウを見つめている、思わず不思議そうにリシャルトを見つめ返すタロウ、
「本気のようですな・・・」
カラミッドも呆れたように呟いた、
「・・・そう・・・だと思いますよ・・・はい、ほら・・・皆様に関わる事で何かやりましたっけ?」
タロウにキョトンと問い返され、これはいよいよ知らんらしいとレイナウトは顔を顰め、
「なんだ、違ったではないか」
クンラートが不愉快そうに実父を睨む、
「らしいな・・・いや、であれば・・・まぁ、良いのだが・・・いや、良いのか?」
「てっきり貴様の入れ知恵と思ったのだが」
「うむ、しかしそうなると・・・」
「まぁ、いいだろ、もう書簡は送ってしまったのだ」
「そうだがさ・・・」
「えっと・・・なにかありました?」
素直に問い直すタロウ、ムーと眉根を寄せて顔を見合わせる男三人であった。
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彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。
追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった!
石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。
【主な登場人物】
ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。
ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。
アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。
リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。
ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。
【読みどころ】
「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
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子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
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※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
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