セカンドライフは寮母さん 魔王を討伐した冒険者は魔法学園女子寮の管理人になりました

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76話 王家と公爵家 その19

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それから暫くして大人達の姿は三階の研究室に移った、クロノスが炬燵で飲ませろと駄々を捏ねたが、ソフィアが断固として許さず、二階も駄目だとなり、三階まで上がる事になってしまった、午後も半ばを過ぎて王国民としては飲み始めてもおかしくない頃合いである、しかし生徒達は恐らく新店舗の方に関わっていて帰りが遅く、最近ではルル達新入生達も当然のように手伝いに行っているらしい、もしくは遊び半分なのかもしれないが、故に二階でいい歳こいたおっさん達が酒盛りしているのはあまり宜しくないとのユーリの判断である、

「なんじゃこりゃ・・・」

ユーリが素直な感想を口にし、

「あっ・・・箱の中にあったやつですよね・・・」

「うん、魚かと思ってた・・・」

カトカとゾーイが目を丸くする、サビナも同様で、はてこれはと首を傾げてしまっていた、ブラスとバーレントもタロウの誘いに抗えず同席し、そして、タロウとクロノスが厨房で何やらゴソゴソとやり、ソフィアにティルとミーンも協力したらしい、その成果が今眼前にあり、涎が滴る芳ばしい香りを上げている、二つの皿に盛られたそれは数枚の大変に奇妙な形をした干物であった、

「これがあれですか?」

「美味そうな匂いだが・・・美味いのか?」

リンドとイフナースも呼び出されあっさりと顔を出し、デニスも丁度良く酒樽を脇に抱えて戻ってきている、デニスは思わずゴクリと喉を鳴らしてしまい、これはいけないと生真面目に頭を振るも今更遅いかと諦めてしまったようだ、だらしない顔のまま二種の干物を覗き込む、

「あー、やっぱり知らなかった?」

タロウがニヤリと微笑む、

「まずな、初めて見るが・・・こりゃなんだ?」

イフナースが不思議そうに眼前の皿から摘まみ上げる、

「それはタコ」

「タコ?」

「うん、で、こっちがイカ」

「イカ・・・」

大人達が興味津々と覗き込み、

「それをな火で直接焼いたんだよ、裏表丁寧にな」

クロノスが得意そうにわざわざ手振りを交えて解説する、

「へー・・・焼いただけ?」

「そうなるな、でだ」

タロウは研究所の壁面に並ぶ書棚に向かい一冊の本を手に取ってペラペラと捲る、確か書いてあったはずだなと思い、あっこれだとそのページを開いて振り返る、クロノスとデニスが持ち込んだ木箱にはイカとタコの干物が数枚入っていた、ソフィアがそれを見つけ、何だこれはとタロウに調理法を聞き、それを耳聡く聞き逃さなかったのがクロノスである、実はクロノス自身もこのけったいな干物をどう食するのかを知らず、問題となった僻地の村に向かわせた役人に確認してもハテ?と首を傾げ、同行したローレン商会の商人もいつのまにやら変な物を混ぜやがってと逆に怒りだす始末、カンテンの謎を解いたと思ったら別の謎を抱えて来たようで、これにはクロノスは当然としてリンドも困惑してしまった、而してタロウか学園長なら知っているだろうとわざわざ木箱に忍び込ませたのである、そしてクロノスがそれを問い質す前にソフィアがタロウに問い質し、クロノスがこれ幸いと首を突っ込んだ次第となる、何とも場当たり的な対応であった、

「これの元って言っていいのかな?干物にする前がこれね」

タロウがテーブルにその書をスッと置いた、学園長が著した博物学の書、魚類編となる、

「これ?」

「これ」

「へー・・・えっ、こんな生き物がいるんですか?」

「いるんだよ、目の間にある、ほら、これがイカね、で・・・あっ流石学園長だね、焼いても煮ても干物にしても美味であるって書いてあるよ」

「わっ、ホントだ・・・」

「へー、えっ、この絵がこうなるんですか?」

「すげー、なんじゃこりゃ」

「なんか気持ち悪い」

「変な形だとは思いましたけど・・・」

「うん、変な形だ、干物も魚?も・・・」

「それはしょうがない、生き物ってやつは大概変な形だと思うよ、ほれ、身近なやつで言えばヒトデとか?あれも大概変な生き物だと思うけどね、まぁ、この干物はこの図のこれを捌いて干してあるからね、より変な形になっていて、さらにそれを焙り焼きにしたもんだからグネグネになってる、まぁこういうもんだって事で」

タロウがニコリと微笑む、その頁にはイカの姿が描写されていた、今にも動き出しそうな見事な写生となっており、タロウは素直に上手いもんだと感じるも、イカそのものを見たことが無い者にとっては奇妙に見えても致し方ないと思われ、実際そのように見えているらしい、

「・・・これ、ほんとにいたんですね・・・」

カトカがポツリと呟く、

「あれ?疑ってた?」

ニコリと顔を上げるタロウ、

「エッ・・・いや、疑っていた訳じゃないですけど・・・その、なんか、ほら、エルフさんとかと同じ類なのかなーって読み飛ばしてました・・・あまりにもほら、変な感じだったので・・・」

若干恥ずかしそうに眼を伏せるカトカ、その気持ちわかるなーと頷かざるを得ない一同となる、

「あー、まぁ・・・ほら、そんなもんだよね、特に海の生き物って変なのが多いから」

タロウはアッハッハと笑い飛ばし、これがイカでこっちがタコと微笑み頁を捲る、再びオオッと小さな驚嘆が響いた、

「どう?全然違う生物でしょ」

タロウはタコの干物を取り上げ、挿絵と比べる、タコの絵はイカのそれと違い若干曖昧であった、というよりもどこかユーモラスに感じる、漫画的と表現しても良い、もしかしたら学園長も実物は見ておらず、知っている者からの又聞きで描写したのかもしれない、それほどに単純で可愛らしく、雑に感じるものであった、

「これ、どこがどうなってるのよ」

「ですね、イカもそうですけど、身体ってどこなんですか?頭に足が生えてる感じ?」

「あっ、そうだよね、胴体が頭?」

「変な生き物ですねー」

ブラスの正直な感想にまったくだと頷く大人達、タロウもそうなんだよなーと微笑み、

「確かにねー、内臓がこの頭の中にあってね、で、目と口がここ、で、その周りに足が生えてるって感じ、で、決まり事として、タコは足が八本、イカは足が十本なんだ」

ヘーと感心する一同、すぐさま旨そうな香りを上げるタコとイカへ視線を移し、アッホントだと足の数を数えたらしい、

「まぁ、あくまで基本ね、確か八本足のイカもいたと思うけど、どうかな、より詳しく言えば腕が二本で足が八本なんだとか、よく見ると太いのがあるだろ?これが腕で他が足?とは言ってもな、足だよな」

再びヘーと頷くしかない一同である、イカとタコ、そのものが珍しいのに、さらに珍しいものがあると言われてもヘーと呟くほかに出来る事は無く、付加された蘊蓄にも関心する他無い、

「でだ、長々と解説してもつまらんからな」

タロウはニヤリと微笑みイカに手を伸ばす、クロノスもそうだなと微笑みタコに手を伸ばした、

「かなり固いからな、小さく千切って食うんだよ」

タロウに代わりニヤニヤと微笑むクロノス、クロノスはすでに試食を済ませており、これは美味いと大絶賛で、無論その隣にいたソフィアとティルとミーンも口にして、しょっぱいけど美味いと歓声を上げている、そしてクロノスもソフィアも、これは酒が進むと目を丸くし、ティルとミーンも確かにそうかもと顔を見合わせていた、そして適当にタロウとクロノスが千切りまくり、それを静かに見つめてしまう大人達となる、傍から見れば大変に滑稽な様子であるが誰もそれを指摘する者はいなかった、

「ん、こんなもんだな」

「よし、では、まず酒だ、デニス、杯を」

クロノスが勢いよく振り返り、ハイッとデニスが背筋を伸ばす、カトカとゾーイにサビナも動きあっという間にそれぞれの手に杯が行き渡ると、

「ん、じゃ、取り合えず乾杯だ」

ニヤリと微笑み杯を掲げるクロノス、遠慮なくそれに倣う一同であった。



「確かにこれは美味いな」

「ですな、うん、塩気が丁度良い」

「あぁ、それに下手な干し肉よりも断然美味い、リンド、これの生産も考えるか」

「確かに・・・王都には報告したのですか?」

「まだだよ、食い方が分かってからと思ってな」

「あっ、そうでしたね、はい、しかしこれは焼いただけですか?」

「おう、あっ、ただしな、そのままだとすぐに丸まってしまうんだよ、だから一旦水に浸けてな、少し置く、で、焙りながら端が丸くなってきたあたりで止める、これがコツらしい」

「ほう・・・丸まる・・・」

「へー、わざわざ水に浸けるのか?干物を?」

「うん、まぁあれだ、丸くなっても全然構わんのだが、折角だからとタロウが一手間増やしたらしい、丸くなっても味は変わらんかったぞ」

「ふーん」

イフナースがシゲシゲとゲソを見つめてパクリと口に放り込む、なるほどとリンドも上手そうにモグモグと咀嚼し、その隣りのユーリ達もブラスとバーレントも遠慮なくパクパクやりつつ酒を楽しむ、イカとタコ以外にもワカメの茎の漬物も供されている、こちらは女性達に人気のようで、酒にも合うと大絶賛であった、しかしいいのかなと不安そうにしている者が一人、デニスであった、イフナースからもリンドからもいいから座って飲めと厳命されてしまい、仕方なく腰を下ろして杯を手にしているが、どうにも落ち着きが無い、

「どした?」

タロウが久しぶりのあたりめも美味いがタコも美味いなと、皿に手を伸ばしつつデニスを伺う、

「あっ、エット、ほら・・・あの・・・」

不安そうに呟き肩を丸めてしまうデニス、

「あー、デニス、楽しむ時は楽しめ、こんな美味いものは中々食えないもんだぞ」

イフナースが杯を呷ってゴクリと嚥下する、

「ハッ・・・はい、ありがとうございます」

しかしどうしても恐縮してしまうデニスに、イフナースはまったくとめんどくさそうにし、リンドは優しい視線を向けている、リンドから見るにデニスは大変に生真面目で良く動いた、気付けばあっちだこっちだと走り回っており、北ヘルデルでも王城でも実は話題になってしまっている、若く元気でやたらと固い従者であると好意的なもので、あの姿は見習うに値するとメイド長が褒める程であった、

「あっ、どう?仕事は慣れた?」

タロウがここは少し話題を振ってみるかと微笑む、

「ハッ、はい、いえ、その、毎日が大変です、皆さんお忙しく重責を担われておりますので」

パッと背筋を伸ばしハキハキと答えるデニス、しかしどうもそれはデニスの言葉では無いように聞こえた、

「そっか、まぁ、そうだよなー、殿下もクロノスもリンドさんも重責だよなー」

「はい、そうなんです、ですから、俺・・・じゃなかった私もそのお力にならなければと思います」

「だねー、で、その重責を担っている人としてはどうよ」

ニヤリと三人を伺うタロウ、

「どうよとはどういう意味だ」

「失敬な奴だ」

「まったくです」

クロノスとイフナースは睨み返し、リンドはフルフルと頭を振った、しかしその口元には笑みが見える、

「だってさー・・・まぁいいけど、あれだぞ、デニス君、リンドさんは立派な人だからな、しっかり仕えろ、クロノスと殿下は使うつもりで相手しろ、その程度でちょうどいい」

「ナッ・・・」

「お前なー」

クロノスとイフナースがさらにタロウを睨みつけ、タロウはそんなもんだろがと笑いだす、リンドは確かにそうかもしれないとほくそ笑み、デニスはいよいよ泣きそうな顔となってしまう、

「まぁ、君はほら、お仕えするのが仕事ではないからな、今はなんだかんだと忙しいが、もう少ししたら少しは落ち着くだろ、そしたらゆっくりと学べばいいよ、君に望まれているのはそれなんだ、職人である事を忘れては駄目だ、だろ、お兄ちゃん?」

タロウがスッとバーレントを伺うと、バーレントはゲソを咥えて大きく頷いた、ムッと実兄を睨むデニス、

「確かにな、しかし、あれだぞ、もしお前が良かったらそのまま王家で雇ってもいいぞ、なっ、リンド」

イフナースがニヤニヤと微笑み、

「はい、但しその場合はまだまだ知識が足りません、より勉強しなければなりませんな」

リンドの見解に、タロウは厳しいなーと微笑み、どう答えるべきかと俯いてしまうデニス、

「勉強したくなければ北ヘルデルに来い、お抱えのガラス職人にしてやるぞ工房も持たせてやる、あっ、年頃の女も見繕うか、助手にして扱き使え、どんなのが好みだ?ん?」

クロノスも調子よく茶化しだし、いや駄目だ、俺のだと叫ぶイフナース、少しは貸せよと言い返すクロノス、まぁまぁと仲裁するリンドであった。
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